説明

カーボンナノチューブの水分散液の製造方法

【課題】カーボンナノチューブの安定な水分散液の製造方法を提供すること。
【解決手段】非イオン性界面活性剤または陰イオン性界面活性剤と尿素からなる水溶液を用いてカーボンナノチューブを分散する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、界面活性剤および尿素を利用したカーボンナノチューブの水分散液の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)は複合材料や電子機器などへの応用で注目されているが、その電気的特性、生体分子との親和性、比表面積の大きさなどから生体分子を用いた製品においても応用が期待され、検討されている。CNTの分散溶媒として有機溶媒が多用されるが(例えば、特許文献1参照)、有機溶媒は生体分子に対して悪影響を及ぼすことが多く生物分野での使用に向かない。そこで生体分子に対する影響を低減するため、水系溶媒でのCNTの分散液が求められた(水分散液)。CNTは疎水性が高く、水のみではCNTを分散させることが困難である。そのため分散剤として界面活性剤が活発に検討された(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004‐261713号公報
【特許文献2】特表2004‐534714号公報
【特許文献3】特開2003‐238126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記界面活性剤により製造されたCNTの分散液は、長期の保存においてCNTが凝集し、沈殿を生じるため、有効なCNTの表面積が時間経過に伴って大きく変動するという課題を有していた。
【0005】
本発明の目的は、カーボンナノチューブの安定な水分散液の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記従来の課題を解決するために、本発明のカーボンナノチューブの水分散液の製造方法は、非イオン性界面活性剤または陰イオン性界面活性剤と尿素からなる水溶液を用いてカーボンナノチューブを分散する。本構成によって、長期の保存において分散状態を維持したカーボンナノチューブの水分散液を製造することができる。
【発明の効果】
【0007】
長期の保存において分散状態を維持したカーボンナノチューブの水分散液の製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明によるCNT水分散液の経時測定の結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態が説明される。
【0010】
本発明は非イオン性界面活性剤または陰イオン性界面活性剤と尿素からなる水溶液を用いてカーボンナノチューブ(CNT)を分散することを特徴とする、CNT水分散液の製造方法である。
【0011】
界面活性剤は疎水性の物質を水系溶媒に分散させる効果を有する。本発明では界面活性剤として非イオン性界面活性剤や陰イオン性界面活性剤を用いることができる。
【0012】
前記非イオン性界面活性剤はポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルが好ましく用いられる。ポリ(オキシエチレン)ソルビタンモノラウレートがより好ましく用いられる。
【0013】
前記陰イオン性界面活性剤はアルキル硫酸エステル塩、コール酸、デオキシコール酸が好ましく用いられる。
【0014】
前記非イオン性界面活性剤および陰イオン性界面活性剤の濃度は臨界ミセル濃度の70%以上が好ましい。70%以下ではCNTを分散することが困難となる。
【0015】
前記界面活性剤溶液に尿素を含めることによりCNTの分散状態が安定化される。前記溶液の尿素は5M以上の濃度を有することが好ましい。
【0016】
本発明により分散されるCNTは、単層CNTおよび多層CNTである。
【0017】
前記界面活性剤と尿素からなる溶液に乾燥状態の前記CNTを浸漬し、物理的手段でホモジナイズ処理することで、水溶液中にCNTを分散させることができる。前記ホモジナイズ処理によりCNTの水分散液が調製される。
【0018】
分散されるCNTの濃度は1mg/mL以下が好ましい。
【0019】
ホモジナイズ処理には超音波ホモジナイザー、擂潰機を用いることができる。超音波ホモジナイザーがより好ましい。
【0020】
CNTの水分散液の分散の安定性は吸光度の測定により評価できる。分散されたCNTの濃度と波長500nmの吸光度は相関しており、CNTの濃度が高いと吸光度も高い。CNTの水分散液の分散の安定性が低いと凝集、沈殿を起こし、分散したCNTの濃度が低下するため吸光度も低下する。波長500nmの吸光度の経時変化を測定することでCNTの水分散液の分散の安定性が評価される。
