説明

カーボンナノチューブ分散剤

【課題】有機溶媒中でカーボンナノチューブをその単独サイズまで分散させ得るとともに、成膜性が良好で導電性のばらつきが小さい膜を与え得る分散剤を提供する。
【解決手段】式12または13で表される繰り返し単位構造を有する高分岐ポリマーと、環状アミド構造を繰り返し単位として有する高分子化合物と、からなるカーボンナノチューブ分散剤。


(式中Z1およびZ2は、それぞれ独立して水素原子、またはフェニル基、チエニル基等の一価有機基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ分散剤に関し、さらに詳述すると、トリアリールアミン構造を分岐点として含有する高分岐ポリマーと、環状アミド構造を繰り返し単位構造として有する高分子と、からなるカーボンナノチューブ分散剤、並びにこの分散剤を含むカーボンナノチューブ含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、CNTとも略記する)は、ナノテクノロジーの有力な素材として、広範な分野で応用の可能性が検討されている。その用途としては、トランジスタや、顕微鏡用プローブなどのように単独のCNTそのものを使用する方法と、電子放出電極、燃料電池用電極、またはCNTを分散させた導電性複合体などのように、多数のCNTをまとめてバルクとして使用する方法と、に大別される。
単独のCNTを使用する場合、CNTを溶媒中に加えてこれに超音波を照射した後、電気泳動等で単一に分散しているCNTのみを取り出す方法などが用いられている。
【0003】
一方、バルクで用いる導電性複合体では、マトリックス材となるポリマー中などに良好に分散させる必要がある。
しかし、一般的にCNTは分散しにくいという問題があり、通常の複合体ではCNTの分散が不完全なまま用いられているため、十分にCNTの性能を発現させているとは言い難い。
さらに、この問題は、CNTの各種応用を難しくさせることにもつながっている。このためCNTの表面改質、表面化学修飾などによって分散性を向上させる方法が種々検討されている。
【0004】
このようなCNTを分散させる方法として、コイル状構造を持つポリ((m−フェニレンビニレン)−co−(ジオクトキシ−p−フェニレンビニレン))をCNT表面に付着させる方法(例えば特許文献1参照)が提案されている。
ここでは、有機溶媒中にCNTを孤立に分散させることが可能で、CNT1本にポリマーが付着している様子を示しているが、一度ある程度にまで分散した後に凝集が起こり、沈殿物としてCNTを捕集するというものであり、長期的にCNTを分散させた状態で保存できるものではなかった。
【0005】
上記の問題点を解決する方法として、ポリビニルピロリドンによりCNTをアミド系極性有機溶媒中に分散させる方法(例えば特許文献2参照)、アルコール系有機溶媒中に分散させる方法(例えば特許文献3参照)が提案されている。
しかし、分散剤として用いられるポリマーは直鎖状ポリマーであることを特徴としたものであり、高分岐ポリマーについての知見は明らかにされていない。
【0006】
一方、CNTの分散剤として高分岐ポリマーに着目した方法(例えば特許文献4参照)も提案されている。高分岐ポリマーとはスターポリマーや、デンドリティック(樹枝状)ポリマーとして分類されるデンドリマー、ハイパーブランチポリマーなどのように、骨格内に分岐を有するポリマーである。
これらの高分岐ポリマーは、従来の高分子が一般的に紐状の形状であるのに対し、積極的に分岐を導入している点で比較的疎な内部空間や粒子性を有するという特異な形状を示すと共に、各種官能基の導入により修飾可能な多数の末端を有しており、これらの特徴を利用することで直鎖状のポリマーと比較してCNTを高度に分散させる可能性がある。
【0007】
しかし、前述の高分岐ポリマーを分散剤として用いた特許文献4の技術では、長期的にCNTの孤立分散状態を保つには、機械的な処理のほかに熱処理をも必要としており、CNTの分散能はそれほど高いものではなかった。
さらに、この特許文献4の技術では、分散剤を合成する際の収率が低く、収率を向上させるためにカップリング剤として多量の金属触媒を使用する必要があることから、高分岐ポリマー中に金属成分が残留する虞があるため、CNTとの複合体の用途では応用が限定される虞がある。
【0008】
また、上記ポリビニルピロリドンを分散剤に用いて得られたCNT分散液は、成膜性が悪く、CNTが均一に分布した膜が得られにくく、その結果、膜の導電性が不均一となってデバイス作製時に不利であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−44216号公報
【特許文献2】特開2005−162877号公報
【特許文献3】特開2008−24522号公報
【特許文献4】国際公開第2008/139839号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、有機溶媒中などの媒体中で、CNTをその単独サイズまで分散させ得るとともに、成膜性が良好で、成膜した際に導電性のばらつきが小さい膜を与え得るカーボンナノチューブ分散剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、トリアリールアミン構造を分岐点として含有する高分岐ポリマーが、CNTの分散能に優れること、およびこの高分岐ポリマーをCNTの分散剤として用いた場合に、CNT(の少なくとも一部)を、加熱処理しなくとも、その単独サイズまで孤立分散させ得ることを既に見出している(PCT/JP2010/70973)。
この知見を基に、本発明者はさらなる検討を重ねた結果、上記高分岐ポリマーと環状アミド構造を繰り返し単位として有する高分子化合物とを併用することで、CNTの分散性を維持しつつ、成膜性や、薄膜の導電性の不均一性を改善し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、
1. 式(1)または式(2)で表される繰り返し単位を有する高分岐ポリマーと、環状アミド構造を繰り返し単位として有する高分子化合物と、からなることを特徴とするカーボンナノチューブ分散剤、
【化1】

