説明

カーボネートまたはジオキサノン結合を含む重合可能な生体分解性のポリマー

【課題】インビボで急速に重合して、従来のヒドロゲルよりもより弾性であるヒドロゲルを形成し得る、生体分解性でかつ生体適合性のマクロマーを提供すること。
【解決手段】カーボネート基またはジオキサノン基から形成される少なくとも1つの加水分解性結合、少なくとも1つの水溶性ポリマーブロック、および少なくとも1つの重合可能な基を含む、水溶性マクロマー、ならびにその調製および使用が記載される。このマクロマーは、好適には、長波長紫外線または可視光線の励起の影響下で、フリーラジカル開始剤を用いて重合される。生分解は、伸張オリゴマー内の結合において起こり、そして非毒性かつ身体から容易に除去されるフラグメントをもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、組織接着剤、コーティング、シーラントとして、および制御された薬剤送達デバイスにおいて使用するための、改良された光重合可能な生体分解性のヒドロゲルに関する。この改良された物質は、カーボネートおよび/またはジオキサノン結合を含む。これらの生体分解性の結合は、マクロマーの種々の特性の改良された制御、特に生体分解性を保持しつつ粘性を増加させること、を可能にする。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
特許文献1(Hubbellら)は、重合してヒドロゲルを形成し得る、生体適合性で生体分解性のマクロマーを開示する。このマクロマーは、生体分解性のブロック、マクロマーを水溶性にするに十分な親水性と、1つ以上の重合可能な基を備える水溶性のブロック、を含むブロックコポリマーである。重合可能な基は、互いに、少なくとも1つの分解可能な基によって分離され、Hubbellは特に、ポリ乳酸(polylactide)、ポリグリコール酸(polyglycolide)およびポリカプロラクトンなどのポリヒドリキシ酸を、生体分解性のポリマー性ブロックとして用いることを開示する。このマクロマーについて開示された用途の1つは、組織における漏れを塞ぐかまたは封じることである。
【0003】
他のヒドロゲルが、例えば、米国特許第4,938,763号(Dunnら)、米国特許第5,lO0,992および4,826,945号(Cohnら)、米国特許第4,741,872および5,160,745号(DeLucaら)、米国特許第5,527,864号(Suggsら)および米国特許第4,511,478号(Nowinskiら)に記載されている。このようなポリマーを使用する方法が、米国特許第5,573,934号(Hubbellら)および国際公開96/29370号(Focalによる)に記載されている。
【0004】
多くの関連文献が、カーボネート結合を含むホモポリマーおよびコポリマーを用いて、縫合糸、縫合コーティングおよび医薬送達デバイスなどの、固形の医療デバイスを形成することを開示する(例えば、米国特許第3,301,824号(Hostettlerら)、米国特許第4,243,775号(Rosensaftら)、米国特許第4,429,080号(Caseyら)、米国特許第4,716,20号(Caseyら)、米国特許第4,857,602号(Caseyら)、米国特許第4,882,168号(Casey)、欧州特許第O390 860 Bl号(Boyleらによる)、米国特許第5,066,772号(Tangら)、米国特許第5,366,756号(Chesterfieldら)、米国特許第5,403,347号(Robyら)および米国特許第5,522,841号(Robyら)を参照のこと)。しかし、これら刊行物のいずれも、ポリマーがさらに重合し得るように、ポリマー上に重合可能な基を取り込むことを開示していない。従って、これらのポリマーはいずれも、特許文献1(Hubbellら)におけるマクロマーと同様には用い得ない。
【0005】
肺組織の孔を封じるかまたは塞ぐことは、他のタイプの組織を封じることよりも本来的に難しい。なぜなら、この組織は、通常の呼吸の間、常に拡張し収縮しているからである。例えば肺組織を封じる使用のために、インビボで急速に重合して、従来のヒドロゲルよりもより弾性であるヒドロゲルを形成し得るマクロマーを提供することは有益である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,410,016号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の1つの目的は、インビボで急速に重合して、従来のヒドロゲルよりもより弾性であるヒドロゲルを形成し得る、生体分解性でかつ生体適合性のマクロマーを提供することである。
【0008】
本発明のさらなる目的は、手術または外来患者の処置の間に投与されて、組織接着剤、細胞カプセル化媒体、組織シーラント、創傷包帯または薬剤送達デバイスとして重合し得る、マクロマー溶液を提供することである。
【0009】
従って、本発明のよりさらなる目的は、極めて短時間にコートされるべき表面上でインビボで重合して、適合性のコーティング層を形成し得る、マクロマー溶液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の要旨
生体適合性の、生体分解性の、重合可能であり、そして少なくとも実質的に水溶性のマクロマー、ならびにその調製方法およびその使用が開示される。このマクロマーは、少なくとも1つの水溶性ブロック、少なくとも1つの生体分解性ブロック、および少なくとも1つの重合可能な基を含むブロックコポリマーである。生体分解性のブロックの少なくとも1つは、カーボネートまたはジオキサノン基を基礎にする結合を含み、そしてこのマクロマーは、カーボネートまたはジオキサノンに加えて、その他の分解可能な結合または基を含み得る。
【0011】
カーボネートまたはジオキサノン結合は、ヒドロキシ酸結合よりポリマーに対してより多くの弾性を与え、そして異なる速度で分解する。カーボネート結合はまた、所定の濃度で、マクロマーの非分解成分の分子量の増加を必要とすることなく、マクロマーの粘度を増大し得る。このマクロマーはまた、加水分解により、比較的非毒性のヒドロキシ酸残基、またはその他の生体分解性ブロック(例えば、ポリカプロラクトン、ポリオルトエステル、ポリアンハイドライド、およびポリペプチド)に分解するポリ(ヒドロキシ酸)結合を含み得る。このポリマーの分解時間は、例えば、生体分解性ブロックのタイプおよび比率を選択することにより制御され得る。
【0012】
重合可能な基は、遊離ラジカル(ホモ分解)プロセスまたは(カチオン重合のような)ヘテロ分解プロセスのいずれかにより重合され得る。好ましくは、これらの基は、光化学的に重合される。マクロマーは、得られるポリマーが分解するとき、制御された様式で取り込まれた薬剤の送達のために、予防薬、治療薬または診断薬の存在下で重合され得る。マクロマーは、疎水性、親水性および/または不安定な物質を送達するために有用である。それらは、疎水性材料の送達のために特に有用である。
【0013】
マクロマーは、2面間の様式で重合され得て、コートされた表面に緊密に接着する超薄コーティングを形成し得るか、またはバルク様式で重合され得て、コートされた表面に緊密に接着し得るかまたはし得ない。あるいは、これら2つの方法を組み合わせて、表面に緊密に接着する比較的厚いコーティングを提供し得る。これら方法の各々は、特定の適用に有利である。
【0014】
本発明によると、以下が提供され、上記目的が達成される。
(項目1)約0〜50℃の間の範囲にある温度で、水性溶液において少なくとも1g/リットルの溶解度をもつ生体分解性の重合可能なマクロマーであって、
少なくととも1つの水溶性領域、少なくとも1つの生体分解性領域、および他のマクロマーと架橋し得る少なくとも1つの反応性の重合可能な基または領域を有し、
ここで、該重合可能な領域が、少なくとも1つの生体分解性領域により、互いに分離されており、そしてここで、少なくとも1つの生分解可能な領域が、カーボネートまたはジオキサノン結合を含む、マクロマー。
(項目2)前記水溶性領域が生体分解性領域に付着し、そして少なくとも1つの重合可能な基または領域が、該生体分解性領域に付着している、項目1に記載のマクロマー。
(項目3)前記水溶性領域が中央コアを形成し、少なくとも2つの生体分解性領域が該コアに付着し、そして少なくとも2つの重合可能な基または領域が該生体分解性領域に付着している、項目1に記載のマクロマー。
(項目4)前記生体分解性領域が中央コアであり、そして少なくとも1つの重合可能な基または領域が該コアに付着し、重合可能な基または領域の各々が、互いに、少なくとも1つの生体分解性領域により重合可能な基または領域から分離されている、項目1に記載のマクロマー。
(項目5)前記水溶性領域がマクロマー骨格であり、前記生体分解性領域が該マクロマー骨格に付着した分岐またはグラフトであり、そして少なくとも2つの重合可能な基または領域が該生分解可能な領域に付着する、項目1に記載のマクロマー。
(項目6)前記コアに付着した2つ以上の重合可能な基または領域をもつ、項目4に記載のマクロマー。
(項目7)前記水溶性領域が星形骨格であり、前記生体分解性領域が該水溶性星形骨格に付着する分岐またはグラフトであり、そして少なくとも2つの重合可能な基または領域が1つ以上の生体分解性分岐またはグラフトに付着し、重合可能な基または領域の各々が、互いに、少なくとも1つの生体分解性領域により重合可能な基または領域から分離されている、項目1に記載のマクロマー。
(項目8)前記生体分解性領域が星形骨格であり、前記水溶性領域が該生体分解性星形骨格に付着する分岐またはグラフトであり、そして少なくとも2つ以上の重合可能な基が該生体分解性骨格に付着し、重合可能な基または領域の各々が、互いに、少なくとも1つの生体分解性領域により重合可能な基または領域から分離されている、項目1に記載のマクロマー。
(項目9)前記水溶性領域がまた生体分解性領域である、項目1に記載のマクロマー。
(項目10)前記水溶性領域がまた生体分解性領域であり、そして1つ以上のさらなる生体分解性領域が該水溶性領域上のグラフトまたは分岐である、項目1に記載のマクロマー。
(項目11)水溶性コア、該コア上の少なくとも2つの生体分解性伸張部、および少なくとも2つの伸張部上の末端キャップを備えた項目1に記載のマクロマーであって、
ここで、該コアがポリ(エチレングリコール)を含み;
該伸張部の少なくとも1つが生体分解性のカーボネートまたはジオキサノン結合を含み;そして
各末端キャップが遊離ラジカル反応により重合可能である基または領域を含む、マクロマー。
(項目12)前記伸張部の少なくとも1つが、生体分解性ポリ(ヒドロキシ酸)を含む、項目11に記載のマクロマー。
(項目13)前記ポリ(エチレングリコール)が約400〜40,000 Daの分子量をもち;前記ポリ(ヒドロキシ酸)オリゴマーが約200〜2000 Daの分子量をもち;そして前記重合可能な基または領域が約50〜200Daの分子量をもつ、項目12に記載のマクロマー。
(項目14)前記ポリ(エチレングリコール)オリゴマーが約20,000 Daの分子量をもち;前記ポリ(ヒドロキシ酸)オリゴマーが約1000 Daの分子量をもち;そして前記重合可能な基が約50Daの分子量をもつ、項目13に記載のマクロマー。
(項目15)前記重合可能な基が、マクロマーを架橋かつ重合し得る炭素-炭素二重結合を含む、項目1に記載のマクロマー。
(項目16)前記マクロマーの架橋および重合が、遊離ラジカル重合開始剤をさらに含む共触媒とともにまたはなしで、感光性遊離ラジカル重合開始剤により開始される、項目1に記載のマクロマー。
(項目17)前記開始剤が、キサンチン染料、アクリジン染料、チアジン染料、フェナジン染料、カンファーキノン染料、およびアセトフェノン染料からなる群から選択される、項目16に記載のマクロマー。
(項目18)前記開始剤が、エオシン、エチルエオシン、2,2-ジメチル-2-フェニルアセトフェノン、および2-メトキシ-2-フェニルアセトフェノンからなる群から選択される、項目17に記載のマクロマー。
(項目19)架橋または重合が、320nm以上の波長をもつ光によりインサイチュで開始される、項目1に記載のマクロマー。
(項目20)少なくとも1つの生体分解性領域が、ポリ(αヒドロキシ酸)、ポリ(ラクトン)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(無水物)、ポリ(オルトエステル)、およびポリ(ホスホエステル)からなる群から選択される、項目1に記載のマクロマー。
(項目21)前記ポリ(αヒドロキシ酸)が、ポリ(グルコール酸)、ポリ(D、L乳酸)およびポリ(L乳酸)からなる群から選択される、項目20に記載のマクロマー。
(項目22)前記ポリ(ラクトン)が、ポリ(εカプロラクトン)、ポリ(δバレロラクトン)およびポリ(γブチロラクトン)からなる群から選択される、項目20に記載のマクロマー。
(項目23)前記水溶性領域が、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(エチレンオキシド)-コ-ポリ(プロピレンオキシド)ブロックコポリマー、多糖類、炭水化物、タンパク質、およびそれらの組合せからなる群から選択される、項目1に記載のマクロマー。
