説明

カーボンナノチューブおよびその製造方法

【課題】新規なカーボンナノチューブの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のカーボンナノチューブの製造方法は、混合ガス中にプラズマを生成させる方法であり、混合ガスは、炭素源と酸化性成分を含有している。ここで、炭素源が、CO,CH4, C2H4, C2H2, CH3OH, C2H5OHから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物からなることが好ましい。また、酸化性成分が、O2,CO2,H2Oなどから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物からなることが好ましい。また、O2/CO流量比が0.0001〜0.1の範囲内にあることが好ましい。また、プラズマが直流放電プラズマであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なカーボンナノチューブに関する。
また、本発明は、新規なカーボンナノチューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カーボンナノチューブの製造法としてはアーク放電法、レーザー蒸発法、触媒気相成長法が用いられている。
【0003】
これら従来技術はそのほとんどが500℃以上の高温合成条件を必要とするため、合成プロセスが高コストとなるのみならず、カーボンナノチューブを配向成長させる基板に有機材料等の低融点材料を用いることが出来ず、カーボンナノチューブ利用の妨げとなっている。500℃未満での低温合成を行うことを目的とした研究開発も行われており、400℃未満での合成例も非配向成長に関するもの(非特許文献1)と配向成長に関するもの(非特許文献2、非特許文献3)が有る。
【0004】
これまでに最も低い温度でカーボンナノチューブの合成に成功したという報告例は非特許文献1に示されている。この報告例においては、亜酸化炭素C3O2を炭素源、鉄カルボニルを浮遊触媒とする浮遊触媒気相成長法(触媒気相成長法の一種)を用いて、反応器温度180℃、反応時間120時間の合成条件において0.05gの炭素含有生成物を得ており、その中の約15%がカーボンナノチューブであったと報告されている。
【0005】
一方、基板から配向成長したカーボンナノチューブを低温合成する研究は、触媒気相成長法の一種であるプラズマ気相成長法を用いて多くの研究が行われており、そのほとんどにおいて炭化水素が原料ガスとして用いられている。400℃未満の基板温度で配向したカーボンナノチューブの合成に成功したという報告例においても、C2H2/NH3/N2/He高周波放電(非特許文献2)またはCH4/H2マイクロ波放電法(非特許文献3)を用いたプラズマ気相成長が利用されている。
【0006】
更に低い温度領域において炭化水素を原料ガスとするプラズマ気相成長法によりカーボンナノチューブに類似した物質の合成を行ったという報告例がある(非特許文献4、非特許文献5参照)。
【0007】
非特許文献4では120℃,270℃,390℃,500℃においてC2H2/NH3直流放電を用いたプラズマ気相成長法によって配向したカーボンナノチューブに類似した物質を得ている。非特許文献5でもCH4/H2のRF放電を用いたプラズマ気相成長法によって室温、150℃、250℃の各条件においてカーボンナノチューブに類似した物質を得ている。
【0008】
炭化水素ガスではなくCOガスを原料とするプラズマ気相成長法によってカーボンナノチューブまたはカーボンナノチューブに類似した物資の配向成長を行ったという報告例も数例ある(例えば、非特許文献6、非特許文献7参照)。
【0009】
非特許文献6ではCO/NH3 直流放電を用いたプラズマ気相成長法によってカーボンナノチューブの配向成長を行い、基板温度550℃においてカーボンナノチューブの配向成長に成功している。非特許文献7ではCO/Ar 直流放電を用いたプラズマ気相成長法によってカーボンナノチューブに類似した物質の配向成長を室温〜90℃程度の基板温度において行っている。
【0010】
なお、発明者は、本発明に関連する技術内容を開示している(例えば、非特許文献8〜10参照。)。これらは、特許法第30条第1項を適用できるものと考えられる。
【0011】
【非特許文献1】Mingwang Shao et al., Carbon 42, 183-185 (2004).
【非特許文献2】Se-Jin Kyung et al., Carbon 44, 1530-1534 (2006).
【非特許文献3】Kun-Hou Liao et al., Diamond and Related Materials 15, 1210-1216. (2006).
【非特許文献4】S. Hofmann et al., Applied Physics Letters 83, 135-137 (2003).
【非特許文献5】B.O. Boskovic et al., Nature Materials 1, 165-168 (2003).
【非特許文献6】Jae-Hee Han et al., Proceedings of the IEEE International Vacuum Microelectronics Conference, IVMC, 33-34 (2001).
