説明

カーボンコート箔塗工液用バインダー、カーボンコート箔塗工液、カーボンコート箔、リチウムイオン二次電池用電極、および、リチウムイオン二次電池

【課題】
不飽和ジカルボン酸を必須成分として得られるバインダー成分を含有するカーボンコート塗工液をアルミ箔に塗工して得られるカーボンコート箔層と活物質層を持つことで、集電体に対する活物質層の密着性に優れ、かつ集電体との抵抗が低い電極、およびこれら電極を用いたリチウムイオン二次電池を提供すること。
【解決手段】
本発明は、不飽和ジカルボン酸のみを重合して得られる重合体、又は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル及び(メタ)アクリル酸アルキルから選ばれる1種以上の不飽和単量体と不飽和ジカルボン酸を重合して得られる重合体であり、重量平均分子量が50万〜300万である、金属箔に塗工するカーボンコート箔塗工液用バインダーに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンコート箔塗工液用バインダー、これらバインダーと導電助剤を含むカーボンコート箔塗工液、これらバインダーと導電助剤を含むカーボンコート箔塗工液層と金属箔から構成されるカーボンコート箔、これらカーボンコート箔とリチウムイオン二次電池電極用スラリーを用いたリチウムイオン二次電池用電極、およびこれら電極を用いたリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンコート箔は、導電性カーボンを金属箔上にコートしたものであり、従来の金属箔単体と比較して大幅な抵抗値の低減が可能であることが知られている。カーボンコート箔は、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタの集電箔として、低抵抗、高出力、サイクル特性向上が期待されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池市場は、ノートパソコン、携帯電話、電動工具、電子・通信機器の普及に伴い拡大中である。更に最近では環境問題の観点から、電気自動車、ハイブリッド自動車用のリチウムイオン二次電池の需要も高まっており、特にこれらには高出力化、高容量化したリチウムイオン二次電池、高寿命が必要とされている。これらを実現するためには電池の内部抵抗を低減することが必須である。
【0004】
一般にリチウムイオン二次電池は、コバルト酸リチウム等の金属酸化物を活物質とした正極、黒鉛等の炭素材料を活物質とした負極、ポリプロピレン、ポリエチレン等の多孔質シートであるセパレータ、及び六フッ化リン酸リチウム(LiPF)などの電解質がカーボネート系溶媒に溶解した電解液から構成されている。各電極についての詳細は、正極では金属酸化物とバインダーから成るリチウムイオン二次電池正極用スラリーをアルミニウム箔などに塗工し正極層を形成させ、負極では黒鉛とバインダーから成るリチウム二次電池負極用スラリーを銅箔などに塗工し負極層を形成させる事により得られる。
【0005】
一般的にリチウムイオン二次電池電極用スラリーを銅箔、アルミニウム箔などに塗工し、リチウムイオン二次電池用電極を製造する場合、リチウムイオン二次電池電極用スラリーのバインダーには有機溶剤系のN−メチルピロリドン(NMP)を溶剤としたポリフッ化ビニリデン(PVDF)、水系は増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を併用するスチレン−ブタジエンゴムラテックス(SBR)がある。
【0006】
従来、リチウムイオン二次電池電極用スラリーのバインダーとして使用されているPVDF系は活物質同士および活物質と金属箔との結着性が低く、実際に集電体として使用するには多量のバインダーを必要とし、結果としてリチウムイオン二次電池の容量が低下する欠点がある(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、SBR系は活物質同士および活物質と金属箔との結着性が良好な事から、水系のリチウムイオン二次電池電極用バインダーとして幅広い用途に使用されてきた(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、このバインダーは、機械的安定性が低く、また、電解液溶剤に対する耐膨潤性が低いという問題がある。さらには、このバインダーは、高温下で使用されるリチウムイオン二次電池では電池容量、充放電サイクル特性が低下する問題がある。
【0008】
活物質と金属箔との結着性を解決する手法として、金属箔上にラテックス系結着剤及び水系分散剤を含むプレコート層を形成し、該プレコート層の上に、活物質、ラテックス系結着剤及び水系分散剤を含む水系スラリーを塗布して合剤層を形成した後、乾燥して得られる電極であることを特徴とする非水電解質二次電池の提案があるが(例えば、特許文献3参照)、電極中の活物質と金属箔との結着性は改善されるものの、集電体の抵抗が高くなり、リチウムイオン二次電池の容量が低下する問題がある。
