説明

カーボンナノチューブコーティング膜およびその製造方法

【課題】 高い耐熱性、透明性および導電性を有し、密着性に優れたカーボンナノチューブコーティング膜およびその製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】基材の上にバインダーを塗布する工程、カーボンナノチューブまたはカーボンナノチューブとバインダー(ただしカーボンナノチューブよりもバインダーが少量となるようにする)を分散させた塗液を、最初に塗布したバインダーよりもカーボンナノチューブが少量となるように塗布する工程、を順に含み、カーボンナノチューブの一部がバインダーに埋め込まれて固定されており、他の一部はバインダーから露出していることを特徴とするカーボンナノチューブコーティング膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブコーティング膜およびその製造方法に関する。より詳細には、高い耐熱性、透明性および導電性を有し、密着性に優れたカーボンナノチューブコーティング膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電膜は一般に、乾式または湿式のいずれかの方法によって電気絶縁性基板上に形成される。乾式法では、PVD(スパッタリング、イオンプレーティング、および真空蒸着を含む)またはCVDが、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化アンチモンスズ(ATO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(FZO)など金属酸化物型の導電膜の形成に使用される。一方、湿式法では上記混合酸化物などの導電性粉末とバインダーとを使用して、導電性コーティング組成物が調製され、導電膜の形成に使用される。乾式法では、優れた透明性と優れた導電性の両方を有するフィルムが得られるが、減圧システムを必要とする複雑な装置が必要であり、生産性は低い。また、写真用フィルムやショーウィンドーなどの連続的または大型の基板への適応が困難なのも問題である。一方、湿式法では、比較的単純な装置でよく、生産性も高く、連続的または大型の基板への適応も容易である。湿式法で使用される導電性粉末は、得られるフィルムの透明性に干渉しないようにするために平均一次粒径が0.5μm以下の非常に微細な粉末を用いるのが通常である。透明コーティングフィルムを得るためには可視光を吸収せず、可視光を制御的に散乱させるために、導電性粉末は可視光の最短波長の半分以下(0.2μm)の平均一時粒径を有するものを用いるのが通常である。これら金属酸化物を用いた導電膜は本質的に耐熱性を有するが、本質的にもろく、曲げや衝撃に弱いという問題を抱えている。
【0003】
一方、本質的に導電性となる有機ポリマーおよびプラスチックの開発は1970年代後半から始まっていて、これらの成果としてポリアリニン、ポリチオフェン、ポリピロール、およびポリアセチレンなどのポリマーを主成分とする有機導電性材料が得られている。しかし、導電性ポリマーは金属酸化物から成る導電膜と比較すると耐熱性が低く、250℃以上の耐熱性を有する導電性ポリマーは得られていない。
【0004】
カーボンナノチューブ(以下、CNTということもある)は、実質的にグラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状を有しており、1層に巻いたものを単層CNT、2層に巻いたものを2層CNT、多層に巻いたものを多層CNTという。CNTはナノテクノロジーの有力な素材として、広範な分野で応用の可能性が検討されている。とりわけカーボンナノチューブは、自体が優れた真性の導電性を有することから導電性材料としての使用、例えば導電性フィルムや導電性樹脂コンポジットなどへの応用が検討されている。さらにCNTは耐熱性に優れていることから、前記導電性材料の中でも、耐熱性を求められる用途、例えば、電子回路基板用導電膜、電子写真用管状物、宇宙機用熱制御フィルムなどへも用いることができる。また、CNTは熱伝導性も有していることから、熱伝導板としても用いることができる。
【0005】
CNTは長いアスペクト比および優れた導電特性を有することから、従来の導電性カーボン粉末と比較して少量の添加で導電性を付与することができるため、特に透明導電膜としての使用が検討されてきた(特許文献1、2)。
【0006】
しかし、従来は、特許文献1のようにバインダーとして耐熱性または非耐熱性樹脂を用い、バインダー全体にCNTを混合して製膜するか、バインダーでカーボンナノチューブをオーバーコートすることによって透明導電膜を得ていた。このような方法によって得られる導電膜中では、CNTが樹脂全体に分散しているために十分な導電性を得るために必要なCNTの添加量が多くなってしまい十分な透明性が得られず、黒色の着色による熱吸収が生じてしまう。また、CNTがバインダー樹脂と混合されているか、バインダー樹脂でオーバーコートされているためにCNTが樹脂中に埋没してしまい、CNT同士の接触が樹脂により阻害されるために十分な導電性を得ることができなくなってしまう。一方、特許文献2では、カーボンナノチューブを膜から突出させるために、CNTをバインダーである非耐熱性樹脂に混合させるときに、バインダーの添加量をCNTよりも少なくして確率的にCNTをはみ出させることによってCNTが突出した状態の膜を製造している。しかし、バインダーの添加量をCNTよりも少量にすると、バインダーの使用量が少ないためにCNTの基材への固定力、すなわち密着性に乏しくなる。そのため、実用において十分な密着性を得ることができない。また、CNTおよびバインダー混合液を塗布した後に延伸や加圧する、あるいは射出成形時に表面に固定するといったバインダーの可塑性を利用した処理によりCNTを突出させる方法もあるが、Tgが高い耐熱性バインダーでこの方法を行うためには非常に高温の後処理となり、設備面での負荷が大きいことと、CNT自身がダメージを受ける可能性があり、適当ではない。さらに超耐熱性樹脂であるポリイミドのように溶融させることが困難な樹脂に対しこのような方法を適用することは困難である。
【特許文献1】特表2004−526838号公報