[式(1)および(2)中、Ar1〜Ar3は、それぞれ独立して、式(3)〜(7)で表されるいずれかの二価の有機基を表し、Z1およびZ2は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または式(8)〜(11)で表されるいずれかの一価の有機基を表し(ただし、Z1およびZ2が同時に前記アルキル基となることはない。)、式(2)中、R1〜R4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表す。
【化2】

(式中、R5〜R38は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表す。)
【化3】

{式中、R39〜R62は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいアルキル基、炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいハロアルキル基、フェニル基、OR63、COR63、COOR63、またはNR6364(これらの式中、R63およびR64は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいアルキル基、炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいハロアルキル基、またはフェニル基を表す。)を表す。}]
2. 前記高分岐ポリマーのゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量が、1,000〜2,000,000である1のカーボンナノチューブ分散剤、
3. 前記繰り返し単位が、式(12)で表される1または2のカーボンナノチューブ分散剤、
【化4】

(式中、Z1およびZ2は、前記と同じ意味を表す。)
4. 前記Z2が、水素原子である1〜3のいずれかのカーボンナノチューブ分散剤、
5. 前記Z1が、水素原子、チエニル基、または式(8′)で表される一価の有機基である4のカーボンナノチューブ分散剤、
【化5】

{式中、R41は、前記と同じ意味を表す。}
6. 前記繰り返し単位が、式(13)で表される1のカーボンナノチューブ分散剤、
【化6】

7. 前記環状アミド構造を繰り返し単位として有する高分子化合物が、ポリビニルピロリドンである1〜6のいずれかのカーボンナノチューブ分散剤、
8. 前記高分岐ポリマーが、前記高分岐ポリマーおよび環状アミド構造を繰り返し単位として有する高分子化合物の総質量に対し、1〜99質量%含まれる1〜7のいずれかのカーボンナノチューブ分散剤、
9. 1〜8のいずれかのカーボンナノチューブ分散剤と、カーボンナノチューブとを含む組成物、
10. 前記カーボンナノチューブ分散剤が、前記カーボンナノチューブの表面に付着して複合体を形成している9の組成物、
11. さらに有機溶媒を含む9または10の組成物、
12. 前記カーボンナノチューブが、前記有機溶媒に孤立分散している11の組成物、
13. 前記複合体が、前記有機溶媒に孤立分散している11の組成物、
14. 前記カーボンナノチューブが、単層カーボンナノチューブ、2層カーボンナノチューブおよび多層カーボンナノチューブから選ばれる少なくとも1種である9〜13のいずれかの組成物、
15. 9〜14のいずれかの組成物から得られる薄膜
を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の分散剤は、トリアリールアミン構造を分岐点として含有する高分岐ポリマーを含むものであるため、CNTの分散能に優れ、加熱処理することなく、CNTをその単独サイズまで孤立分散させ得る。
したがって、本発明の分散剤を用いることで、CNTの少なくとも一部をその単独サイズ(直径0.4〜100nm)にまで分離して、いわゆる「孤立分散」の状態で安定に(凝集させることなく)有機溶媒に分散させることができる。なお本発明において「孤立分散」とは、CNTが相互の凝集力によって塊状や束状、縄状となることなく、CNTの1本1本がバラバラになって媒体に分散して存在している状態を意味する。
しかも分散剤、CNTおよび有機溶媒を含有する溶液に超音波処理などの機械的処理を施すだけで、CNTを分散させることができ、分散にあたり更なる熱処理などの付加工程を省略し得、かつ、処理時間を短縮することができる。
したがって、本発明のCNT分散剤を用いることで、CNT(の少なくとも一部)を孤立分散の状態で分散させた、CNT含有組成物を容易に得ることができる。
また、本発明の分散剤は、上記高分岐ポリマーに加えて、ポリビニルピロリドン等の環状アミド構造を繰り返し単位として有する高分子化合物を含んでいるところ、この高分子化合物は、CNTの表面に吸着してCNTを包むいわゆるラッピング効果を有しており、CNTの再凝集を防止する働きがあるものと考えられる。
以上の両成分を含有しているため、本発明の分散剤を用いた場合に、CNTの分散安定性が向上し、得られた薄膜の膜面均一性および導電性(表面抵抗値)の均一性が良好となる。
そして、本発明で得られるCNT含有組成物は、基材に塗布するだけで容易に薄膜形成が可能であるうえに、得られた薄膜は高導電性を示し、かつ、上述のとおり表面抵抗値の均一性に優れている。そして上記組成物において、CNTの量をその用途に応じて調整することが容易であるため、各種半導体材料、電導体材料等として幅広い用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係るCNT分散剤は、上記式(1)または式(2)で表される繰り返し単位を有する高分岐ポリマーと、環状アミド構造を繰り返し単位として有する高分子化合物(以下、単に高分子化合物という場合もある)と、からなるものである。