【0009】
また、イタコン酸を必須として含有する水溶性単量体(混合物)を(共)重合させることで得られるリチウムイオン二次電池負極用バインダーの提案があるが(例えば、特許文献4参照)、これは重量平均分子量が2千〜10万程度のバインダーであり、導電助剤の分散が十分でなく、また金属箔(特にアルミニウム箔)との密着性が低く、活物質の脱落が起こりやすく充放電サイクル特性が低下する問題がある。そのため、このバインダーはカーボンコート箔塗工液用バインダーとしては適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3966570号公報
【特許文献2】特許第3562197号公報
【特許文献3】特開2009−238720号公報
【特許文献4】特開2010−177061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来技術の問題点を解決し、金属箔(特にアルミニウム箔)に塗工する集電体中の活物質が剥離することなく密着性に優れ、活物質と金属箔との抵抗が低く、かつ充放電サイクル特性を兼ね備えたカーボンコート箔塗工液用バインダー、これらバインダーと導電助剤を含むカーボンコート箔塗工液、これらバインダーと導電助剤を含むカーボンコート箔塗工液層と金属箔から構成されるカーボンコート箔、これらカーボンコート箔とリチウムイオン二次電池電極用スラリーを用いたリチウムイオン二次電池用電極、およびこれら電極を用いたリチウムイオン二次電池を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、活物質と金属箔から構成される集電体の中に、カーボンコート箔塗工液を塗工して得られるカーボンコート箔塗工液層を一層設けることで、集電体中の活物質が剥離することなく密着性に優れ、活物質と金属箔との抵抗が低く、かつ充放電サイクル特性を兼ね備えたカーボンコート箔塗工液用バインダー、これらバインダーと導電助剤を含むカーボンコート箔塗工液、これらカーボンコート箔塗工液を金属箔に塗工して得られるカーボンコート箔とリチウムイオン二次電池電極用スラリーを用いたリチウムイオン二次電池用電極、およびこれら電極を用いたリチウムイオン二次電池を得ることを目的として鋭意検討を重ねた結果、金属箔に塗工する、不飽和ジカルボン酸のみを重合して得られる重合体、又は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル及び(メタ)アクリル酸アルキルから選ばれる1種以上の不飽和単量体と不飽和ジカルボン酸を重合して得られる重合体であり、重量平均分子量が50万〜300万である、金属箔に塗工するカーボンコート箔塗工液用バインダー、これらバインダーとカーボンコート箔塗工液の固形分に対して30〜80質量%である導電助剤を含むカーボンコート箔塗工液、これらバインダーと導電助剤を含むカーボンコート箔塗工液層と金属箔から構成されるカーボンコート箔、これらカーボンコート箔とリチウムイオン二次電池電極用スラリーを用いて得られるリチウムイオン二次電池用電極、およびこれら電極を用いて得られるリチウムイオン二次電池が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、不飽和ジカルボン酸のみを重合して得られる重合体、又は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル及び(メタ)アクリル酸アルキルから選ばれる1種以上の不飽和単量体と不飽和ジカルボン酸を重合して得られる重合体であり、重量平均分子量が50万〜300万である、金属箔に塗工するカーボンコート箔塗工液用バインダーに関する。
【0014】
本発明は、不飽和ジカルボン酸がイタコン酸であるカーボンコート箔塗工液用バインダーに関する。
【0015】
本発明は、カーボンコート箔塗工液用バインダーを含むカーボンコート箔塗工液であって、カーボンコート箔塗工液の固形分に対して導電助剤30〜80質量%を含むカーボンコート箔塗工液に関する。
【0016】
本発明は、カーボンコート箔塗工液を金属箔に塗工して得られるカーボンコート箔、すなわち、カーボンコート箔塗工液用バインダーと導電助剤を含むカーボンコート箔塗工液層と金属箔から構成されるカーボンコート箔に関する。
【0017】
本発明は、前記カーボンコート箔塗工液を金属箔に塗工して得られるカーボンコート箔とリチウムイオン二次電池電極用スラリーを用いて得られるリチウムイオン二次電池用電極に関する。
【0018】