【特許文献2】特表2006−519712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、高い耐熱性、透明性および導電性を有し、密着性に優れたカーボンナノチューブコーティング膜およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、その課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、CNTの一部がバインダーに埋め込まれて固定されており、他の一部をバインダーから露出させた構造を取ることによって高い導電性および透明性を有し、密着性に優れたカーボンナノチューブコーティング膜を得ることができた。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)基材の上にバインダーを塗布する工程、カーボンナノチューブまたはカーボンナノチューブとバインダー(ただしカーボンナノチューブよりもバインダーが少量となるようにする)を分散させた塗液を、最初に塗布したバインダーよりもカーボンナノチューブが少量となるように塗布する工程、を順に含み、カーボンナノチューブの一部がバインダーに埋め込まれて固定されており、他の一部はバインダーから露出していることを特徴とするカーボンナノチューブコーティング膜の製造方法。
(2)耐熱性基材の上にポリイミド樹脂を介してカーボンナノチューブが固定されている耐熱性カーボンナノチューブコーティング膜であって、
前記カーボンナノチューブは前記ポリイミド樹脂よりも少量であって導電層表面に局在化しており、かつ前記カーボンナノチューブの一部が前記ポリイミド樹脂に埋め込まれて固定されており、他の一部はポリイミド樹脂から露出していることを特徴とする耐熱性カーボンナノチューブコーティング膜。
【発明の効果】
【0009】
本発明のカーボンナノチューブコーティング膜では、CNTはバインダー全体に分布しておらず、導電層表面にのみ局在化しており、また、CNTの一部がバインダーから露出しているため、従来よりも少量の添加で高い導電性が得られる。また、CNT含有量が少ないことから透明性に優れ、着色による熱吸収も小さい。
【0010】
また、CNTの一部がバインダーに埋め込まれていることから、CNTの剥離による表面抵抗値の上昇などがなく、密着力に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で用いられる基材はどのようなものであっても良いが、耐熱性を求められる用途の場合には、融点(Tm)、もしくはガラス転移温度(Tg)のうち低い方の温度が150℃以上である、金属やガラス、セラミックス、シリコンウェハなどの無機材料、耐熱性樹脂などの有機材料のような耐熱性基材が好ましい。融点 Tmとは、示差走査熱量測定において昇温速度20℃/分で測定した場合に観測される結晶融解に伴う吸熱ピーク温度とし、ピーク温度が2種類以上存在する場合は、最も高温側をTmと定義する。また、ガラス転移温度Tgとは、同測定で観察される吸熱曲線におけるガラス転移に伴う変曲点の温度とした。耐熱性樹脂の例としては、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドイミド、液晶ポリマーなどのいわゆるスーパーエンジニアリングプラスチック類が挙げられる。また、基材の形状も、円筒状、板状、フィルム状などでもよいし、他の形状に成形されたものであってもよい。
【0012】
本発明で用いられるバインダーは従来導電性塗料に使用されている各種の有機および無機バインダー、すなわち有機または無機ポリマーまたはその前駆体を用いることができるが、耐熱性を求められる用途の場合には150℃以上の融点(Tm)、もしくはガラス転移温度(Tg)を有するものが好ましい。また、耐熱性を有する限りバインダーは高分子量である必要はなく、低分子量あるいはオリゴマーであってもよい。
【0013】
無機ポリマー系バインダーの例としては、シリカ、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム等の金属酸化物のゾル、あるいは無機ポリマーの前駆体となる加水分解または熱分解性の有機リン化合物および有機ボロン化合物、ならびに有機シラン化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機鉛化合物、有機アルカリ土類金属化合物などの有機金属化合物がある。加水分解性または熱分解性の有機金属化合物の具体的例は、アルコキシドまたはその部分加水分解物、酢酸塩などの低級カルボン酸塩、アセチルアセトンなどの金属錯体である。
【0014】
有機ポリマー系バインダーの例としては、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリアミド系(ナイロン6、ナイロン11、ナイロン66、ナイロン6、10等)、ポリエステル系(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、シリコン系ポリマー、ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリスチレン誘導体、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール等)、ポリケトン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリアセタール、フッ素樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラニン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、セルロース系ポリマー、蛋白質類(ゼラチン、カゼイン等)、キチン、ポリペプチド、多糖類、ポリヌクレオチドなど有機ポリマー、ならびこれらのポリマーの前駆体(モノマー、オリゴマー)がある。これらは単に溶剤の蒸発により、あるいは熱硬化または光もしくは放射線照射による硬化により有機ポリマー系透明被膜(もしくはマトリックス(液中に配合する場合))を形成することができる。耐熱性を必要とする場合はアクリル系樹脂、シリコン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリイミド 系樹脂およびウレタン系樹脂などのうち、融点(Tm)、もしくはガラス転移温度(Tg)のうち低い方の温度が150℃以上である樹脂を用いることができるが、好ましくはポリイミド系樹脂であり、より好ましくはポリイミド前駆体(ポリアミック酸)樹脂である。ポリイミド系樹脂は有機ポリマー系としては最も耐熱性が高いものの一つであり、より厳しい高温条件で適用可能である。また、ポリイミド前駆体であるポリアミック酸樹脂を用いると、脱水イミド化反応によるポリイミドへの構造変化の際にCNTを巻き込んで強固に固定することができるために好ましい。
【0015】
基材とバインダーは接着力の点から相溶性のあるものが好ましい。また、基材そのものがバインダーとして機能するものであれば基材とバインダーは同一であってもよい。
【0016】
バインダーは固体状、粉末状のものを適当な溶媒に溶解させて用いることができる。また市販のバインダー溶液をそのまま用いたり、適宜希釈して用いることもできる。また、バインダーが液状である場合は溶媒で希釈せずにそのまま用いることもできる。