【非特許文献7】S. Mori, M. Fukuya, M. Suzuki, Transactions of Materials Research Society of Japan 32, 513-516 (2007).
【非特許文献8】森伸介、鈴木正昭、化学工学会第72年会研究発表講演要旨集S103、2007年2月19日.
【非特許文献9】森伸介、マツダ財団研究報告書、p.219、2007年6月.
【非特許文献10】森伸介、鈴木正昭、第20回プラズマ材料科学シンポジウム(SPSM-20)アブストラクト集、p.30、2007年6月21日.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、これまでに最も低い温度でカーボンナノチューブの合成に成功したという報告例は非特許文献1に示されている。しかし、この技術においては、基板からカーボンナノチューブを成長させることが出来ないため、基板にカーボンナノチューブを成膜するためには反応容器内に堆積したカーボンナノチューブを一旦取り出し、ペーストを用いて基板にコーティングする操作が必要となる。これでは、従来の高温プロセスで合成したカーボンナノチューブをペーストでコーティングする場合と同じ問題点を抱えたままであり、例えば複雑形状基板へのカーボンナノチューブの成膜や、光学リソグラフィ技術によってサブミクロンオーダーで制御された触媒担持領域上へのカーボンナノチューブの選択成長が不可能であり、低融点で合成できる利点を活かすことができない。
【0013】
一方、基板から配向成長したカーボンナノチューブを低温合成する研究は、触媒気相成長法の一種であるプラズマ気相成長法を用いて多くの研究が行われており、そのほとんどにおいて炭化水素が原料ガスとして用いられている(例えば、非特許文献2、非特許文献3参照)。しかし、最低合成温度はそれぞれ350℃および370℃とまだ高温であり、ほとんどの有機材料は基板として利用することができない。
【0014】
更に低い温度領域において炭化水素を原料ガスとするプラズマ気相成長法によりカーボンナノチューブに類似した物質の合成を行ったという報告例がある(非特許文献4、非特許文献5参照)。
【0015】
しかし、非特許文献4では、シェル構造を有するカーボンナノチューブを合成できたのは500℃の条件だけであり、120℃、270℃、390℃で配向成長した物質はシェル構造を持たないカーボンナノファイバーであった。また、非特許文献5でも、得られた物質はシェル構造を持たないカーボンナノファイバーであった。
【0016】
炭化水素ガスではなくCOガスを原料とするプラズマ気相成長法によってカーボンナノチューブまたはカーボンナノチューブに類似した物資の配向成長を行ったという報告例も数例ある(例えば、非特許文献6、非特許文献7参照)。
【0017】
しかし、非特許文献6では、プラズマ気相成長法を用いているにもかかわらず、基板温度が550℃と高温であることが欠点として挙げられる。非特許文献7では、得られた物質はカーボンナノチューブではなくシェル構造を持たないカーボンナノファイバーであった。また、ファイバーの径が数百nmと太い上に、ファイバー同士が結束しバンドル化してしまう傾向があった。
【0018】
そのため、このような課題を解決する、新規なカーボンナノチューブおよびその製造方法の開発が望まれている。
【0019】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、新規なカーボンナノチューブを提供することを目的とする。
また、本発明は、新規なカーボンナノチューブの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明のカーボンナノチューブは、混合ガス中にプラズマを生成させることにより、製造されるカーボンナノチューブにおいて、前記混合ガスが、炭素源と酸化性成分を含有することを特徴とする。
【0021】
ここで、限定されるわけではないが、炭素源が、CO,CH4, C2H4, C2H2, CH3OH, C2H5OHから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物からなることが好ましい。また、限定されるわけではないが、酸化性成分が、O2,CO2,H2Oなどから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物からなることが好ましい。また、限定されるわけではないが、O2/CO流量比が0.0001〜0.1の範囲内にあることが好ましい。また、限定されるわけではないが、プラズマが直流放電プラズマであることが好ましい。
【0022】
本発明のカーボンナノチューブの製造方法は、混合ガス中にプラズマを生成させる、カーボンナノチューブの製造方法において、前記混合ガスが、炭素源と酸化性成分を含有することを特徴とする。
【0023】
ここで、限定されるわけではないが、炭素源が、CO,CH4, C2H4, C2H2, CH3OH, C2H5OHから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物からなることが好ましい。また、限定されるわけではないが、酸化性成分が、O2,CO2,H2Oなどから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物からなることが好ましい。また、限定されるわけではないが、O2/CO流量比が0.0001〜0.1の範囲内にあることが好ましい。また、限定されるわけではないが、プラズマが直流放電プラズマであることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