【0021】
以下の実施例1を用いて、本発明はより詳細に説明される。
【0022】
(実施例1)
(界面活性剤溶液の調製)
ポリ(オキシエチレン)ソルビタンモノラウレート(ANAPOE‐20、10%(w/v)水溶液;Anatrace社製)を超純水で希釈し、0.36%(w/v)の濃度を有するANAPOE‐20溶液を調製した。
【0023】
(尿素溶液の調製)
尿素(特級;和光純薬工業社製)の粉末を超純水で溶解し、8Mの濃度を有する尿素溶液を調製した。
【0024】
(界面活性剤と尿素からなる溶液の調製)
10%(w/v)の濃度を有するANAPOE‐20と溶液8Mの濃度を有する尿素溶液および超純水を混合し、0.36%(w/v)の濃度のANAPOE‐20および6Mの濃度の尿素を含む溶液を調製した。
【0025】
(カーボンナノチューブ(CNT)の水分散の調製)
4mLの前記界面活性剤と尿素からなる溶液に2mgのCNT(単層CNT;Nanointegris社製)が添加された。その後、超音波ホモジナイザー(sonifier 150;Branson社製)を用いて、出力10 Watts (RMS)で5分間処理した。0.5mLの前記溶液に4.5mLの前記界面活性剤と尿素からなる溶液を添加した。その後、超音波ホモジナイザーを用いて、出力10 Watts (RMS)で5分間処理し、前記界面活性剤と尿素からなる溶液で処理したCNTの水分散液を得た。
【0026】
同様に、前記0.36%(w/v)の濃度を有するANAPOE‐20溶液(界面活性剤溶液)を用いてCNTを処理することでCNTの水分散液を得た。
【0027】
同様に、前記6Mの濃度を有する尿素溶液を用いてCNTを処理することでCNTの水分散液を得た。
(吸光度測定によるCNT水分散液の安定性評価)
(測定装置)
CNT水分散液の安定性は吸光度により測定された。吸光度測定には、紫外可視分光光度計(UV-1600PC;島津製作所社製)を使用した。測定容器は光路長1cmのセル(セミマイクロブラックセル、石英;GEヘルスケア社製)が用いられた。
【0028】
(吸光度の測定)
前記界面活性剤と尿素からなる溶液で処理したCNTの水分散液及び前記界面活性剤溶液で処理したCNTの水分散液について、波長500nmの吸光度を前記水分散液の調製後、2時間後、3日後および60日後の時点について測定した。目視により確認できる沈殿を生じた場合は沈殿を残し、上清だけを測定に用いた。
【0029】
図1はCNT水分散液の経時測定の結果を示す。界面活性剤で分散したCNTは時間の経過に従い吸光度が低下し、60日が経過した後では調製直後(2時間)の吸光度の値に対して値が57%に低下した。一方、界面活性剤と尿素からなる溶液で分散したCNTは調製直後の値に対して90%を維持した。
【0030】
従って、界面活性剤と尿素からなる溶液で分散したCNTは、長期の保存において分散状態を維持したCNTの水分散液であることを当業者は図1に基づいて理解するであろう。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、バイオセンサやバイオリアクターに用いられ得る。本発明は、バイオセンサやバイオリアクターにおける生体分子の担体や電極として特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ水分散液の製造方法であって、界面活性剤と尿素からなる水溶液を用いてカーボンナノチューブを分散することを特徴とする、カーボンナノチューブ水分散液の製造方法。
【請求項2】
前記界面活性剤が非イオン性界面活性剤または陰イオン性界面活性剤である請求項1に記載のカーボンナノチューブ水分散液の製造方法。
【請求項3】
前記非イオン性界面活性剤がポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルである請求項1に記載のカーボンナノチューブ水分散液の製造方法。
【請求項4】
前記陰イオン性界面活性剤がアルキル硫酸エステル塩である請求項1に記載のカーボンナノチューブ水分散液の製造方法。
【請求項5】
前記陰イオン性界面活性剤がコール酸またはデオキシコール酸である請求項1に記載のカーボンナノチューブ水分散液の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−218992(P2012−218992A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87884(P2011−87884)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】