【0017】
基材にバインダーを塗布するための方法としては、公知の方法が適用でき、例えば、吹き付け塗装、浸漬コーティング、スピンコーティング、ナイフコーティング、キスコーティング、グラビアコーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、パット印刷、多の種類の印刷、またはロールコーティングなどが挙げられる。
【0018】
また、本発明で用いるバインダーは加熱、光または放射線などバインダーに応じた手段によって硬化させる。加熱により硬化するバインダーの場合には、バインダーに応じて適宜条件を設定する。光または放射線硬化性の場合には、塗布後直ちに塗膜に光または放射線を照射することにより塗膜を硬化させる。放射線としては電子線、紫外線、X線、ガンマー線等のイオン化性放射線が使用でき、照射線量はバインダー種に応じて決定する。
【0019】
また、バインダーに感光剤を添加することにより、基板上でリソグラフィーによるカーボンナノチューブコーティング膜のパターンを形成することができ、電子素子などへ適用することができる。
【0020】
カーボンナノチューブはグラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状を有しており、1層に巻いたものを単層カーボンナノチューブ、2層に巻いたものを2層カーボンナノチューブ、多層に巻いたものを多層カーボンナノチューブというが、本発明で用いられるCNTとしては、1〜5層CNTが好ましく、カーボンナノチューブコーティング膜を透過型電子顕微鏡で観察したときに観察されるCNTの半数以上が1〜5層CNTであることが好ましい。さらに好ましくは70%以上含んでいることが好ましい。1〜5層CNTは直径が数nmと細いためにカーボンナノチューブコーティング膜の透明性が高く、CNT由来の黒色の着色による熱吸収を少なくすることができる。また、細いCNTは可とう性が高いためにバインダーから露出しやすいことからも、1〜5層CNTが好ましい。より好ましくは2〜5層CNTであり、2〜5層CNTは単層CNTよりもバンドル構造を取りにくく分散しやすいために効率的に導電ネットワークを形成できるという利点があることから、半数以上が2−5層であるCNTがより好ましく用いられる。
【0021】
このようなカーボンナノチューブを得る方法について説明する。グラファイト層に欠陥の少ない高品質なカーボンナノチューブを製造する方法である触媒化学気相成長法(化学気相成長法の中で担体に遷移金属を担持した触媒を用い炭素含有ガスと接触させる方法)によって合成することができる。カーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザーアブレーション法でも合成できるが、触媒化学気相成長法で合成したカーボンナノチューブがアモルファスカーボンなどの不純物を少なくできる点でもっとも好ましく用いられる。前記製法の好ましい例として、特願2006−270013に記載されているように、担体として酸化マグネシウムを用い、炭素含有ガスとしてメタンを用いることによって2〜5層カーボンナノチューブが50%以上含まれるカーボンナノチューブ組成物を得ることができる。また、他の好ましい例として、特開2004−123505号公報に記載されているように、担体として耐熱性ゼオライトを用い、炭素含有ガスとしてアセチレンを用いることにより2〜5層カーボンナノチューブが50%以上、さらには80%以上含まれるカーボンナノチューブ組成物を得ることができる。また、他の好ましい例として、国際公開2003/68676号パンフレットに記載されているように、担体として耐熱性ゼオライトを用い、炭素源としてアルコールを用いることにより単層カーボンナノチューブが50%以上、さらには80%以上含まれるカーボンナノチューブ組成物を得ることができる。CNTの層数および比率の求め方としては、透過型電子顕微鏡で100万倍ないし200万倍で観察し、150nm四方の視野の中で視野面積の10%以上がCNTである視野中から任意に抽出した100本のCNTについて層数を数えることにより層数およびその比率を求めることができる。一つの視野中で100本の測定ができない場合は、100本になるまで複数の視野から測定する。上記測定を10カ所について行った相加平均値で評価する。このときCNT一本とは視野中で一部CNTが見えていれば一本と計上し、必ずしも両端が見えている必要はない。また視野中で2本と認識されても視野外でつながって一本となっていることもあり得るが、その場合は2本と計上する。
【0022】
本発明において得られた膜は、CNTの一部はバインダーに埋め込まれて固定されており、他の一部はバインダーから露出している。
【0023】
CNTの一部がバインダーに固定されていて他の一部が露出しているとは、任意の1本のCNTの全長のうち、一部がバインダーに埋もれており、一部がバインダーの外へ露出している状態を表す。埋もれている部分、あるいは露出している部分は必ずしもCNTの端部である必要はなく、CNTの両端がバインダーに埋もれており、中央部が弧を描くように露出するような形状も含まれる。このような状態であるCNTの比率の求め方として、透過型電子顕微鏡(倍率1万倍)で膜断面を観察した場合に視野中で観察される連続した一本のCNTの任意の一部が上述の何れかの状態で露出しているようなCNTの本数を計上する。このときCNT一本とは視野中で一部CNTが見えていれば一本と計上し、必ずしも両端が見えている必要はない。また視野中で2本と認識されても視野外でつながって一本となっていることもあり得るが、その場合は2本と計上する。複数視野の任意の100本のCNTのうち、一部露出したCNTが全体の10%以上存在することが好ましく、より好ましくは30%以上であり、さらに好ましくは50%以上である。上限としては、露出の割合が高すぎると密着性が低下する可能性があることから90%以下程度であれば十分な導電性および密着性が得られる。
【0024】
このようにCNTの一部がバインダーに埋もれて固定されていることにより、CNTは外力が加わっても導電層から剥がれることなく密着性に優れている。さらに他の一部がバインダーから露出していることによりCNT同士がバインダーに阻害されることなく直接接触することができ、高い導電性が得られる。
【0025】