(項目24)予防薬、治療薬または診断薬をさらに含む、項目1に記載のマクロマー。
(項目25)組織上に、重合性の生体分解性コーティングを形成する方法であって:
a) 該組織の表面に、遊離ラジカルまたはカチオン重合により重合を開始し得る重合開始剤を付与する工程;
b) 該開始剤でコートされた表面に、約0〜50℃の間の範囲にある温度で、水性溶液において少なくとも1g/リットルの溶解度をもつ生体分解性の重合可能なマクロマーの溶液を付与する工程であって、該マクロマーが、少なくとも1つの水溶性領域、少なくとも1つの生体分解性領域、および他の遊離ラジカルまたはカチオン重合により重合され得る少なくとも1つの官能基を含み、該重合可能な基または領域が少なくとも1つの生体分解性領域により互いに分離され、そして少なくとも1つの生体分解性領域がカーボネートまたはジオキサノン領域である、工程;および
c) 該マクロマーを重合する工程、
を包含する、方法。
(項目26)前記マクロマー溶液が、遊離ラジカルまたはカチオン重合により重合を開始し得る重合開始剤をさらに含む、項目25に記載の方法。
(項目27)前記組織がコートされて前記組織からガスまたは体液の漏出を防ぐ、項目25に記載の方法。
(項目28)前記組織がコートされて前記組織の他の組織への接着を防ぐ、項目25に記載の方法。
(項目29)前記組織がコートされ、かつ重合の間に他の組織に接着する、項目25に記載の方法。
(項目30)前記マクロマー溶液が、予防薬、治療薬または診断薬をさらに含む、項目25に記載の方法。
(項目31)前記開始剤が前記組織に結合し、前記マクロマー溶液の付与前に、非結合開始剤を除去する工程をさらに包含する、項目25に記載の方法。
(項目32)予防薬、治療薬または診断薬の制御放出のためのデバイスを作成する方法であって:
a) 予防薬、治療薬または診断薬を、約0〜50℃の間の範囲にある温度で、水性溶液において少なくとも1g/リットルの溶解度をもつ生体分解性の重合可能なマクロマーの溶液と混合する工程であって、該マクロマーが、少なくとも1つの水溶性領域、少なくとも1つの生体分解性領域、および遊離ラジカルまたはカチオン重合により重合され得る少なくとも1つの官能基を含み、該重合可能な基または領域が少なくとも1つの生体分解性領域により互いに分離され、そして少なくとも1つの生体分解性領域がカーボネートまたはジオキサノン領域である、工程;および
b) 該マクロマーを重合し、得られるポリマー内に該薬剤を取り込む工程、
を包含する、方法。
(項目33)前記ポリマーが、粒子、シート、ロッド、およびナノまたはマイクロカプセルからなる群から選択される形状に成形される、項目32に記載の方法。
(項目34)前記マクロマーが生存組織中またはその上にインサイチュで重合される、項目32に記載の方法。
(項目35)前記制御された放出デバイスが、医療用デバイスの表面上に成形される、項目32に記載の方法。
(項目36)前記デバイスが身体内への移植後にコートされる、項目35に記載の方法。(項目37)前記デバイスが移植前にコートされる、項目35に記載の方法。
(項目38)親水性ポリマーゲルの弾性を増大する方法であって、1つ以上のカーボネート結合を、反応性ポリマーの生体分解性領域中に、該反応性基の反応によるゲル化の前に取り込む工程を包含し、得られるポリマーが、約0〜50℃の間の範囲にある温度で、水性溶液の1リットルあたり少なくとも1gの水における溶解度をもち、生体分解性であり、そして各反応基が少なくとも1つの生体分解性結合により互いに分離されている、方法。
(項目39)前記カーボネート結合が、トリメチレンカーボネートから調製される、項目38に記載の方法。
(項目40)2つ以上のポリマーブロックが、カーボネート基を含む結合により連結され、生体分解性を弱めることなく、より高分子量の反応性マクロマーを得る、項目38に記載の方法。
(項目41)カーボネートを含む化学的に反応性のマクロマーの生体分解性を改善するための方法であって:
a) 反応の完成および反応する種間の平衡の達成を確実にするに十分な時間、カーボネートを、少なくとも2つの水酸基を含む生体分解性化合物と反応させ、カーボネートを含む前駆体を形成する工程;
b) 生体分解性結合を形成する過剰の試薬を添加する工程であって、該試薬がカーボネート以外の生体分解性成分を含む工程;および次いで
c) 該マクロマー上に化学的に反応性の基を形成するさらなる試薬を添加する工程であって、
少なくとも1つの水溶性領域、少なくとも1つの生体分解性領域、および他マクロマーと架橋し得る少なくとも1つの反応性の重合可能な基または領域を含むマクロマーが形成され、該重合可能な領域が少なくとも1つの生体分解性領域により互いに分離され、そして少なくとも1つの生体分解性領域がカーボネートまたはジオキサノン結合を含む、工程、
を包含する、方法。
(項目42)前記カーボネートが、環状の脂肪族カーボネートである、項目41に記載の方法。
(項目43)前記水酸基が、生体適合性ポリマー上に保持される、項目41に記載の方法。
(項目44)前記ポリマーがポリアルキレングリコールである、項目43に記載の方法。(項目45)工程 b)の前記試薬が、ヒドロキシカルボン酸の残基を含む、項目41に記載の方法。
(項目46)前記ヒドロキシカルボン酸の残基がαヒドロキシ酸である、項目45に記載の方法。
(項目47)前記酸が、乳酸、ラクチド、またはラクトイルクロライドから選択される、項目46に記載の方法。
(項目48)組織表面への付与に際し、改善された適合性をもつコンプライアントポリマー性材料であって、該材料は、該組織表面と接触する重合可能なモノマーの水性溶液または懸濁液の重合により形成され、そして
ここで、該モノマーを含む溶液の組成物が、該組織と該材料の標準化されたコンプライアンス比が約0.05〜約3の範囲であるように、該溶液から形成される重合された材料中のコンプライアンスを提供するように選択される、ポリマー性材料。
(項目49)前記コンプライアント材料がヒドロゲルであり、前記モノマーが、光重合可能な基を含む、光重合可能な生体分解性の水溶性ブロックコポリマーであり、そして該モノマーが、遊離ラジカル重合開始剤の存在下で重合される、項目48に記載の材料。
(項目50)前記重合された材料が、インビボ組織の伸長と類似のまたはそれより大きい破断伸長をもつ、項目48に記載の材料。
(項目51)前記重合された材料が、約100%より大きい破断伸長をもつ、項目48に記載の材料。
(項目52)前記重合された材料が、約150 kPaより小さい弾性係数をもつ、項目48に記載の材料。
(項目53)前記材料が1平方cmあたり少なくとも約20グラムの表面に対する接着をもつ、項目48に記載の材料。
(項目54)前記材料が、生物学的に活性な材料をさらに含む、項目48に記載の材料。(項目55)前記材料が生体分解性である、項目48に記載の材料。
(項目56)前記材料が組織表面上でシーラントを形成する、項目48に記載の材料。
(項目57)前記材料が2つの表面を一緒に接着し、そして該表面の少なくとも1つが組織表面である、項目48に記載の材料。
(項目58)組織表面上にコンプライアントポリマー性材料を形成する方法であって:
該表面に重合可能なモノマーの水性溶液または懸濁液を付与する工程;および
該表面上で該材料を重合する工程;を包含し、
ここで、該組織と該材料の標準化されたコンプライアンス比が約0.05〜約3の範囲である、方法。
(項目59)前記材料が、前記組織表面上でシーラントをさらに形成する、項目58に記載の方法。
(項目60)前記モノマーが、光重合可能な基を含む、光重合可能な生体分解性の水溶性ブロックコポリマーである、項目59に記載の方法であって、遊離ラジカル重合開始剤の存在下で前記組織表面上で該モノマーを光重合する工程を包含する、方法。
(項目61)前記重合された材料が、インビボ組織の伸長と類似のまたはそれより大きい破断伸長をもつ、項目58に記載の方法。
(項目62)前記重合された材料が、約100%より大きい破断伸長をもつ、項目58に記載の方法。
(項目63)前記重合された材料が、約150 kPaより小さい弾性係数をもつ、項目58に記載の方法。
(項目64)前記材料が1平方cmあたり少なくとも約20グラムの表面に対する接着をもつ、項目58に記載の方法。
(項目65)前記材料が、生物学的に活性な材料をさらに含む、項目58に記載の方法。(項目66)前記材料が生体分解性である、項目58に記載の方法。
(項目67)前記方法が、前記重合可能なモノマーおよび前記生物学的に活性な材料を生物学的組織の表面に付与する工程、および該組織上で該モノマーを重合し該生物学的に活性な材料を取り込むポリマー性コンプライアント材料を形成する工程を包含し、該材料が該生物学的に活性な材料を制御放出し得る、項目65に記載の方法。
(項目68)前記重合可能なモノマーが複数の表面に付与され、該表面の少なくとも1つが組織表面であり、そして該表面上の材料の重合が該表面の接着を引き起こす、項目58に記載の方法。
(項目69)前記コンプライアント材料が、肺の表面上にインビボで形成される、項目59に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、弾性強度(シール圧、mmHg)の経時(hr)のグラフであり、5つの異なるシーラント物質に関する:lO% 35K T、20% 35K T、lO%20KTL、10% 20 K TL、および20% 35K TL。Kは100ダルトン(重量平均分子量)として定義され、Tはトリメチレンカーボネート(TMC)、Lはラクチド、そしてTLはTMCおよびラクチドのコポリマーである。
【図2A】図2Aおよび2Bは、分解(%質量損失)の経時(hr)のグラフであり、20KT(図2A)および 35K T(図2B)についての、ラットへの皮下のポリマー性インプラントに関する。
【図2B】図2Aおよび2Bは、分解(%質量損失)の経時(hr)のグラフであり、20KT(図2A)および 35K T(図2B)についての、ラットへの皮下のポリマー性インプラントに関する。
【図3】図3は、アクリレートエステルで末端キャップされたポリ(エチレングリコール)−オリゴトリメチレンカーボネートコポリマーの光重合により形成されたコンプライアントなシーラントの、応力対ひずみ曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
定義
本明細書において、用語「シーラント」とは、組織表面などの、表面からの、または表面への液体の移動を減少させるか、または防ぐ物質をいう。シーラントは、代表的には、前駆体分子の組織への付与の後の局所的な重合によって、形成される。同じ物質がまた、物質の間に付与されて重合したとき、または物質を継ぎ合わせて埋め込むために用いられたときに、物質を互いに接着させるために用いられ得る。
【0017】
本明細書において、用語「生体適合性」とは、生体関連用途の文脈において、インプラントまたはコーティングへの激しい、長期の、または漸増的な生体反応の刺激が存在しないことをいい、代表的には手術または生体への異物の移植に伴う、穏やかな一時的な炎症とは区別される。
【0018】
本明細書において、用語「生体分解性」とは、インプラントの小片への(好ましくは予測可能な)崩壊をいい、この小片は、生体組織において通常存在する条件下で、代謝されるか排出される。
【0019】
本明細書に開示された特定のコーティングまたはバリアー物質の特性は「物質特性」と呼ばれ、以下のものを含む:
(弾性の)「ヤング率」は、ひずみゼロに外挿したときの限界弾性率であり;
「弾性率」は、ヤング率に限られない任意の弾性率であり、「交差(secant)率」および応力−ひずみ曲線の非線形領域の他の記述子を含み得;
「バルク」または「圧縮」率は、通常の意味で用いられ、指定された圧縮ひずみに対する応力の比であり;
「破損伸長(elongationat failure)」は、その試験片において任意の不可逆的なまたはヒステリシス誘起性の変化が起こる、試験片の相対ひずみまたは伸びであり;そして、
「破壊伸長(elongationat break)」または「破断伸長(elongation at rupture)」は、機械的な破断が起こる、試験片の相対ひずみ(伸び)である。
【0020】
本明細書において、用語「コンプライアンス」とは、通常の意味で用いられ、例えば、移植部位での組織の生理学的および機械的特性に密接に適合するインプラントの能力をいう。ただし、「コンプライアンス」が、特定の技術的意味で、率の逆数として用いられるときを除く。
【0021】
組織、またはシーラントの層などの、比較的薄い平坦な物質に適用されるとき、「標準化コンプライアンス」(NC)は、本明細書において、ひずみ(すなわち、試験片の単位長さあたりの伸長または圧縮)を、単位断面積あたりに適用された力で割り、さらに試験片の厚さで割ったものとして定義される。従って、幅w(例えば、試験装置のクランプの幅)および厚さtを有するサンプルについて、適用された力FがひずみSを生じるとき、コンプライアンスCは、

