説明

カーボンナノチューブ含有導電性樹脂組成物及び製造方法

【課題】 優れた導電特性を持ち、機械特性に優れ、耐熱性の高く優れた生産性を持つ導電性樹脂複合材料の提供。
【解決手段】 熱可塑性樹脂、カーボンナノチューブ、ヒンダードフェノール系添加剤、リン系添加剤およびヒンダードアミン系添加剤を含有する導電性樹脂組成物。熱可塑性樹脂100質量部に対し、カーボンナノチューブの配合量は0.1〜10質量部、ヒンダードフェノール系添加剤の配合量は0.01〜8質量部、リン系添加剤の配合量は0.01〜8質量部、ヒンダードアミン系添加剤の配合量は0.01〜8質量部が好ましい。熱可塑性樹脂としては、ポリアセタール(POM)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性樹脂組成物及びその製造方法に関する。より詳細に、本発明は、カーボンナノチューブを含有する熱可塑性組成物であって、熱安定性に優れ、モールドデポジットの発生を抑え、不純物成分の溶出の少ない高純度のカーボンナノチューブ含有導電性樹脂組成物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂からなるマトリクス材に、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどの炭素系フィラーや金属粉などの金属系フィラーなどを配合することによって、導電性または熱伝導性を有する樹脂複合材料が得られることが知られている。
【0003】
これらのうち、金属系フィラーを含有する樹脂複合材料は、成形加工性及び耐衝撃性が不十分となる場合があった。また、成形機等に対する電気的障害、摺動性の悪化や、成形機のスクリューを磨耗させる等の原因となるおそれがあった。
【0004】
また、カーボンブラックなどの炭素粉末を使用する場合には、所望の導電性を発現させるためにはフィラー添加量が多く必要となることが知られている。添加量が多くなると生成する樹脂複合材料の力学的特性が低下し、強度や伸び、衝撃特性などの低い樹脂複合材料しか得られなかった。
【0005】
一方、繊維状の炭素フィラーとしてカーボンナノチューブが知られている。カーボンナノチューブはその高いアスペクト比の為に、上述のカーボンブラックなどの粒子状のフィラーを用いる場合と比較して、低添加量で導電性が発現する。一般に、フィラーの添加量が少ないと、マトリクス樹脂と比較して特性の低下は見られないという特徴がある。
【0006】
ところが、カーボンナノチューブはその高い比表面積とその特徴的な構造のためか、マトリクス樹脂の劣化を促進する傾向がある。ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルホン(PPS)などの比較的熱安定性の高い樹脂に配合する場合にはそれほど問題とならないが、ポリアセタール(POM)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの熱安定性に乏しい樹脂をマトリクスとして使用する際には、その熱分解は顕著で、樹脂複合材料にした場合の特性劣化が著しく実用化されていなかった。
【0007】
一般的にこのような、熱安定性の乏しい樹脂の熱劣化を抑制させる方法としては、(1)酸化防止剤などを樹脂複合材料中に添加する方法と(2)樹脂複合材料を製造する混練機や成形機などの加工機内の酸素濃度を低減させる方法が挙げられる。
【0008】
(1)酸化防止剤などを用いる方法では、一般的には0.2〜0.3wt%程度の少量の添加で効果を発揮するが、カーボンナノチューブをフィラーとして配合した場合には前述のように、マトリクス樹脂の劣化が著しいためか、通常の添加量では酸化防止効果が得られず、多量に添加しないと、熱安定性付与効果が付与できない場合がある。このように酸化防止剤を多量に含有した複合材料を成形加工した場合には、モールドデポジットが多く発生し、生産効率が悪いだけでなく、成形後の成形体からのガス成分の揮発(アウトガス)をはじめブリードアウトといった不純物の溶出が多いため、特に電気電子分野などの精密部品を扱う分野に使用するのは困難であった。
【0009】
このような、酸化防止剤を炭素繊維含有樹脂組成物に適用した例として、特許文献1に、ジエン系ゴム強化ビニル系樹脂とポリカーボネート樹脂に黒鉛粒子と炭素繊維を含む樹脂組成物に対して酸化防止剤としてホスファイト系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤を添加した例が開示されている。後の比較例で示すように、このような酸化防止剤を用いても、熱安定性の乏しいマトリクス樹脂にカーボンナノチューブ複合材を添加した樹脂組成物では、熱安定性の改善効果は乏しく、例え添加量を増加させても、特性の劣化を抑制する効果は確認できなかった。
【0010】