また、本発明で使用されるCNTはバインダーよりも少量であることが好ましい。すなわち、単位面積あたりのカーボンナノチューブコーティング膜に使用された耐熱性バインダーの重量よりもCNTの重量が少ないことを意味する。本発明とは逆にバインダーの量がCNTより少量であれば、両者を混合した溶液を基板に塗布してカーボンナノチューブコーティング膜を形成しても、確率的にCNTがバインダーよりも外部にはみ出した状態、すなわちCNTの一部が耐熱性バインダーに固定されていて他の一部が露出している状態を取りうる可能性があるが、このような構造では、バインダーの使用量が少ないためにCNTの基材への固定力、すなわち密着性に乏しくなる。そのため、実用において十分な密着性を得るためには、バインダーの使用量をCNTよりも増やすことが好ましい。つまり、導電層中ではCNTはバインダーよりも少量であり、好ましくは、CNTの量はバインダーの量の3分の1以下、さらに好ましくは5分の1以下である。このことにより、密着性に優れたカーボンナノチューブコーティング膜を得ることができる。この際、カーボンナノチューブコーティング膜中、CNTの量がバインダーよりも少量であることの確認は、透過型電子顕微鏡でカーボンナノチューブコーティング膜の断面を観察したときに、バインダー部分の面積とCNT部分の面積を求め、それぞれにバインダーまたはCNTの比重(グラファイトの文献値2.1〜2.3の平均値2.2を採用)を乗じて重量比を求めることにより行うことができる。
【0026】
このような高い導電性を有するカーボンナノチューブコーティング膜は以下のようにして製造することができる。
【0027】
まず、基材の上に溶剤に溶解あるいは分散させたバインダーを塗布する。このとき次のCNT塗液が塗布しやすいように任意でバインダー表面付近のみが乾燥する程度に乾燥させてもよい。その上にCNTを分散させた塗液を塗布する。このとき層に含まれる溶媒の蒸発に伴ってCNTの一部がバインダーの隙間に埋め込まれて固定され、埋め込まれなかったCNTはバインダーから露出した状態となる。
【0028】
本発明で使用されるCNT分散塗液には、CNTがバインダーよりも多くなるような重量比率であればバインダーが含まれていても良いが、バインダーが実質的に含まれていないことが望ましく、CNTの重量に対して塗液中のバインダーの重量比が0.5〜0であることが好ましい。バインダーがCNTよりも多く含まれていると、CNTがバインダー中に完全に埋もれてしまい、一部露出した状態になり難い。そのため、塗液に含まれていたバインダーによってCNTの導電性が阻害され、高い導電性を得られなくなる。
【0029】
CNTを分散させた塗液には、CNTの分散性を向上させるための分散剤を含んでいてもよい。分散剤としては、その後の加熱処理によって分解または消失するものが得られた膜の導電性を阻害することがないために好ましい。また、加熱処理温度は基材およびバインダーの物性を損なわない範囲で高温であることが好ましい。好ましい加熱処理温度としては150℃以上、さらには200℃以上、さらには250℃以上、さらには300℃以上が好ましい。また、基材およびバインダーの特定を損なわないためにも、これらのTmまたはTgのうち、低い方の温度以下で加熱処理することが好ましい。バインダーとして前駆体ポリマーを用いたときは、前駆体ポリマーが反応する温度以上、かつ反応後のポリマーのTmまたはTg以下であることが好ましい。また、好ましい分散剤としてはn−プロピルアミン、イソプロピルアミンなどの沸点が150℃以下のアミン類が挙げられる。また、加熱処理温度以下で分解する低分子系界面活性剤も好ましく用いることができる。例えば加熱処理を250℃以上で行う場合には、汎用のイオン性界面活性剤あるいは非イオン性界面活性剤を用いることができる。イオン性界面活性剤は、陽イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤および陰イオン性界面活性剤にわけられる。陽イオン性界面活性剤としては、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩などがあげられる。両イオン性界面活性剤としては、アルキルベタイン系界面活性剤、アミンオキサイド系界面活性剤がある。陰イオン性界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸塩等の芳香族スルホン酸系界面活性剤、モノソープ系アニオン性界面活性剤、エーテルサルフェート系界面活性剤、フォスフェート系界面活性剤、カルボン酸系界面活性剤であり、中でも、分散能、分散安定能、高濃度化に優れることから、芳香環を含むもの、すなわち芳香族系イオン性界面活性剤が好ましく、特にアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸塩等の芳香族系イオン性界面活性剤が好ましい。非イオン性界面活性剤の例としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの糖エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエチルなどの脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリプロピレングリコールなどのエーテル系界面活性剤、ポリオキシアルキレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルジブチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルベンジルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルビスフェニルエーテル、ポリオキシアルキルクミルフェニルエーテル等の芳香族系非イオン性界面活性剤があげられる。中でも、分散能、分散安定能、高濃度化に優れることから、芳香族系非イオン性界面活性剤が好ましく、中でもポリオキシエチレンフェニルエーテルが好ましい。
【0030】
これらの分散剤は加熱処理により分解、消失してCNTの導電性を阻害することがないために好ましい。
【0031】
CNTを分散させるための分散媒としては溶媒を用いることができ、この溶媒としては使用目的に応じ任意の溶媒を用いることができる。
【0032】
非水系溶媒が必要である場合には、炭化水素類(トルエン、キシレン等)、塩素含有炭化水素類(メチレンクロリド、クロロホルム、クロロベンゼン等)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ等)、エーテルアルコール(エトキシエタノール、メトキシエトキシエタノール等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル等)、ケトン類(シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等)、アルコール類(エタノール、イソプロパノール、フェノール等)、低級カルボン酸(酢酸等)、アミン類(トリエチルアミン、トリメタノールアミン等)、窒素含有極性溶媒(N、N−ジメチルホルムアミド、ニトロメタン、N−メチルピロリドン等)、硫黄化合物類(ジメチルスルホキシド等)などがある。
【0033】