C = S・wt
F/wt F

であり、そして標準化コンプライアンスは、

NC = Sw
t F/w F

である。すなわち、サンプルにおけるひずみを、サンプルに適用された単位幅あたりの力で割ったものである。標準化コンプライアンスは、組織上のコーティングに対して組織を変形させるために必要とされる力を、これらの物質の相対的な厚さに関係なく、直接的に比較することを可能とする。
【0022】
標準化コンプライアンス比(略してNCR)は、組織または他の基質の標準化コンプライアンスを、シーラント物質の標準化コンプライアンスで割った値として定義される。両方の測定が、同じ幅の片で、同じ力で行われたとき、NCRは単純に、特定の力におけるひずみの比である。シーラント物質が組織より変形し易いとき(1に満たない)低いNCRが得られ、一方、組織がシーラント物質より変形し易いとき(1を超える)高いNCRが得られる。
【0023】
本明細書において、用語「エラストマー(弾性体)」とは、室温で、変形力を取り除いた後、繰り返し大きさ(サイズ)および形を回復し得るポリマー性物質をいう。一定の実施態様では、エラストマーは、元の長さの2倍に繰り返し引き伸ばされ得、応力の解放によりほぼ元の長さに繰り返し戻る物質である。
【0024】
用語「エラストマー性物質」は、文献において用いられてきた言葉である。多くの刊行物が、エラストマーおよび他の変形可能な物質の構造−特性相関を記載する。低い弾性率、および、しばしば、破壊または破砕に至るまでの増加した可逆的伸長が、以下のいずれかが起こるときに見出される:
1.節(nodes)または接合点(junctions)またはより結晶性の(「硬い」)セグメントとの距離が増加する。
【0025】
2.架橋密度が増加する。これは、架橋剤の量、架橋剤の性質、および硬化の程度、ならびに、架橋された種または架橋する種のいずれかのセグメントの長さ(これらが違うとき)によって制御され得る。
【0026】
3.連続的な相と平衡にある物質については、連続相によるエラストマーの可塑化の増加。連続相が水、特に生理的塩類水溶液である適用については、親水性を増加させることはコンプライアンスを増加させる傾向がある。
【0027】
組織において液体の漏れを封じるためには、シーリング物質は、治癒プロセスの間に組織に要求される動きの間、組織に強固に結合され続けなければならない。固定化され得ない組織および器官、例えば肺、については、効果的なシーリング物質は強固に接着性であると共にコンプライアントであり、組織と類似する物質特性を有する。コンプライアントな接着性物質、ならびに、その構築および使用方法の例が提供される。
【0028】
1つの実施態様においては、1つ以上の開始剤が表面に付与されて、吸収された層を形成する。本明細書において「吸収された」は、「吸収された」および「吸着された」の両方を含んで使用される。本明細書において「モノマー」と呼ばれる重合可能な分子の溶液が、次いで付与される。
【0029】
方法
1つの実施態様において、1種以上の開始剤または開始系の成分が、直接表面に適用される。そして未吸着過剰物(unabsorbed excess)は、必要に応じて洗浄またはブロッティング(blotting)により除去される。開始剤溶液は、さらに1種以上の重合可能なモノマー、および他の有用な処方成分(促進剤、共開始剤、増感剤、およびコモノマーを含む)を含み得る。次いで、1種以上の開始剤もしくは開始系の成分と組み合わせた重合可能なモノマーを含む液体(これは、第1の工程で吸収されたものと同じであってもよく、または異なってもよい)が適用される。系は、自己重合可能な(self-polymerizing)でない場合、次いで、刺激されて、例えば、適切な波長の光の適用により重合する。
【0030】
プライミング(priming)およびモノマー適用工程もまた組み合わされ得る。例えば、過剰な開始剤がモノマー添加前に除去されない場合、その後のモノマーの適用は、モノマー層への開始剤混合物をもたらす。同様に、モノマー層が、表面に対して高親和性の開始剤を有する場合、開始剤を含むモノマー層を適用し、そして開始剤の表面への優先的な吸収を可能にして同じ効果を達成する適切な時間待つことが可能である。
【0031】
これらの方法のすべては、「開始−取り込み様式(initiating-incorporating manner)」におけるモノマーの適用として集合的に記載され、コーティングされる表面上に存在する、開始剤を取り込むモノマーの層と、開始剤の吸収された層との両方をもたらす任意の適用および混合手段を含む。
【0032】
開始剤は、化学的、光化学的、またはそれらの組み合わせであり得る。非光化学的系において、還元剤成分およびオキシダント成分は、溶液の2つのパート中(すなわち、プライミング層およびコーティング層)に存在し得る。
【0033】
あるいは、2工程プロセスを採用し得、ポリマー、特に、生体吸収可能なヒドロゲルを組織上に形成し得る。第1の工程において、組織は、必要に応じてプライミング溶液中のモノマーを有するオレフィン性(例えば、アクリル性)または他の官能性モノマーの重合のための開始剤または開始剤系の一部で処理される。このことは、活性化された組織表面を提供する。第2の工程において、モノマーおよび、適切な場合、開始剤系の残りは、共に活性化された組織に接触して配置され、組織上の重合をもたらす。このような系の例は、1つのパートにおける過酸化化合物および別のパートにおける反応性イオン(例えば、遷移金属)の組み合わせである。
【0034】
自発的な重合のプロセスは、別々のエネルギー源の使用を必要としない。さらに、パート1がパート2に接触するときに重合のプロセスは開始されるので、重合の開始による「ポットライフ(potlife)」の問題がない。所望であれば、パート1またはパート2は、ヒドロゲルコーティングを可視化する色素または他の手段を含み得る。
【0035】
この方法において使用され得る系の1つの例は、例えば、2パート「アクリル性構造接着剤(acrylic structural adhesives)」に見られる、自発的な「接触(contact)」開始剤系である。しかし、本明細書中に記載される材料のすべての成分は、生体適合性とともに、組織上で自発的に重合する能力を示さなければならない。この目的のためのトリブチルボランを本明細書中で例示する。
【0036】
これらの系は、組織、特に光化学的系が到達もしくは維持することが困難な領域へのゲルの送達を顕著に単純化する。送達系は、非常に、より単純になり得る。さらに、2部分化学的系(例えば、レドックス系および特に過酸化物に基づくもの)が、光化学的系の硬化を化学的に増強するために使用され得、それにより光化学的系のコントロールを化学的系の着色不純物(例えば、血液)を克服する能力と組み合わせることが発見されている。
【0037】
ポリマー
水溶性、生体適合性、生分解性マクロマーおよびそれらの調製および使用の方法が開示される。マクロマーは、少なくとも1種の水溶性ブロック、少なくとも1種の生分解性ブロックおよび少なくとも1種の重合可能基を含む。少なくとも1種の生体適合性ブロックは、カーボネート基またはジオキサノン基を含む。重合の後に生体適合性材料を得るために、各重合可能な基は、少なくとも1種の生体適合性結合または基により、マクロマー上の任意の他の重合可能な基から分離されなければらならない。
【0038】
マクロマーの少なくとも一部分は、1種以上の反応性基を含み、そしてそれにより架橋剤として有効であり、その結果、マクロマーが架橋され得、ゲルを形成し得る。必要とされる最小の比率は、マクロマーの性質およびその溶液中の濃度とともに変化する。そしてマクロマー溶液中の架橋剤の比率は、マクロマー溶液の100%まで高くなり得る。
【0039】
例えば、マクロマーは、少なくとも1.02の重合可能な基を平均として含み、そしてより好ましくは、マクロマーはそれぞれ2種以上の重合可能な基を平均として含む。
【0040】
好適なホモリシス(フリーラジカル)重合反応において、それぞれの重合可能な基は、重合して鎖になるので、架橋ヒドロゲルは、1マクロマーにつき、1をわずかに越える反応性基(すなわち、平均として約1.02重合可能な基)のみを用いて生成され得る。しかし、より高いパーセンテージが好ましい。そしてほとんどまたはすべての分子が2以上の反応性二重結合を有するポリマー混合物において優れたゲルが得られ得る。ポロキサミン(水溶性ブロックの1例)は、4つのアーム(arm)を有しそれゆえ容易に、4つの重合可能な基を含むように修飾され得る。
【0041】
本明細書中で使用される「生体適合性」材料は、マイルドな、しばしば過渡的(transient)な、インプラント応答のみを、重篤なもしくは増大する応答とは対照的に、刺激するものである。
【0042】
本明細書中で使用する「生分解性(biodegradable)」材料は、通常のインビボ生理学的条件下で、代謝または排泄され得る成分に分解(decompose)するものである。
【0043】
本明細書中「ブロック」は、隣接する領域からサブユニット組成が異なるコポリマーの領域である。ブロックは、一般的に、複数のサブユニットを含み、非分解性材料について約1000以下のサブユニットまでであり、そして分解性材料については上限がない。下限において、ブロックのサイズは、その機能(function)に依存する;最小サイズは、機能が発揮されるのを可能にするのに十分であるサイズである。ブロックが水溶性をマクロマーに与える場合、これは、典型的には、400ダルトン以上であり、好ましくは600ダルトン以上であり、より好ましくは、少なくとも1000ダルトン以上であり、そして最も好ましくは、2000〜40,000ダルトンの範囲である。分解性結合について、最小ブロックサイズは、機能について適切な分解性の単結合である。より好ましくは、ブロックサイズは、2〜40基である;最も好ましくは、3〜20である。反応性基は、いくつかの用途のためのブロックであると考えられ得る;このようなブロックにおけるユニットの典型的な数は1であるが、2〜5であってもよい。
【0044】
本明細書で使用されるように、カーボネートは、構造−O−C(O)−O−を有する官能基である。カーボネート出発物質は、環状(例えば、トリメチレンカーボネート(TMC))であり得るか、または線状(例えば、ジメチルカーボネート(CHO−C(O)−OCH))であり得る。重合可能なマクロマーに組み込んだ後、カーボネートは少なくともR−O−C(=O)−R’のような部分(ここで、RおよびR’はマクロマーの他の成分である)で存在する。
【0045】
本明細書で使用されるように、ジオキサノンは、構造−O−C(O)−R−O−(ここで、Rは線状、分枝、または環状アルキル基である)を有する繰り返し単位である。環状ジオキサノンの例は、1,4-ジオキサン-2-オンである。1,4-ジオキサン-2-オンは、好ましいジオキサノンである。
【0046】
本明細書で使用されるように、ヒドロゲルは、有機ポリマー(天然または合成)が、共有結合、イオン結合、または水素結合を介して架橋され、水分子を包括しゲルを形成する3次元開格子構造を作製する場合に、形成される物質である。
【0047】
本明細書で使用されるように、「水溶性」は、約0℃と50℃との間の範囲の温度で水溶液に少なくとも1グラム/リットルの溶解性として規定される。水溶液は、少量の水溶性有機溶媒(例えば、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアルデヒド、アルコール、アセトン、および/またはグライム(glyme))を含み得る。
【0048】
ブロックコポリマーのタイプ
一般的な用語において、マクロマーは、生分解性ブロック、水溶性ブロック、および少なくとも1つの重合可能な基を含むブロックコポリマーである。好ましくは、マクロマーは、平均して少なくとも1.02の重合可能な基を含み、より好ましくは、平均して少なくとも2つの重合可能な基を含む。重合可能な基の平均数は、例えば、マクロマーを異なる量の重合可能な基と混合することによって得られ得る。
【0049】
個々のポリマーブロックは、異なる型のブロックコポリマー(ジブロック、トリブロック、およびマルチブロックコポリマーを含む)を形成するために配列され得る。重合可能なブロックは、生体分解性ブロックに直接、または水溶性非分解性ブロックを介して間接的に結合され得、そして好ましくは、生体分解性ブロックによって重合可能な基がお互いが分離されるように結合される。例えば、マクロマーが、生体分解性ブロックに結合した水溶性ブロックを含む場合、1つの重合可能基は、水溶性ブロックに結合され得、そして別の重合可能基は、生体分解性ブロックに結合され得る。好ましくは、両方の重合可能基は、少なくとも1つの分解性結合によって水溶性ブロックに結合される。
【0050】
ジブロックコポリマーは、一方または両方の末端が重合可能基によってキャップ化された生体分解性ブロックに結合した水溶性ブロックを含む。トリブロックコポリマーは、中央に水溶性ブロックおよび外側に一方または両方の末端が重合可能基によってキャップ化された生体分解性ブロックを含む。あるいは、中央ブロックは、生体分解性ブロックであり得、そして外側のブロックは、水溶性であり得る。マルチブロックコポリマーは、1つ以上の水溶性ブロックおよび生体適合性ブロックが互いに直線様式で結合したものを含み得る。あるいは、マルチブロックコポリマーは、ブラシ型、くし型、樹状型、星型のコポリマーであり得る。骨格が水溶性ブロックから形成される場合、骨格に結合する少なくとも一つの分枝またはグラフトは生体分解性ブロックである。あるいは、骨格が生体分解性ブロックから形成される場合、この生体分解性ブロックがまた水溶性でない場合骨格に結合する少なくとも一つの分枝またはグラフトは水溶性ブロックである。別の実施態様において、多官能性化合物(例えば、ポリオール)は、複数の重合ブロックと結合され得、その中の少なくとも一つは、水溶性であり、そしてその中の少なくとも一つは、生体分解性である。
【0051】
一般に、生体分解性であると意図されるマクロマーの任意の処方物は、各重合可能基が、1つ以上の結合部によって他の生体分解性である重合可能基から互いに分離されるように構築されなければならない。非生体分解性材料は、この状況には供されない。
【0052】
当業者は、個々のポリマーブロックが均一の組成を有し得るか、またはある範囲の分子量を有し得、そして比較的短い鎖または必要とされるマクロマーの特性を保持しつつ最終のヒドロゲルにおける特別に所望される特性を付与する個々の種の組合せであることを認識する。本明細書中で言及するオリゴマーの長さは、マクロマーの全体的な水溶性を保持するという条件で、単一のユニット(生体分解性部分において)から多くの部分に変化し得る。
【0053】
以下の考察および実施例において、マクロマーはしばしば、xxKZnという形態のコードによって表される。xxKは、1000ダルトンでの、骨格ポリマー(これは、他に言及しない限りポリエチレングリコール(「PEG」)である)の分子量を表す。Zは、以下のコードを用いて生体分解性結合を表す。ここで、Lは、乳酸であり、Gは、グリコール酸であり、Dは、ジオキサンであり、Cは、カプロラクトンであり、Tは、炭酸トリメチレンであり、そしてnはブロック中の生体分解性ブロックの平均数である。分子は、他に言及しない限りアクリルエステル基で終結している。これはまた、ときどき、接尾辞A2により示される。
【0054】
好ましい生体分解性基(カーボネートまたはジオキサノンに加えて)は、ヒドロキシ酸、オルトエステル、無水物、または他の合成または半合成の分解性結合部であるが、天然の材料は、その生体分解性の程度がマクロマーの意図される使用に十分である場合、生体分解性のセクションにおいて使用され得る。このような生体分解性基は、天然アミノ酸または非天然アミノ酸、炭水化物残基、および他の天然の結合を含む。生体分解時間は、このような結合の加水分解する酵素の局所的な利用可能性により制御される。このような酵素の利用可能性は、当該分野からまたは日常の実験によって確認され得る。
【0055】
水溶性領域
適切な水溶性ポリマー性ブロックには、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、部分的または完全に加水分解されたポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(エチレンオキシド)-コ-ポリ(プロピレンオキシド)ブロックコポリマー(ポロキサマー(poloxamer)およびメロキサポール(meroxapol))、ポロキサミン(poloxamine)、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシアルキル化セルロース、例えば、ヒドロキシエチルセルロースおよびメチルヒドロキシプロピルセルロース、ポリペプチド、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、多糖類または炭水化物、例えば、Ficoll(登録商標)ポリスクロース、ヒアルロン酸、デキストラン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、またはアルギネート、およびタンパク質、例えば、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、またはオボアルブミンから調製されるものが包含される。好ましくは、水溶性ポリマーブロックは、ポリ(エチレングリコール)またはポリ(エチレンオキシド)から作製される。
【0056】
水溶性ポリマーブロックは、体内で、本来的に生分解性であり得、あるいは生分解性に乏しいか、または効果的に非生分解性であり得る。後者の2つのケースでは、溶解性ブロックは、排泄が可能となるように十分に低分子量であるべきである。ヒト(または使用が意図される他の種)において排泄が可能である最大分子量はポリマーのタイプに応じて異なるが、しばしば約40,000ダルトン以下である。水溶性天然ポリマーおよび合成の等価物または誘導体(ポリペプチド、ポリヌクレオチド、および分解性多糖類を包含する)が使用され得る。
【0057】
水溶性ブロックは、分子量が少なくとも600、好ましくは2000またはそれ以上、そしてより好ましくは少なくとも3000ダルトンの単独ブロックであり得る。あるいは、水溶性ブロックは、2つ以上の水溶性ブロックが他の基に連結したものであり得る。このような連結基は生分解性結合、重合性結合、またはその両方を含み得る。例えば、マレイン酸、フマル酸、またはアコニット酸のような不飽和ジカルボン酸は、後述のように分解性基とエステル化し得、そしてこのような連結基は一端または両端で、ポリエチレングリコールのような親水性基と結合し得る。他の実施態様において、2つ以上のPEG分子がカーボネート結合を含む生分解性基によって連結し得、そして次に重合性基で末端封止され得る。
