説明

カーボンナノチューブを充填した、UV硬化性で耐摩耗性の帯電防止コーティング

カーボンナノチューブ(CNT)を充填した、UV硬化性で耐摩耗性の帯電防止コーティングを製造するための方法を提供する。組成物は、CNT、アクリレート系モノマー、ウレタン-アクリレートオリゴマーおよび光開始剤の混合物から構成される。本発明は、ポリマー基材と比べて、耐摩耗性と帯電防止特性が劇的に改良されたコーティングを提供する。このコーティングは、ひっかき傷および静電蓄積から種々のポリマー基材を保護するのに適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
カーボンナノチューブ(CNT)を充填した、UV硬化性で耐摩耗性の帯電防止コーティングを調製するための方法が提供される。組成物は、CNT、アクリレート系モノマー、ウレタン-アクリレートオリゴマーおよび光開始剤の混合物から構成される。本発明は、ポリマー基材と比べて、耐摩耗性と帯電防止能が劇的に改良されたコーティングを提供する。このコーティングは、ひっかき傷と静電蓄積から種々のポリマー基材を保護するのに適している。
【0002】
本発明は、カーボンナノチューブ(CNT)を充填した、耐摩耗性の帯電防止コーティングを調製するための方法に関する。UV放射条件下で重合されるコーティングは、カーボンナノチューブ、希釈剤としてのアクリレート系モノマー、ウレタン-アクリレートオリゴマー、光開始剤および他の添加剤を含有する。約0.7wt.%の最適なCNT濃度にて、本発明に係るコーティングの電気伝導率、耐摩耗性および耐フレッチング性は、CNTを含有しないコーティングと比較して、劇的に改良される。このコーティングは、ひっかき傷と静電蓄積からポリマー基材を保護するための大きな可能性を有している。
【背景技術】
【0003】
熱可塑性ポリマー板およびフィルム、特に透明なもの(例えばPMMA、PCおよびPVC製のものなど)は耐摩耗性が乏しく、硬い物体により容易にひっかき傷が生じることは、既知である。このようなポリマーから製造された製品の表面品質および透明性は、引っ掻きおよび摩耗後に著しく低下する。この欠点は、それらの耐用年数を大きく制限しており、また、それらの応用を妨げている。
【0004】
一方、ポリマー基材の多くは、電気的に絶縁されているので、他の物体と摩擦/接触する間に、それらの表面上に帯電を生じさせる傾向がある。ポリマー表面に生じるこのような電荷蓄積は、空気中に浮遊する多くの埃および土を引きつけるので、ポリマーの表面特性、例えば光透過性および光沢を減少させる。
【0005】
過去10年間に、ポリマー基材の耐摩耗性および引っかき抵抗性を向上させるために、様々な取り組みが行われている。米国特許第5698270号明細書によると、いわゆる”ハードコーティング”または”有機/無機ハイブリッドコーティング”がポリマー基材に施されることにより、未施工のポリマー基材と比較して、優れた硬度および耐摩耗性を示すポリマー基材が提供されている。通常、ハードコーティングは、紫外線/電子線の条件下または特定の温度条件下にて、フリーラジカル重合を介して架橋または硬化できる、米国特許第5242719号明細書に開示されるようなアクリレート樹脂またはそれらの誘導体に基づいている。
【0006】
中国特許公開第1556162号A明細書は、無機ナノ粒子(例えばナノ-シリカ、ナノ-アルミナ粒子)を含有するハードコーティング、およびそれらをゾル-ゲル法または機械的混合法により、アクリレートを基材とする材料内へ取り込んだハードコーティングを開示する。多くの用途において要求される摩耗尺度を満足し、所望されるレベルの硬度および引っかき抵抗性を得るために、一般に、無機ナノ粒子の充填量が非常に高くなるということに注目すべきである。中国特許公開第1556162号A明細書および同第1112594号A明細書において記載されるように、実質的に、代表的な範囲は5%〜30%である。
【0007】
しかしながら、ナノ粒子のより高いより高い充填量は、極めて粘性の高い被覆組成物をもたらし、このことは、加工上の問題を引き起し得る。さらに、ナノ粒子のより高い充填量を含有するポリマーマトリックスは脆く、衝撃荷重を付与した際に亀裂が生じてしまう。米国特許第0286383号明細書において開示されるように、脆弱性および亀裂の問題に対する発明は、塗料組成物へ可塑性成分を添加することである。しかし、硬度および引っかき抵抗性が、同時に減少してしまう。
【0008】
更に、絶縁ポリマーの表面上における耐電を防ぐために、電気伝導率は、10-6Sm-1以上であるべきである。この伝導率をもたらすための従来技術は、導電性充填剤、例えば、金属粉末、カーボンブラック、共役ポリマーなどを用いることである。近年、CNTは、それらの高い電気伝導性および高いアスペクト比に起因して、多くの研究者から注目されている。ナノチューブを含有する複合材料の浸透臨界は0.1wt%という低い値であり、このことは、常套の導電性充填剤を用いるより遙かに低い。
【0009】
カーボンナノチューブ(CNT)は、非常に強く、軽量で、導電性を有する材料であり、該CNTは、近年、計り知れない注目、特にポリマーナノコンポジットにおけるそれらの使用に関して、注目されている。
【0010】
先行技術によると、カーボンナノチューブは、主に、3〜100nmの直径と該直径の複数倍の長さを有する円筒形状の炭素チューブとして理解されている。これらのチューブは、規則性炭素原子の1層または複数層から構成されると共に、構造の観点で異なるコアを有する。これらのカーボンナノチューブは、例えば”カーボンフィブリル”または”中空カーボンファイバー”とも称される。
【0011】
カーボンナノチューブは、専門的な文献において長年知られている。一般に、飯島がナノチューブを発見したと考えられているが(刊行物:S.イイジマ、Nature、第354号、第56頁〜第58頁、1991年)、このような物質、特に複数のグラファイト層を有する繊維状のグラファイト材料は1970年代または1980年代初期から既知である。炭化水素の触媒分解からもたらされる、極めて微細な繊維状の炭素の堆積は、TatesおよびBakerによって初めて記載された(英国特許公開1469930号A1明細書、1977年および欧州特許公開第56004号A2号明細書、1982年)。しかしながら、短鎖炭化水素に基づいて製造されたカーボンフィラメントは、それらの直径に関してより詳細に記載されている。
【0012】
このようなチューブの常套の形状は、円筒形状である。円筒形状の場合、単層モノカーボンナノチューブと、多層円筒状カーボンナノチューブとに分類される。それらを製造するための常套の方法は、例えばアーク放電法、レーザーアブレーション法、化学蒸着法(CVD法)および触媒化学蒸着法(CCVD法)である。