なかでも分散媒としては、水、アルコール、トルエン、アセトン、エーテルおよびそれらを組み合わせた溶媒を含有する分散媒であることが好ましい。水系溶媒が必要である場合には、水、アルコール類、アミン類などの極性溶媒が使用される。また、分散剤として常温で液状のものを用いる場合には、それを分散媒として用いることもできる。
【0034】
上記のCNT分散液には必要に応じて他のカップリング剤、架橋剤、安定化剤、沈降防止剤、着色剤、電荷調製剤、滑剤等の添加剤を配合することができ、それらの種類、量について特に制限はない。
【0035】
本発明で用いるCNT分散液の製造方法には特に制限はない。
例えば上記カーボンナノチューブと界面活性剤、溶媒を塗装製造に慣用の混合分散機(例えばボールミル、ビーズミル、サンドミル、ロールミル、ホモジナイザー、アトライター、デゾルバー、ペイントシェーカー等)を用いて混合し、液を製造することができる。また、超音波バス、超音波ホモジナイザーなどにより分散させることもできる。
CNT分散塗液を塗布するときは、バインダーのみを予め塗布した上に、このバインダーよりもカーボンナノチューブが少量となるようにCNT分散塗液を塗布することが好ましい。このように塗布することによって、得られたカーボンナノチューブコーティング膜そのものとしては、単位面積あたりのカーボンナノチューブコーティング膜に使用されたCNTの重量はバインダーの重量よりも少なくなり、バインダーによる十分な密着力を得ることができる。
【0036】
本発明によって得られたカーボンナノチューブコーティング膜は、CNTの一部がバインダーから露出しているためにCNTが直接接触することができ、従来よりも少量で高い導電性を得ることができる。具体的には、カーボンナノチューブコーティング膜を作製するときに塗布したCNTの総塗布量、すなわちCNT塗液濃度や塗布回数を適宜調製することにより、表面抵抗値が1×10Ω/sq.から1×1011Ω/sq.の範囲で自由に導電性をコントロールすることができる。例えば、透明電極のような用途のためには10Ω/sq.〜10Ω/sq.となるよう、塗布量を多めに調節すればよく、帯電防止フィルムのような用途のためには10Ω/sq.〜1011Ω/sq.となるように塗布量を少なめに調節すればよい。
【0037】
好ましいCNT塗布量は0.1〜1000mg/m2の範囲で必要な導電性を勘案し、適宜調整すればよい。
【0038】
本発明のカーボンナノチューブコーティング膜は、従来のようにCNTとバインダーを混合して製膜したものと比較すると、バインダーの表面近傍に局在化してCNTが存在しているため、カーボンナノチューブコーティング膜の透明性が高く、CNT由来の黒色の着色による熱吸収を少なくすることができる。本発明では、耐熱性基材の550nmにおける透過率を100%としたときのカーボンナノチューブコーティング膜の透過率を60%以上とすることができる。すなわち基材のみの透過率をブランクとしたときの基材を含むカーボンナノチューブコーティング膜全体の透過率が60%以上となる。カーボンナノチューブコーティング膜として透明性が望まれる場合には透過率を80%以上、さらには90%以上とすることが好ましい。
【0039】
本発明のカーボンナノチューブコーティング膜は密着性に優れている。密着性に優れているとは、CNTが基材に強固に固定されていることであり、所定の密着性試験を行った後でもCNTがカーボンナノチューブコーティング膜から脱落しないために、試験後の表面抵抗値が試験前の3倍以内であることを指す。密着性の評価方法はJIS K5600―5−6(1999年)(付着性:クロスカット法)に準拠して次の通りに行う。ただし膜表面に切り目は入れず、表面抵抗値の変化のみで評価する。まず、カーボンナノチューブコーティング膜の試験箇所を4隅4ヶ所・中央1ヶ所とし、その表面抵抗値をJIS準処の低抵抗率計ロレスタEP MCP−T360(ダイアインスツルメンツ製、測定レンジ:10 -3 〜107Ω)およびハイレスターUP MCP-HT450(ダイアインスツルメンツ製、測定レンジ:10 4 〜1013Ω)を用いて測定する。次にニチバン社の粘着テープ「セロテープ(登録商標)CT405A−18」を貼り付け、指でこすって完全に密着させ、1分放置後セロテープ(登録商標)の一端を持ってフィルム表面に対して60度の角度を保ちながら1秒程度で引き剥がす。その後、同一箇所の表面抵抗値を測定する。測定を5カ所で行った後に平均し、テープ剥離前に対するテープ剥離後の表面抵抗値の変化率が3倍以内の場合に密着性が優れていると見なすことができる。
【0040】
本発明によって得られたカーボンナノチューブコーティング膜は、電磁波遮蔽、タッチパネル、液晶ディスプレイ、可とう性透明電極などの一般的な導電あるいは帯電防止膜用途に用いられる他、耐熱性バインダーを用いた場合にはその耐熱性を生かして、電子回路基板用導電膜、電子写真用転写ベルト、定着ベルトなどの管状物、宇宙機用熱制御フィルムなどに用いることができる。また、CNTの高い熱伝導性を生かした熱伝導板としても利用することができる。
【実施例】
【0041】
<参考例1>
酢酸第1鉄(アルドリッチ社製)0.01gと酢酸コバルト4水和物(ナカライテスク社製)0.21gとをエタノール(ナカライテスク社製)40mLに加え、超音波洗浄機で10分間懸濁した。この懸濁液に結晶性チタノシリケート粉末(エヌイーケムキャット社製“ チタノシリケート”)(TS−1)2.0gを加え、超音波洗浄機で10分間処理し、60℃の恒温下でメタノールを除去することにより、TS−1の結晶表面に上記酢酸金属塩を担持した固体触媒を得た。
【0042】
内径32mmの石英管中央部の石英ボート上に、上記で調製した固体触媒1.0gをとり、アルゴンガスを600cc/分で供給した。石英管を電気炉中に設置して、中心温度を800℃に加熱した(昇温時間30分)。800℃になったところで、高純度アセチレンガス(高圧ガス工業製)を5cc/分で30分間供給した後、アセチレンガスの供給をやめ、温度を室温まで冷却し、カーボンナノチューブを含有する組成物を取り出した。得られたカーボンナノチューブを含有する組成物0.4gを電気炉に入れ大気雰囲気で400℃(昇温時間40分)に加熱した。400℃で60分保持した後、室温まで冷却した。さらに、このカーボンナノチューブを含有する組成物を濃度2.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液200mL中に投入後、80℃に保持しながら5時間撹拌した。その後、孔径10μmのメンブレンフィルターで吸引濾過し、固液分離した。得られた固形物を蒸留水1Lで洗浄後、濃度5.1mol/Lの硫酸50mL中に投入し、80℃に保持しながら2時間撹拌した。その後、濾紙(東洋濾紙(株)(Toyo Roshi Kaisha)製、フィルターペーパー(Filter Paper) 2号、125mm)を用いて固形物を分離した。濾紙上の固形物を、蒸留水500mLで洗浄後、60℃で乾燥してカーボンナノチューブ組成物を回収率90%で得た。