【0058】
生分解性ブロック
生分解性ブロックは、好ましくはインビボ条件下で加水分解可能である。少なくとも1つの生分解性領域がカーボネートまたはジオキサノン結合である。さらなる生分解性ポリマーブロックは、ヒドロキシ酸のポリマーおよびオリゴマーまたは他の生物学的に分解可能なポリマーを含み得、これは体内で非毒性であるか、あるいは正常な代謝物として存在する物質を生ずる。好ましいポリ(ヒドロキシ酸)は、ポリ(グリコール酸)、ポリ(DL-乳酸)およびポリ(L-乳酸)である。他の有用な物質は、ポリ(アミノ酸)、ポリ(無水物)、ポリ(オルトエステル)、およびポリ(ホスホエステル)を包含する。ポリラクトン、例えば、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリ(δ-バレロラクトン)、ポリ(γ-ブチロラクトン)およびポリ(β-ヒドロキシブチレート)などもまた有用である。
【0059】
生分解性領域は、モノマー、オリゴマーまたはポリマーから、生分解を受けやすい連結、例えば、エステル、ペプチド、無水物、オルトエステル、およびホスホエステル結合を用いて構築され得る。
【0060】
生分解性基の総量を変化させ、そしてカーボネートまたはジオキサノン結合(これらは比較的ゆっくり加水分解する)の数と低級ヒドロキシ酸結合(特にグリコリドまたはラクチド。これらは比較的急速に加水分解する)の数との比を選択することによって、マクロマーから形成されるヒドロゲルの分解時間を制御し得る。
【0061】
カーボネートおよびジオキサノン
任意のカーボネートを用いて、マクロマーを作製し得る。好ましいカーボネートは、最大限の生体適合性のためには脂肪族カーボネートである。例えば、トリメチレンカーボネートおよびジメチルカーボネートが脂肪族カーボネートの例である。低級ジアルキルカーボネートは、ジアルキルカーボネートとポリマーのヒドロキシル基との平衡によって形成されるアルコールの蒸留による除去によって、骨格ポリマーに結合する。
【0062】
より好ましいカーボネートは環状カーボネートであり、これは水を遊離することなくヒドロキシ末端ポリマーと反応し得る。適切な環状カーボネートは、エチレンカーボネート(1,3-ジオキソラン-2-オン)、プロピレンカーボネート(4-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オン)、トリメチレンカーボネート(1,3-ジオキサン-2-オン)およびテトラメチレンカーボネート(1,3-ジオキセパン-2-オン)を包含する。いくつかの反応条件下では、Timberlakeらの米国特許第4,330,481号に記載のように、オルトカーボネートが反応してカーボネートを生じ得ること、あるいはカーボネートがオルトカーボネート中間体を経てポリオールと反応し得ることが可能である。従って、ある種のオルトカーボネート、特に二環式オルトカーボネートは、カーボネート結合マクロマーを形成するための適切な出発物質であり得る。
【0063】
あるいは、適切なジオールまたはポリオール(骨格ポリマーを包含する)をホスゲンで活性化して、当該分野で記載されているようにクロロホルメートを形成し得、そしてこれらの活性化化合物をヒドロキシル基のような適切な基を含む骨格ポリマーと混合して、カーボネート結合を含むマクロマーを形成し得る。
【0064】
これらのすべての物質は本明細書において「カーボネート」である。
【0065】
適切なジオキサノンは、ジオキサノン(p-ジオキサノン;1,4-ジオキサン-2-オン;2-ケト-1,4-ジオキサン)、およびその密接に関連した物質である1,4-ジオキソラン-2-オン、1,4-ジオキセパン-2-オンおよび1,5-ジオキセパン-2-オンを包含する。これらの化合物の低級アルキル(例えばC1-C4アルキル)誘導体もまた意図される(例えば、2-メチルp-ジオキサノン(乳酸の環状O-ヒドロキシエチルエーテル))。
【0066】
重合性基
用語「重合性基」は、さらに共有結合を形成してマクロマー内部結合を生じる能力のある反応性官能基として定義される。重合性基は、具体的には、フリーラジカル重合によって重合可能な基、およびカチオン重合または不均一重合(heterolyticpolymerization)によって重合可能な基を包含する。適切な基は、エチレン性不飽和基またはアセチレン性不飽和基、イソシアネート、エポキシド(オキシラン)、スルフヒドリル、スクシンイミド、マレイミド、アミン、イミン、アミド、カルボン酸、スルホン酸、およびホスフェート基を包含するがこれらに限定されない。(脂肪族ヒドロキシ基は、このようなヒドロキシル基と共有架橋し得る基をこれもまた含む処方における場合以外は、本明細書に開示の化学に関しては反応基とは見なさない)。エチレン性不飽和基は、ビニル基、例えば、ビニルエーテル、N-ビニルアミド、アリル基、不飽和モノカルボン酸、不飽和ジカルボン酸、および不飽和トリカルボン酸を包含する。不飽和モノカルボン酸は、アクリル酸、メタクリル酸およびクロトン酸を包含する。不飽和ジカルボン酸は、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、メサコン酸またはシトラコン酸を包含する。不飽和トリカルボン酸は、アコニット酸を包含する。重合性基はまた、このような物質の誘導体、例えば、アクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、および類似のビニルおよびアリル化合物であり得る。反応性基を形成する化合物は、マクロマー中に単純に導入できるように、好ましくは適切な活性化形態で利用可能である。このような物質の例は、塩化(メタ)アクリル、無水アクリル酸、およびアリルグリシジルエーテルである。重合性基は、好ましくは、マクロマーの一端またはそれ以上の末端に位置する。やや好ましくない実施態様においては、重合性基はマクロマー内に存在し得る。
【0067】
重合は、任意の従来の反応(光重合、化学的または熱的フリーラジカル重合、レドックス反応、カチオン重合、および活性基(例えばイソシアネートなど)の化学反応を包含する)によって開始される。重合は好ましくは光開始剤を用いて開始される。UV光に露光するとフリーラジカルまたはカチオンを発生する光重合開始剤は当業者に周知である。フリーラジカルはまた比較的穏和なやり方で、ある種の染料および化合物の光子吸収から形成され得る。重合性基は好ましくはフリーラジカル重合によって重合する。好ましい重合性基は、アクリレート、ジアクリレート、オリゴアクリレート、メタクリレート、ジメタクリレート、オリゴメタクリレート、シンナメート、ジシンナメート、オリゴシンナメート、および他の生物学的に受容可能な光重合性基である。
【0068】
これらの基は、UV(紫外)光およびIR(赤外)光を包含する光、好ましくは長波長紫外光(LWUV)または可視光に露光するとフリーラジカルを発生する光開始剤を用いて重合され得る。LWUVおよび可視光は、短波長UV光に比べると組織および他の生物学的物質に対して与えるダメージが少ないため、好ましい。有用な光開始剤は、細胞障害を与えることなく、かつ短時間で(せいぜい分単位で、最も好ましくは秒単位で)、マクロマーの重合を開始させるために使用され得る光開始剤である。
【0069】
染料(好ましくはアミンのような共触媒との組み合わせで)が光(好ましくは可視光またはLWUV光)に露光すると、フリーラジカルを発生させ得る。染料による光吸収は、染料を三重項状態にすると思われ、そして次にこの三重項状態がアミンと反応してフリーラジカルを形成し、これが直接、あるいは適切な電子移動剤または共触媒(例えばアミン)を通じて、重合を開始させる。重合は、波長が約200-1200nm、最も好ましくは長波長紫外領域または可視領域、320nm以上、および最も好ましくは約365nmと550nmとの間の光を照射することによって開始され得る。
【0070】
多数の染料が光重合のために使用され得る。適切な染料は当業者に周知である。好ましい染料は、エリトロシン、フロキシム(phloxime)、ローズベンガル、チオニン、カンファーキノン、エチルエオシン、エオシン、メチレンブルー、リボフラビン、2,2-ジメチル-2-フェニルアセトフェノン、2-メトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、他のアセトフェノン誘導体、およびカンファーキノンを包含する。適切な共触媒は、アミン、例えば、N-メチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、ジベンジルアミン、N-ベンジルエタノールアミン、N-イソプロピルベンジルアミンを包含する。トリエタノールアミンが好ましい共触媒である。
【0071】
適切な化学的系、熱的系およびレドックス系は、開始剤分子中にフリーラジカルを発生させ、次いでこれらのフリーラジカルを不飽和基に移動させて連鎖反応を開始させることによって、不飽和基の重合を開始させる。ペルオキシドおよび他の過酸素化合物がこの点で周知であり、そして化学的または熱的な開始剤と見なされ得る。アゾビスイソブチロニトリルは化学開始剤である。遷移金属、特に鉄と過酸素および好ましくは安定剤(例えばグルクロン酸)との組み合わせは、循環(cycling)レドックス反応によって、重合を開始するフリーラジカルを発生させる。
【0072】
化学的系またはレドックス系と光開始系との組み合わせが効果的であることがWO96/29370において示されており、そしてこれらは本発明のマクロマーの多くの用途について好ましい開始系である。
【0073】
他のタイプの結合反応のマクロマーを使用することもまた可能である。例えば、アミンを活性基と考えてアミン末端のマクロマーを構築し得;そしてイソシアネートを活性基と考えてイソシアネート末端のもう一つのマクロマーを構築し得る。これらの物質を混合すると自発的に反応してゲルを形成する。あるいは、イソシアネート末端マクロマーを重合し、そしてジアミンおよびトリアミンの混合物で架橋し得る。このような反応は光開始反応よりも制御が困難であるが、移植のためのゲルをおそらくは薬物送達系として体外で大量に生産するためには好ましい。他の反応物の組み合わせは、マレイミドとアミンまたはスルフヒドリル、あるいはオキシランとアミン、スルフヒドリルまたはヒドロキシルを包含する。
【0074】
好ましいマクロマー
好ましくは、マクロマーは約0.3重量%〜20重量%のカーボネート残基またはジオキサノン残基を含み、より好ましくは約0.5重量%〜15重量%のカーボネート残基またはジオキサノン残基を含み、そして最も好ましくは、約1重量%〜5重量%のカーボネート残基またはジオキサノン残基を含む。それらの実施態様においてヒドロキシ酸残基が所望される場合、マクロマーはカーボネートまたはジオキサノンの1残基当たり約0.1〜10残基の間で含み得、より好ましくは約0.2〜5、最も好ましくは1つのマクロマー当たり1つ以上のそのような残基を含み得る。
【0075】
好ましい実施態様において、マクロマーはコア、コアの各端部の伸長部、および各伸長部の末端キャップを含む。コアは親水性ポリマーまたはオリゴマーであり;各伸長部は、1つ以上のカーボネートまたはジオキサノン結合を含む生体分解性オリゴマーであり;そして各末端キャップは、マクロマーを架橋可能な1つ以上の官能基を含む。特に好ましい実施態様において、コアは約400〜40,000Daの間の分子量を有する親水性ポリ(エチレングリコール)オリゴマーを含み;各伸長部は、カーボネートおよびジオキサノンから選択される1〜10残基を含み、そして必要に応じて1〜5個の間のヒドロキシ酸(hydroxyacid)残基、好ましくはαヒドロキシ酸残基をさらに含み;ここで伸長部の全ての残基の合計はマクロマーの水溶性を保持するのに十分に小さく、代表的にはマクロマーの重量の約20%未満であり、より好ましくは10%以下である。
【0076】
好ましくは、各末端キャップは重合可能な基を含む。好ましい基はフリーラジカル(ホモ分解的に)重合可能である。より好ましくは、それらはエチレン性不飽和(すなわち、炭素-炭素二重結合を含む)で、約50〜300Daの間の好ましい分子量を有し、これらはマクロマーを架橋および/または重合可能である。好ましい実施態様は、分子量約25,000Daのポリ(エチレングリコール)オリゴマーからなるコア;約200〜1000Dの分子量を有するポリカーボネートまたはポリ(ジオキサノン)オリゴマーを含む伸長部単独またはヒドロキシ酸オリゴマーから形成された伸長部との組み合わせ;およびアクリレート部分(これは約55Da分子量である)からなる末端キャップを組み入れる。
【0077】
マクロマー合成
マクロマーは当業者に周知の手段を用いて合成され得る。一般的な合成法は文献(例えば、Hubbellらへの米国特許第5,410,016号、Rosensaftらへの米国特許第4,243,775号、およびChurchillらへの米国特許第4,526,938号)に見出される。
【0078】
例えば、ポリエチレングリコール骨格は、トリメチレンカーボネート(TMC)または類似のカーボネートとルイス酸触媒(例えば、2-エチルヘキサン酸第1スズ(stannousoctoate))の存在下で反応し得、TMC-ポリエチレングリコールターポリマーを形成する。TMC-PEGポリマーは、必要に応じてさらなる分解可能な基(例えば、乳酸基)でさらに誘導体化され得る。次いで、末端ヒドロキシル基は、アクリロイルクロリドと3級アミンの存在下で反応し、ポリマーをアクリレート末端基で末端キャップし得る。類似のカップリング化学反応は、他の水溶性ブロック、生体分解性ブロック、および重合可能な基を含み、特にヒドロキシル基を含むマクロマーのために使用され得る。
【0079】
ポリエチレングリコールがTMCおよびヒドロキシ酸と酸触媒の存在下で反応する場合、反応は同時あるいは逐次のいずれかであり得る。以下の実施例に示すように、同時反応は少なくとも部分的に3つの成分のランダムコポリマーを生成する。PEGをTMCと反応させた後、ヒドロキシ酸の逐次反応は、TMCの内部コポリマーおよび1つ以上のPEGを生成する傾向があり、これは統計学的にTMCから誘導された結合によって結合した1つより多くのPEG残基を含み、(TMC,PEG)領域の末端に大部分ヒドロキシ酸を有する。TMおよび他のカーボネート基が合成の間に「後ろかみつき(back-biting)」によって再配列(re-arrange)される傾向があり、これは複数のPEG分子が同じマクロマーに取り込まれる理由である。ヒドロキシ酸が、乳酸中のように2級ヒドロキシルを含む場合、次いで再配列への傾向は減少する。
【0080】
原則的には、分解可能ブロックまたは領域は、別々に合成され得、次いで骨格領域にカップリングされ得る。実際には、このより複雑な反応は有用な物質を得るために要求されるものではない。
【0081】
逐次付加
好ましい実施態様において、生体分解性基のカーボネート含有マクロマーへの逐次付加は、反応性末端基とのキャップ化の後にマクロマーの生体分解性を増強するために使用され得る。
【0082】
例えば、トリエチレンカーボネート(TMC)とポリエチレングリコール(PEG)の反応において、得られるコポリマーのTMC結合はPEGの末端結合形態を形成するように示されており、断片化されたコポリマー(すなわち、1つ以上の隣接TMC結合によってカップリングされたPEG単位)を生じる。TMC断片の長さは変化し得、そして確率分布を示すと考えられている。カップリングはまた、TMCのカーボネートサブユニットによって達成され得る。PEGジオールが開始剤として使用される場合、TMC重合プロセスの間に、TMC断片のカーボネート結合を含むエステル交換反応の結果として、これらは断片化PEG/TMCコポリマーを形成する。他のポリアルキレングリコール開始剤が使用される場合、類似の挙動が期待される。末端結合はTMCとPEGとの反応の間に開始し得、そして末端結合の完成および平衡の達成が、溶液の粘度の増大の休止によって観測される。
【0083】
第1の反応工程の生成物が、次いで反応性末端キャップ化物質(例えば、アクリロイルクロリド)と反応し、かなりの割合のマクロマー末端基がPEGヒドロキシルであり得、非生体分解性PEG分子の1つの末端への直接的な反応性基の付着を生じる。PEG/TMC断片化コポリマーのこのような反応は、PEG/TMC断片化コポリマーのいずれかの末端で、さらなる断片の他の加水分解性コモノマー(例えば、ラクテート、グリコレート、1,4-ジオキサノン、ジオキセパノン(dioxepanone)、カプロラクトン(caprolactone))を添加することによって阻止され得る。コポリマー断片とPEG/TMCプレポリマーとをいくらかスクランブルされることは予期されるが、これは適切な反応条件を用いることによって最小化され得る。基本的なPEG/TMC断片化コポリマーまたはさらに反応したPEG/TMC/コモノマー断片化ターポリマーは、次いでさらに反応し、反応性末端基(例えばアクリレート)を付加することによって架橋可能なマクロマーを形成し、反応性官能基を有するマクロマーを提供する。水性環境での末端基の次の反応は生体吸収性ヒドロゲルを生じる。他のポリアルキレングリコール(PAG)(例えばポロキサマー(poloxamer))が用いられる場合、類似の断片化構造は予期される。
【0084】
コポリマーおよびマクロマーは、変更可能な溶解性および溶解粘性を有し得る。ヒドロゲルは変更可能なモジュラスおよび分解速度を有し得る。水中における所定の溶液濃度に関して、粘度は末端結合の程度、TMC(および他の疎水性種)断片の長さ、および出発PAGの分子量によって影響される。ヒドロゲルのモジュラスは、架橋間の分子量によって影響される。ヒドロゲル分解速度は、第2のより容易に加水分解可能なコモノマー(例えば、ラクテート、グリコレート、1,4-ジオキサノン)を、基本的なPAG/TMCコポリマーの末端上の断片として、架橋末端基を添加する前に添加することによって改変され得、マクロマーを形成する。
【0085】
本明細書中で記載されるこれらの構造のいくつかを以下に表す。PEG、ラクテートおよびアクリレート単位は例示の目的のために単独で用いられる。
【0086】