ここで、環状アミド構造を繰り返し単位として有する高分子化合物としては、特に限定されるものではないが、本発明においては、ピロリドン構造を繰り返し単位として有する高分子化合物が好適であり、特にポリビニルピロリドンが好ましい。
上記高分子化合物の平均分子量は特に限定されるものではないが、重量平均分子量が1,000〜2,000,000であることが好ましい。当該ポリマーの重量平均分子量が上記範囲外であると、CNTのラッピング能が不十分となる虞がある。重量平均分子量が2,000〜1,000,000の高分子化合物がより好ましい。
【0015】
一方、高分岐ポリマーとしては、トリアリールアミン骨格を分岐点として含有する、上記(1)または(2)で示されるものを用いる。
上記式(1)および(2)において、Ar1〜Ar3は、それぞれ独立して、上記式(3)〜(7)で表されるいずれかの二価の有機基を表すが、式(3)で示される置換または非置換のフェニレン基が好ましく、R5〜R8が全て水素原子のフェニレン基がより好ましい。
【0016】
上記式(2)〜(7)において、R1〜R38は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表す。
ここで、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基等が挙げられる。
炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペントキシ基等が挙げられる。
【0017】
また、式(1)および(2)において、Z1およびZ2は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または上記式(8)〜(11)で表されるいずれかの一価の有機基を表す(ただし、Z1およびZ2が同時に上記アルキル基となることはない。)が、Z1およびZ2としては、それぞれ独立して、水素原子、2−または3−チエニル基、上記式(8′)で示される基が好ましく、特に、Z1およびZ2のいずれか一方が水素原子で、他方が、水素原子、2−または3−チエニル基、下記式(8′)で示される基、特にR41がフェニル基の4−ビフェニル基およびR41がメトキシ基の4−メトキシフェニル基がより好ましい。
なお、炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいアルキル基としては、上記で例示したものと同様のものが挙げられる。
【0018】
上記式(8)〜(11)および(8′)において、R39〜R62は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいアルキル基、炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいハロアルキル基、フェニル基、OR63、COR63、COOR63、またはNR6364(これらの式中、R63およびR64は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいアルキル基、炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいハロアルキル基、またはフェニル基を表す。)を表す。
ここで、炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいハロアルキル基としては、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ブロモジフルオロメチル基、2−クロロエチル基、2−ブロモエチル基、1,1−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、1,1,2,2−テトラフルオロエチル基、2−クロロ−1,1,2−トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、3−ブロモプロピル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピル基、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン−2−イル基、3−ブロモ−2−メチルプロピル基、4−ブロモブチル基、パーフルオロペンチル基等が挙げられる。
なお、ハロゲン原子、炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいアルキル基としては、上記式(2)〜(7)で例示した基と同様のものが挙げられる。
【0019】
本発明に用いられる高分岐ポリマーは、下記スキーム1に示されるように、例えば、下記式(A)で示されるような、上述したトリアリールアミン骨格を与え得るトリアリールアミン化合物と、例えば下記式(B)で示されるようなアルデヒド化合物および/またはケトン化合物とを、酸触媒の存在下で縮合重合して得られる。
なお、アルデヒド化合物として、例えば、テレフタルアルデヒド等のフタルアルデヒド類のような、二官能化合物(C)を用いる場合、スキーム1で示される反応が生じるだけではなく、下記スキーム2で示される反応が生じ、2つの官能基が共に縮合反応に寄与した、架橋構造を有する高分岐ポリマーが得られる場合もある。
【0020】
【化7】