【0043】
上記のようにして得たカーボンナノチューブ組成物を高分解能透過型電子顕微鏡で倍率200万倍で観察した。複数視野から任意に選択した100本のカーボンナノチューブの層数を調べたところ、2〜5層CNTが92本であった。
【0044】
<参考例2>
クエン酸鉄(III)アンモニウム(和光純薬工業製)0.5gをメタノール(関東化学社製)25cmに溶解した。この溶液に、軽質マグネシア(和光純薬工業製)を5g加え、超音波洗浄機で60分間処理し、40℃乃至60℃の恒温下で攪拌しながらメタノールを除去して乾燥し、軽質マグネシア粉末に金属塩が担持された固体触媒を得た。
【0045】
次に内径64mmの縦型石英管の中央部の石英ウール上に、上記で調製した固体触媒1.0gをとり、空気を1600cm/分で供給した。石英管を電気炉中に設置して、中心温度を900℃に加熱した(昇温時間120分)。900℃に到達した後、窒素ガスにて1000cm/分、10分間パージした後、メタンガス(高圧ガス工業製)を18cm/分、窒素ガスを376cm/分(メタン濃度4.7%)、反応圧力101325Paの条件で60分供給した後、メタンガスの供給をやめ、窒素流通下で温度を室温まで冷却し、カーボンナノチューブを含有する組成物を取り出した。
【0046】
さらに、上記のカーボンナノチューブから触媒を除去するため、次のように精製処理を行った。400℃で1時間空気下焼成をした後、6Nの塩酸水溶液に添加し、80℃のウォーターバス内で2時間攪拌した。濾過して得られた回収物を、さらに6Nの塩酸水溶液に添加し、80℃のウォーターバス内で1時間攪拌した。濾過し、数回水洗した後、濾過物を120℃のオーブンで一晩乾燥した。
【0047】
上記のようにして得たカーボンナノチューブ組成物を高分解能透過型電子顕微鏡で倍率200万倍で観察した。複数視野から任意に選択した100本のカーボンナノチューブの層数は、2−5層が60本、単層が10本であった。
【0048】
<参考例3>
Y型ゼオライト(HSZ−390HUA(東ソー(株)製:シリカ/アルミナ比=約400))約1g、酢酸鉄(Fe((CHCOO)2Fe)及び酢酸コバルト((CH3COO)Co・4HO)を準備した。鉄及びコバルトがそれぞれ2.5wt%となるように、エタノール20cm中に溶解し、さらにY型ゼオライトを混合した。その後得られたものを10分間超音波にかけ、80℃で24時間乾燥させて、黄白色粉末の触媒を得た。
【0049】
次に上記黄白色粉末の触媒を石英ボートの上にのせ、電気炉内の石英チューブ内に設置した。電気炉内を700℃に昇温するまでの間(約30分間)、石英チューブ(内径27mm)内にArガスを200sccmで流入させた。700℃に達した後、石英チューブ内を真空にし、その後約10分間、その温度を維持しつつ、エタノール雰囲気下にした。なお、この際のエタノール圧は5〜10Torr(0.67〜1.3kPa)であり、真空ポンプによって100〜300sccmの流れを作った。この流れは、時間当たりのエタノールの減量から計算できる。次いで、降温して、石英ボート上に黒粉を得た。
【0050】
さらにカーボンナノチューブから担体及び触媒を除去するため、参考例1と同様に精製処理を行った。
【0051】
上記のようにして得たカーボンナノチューブ組成物を高分解能透過型電子顕微鏡で倍率200万倍で観察した。複数視野から任意に選択した100本のカーボンナノチューブの層数を調べたところ、単層CNTが93本であった。
【0052】
<参考例4>
DCスターラーを備えた500mlセパラブルフラスコ中に、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル29.15g(146mmol)およびN,N’−ジメチルアセトアミド224gを入れ、窒素雰囲気下にて室温で攪拌した。
【0053】
次に、30分から1時間後にかけてピロメリット酸二無水物30.7988g(141mmol)を数回に分けて投入し、1時間撹拌した後、ピロメリット酸二無水物のN,N’−ジメチルアセトアミド溶液(6重量%)15.87gを30分かけて滴下し、さらに1時間撹拌した。
【0054】
得られたポリアミック酸溶液6.09gをN-メチルピロリドン16.33gで希釈し、固形分濃度5%の塗布用ポリアミック酸溶液を調製した。このポリアミック酸をキュアして得られるポリイミドのTgは428℃であった。
【0055】
実施例1
50mLの容器に<参考例1>で得たカーボンナノチューブ組成物60mg、N-メチルピロリドン30mlを加えて超音波ホモジナイザー出力240W、30分間で氷冷下分散処理した。得た液を高速遠心機を使用し20000G、15分遠心して上清を回収し、カーボンナノチューブ塗液(a)を調製した。さらにカーボンナノチューブ組成物120mg、240mgとしたものを同様に調製し、塗液(b)、(c)とした。これらの塗液の一部を濾過回収、秤量することにより求めたCNT濃度はそれぞれ最大0.14wt%(a)、0.28%(b)、0.56%(c)であった。
【0056】
参考例4で得た塗布用ポリアミック酸をガラス基板上にバーコーター(No.8)を用いて塗布し、100℃で30分乾燥させた。その後、上記のカーボンナノチューブ塗液(a),(b),(c)をそれぞれ塗布し、100℃で30分乾燥させた。その後、350℃で15分キュア(加熱)することにより、ポリアミック酸がポリイミドに変化したカーボンナノチューブコーティング膜(A)、(B)、(C)を得た。同一のバーコーターで塗布したときのバインダー溶液およびCNT塗液の乾燥前(wet)塗布膜厚は同一であり、これらのカーボンナノチューブコーティング膜に含まれるCNT/ポリイミド比(重量比)はそれぞれの濃度比と等しく、(A)は0.14/5=0.028、(B)は0.28/5=0.056、(C)は0.56/5=0.11であった。
【0057】
得られたカーボンナノチューブコーティング膜の表面抵抗値および光透過率を測定した。表面抵抗値はJISK7149準処の4端子4探針法を用いロレスタEP MCP−T360((株)ダイアインスツルメンツ社製)を用いて行った。高抵抗測定の際は、ハイレスターUP MCP-HT450(ダイアインスツルメンツ製、10V、10秒)を用いて測定した。光透過率は分光光度計(日立製作所U-2001)の550nmでの光透過率を測定し、ガラス基板の透過率を100%としたときの相対値で表した。
【0058】
さらに得られたカーボンナノチューブコーティング膜の密着性をJIS K5600―5−6(1999年)(付着性:クロスカット法)に準拠して次の通りに行った。ただし膜表面に切り目は入れず、表面抵抗値の変化のみで評価した。まず、カーボンナノチューブコーティング膜の試験箇所を定め、その表面抵抗値を測定した。次にニチバン社の粘着テープ「セロテープ(登録商標)CT405A−18」を貼り付け、指でこすって完全に密着させ、1分放置後セロテープ(登録商標)の一端を持ってフィルム表面に対して60度の角度を保ちながら1秒程度で引き剥がした。その後、同一箇所の表面抵抗値を測定した。測定を5カ所で行った後に平均した。