いくつかの基本構造:
(CH2-CH2-O)x=PEG繰り返し単位=(PEG)x
(CO-(CH2)3-O)y=TMC繰り返し単位=(TMC)y
(CO-CH(CH3)-O)z=ラクテート繰り返し単位=(LA)z
-CO-CH=CH2−アクリレート末端基=AA

断片化PEG/TMCコポリマー:
HO-(CO-(CH2)3-O)y-[(CH2-CH2-O)x-(CO-(CH2)3-O)y]n-H
またはHO-(TMC)y-[(PEG)x-(TMC)y]n-H

断片化PEG/TMC/ラクテートターポリマー:
HO-(CH(CH3)-CO)z-O-(CO-(CH2)3-O)y-[(CH2-CH2-O)x-(CO-(CH2)3-O)y]n-(CO-CH(CH3)-O)z-H
またはHO-(LA)z-(TMC)y-[(PEG)x-(TMC)y]n-(LA)z-H

断片化PEG/TMCマクロマー(アクリレート化):
CH2=CH-CO-O-(CO-(CH2)3-O)y-[(CH2-CH2-O)x-(CO-(CH2)3-O)y]n-CO-CH=CH2
またはAA-(TMC)y-[(PEG)x-(TMC)y]n-AA

断片化PEG/TMC/ラクテートターポリマーマクロマー(アクリレート化):
AA-(LA)z-(TMC)y-[(PEG)x-(TMC)y]n-(LA)z-AA

マクロマーへの適用
処置の方法
一般に、コーティング層またはシーリング層を必要とする任意の医学的状態を、本明細書中に記載される方法により処置して良好な接着性を有するコーティングを生じ得る。例えば、肺組織は、プライミング技術を用いる手術後の空気の漏出に対して閉じられ得る。同様に、創傷が閉鎖され得;血液、血清、尿、脳脊髄液、空気、粘液、涙、腸内容物、または他の体液の漏出は、停止または最小化され得る;バリアが、外科手術後接着(骨盤および腹部、心膜、脊髄、および硬膜、腱、腱鞘の外科手術後接着を含む)を防止するために適用され得る。この技術はまた、切開、剥離、熱傷、炎症、および身体の外表面へのコーティングの適用を必要とする他の状態の修復または治癒において、露出した皮膚を処置するために有用であり得る。この技術はまた、他の身体表面(例えば、血管を含む中空器官の内側または外側)へコーティングを適用するために有用である。特に、血管または他の通路の再狭窄が処置され得る。技術はまた、細胞含有マトリックスまたは細胞を、半月板または軟骨のような組織に接着するために用いられ得る。
【0087】
組織における漏出部のシーリング
ポリマーの好ましい適用は、組織(例えば、肺、尿道、尿管、胃腸管、生殖管(reproductive tract)、肝臓、脾臓、硬膜、および脊髄)におけるガスおよび/または体液(例えば、血液、脳脊髄液、尿、および胆汁)の漏出部のような漏出部を閉じる方法においてである。
【0088】
胸部の手術では、使用は、気管支胸腔痩のシーリング、縦隔出血の低減、食道吻合のシーリング、および肺ステープルまたは縫合線のシーリングを含む。脳神経外科では、使用は、硬膜修復、微小血管手術、および末梢神経修復を含む。一般的な手術では、使用は、腸吻合、肝臓切除、胆汁管修復、膵臓手術、リンパ節切除、漿液腫および血腫形成の整複、内視鏡検査誘導性出血、トロカール切開の充填またはシーリング、ならびに特に救急手順における、一般的外傷の修復を含む。
【0089】
形成外科では、使用は、皮膚グラフト、熱傷、焼痂の挫滅組織切除、および眼瞼形成(眼瞼修復)を含む。耳鼻咽喉科学(ENT)では、使用は、鼻填塞(nasalpacking)、耳小骨連鎖再構成、声帯再構成、および鼻修復を含む。眼科(opthalmology)では、使用は、角膜の裂傷または潰瘍、および網膜剥離を含む。整形外科では、使用は、腱修復、骨修復(欠損の充填を含む)、および半月板修復を含む。婦人科/産科では、使用は、筋切開の処置、修復後接着分解(adhesiolysis)、および接着の防止を含む。泌尿器科では、損傷した管のシーリングおよび修復、ならびに部分的腎摘出後の処置は、潜在的な使用である。シーリングはまた、特に血友病患者の処置を含む、任意の種々の状況における散在性出血を停止することにおける使用のものであり得る。歯科外科では、使用は、歯周疾患の処置および抜歯後の修復を含む。腹腔鏡検査または他の内視鏡手順のために作られた切開の修復、および外科手術目的のために作られた他の開口部の修復は、他の使用である。さらなる使用は、治癒の間にラギング(rugging)することによる損傷を防止するための組織の分離を含む。同様の使用は、獣医学手順において行われ得る。各々の場合、適切な生物学的に活性な成分が、シーリング材料または結合材料中に含まれ得る。
【0090】
方法は、組織の表面を重合開始剤でプライムする工程、1つ以上の重合開始剤を含有するマクロマー溶液をコートされる組織の表面に塗布する工程;次いでマクロマーを重合させる工程を含む。好ましくは、重合開始剤は、光開始剤(photoinitiator)を含む。
【0091】
マクロマー溶液を添加する前に、開始剤を組織の表面に塗布することは、溶液と組織表面との間の界面でマクロマーを重合させる。この「界面重合」は、組織表面への得られたポリマーの優れた接着を提供する。開始剤をマクロマー溶液中に提供することは、比較的厚い(例えば、1mm〜10mm)ポリマーの層が、組織表面上で形成されるのを可能にする。比較的厚いポリマー層は、いくつかの型の組織(例えば、肺組織または硬膜)を漏出部のサイズに依存して有効に閉じるために必要とされ得る。
【0092】
少なくとも1つのカルボネート基を有して調製される場合のマクロマーの利点は、マクロマーの合成の間に非生体分解性だが排出可能なポリマーの短いブロック(例えば、約40,000Dまでのポリエチレンオキシド鎖)がカーボネート基により連結され始めてマクロマーをより高分子量にするが、一方マクロマーの分泌可能な産物の生体分解性を防ぎ得ることである。より高分子量は、最終的なヒドロゲルの弾性を増大させると考えられる。このことは、肺組織に適用されるシーラント層においてのように、ポリマーが容易にかつ反復して伸張しなければならない場合は、重要かつ有用な特性である。高い弾性はまた、非分解性ブロックを他の多官能性リンカー(例えば、ジカルボン酸)と連結することにより提供され得る。しかし、このようなマクロマーを作製するために必要とされる合成化学は、カルボネートに基づく連結に必要とされる単純な反応よりも複雑であり得るので、この方法は、それほど好ましくない。
【0093】
外科手術接着の防止。
【0094】
別の好ましい適用は、患者における外科手術手順後の接着の形成を低減させる方法である。この方法は、患者における損傷した組織の表面を、感光性遊離ラジカル重合開始剤の水溶液およびマクロマー溶液でコーティングする工程を含む。コートされた組織表面は、マクロマーを重合させるに十分な光に曝露される。感光性遊離ラジカル重合開始剤は、単一の化合物(例えば、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン)または色素および共触媒の組合せ(例えば、エチルエオシンまたはエオシンY、およびトリエタノールアミン)であり得る。
【0095】
取り込まれた薬剤の制御送達。
【0096】
別の好ましい適用は、取り込まれた薬剤(例えば、予防剤、治療剤、または診断剤)を、患者の組織表面に局所的に塗布することを含む。この方法は、取り込まれる薬剤を、適切な重合開始剤(例えば、感光性遊離ラジカル重合開始剤)およびマクロマーを含有する水性溶液と混合してコーティング混合物を形成する工程を含む。組織表面は、コーティング混合物でコーティングされ、そしてマクロマーは、例えば、コーティング混合物を有効量の適切な波長の光に曝露することにより、重合される。
【0097】
任意の種々の治療剤、予防剤、または診断剤が、これらの方法を用いて送達され得る。例は、治療活性、予防活性、または診断活性を有する、タンパク質(100アミノ酸残基以上)、ペプチド(100アミノ酸残基未満)、脂質、核酸分子、および低分子量合成材料(例えば、処方薬)のような合成および自然の無機化合物および有機化合物を含む。核酸分子は、遺伝子、転写を阻害するために相補的DNAに結合するアンチセンス分子、アプタマー、三重らせん形成オリゴマー、およびリボザイムを含む。送達される薬剤は、種々の生物学的活性を有し得る。診断剤(例えば、放射標識化合物、酵素標識化合物、蛍光標識化合物、および他の検出可能な薬剤)がまた、取り込まれ得る。広範囲の種々の分子量を有する化合物は、例えば、1モルあたり100と500,000グラムとの間、またはそれを超える量で取り込まれ得る。
【0098】
特に目的の治療化合物または予防化合物(「薬物」)は、限局性の医学的状態の処置における効率が、限局性の医学的状態の部位またはその近傍への化合物の局所送達により増大される化合物である。このような薬物のクラスの例は、瘢痕または接着の形成または再形成を阻害する薬物;血管組織または多の管腔組織の不必要な増殖を防止する薬物;および局所的に有効であることのみを必要とする増殖因子、サイトカインなどである。
【0099】
利用され得るイメージング剤は、陽電子放射断層撮影(PET)、コンピュータ支援断層撮影(CAT)、単一光子放射型コンピュータ断層撮影、X線、蛍光透視、および磁気共鳴画像化(MRI)に用いられる市販の薬剤を含む。
【0100】
MRIにおける造影剤としての使用に適切な材料の例は、現在利用可能なガドリニウムキレート(例えば、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)およびガドペンテテートジメグルミン(gadopentotatedimeglumine))、ならびに鉄、マグネシウム、マンガン、銅、およびクロムを含む。
【0101】
CATおよびX線に有用な材料の例は、例えば、ジアゾトリゾアートおよびイオタラメートにより代表されるイオン性モノマー、非イオン性モノマー(例えば、イオパミドール、イソヘキソール(isohexol)、イオベルソル)、非イオン性ダイマー(例えば、イオトロールおよびイオジキサノール)、およびイオン性ダイマー(例えば、イオキサグレート)のような静脈内投与のためのヨウ素ベースの材料を含む。
【0102】
これらの薬剤を取り込んでいるヒドロゲルは、当該分野で利用可能な標準的な技術および市販の器具を用いて検出され得る。
【0103】
マクロマーは、親水性および/または不安定性材料を送達するために特に有用である。マクロマーは水溶性であるので、水はポリマーを浸透し、そして取り込まれた親水性材料を溶解または抽出し得る。不安定性材料は、材料を、生物学的活性を破壊する有機溶媒に曝露することなく取り込まれ得る。疎水性材料および/またはゲルマトリックスの溶解の速度が、治療有効速度で材料を放出するために十分に迅速である場合は、疎水性材料もまた、取り込まれ得る。全ての場合において、重合ヒドロゲルは、治療材料を被験体の生物学的活性(例えば、酵素活性)による攻撃から保護する傾向がある。
【0104】
制御薬物送達のための方法の改変法では、マクロマーは、取り込まれた薬物とともに重合する。
【0105】
好ましいマクロマー
好ましくは、マクロマーは、約0.3重量%と20%重量%との間のカーボネート残基またはジオキサノン残基、より好ましくは、約0.5重量%と15重量%との間のカーボネートまたはジオキサノン残基、最も好ましくは約1重量%と5重量%との間のカーボネートまたはジオキサノン残基を含む。ヒドロキシ酸残基が望ましいこれらの実施態様において、マクロマーは、カーボネートまたはジオキサノン1残基あたり約0.1と10残基、より好ましくは約0.2と5との間、最も好ましくはマクロマーあたり1つ以上のこのような残基を含む。
【0106】
好ましい実施態様において、マクロマーは、コア、コアの各末端上の伸長部、および各伸長部上の末端キャップを含む。コアは、親水性ポリマーまたはオリゴマーである;各伸長部は、1つ以上のカーボネートまたはジオキサノン結合を含む生分解性オリゴマーであり;そして各末端キャップは、マクロマーを架橋し得る1つ以上の官能基を含む。特に好ましい実施態様において、コアは、約400と40,000Daとの間の分子量を有する親水性ポリ(エチレングリコール)オリゴマーを含み;各伸長部は、カーボネートおよびジオキサノンから選択される1〜10の残基を含み、そして必要に応じてさらに1と5との間のヒドロキシ酸残基、好ましくは、α−ヒドロキシ酸残基を含み;ここで、伸長部の残基の総数は、マクロマーの水溶性を保存するに十分に少なく、代表的にはマクロマーの重量の約20%未満、より好ましくは10%未満である。
【0107】
好ましくは、各末端キャップは、重合可能な基を含む。好ましい基は、フリーラジカル重合可能な(均一的に)基である。より好ましくは、それらは、約50と300Daとの間の好ましい分子量を有するエチレン性−不飽和(すなわち、炭素−炭素二重結合を含む)であり、これらは、マクロマーを架橋および/または重合し得る。好ましい実施態様は、約25,000Daの分子量のポリ(エチレングリコール)オリゴマーからなるコアを取り入れ;伸長部は、単独で、またはヒドロキシ酸オリゴマーから形成される伸長部と組み合わせて、約200〜1000Dの分子量を有するポリカーボネートまたはポリ(ジオキサノン)オリゴマーを含み;そして末端キャップは、アクリレート部分(約55Daの分子量)からなる。
【0108】
組織接着
マクロマー、およびそれから形成されるヒドロゲルもまた、患者において組織表面を接着するために使用され得る。マクロマーは、適切な重合開始系(例えば、光開始剤または光開始剤/アミン混合物)と混合され、水性混合物を形成する。混合物は、組織接着が所望される組織表面に適用される。組織表面は、接着が所望される組織と接触され、組織接合部を形成する。次いで、マクロマーは、組織接合部で重合される。
【0109】
このような技術は、治癒プロセス中の付加において外科的に重篤な組織を保持するために使用され、それにより、縫合、ステープルなどの使用を置き換えるかまたは補助し得る。さらに、このようなゲルはまた、保護バリアを形成するために使用され得る。
【0110】
表面のコーティング
コーティングされるべき表面は、全ての種類の生物学的に関連する表面を含み、そしてカテーテルまたは補綴インプラントのような薬物送達デバイスの表面を含む。任意の組織または細胞表面、ならびに身体中または体液と接触して使用されるデバイスの表面が意図される。コーティングは、付着の頑強さを改善するに有効な量で任意の組織の表面に適用され得る。さらに、表面を互いに接着するための技術が使用され得る。例えば、生存組織における創傷は、この技術を用いて結合または封止され得るか、または実施された医療アプライアンスが組織に結合され得る。このような用途の例は、グラフト、(例えば、血管グラフト);インプラント(例えば、心臓弁、ペースメーカー、人工角膜、および骨補強剤);支持材料(例えば、開口部を封止または再構築するために使用されるメッシュ);および他の組織−非組織界面である。特に重要なクラスの組織表面は、もろい組織であり、そしてそれゆえ縫合をよく支持しない。接着コーティングは、縫合線を封止し、機械圧力に対して縫合された領域を支持し得るか、または機械圧力が低い場合には縫合全体を置き換え得る。このような場合の例は、血管吻合、神経修復、角膜または蝸牛の修復、および肺、肝臓、腎臓および脾臓の修復を含む。
【0111】
プライミング技術はまた、一般に非組織表面上で使用され得、ここで、有用な結合は、類似または類似しない物質間で形成され得、そして固体またはゲルコーティングは、表面に強固に接着される。特に、プレフォームゲル、または他の脆性材料は、この方法により支持材料に強固に接着され得る。
【0112】
プライミング方法は、任意の広範な種類の表面をコーティングまたは共に結合するために使用され得るので、有利である。これらは、生存身体の全ての表面、および医療デバイス、インプラント、創傷ドレッシングの表面および他の身体接触人工または天然表面を含む。これらは、以下から選択される少なくとも1つの表面を含むが、これらに限定されない:気道の表面、髄膜、身体の滑膜空間、腹膜、心膜、腱および関節の滑膜、腎臓カプセルおよび他の漿膜、真皮および表皮、吻合部位、縫合、ステープル、穿孔、切開部、裂傷、または組織付加、輸尿管または尿道、腸、食道、膝蓋、腱または靭帯、骨または軟骨、胃、胆管、膀胱、動脈および静脈;ならびに経皮カテーテル(例えば、中心静脈カテーテル)、経皮カニューレ(例えば、心室補助デバイス)、尿カテーテル、経皮電気ワイヤ、骨アプライアンス、電極(表面および移植)、およびペースメーカー、除細動器および組織増強を含むインプラントのようなデバイス。
【0113】