(式中、Ar1〜Ar3、およびZ1〜Z2は、上記と同じ意味を表す。)
【0021】
【化8】

(式中、Ar1〜Ar3、およびR1〜R4は、上記と同じ意味を表す。)
【0022】
上記高分岐ポリマーの製造に用いられるアルデヒド化合物としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、カプロンアルデヒド、2−メチルブチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ウンデカンアルデヒド、7−メトキシ−3,7−ジメチルオクチルアルデヒド、シクロヘキサンアルデヒド、3−メチル−2−ブチルアルデヒド、グリオキザール、マロンアルデヒド、スクシンアルデヒド、グルタルアルデヒド、アジピンアルデヒドなどの飽和脂肪族アルデヒド類;アクロレイン、メタクロレインなどの不飽和脂肪族アルデヒド類;フルフラール、ピリジンアルデヒド、チオフェンアルデヒドなどのヘテロ環式アルデヒド類;ベンズアルデヒド、トリルアルデヒド、トリフルオロメチルベンズアルデヒド、フェニルベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド、アニスアルデヒド、アセトキシベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒド、アセチルベンズアルデヒド、ホルミル安息香酸、ホルミル安息香酸メチル、アミノベンズアルデヒド、N,N−ジメチルアミノベンズアルデヒド、N,N−ジフェニルアミノベンズアルデヒド、ナフチルアルデヒド、アントリルアルデヒド、フェナントリルアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、3−フェニルプロピオンアルデヒドなどの芳香族アルデヒド類等が挙げられる。特に芳香族アルデヒド類を用いることが好ましい。
【0023】
また、上記ケトン化合物としては、アルキルアリールケトン、ジアリールケトン類であり、例えば、アセトフェノン、プロピオフェノン、ジフェニルケトン、フェニルナフチルケトン、ジナフチルケトン、フェニルトリルケトン、ジトリルケトン等が挙げられる。
【0024】
上記縮合重合反応では、トリアリールアミン化合物のアリール基1当量に対して、アルデヒド化合物および/またはケトン化合物を0.1〜10当量の割合で用いることができる。
上記酸触媒としては、例えば、硫酸、リン酸、過塩素酸などの鉱酸類;p−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸一水和物などの有機スルホン酸類;ギ酸、シュウ酸などのカルボン酸類等を用いることができる。
酸触媒の使用量は、その種類によって種々選択されるが、通常、トリアリールアミン類100質量部に対して、0.001〜10,000質量部、好ましくは、0.01〜1,000質量部、より好ましくは0.1〜100質量部である。
【0025】
上記の縮合反応は無溶媒でも行えるが、通常溶媒を用いて行われる。溶媒としては反応を阻害しないものであれば全て使用することができ、例えば、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどの環状エーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのアミド類;メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類等が挙げられる。これら溶媒は、それぞれ単独で、または2種以上混合して用いることができる。特に、環状エーテル類が好ましい。
また、使用する酸触媒が、例えばギ酸のような液状のものであるならば、酸触媒に溶媒としての役割を兼ねさせることもできる。
【0026】
縮合時の反応温度は、通常40〜200℃である。反応時間は反応温度によって種々選択されるが、通常30分間から50時間程度である。
以上のようにして得られる重合体の重量平均分子量Mwは、通常1,000〜2,000,000、好ましくは、2,000〜1,000,000である。
【0027】
上記高分岐ポリマーの平均分子量も特に限定されるものではないが、重量平均分子量が1,000〜2,000,000であることが好ましい。当該ポリマーの重量平均分子量が1,000未満であると、CNTの分散能が著しく低下する、または分散能を発揮しなくなる虞がある。一方、重量平均分子量が2,000,000を超えると、分散処理における取り扱いが極めて困難となる虞がある。重量平均分子量が2,000〜1,000,000の高分岐ポリマーがより好ましい。
なお、本発明における重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトフラフィーによる測定値(ポリスチレン換算)である。
【0028】
本発明のCNT分散剤における、高分岐ポリマーと、環状アミド構造を繰り返し単位として有する高分子化合物との含有比率は、特に限定されるものではないが、CNTの分散安定性を良好にするとともに、得られる薄膜の均一性および表面抵抗値の均一性を高めることを考慮すると、両ポリマーの総質量に対して、高分岐ポリマーの含有率を1〜99質量%とすることが好ましく、5〜90質量%とすることがより好ましく、5〜80質量%とすることがより一層好ましい。
【0029】
本発明に係るCNT含有組成物は、以上で説明したCNT分散剤と、CNTとを含むものである。
【0030】
本発明に係るCNT含有組成物は、以上で説明した高分岐ポリマー(CNT分散剤)と、CNTとを含むものである。
CNTは、アーク放電法、化学気相成長法(CVD法)、レーザー・アブレーション法等によって作製されるが、本発明に使用されるCNTはいずれの方法で得られたものでもよい。また、CNTには1枚の炭素膜(グラフェン・シート)が円筒状に巻かれた単層CNT(以下、SWCNTと記載)と、2枚のグラフェン・シートが同心円状に巻かれた2層CNT(以下、DWCNTと記載)と、複数のグラフェン・シートが同心円状に巻かれた多層CNT(以下、MWCNTと記載)とがあるが、本発明においては、SWCNT、DWCNT、MWCNTをそれぞれ単体で、または複数を組み合わせて使用できる。
【0031】
上記の方法でSWCNT、DWCNTやMWCNTを作製する際には、同時にフラーレンやグラファイト、非晶性炭素が副生産物として生成し、またニッケル、鉄、コバルト、イットリウムなどの触媒金属も残存するので、これらの不純物の除去、精製を必要とする場合がある。不純物の除去には、硝酸、硫酸などによる酸処理とともに超音波処理が有効である。しかし、硝酸、硫酸などによる酸処理ではCNTを構成するπ共役系が破壊され、CNT本来の特性が損なわれてしまう可能性があるため、適切な条件で精製して使用することが望ましい。