また、(2)の加工機内の酸素濃度を低減させる方法については、原材料中の酸素濃度を予め下げるために、原材料の貯槽や供給装置を窒素置換するなどの方法が知られているが、効率的も経済的にも満足なものではない。そこで、これらを改善するために、押出機内のガス供給口から窒素ガスを導入する方法が提案されているものの(特許文献2)使用する窒素の量が多量で経済性に乏しい。また、このような窒素置換は炭素粉などのフィラーを用いた場合などには効果があるものの、カーボンナノチューブをフィラーとして用いた場合にはその効果は低く特性の劣化を抑制することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−150595号公報
【特許文献2】特開平6−206216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、マトリクス樹脂の特性を損なうことなく熱安定性に優れ、成形時の生産性に優れ不純物の溶出が少ない高純度のカーボンナノチューブ含有導電性樹脂複合材料を提供することを目的とする
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を達成するために鋭意検討した結果、ポリアセタール(POM)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの熱安定性の低い樹脂にカーボンナノチューブを添加した複合材料を製造する際に、特定の添加成分を組み合わせて添加し、製造条件を調整することで、熱安定性に優れた導電性樹脂複合材料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
[1]熱可塑性樹脂、カーボンナノチューブ、ヒンダードフェノール系添加剤、リン系添加剤およびヒンダードアミン系添加剤を含有する導電性樹脂組成物。
[2]熱可塑性樹脂100質量部に対し、カーボンナノチューブの配合量が0.1〜10質量部、ヒンダードフェノール系添加剤の配合量が0.01〜8質量部、リン系添加剤の配合量が0.01〜8質量部、ヒンダードアミン系添加剤の配合量が0.01〜8質量部である前記1に記載の導電性樹脂組成物。
[3]ヒンダードフェノール系添加剤とリン系添加剤との配合質量比、リン系添加剤とヒンダードアミン系添加剤との配合質量比、およびヒンダードアミン系添加剤とヒンダードフェノール系添加剤との配合質量比が、いずれも0.25〜4である前記1または2に記載の導電性樹脂組成物。
[4]熱可塑性樹脂およびカーボンナノチューブを含み、表面抵抗値が103〜109Ωであり、前記熱可塑性樹脂の熱分解開始温度よりも50℃低い温度で保持したとき質量が10%減少するまでの時間が70分以上である導電性樹脂組成物。
[5]前記熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度(ASTM D-648;1.82MPa)が130℃以下である前記1乃至4のいずれか1つに記載の導電性樹脂組成物。
[6]前記熱可塑性樹脂がポリアセタール(POM)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリアミド(PA)およびポリエチレンテレフタレート(PET)から選ばれる少なくとも1種を含有する前記1乃至5のいずれか1つに記載の導電性樹脂組成物。
[7]前記カーボンナノチューブが、ラマン分光法における1580cm-1付近に観測されるGバンドと1350cm-1付近に観測されるDバンドとの比(D/G;R値)で0.1以上である前記1乃至6のいずれか1つに記載の導電性樹脂組成物。
[8]熱可塑性樹脂にカーボンナノチューブ、ヒンダードフェノール系添加剤、リン系添加剤、およびヒンダードアミン系添加剤を添加し混練する工程および成形する工程を含むことを特徴とする導電性樹脂複合材料の製造方法。
[9]前記混練工程および成形工程の少なくとも一部を酸素を含有しないガスの雰囲気下で実施する前記8に記載の導電性樹脂複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、優れた導電特性を持ち、機械特性に優れ、耐熱性の高く優れた生産性を持つ導電性樹脂複合材料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明について詳細に説明する。
(1)樹脂複合材料
本発明の樹脂複合材料は、マトリクスである1種以上の熱可塑性樹脂(A)にカーボンナノチューブ(B)とヒンダードフェノール系添加剤(C)、リン系添加剤(D)、ヒンダードアミン系添加剤(E)を含有することが特徴である。特に熱安定性に乏しい熱可塑性樹脂に劣化促進効果の大きなカーボンナノチューブをフィラーとして含有した際、従来の(C)〜(E)を単独あるいは2種類を含むだけでは、樹脂複合材料の特性維持が困難であった。
本発明の樹脂複合材料は(C)〜(E)の3種の添加剤を同時に含有することで、熱安定性に乏しいマトリクス樹脂に劣化促進効果の高いカーボンナノチューブを含有しても熱安定性が高く、機械的特性に優れることが特徴である。
【0017】