【0025】
本発明のカーボンナノチューブは、混合ガス中にプラズマを生成させることにより、製造されるカーボンナノチューブにおいて、前記混合ガスが、炭素源と酸化性成分を含有するので、新規なカーボンナノチューブを提供することができる。
【0026】
本発明のカーボンナノチューブの製造方法は、混合ガス中にプラズマを生成させる、カーボンナノチューブの製造方法において、前記混合ガスが、炭素源と酸化性成分を含有するので、新規なカーボンナノチューブの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、カーボンナノチューブおよびその製造方法にかかる発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0028】
最初に、カーボンナノチューブの製造方法について説明する。
カーボンナノチューブの製造方法は、混合ガス中にプラズマを生成させる、カーボンナノチューブの製造方法において、前記混合ガスが、炭素源と酸化性成分を含有する方法である。
【0029】
プラズマとしては、直流放電プラズマ、パルス放電プラズマ、AC放電プラズマ、低周波放電プラズマ、高周波放電プラズマ、RF放電プラズマ、マイクロ波放電プラズマ、ECRプラズマ、ヘリコン波プラズマ、コロナ放電プラズマ、誘電体バリア放電プラズマ、沿面放電プラズマ、グロー放電プラズマ、アーク放電プラズマ、CCPプラズマ、ICPプラズマ、レーザー生成プラズマなどを採用することができる。
【0030】
混合ガス中の炭素源となる成分としては、CO,CH4, C2H4, C2H2, CH3OH, C2H5OHなどから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物を採用することができる。
【0031】
混合ガス中の酸化性成分としては、O2,CO2,H2Oなどから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物を採用することができる。
【0032】
混合ガス中の不活性成分としては、Ar,He, Ne, N2などを採用することができる。
【0033】
反応容器内の全圧力は100〜110000Paの範囲内にあることが好ましい。全圧力が100Pa以上であると、成長速度が速いという利点がある。全圧力が110000Pa以下であると、均一なカーボンナノチューブ生成膜が得られるという利点がある。
【0034】
反応容器内でのO2とCOの流量比(O2/CO流量比)は0.0001〜0.1の範囲内にあることが好ましい。O2/CO流量比が0.0001以上であると、無定形炭素の堆積が抑制されるという利点がある。O2/CO流量比が0.1以下であると、カーボンナノチューブの成長速度が速くなるという利点がある。
【0035】
反応容器内でのArとCOの流量比(Ar/CO流量比)は5以下であることが好ましい。Ar/CO流量比が5以下であると、成長速度が速くなるという利点がある。
【0036】
線速度(COガス流量をプラズマリアクター断面積で割った値)は0.1〜20cm/sの範囲内にあることが好ましい。線速度が0.1cm/s以上であると、成長速度が速いという利点がある。線速度が20cm/s以下であると、原料利用率が高いという利点がある。
【0037】
電流密度は0.1〜20mA/cm2の範囲内にあることが好ましい。ここで電流密度とは、放電電流値を陰極実効面積(陰極面積または陰極発光領域の面積)で割った値である。電流密度が0.1mA/cm2以上であると、成長速度が速くなるという利点がある。電流密度が20mA/cm2以下であると、基板温度が低温に保たれるという利点がある。
【0038】
反応時間は0.01〜10時間の範囲内にあることが好ましい。反応時間が0.01時間以上であると、有意な長さのカーボンナノチューブが得られるという利点がある。反応時間が10時間以下であると、カーボンナノチューブの成長が飽和しないという利点がある。
【0039】
基板上の触媒としては、Fe,Ni,Co,V,Moから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物を採用することができる。
【0040】
触媒金属の調整方法としては、蒸発乾固法、スパッタリング法、または真空蒸着法を用いることができる。蒸発乾固法における溶液の塗布方法としては、滴下、噴霧、ディップコーティング、スピンコーティングのいずれの方法でも構わない。
【0041】
基板の材料としては、ガラス、Si、SiO2、Al2O3、PTFE、PET、PMMA、ポリエチレン、ポリスチレン、および有機高分子材料などを採用することができる。
【0042】
つぎに、カーボンナノチューブについて説明する。
カーボンナノチューブは、混合ガス中にプラズマを生成させることにより、製造されるカーボンナノチューブにおいて、前記混合ガスが、炭素源と酸化性成分を含有するものである。
【0043】