【0013】
このような円筒形状のカーボンナノチューブは、アーク放電法によっても製造できる。飯島によるNature(第354号、第56頁〜第58頁、1991年)によると、アーク放電法により、巻き取られ、継ぎ目のない密閉された円筒を形成すると共に、相互の内部に巣状化される、2層以上のグラファイト層から構成されるカーボンチューブの構造が報告されている。炭素繊維の長手軸に沿う炭素原子のキラル配置およびアキラル配置は、回転ベクトル応じて可能である。
【0014】
凝集性のグラフェン層(いわゆるスクロール型)または崩れたグラフェン層(いわゆるタマネギ型)がナノチューブ構造の基礎である、カーボンチューブの同様の構造は、Bacon等による、J.Appl.Phys.第34巻,1960年,第283頁〜第90頁において、最初に開示されている。通常、この構造はスクロール型として表わされる。その後、同様の構造がZhou等,Science,第263巻,1994年,第1744頁〜第1747頁およびLavin等,Carbon 第40巻,2002年,第1123頁〜第1130頁によっても発見されている。
【0015】
研究されている大規模な製造法、特に多層ナノチューブ(MWNT)向けの該方法と共に、これらの化合物の適用は、ますます魅力的になっている。最低量の可能な添加剤を得るために、単層ナノチューブ(SWNT)が好ましいが、これらは未だ大規模での入手が不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第5698270号明細書
【特許文献2】米国特許第5242719号明細書
【特許文献3】中国特許公開第1556162号A明細書
【特許文献4】中国特許公開第1112594号A明細書
【特許文献5】米国特許第0286383号明細書
【特許文献6】英国特許公開1469930号A1明細書
【特許文献7】欧州特許公開第56004号A2号明細書
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】S.イイジマ、Nature、第354号、第56頁〜第58頁、1991年
【非特許文献2】Bacon等、J.Appl.Phys.第34巻,1960年,第283頁〜第90頁
【非特許文献3】Zhou等,Science,第263巻,1994年,第1744頁〜第1747頁
【非特許文献4】Lavin等,Carbon 第40巻,2002年,第1123頁〜第1130頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明において、カーボンナノチューブを充填した、耐摩耗性の帯電防止コーティングを製造する方法が開示される。CNTを添加することにより、耐摩耗性(引っ掻き抵抗性および耐フレッチングを含む)と、表面電気伝導率が同時に改良されることを見出した。さらに、該コーティングは、ナノチューブの存在下においても、その延性を損なわない。本発明に係るコーティングに使用される装置は工業基準を満たすので、本発明によるコーティングは容易に規模を拡大でき、したがって、種々の潜在用途に対して極めて有用である。
【0019】
本発明において、オゾン処理された多層カーボンナノチューブ(MWCNT)は、強化充填剤として使用され、コーティングの機械的性質、トライボロジ的性質および電気的性質を改良する。好ましくは、水蒸気の存在下においてオゾン処理を施すことにより、MWCNTを効率的に官能化させる。強い液体酸化剤を使用する従来の酸化法と比べて、オゾン分解は、処理がより便利であり、環境に優しく、費用も少ない。
【0020】
表面改質したMWCNTは、混合物へ高い剪断を施しながら、最適化された条件下にて、他の成分と機械的にブレンドされる。この方法により、特に本発明に係るオゾン処理を施したMWCNTに関する、該MWCNTの均質な分散がもたらされる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、CNTを充填した、耐摩耗性の帯電防止コーティングを製造する方法を提供する。コーティング組成物は、CNT、希釈剤および反応性成分としてのアクリレート系モノマー、ウレタン-アクリレートオリゴマー、光開始剤および他の添加剤を含有する。コーティングの硬化は、紫外線(UV)放射による架橋または重合によって行われる。
【0022】
本発明において使用されるCNTには、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)および多層カーボンナノチューブ(MWCNT)が含まれる。CNTの純度は95wt%より高い。MWCNTは、100nm未満の直径を有する。MWCNTの長さは1〜100μmである。
【0023】
本発明におけるコーティング組成物は、フリーラジカルによって開環することができ、UV放射または昇温させることにより重合/架橋することができる、C=C二重結合を有するアクリレート系モノマーを含有する。
【0024】
本発明におけるコーティング組成物は、UV放射または昇温させることによりアクリレート系モノマーと共重合する、多官能ウレタン-アクリレートを含有する。コーティング組成物中のオリゴマーに対するモノマーの割合を変化させることは、微細構造および本発明に係るコーティングの最終的な特性、例えば膜成形品質、コーティングの架橋密度、耐摩耗性、コーティングと基材との接着性などについてのある程度の調節を可能とする。
【0025】
本発明におけるコーティング組成物は、粘度を調整するチキソトロピック剤、界面活性剤および種々の平坦化剤を所望により含有してもよい。これらの添加剤は、当該技術分野において既知である。
【0026】
本発明は、ポリマーマトリクス中でCNTを均質に分散させる方法を提供する。本発明の実施態様によると、UV硬化性のコーティング組成物はCNT、アクリレート系モノマー、ウレタン-アクリレートオリゴマー、光開始剤および所望の添加剤を相互に混合させることにより調製される。混合方法には、高速混合法、3本ロールミル法、超音波振盪処理法またはこれらの方法の組合せが含まれる。処理後、CNTはマトリックス材の構成成分中で均質に分散し、得られた分散体は長期間安定である。
【0027】
実施に際し、CNT、アクリレート系モノマー、ウレタン-アクリレートオリゴマーおよび他の添加剤から構成されるブレンドは、スピンコーティング、ブレードコーティング、ロールコーティング、刷毛塗り、スプレーコーティングなどによってポリマー基材上へ塗布される。これらの方法において有害な溶媒は必要ない。本発明において使用される方法は、当該技術分野における一般的な方法であるので、容易に拡張できる。