本発明の樹脂複合材料は高い導電性を有することが特徴である。カーボンナノチューブの量や混練、成形条件などを調整することで、導電性を調整することは可能であるが、好ましい範囲は、樹脂複合材料の表面抵抗値で10-1〜1010Ωであり、好ましくは103〜109Ω、より好ましくは104〜107Ωである。表面抵抗値が10-1Ω以下では、カーボンナノチューブを多量に含有しなければならず、経済的でないばかりでなく、本発明を用いてもマトリクス樹脂の特性劣化を抑制するために、添加成分を多量に含有する必要が生じるため好ましくない。表面抵抗値が1010Ω以上であるとカーボンナノチューブの含有量が少ないため、本発明を用いなくともマトリクス樹脂の特性劣化を抑制することが可能である場合があるので、本発明の適用効果が低く好ましくない。
【0018】
本発明の樹脂複合材料は高い熱安定性を持つことが特徴である。一般に樹脂複合材料の成形加工は材料の溶融温度以上に加温し、金型等を用いて所望の形状に加工していく。ポリアセタール(POM)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの熱安定性に乏しい樹脂はこのような成形温度付近で熱分解を起こしやすく、結果として機械特性を損なう原因となっていた。したがって、成形温度付近での熱安定時間が長ければ、機械特性を損なう前に成形できるので好ましい。
【0019】
一般にこのような熱安定性を評価するのは、使用する樹脂や成形方法にも依存するので一概に決めることは困難であるが、本発明においては、以下の尺度で評価を実施した。
熱安定性は、マトリクス樹脂の熱分解温度より約50℃低い温度で保持したときの、10%の質量減少が生じるまでの時間を測定し、質量減少時間として評価をした。熱分解開始温度は、試料を空気中で常温から昇温していった際に質量減少の開始する温度を熱重量分析装置等を用いて測定することで求めることができる。より具体的には、熱重量分析して得られたTG曲線において、50%重量減少点を接点とした場合の接線とベースラインとなる水平線との交点における温度を熱分解開始温度として評価することができる。
【0020】
このような熱分解開始温度の代表例を示すとポリアセタールは280℃、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)は270℃、ポリスチレン(PS)は300℃、ポリアミド6は410℃、ポリアミド66は430℃、ポリエチレンテレフタレート(PET)は410℃である。
【0021】
本発明における10%の質量減少が生じるまでの時間は75分以上が好ましく、100分以上が最適である。この時間が75分以上あれば、モールドデポジットが少なくとも1500ショットまでは発生せず、連続生産が可能で好ましい、さらに、この時間が100分以上あれば、モールドデポジットが少なくとも3000ショットまでは発生しないため非常に好ましい。
同様に、この時間が75分以上であると、96時間でもブリードアウトが発生しないので好ましく、100分以上であると、128時間でもブリードアウトが発生しないので更に好ましい。なお、ブリードアウト発生の有無は平板試験片を温度65℃、湿度90%RHに設定した恒温高湿槽に放置し、成形表面の染み出し物の有無により確認する。
【0022】
本発明の樹脂複合材料は添加成分量が少なく、さらに、マトリクス樹脂の劣化が抑制されているため、ガス成分の揮発(アウトガス)や、低分子成分の染み出しなどの不純物成分が少ないのが特徴である。アウトガス発生量に関し、例えば、窒素中に試験片を封入し、80℃で2時間放置した際に発生した有機ガス成分をGC−MSなど公知の方法によって定量し、試験片質量あたりのガス発生量(アウトガス量)を測定した場合に、本発明の樹脂複合材料のアウトガス量は5ppm以下であり、好ましくは3ppm、更に好ましくは1ppmである。
【0023】
(2)熱可塑性樹脂(A)
本発明で用いる熱可塑性樹脂は、特に限定されないが、熱安定性の高い樹脂に対しては、本発明を用いる効果が高くないので、比較的、熱安定性に乏しい材料を用いるのが適している。
比較的熱安定性に乏しい熱可塑性樹脂としては、荷重たわみ温度(ASTM D-648;1.82MPa)が130℃以下である熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0024】
具体的な一例を挙げると、ポリスチレン、スチレン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル・スチレン共重合体等のスチレン系(共)重合体;ABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂等のゴム強化樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体等の、炭素数2〜10のα−オレフィンの少なくとも1種からなるα―オレフィン(共)重合体並びにその変性重合体(塩素化ポリエチレン等)、環状オレフィン共重合体等のオレフィン系樹脂;アイオノマー、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体等のエチレン系共重合体;ポリ塩化ビニル、エチレン・塩化ビニル重合体、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂;ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の(メタ)アクリル酸エステルの1種以上を用いた(共)重合体のアクリル系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66ポリアミド612等のポリアミド系樹脂(PA):ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂:ポリアセタール樹脂(POM)、ポリアリレート樹脂;ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂:液晶ポリマー;ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のイミド樹脂:ポリエーテルケトン等のケトン系樹脂;ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のスルホン系樹脂;ウレタン系樹脂;ポリ酢酸ビニル;ポリエチレンオキシド:ポリビニルアルコール:ポリビニルエーテル:ポリビニルブチラート;フェノキシ樹脂;感光性樹脂;生分解性プラスチック等があげられる。
【0025】
これらのうち、ポリスチレン(PS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の(メタ)アクリル酸エステルを1種以上用いた(共)重合体のアクリル系樹脂、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系樹脂、ポリアセタール樹脂(POM)が好ましく。ポリアミド系樹脂およびポリアセタール樹脂が最も好ましい。これらは、1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
更に耐衝撃性向上のために、上記熱可塑性樹脂にその他のエラストマーもしくはゴム成分を添加した樹脂であってもよい。一般に衝撃性改良のために使用されるエラストマーとしては、EPRやEPDMのようなオレフィン系エラストマー、スチレンとブタジエンの共重合体から成るSBR等のスチレン系エラストマー、シリコン系エラストマー、ニトリル系エラストマー、ブタジエン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ナイロン系エラストマー、エステル系エラストマー、フッ素系エラストマー、天然ゴムおよびそれらのエラストマーに反応部位(二重結合、カルボン酸無水物基等)を導入した変性物のようなものが使用される。
【0027】
(3)カーボンナノチューブ(B)
本発明で用いられるカーボンナノチューブは、樹脂複合材料に添加した場合に少量で電気伝導性が付与できるものであれば、特に限定されない。
このようなカーボンナノチューブの具体例としては、特開2008−174442号公報に挙げられるようなカーボンナノチューブを用いることが可能である。また、本発明で用いられるカーボンナノチューブにはLangmuir 11(1995)3862−3866に示されるようなチュブラータイプ以外のものも含まれる。
【0028】
これらのカーボンナノチューブのうちカーボンナノチューブ合成後にさらに不活性雰囲気下で熱処理(黒鉛化処理)を実施したものは、その表面の活性が低いのでマトリクス樹脂に与える劣化促進効果が小さいため、本発明を適用しなくても使用に耐えうる。したがって、カーボンナノチューブを合成したままでフィラーとして適用する場合のほうが本発明の適用意義が高いため好ましい。
【0029】
このようなカーボンナノチューブの表面活性度合いを評価するためには、様々な手法が提案されているが、例えば、ラマン分光法を用いる方法がある。ラマン分光法で1580cm-1付近に観測されるGバンドと1350cm-1付近に観測されるDバンドとの比(R値)で評価する方法が知られている。
本発明に用いるカーボンナノチューブは、上述のR値では0.1以上が好ましく、0.2〜2.0が好ましく、0.5〜1.5が最適である。R値が0.1以下であると、表面の活性が低く、マトリクス樹脂への劣化促進効果が少ないため、本手法を用いなくても、従来の方法で劣化防止を実施することができるので、本発明を使用する価値に乏しい。
【0030】
用いるカーボンナノチューブの繊維径は所望の導電性能が得られれば、特に限定されないが、繊維径が大きいと導電性付与効果が小さいため、好ましくなく、繊維径が細いとマトリクス樹脂中に分散させることが困難なため好ましくない。また、マトリクス樹脂への影響を考慮すると繊維径が大きいものはマトリクス樹脂の劣化を促進する効果に乏しいため、本発明を適用しなくとも、従来の方法で劣化防止が可能な場合があるので、繊維径は小さいほうが好ましい。
【0031】
また、好ましい繊維径の範囲は使用するマトリクス樹脂や所望の導電性のレベルにもよるので一義的は決められないが、一般的な一例を示すと、2〜200nm程度で、5〜80nm程度が好ましく、5〜50nm程度が最も好ましい。
【0032】
カーボンナノチューブの繊維長も同様に特に限定されないが、繊維長が短すぎると、導電性の付与効果が小さくなるため好ましくなく、繊維長が長すぎるとマトリクス樹脂中への分散性に乏しいので好ましくない。したがって、好ましい繊維の長さは、その繊維の太さにもよるが、通常は0.5μm〜100μm、好ましくは0.5μm〜10μm、更に好ましくは0.5μm〜5μmである。