本発明は、前記リチウムイオン二次電池用電極を用いて得られるリチウムイオン二次電池に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、不飽和ジカルボン酸のみを重合して得られる重合体、又は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル及び(メタ)アクリル酸アルキルから選ばれる1種以上の不飽和単量体と不飽和ジカルボン酸を重合して得られる重合体であり、重量平均分子量が50万〜300万である、金属箔に塗工するカーボンコート箔塗工液用バインダーとカーボンコート箔塗工液の固形分に対して30〜80質量%である導電助剤を含むカーボンコート箔塗工液と、リチウムイオン二次電池電極用スラリーを用い、活物質と金属箔(特にアルミニウム箔)から構成される集電体の中に、カーボンコート箔塗工液層を一層設けることで、集電体中の活物質が剥離することなく密着性に優れ、活物質と金属箔との抵抗が低くなることで、充放電サイクル特性を兼ね備えたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を構成する成分につき詳細に説明する。
【0021】
本発明によるアルミニウム箔に塗工する、カーボンコート箔塗工液用バインダーは、不飽和単量体として不飽和ジカルボン酸のみを重合して得られる重合体、又は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル及び(メタ)アクリル酸アルキルから選ばれる1種以上の不飽和単量体と不飽和ジカルボン酸を重合して得られる重合体を含むことを特徴としている。
【0022】
本発明に用いられる不飽和ジカルボン酸としては、例えば、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、アリルマロン酸があげられる。不飽和ジカルボン酸を使用する目的は、導電助剤同士、導電助剤と活物質、及び、導電助剤と活物質とアルミニウム箔との結着性を向上させるためである。中でも、結着性が向上する効果が大きい点で、イタコン酸が好ましい。
【0023】
(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル又は(メタ)アクリル酸アルキル(以下、これらのモノマーをまとめて(メタ)アクリル酸等ということがある)を使用する目的は、導電助剤をバインダー中へ配合した際の導電助剤の分散性や配合した後の経時安定性といった取扱い性、耐電解液性を向上させるためである。
【0024】
(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルの具体例としては、例えば、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピルがあげられる。なかでも、アルミニウム箔との密着性を向上、及び耐電解液性を向上させる点で、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチルが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルの具体例としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸−t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル又はメタクリル酸イソボロニル等のメタクリル酸アルキル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸−2−エチルヘキシル又はアクリル酸イソボロニル等のアクリル酸アルキルがあげられる。なかでも、アルミニウム箔との密着性、耐電解液性を向上させる点で、メタクリル酸イソボロニルが好ましい。
【0025】
イタコン酸と、これらの(メタ)アクリル酸等を共重合させる際のイタコン酸由来のモノマー単位の含有量は、バインダーの固形分の全量に対して50〜100質量%であることが好ましく、60〜100質量%であることがより好ましく、80〜100質量%であることがさらに好ましい。イタコン酸由来のモノマー単位の含有量が50質量%より少なくなると、導電助剤同士、導電助剤と活物質、及び、導電助剤と活物質とアルミニウム箔との結着性が低下する傾向にある。(メタ)アクリル酸等由来のモノマー単位の含有量が50質量%より多くなると、導電助剤をバインダー中へ配合した際の導電助剤の分散性や配合した後の経時安定性といった取扱い性、耐電解液性が低下する傾向にある。
【0026】
その他必要に応じて、前記(メタ)アクリル酸等だけでなく、これら以外のモノマーをさらにイタコン酸と共重合させることも可能である。イタコン酸と共重合が可能なその他のモノマーとしては、例えば、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、ビニルピロリドン、ビニルホルムアミド、ビニルアセトアミド、ビニルピロリドン、マレイン酸、クロトン酸等をあげることができる。
【0027】
本発明のカーボンコート箔塗工液用バインダーは、公知の方法でラジカル重合することにより得られる。ラジカル重合に用いられる重合開始剤としては、公知のものを用いることができるが、例えば、過酸化水素、過流酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ターシャリ・ブチルヒドロパーオキシド、アゾビス−(2−アミジノプロパン)ハイドクロライド、ラウロイルパーオキサイド、a,a’−アゾビスイソブチロニトリル、ケトンハイドロパーオキサイド等があげられる。これらの重合触媒は単独または還元剤との適当な組合せによるいわゆるレドックス触媒としても用いることができる。還元剤としてはアミン、第一鉄塩、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート、酒石酸及びその塩類、アスコルビン酸及びその塩類、エリソルビン酸及びその塩類等があげられる。なかでも、重合性に優れる点から、過硫酸アンモニウムと、還元剤として重亜硫酸ナトリウムを用いるレドックス開始剤が好ましい。また、本発明の趣旨に反しない範囲において、連鎖移動剤や架橋剤等を用いることも可能である。
【0028】
本発明のカーボンコート箔塗工液用バインダーの重量平均分子量は、50万〜300万であることが好ましく、60万〜280万であることがより好ましく、70〜250であることがさらに好ましい。カーボンコート箔塗工液用バインダーの重量平均分子量が50万より低くなると、導電助剤同士、導電助剤と活物質、及び、導電助剤と活物質とアルミニウム箔との結着性が低下する傾向になり、300万より高くなると、カーボンコート箔塗工液の粘度が高くなり、塗工性が低くなる傾向にある。
【0029】
本発明のカーボンコート箔塗工液は、前記カーボンコート箔塗工液用バインダーと導電助剤から構成され、さらに、例えば、水等の溶媒を添加することで、導電助剤を分散させて得られる。カーボンコート箔塗工液の固形分に対するカーボンコート箔塗工液用バインダーの含有量は、20〜70質量%であることが好ましく、30〜60質量%であることがより好ましく、40〜50質量%であることがさらに好ましい。カーボンコート箔塗工液用バインダーの含有量が、20質量%より少なくなると、集電体中の活物質が剥離しやすくなり、70質量%より多くなると、活物質と金属箔との抵抗が高くなる傾向にある。カーボンコート箔塗工液の固形分濃度は、5〜50質量%であることが好ましく、7〜30質量%であることがより好ましく、10〜20質量%であることがさらに好ましい。カーボンコート箔塗工液の固形分濃度が、5質量%より少なくなると、塗工膜がハジキ易くなり、50質量%より多くなると、塗工性が低下する傾向にある。
【0030】
導電助剤としては、特に炭素材料であるアセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、コークス、石油コークス、ピッチコークス、石炭コークス等のコークス類、ポリマー炭、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、その他炭素系導電助剤が用いられる。特に、導電性に優れ、比較的安価である点でアセチレンブラックが好ましい。
【0031】
また、カーボンコート箔塗工液の固形分に対する導電助剤の含有量は、30〜80質量%であることが好ましく、40〜70質量%であることがより好ましく、50〜60質量%であることがさらに好ましい。導電助剤の含有量が30質量%より少なくなると、活物質と金属箔との抵抗が高くなり、80質量%より多くなると、集電体中の活物質が剥離しやすくなる傾向にある。
【0032】
本発明のカーボンコート箔は、前記カーボンコート箔塗工液をアルミニウム箔等の金属箔に塗工することにより得られ、カーボンコート箔塗工液層と金属箔から構成される。塗工方法としては、グラビア法、リバースロール法、ダイレクトロール法、ドクターブレード法、ナイフ法、エクストルージョン法、カーテン法、バー法、ディップ法およびスクイーズ法があげられるが、塗液をグラビアロールにのせ、ドクターブレードで余分な塗液を掻き落としグラビア版のセル内の塗液を基材に塗工することを容易に実現できるという点でグラビア法が好ましい。
【0033】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極スラリーに用いられる正極活物質としては、通常のリチウムイオン二次電池に用いることができる正極活物質であれば特に限定されるものではなく、コバルト酸リチウム(LiCoO)、Ni−Co−Mn系のリチウム複合酸化物、Ni−Mn−Al系のリチウム複合酸化物、Ni−Co−Al系のリチウム複合酸化物などのニッケルを含むリチウム複合酸化物や、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn)、オリビン型燐酸鉄リチウム、TiS、MnO、MoO、Vなどのカルコゲン化合物のうちの1種、あるいは複数種が組み合わせて用いられる。
【0034】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極スラリーに用いられる負極活物質としては、リチウムイオンをインターカレートする材料であればよく、例えば、炭素繊維、金属リチウム、リチウム合金、ポリアセチレン、ポリピロール等の導電性ポリマー、あるいは、熱分解炭素類、ガラス状炭素、有機高分子材料を真空中又は不活性ガス中にて500℃以上で焼結した有機高分子材料焼結体、炭素繊維等のうちの1種、あるいは複数種が組み合わせて用いられる。