以上のことから、本発明を実施するための最良の形態によれば、本発明のカーボンナノチューブは、混合ガス中にプラズマを生成させることにより、製造されるカーボンナノチューブにおいて、前記混合ガスが、炭素源と酸化性成分を含有するので、新規なカーボンナノチューブを提供することができる。
【0044】
また、本発明を実施するための最良の形態によれば、本発明のカーボンナノチューブの製造方法は、混合ガス中にプラズマを生成させる、カーボンナノチューブの製造方法において、前記混合ガスが、炭素源と酸化性成分を含有するので、新規なカーボンナノチューブの製造方法を提供することができる。
【0045】
なお、本発明は上述の発明を実施するための最良の形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【実施例】
【0046】
つぎに、本発明にかかる実施例について具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことはもちろんである。
【0047】
<使用した装置>
図1は実験装置全体図である。プラズマリアクターは真空継ぎ手を介して上流側がマスフローコントローラー1と、下流側が流量調整バルブおよび真空ポンプ8に接続されている。作業ガスであるCO,Ar,O2はマスフローコントローラー1で流量を制御し、プラズマリアクターに供給した。プラズマリアクター内の圧力はプラズマリアクター下流に設置した流量調整バルブを用いて制御した。
【0048】
図2(a)はプラズマリアクター詳細図である。プラズマリアクター11は内径10mm、外径12mmの石英ガラス製で、一対の対向する電極が挿入されており、上流側電極を直流高電圧電源2(パルス電子工業製 直流高圧安定化電源 HDV-15K 20SU)に接続し陽極12とし、下流側電極は電流計5を介してアース6に接続し陰極14とした。電極の構造は、陽極12が直径1mmのSUSワイヤ、陰極14が上端を0.2mmのSUS板16で封じた外径7mmのSUS管17であり、電極間距離は約5cmとした。
【0049】
図2(b)は陰極部詳細図である。基板13は陰極上端のSUS板16上部に設置し、基板温度は陰極内部に挿入したシース径0.5mmのK型シース熱電対18をSUS板16の裏側に接触させることで測定した。直流高電圧電源2を利用して電極間に高電圧を印加し、直流放電プラズマを生成させカーボンナノチューブを合成した。陰極の形状は、この他にホロー状やメッシュ状であっても良く、その場合基板の位置は、陰極の表面だけでなく陰極の内部や背部であっても良い。
【0050】
<基板の作製方法>
触媒金属は蒸発乾固法により調整した。まず、Feの酢酸塩をエタノールに溶解し触媒金属濃度が0.01質量%のエタノール溶液を調整する。この溶液0.1mlをピペットで測り取り基板に滴下することで4mm×4mmのガラス基板上に塗布し室温、大気中で乾燥させた。その後、基板をH2/Arプラズマに5分間曝し、触媒金属の焼成・還元を行った。放電条件は全圧力600Pa、H2流量10sccm、Ar流量10sccm、電流密度6.5mA/cm2とし、基板は陰極上面に設置した。
【0051】
<評価方法>
SEM
SEM(装置:KEYENCE VE-8800, Hitachi S-4500、測定条件:加速電圧8-15kV)を用いてカーボンナノチューブの径および長さの推算を行った。
【0052】
TEM
TEM(装置:JEOL JEM-2010F、測定条件:加速電圧200kV)を用いてカーボンナノチューブの径の推算、およびシェル構造の確認を行った。
【0053】
ラマンスペクトル
ラマンスペクトル(装置:JASCO NRS-2100、測定条件:Arレーザー照射時間60秒)のG-bandピーク(1590cm-1)およびD-bandピーク(1350cm-1)の強度比からカーボンナノチューブの結晶性および無定形炭素含有量の定性的評価を行った。G/D比が高ければカーボンナノチューブの結晶性が高く、G/D比が低ければカーボンナノチューブの結晶性が低く無定形炭素が大量に混在する。
【0054】
<プラズマ気相成長>
比較例1
まず触媒金属を表面に調整した基板を陰極上に設置し触媒金属の還元処理を行った。反応装置内を真空ポンプで十分に排気し、マスフローコントローラーによってH2ガス流量を10sccm, Arガス流量を10sccmに制御し、H2/Ar混合ガスを反応装置内に導入する。反応装置下流に設置した流量調節バルブによって反応装置内圧力を600Paに調整する。直流高電圧電源を利用して電極間に高電圧を印加し、直流放電プラズマを生成させる。直流高電圧電源の電流出力制御機能を利用して電流密度を6.5mA/cm2に保ち、触媒金属の還元処理を5分間行う。
【0055】
次に、触媒金属の還元処理に引き続いてカーボンナノファーバーの合成実験を行う。まず、直流高電圧電源の電流出力制御機能を利用して電流密度を所定の値(0.5,2.6,5.2,7.8,10.4mA/cm2)に変更する。次に、マスフローコントローラーによってCOガス流量を10sccm(線速度(COガス流量をプラズマリアクター断面積で割った値)0.21cm/s),Arガス流量を10sccm(Ar/CO比1), O2ガス流量を0sccm(O2/CO比0)に制御し、CO/Ar混合ガスを反応装置内に導入し、H2/ArプラズマからCO/Arプラズマに切り替える。反応装置下流に設置した流量調節バルブによって反応装置内圧力を800Paに調整し、所定の時間合成反応を行う。基板温度は放電に伴う発熱により上昇してしまうが、陰極内に設置した熱電対を用いて基板の温度を測定した結果、電流密度0.5mA/cm2の場合で30℃程度、電流密度2.6mA/cm2の場合で60℃程度、電流密度5.2mA/cm2の場合で90℃程度、電流密度7.8mA/cm2の場合で120℃程度、電流密度10.4mA/cm2の場合で150℃程度であった。