【0033】
このようなカーボンナノチューブの添加量は、所望の導電性レベルに応じて、添加すれば良いので一義的には決められないが、一般的には熱可塑性樹脂(A)100質量部に対し、0.1〜10質量部が好ましく、0.5〜7質量部が更に好ましく、1〜5質量部が最も好ましい。
【0034】
(3)ヒンダードフェノール系添加剤(C)
本発明で使用するヒンダードフェノール系添加剤としては、少なくとも1つのフェノール基を含有し、その芳香族部分が置換基としてフェノール性ヒドロキシル基を有する炭素に直接隣接する少なくとも1つの位置、好ましくは両方の位置で置換される有機化合物を意味する。ヒドロキシル基に隣接する置換基は、1個から10個の炭素原子を有するアルキル基から適切に選択されたアルキル遊離基であり、好ましくは、三級ブチル基である。ヒンダードフェノールの分子量は、適切なものは、260以上、好ましくは500以上、より好ましくは600以上である。
【0035】
具体的な一例を挙げると、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリトリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2−チオビス(4−メチル−6−1−ブチルフェノール)、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロキシンナマミド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシーベンジルフォスファスフォネートージエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4、6−トリス(3,5−ジ−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルスルホン酸エチルカルシウム、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−メチレンビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、オクチル化ジフェニルアミン、2,4−ビス[(オクチルチオ)メチル]−O−クレゾール、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス[3,3’−ビス−(4’−ヒドロキシ−3’−T−ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)−sec−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)トリオン、d−α−トコフェロール、2,2’−ジメチル−2,2’−(2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン−3,9−ジイル)ジプロパン−1,1’−ジイル−ビス[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロパノアート]などが挙げられる。これらのうち、分子量500以上の高分子量のものが好ましく、ペンタエリトリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナート]および2,2’−ジメチル−2,2’−(2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン−3,9−ジイル)ジプロパン−1,1’−ジイル−ビス[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロパノアート]が最適である。
これらヒンダードフェノール系添加剤の配合量は熱可塑性樹脂(A)100質量部に対し、0.01〜8質量部が好ましく、0.1〜3質量部が更に好ましく、0.1〜1質量部が最も好ましい。
【0036】
(4)リン系添加剤(D)
本発明で使用するリン系添加剤としては、無機化合物でも有機化合物でもよく、特に制限はない。好ましいリン系添加剤としては、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸マンガン、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸カリウムなどの無機リン酸塩、トリフェニルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリノニルフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(トリデシル−4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、3,9−ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカンなどの有機リン化合物が挙げられる。これらのうち、3,9−ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトが好ましい。