【0035】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極スラリーに用いられるバインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエン樹脂、ブタジエン樹脂、スチレンアクリル樹脂、及びアクリル樹脂があげられる。また、導電助剤は、前記カーボンコート箔塗工液に用いられるものと同じものを用いることが可能であり、特に、導電性に優れ、比較的安価である点でアセチレンブラックが好ましい。また、リチウムイオン二次電池用電極スラリーに用いられる有機溶剤としては、例えば、n−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、及びN,N−ジメチルホルムアミドがあげられる。
【0036】
本発明の電極は、リチウムイオン二次電池電極用スラリーを、集電体であるカーボンコート箔に塗布し、乾燥することにより製造される。なお、本発明のカーボンコート箔は、正極、負極のいずれの電極にも適用することが可能である。本発明のスラリーの塗布方法は、一般的な方法を用いることができ、例えば、リバースロール法、ダイレクトロール法、ドクターブレード法、ナイフ法、エクストルージョン法、カーテン法、グラビア法、バー法、ディップ法およびスクイーズ法を挙げることができる。
【0037】
リチウムイオン二次電池電極用スラリーの集電体への塗布は、片面に施しても、両面に施してもよく、集電体の両面に塗布する場合は、片面ずつ逐次でも、両面同時に塗布してもよい。また、表面に連続して、或いは、間欠で塗布しても良い。塗布層の厚さ、長さや幅は、電池の大きさに応じて、適宜、決定することができる。
【0038】
本発明のスラリーの乾燥方法は、一般的な方法を用いることができる。特に、熱風、真空、赤外線、遠赤外線、電子線および低温風を単独あるいは組み合わせて用いることが好ましい。乾燥温度は80〜350℃の範囲が好ましく、100〜250℃の範囲がより好ましく、120〜200℃の範囲がさらに好ましい。乾燥温度が80℃より低くなると、乾燥が不十分となり、乾燥温度が350℃より高くなると、バインダーが分解することがある。
【0039】
本発明の電極の製造に用いられる電極材料としては、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレスなどの金属性のものであれば、特に限定されない。また、電極材料の形状についても、特に限定されないが、通常、厚さ0.001〜0.5mmのシート状のものを用いることが好ましい。本発明の電極は、必要に応じてプレスすることができる。プレスの方法としては、一般的な方法を用いることができるが、特に金型プレス法やカレンダープレス法が好ましい。プレス圧は、特に限定されないが、0.2〜10t/cmが好ましい。
【0040】
本発明の電池は、本発明の正極および/または負極電極と電解液、セパレータ等の部品を用い、公知の方法にしたがって製造される。電極は、積層体や捲回体が使用できる。外装体としては、金属外装体やアルミラミネート外装体が適宜、使用できる。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角型、扁平型など、いずれの形状であってもよい。
【0041】
電池の電解液中の電解質としては、公知のリチウム塩がいずれも使用でき、活物質の種類に応じて選択すればよい。例えば、LiClO、LiBF、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiB10Cl10、LiAlCl、LiCl、LiBr、LiB(C、CFSOLi、CHSOLi、LiCFSO、LiCSO、Li(CFSON、低級脂肪酸カルボン酸リチウムなどがあげられる。
【0042】
電解質を溶解する溶媒としては、電解質を溶解させる液体として通常用いられるものであれば特に限定されるものではなく、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジメチルカーボネート(DMC)などを用いることができる。好ましくは、環状カーボネートと、鎖状カーボネートとを組合せて用いられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【実施例】
【0043】
以下に実施例および比較例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の「部」および「%」は、特に断りのない場合はそれぞれ質量部、質量%を示す。実施例および比較例で得られたカーボンコート箔塗工液用バインダー、これらバインダーと導電助剤を含むカーボンコート箔塗工液をアルミニウム箔に塗工して得られるカーボンコート箔とリチウムイオン二次電池電極用スラリーを用いて得られるリチウムイオン二次電池用電極、およびこれら電極を用いて得られるリチウムイオン二次電池の性能評価試験は以下の方法により行った。
【0044】
(集電体剥離強度試験)