【0032】
本発明の組成物は、さらに上記分散剤(高分岐ポリマー)の溶解能を有する有機溶媒を含んでいてもよい。
このような有機溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン(DME)などのエーテル類;塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのアミド類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノールなどのアルコール類;n−ヘプタン、n−ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類等が挙げられ、これら有機溶媒は、それぞれ単独で、または2種以上混合して用いることができる。
特に、CNTの孤立分散の割合を向上させ得るという点から、NMP、DMF、THF、イソプロパノールが好ましく、さらに組成物の成膜性をも向上し得るための添加剤として、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類、または、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類等を、少量含むことが望ましい。
【0033】
本発明の組成物の調製法は任意であり、高分岐ポリマーおよび/または高分子化合物が液状の場合には、当該液状成分とCNT(および固体のポリマー成分)とを適宜混合し、高分岐ポリマーおよび高分子化合物がともに固体の場合には、これら双方またはいずれか一方を溶融させた後、CNT(および溶融させてないポリマー成分)と混合して調製することができる。
また、有機溶媒を用いる場合には、高分岐ポリマー、高分子化合物、CNT、有機溶媒を任意の順序で混合して組成物を調製すればよいが、予め高分岐ポリマーおよび高分子化合物を有機溶媒に溶かした後、CNTを添加して組成物とする方法が好ましい。
この際、高分岐ポリマー、高分子化合物、CNTおよび有機溶媒からなる混合物を分散処理することが好ましく、この処理により、CNTの孤立分散の割合をより向上させることができる。分散処理としては、機械的処理である、ボールミル、ビーズミル、ジェットミルなどを用いた湿式処理や、バス型やプローブ型のソニケータを用いる超音波処理が挙げられる。
分散処理の時間は任意であるが、1分間から10時間程度が好ましく、5分間から5時間程度がより好ましい。
なお、本発明の分散剤は、CNTの分散能に優れているため、分散処理前等に加熱処理を施さなくとも、CNTが高濃度で孤立分散した組成物を得ることができるが、必要に応じて加熱処理を施しても構わない。
【0034】
本発明のCNT含有組成物における、分散剤(高分岐ポリマーおよび高分子化合物の総量)、とCNTとの混合比率は、質量比で1,000:1〜1:100程度とすることができる。
また、有機溶媒を使用した組成物中における分散剤の濃度(高分岐ポリマーおよび高分子化合物の総濃度)は、CNTを有機溶媒に分散させ得る濃度であれば特に限定されるものではないが、本発明においては、組成物中に0.001〜30質量%程度とすることが好ましく、0.002〜20質量%程度とすることがより好ましい。
さらに、この組成物中におけるCNTの濃度は、少なくともCNTの一部が孤立分散する限りにおいて任意であるが、本発明においては、組成物中に0.0001〜20質量%程度とすることが好ましく、0.001〜10質量%程度とすることがより好ましい。
以上のようにして調製された本発明の組成物中では、分散剤がCNTの表面に付着して複合体を形成しているものと推測される。
【0035】
本発明の組成物では、上述した有機溶媒に可溶な汎用合成樹脂と混合し、これと複合化させたものでもよい。
汎用合成樹脂の例としては、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)、EEA(エチレン−アクリル酸エチル共重合体)などのポリオレフィン系樹脂;PS(ポリスチレン)、HIPS(ハイインパクトポリスチレン)、AS(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、MS(メタクリル酸メチル−スチレン共重合体)などのポリスチレン系樹脂;ポリカーボネート樹脂;塩化ビニル樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;PMMA(ポリメチルメタクリレート)などの(メタ)アクリル樹脂;PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、PLA(ポリ乳酸)、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート/アジペートなどのポリエステル樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;変性ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリビニルアルコール樹脂;ポリグルコール酸;変性でんぷん;酢酸セルロース、三酢酸セルロース;キチン、キトサン;リグニン等の熱可塑性樹脂、並びに、フェノール樹脂;尿素樹脂;メラミン樹脂;不飽和ポリエステル樹脂;ポリウレタン樹脂;エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0036】
また本発明のCNT含有組成物は、上述した有機溶媒に可溶な架橋剤を含んでいてもよい。
このような架橋剤としては、メラミン系、置換尿素系、またはそれらのポリマー系等が挙げられ、これら架橋剤は、それぞれ単独で、または2種以上混合して用いることができる。なお、好ましくは、少なくとも2個の架橋形成置換基を有する架橋剤であり、CYMEL(登録商標)、メトキシメチル化グリコールウリル、ブトキシメチル化グリコールウリル、メチロール化グリコールウリル、メトキシメチル化メラミン、ブトキシメチル化メラミン、メチロール化メラミン、メトキシメチル化ベンゾグアナミン、ブトキシメチル化ベンゾグアナミン、メチロール化ベンゾグアナミン、メトキシメチル化尿素、ブトキシメチル化尿素、メチロール化尿素、メトキシメチル化チオ尿素、メトキシメチル化チオ尿素、メチロール化チオ尿素等の化合物、およびこれらの化合物の縮合体が例として挙げられる。
【0037】