【0028】
カーボンナノチューブを含有する湿潤膜は、更なる加熱を行うことなく周囲温度で急速にUV硬化できる。硬化時間は、主に紫外線光の強度に依存して、数秒から数分の間続く。好ましくは、乾燥塗膜は、約10〜40μmの厚さで施される。
【0029】
硬化させたコーティングは、未施工のポリマー基材と比較して優れた硬度、引っかき抵抗性/耐摩耗性、並びに耐化学性を示す。コーティングの電気伝導率は、ナノチューブの充填量の増加と共に劇的に増加する。伝導性ネットワークは、0.7wt%以上のカーボンナノチューブ充填量で形成される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、カーボンナノチューブ含有量を関数とする、本発明によるコーティングの鉛筆硬度を示す。
【図2】図2は、長期に亘るフレッチング試験の形態の略図である。
【図3】図3は、フレッチング試験後におけるコーティングの3D損傷外観である:(a)CNTなし、(b)0.7wt%のCNTを含有。
【図4】図4は、カーボンナノチューブ含有量を関数とする、本発明によるコーティングの表面抵抗率を表わす。
【図5】図5は、種々の含有量のCNTを充填した本発明によるコーティングの光透過率を表わす。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明において使用されるCNTは、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)または多層カーボンナノチューブ(MWCNT)である。SWCNTは、約0.7nm〜約2.5nmの直径と、1mm以下または1mm以上の長さを有する、単層カーボンナノチューブである。MWCNTは、直径の増加と共に複数のナノチューブを含有する。
【0032】
本発明によるカーボンナノチューブは、円筒型、スクロール型、またはタマネギ型構造に基づく、全ての単層カーボンナノチューブ構造または多層カーボンナノチューブ構造を含む。好ましくは、円筒型またはスクロール型の多層カーボンナノチューブまたはそれらの混合物である。
【0033】
好ましくは、直径に対する長さの規定量が5より高い、最も好ましくは100より高いカーボンナノチューブが使用される。
【0034】
最も好ましくは、凝集物形態のカーボンナノチューブが使用され、該凝集物は0.05〜5mm、好ましくは0.1〜2mm、最も好ましくは0.2〜1mmの範囲の平均直径を有する。
【0035】
カーボンナノチューブの平均粒径は、3〜100nm、好ましくは5〜80nm、特に好ましくは5〜60nmである。
【0036】
ただ1種の連続または崩壊グラフェン層を有するスクロール型の構造を備える、文献に記載された従来のCNTとは大きく異なり、炭素の新規な構造形態において、複数のグラフェン層は一体化され、巻き取られた形態(多層-スクロール型)のパイルを形成する。このようなカーボンナノチューブおよびカーボンナノチューブ凝集物は、例えば、未公開の独国特許出願(出願番号)第102007044031.8の主題であり、該出願において開示されるCNTおよびそれらの製造法に関する記載は、本願における開示事項に含まれ得る。このCNT構造は、単層円筒状カーボンナノチューブ(円筒状SWNT)に対応する、多層円筒状モノカーボンナノチューブ(円筒状MWNT)のような構造観点で、単純なスクロール型の既知のカーボンナノチューブに対応するものとして機能する。
【0037】
先行技術において時折記載されているタマネギ型構造とは異なり、断面を観察した際に、新規なカーボンナノチューブにおける個々のグラフェンまたはグラファイト層は、途切れることなく、CNTの中心から縁端まで連続して、明確に延びている。例えば、このことは、チューブ構造内へ他の物質をより迅速かつ向上させて挿入させることができる。なぜならば、単純なスクロール構造を有するCNT(Carbon 第34巻、1996年、第1301頁〜第1303頁)またはタマネギ型のスクロール構造を有するCNT(Science 第263巻、第1744頁〜第1747頁)と比べて、より解放させた端部は、挿入に関する入り口領域として作用できるからである。
【0038】
カーボンナノチューブを製造するために今日知られている方法には、アーク放電、レーザーアブレーション法および触媒法が含まれる。これらの多くの方法において、カーボンブラック、アモルファスカーボンおよび大きな直径を有するカーボン繊維が副生成物として生成される。触媒法の場合、担持触媒粒子上の堆積物と、ナノメーター範囲に直径を有するインサイチュ(in situ)で形成される金属中心上の堆積物とを区別できる(いわゆる流れ法)。反応条件下でガス状である炭化水素から、炭素を触媒的に堆積させることにより製造する場合(以下、CCVD;触媒的炭素蒸着)、アセチレン、メタン、エタン、エチレン、ブタン、ブテン、ブタジエン、ベンゼンおよびさらなる炭素含有出発物質が、可能性のある炭素供与体として挙げられる。好ましくは、触媒法から得られるCNTが使用される。
【0039】
一般に、触媒は、金属、金属酸化物または分解性もしくは還元性金属成分を含む。例えば、Fe、Mo、Ni、V、Mn、Sn、Co、Cuおよび他のものが、先行技術における金属として記載されている。個々の金属の多くは、ナノチューブを形成する性質を有するが、高収率および非晶質炭素の低含量は、上記金属の組合せを含む、金属触媒を用いる先行技術に従って有利にもたらされる。好ましくは、混合触媒を用いて得られるCNTが採用される。
【0040】
CNTの合成のための特に有利な系は、Fe、Co、Mn、MoおよびNi系から選択される2以上の元素を含有する金属または金属化合物の組み合わせに基づく。
【0041】
カーボンナノチューブの形成および形成されたチューブの特性は、触媒として用いられる金属成分または複数の金属成分の組合せにおける複雑な態様、使用される担体材料および触媒と該担体間の相互作用、出発物質ガスおよび分圧、水素またはさらなるガスの添加、反応温度および滞留時間または使用される反応器に依存する。
【0042】
本発明の好ましい態様は、国際特許出願公開第2006/050903号A2明細書に従う方法によって調製されたカーボンナノチューブを使用することである。
【0043】
種々の触媒を用いる上記の種々の方法において、種々の構造のカーボンナノチューブが生成され、これは、通常、カーボンナノチューブ凝集物の形態で、該方法から得ることができる。
【0044】
本発明に対して好適なカーボンナノチューブは、下記の文献において記載される方法によって得ることができる。