アルミニウム箔に下記で得られたカーボンコート箔塗工液をグラビア法により厚さが1μmになるように塗布し、120℃で5分乾燥しカーボンコート層を形成後、その上に電極用スラリーを乾燥前の状態で200μmとなるように塗布し、120℃、5分加熱乾燥し、更に23℃、50%RH下で24時間以上放置したものを試験片とした。剥離強度試験は、試験片塗装面とSUS板とを両面テープを用いて貼り合わせ、180°剥離を実施した(剥離幅25mm、剥離速度100mm/min)。剥離強度をmNとし、剥離強度50mN/mm以上を良好なものとする。
【0045】
(充放電高温サイクル特性)
電池のサイクル試験は、CC−CV充電(上限電圧4.2V、電流1C、CV時間1.5時間、CC放電(下限電圧3.0V、電流1C)とし、いずれも60℃で実施した。容量維持率は、1サイクル目の放電容量に対する500サイクル目の放電容量の割合とした。充放電サイクルが70%以上を良好なものとする。
【0046】
(バインダーAの合成)
冷却管、温度計、攪拌機、滴下ロートを有するセパラブルフラスコに、25%水酸化ナトリウム水溶液50部、イタコン酸50部を加え、均一な混合溶液とした。セパラブルフラスコに窒素を導入し、恒温水槽により60℃に内部温度を調整した。窒素導入60分後、重合開始触媒として2%過硫酸アンモニウム水溶液1部と2%重亜硫酸ナトリウム水溶液1部を添加し重合を開始させた。24時間反応し得られた生成物を粉砕、洗浄、再乾燥し、重量平均分子量50万のバインダーAを得た。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミッションンクロマトグラフィ装置 Shodex GPC−101(昭和電工株式会社製)を用い、溶離液として0.1N NaNO水溶液を用い、測定サンプルの濃度を0.05質量%として測定した。以下、同様の方法でバインダーB〜Jについても重量平均分子量の測定を行った。
【0047】
(バインダーBの合成)
重合開始触媒の2%過硫酸アンモニウム水溶液を0.25部と2%重亜硫酸ナトリウム水溶液を0.25部に変えた以外はバインダーAの合成と同様な操作を行った。重量平均分子量300万のバインダーBを得た。
【0048】
(バインダーCの合成)
イタコン酸50部の代わりにイタコン酸30部、メタクリル酸20部に変えた以外はバインダーAの合成と同様な操作を行った。重量平均分子量60万のバインダーCを得た。
【0049】
(バインダーDの合成)
イタコン酸50部の代わりにイタコン酸40部、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチルを10部に変えた以外はバインダーAの合成と同様な操作を行った。重量平均分子量100万のバインダーDを得た。
【0050】
(バインダーEの合成)
イタコン酸50部の代わりにイタコン酸40部、アクリルアミドを10部に変えた以外はバインダーAの合成と同様な操作を行った。重量平均分子量150万のバインダーEを得た。
【0051】
(バインダーFの合成)
イタコン酸50部の代わりにイタコン酸48部、N−メチロールアクリルアミドを2部に変えた以外はバインダーAの合成と同様な操作を行った。重量平均分子量250万のバインダーFを得た。
【0052】
(バインダーGの合成)
イタコン酸50部の代わりにイタコン酸45部、アクリロニトリルを5部に変えた以外はバインダーAの合成と同様な操作を行った。重量平均分子量70万のバインダーGを得た。
【0053】
(バインダーHの合成)
イタコン酸50部の代わりにイタコン酸48部、メタクリル酸イソボロニルを2部に変えた以外はバインダーAの合成と同様な操作を行った。重量平均分子量60万のバインダーHを得た。
【0054】
(バインダーIの合成)
イタコン酸50部の代わりにアクリル酸−2−ヒドロキシエチル25部、アクリルアミド25部に変えた以外はバインダーAの合成と同様な操作を行った。重量平均分子量200万のバインダーIを得た。
【0055】
(バインダーJの合成)
イタコン酸50部の代わりにアクリル酸50部に変えた以外はバインダーAの合成と同様な操作を行った。重量平均分子量10万のバインダーJを得た。
【0056】
(バインダーK)
反応時間を24時間から4時間に変えた以外はバインダーAの合成と同様な操作を行った。重量平均分子量10万のバインダーKを得た。
【0057】
(バインダーL)
重量平均分子量300万のSBR、不揮発分40質量%をバインダーLとして使用した。
【0058】
(バインダーM)
重量平均分子量30万のウレタン樹脂、不揮発分37質量%をバインダーMとして使用した。
【0059】
(カーボンコート箔塗工液Aの作成)
バインダーA50部と導電助剤としてアセチレンブラック50部を混合したものに、水400部を加えてさらに混合してカーボンコート箔塗工液Aを作製した。なお、作製したカーボンコート箔塗工液Aの固形分濃度は、20質量%であった。
【0060】
(カーボンコート箔塗工液B〜Mの作成)
バインダーAをバインダーB〜Mに変えた以外は、カーボンコート箔塗工液Aの作製と同様な操作を行い、カーボンコート箔塗工液B〜Mを得た。