架橋剤の添加量は、使用する有機溶媒、使用する基材、要求される粘度、要求される膜形状などにより変動するが、CNT分散剤(高分岐ポリマー)に対して0.001〜80質量%、好ましくは0.01〜50質量%、さらに好ましくは0.05〜40質量%である。これら架橋剤は自己縮合による架橋反応を起こすこともあるが、本発明の高分岐ポリマーと架橋反応を起こすものであり、高分岐ポリマー中に架橋性置換基が存在する場合はそれらの架橋性置換基により架橋反応が促進される。
本発明では、架橋反応を促進するための触媒としてとして、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ピリジニウムp−トルエンスルホン酸、サリチル酸、スルホサリチル酸、クエン酸、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、ナフタレンカルボン酸等の酸性化合物、および/または2,4,4,6−テトラブロモシクロヘキサジエノン、ベンゾイントシレート、2−ニトロベンジルトシレート、有機スルホン酸アルキルエステル等の熱酸発生剤を添加することができる。
触媒の添加量はCNT分散剤(高分岐ポリマー)に対して、0.0001〜20質量%、好ましくは0.0005〜10質量%、より好ましくは0.001〜3質量%である。
【0038】
本発明の組成物は、マトリックスとなる樹脂と混合し、溶融混練することにより複合化させたものでもよい。
マトリックスとなる樹脂としては、熱可塑性樹脂が好ましく、その具体例としては、上記汎用合成樹脂で例示した熱可塑性樹脂と同様のものが挙げられる。
この場合、組成物の調製は、分散剤、CNT、マトリックスとなる樹脂を、混練装置により溶融混練して複合化すればよい。混練装置としては、各種ミキサや、単軸または二軸押出機などが挙げられる。この際の混練温度、時間は任意であり、マトリックスとなる樹脂に応じて適宜選択される。
また、マトリックスとなる樹脂を用いた組成物中におけるCNT濃度は、要求される組成物の機械的、電気的、熱的特性などにおいて変化するため任意であるが、本発明においては、組成物中に0.0001〜30質量%程度とすることが好ましく、0.001〜20質量%とすることがより好ましい。
【0039】
本発明のCNT含有組成物(溶液)は、PET、ガラス、ITOなどの適当な基材上にスピンコート法、ディップ法、フローコート法、インクジェット法、スプレー法、バーコート法、グラビアコート法、スリットコート法、ロールコート法、転写印刷法、刷毛塗り、ブレードコート法、エアーナイフコート法などの適宜な方法により、塗布して成膜することが可能である。
得られた薄膜は、CNTの金属的性質を活かした帯電防止膜、透明電極等の導電性材料、あるいは半導体的性質を活かした光電変換素子および電界発光素子等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、試料の調製および物性の分析に用いた装置および条件は、以下のとおりである。
【0041】
(1)GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)
装置:東ソー(株)製 HLC−8200 GPC
カラム:Shodex KF−804L+KF−805L
カラム温度:40℃
溶媒:テトラヒドロフラン
検出器:UV(254nm)
検量線:標準ポリスチレン
(2)示差熱天秤(TG−DTA)
装置:(株)リガク製 TG−8120
昇温速度:10℃/分
測定温度:25℃−750℃
(3)UV/Vis照射示差走査熱量計(Photo−DSC)
装置:(株)NETZSCH製 Photo−DSC 204 F1 Phoenix
昇温速度:40℃/分
測定温度:25℃−350℃
(4)プローブ型超音波照射装置(分散処理)
装置:Hielscher Ultrasonics社製 UIP1000
(5)抵抗率計(表面抵抗測定)
装置:三菱化学(株)製 ロレスタ−GP
プローブ:三菱化学(株)製 直列4探針プローブ ASP(探針間距離:5mm)
(6)ヘイズメーター(全光透過率測定)
装置:日本電色工業(株)製 NDH5000
(7)微細形状測定機(膜厚測定)
装置:(株)小坂研究所製 ET4000A
【0042】
また、実施例における略号の意味は下記のとおりである。
CNT−1:中繊維径MWCNT[昭和電工(株)製 VGCF(登録商標)−X、外径15nm]
CNT−2:未精製MWCNT[CNT社製 C Tube 100、外径10〜30nm]
PVP:ポリビニルピロリドン[東京化成工業(株)製 K15 Mw10,000]
THF:テトラヒドロフラン
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
CHN:シクロヘキサノン
【0043】
[1]分散剤(トリアリールアミン系高分岐ポリマー)の合成
[合成例1]高分岐ポリマーPTPA−PBAの合成
窒素下、1L四口フラスコに、トリフェニルアミン[Zhenjiang Haitong Chemical Industry Co.,Ltd.製]80.0g(326mmol)、4−フェニルベンズアルデヒド[三菱ガス化学(株)製,4−BPAL]118.8g(652mmol(トリフェニルアミンに対して2.0eq))、パラトルエンスルホン酸一水和物[江南化工(株)製]12.4g(65mmol(トリフェニルアミンに対して0.2eq))、および1,4−ジオキサン160gを仕込んだ。この混合物を撹拌しながら85℃まで昇温し、溶解させ、重合を開始した。6時間反応させた後、反応混合物を60℃まで放冷した。この反応混合物をTHF560gで希釈し、28質量%アンモニア水80gを加えた。その反応溶液をアセトン2000gおよびメタノール400gの混合溶液へ投入することで再沈殿させた。析出した沈殿物をろ過し、減圧乾燥した後、得られた固体をTHF640gに再溶解させ、アセトン2000gおよび水400gの混合溶液へ投入することで再度再沈殿させた。析出した沈殿物をろ過し、130℃で6時間減圧乾燥して、下記式[A]で表される繰り返し単位を有する高分岐ポリマーPTPA−PBA115.1gを得た。
得られたPTPA−PBAの、GPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは17,000、多分散度Mw/Mnは3.82であった(ここでMnは同条件で測定される数平均分子量を表す。)。また、TG−DTAにより測定した5%重量減少温度は531℃、DSCにより測定したガラス転移温度(Tg)は159℃であった。
【0044】
【化9】

