説明

カーボンナノチューブの紡糸繊維の製造方法

【課題】化学気相成長法によって生成されたカーボンナノチューブの紡糸繊維の強度を向上させることができる技術を提供する。
【解決手段】乱流発生手段としてテーパ状の複数の貫通孔11を有する成長用基板10を準備し、成長用基板10の第2の面10bにカーボンナノチューブの生成反応を促進させるための触媒金属20を担持させる。成長用基板10の第1の面10a側から、各貫通孔11を介して、第2の面10b側に原料ガスを供給し、第2の面10b側において、原料ガスの乱流を発生させるとともに、カーボンナノチューブ30を成長させる。原料ガスの乱流によって捩れて成長したカーボンナノチューブ30を採取するとともに撚糸する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、カーボンナノチューブの製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブの製造方法としては、化学気相成長法(CVD法)など、気相合成によって成長用基板上にカーボンナノチューブを成長させる方法が知られている(特許文献1等)。一般に、成長用基板上において生成されたカーボンナノチューブは、採取されるとともに撚糸され、カーボンナノチューブの紡糸繊維を構成する。しかし、カーボンナノチューブの紡糸繊維は、カーボンナノチューブとカーボンナノチューブとの継ぎ目において比較的強度が低下してしまうという問題があった。これまで、カーボンナノチューブの紡糸繊維の強度を向上させることについて十分な工夫がなされてこなかったのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−161512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、化学気相成長法によって生成されたカーボンナノチューブの紡糸繊維の強度を向上させることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]
化学気相成長法によって生成されたカーボンナノチューブを用いたカーボンナノチューブの紡糸繊維の製造方法であって、
(a)第1と第2の面を有する成長用基板であって、複数の貫通孔を有し、前記第2の面にカーボンナノチューブの生成反応を促進させるための触媒が担持されているとともに、前記複数の貫通孔を通過するガスに乱流を発生させる乱流発生手段を有する成長用基板を準備する工程と、
(b)前記第1の面から、前記複数の貫通孔を介して、前記第2の面に、少なくとも炭素原子と水素原子とを含む原料ガスを供給して、前記第2の面から流出する前記原料ガスに乱流を発生させるとともに、前記第2の面に前記カーボンナノチューブを成長させる工程と、
(c)前記カーボンナノチューブを採取するとともに撚糸する工程と、
を備える、製造方法。
この製造方法によれば、成長用基板上に、原料ガスの乱流によって捩れたカーボンナノチューブを生成することができ、この捩れたカーボンナノチューブ同士を複雑に絡ませることにより引張強度を向上させたカーボンナノチューブの紡糸繊維を形成することができる。
【0007】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、カーボンナノチューブの紡糸繊維の製造方法および製造装置、それらの製造方法または製造装置の機能を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】カーボンナノチューブの生成工程を示す模式図。
【図2】カーボンナノチューブの紡糸繊維を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施例:
図1は、本発明の一実施例として、カーボンナノチューブの紡糸繊維の製造工程のうち、カーボンナノチューブの生成する工程を示す模式図である。この工程では、CVD法によってカーボンナノチューブを生成する。
【0010】
第1工程では、カーボンナノチューブを成長させるための成長用基板10を準備する。成長用基板10には、複数の貫通孔11が配列して設けられている。なお、各貫通孔11は、成長用基板10の第1の面10aにおける開口面積と、第1の面10aとは反対側の第2の面10bにおける開口面積とが異なる。より具体的には、各貫通孔11は、第1の面10aにおける開口面積より、第2の面10bにおける開口面積の方が大きくなっている。そして、各貫通孔11の内壁面11sは、成長用基板10の2つの面10a,10bに垂直な方向に対して傾斜角を有している。即ち、各貫通孔11は、第1の面10aから第2の面10bに向かって末広がりに広がるテーパー形状を有する。
【0011】
この工程ではさらに、成長用基板10の第2の面10bに、カーボンナノチューブ30を成長させるための触媒金属20を担持させる。具体的には、スパッタ法により、触媒金属20の薄膜を成長用基板10の第2の面10bに形成し、当該薄膜を加熱することにより、触媒金属20を粒子化させて分散させる。触媒金属20としては、例えば、鉄(Fe)や、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)などを用いることができる。なお、成長用基板10の第2の面10bに触媒金属20を担持させた後に、各貫通孔11を設けるものとしても良い。
【0012】
第2工程では、成長用基板10を加熱炉(図示せず)に配置し、加熱炉内を高温(例えば800℃〜1000℃程度)に昇温させる。そして、成長用基板10の第1の面10a側から、各貫通孔11を介して、第2の面10b側へと原料ガスを供給する。原料ガスとしては、少なくとも炭素原子と水素原子とを含む化合物を用いることができる。具体的には、ヘキサン(CH3(CH24CH3 )や、アセチレン(CHCH)などの炭化水素を用いるものとしても良い。また、原料ガスとしては、エタノール(C25OH)や、メタノール(CH3OH)などのアルコール類を用いるものとしても良い。