【0045】
100nm未満の直径を有するナノチューブの製造は、欧州特許第205556号B1明細書において初めて記載された。この場合、製造は、軽質(すなわち、短鎖および中鎖脂肪族または単核または二核芳香族)炭化水素および鉄系触媒を用いて行われ、炭素担体化合物は800℃以上〜900℃の温度にて分解される。
【0046】
国際特許出願公開第86/03455A1号明細書には、3.5〜70nmの一定直径、100を越えるアスペクト比(直径に対する長さの比)およびコア領域を備える円筒構造を有するカーボンフィラメントの製造が記載されている。これらのフィブリルは、多くの規則的な炭素原子の連続層からなり、これらはフィブリルの円筒軸の周りに同心円上に配置されている。これらの円筒状ナノチューブは、850℃〜1200℃の温度で金属含有粒子を用いて、炭素含有化合物からCVD法によって製造された。
【0047】
国際特許出願公開第2007/093337A2号明細書には、円筒構造を有する常套のカーボンナノチューブの製造に適する、触媒の製造方法が開示されている。この触媒を固定床において用いる場合、5〜30nmの範囲で直径を有する円筒形カーボンナノチューブの比較的高い収率が得られる。
【0048】
円筒状のカーボンナノチューブを製造する全く異なる方法は、Oberlin、エンドウおよびコヤマ等によって開示されている(Carbon 第14巻、1976年、第133頁)。この方法では、芳香族炭化水素、例えばベンゼンを、金属触媒上で反応させる。得られるカーボンチューブは、触媒粒子とほぼ同じ直径を有する、明確なグラファイト状の中空コアを示すと共に、さらに、より少ないグラファイト配列の炭素をもたらす。出願人は、まず、グラファイト状のコアが急速な触媒成長により形成され、次いで、更なる炭素が熱分解的に堆積するものと推定する。チューブ全体は、高温(2500℃〜3000℃)での処理によってグラファイト化できる。
【0049】
今日、多くの上述の方法(アーク放電、噴霧熱分解またはCVD)は、カーボンナノチューブの製造に使用されている。円筒状の単層カーボンナノチューブを製造することは、装置の観点において極めて高価であるが、既知の方法による形成速度は極めて低く、多くの副反応を生じさせる場合もある。その結果、所望でない不純物の比率が高くなる。すなわち、このような方法の収率は比較的低い。このため、このようなカーボンナノチューブの製造は、未だ極めて高価であるので、これらは、高度で特殊な用途において、少量で使用されるだけである。該ナノチューブは本発明においても使用できるが、円筒型またはスクロール型の多層カーボンナノチューブを使用することがより好ましい。
【0050】
今日、ネスト化(nested)した継ぎ目のない円筒状チューブ形態またはスクロール若しくはタマネギ構造の形態の多層カーボンナノチューブの製造は、触媒法を用いることにより大量に商業的に行われている。通常、これらの方法は、アーク放電法または他の既知の方法と比べてより高い生産性をもたらすと共に、主にkg単位でおこなわれている(すなわち、1日あたり数kgが製造されている)。このような方法から得られたカーボンナノチューブは、通常、単層カーボンナノチューブと比べよりコスト効率に優れているので、製品の性質を向上させるために、種々の材料における添加剤として使用されている。
【0051】
本発明の主題は、A)ウレタン-アクリレートオリゴマー、B)カーボンナノチューブ、C)(希釈剤および反応性成分としての)少なくとも1種のアクリレート系モノマー、およびD)光開始剤を含有するコーティング組成物を提供することである。
【0052】
好ましい組成物は、カーボンナノチューブB)の少なくとも一部が、酸素含有官能基を有し、所望により、カーボンナノチューブを酸化させることにより得られた酸素含有官能基を有することを特徴とする。
【0053】
別の好ましい組成物は、酸素含有官能基を有するカーボンナノチューブが、オゾンを含有するガスで酸化されることにより得られることを特徴とする。
【0054】
本発明においては、CNTの分散性を改良すると共に、マトリックス材料に対するCNTの相溶性を増加させるために、水蒸気の存在下でオゾン処理することにより表面改質されたCNTが好ましく使用される。CNTをオゾン処理して、それらの表面、エンドキャップ、および側壁に化学基を結合および形成させる。オゾン変性CNTは、それらのエンドキャップおよび側壁に結合させた酸素含有基、即ちカルボン酸基、カルボニル基、ヒドロキシル基などを含有する。
【0055】
本発明に係る組成物の特に好ましい形態において、カーボンナノチューブは、気相内で酸素/オゾンを用いる同時処理により酸化されており、該処理は下記の工程a)およびb)を含む:
a)反応領域内へカーボンナノチューブを配置し、
b)カーボンナノチューブに、オゾン、酸素、および水の混合物を通す。
【0056】
更にとりわけ好ましい組成物は、オゾン、酸素および水の混合物を、カーボンナノチューブの凝集物に連続して通すことにより、カーボンナノチューブを酸化させてなることを特徴とする。
【0057】
別の特に好ましい組成物は、カーボンナノチューブの酸化工程の間、反応領域における温度が最大で200℃、好ましくは最大で120℃、より好ましくは0〜100℃、最も好ましくは10〜60℃で保持されることを特徴とする。
【0058】
好ましくは、カーボンナノチューブの酸化工程の間、カーボンナノチューブのオゾン分解の反応時間は、120分以下、好ましくは60分以下、最も好ましくは30分以下である。
【0059】
特に好ましいカーボンナノチューブの酸化工程において、カーボンナノチューブの暴露は、1vol.-%から約11vol.-%のオゾン含有率を示すオゾン/酸素混合物で行われる。
【0060】
別の特に好ましい組成物は、カーボンナノチューブの酸化工程の間、オゾン、酸素および水の混合物の流速が、カーボンナノチューブ1gあたり約100リットル/時〜1000リットル/時、好ましくは約100リットル/時〜約200リットル/時であることを特徴とする。
【0061】
好ましい変形例における、カーボンナノチューブの酸化工程の間、反応領域における水蒸気の相対湿度は、100%以下、好ましくは少なくとも10%〜最大100%、特に好ましくは10%〜90%である。
【0062】
特に好ましい組成物は、カーボンナノチューブB)の量が、組成物の0.1〜5重量%、好ましくは0.2〜3重量%、特に好ましくは0.2〜2重量%であることを特徴とする。
【0063】