【0045】
[2]MWCNT(CNT−1)含有組成物および複合体薄膜の製造
[実施例1]高分岐ポリマー10%含有分散剤を用いた分散
分散剤として合成例1で得られたPTPA−PBA0.025gおよびPVP0.225gを、分散媒としてNMP49.25gに溶解させ、この溶液へMWCNTとしてCNT−1 0.25gを添加した。この混合物に、プローブ型超音波照射装置を用いて室温(およそ25℃)で30分間超音波処理を行い、沈降物がなくMWCNTが均一に分散した黒色のMWCNT含有分散液を得た。
上記MWCNT含有分散液2.0gに、CHN0.50gを添加し、薄膜作製用の塗布液を調製した。得られた塗布液75μLを、スリット幅25.4μmのアプリケータを用いてガラス基板上に均一に展開し、100℃でおよそ2分間乾燥することで透明で均一なMWCNT/PTPA−PBA/PVP複合体薄膜を作製した。
【0046】
[実施例2]高分岐ポリマー30%含有分散剤を用いた分散
分散剤を合成例1で得られたPTPA−PBA0.075gおよびPVP0.175gに変更した以外は、実施例1と同様に操作し、MWCNT含有分散液およびMWCNT/PTPA−PBA/PVP複合体薄膜を作製した。
【0047】
[実施例3]高分岐ポリマー50%含有分散剤を用いた分散
分散剤を合成例1で得られたPTPA−PBA0.125gおよびPVP0.125gに変更した以外は、実施例1と同様に操作し、MWCNT含有分散液およびMWCNT/PTPA−PBA/PVP複合体薄膜を作製した。
【0048】
[実施例4]高分岐ポリマー70%含有分散剤を用いた分散
分散剤を合成例1で得られたPTPA−PBA0.175gおよびPVP0.075gに変更した以外は、実施例1と同様に操作し、MWCNT含有分散液およびMWCNT/PTPA−PBA/PVP複合体薄膜を作製した。
【0049】
[比較例1]高分岐ポリマーのみを用いた分散
分散剤を合成例1で得られたPTPA−PBA0.25gのみに変更した以外は、実施例1と同様に操作し、MWCNT含有分散液およびMWCNT/PTPA−PBA複合体薄膜を作製した。
【0050】
[比較例2]PVPのみを用いた分散
分散剤をPVP0.25gのみに変更した以外は、実施例1と同様に操作し、MWCNT含有分散液およびMWCNT/PVP複合体薄膜を作製した。
【0051】
上記実施例1〜4および比較例1,2で得られたMWCNT含有分散液の分散性、並びに複合体薄膜の薄膜均一性、全光透過率、HAZE、表面抵抗、および膜厚を評価した。なお、分散液の分散性および薄膜の均一性については、以下の基準に従って目視により評価した。また、表面抵抗は同一薄膜上の無作為な7箇所でそれぞれ測定し、最大値と最小値を除いた5つの値の平均値および標準偏差を評価した。さらに表面抵抗値および膜厚から体積抵抗を算出した。結果を表1に併せて示す。
<分散性>超音波処理後30分静置した後の分散液の状態
○:凝集物のような塊が全く確認できず均一に分散している。
×:MWCNTの凝集物が見られる。
<薄膜均一性>
○:凝集物のような塊や膜ムラ(濃淡)が全く確認できない。
△:MWCNTの凝集物や膜ムラ(濃淡)が見られる。
×:MWCNTの凝集物や膜ムラ(濃淡)が薄膜の殆どの部分で見られ、膜としての評価ができない。
【0052】
また、別途、上記各MWCNT含有分散液を室温(およそ25℃)で1ヶ月静置後、分散液中の沈降物の存在を目視にて確認し、以下の基準に従って、各分散液の分散安定性を評価した。結果を表1に併せて示す。
<分散安定性>
○:沈降物が確認できない。
△:沈降物は確認できないが、溶液の粘度上昇が確認される。
×:分散状態を保てず、MWCNTの大部分が沈降物として現れる。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示されるように、PTPA−PBAのみを分散剤として用いた比較例1、PVPのみを分散剤として用いた比較例2に比べ、両者を混合した実施例1〜4の分散剤では、分散性、分散液の保存安定性を維持したまま、薄膜均一性およびHAZEが向上しているとともに、表面抵抗値の標準偏差も小さく、膜中にCNTがより均一に分散していることがわかる。
【0055】
[3]MWCNT(CNT−2)含有組成物および複合体薄膜の製造
[実施例5]高分岐ポリマー10%含有分散剤を用いた分散
MWCNTをCNT−2 0.25gに変更した以外は、実施例1と同様に操作し、MWCNT含有分散液およびMWCNT/PTPA−PBA/PVP複合体薄膜を作製した。
【0056】
[比較例3]高分岐ポリマーのみを用いた分散
MWCNTをCNT−2 0.25gに、分散剤を合成例1で合成したPTPA−PBA0.25gのみにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様に操作し、MWCNT含有分散液およびMWCNT/PTPA−PBA複合体薄膜を作製した。
【0057】
[比較例4]PVPのみを用いた分散
MWCNTをCNT−2 0.25gに、分散剤をPVP0.25gのみにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様に操作し、MWCNT含有分散液およびMWCNT/PVP複合体薄膜を作製した。
【0058】
上記実施例5および比較例3,4で得られたMWCNT含有分散液の分散性および分散安定性、並びに複合体薄膜の薄膜均一性、全光透過率、HAZE、表面抵抗、および膜厚をそれぞれ前記の方法で評価した。結果を表2に併せて示す。
【0059】
【表2】