【0059】
結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
この結果より、得られたカーボンナノチューブコーティング膜は高い導電性および透明性を有しており、密着性にも優れていた。
【0062】
次にカーボンナノチューブコーティング膜の断面を切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察を行った写真(1万倍)を図1に示す。カーボンナノチューブがバインダーに一部埋め込まれて固定されており、一部が露出していることが分かる。露出しているCNTの本数は全体の11%であった。
【0063】
実施例2
50mLの容器に<参考例2>で得たカーボンナノチューブ組成物120mg、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(アイ・シー・エヌ社製)240mgを量りとり、蒸留水30mLを加えて、超音波ホモジナイザー出力240W、30分間で氷冷下分散処理しカーボンナノチューブ組成物液を調製した。得た液を高速遠心機を使用し20000G、15分遠心して上清を回収し、カーボンナノチューブ塗液(d)を調製した。塗液の一部を濾過回収、分散剤を除去するために400℃1時間焼成した後秤量して求めたCNT濃度は0.36%であった。
【0064】
参考例4で得た塗布用ポリアミック酸を耐熱性ポリイミドフィルムであるカプトン100H(東レ・デュポン社製)上にバーコーター(No.8)を用いて塗布し、100℃で30分乾燥させた。その後、上記のカーボンナノチューブ塗液(d)を塗布し、80℃で5分乾燥させた。再度塗液(d)を塗布、乾燥を繰り返した。その後、350℃で15分キュア(加熱)することにより、ポリアミック酸がポリイミドに変化したカーボンナノチューブコーティング膜(D)を得た。カーボンナノチューブコーティング膜に含まれるCNT/ポリイミド比は0.072であった。
【0065】
得られたカーボンナノチューブコーティング膜を実施例1と同様に評価したところ、キュア後の表面抵抗値が3000Ω/sq.、透過率が86%であった。また、密着性試験後も透過率は変化せず、表面抵抗値が3300Ω/sq.であった。
【0066】
また、このカーボンナノチューブコーティング膜の断面のTEMで観察したところ、実施例1と同様にカーボンナノチューブがバインダーに一部埋め込まれて固定されており、一部が露出していることが分かった。露出しているCNTの本数は全体の23%であった。
【0067】
実施例3
50mLの容器に<参考例3>で得たカーボンナノチューブ組成物120mg、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(アイ・シー・エヌ社製)60mgを量りとり、蒸留水30mLを加えて、超音波ホモジナイザー出力240W、30分間で氷冷下分散処理しカーボンナノチューブ組成物液を調製した。得た液を高速遠心機を使用し20000G、15分遠心して上清を回収し、カーボンナノチューブ塗液(e)を調製した。塗液中のCNT濃度は0.16%であった。
【0068】
参考例4で得た塗布用ポリアミック酸をカプトン100H(東レ・デュポン社製)上にバーコーター(No.8)を用いて塗布し、100℃で30分乾燥させた。その後、上記のカーボンナノチューブ塗液(e)を塗布し、80℃で5分乾燥させた。その後、350℃で15分キュア(加熱)することにより、ポリアミック酸がポリイミドに変化したカーボンナノチューブコーティング膜(E)を得た。カーボンナノチューブコーティング膜に含まれるCNT/ポリイミド比は0.032であった。
【0069】
得られたカーボンナノチューブコーティング膜を実施例1と同様に評価したところ、キュア後の表面抵抗値が5×10Ω/sq.、透過率が98%であった。また、密着性試験後も透過率は変化せず、表面抵抗値が7×10Ω/sq.であった。
【0070】
また、このカーボンナノチューブコーティング膜の断面のTEMで観察したところ、実施例1と同様にカーボンナノチューブがバインダーに一部埋め込まれて固定されており、一部が露出していることが分かった。露出しているCNTの本数は全体の15%であった。
【0071】
実施例4
カーボンナノチューブとして多層カーボンナノチューブ(カーボンナノチューブコーポレート社製;6層以上のCNTが70%)240mgを用いた他は実施例1と同様にしてCNT塗液(f)を調製した。塗液中のCNT濃度は0.4%であった。
【0072】
参考例4で得た塗布用ポリアミック酸をカプトン100H(東レ・デュポン社製)上にバーコーター(No.8)を用いて塗布し、100℃で30分乾燥させた。その後、上記のカーボンナノチューブ塗液(f)を塗布し、100℃で30分乾燥させた。その後、350℃で15分キュア(加熱)することにより、ポリアミック酸がポリイミドに変化したカーボンナノチューブコーティング膜(F)を得た。カーボンナノチューブコーティング膜に含まれるCNT/ポリイミド比は0.08であった。
【0073】
得られたカーボンナノチューブコーティング膜を実施例1と同様に評価したところ、キュア後の表面抵抗値が4×10Ω/sq.、透過率が85%であった。また、密着性試験後も透過率は変化せず、表面抵抗値が7×10Ω/sq.であった。
【0074】
また、このカーボンナノチューブコーティング膜の断面のTEMで観察したところ、実施例1と同様にカーボンナノチューブがバインダーに一部埋め込まれて固定されており、一部が露出していることが分かった。露出しているCNTの本数は全体の27%であった。
【0075】
比較例1
参考例4で得た塗布用ポリアミック酸に実施例1で得たカーボンナノチューブ塗液(c)を等量混合し、ポリアミック酸が含有されたカーボンナノチューブ塗液(g)を調製した。これをガラス基板に塗布、100℃で30分乾燥した。塗布・乾燥を2回行った後キュアしてカーボンナノチューブコーティング膜(G)を得た。カーボンナノチューブコーティング膜に含まれるCNT/ポリイミド比は0.11であった。
【0076】
得られたカーボンナノチューブコーティング膜を実施例1と同様に評価したところ、キュア後の表面抵抗値が1×10Ω/sq.、透過率が91%であった。さらに、このカーボンナノチューブコーティング膜の断面のTEMで観察したところ、カーボンナノチューブがバインダーに完全に埋もれていた。
【0077】
比較例2