本発明において使用されるアクリレート系モノマーC)は、好ましくはジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA)、トリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA)、トリエチレングリコールジアクリレート(TEGDA)、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)、ペンタエリトリットトリアクリレート(PETA)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPEOTA)、プロポキシ化グリセロールトリアクリレート(GPTA)、エトキシ化グリセロールトリアクリレート、ジペンタエリトリトールヘキサアクリレート(DPHA)および他の多官能性アクリレートモノマーである。好ましいモノマーは、TMPTAおよびHDDAである。
【0064】
アクリレート系モノマーC)の量は、本発明に係るコーティング組成物の総重量に対して、約1wt%〜約80wt%、好ましくは約20wt%〜約50wt%まで多様である。好ましくは、コーティング組成物はこれらのモノマーのうちの少なくとも1種を含有する。
【0065】
本発明において使用されるオリゴマーA)はウレタン-アクリレートオリゴマーであり、該オリゴマーは、主たる膜形成成分として機能すると共に、コーティングの主要な特性、例えば硬化速度、柔軟性、耐摩耗性、耐溶剤性などに影響を及ぼす。好ましくは、本発明におけるこのようなウレタンアクリレートは、脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマーであり、特に、300g/molから8000g/mol以下、好ましくは400g/molから6000g/mol以下の範囲でモル質量を備えるもの、ならびに、これらの混合物である。使用される特に好ましい脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマーA)は、サイテック(CYTEC)工業社製の、例えばEbecryl(登録商標)284、Ebecryl(登録商標)1290、Ebecryl(登録商標)4820、Ebecryl(登録商標)5129、およびEbecryl(登録商標)8406で表わされるオリゴマーである(Ebecrylは、サイテック工業社の登録商標である)。
【0066】
一般に、オリゴマーA)の量は、本発明に係るコーティング組成物の総重量に対して、約1wt%〜約80wt%、好ましくは約20wt%〜約50wt%である。別の種類のオリゴマー、例えばエポキシアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリエステルアクリレート、またはそれらの組合せが、本発明のコーティング組成物に適当であることも、注目に値する。
【0067】
本発明におけるUV硬化性コーティング組成物は、減圧下、窒素雰囲気または空気中において、アクリレートモノマーC)とウレタン-アクリレートオリゴマーA)のフリーラジカル重合を十分に開始させることができる量の光開始剤D)を含有する。比較的低い紫外線強度を使用する場合、酸素に起因する幾つかの阻害を防ぐために、窒素雰囲気下または減圧下でコーティング組成物を硬化させることが望ましい。
【0068】
一般に、光開始剤D)の量は、本発明に係るコーティング組成物の総重量に対して、約0.05wt%〜約10wt%、好ましくは約0.1wt%〜約5wt%である。より多くの量の光開始剤を使用することは、より短い硬化時間を有するコーティングを生成させる。
【0069】
ベンゾフェノンおよび置換ベンゾフェノン、例えば1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニル-ケトン(IRGACURE 184)、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン(DARCUR 1173)、2-ヒドロキシ-1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチル-1-プロパノン(IRGACURE 2959)、IRGACURE500(50重量%のIRGACURE184と50重量%のベンゾフェノンの混合物)、IRGACURE1000などに基づく種々の適当なUV光開始剤を本発明において使用できる。別の適当なUV光開始剤には、以下のものが含まれる(ただし、これらに限定されない):アセトフェノンおよび置換アセトフェノン;ベンゾインおよびそのアルキルエステル;キサントンおよび置換キサントン;ジエトキシ-アセトフェノン;アミノケトン、例えばIRGACURE907、IRGACURE369およびIRGACURE1300など;ベンジルジメチル-ケタール、例えばアルファ-ジメトキシ-アルファ-フェニルアセトフェノン(IRGACURE-651)、ビス-アシル-ホスフィンオキシド(BAPO)、およびこれらのブレンド、例えばIRGACURE819、DAROCUR4265(50重量%のDARCOCUR TPOおよび50重量%のDAROCUR 1173)、IRGACURE 1700、IRGACURE 1800、およびIRGACURE 1850およびこれらの混合物(全て、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社から商業的に入手できる。
【0070】
本発明により調製されるコーティング組成物を、別の物質および添加剤と更に混合させてもよい。これらには、種々の充填剤、平滑剤、脱泡剤(例えばポリアクリレートなど)、カップリング剤(例えば、アミノアルキルトリアルコキシシランなど)および平坦化剤(例えばポリシロキサンなど)が含まれ、これらは、通常、アクリレート系コーティング技術において採用される量で使用される。風化作用(例えば太陽光など)に対する耐性を向上させるために、UV吸収剤を、コーティング組成物に通常量で添加させてもよい。フリーラジカル重合中に不活性である溶媒を使用することも可能であり、その後、該溶媒は、このUV-硬化系における硬化工程の前に除去される(所望により熱および脱気を施すことにより行われる)
【0071】
本発明によるUV-硬化性のCNT系コーティングは、種々の基材、例えばガラス、プラスチック材料、特に透明なもの、例えばポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)板およびポリメチルメタクリレート(PMMA)など、金属、例えば、アルミニウムまたはスチール板(これらを、所望により予備処理に付してもよい)、無機材料、例えばセメント、セラミックなどに対して適当である。上述の材料の一部から構成される基材も被覆できる。本発明によるコーティング組成物は、プラスチック材料、特にPMMA、PC、PVCおよび他のプラスチックに耐摩耗性で帯電防止性のコーティングを付与するのに好適である。