【0060】
表2に示されるように、CNTの種類によらずに本発明の分散剤の効果が発揮されていることがわかる。
以上説明したとおり、高分岐ポリマーと環状アミド構造を繰り返し単位として有する高分子化合物とからなるCNT分散剤は、高導電性で均一性に優れた複合体薄膜を得る上で有用であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)または式(2)で表される繰り返し単位を有する高分岐ポリマーと、環状アミド構造を繰り返し単位として有する高分子化合物と、からなることを特徴とするカーボンナノチューブ分散剤。
【化1】

[式(1)および(2)中、Ar1〜Ar3は、それぞれ独立して、式(3)〜(7)で表されるいずれかの二価の有機基を表し、Z1およびZ2は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または式(8)〜(11)で表されるいずれかの一価の有機基を表し(ただし、Z1およびZ2が同時に前記アルキル基となることはない。)、式(2)中、R1〜R4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表す。
【化2】

(式中、R5〜R38は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいアルキル基、または炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいアルコキシ基を表す。)
【化3】

{式中、R39〜R62は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいアルキル基、炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいハロアルキル基、フェニル基、OR63、COR63、COOR63、またはNR6364(これらの式中、R63およびR64は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいアルキル基、炭素原子数1〜5の分岐構造を有していてもよいハロアルキル基、またはフェニル基を表す。)を表す。}]
【請求項2】
前記高分岐ポリマーのゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量が、1,000〜2,000,000である請求項1記載のカーボンナノチューブ分散剤。
【請求項3】
前記繰り返し単位が、式(12)で表される請求項1または2記載のカーボンナノチューブ分散剤。
【化4】

(式中、Z1およびZ2は、前記と同じ意味を表す。)
【請求項4】
前記Z2が、水素原子である請求項1〜3のいずれか1項記載のカーボンナノチューブ分散剤。
【請求項5】
前記Z1が、水素原子、チエニル基、または式(8′)で表される一価の有機基である請求項4記載のカーボンナノチューブ分散剤。
【化5】

{式中、R41は、前記と同じ意味を表す。}
【請求項6】
前記繰り返し単位が、式(13)で表される請求項1記載のカーボンナノチューブ分散剤。
【化6】

【請求項7】
前記環状アミド構造を繰り返し単位として有する高分子化合物が、ポリビニルピロリドンである請求項1〜6のいずれか1項記載のカーボンナノチューブ分散剤。
【請求項8】
前記高分岐ポリマーが、前記高分岐ポリマーおよび環状アミド構造を繰り返し単位として有する高分子化合物の総質量に対し、1〜99質量%含まれる請求項1〜7のいずれか1項記載のカーボンナノチューブ分散剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載のカーボンナノチューブ分散剤と、カーボンナノチューブとを含む組成物。
【請求項10】
前記カーボンナノチューブ分散剤が、前記カーボンナノチューブの表面に付着して複合体を形成している請求項9記載の組成物。
【請求項11】
さらに有機溶媒を含む請求項9または10記載の組成物。
【請求項12】
前記カーボンナノチューブが、前記有機溶媒に孤立分散している請求項11記載の組成物。
【請求項13】
前記複合体が、前記有機溶媒に孤立分散している請求項11記載の組成物。
【請求項14】
前記カーボンナノチューブが、単層カーボンナノチューブ、2層カーボンナノチューブおよび多層カーボンナノチューブから選ばれる少なくとも1種である請求項9〜13のいずれか1項記載の組成物。
【請求項15】
請求項9〜14のいずれか1項記載の組成物から得られる薄膜。

【公開番号】特開2012−245441(P2012−245441A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117260(P2011−117260)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】