【0061】
(カーボンコート箔A〜Mの作成)
カーボンコート箔塗工液A〜Mをグラビア法により厚さが1μmになるようにアルミニウム箔に塗布し、120℃で5分乾燥し、カーボンコート箔A〜Mを得た。
【0062】
(実施例1)
正極の作製について説明する。LiCoOを90部、導電助剤としてアセチレンブラックを5部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン5部とを混合したものに、活物質、導電助剤及びバインダーの合計量に対して、100部のN−メチルピロリドンを加えてさらに混合して正極用スラリーを作製した。これをドクターブレード法によりカーボンコート箔A上に正極用スラリーを乾燥前の状態で200μmとなるように塗布し、120℃、5分加熱乾燥し、プレス工程を経て正極を得た。
【0063】
負極の作製について説明する。黒鉛94部、導電助剤としてアセチレンブラックを1部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデンを5部とを混合し、さらに100部のN−メチルピロリドンを加えてさらに混合して負極用スラリーを作製した。これを集電体となる厚さ10μmのCu箔にロールプレス処理後の厚さが120μmとなるように塗布し、100℃で5分乾燥、プレス工程を経て負極を得た。
【0064】
電解液の調整について説明する。エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比30:70で混合した混合溶媒にLiPFを1.0mol/Lの濃度になるように溶解して、電解液を調整した。
【0065】
電池の作成について説明する。正極、負極に導電タブをつけ、これらとポリオレフィン系の多孔性フィルムを含むセパレータ、電解液を用いラミネート型電池を得た。
【0066】
カーボンコート箔、電極スラリーおよびこれらを用いて作製したリチウムイオン二次電池の評価結果を表1に示す。
【0067】
(実施例2〜8)
カーボンコート箔B〜Hを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、リチウムイオン二次電池を得た。評価結果を表1に示す。
【0068】
(比較例1〜5)
カーボンコート箔I〜Mを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、リチウムイオン二次電池を得た。評価結果を表1に示す。
【0069】
(比較例6)
カーボンコート箔塗工液を塗工していないアルミニウム箔に正極用スラリーを塗工した以外は実施例1と同様の操作を行い、リチウムイオン二次電池を得た。評価結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
実施例1〜8と比較例1〜6との比較から、本発明のリチウムイオン二次電池電極用カーボンコート箔塗工液を用いることで、集電体剥離強度、充放電高温サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池が得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和ジカルボン酸のみを重合して得られる重合体、又は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル及び(メタ)アクリル酸アルキルから選ばれる1種以上の不飽和単量体と不飽和ジカルボン酸を重合して得られる重合体であり、重量平均分子量が50万〜300万である、金属箔に塗工するカーボンコート箔塗工液用バインダー。
【請求項2】
不飽和ジカルボン酸がイタコン酸である請求項1に記載のカーボンコート箔塗工液用バインダー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のカーボンコート箔塗工液用バインダーを含むカーボンコート箔塗工液であって、カーボンコート箔塗工液の固形分に対して導電助剤30〜80質量%を含むカーボンコート箔塗工液。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のカーボンコート箔塗工液用バインダーと導電助剤を含むカーボンコート箔塗工液層と金属箔から構成されるカーボンコート箔。
【請求項5】
請求項4に記載のカーボンコート箔とリチウムイオン二次電池電極用スラリーを用いて得られるリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項6】
請求項5に記載のリチウムイオン二次電池用電極を用いて得られるリチウムイオン二次電池。

【公開番号】特開2013−23654(P2013−23654A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162109(P2011−162109)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】