これらのマクロマーの特に好ましい用途において、超薄コーティングが組織の表面に適用され、最も好ましくは血管の内表面に適用される。このようなコーティングは、血管の狭窄または再狭窄の処置または予防に使用され得る。重合開始剤、好ましくは光開始剤は、組織の表面に適用され、組織を染色し、そして、必要に応じて過剰の光開始剤は希釈またはリンスにより除去される。開始剤が組織に適用された後、マクロマー溶液が適用され、そしてマクロマーが重合される。以下で例示するように、この方法は、厚さ約1と300ミクロンの間、より好ましくは約10〜200ミクロン、最も好ましくは20〜80ミクロンの均一なポリマーコーティングを作製し得、これは、その部位でのレジデンス中に血栓を誘起しない。
【0114】
医療デバイスの表面は、上記のように、界面重合、バルク重合、またはその両方を用いてマクロマーでコーティングされ得る。界面重合または界面重合とバルク重合との組み合わせを用いて適用されたコーティング層は、代表的には、バルク重合のみを用いて調製されたものよりも、医療デバイスにより強固に接着する。
【0115】
適用技術およびデバイス
プライミングおよびポリマー付加の両方は、コーティングされるべき表面上に材料を単に滴下することにより達成され得る。これは、規模に応じて、一般的なデバイス(例えば、シリンジ、ピペット、またはホース)を用いて達成され得る。より均一な適用は、アプリケーター(例えば、ブラシ、パッド、スポンジ、布)、または延展デバイス(例えば、指、コーティングブレード、バルーン)、またはスキミングデバイスを用いて得られ得る。これらは、さらに表面をこすってプライマーまたはモノマーの浸透性を改善するか、またはその場で表面上でプライマーとモノマーとを混合するために使用され得る。大規模適用において、流体層は、大規模コーティング機械(ロールコーター、カーテンコーター、グラビアおよび逆グラビアデバイスを含む)、および当該分野で公知の任意のコーティングデバイスを用いて適用され得る。任意の規模、特に低粘度プライマーまたは重合可能なモノマー層のために、スプレイヤーが使用され得る。
【0116】
適用技術およびデバイスは、シリンジからの流体の適用、次いで、指先で表面をこすることにおいて組み合わされ得る。このような操作は、数滴のプライミング開始剤の適用;これらをブラシで表面にこすり;この操作を繰り返し;モノマー溶液を添加し;これをこすり;そして、硬化手段(例えば、光、熱、またはパーオキシドラジカルのゆっくりした放出)の適用前または適用中に、最後に追加のモノマー層を適用することにおいて繰り返され得る。
【0117】
本明細書中に記載の多くのコーティング技術、特に光開始を使用してモノマーを硬化させる好ましいコーティング方法において必要とされる追加の適用手段は、光源である。大規模適用において、フラッドランプおよび類似のデバイスは有用である。小さい局所的適用(例えば、組織封止およびコーティング)において、局所化源(例えば、光ファイバまたは光ガイド、これは、処置されるべき部位に適切な波長の照射を投射し、モノマーを重合させ得る)を使用することが好ましくあり得る。また、小型バルブのような光エミッターがデバイスに備えられ得る。遠隔源からの焦点光線は、例えば、表面が曝露される場合、適切であり得る。曝露された表面において、室内光が、特に、高い開始剤レベルでコーティングを重合させるに十分であり得ることは可能である。
【0118】
各適用手段は、別々であり得、適用手段のキットは、例えば、1つ以上のコンテナまたはレザバー、1つ以上のパッドまたはブラシ、そして必要であれば少なくとも1つの光ガイドを含み得る。適用手段はまた、全体または一部が組み合わされ得る。例えば、滴下デバイス(例えば、チューブ)は、延展デバイス(例えば、ブラシ)と組み合わされ得る。これらは、さらに光ガイドと組み合わされ得る。このような組み合わせデバイスは、生存生物(特に、ヒト)の処置において、手順の単純性および手順が正確に行われる確率を最大にするために特に望ましい。
【0119】
コンプライアンス特性
本明細書に記載する、物質のコンプライアンス特性は、この物質が重合して重合物質を形成した後のその物質のコンプライアンス特性である。本明細書で使用する場合、「重合物質」には、モノマー前駆体分子のイオン反応または共有反応によって形成される物質が含まれる。好ましくは、重合物質は、モノマーの共有反応によって形成される。組織に接着しているときの物質の弾性特性を測定することは非常に困難であり得る。したがって、機械的特性は、適切な場合には、インビトロで、モールドに、または重ね剪断試験のように標準化した組織と接触させてのいずれかで作製されたサンプルで測定される。このような測定は、組織処置に適用可能な条件(組織に対する、重合化試薬または流体の希釈効果を含む)に対して較正されなければならない。したがって、シーリング溶液は、30%の濃度で組織に適用され得るが、コーティングプロセスにおいて、シーリング溶液は、血液または血漿での希釈により15%の有効濃度に希釈され得る。同様に、特にフィブリンシーラントの場合には、ポリマー濃度は、バルク中またはスプレーによるのいずれかでの重合化試薬との混合によって減少され得る。適切な場合、このような較正は、本明細書中の記載において考慮されている。物質は、吸収またはシネレシスのいずれかによる試験の前に、水で平衡化され得る。
【0120】
これらの観察を考慮すると、コンプライアントなコーティングまたはシーラントを形成するに効果的な物質は、好ましくは、その物質が適用される組織の通常の使用の間に予想されるひずみと実質的に同様なまたは少なくとも同程度の破損前ひずみまたは伸長を有し、そして重合物質の伸長は、好ましくは、可逆的である。このことは、組織からの脱離、もしくは破損、または組織の自然な拡張の制限のいずれかを回避することである。効果的なコンプライアント物質は、組織の予想されるひずみの、好ましくは少なくとも約150%、より好ましくは少なくとも約200%、そしてなおより好ましくは少なくとも約300%の可逆的な伸長を有する。
【0121】
したがって、重合物質は、異なる組織への適用について、インビボで機能する間のその組織の伸長と同様なまたはその伸長より大きな破断伸長を有するように設計および選択され得る。重合物質の破断伸長は、例えば、100%もしくは200%より大きいかまたは必要に応じて300%もしくは400%より大きくあり得る。いくつかの実施態様において、重合物質の破断伸長は、組織特性に依存して、例えば、100%と700%との間であり得る。いくつかの適用では、700%より大きな破断伸長が有用である。
【0122】
さらに、コンプライアント物質は、例えば、シーラント適用において、好ましくは、その物質が適用される組織の正規化コンプライアンスに大きさが匹敵する正規化コンプライアンスを有するべきである。物質は、その物質の正規化コンプライアンスが、組織の正規化コンプライアンスよりはるかに大きい場合でさえ、有効である。
【0123】
組織の自然な拡張および収縮の最小限の改変が望まれる場合、正規化コンプライアンス比の好ましい範囲は、約0.05〜約3、好ましくは約0.1〜約2.0、そしてより好ましくは約0.1〜約1.0である。いくつかの場合、例えば、組織が肺組織である場合、約150kPa未満、好ましくは100kPa未満、より好ましくは約50kPa未満、そして最も好ましくは約30kPa未満の弾性率値が好ましい。
【0124】
所望の、組織の正規化コンプライアンスに対する重合物質の正規化コンプライアンスの比を得るためには、シーラント層を伸ばすに必要な全体の力が、調整されるべきである。なぜなら、組織を伸ばすに必要な全体の力は固定されているからである。この調整は、いくつかの公知方法(重合物質の層厚の変更、またはポリマー濃度、ポリマー架橋密度、またはその物質の他の特性の変動を含む)のうちの任意の方法によって達成され得る。前駆体物質の特性および反応条件は、重合物質の所望の他の特性(例えば、シーラントもしくは接着特性または制御された分解および薬物放出特性)を生じさせるように調整され得る。
【0125】
組織変形の予防が望まれる場合、例えば、治癒期間の間、組織コーティングのパラメータは、正規化コンプライアンス比が1を顕著に超えるように調整され得る。
【0126】
組織に対する重合物質の接着力は、適切なコンプライアンス特性の利益を得るために重要である。単純もしくは二重重ね剪断試験における少なくとも約20gm/cm2の接着力は、多くの適用について好ましい。プライミング技術の使用(本出願において別に記載される)は、このような値を得るために効果的な方法である。いくつかの適用(例えば、組織シーラントとしての重合物質の使用)において、約30gm/cm2の接着力値が好ましく、40gm/cm2以上の値がより好ましい。
【0127】
多くの適用(例えば、組織シーリング)において、前駆体物質の粘性は、最適なコーティングを得るために調整され得る。より高い粘性は、適用部位での非硬化もしくは非重合シーラントの保持に好ましくあり得、そして表面における体液の存在によるシーラントの離脱を最小化し得る。しかし、より高い粘性は、物質の適用をより困難にする。適切な範囲の粘性(例えば、シーリング系のシーラント部分について)は、約200cP(センチポアズ)〜約40,000、好ましくは約500〜約5000cP、そしてより好ましくは約700〜約1200cPの範囲である。肺については、適切な範囲の粘性は、約900〜1000cPである。最適な粘性は、適用部位、および物質の適用によって改善されるべき病的状態の性質に依存する。
【0128】
本発明は、限定的でない以下の実施例に参照することによって、より十分に理解される。
【実施例】
【0129】
実施例1:マクロマーの一般的合成:溶融法
Churchillらの米国特許第4,526,938号に記載の方法と類似の方法を用いて、溶融法により誘導体化PEGを形成した。ポリエチレングリコール(PEG)は、市販で入手した。ラベルに列挙している分子量は、物質の分子量であると推定した。PEGを、必要に応じてメタノール中に溶解させ、そしてイオン交換樹脂を通過させることにより精製し、そして乾燥させた。
【0130】
精製した、またはこのように供給されたPEGを、必要に応じて少量のキシレンと共に、反応器に充填し、そして真空下で、約110℃(注:本明細書中の全ての温度は、摂氏である)にて5〜6時間加熱して、水を完全に除去した。真空下で冷却した後、フラスコをグローブバッグに入れ、生分解性結合を形成するための物質(T(トリメチレンカーボネート)およびL(ラクチド)を含む)をPEGに添加し、そして温度を、アルゴンブランケット下で約160〜165℃に上昇させた。
【0131】
溶融PEG中に反応物を溶解させた後、触媒(代表的には2-エチルヘキサン第1スズ)を添加し、温度を185℃に上昇させ、そしてアルゴン下で撹拌しながら、開環付加を約3時間進行させた。PEG-(T,L)中間体を、この段階でさらに反応させ得たが、代表的には、ヘキサン中の沈殿による未反応モノマーから遊離(freed)し、回収および乾燥した。
【0132】
精製した中間体(例えば、 PEG-(TnLm)、ここで、「n」は、T基の数であり、そして「m」は、L基の数である)、または精製していない最初の反応混合物を、トルエン中にとり、そして不飽和結合を付加し得る薬剤(例えば、アクリロイルクロリド)を、代表的には過剰に、穏やかな加熱下(例えば、約50℃)で、かつ酸中和剤(例えば、トリエチルアミン)の存在下で、添加した。適切な反応比は、30グラムのPEG当たり1mlのアクリロイルクロリドおよび1.8mlのトリエチルアミンであることが見いだされた。末端キャップ化マクロマーであるPEG-(T,L)-A2を、ヘキサン中での沈殿により精製し、回収し、そして乾燥させた。安定剤を必要に応じて、この状態で添加した。モノマーの取り込みの程度を、NMRにより測定した。
【0133】
同様の方法を使用して、他のマクロマーを調製した。 PEG-(Tn)-A2、 PEG-(Dn,Gm)-A2(ここで、Dはジオキサノンであり、そしてGはグリコライドである)などの物質を、同様の手順により形成した。他の出発疎水性ブロックに基づくマクロマーの合成は、必要に応じて沈殿条件を調整した同様の方法に従う。多ヒドロキシ(multi-hydroxy)化合物(例えば、ポリビニルアルコール)を用いる合成では、水は、例えばトルエン中での穏やかな還流下で共沸により除去され、そして分解性結合は、好適には、上記のようなヒドロキシ化合物上での重合により合成されるが、より良好な制御を必要とする場合、例えば、アシル化ポリ(分解性結合)のカルボジイミド誘導体を用いて、このようなブロックをプレ形成(pre-formed)活性化アシル化ブロックとして添加することができる。
【0134】
実施例2:PEG-TMCおよびPEG-TMCラクチドマクロマーの合成。
【0135】
35K(T8)A2(「35KT」は、以下の実施例に記載)を、上記のような溶融手順により、見かけの分子量35,000ダルトンの精製PEGから作製した。Tを、PEGに対する見かけのモル比13:1で、反応器に充填し、そしてこの結果を得た。最終的な実際のアクリレート取り込みは、PEG分子1個当たり平均1.6個、またはマクロマー1個当たり約2個のアクリレートであった。
【0136】
合成された35K(T7L2)A2(「35KTL」)は、約7個のT単位(測定値6.88)および2個の乳酸単位(測定値1.86単位)を含んだ。(ラクチド分子1個当たり2個の乳酸単位が存在することに留意すべきである。)TおよびLは、PEGに対して、見かけのモル比10:1および3:1で充填された。
【0137】
20K(T30L15)A2は、20,000ダルトンのPEG分子1個当たり約30T単位および15ラクチド単位を含んだ。実際のアクリレート:PEGの比は、1.42であった。
【0138】
実施例3:強度および弾性を測定するための、ラテックス上でのシール圧力試験
アクリレートエステルで末端キャップされた、ポリ(エチレングリコール)−ラクチド−トリメチレンカーボネートターポリマーを、シール圧力試験装置を用いて評価し、マクロマーを用いて調製されたコーティングについての破壊圧力(failurepressure)を測定した。
【0139】
試験された材料の1つは、20,000ダルトン(「20キロダルトン」)の分子量のポリ(エチレングリコール)、13.8の乳酸取り込みおよび16.0のトリメチレンカーボネート取り込みを有し、見かけのアクリル化は、マクロマー1個あたり2個であった(「20KTL」)。
約8個のTMC結合でエステル化された35キロダルトンのPEGもまた試験され、次いで、アクリレートで末端キャップされ(「35KT」)、そして35キロダルトンのPEGは、約8個のTMCおよび約8個の乳酸基でエステル化され(「35KTL」)、両方ともまたアクリル化された。適用された試薬は、「プライマー」および「シーラント」であった。光開始系(エオシンY/トリエタノールアミン)および酸化還元系(グルコン酸第1鉄/フルクトースおよび混合した後にt-ブチルヒドロペルオキシド)の両方を含む、完全な系は、両方(プライマーおよびシーラント)が混合されて、そして光により活性化されるまで、顕著な重合を引き起こさなかった。
【0140】
プライマー溶液は、エオシンY(2000ppm、w/w)、5000ppmのグルコン酸第1鉄、10,000ppm(1%)のフルクトース、30,000ppmのNaCl、および30%(w/w)の3.5KL5マクロマーを含んだ(米国特許第5,410,016号に従って作製)。プライマーを、中心に直径6mmのホールを有する、2cm×2cmのラテックスフィルム片(ラテックス検査用グローブから:厚み約1mm)に適用した。1cmの中心ホールを有する、ドーナツ状のテフロン(登録商標)フルオロポリマーテンプレートを、ラテックスフィルム上に設置し、その拡散を制限することにより、適用領域を制御した。
【0141】
シーラント溶液は、水溶液に溶解されたマクロマー(この実施例では、上記のうち1つのマクロマーを、10%または20%(w/w))を含んだ。この水溶液は、等張の生理食塩水、緩衝液として90mMのトリエタノールアミン、および光開始剤として電子転移成分のエオシンY(20ppm)、コモノマーとして4000ppmのビニルカプロラクタム、そして感光性酸化還元開始系の一部として125ppmのt-ブチルヒドロペルオキシドを含んだ。シーラント2滴を、上記テンプレートのホール上に分配し、次いでブラシを用いて、プライマー中で慎重に混合した。3滴より多くのシーラントを分配し、そしてこの領域を、100mW/cm2の強度で、40秒間、キセノンアークランプからの可視光(450〜550nm)を用いて照射した。サンプルを、37℃で、異なる時間(t=4時間、1日、3日、6日、および10日)、リン酸化緩衝化生理食塩水(pH7.4)中に配置した。
【0142】