実施例1で得たカーボンナノチューブ塗液(a)をカプトン100H(東レ・デュポン社製)上にバーコーター(No.8)を用いて塗布し、80℃で5分乾燥させた。その後、350℃で15分キュア(加熱)しカーボンナノチューブコーティング膜(A‘)を得た。
【0078】
得られたカーボンナノチューブコーティング膜を実施例1と同様に評価したところ、キュア後の表面抵抗値が2×10Ω/sq.、透過率が97.5%であった。しかし、密着性試験後は、表面抵抗値が>1×1011Ω/sq.となった。また、密着性試験後のカーボンナノチューブコーティング膜表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、CNTはほとんど残っていなかった。
【0079】
比較例3
参考例4で得た塗布用ポリアミック酸をN−メチルピロリドンで10倍希釈し、固形分濃度を0.5%とした。実施例1で得たカーボンナノチューブ塗液(c)(CNT濃度0.56%)を等量混合し、ポリアミック酸が含有されたカーボンナノチューブ塗液(h)を調製した。これをガラス基板に塗布、100℃で乾燥した。塗布・乾燥を2回行った後、キュアしてカーボンナノチューブコーティング膜(H)を得た。カーボンナノチューブコーティング膜に含まれるCNT/ポリイミド比は1.12であった。
【0080】
得られたカーボンナノチューブコーティング膜を実施例1と同様に評価したところ、キュア後の表面抵抗値が2×10Ω/sq.、透過率が93%であった。しかし、密着性試験後は、表面抵抗値が1×10Ω/sq.となり、密着性に劣ることが分かった。また、断面のTEMを観察したところ、一部が露出しているCNTがあるものの、露出しているCNTの本数は全体の4%であった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、高い導電性および透明性を有し、密着性に優れたカーボンナノチューブコーティング膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】カーボンナノチューブコーティング膜(A)の断面からみた透過型電子顕微鏡写真図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の上にバインダーを塗布する工程、カーボンナノチューブまたはカーボンナノチューブとバインダー(ただしカーボンナノチューブよりもバインダーが少量となるようにする)を分散させた塗液を塗布する工程、を順に含むことを特徴とするカーボンナノチューブコーティング膜の製造方法。
【請求項2】
カーボンナノチューブ分散塗液を塗布する工程の際に、最初に塗布したバインダーよりもカーボンナノチューブが少量となるように塗布することを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブコーティング膜の製造方法。
【請求項3】
カーボンナノチューブの一部がバインダーに埋め込まれて固定されており、他の一部はバインダーから露出していることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブコーティング膜の製造方法。
【請求項4】
前記バインダーが耐熱性バインダーであることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブコーティング膜の製造方法。
【請求項5】
前記耐熱性バインダーがポリイミド樹脂またはその前駆体であることを特徴とする請求項4に記載のカーボンナノチューブコーティング膜の製造方法。
【請求項6】
カーボンナノチューブを分散させた塗液に、さらに加熱により分解又は消失する分散剤が添加されていることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブコーティング膜の製造方法。
【請求項7】
カーボンナノチューブコーティング膜に含まれるカーボンナノチューブの半数以上が1〜5層であることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブコーティング膜の製造方法。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブコーティング膜の表面抵抗値が1×10Ω/sq.から1×1011Ω/sq.であることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブコーティング膜の製造方法。
【請求項9】
基材のみの550nmにおける透過率を100%としたときのカーボンナノチューブコーティング膜の透過率が60%であることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブコーティング膜の製造方法。
【請求項10】
前記カーボンナノチューブコーティング膜のセロハンテープによる剥離試験後の表面抵抗値が剥離前の3倍以内であることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブコーティング膜の製造方法。
【請求項11】
耐熱性基材の上にポリイミド樹脂を介してカーボンナノチューブが固定されている耐熱性カーボンナノチューブコーティング膜であって、
前記カーボンナノチューブは前記ポリイミド樹脂よりも少量であって導電層表面に局在化しており、かつ前記カーボンナノチューブの一部が前記ポリイミド樹脂に埋め込まれて固定されており、他の一部はポリイミド樹脂から露出していることを特徴とする耐熱性カーボンナノチューブコーティング膜。
【請求項12】
耐熱性カーボンナノチューブコーティング膜に含まれるカーボンナノチューブの半数以上が1〜5層であることを特徴とする請求項11に記載の耐熱性カーボンナノチューブコーティング膜。
【請求項13】
前記耐熱性カーボンナノチューブコーティング膜の表面抵抗値が1×10Ω/sq.から1×1011Ω/sq.であることを特徴とする請求項11に記載の耐熱性カーボンナノチューブコーティング膜。
【請求項14】
耐熱性基材のみの550nmにおける透過率を100%としたときのカーボンナノチューブコーティング膜の透過率が60%であることを特徴とする請求項11に記載の耐熱性カーボンナノチューブコーティング膜。
【請求項15】
前記耐熱性カーボンナノチューブコーティング膜のセロハンテープ剥離試験後の表面抵抗値が剥離前の3倍以内であることを特徴とする請求項11から14のいずれか1項に記載の耐熱性カーボンナノチューブコーティング膜。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−200613(P2008−200613A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40099(P2007−40099)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】