【0056】
所定の反応時間(0.5 mA/cm2で2時間、2.6,5.2 mA/cm2で1時間、7.8,10,4mA/cm2で0.5時間程度)が経過した後、放電を止めて基板を取り出しSEM、TEM、ラマンスペクトルを用いて生成物の評価を行った。その結果、電流密度が0.5,2.6,5.2mA/cm2の場合に限りカーボンナノファイバーが合成された。
【0057】
実施例1
カーボンナノチューブの作製方法は、酸素流量を0.03sccm(O2/CO比3/1000)、電流密度を5.2mA/cm2、反応時間を1,2,4時間としたこと以外は、比較例1と同様である。その時の基板温度は約90℃であった。
【0058】
<評価結果>
SEM,TEM
比較例1について説明する。図3は比較例1の電流密度が0.5,2.6,5,2mA/cm2の条件において合成された物質のSEM像であり、合成時間はそれぞれ2,1,1時間である。直径数百nmのカーボンナノファイバーが配向成長しており、その成長速度はそれぞれ2.7μm/hr、4.3μm/hr、7.0μm/hr程度である。
【0059】
図4は比較例1の電流密度が5.2mA/cm2の条件において合成されたカーボンナノファイバーのTEM像である。この図からわかるように、合成された物質はカーボンナノチューブに特有のシェル構造を有してはおらず、全体の直径が数百nm程度でウィスカー状の構造を有するカーボンナノファイバーである。図4(a)のように、中心部分の密度が低く中空構造を有するファイバーも存在するが、その場合でもカーボンナノチューブのようなシェル構造は有していない。また、ウィスカー自身においても中空構造は確認できず(図4(c)、図4(d))、何れの条件においても、カーボンナノチューブの合成は確認できなかった。
【0060】
実施例1について説明する。図5は実施例1の条件において合成された物質のSEM像であり、合成時間はそれぞれ1,2,4時間である。直径数十nmのカーボンナノファイバーが配向成長しており、その成長速度は0.5μm/hr程度である。
【0061】
図6は実施例1の条件において合成時間2時間で合成された物質のTEM像である。この図からわかるように、合成された物質は直径が数十nmのファイバー状物質で、中空構造を有している。更に図6(c)、図6(d)、図6(f)から、外壁に沿って10〜15層程度の縞状の構造が確認できる。これは、カーボンナノチューブに特有のシェル構造を表しており、層の数が10〜15程度の多層のカーボンナノチューブが合成していることが証明できている。
【0062】
ラマンスペクトル
図7は比較例1(電流密度5.2mA/cm2)および実施例1(合成時間4時間)において合成された物質のラマンスペクトルである。1590cm-1付近のGバンドはグラファイト構造の面内伸縮振動に由来するラマン散乱であり、1350cm-1付近のDバンドは無定形炭素に由来するラマン散乱である。GバンドとDバンドの強度比G/D比から試料中の不純物である無定形炭素に対するグラファイト構造のおおよその純度がわかる。O2流量を0sccmから0.03sccmへと変化させた場合、G/D比は2.6から3.6へと増加しており、O2添加によって無定形炭素の堆積が抑制されたことがわかる。
【0063】
少量の酸素を添加した場合、低温であるがために結晶化できずに堆積してしまう無定形炭素が、酸素のエッチング作用により選択的に除去され、sp2混成で結合している炭素原子のみが取り残されることにより生成する結晶性の高いグラフェンシートがシェル構造を形成し、カーボンナノチューブとなるものと考えられる。
【0064】
以上のことから、本実施例によれば、これまでに報告されている配向成長したカーボンナノチューブの最低合成温度(350℃)および非配向成長したカーボンナノチューブの最低合成温度(180℃)を大きく下回る温度(90℃)において、配向成長したカーボンナノチューブの合成に成功した。
【0065】
従来技術(非特許文献7)と比較して、シェル構造を有していなかったカーボンナノファイバーがシェル構造を有するカーボンナノチューブとなり、数百nm程度であったファイバーの径が数十nm程度に減少し、ファイバー同士が結束するバンドル化も抑制された。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】装置全体図である。
【図2】プラズマリアクター詳細図および陰極部詳細図である。
【図3】比較例1のSEM像であり、(a)0.5mA/cm2,(b)2.6mA/cm2,(c)5.2mA/cm2の条件である。
【図4】比較例1のTEM像であり、5.2mA/cm2の条件である。
【図5】実施例1のSEM像であり、(a)1時間,(b)2時間,(c)4時間の条件である。
【図6】実施例1のTEM像であり、2時間の条件である。
【図7】ラマンスペクトルであり、(a)比較例1(5.2mA/cm2, 1時間)、(b)実施例1(5.2mA/cm2, 4時間)である。
【符号の説明】
【0067】