【0072】
本発明の対象は、本発明による組成物の硬化組成物若しくは未硬化組成物で被覆させた基材にも関する。本発明の別の対象は、本発明による組成物の硬化組成物から得られたコーティングまたはフィルムである。
【0073】
本発明の別の対象は、車両および建築構造部材用のコーティングを形成するための、本発明に係る硬化性組成物の使用である。
【0074】
コーティング組成物は、ラッカー技術において既知の常套な方法、例えば、ブレード-コーティング、ロール-コーティング、遠心式スピンコーティング、鋳込み、浸漬塗装、真空スプレー-コーティングなどにより基材材料へ施される。通常、液体のUV-硬化性樹脂は紫外線放射または電子線を照射することにより硬化する。硬化工程は、既知の方法でUVランプ(例えば、LED放射体、中圧水銀放射体、高圧水銀放射体)の下で行われる。
【0075】
また、本発明はCNTを均質に分散させる方法にも関する。分散方法には、高速混合法、3本ロールミル法、超音波振盪処理法またはこれらの方法の組合せが含まれる。配合の第1工程においては、アクリレート系モノマーと、より高い充填量のCNTを、高速溶解機(DISPERMAT)を用いて相互に混合させることにより、それらに高い剪断力がもたらされ、大きなサイズのCNT凝集物を崩壊させる。一般に、回転速度は1000rpm〜5900rpm、好ましくは3000rpm〜5000rpmまで多様であり、回転時間を0.5時間〜2時間で調整する。
【0076】
さらに、上記混合物を、ロール間の隙間を徐々に減少させた3本ロールミル(EXAKT 80E)を用いて更なる工程に付してもよい。最も小さな隙間の値は5μm以下であり、第1ロール回転速度は、30rpm〜300rpm、好ましくは60rpm〜180rpmまで多様である。これらの方法により得られた分散体は、明黒色であり、約3wt%のCNTを含有した。次段落において、それをマスターバッチと称する。
【0077】
配合に続く工程において、異なる充填量のCNTを含有するコーティングを調製するために、適当量のアクリレート系モノマー、ウレタン-アクリレートオリゴマーおよび光開始剤により、マスターバッチを希釈した。少量の添加剤(助剤)、例えば平坦化剤、表面剤およびチキソトロピック剤などをマスターバッチに添加してもよい。この分散体を室温で激しく攪拌した。
【0078】
最終工程において、分散体の適量をポリマー基材、例えばPC、PMMAまたはPVC板(〜1mmの厚さ)などの表面上に、下記の方法の1つを所望により用いて施した:例えば、スピンコーティング、スプレーコーティング、ブレードコーティング、ロールコーティングまたは刷毛による塗布。その後、湿潤膜を、波長365nmにて1.5mW/cmのUV光強度をもたらすUVユニットを備える熱エンボスシステムHEX01(JENOPTIK Mikrotechnik社)を用いて、10秒〜10分の期間、室温にてUV硬化させた。一般に、乾燥コーティング膜は約1〜100μm、好ましくは10〜40μmの厚さを有する。
【実施例】
【0079】
下記の具体的な実施例は、当業者に対して本発明をより良好に理解させることができる。これらのサンプルは説明することのみを目的とし、あらゆる方法において本発明を限定することを目的として使用されないことが理解できる。
【0080】
実施例1
配合の第1工程において、194gのトリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)と、6gの多層カーボンナノチューブ(独国特許出願第102007044031.8号明細書参照)を、高速溶解機(DISPERMAT)を用いて相互に混合させた。回転速度を3000rpmに設定し、回転時間を2時間に制御した。
【0081】
その後、上記の混合物を、ロール間の隙間を徐々に減少させた3本ロールミル(EXAKT 80E)を用いて更なる処理に付した。ギャップモードの場合、最小の隙間値は5μmと等しく、力を加える(フォースモード)の場合、隙間は1μm未満である。第1ロールの回転速度を180rpmに設定した。これらの工程を経て得られた分散体は明黒色であり、約約3wt%のCNTを含有した。下記において、それをマスターバッチと称した。
【0082】
第2工程において、異なる充填量のCNTを含有するコーティングを調製するために、適当量のウレタン-アクリレートオリゴマー(Ebecryl(登録商標)1290)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)および光開始剤である1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニル-ケトン(IRGACURE 184)により、マスターバッチを希釈した。最終的なコーティング配合物において、TMPTAに対するUAの重量比を一定にした(UA/TMPTA=1/2)。CTN充填量を0.1wt%〜1.3wt%に変化させた。
【0083】
3wt%のUV光開始剤として、IRGACURE184を選択し、UAおよびTMPTAの組成物へ導入した。表1は、コーティング組成物の配合を表わす。その一方で、少量の添加剤(助剤)、例えば平坦化剤表面剤およびチキソトロピック剤などをマスターバッチに添加してもよい。この分散体を室温で激しく攪拌した。
【0084】
【表1】

【0085】
最終工程において、この分散体の適量を、ブレードコーティング法を用いて、ポリカーボネート(PC)基材(〜1mmの厚さ)上へ施した。続いて、湿潤コーティングを、波長365nmにて1.5mW/cmのUV光強度をもたらすUVユニットを備える熱エンボスシステムHEX01(JENOPTIK Mikrotechnik社)を用いて、10分間、室温にてUV硬化させた。
【0086】
種々のCNT充填量を有する得られた固形コーティングの厚さは、主に、処理条件と分散液粘度に依存する。表面形状測定装置(Dektak150、Veeco社製、米国)を用いて、厚みを正確に測定した。各組成物に関する、PC板に対して施された皮膜厚を表2に記載した。
【0087】
【表2】

【0088】
鉛筆硬度試験は、調査対象のコーティングにおける短時間の引っかき抵抗性を評価する代表的な産業的手法である。本発明においては、GB/T6739-1996規格に従い、市販の鉛筆硬度試験機(Tianjin 試験装置、中国)を用いて、コーティングの引っ掻き抵抗性を評価した。被覆した試験片の上に鉛筆を移動させるように、水平なフィルム表面に対して45°の角度で、10Nの鉛直力を施した。