サンプルを、シール圧力試験装置を用いて、各時点で評価し、破壊圧力を測定した。試験装置は、改変された膜ホルダー(membrane holder)であり、ここで、ラテックスサンプルを、ガスケット間のエッジに挟んだ。次いで、圧力を、ポリマーシールから離れた側に適用し、そしてシールを破壊するのに必要とされる圧力を測定した。
【0143】
図1は、5つの異なるシーラント材料を用いて得られた結果を示す。シール圧力は、経時的に減少した。これはおそらく、水和に起因するヒドロゲルの膨潤と、ヒドロゲルのプログラムされた分解との組み合わせに起因する。
【0144】
実施例4:インビボでの生体吸収
任意にラクテートを含み、そしてアクリレートエステルで末端キャップされているポリ(エチレングリコール)-トリメチレンカーボネートコポリマーを評価した。実施例3に記載する材料の2つ(20KTLおよび35KT)を使用した。マクロマーを、キセノンアークランプ(450〜550nm)からの可視光照射を100mW/cm2の強度で、実施例3に記載するように、マクロマー、エオシン、トリエタノールアミン、ビニルカプロラクタム、t-ブチルヒドロペルオキシド、および生理食塩水を含有するシーラント溶液中で使用して重合した。マクロマー濃度は、20KTLについて10%、そして35KTについて20%であった。
【0145】
シーラントの吸収を、ラットにおける皮下移植によって決定した。5匹の雌Sprague Dawleyラット(250〜300g)をこの研究で使用した。動物を、ケタミン(52.4mg/kg)、キシラジン(2.8mg/kg)、アセプロマジン(0.7mg/kg)の3.2ml/kg混合物の筋肉内(「IM」)注射によって麻酔した。背の皮膚を介して、縦方向に4つの1cmの切開をした。脊柱のそれぞれの側に、正中線から1cmづつ離し、互いに2cm離して2つの切開を入れた。2×2cmのポケットを、鋭い切開によって各切開部位に作製した。予め形成したヒドロゲルディスクを、滅菌技術を用いて調製した。100マイクロリットルのシーラント溶液を、標準の24ウェル組織培養プレートの1つのウェルの底に置き、そして40秒間100mW/cm2で照射し、直径約18mmの薄いディスクを作製した。1つのディスクを各皮下ポケットに置いた。次いで、切開を外科用の止め金で閉じた。動物を、CO2吸入によって時間間隔を置いて安楽死させた。切開を開け、そして大まかな観察(grossobservation)を記録した。各部位を収集し、そして質量の損失についてゲル浸透クロマトグラフィーによって分析した。
【0146】
図2Aおよび2Bは、20KTLベースのヒドロゲルが、20日間で完全にインビボで吸収された(図2A)のに対し、35KTベースのヒドロゲルは、154日間で部分的に吸収された(60%重量損失)(図2B)ことを示す。これは、乳酸基のような迅速に分解する結合の有意な効果を示す。
【0147】
実施例5:イヌ開頭術における硬膜漏出のシーリング
アクリレートエステルで末端キャップしたポリ(エチレングリコール)-トリメチレンカーボネートラクテートコポリマー(実施例2からの20KTL)を、インビボでの膜における液体漏出を封止するその能力について評価した。使用したポリ(エチレングリコール)の分子量は、20,000Daであった。ラクテート取り込みは、13.8であり、そしてトリメチレンカーボネート取り込みは、16.0であった。マクロマーは、完全にアクリル酸化していた。
【0148】
シーラントの性能を、3匹の雑種犬における硬膜の切開傷害モデルにおいて評価した。動物を予め麻酔し、挿管し、そしてイソフルランガス麻酔を維持した。頭を上げた状態で、両側の開頭術を行った。2つの硬膜切開(それぞれ2cm長)(1つを左側に、そして1つを右側に)を作製した。切開を、3つの簡単な断続性の4-0〜6-0の絹の縫合糸を、約5mm間隔で使用して閉鎖した。脳脊髄液(CSF)圧を、20cmH2Oに肺を膨らませることによって上昇させ、そして漏出を評価した。全ての切開が、予想されたように、閉鎖から漏出することを見出した。
【0149】
コントロール側(左)は、切開をさらに閉鎖しなかった。処理側(右)については、プライマー(低粘度溶液;実施例4に記載)を塗布し、そして組織の界面の液体と混合した。シーラント(20KTL(上記)の10%w/w溶液および実施例4に記載される他の材料)をプライマーの上に重層し、そしてプライマーおよびシーラントをブラシで混合した。次いで、100mW/cm2の強度での可視キセノンアークランプ(450-550nm)で40秒間照射して、重合を完了させた。
【0150】
肺を20cmH2Oに膨らませることによってCSF圧を上昇させて漏出を再評価した。漏出を、コントロール側で観察したが、実験側では観察しなかった。骨弁を置換し、そして切開を修復した。
【0151】
全ての動物を、21日に安楽死させ、そして開頭術を再び切開した。硬膜と骨弁との間の接着を記録し、そして硬膜修復部位をCSF液体漏出の証拠について検査した。硬膜の修復部位を、その下に広がる皮質組織から切除し、そして接着の存在を記録した。組織を集め、生理食塩水中でリンスし、そして10%の中性緩衝化ホルマリン中で固定した。ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した組織学的切片を採取した。
【0152】
外植の時点で、コントロール部位は、硬膜と頭蓋冠との間に存在する、わずかな線維症を示した。炎症は検出されなかった。シーラントは、3つの動物の2つにおいて明らかではなく、そして少量が3番目の動物に存在するのみであった。硬膜の端は、見当を付けた。骨における欠損(手術から生じるもの)を、21日に、コントロールおよび処理部位の両方において、線維状骨組織(fibro-osseous tissue)で補充した。視覚的および組織学的の両方で、正常な治癒が起こっているように見えた。
【0153】
実施例6.溶液合成
マクロマー(macromer)は溶液中での合成によって作成され得る。さらなる廃棄物処理を必要とするが、溶液合成はより簡単に制御され(実施例1または2の溶融合成と比較して)、そしてほとんどの適用において好適である。この実施例はまた、モノマーの連続付加の実践を例示する;この方法はまた、モノマーの同時付加にも有用である。
【0154】
35KTLAは、75gの35キロダルトン(名目)PEGを20%w/w濃度でトルエンに溶解することで作成され、そして108℃で3時間窒素パージすることにより乾燥した。3.06GのTMC(1PEG当たり14モル当量)および0.024gの2-エチルヘキサン酸第1スズ触媒を加え、そして溶液を撹拌しながら4時間108度に保持した。次いで0.46g(1.5当量)のラクチドを加え、そして2時間撹拌を続けた。次いで300mlのトルエンを加えて約10%wt/volのポリマー溶液を得た。溶液を約50°まで冷却した後、4.6gのトリエチルアミンおよび2.5mlのアクリロイルクロリドを加えた。溶液を約50で20分間撹拌した。アクリル化マクロマーを実施例1.および2で記述したように。、沈殿、および必要に応じて濾過することにより回収した。得られたポリマーは、1PEG分子当たり5TMC残基および1.2乳酸残基を含有し、そして乳酸:アクリル酸の比は0.6であった。
【0155】
実施例7.インビトロ分解
35KTLA2を、実施例6に記載のように合成した。完成したマクロマーは、TMC:PEGのモル比3.57;アクリレート:PEGの比1.52;乳酸(lactate):PEGのモル比1.39を有し;766ppmのTMCを含有した。ゲル浸透クロマトグラフィー上で、マクロマーは、48.1%の「モノマー」(マクロマー1分子当たり1PEGユニット)、46.3%の「ダイマー」マクロマー1分子当たり2PEGユニット)、5.4%の「トリマー」、および0.1%のさらに高級のオリゴマーであった。
【0156】
マクロマーのディスクを、実施例4に記載のように作成し、そしてリン酸緩衝化生理食塩水中、pH7.4、37°および57°でインキュベートした。57°では、約140時間で質量の半分が失われたが、一方37°では約42日間で質量の半分が失われた。質量損失は検体のリンス、定重量までの乾燥、および存在する緩衝液および塩の量についての修正によって測定した。
【0157】
実施例8ジオキサノン-含有マクロマー
ジオキサノン(1,4-ジオキサン-2-オン;p-ジオキサノン)を、基本的に米国特許題2,807,629号、実施例1に従って、DEG(ジエチレングリコール)から合成した。2キログラムのDEGを40gの亜クロム酸銅(Aldrich)と混合し、そして約230°で4時間、窒素パージして生成した水素を置換しながら加熱した。ジオキサノンおよびDEGを約50°の容器温度で真空下混合物から蒸留した。DEGを冷(4°)ジエチルエーテルでの抽出により一部除去した。一部精製された材料をクロロホルムに溶解し、クロロホルムで平衡に達したシリカカラムにかけた。ジオキサノンは最初の画分から回収された。
【0158】
マクロマー35KDAを、15gの35キロダルトンPEG、1.7gのジオキサノン、および0.01gの触媒(2-エチルヘキサン酸第1スズ)(stannousoctoate)を一晩乾燥することにより作成した。これは、21:1の比のD:PEGである。サンプルをまた、別の量のD(1.0g、18:1;0.84g、15:1;1.34g、24:1)で作成した。バイアルを密封し、そして150で5時間加熱した。サンプルをクロロホルムに溶解し;必要に応じてエーテルで沈殿させ;前記の実施例に記載のようにアクリル化した。NMRは合成したモノマーの最終的なモル比が、D/PEGが1.82;Ac/PEGが1.64であることを示した。
【0159】
マクロマー35KDLA:15gのPEG、0.84gのジオキサノン、および0.01gの触媒の混合物にまた0.39gのd,l-ラクチドを加えた。混合物を乾燥し、次いで185°で一晩インキュベートし;クロロホルムに溶解し、そしてエーテルで沈殿させ、濾過し、そして減圧乾燥し;そして過剰のアクリロイルクロリドおよびトリエチルアミンでアクリル化した。
【0160】
以下の実施例9-10において、以下の方法およびパラメーターを使用した。当業者は適用し得る他の技術を探すためにPCTWO 96/29370 を見ることができる。
【0161】
破砕するまでの伸長およびヤング率または他の弾性モジュラス
サンプルを、要求される濃度のモノマーおよび他の成分を有する型で調製する。架橋されたあるいは他の方法で硬化された検体をInstronTMテスターのような適切な装置に設置し、サンプルを単一軸に沿って伸ばすために必要な力を、サンプルが伸びた(引っ張り)距離の関数として測定する。伸長は、必要に応じてサンプルの塑性変形がどの程度であるかを測定するために軽度の伸長のサイクルを繰り返した後、サンプルが破砕するまで続けられ得、破砕時の伸長の値を得る。データ(力対距離)は記録され、図3におけるようにプロットを作成するために使用され得る。特定の材料の応答が「理想的」である必要性が無いために、とりわけ高伸長において、モジュラスは挙動が線形に近い軽度の伸長の値から計算され得る。または、力対引っ張り値は外挿無しに、または上記の「標準化(normalized)コンプライアンス」を得るためのサンプルの厚さで割り算すること無しに直接使用され得る。
【0162】
バルク圧縮モジュラス
ゲルまたは組織のサンプルを、Perkin-Elmer DMA 7e のような適切な装置に設置し、モジュラスを標準的な手順に従い測定する。ゲルサンプルはまた、試験するための装置中で直接重合化され得る。
【0163】
接着強度
これは、ラップ剪断試験(lap shear test)により試験された。試験シーラント材料を使用して2片の試験基材、代表的にはラット腹膜またはブタ心膜のような標準化組織の1cmx1cm区域を接着した。試験材料を架橋または硬化した後、InstronTMテスターのような適切な装置を使用して、接着結合を破砕させるために必要な力を測定した。試験の一つの変形において、基材の3片を接着した:1方向に伸びたタブを有する中央の1片、および反対方向に伸びたタブを有する外側の1対;シーラントを使用して3片を全て接続した。どちらの配列もまた、わずかな変位における種々のサンプルの相対的機械的特性(すなわち標準と比較して)を測定するために使用され得、これは限られるサンプル量のみ入手可能な場合に有用である。
【0164】
付着
インビボのシーラント処方物の付着を、プローブによるシーラントの沈着部位からの変位に対するシーラントの相対的な抵抗として、定性的に測定する。
【0165】
粘性
粘性を、標準的な方法、代表的にはBrookfieldTM 粘性計により測定した。
【0166】
密閉圧試験
密閉圧試験を、ブタ心膜のような標準組織に3mmの丸孔をパンチして、そして試験固定具に閉合部として組織を取り付けることにより行った。シーラントを、代表的には螺旋状に、孔に詰め、そして硬化し孔の閉合部を得た。次いで、増加する圧を、シーラントの栓が外れるまで組織の横方向にかけた。
【0167】
シーラントの重合
以下の実施例9-10において、密閉系の好適な処方を使用した。組織または付着が必要な表面に適用された場合、表面は、重量で約65%の水、30.4%の重合可能なマクロマー(3.3KL5A2、平均5乳酸基を有しアクリル酸で末端をキャップされた3.5kDのポリエチレングリコール骨格)、3%のNaCl、1%のフルクトース、0.5%のグルコン酸第一鉄、および0.2%のEosinYを含む混合物でプライミングされた(prime)。プライマーを表面に適用し、そして刷毛で広げた。次いで、約2体積のシーラント溶液を適用し、そして刷毛で混合した。シーラントは約77%の水、20.5%の重合可能なマクロマー35KTMC8A2(平均8トリメチレンカーボネート基を有しアクリレートで末端をキャップされた35kDのポリエチレングリコール)、1.1%のトリエタノールアミン、1%のKH2PO4、0.4%のビニルカプロラクタム、0.013%のt-ブチルヒドロペルオキシド、および0.002%のEosinYを含んだ。シーラント溶液が独立して試験された場合、t-ブチルヒドロペルオキシドは削除された。密閉系は、青-緑光で約40秒曝露することにより光重合した。
【0168】
実施例9.弾性結果
上述の材料を使用して、ラット腹膜組織の3cmx1cm片上の1cmx1cmの区域にマクロマー溶液を綿棒で塗布することによりラップ剪断試験サンプルを調製し、次いで同じ大きさの別の片を項上に、サンドイッチを作るように重ねた。次いで、サンプルを、上から、次いで下からそれぞれ40秒ずつ光を透過させた。12.5mmのゲージ長を使用して、ラップ剪断試験を行った。45mmX10mmX5mmのサイズのサンプルおよび12.5mmのゲージ長を使用する引っ張り試験を行った。高さ1.6mmのサンプルを用いたDMA(PerkinElmer)試験を、37℃で2時間生理食塩水中で水和した後37℃で行った。主観的な得点系を使用して、ヤギ肺モデルにおける付着を1-4のスケール(1=弱い付着&4=非常に強い付着)で評価した。
【0169】
インビトロ試験
この合成外科用シーラントは、可視光によって急速に重合し得、可塑性ヒドロゲルを形成し得た。図3の引っ張りデータから見て取れるように、この材料は、700%を越える破砕時の線形伸長と共に完全弾性変形プロフィールを示した。この材料の重合化プロセスならびに肺組織および筋肉組織の特性を動的機械的試験機を用いて研究した。筋肉組織は、予期したように、スポンジ柔細胞肺組織よりも高いモジュラスを有することが見られた。シーラント材料を40秒以内で硬化し、そして肺組織のモジュラスに非常に適合可能な最終的なモジュラスに達した。このことはコンプライアントなそして持続性の接着結合を確実にする。結合強度はラップ剪断試験装置で測定され、そして材料は強くてかつ柔軟な組織との結合を形成することが見られた。この結合強度は比較可能な試験におけるフィブリン接着剤(glue)の文献値を超過する。
【0170】
インビボ試験
開胸手順を受けた全てのヤギは、手術で何事もなく生存した。ヤギは14日、1ヶ月、3ヶ月の時点で屠殺した。全ての時点で、ヒドロゲルは硬くて透明であることが見られ、そして接着スコアは4のうち3.0〜3.5であった。組織壊死は見られなかった。組織の組織学的な分類は通常治癒を示した。結果は以下の表1に示される。
【0171】
表1:インビトロ試験のまとめ
特性;結果
完全硬化したシーラントの圧縮モジュラス;32.4kPa
ブタ肺組織の圧縮モジュラス;27.5
±3.4kPa
犬肺組織の圧縮モジュラス;28.0
±1.9kPa
ラット筋肉組織のモジュラス;73.4±6.8kPa
完全硬化したシーラントのヤング率;29.4kPa
シーラント破砕時の伸長;788±255.2%
シーラントラップ剪断強度;90.17±18.17g/cm2