1‥‥マスフローコントローラー、2‥‥直流高電圧電源、3‥‥アース、4‥‥電圧計、5‥‥電流計、6‥‥アース、7‥‥圧力計、8‥‥真空ポンプ、11‥‥プラズマリアクター、12‥‥陽極、13‥‥基板、14‥‥陰極、15‥‥アース、16‥‥SUS板、17‥‥SUS管、18‥‥シース熱電対、19‥‥ガラス支持棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合ガス中にプラズマを生成させることにより、製造されるカーボンナノチューブにおいて、
前記混合ガスが、炭素源と酸化性成分を含有する
ことを特徴とするカーボンナノチューブ。
【請求項2】
炭素源が、CO,CH4, C2H4, C2H2, CH3OH, C2H5OHから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物からなる
ことを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブ。
【請求項3】
炭素源がCOからなる
ことを特徴とする請求項2記載のカーボンナノチューブ。
【請求項4】
酸化性成分が、O2,CO2,H2Oなどから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物からなる
ことを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブ。
【請求項5】
酸化性成分がO2からなる
ことを特徴とする請求項4記載のカーボンナノチューブ。
【請求項6】
O2/CO流量比が、0.0001〜0.1の範囲内にある
ことを特徴とする請求項5記載のカーボンナノチューブ。
【請求項7】
プラズマが直流放電プラズマである
ことを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブ。
【請求項8】
炭素源がCOからなり、
酸化性成分がO2からなり、
O2/CO流量比が0.003であり、
プラズマが直流放電プラズマである
ことを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブ。
【請求項9】
混合ガス中にプラズマを生成させる、カーボンナノチューブの製造方法において、
前記混合ガスが、炭素源と酸化性成分を含有する
ことを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項10】
炭素源が、CO,CH4, C2H4, C2H2, CH3OH, C2H5OHから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物からなる
ことを特徴とする請求項9記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項11】
炭素源がCOからなる
ことを特徴とする請求項10記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項12】
酸化性成分が、O2,CO2,H2Oなどから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物からなる
ことを特徴とする請求項9記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項13】
酸化性成分がO2からなる
ことを特徴とする請求項12記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項14】
O2/CO流量比が、0.0001〜0.1の範囲内にある
ことを特徴とする請求項13記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項15】
プラズマが直流放電プラズマである
ことを特徴とする請求項9記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項16】
炭素源がCOからなり、
酸化性成分がO2からなり、
O2/CO流量比が0.003であり、
プラズマが直流放電プラズマである
ことを特徴とする請求項9記載のカーボンナノチューブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−46325(P2009−46325A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−211431(P2007−211431)
【出願日】平成19年8月14日(2007.8.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年2月19日 化学工業会発行の「化学工学会 第72年会 研究発表講演要旨集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年6月21日〜22日 独立行政法人 日本学術振興会プラズマ材料化学第153委員会主催の「第20回 プラズマ材料化学シンポジウム」に文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年6月 財団法人 マツダ財団発行の「研究報告書 Vol.19 2007」に発表
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】