これらリン系添加剤の配合量は熱可塑性樹脂(A)100質量部に対し、0.01〜8質量部が好ましく、0.1〜3質量部が更に好ましく、0.1〜1質量部が最も好ましい。
【0037】
(5)ヒンダードアミン系添加剤(E)
本発明で使用するヒンダードアミン系添加剤は、一般にヒンダードアミン光安定剤(HALS)とも呼ばれる化合物であり、窒素原子近傍に嵩高い置換基(例えば、t−ブチル基等の分岐アルキル基)を有する化合物である。例えば、2,2,6,6−テトラメチルピペリドン、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸・1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノール・β,β,β’,β’−テトラメチル−3,9−(2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンジエタノール縮合物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸・2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノール・β,β,β’,β’−テトラメチル−3,9−(2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンジエタノール縮合物、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン・2,4−ビス[N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ]−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸−ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、コハク酸−ビス(2,2,6,−テトラメチル−4−ピペリジエニル)エステル、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノール及び3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンとの混合エステル化物,1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノール及び3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンとの混合エステル化物等が挙げられる。
好ましくは1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノール及び3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンとの混合エステル化物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノール及び3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンとの混合エステル化物、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラートである。
これらヒンダードアミン系添加剤の配合量は熱可塑性樹脂(A)100質量部に対し、0.01〜8質量部が好ましく、0.1〜3質量部が更に好ましく、0.1〜1質量部が最も好ましい。
【0038】
(6)添加剤成分の添加量比
3種の添加剤(ヒンダードフェノール系添加剤(C)、リン系添加剤(D)、ヒンダードアミン系添加剤(E))の添加割合は、特に限定されないが、本発明の効果を顕著に発揮させるためには、各々の2成分の添加質量比が0.25〜4が好ましく、0.5〜2がさらに好ましく、0.67〜1.5であることが最も好ましい。
【0039】
(7)各種樹脂添加剤
本発明のカーボンナノチューブを分散させた樹脂組成物には、樹脂組成物の性能、機能を損なわない範囲で、他の各種樹脂添加剤を配合することができる。樹脂添加剤としては、例えば、着色剤、可塑剤、滑剤、充填剤、発泡剤、難燃剤、防錆剤などが挙げられる。これらの各種樹脂添加剤は、樹脂組成物を調製する際の最終工程で配合するのが好ましい。
【0040】
(8)混練方法
本発明のカーボンナノチューブを分散させた樹脂組成物を構成する各成分を混合・混練する際には、カーボンナノチューブの破断を極力抑えるように行うことが好ましい。具体的には、カーボンナノチューブの破断率を20%以下に抑えることが好ましく、15%以下に抑えることが更に好ましく、10%以下に抑えることが特に好ましい。破断率は、混合・混練の前後でのカーボンナノチューブのアスペクト比(例えば、電子顕微鏡SEM観察により測定)を比較することにより評価する。カーボンナノチューブの破断を極力抑えて混合・混練するには、例えば、以下のような手法を用いることができる。
【0041】