実施例10.比較結果。
【0172】
TissucolTMシーラントは、ヨーロッパで使用される市販のフィブリンシーラントである。合衆国では現在のところ使用が認可されていない。それは、一部には、このシーラントがヒト血清から製造され、従って感染性の因子を有し得るという理由からである。Tissucolシーラントを、その製造業者の指示に従って使用した。以前の例の好ましいシーラント処方物との比較において、以下の表2に示す結果を得た:

表2:シーラントの特性
試験FocalSealTM TissucolTM
シーラント シーラント
A. 二重ラップ剪断 38±6kPa 10±6 kPa
B. 圧縮モジュール 32±1kPa 35±5 kPa
C. 粘度 20%で約780cP 117 cP
濃度 (フィブリノーゲン)
1.6 CP
(トロンビン)
D. シール圧試験 約380±100 約30
mmHg ±20mmHg

生きているイヌの肺に適用した場合、フィブリンシーラントは、1の接着スコアを有し、そして10〜40mmHgで全ての止め金を付けた線で漏出した。フィブリン材料をパンチ型の漏出に適用するのは困難であった。なぜなら、気泡が漏出から生じ、材料が重合する前にそれを除去しがちであったからである。対照的に、シーラントはプライムした組織に3.5の接着で接着し、代表的に80mmHg以上の圧力に耐えた。その高粘度は、気泡の浸透を遅らせた。
【0173】
肺に最適な材料は、上記のように、700%を超える破壊伸長を有する。他の材料は、最適とはいえない場合には、適切であった。潰れなかった肺については、225%の破壊伸長を有する材料(20KT8A2)が適切であり、一方、100%の破壊伸長(および47±4kPaの弾性モジュール)を有する材料(8KL5A2)は、肺では効果的ではなかった。イヌの肺の拡張を測定した。正常な呼吸サイクルの間の有効面積拡張は、約200%であり、一方、無気肺(atalectatic)(潰れた)状態からの完全膨脹への拡張は、面積を約300%変化させたことを見出した。。後者の場合、約100%の伸長(緊張)が、1つの軸に沿って観察され、そして約200%が垂直な軸に沿って観察され、このことは組織構造の非均一性を意味する。
【0174】
従って、この組織に関するシーラント系についての重要な要件は、シーラントの標準化されたコンプライアンスが、それが適用される組織の標準化されたコンプライアンスよりも大きいことであるようである。肺は、正常な生理学的プロセスの間の組織弾性および面積拡張のおそらく最も劇的な例であるが、他の組織(例えば、胃、膀胱、および大動脈)は、正常な生理学的サイクルの間に、実質的に表面積を変化させることができる。他の組織(例えば、鼓動している心臓)は、必ずしも局所的な面積を変化させることなく、形状(剪断)の有意な変化を示す。
【0175】
シーラントのコンプライアンスは、それが適用される組織に依存して選択され得る。標準化されたコンプライアンスの高い値、または標準化されたコンプライアンス比(組織/材料)の低い値を有するシーラントは、特定の適用に有益であり得る。例えば、上記の700%伸長の低モジュール材料はまた、脳の硬膜、または椎弓切除術後の脊柱を、たとえ、これらの組織が比較的コンプライアントでない(すなわち、延伸するのが困難である)としても、シールするのに適切である。従って、高い標準化コンプライアンスのシーラントは、ほとんどの組織に関して有用であり、そして広範な範囲の適用を有する材料として望ましいようである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予防薬、治療薬または診断薬の制御放出のためのデバイスを作製する方法であって:
a)予防薬、治療薬または診断薬を、約0〜50℃の間の温度で、水性溶液において少なくとも1g/リットルの溶解度をもつ生体分解性の重合可能なマクロマーの溶液と混合する工程であって、該マクロマーが、少なくとも1つの水溶性領域、少なくとも1つの生体分解性領域、および遊離ラジカルまたはカチオン重合により重合され得る少なくとも1つの官能基を含み、該重合可能な領域が少なくとも1つの生体分解性領域により互いに分離され、そして少なくとも1つの生体分解性領域がカーボネートまたはジオキサノン領域である、工程;および
b)該マクロマーを重合し、得られるポリマー内に該薬剤を取り込む工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記ポリマーが、粒子、シート、ロッド、およびナノまたはマイクロカプセルからなる群から選択される形状に成形される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記マクロマーが生存組織中またはその上にインサイチュで重合される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記制御された放出デバイスが、医療用デバイスの表面上に成形される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記デバイスが身体内への移植後にコートされる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記デバイスが移植前にコートされる、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
カーボネートを含む化学的に反応性のマクロマーの生体分解性を改善するための方法であって:
a)カーボネートを、約0〜50℃の間の範囲にある温度で水性溶液において少なくとも1g/リットルの溶解度をもつ生体適合性の化合物と反応させて、カーボネートを含む前駆体を形成する工程であって、該生体適合性の化合物が、少なくとも2つの水酸基を含み、該反応が、反応の完成および反応する種間の平衡の達成を確実にするに十分な時間続き、該カーボネートが第1の生体分解性結合を提供する工程;
b)該カーボネートを含む前駆体に過剰の第1の試薬を添加して、第2の生体分解性結合を形成する工程であって、該第1の試薬がカーボネート以外の生体分解性成分を含む工程;および次いで
c)該カーボネートを含む前駆体に少なくとも1つの化学的に反応性の基を形成する第2の試薬を添加する工程であって、それによって化学的に反応性のマクロマーを形成する工程、
を包含し、工程c)の化学的に反応性の基が、工程b)の生体分解性成分を介して該マイクロマーに結合される、方法。
【請求項8】
前記カーボネートが、環状の脂肪族カーボネートである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記水酸基が、生体適合性ポリマー上に保持される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記生体適合性ポリマーがポリアルキレングリコールである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の試薬が、ヒドロキシカルボン酸の残基を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記ヒドロキシカルボン酸の残基がαヒドロキシ酸である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記αヒドロキシ酸が、乳酸、ラクチド、またはラクトイルクロライドから選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
工程c)の化学的に反応性の基が、エチレン性不飽和基、アセチレン性不飽和基、イソシアネート、オキシラン、スルフヒドリル、スクシンイミド、マレイミド、アミン、イミン、カルボン酸、スルホン酸、およびリン酸からなる群より選択される少なくとも1つの成分を含む、請求項7に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−140463(P2012−140463A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−89638(P2012−89638)
【出願日】平成24年4月10日(2012.4.10)
【分割の表示】特願2007−156915(P2007−156915)の分割
【原出願日】平成9年9月23日(1997.9.23)
【出願人】(500034653)ジェンザイム・コーポレーション (37)
【Fターム(参考)】