【0013】
第2の面10b側において、触媒金属20の粒子に原料ガスが供給されると、原料ガスから熱分解された炭素原子が、触媒金属20の粒子の外表面において5員環や6員環を連続的に形成していく。これによって、触媒金属20の粒子を根本として、配列された多数のカーボンナノチューブ30が成長していく。
【0014】
ここで、図1には、原料ガスの流れを示す矢印が模式的に図示されている。成長用基板10の第1の面10aから各貫通孔11へと流入した原料ガスは、ランダムに拡散して第2の面10b側へと流出し、その流れは不均一となる。即ち、成長用基板10のテーパー状の各貫通孔11は、第2の面10b側に原料ガスの乱流を発生させる乱流発生手段として機能する。第2の面10b側において成長するカーボンナノチューブ30は、原料ガスのランダムな流れに従って、捩れて曲線的に成長していく。カーボンナノチューブ30の成長が停止した後、成長用基板10は、加熱炉から取り出される。
【0015】
図2は、カーボンナノチューブの紡糸繊維を示す模式図である。第3工程では、成長用基板10において成長したカーボンナノチューブ30を、採取するとともに撚糸して、カーボンナノチューブの紡糸繊維35を形成する。
【0016】
ここで、一般に、カーボンナノチューブの紡糸繊維では、繊維を構成する各カーボンナノチューブ同士は、バインダなどの接着剤によって接合されることなく、互いのファンデルワールス力や摩擦力など、原子同士の共有結合よりも弱い力によって結合されている。従って、カーボンナノチューブ同士のつなぎ目において、繊維の引張強度は、他の部位に比較して低下してしまう。
【0017】
しかし、本実施例のカーボンナノチューブの紡糸繊維35であれば、捩れて成長したカーボンナノチューブ30同士が、撚糸の際に、三次元的に複雑に絡まり合うため、カーボンナノチューブ30同士の摩擦力による結合力が向上している。従って、カーボンナノチューブの紡糸繊維35自体の強度が向上する。
【0018】
ところで、燃料電池車に搭載される高圧水素タンクなどのタンク容器の外周には、通常、タンク容器の強度を向上させるための繊維が巻き付けられる。この繊維としては、一般に、炭素繊維が用いられるが、その引張強度は7GPaより小さい。一方、カーボンナノチューブは、炭素繊維に比較して軽量であるとともに、高い引張強度(約70GPa程度
)を有する。従って、炭素繊維に換えてカーボンナノチューブの紡糸繊維を用いたり、炭素繊維にカーボンナノチューブを含ませることにより、タンク容器を軽量化できるとともに、その強度を向上させることができる。特に、本実施例の製造工程によって得られたカーボンナノチューブの紡糸繊維35を用いれば、タンク容器の強度をさらに向上させることが可能である。
【0019】
また、炭素繊維は、約3000℃程度の加熱工程を経て製造されるが、本実施例のカーボンナノチューブの紡糸繊維35であれば、約1000℃以下の加熱工程で製造することが可能である。具体的には、炭素繊維に比較して、カーボンナノチューブの紡糸繊維35の方が、製造コストを、例えば1/7〜1/10程度まで低減することが可能である。従って、高圧水素タンクの製造コストを低減することも可能である。
【0020】
このように、本実施例の製造方法によれば、CVD法において曲線的に捩れて成長したカーボンナノチューブ30同士を複雑に絡ませて引張強度を向上させたカーボンナノチューブの紡糸繊維35を製造することができる。また、このカーボンナノチューブの紡糸繊維35を用いることにより、高圧水素タンクの約30%以上の軽量化や、約50%以上の低コスト化が可能である。
【0021】
なお、本実施例で用いられた成長用基板10には、各貫通孔11以外の乱流発生手段が設けられるものとしても良い。例えば、各貫通孔11の出口側に、原料ガスの流れ方向をランダムに変えるための障害物が配置されるものとしても良い。また、各貫通孔11は、乱流発生手段として他の構成を有するものとしても良い。例えば、各貫通孔11は、流出する原料ガスの方向が不均一となるように設けられるものとしても良い。より具体的には、各貫通孔10が、第2の面10bに対してランダムな角度を有するように設けられるものとしても良いし、その内壁面11sがランダムに曲折した形状で設けられるものとしても良い。
【符号の説明】
【0022】
10…成長用基板
10a…第1の面
10b…第2の面
11…貫通孔
11s…内壁面
20…触媒金属
30…カーボンナノチューブ
35…カーボンナノチューブの紡糸繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学気相成長法によって生成されたカーボンナノチューブを用いたカーボンナノチューブの紡糸繊維の製造方法であって、
(a)第1と第2の面を有する成長用基板であって、複数の貫通孔を有し、前記第2の面にカーボンナノチューブの生成反応を促進させるための触媒が担持されているとともに、前記複数の貫通孔を通過するガスに乱流を発生させる乱流発生手段を有する成長用基板を準備する工程と、
(b)前記第1の面から、前記複数の貫通孔を介して、前記第2の面に、少なくとも炭素原子と水素原子とを含む原料ガスを供給して、前記第2の面から流出する前記原料ガスに乱流を発生させるとともに、前記第2の面に前記カーボンナノチューブを成長させる工程と、
(c)前記カーボンナノチューブを採取するとともに撚糸する工程と、
を備える、製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−265122(P2010−265122A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115508(P2009−115508)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】