【0089】
PCの優れた物理的特性および光学的特性にもかかわらず、乏しい引っかき抵抗性は、それらの適用における欠点である。保護コーティングを有さないPC板の鉛筆等級は6Bであることが、鉛筆硬度試験より判った。図1において見出されるように、約0.7wt%のCNTのみが、CNTを含有しないコーティングと比べて、鉛筆硬度を3等級(すなわち1Hから4Hへと)増加させることができる。しかしながら、更にCNT含有量が増加するにつれ、鉛筆硬度は減少する。何故ならば、CNTのより高い含有量がコーティング内への紫外線浸透を妨害し、その結果、コーティングの重合度(すなわち架橋密度)を減少させるからである。
【0090】
特性改善を解明するために、鉛筆硬度試験の後、3Hの鉛筆等級を示す試験片に関する光学顕微鏡写真を撮影した。CNTを無充填の場合、傷の付いた跡にそって、CNTを充填しない破砕されたコーティングと魚の骨状に形成された亀裂が観察されたが、CNTで充填したコーティングの場合、明確な表面亀裂は観察されなかった。傷跡は、カーボンナノチューブ含有量が増加するにつれ、不明確になる傾向がある。
【0091】
実施例2
図2において図示される形態を有する、万能マイクロトライボテスタ(UMT-2、トライボロジ-センター社)を用いる往復スライディング試験により、本発明によるコーティングのフレッチング挙動を評価することを除き、CNTを含有する組成物を、実施例1と同様の方法で調製した。4mmの直径を有するスチール球(GCr15、所期表面粗度Ra、Rqは10nm以下である)が、対応物として機能した。0.4Nの一定印加と30rev/分の往復速度の条件下、60分間フレッチング摩耗試験をおこなった。その結果、傷の長さは8mmであった。垂直抗力および接線分力ならびに摩擦係数(COF)に関するデータを、フレッチング処理の間に同時に測定した。
【0092】
フレッチング試験の後に、摩耗させた表面を白色光干渉計(MicroXAM、ADE Phase Shift社、米国)の下で観察した。図3(a)および(b)は、CNT未充填のコーティングサンプルとCNT充填コーティングサンプルに関する三次元摩耗表面の比較を示す。摩耗表面の差は著しい。
【0093】
図3(a)における矢印によって示されるように、主に材料の表面疲労に起因する、コーティング厚方向に沿った多数の亀裂が観察され、すなわち、純粋なコーティングサンプルの摩耗表面は、極めて粗く見える。一方、0.7wt%のCNTで充填したコーティングに関しては、亀裂は存在せず、亀裂の量は劇的に減少した(図3(b)参照)。また、幾つかの目立たない溝のみが視認できる。このことは、CNTの添加がフレッチング処理における亀裂形成および伝播を抑止出来ることを示す。
【0094】
表3は、本発明によるコーティングのフレッチング試験における定量的な結果を示す。フレッチング処理におけるコーティングサンプルの質量損失は、正確に測定するには極めて小さく、白色光干渉計により直接的に測定した摩耗体積を使用して、サンプルの摩耗速度を算出した。0.7wt%のCNTで充填したコーティングの耐摩耗性は、表3から明かである。0.7wt%のCNTを添加した後、摩耗体積を60倍よりも高く減少させることができた。さらに、摩擦曲線における安定段階から算出された、平均摩擦係数(COF)値は、純粋なコーティングにおける0.79から、0.7wt%のカーボンナノチューブで充填された場合における0.59へと著しく減少し、すなわち、COFにおいて〜25%の減少をもたらした。
【0095】
【表3】

【0096】
実施例3
ASTM D257に従い、4点接触式の直流伝導率測定装置(4200-SCS、ケースレー工業社製、米国)を用いて、種々のCNT含量を有するコーティングの表面抵抗率を測定したことを除き、実施例1と同様の方法でCNT含有コーティングを調製した。接触抵抗効果を除外するために、多くの測定は4点法により行われた。試験片を5mm×5mm×40μmの大きさに切断し、銅のリード線を約1mmの間隙を備える電極に取り付けた。
【0097】
図4は、CNT含有量の増加にともない、表面電気抵抗率が減少することを示す。より低いCNT含有量では、表面抵抗率は急激に降下し(6桁分)、そして、CNT含有量がより高くなると曲線は均一になる傾向がある。この傾向は、カーボンナノチューブで充填されたポリマー系の電気伝導性に関する他の報告においても、十分に認められる。本発明においては、CNTを含有する組成物の浸透臨界は約0.7wt%であり、すなわち、この含有量にて、ナノチューブの伝導性ネットワークが形成される。
【0098】
実施例4
基準として空気を用い、266.75nm/分のスキャン速度を有するUV-vis-NIR走査スペクトロメーター(Lambda950、パーキンエルマー社、米国)により、可視波長領域における本発明に係るコーティングの透過率を評価したことを除き、実施例1と同様の方法でCNT含有コーティングを調製した。図5は、CNTの含有量が増加するにつれ透過率が減少することを示す。しかし、CNTのより低い含有量では、コーティングは未だ半透明であり、透明性が重大な必要条件ではない分野における使用に適し得ることが判る。耐摩耗性および電気伝導性などの他の有用な特性を維持するほかに、透明性を更に増加させるために、コーティング厚を減少させることも別の方法である。
【0099】
実施例5
CNTを含有するコーティングを、実施例1と同様の方法で調製した。独立したコーティングは、より高いナノチューブ含有量(1.3wt%)であっても亀裂を生じることなく屈曲できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)ウレタン-アクリレートオリゴマー、B)カーボンナノチューブ、C)希釈剤および反応性成分としての、少なくとも1種のアクリレート系モノマー、およびD)光開始剤を含有するコーティング組成物。
【請求項2】
カーボンナノチューブB)の少なくとも一部が、酸素含有官能基を有し、所望により、カーボンナノチューブの酸化により得られる酸素含有官能基を有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
酸素含有官能基を有するカーボンナノチューブが、オゾンを含有するガスを用いる酸化により得られることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
下記の工程を含み、気相中の酸素/オゾンで同時に処理することによりカーボンナノチューブを酸化させてなることを特徴とする、請求項2または3のいずれかに記載の組成物:
a)反応領域内へカーボンナノチューブを配置し、
b)カーボンナノチューブに、オゾン、酸素および水の混合物を通す。
【請求項5】
オゾン、酸素および水の混合物を、カーボンナノチューブ凝集物に連続して通すことにより、カーボンナノチューブを酸化させることを特徴とする、請求項2から4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
カーボンナノチューブの酸化工程の間、反応領域における温度を最大で200℃、好ましくは最大で120℃、より好ましくは0〜100℃、最も好ましくは10〜60℃で保持することを特徴とする、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項7】
カーボンナノチューブの酸化工程の間、カーボンナノチューブのオゾン分解の反応時間を120分以下、好ましくは60分以下、最も好ましくは30分以下とすることを特徴とする、請求項4から6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
カーボンナノチューブの酸化工程の間、カーボンナノチューブの暴露を、1vol.-%から約11vol.-%のオゾン百分率を有するオゾン/酸素混合物でおこなうことを特徴とする、請求項4から7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
カーボンナノチューブの酸化工程の間、オゾン、酸素および水の混合物の流速が、カーボンナノチューブ1gあたり、約100リットル/時〜約1000リットル/時、好ましくは約100リットル/時〜約200リットル/時であることを特徴とする、請求項4から8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
カーボンナノチューブの酸化工程の間、反応領域における水蒸気の相対湿度が、100%以下、好ましくは少なくとも10%〜100%以下、特に好ましくは10%〜90%であることを特徴とする、請求項4から9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
カーボンナノチューブのB)の量が、組成物の0.1〜5重量%、好ましくは0.2〜3重量%、特に好ましくは0.2〜2重量%であることを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
ウレタン-アクリレートオリゴマーA)が、脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマーであって、特に300g/モル〜8000g/モル以下、好ましくは400g/モル〜6000g/モル以下の範囲でモル質量を有する該脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマーであることを特徴とする、請求項1から11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
組成物中のウレタン-アクリレートオリゴマーA)の量が、総コーティング組成物の総重量に対して、1重量%〜80重量%、および好ましくは20重量%〜50重量%であることを特徴とする、請求項1から12のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
アクリレート系モノマーC)が、下記のものから成る群から選択されることを特徴とする、請求項1から13のいずれかに記載の組成物:
ジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA)、トリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA)、トリエチレングリコールジアクリレート(TEGDA)、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)、ペンタエリトリットトリアクリレート(PETA)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPEOTA)、プロポキシ化グリセロールトリアクリレート(GPTA)、エトキシ化グリセロールトリアクリレート、ジペンタエリトリトールヘキサアクリレート(DPHA)およびそれらの組合せ、好ましくはTMPTAおよびHDDA。
【請求項15】
組成物中の光開始剤D)の量が、総コーティング組成物の総重量に対して、0.05重量%〜10重量%、および好ましくは0.1重量%〜5重量%であることを特徴とする、請求項1から14のいずれかに記載の組成物。
【請求項16】
光開始剤D)が、ベンゾフェノン若しくは置換ベンゾフェノン、アセトフェノン若しくは置換アセトフェノン、ベンゾイン若しくはそのアルキルエステル、キサントン若しくは置換キサントン、ジエトキシ-アセトフェノン、アミノケトン、ベンジルジメチル-ケタールであり、および好ましくは、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-ヒドロキシ-1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチル-1-プロパノン、アルファ-ジメトキシ-アルファ-フェニルアセトフェノン、ビス-アシル-ホスフィンオキシドおよびそれらの混合物から成る群から選択されることを特徴とする、請求項1から15のいずれかに記載の組成物。
【請求項17】
請求項1から16のいずれかに記載の組成物の硬化組成物または未硬化組成物で被覆された基材。
【請求項18】
請求項1から16のいずれかに記載の組成物の硬化組成物から得られたコーティングまたはフィルム。
【請求項19】
車両および建築構造部材用のコーティングを製造するための、請求項1から16のいずれかに記載の組成物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−520355(P2012−520355A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553333(P2011−553333)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【国際出願番号】PCT/EP2010/001394
【国際公開番号】WO2010/102760
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】