一般に、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂に無機フィラーを溶融混練する場合、凝集した無機フィラーに高せん断を加え、無機フィラーを解砕し、微細化して、溶融樹脂中へ無機フィラーを均一に分散させる。混練時のせん断が弱いと、無機フィラーが十分に溶融樹脂中に分散せず、期待する性能や機能を持つ樹脂複合材料が得られない。高せん断力を発生させる混練機としては、石臼機構を利用したものや、同方向2軸押出機でスクリューエレメント中に高せん断のかかるニーディングディスクを導入したものが数多く使用されている。しかしながらカーボンナノチューブを樹脂に混練する場合、余りに過剰な高せん断を樹脂やカーボンナノチューブに印加すると、カーボンナノチューブの破断が過剰に進むため、期待する性能や機能を持つ樹脂複合材料が得られない。一方、せん断力の弱い単軸押出機の場合は、カーボンナノチューブの破断は抑えられるが、カーボンナノチューブの分散が均一にならない。
【0042】
したがって、カーボンナノチューブの破断を抑えながら、均一な分散をはかるためには、ニーディングディスクを使用しない同方向2軸押出機でせん断を低減して、もしくは加圧ニーダーのような高せん断がかからない装置で、時間を掛けて混練するか、または単軸押出機において特殊なミキシングエレメントを使用して混練することが望ましい。
【0043】
(9)成形方法
これらの組成物から成形品を製造する際には、従来から知られている樹脂組成物の成形法によることができる。成形法としては、例えば、射出成形法、中空成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、トランスファー成形法などが挙げられる。
【0044】
(10)製造雰囲気
本発明の導電性複合材料は混練時や成形時に加熱される場合、極力酸素と触れないことが好ましい。本発明の樹脂組成物は添加成分の組み合わせにより、マトリクス樹脂の劣化は抑制されているものの、その製造時の酸素との接触を避けることにより、さらその熱安定性を向上させることができる。酸素との接触を避ける方法については、特に限定されないが、粉体供給用のホッパーや供給装置などを全て、酸素を含まないガスで置換した後、酸素を含まないガスを流通させながら、混練、成形を行ったり、マトリクス樹脂や添加成分などの供給口付近から酸素を含まないガスを流通させ、ベント部から脱気する方法などがあげられる。
【0045】
これらの酸素を含まないガスで置換する方法は従来から実施されており、熱安定性の高い樹脂や、炭素粉末をフィラーとして含有する複合材料の製造においては、非常に効果的であった。本発明のような熱安定性に乏しいマトリクス樹脂にカーボンナノチューブをフィラーとして用いる場合では、酸素を含まないガスで、置換しただけでは、マトリクス樹脂の分解が抑制できなかった。本発明においては特定な添加成分に上記を組み合わせることによって非常に高い熱安定性を有する樹脂複合材料を得ることが可能となった。
【0046】
(11)用途
本発明のカーボンナノチューブを含有する樹脂複合材料は、耐衝撃性とともに導電性や帯電防止性が要求される製品や部品、例えばOA機器、電子機器に使用される部品、導電性包装用部品、帯電防止性包装用部品、自動車部品などの成形材料として好適に使用できる。さらに具体的には、本発明のカーボンナノチューブを含んでなる樹脂複合材料は、電子写真複写機、レーザープリンタ等の画像形成装置において、感光体、帯電ベルト、転写ベルト、定着ベルト等に使用される、耐久性、耐熱性および表面平滑性に優れ、安定した電気抵抗特性を有するシームレスベルトや、製造・輸送・保管工程において、ハードディスク、ハードディスクヘッド、各種半導体部品の加工、洗浄、移送、保管等を行うための、耐熱性および帯電防止性等に優れたトレイやカセットや、静電塗装を行うための自動車部品や自動車用燃料チューブの材料として使用することができる。
本発明の複合材料は酸化防止剤の使用量が少なく、熱安定性に優れているので、このカーボンナノチューブを含んでなる樹脂複合材料で製造したトレイやカセットで、ハードディスク、ハードディスクヘッド、各種半導体を搬送する場合、それらに対するアウトガスなどによる汚染が非常に少なくなる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、下記の実施例は例示のために示すものであって、いかなる意味においても、本発明を限定的に解釈するものではない。
【0048】
[使用成分]
使用成分の内訳は以下の通りである。
(A)熱可塑性樹脂:ポリアセタール樹脂(ポリプラスチックス(株)製ジュラコン(登録商標)M90−44),
(B)カーボンナノチューブ(昭和電工(株)製VGCF(登録商標)−X),
(C)ヒンダードフェノール系添加剤:ペンタエリトリトール=テトラキス[3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオナート]((株)ADEKA製アデカスタブAO−60),
(D−1)リン系添加剤:3,9−ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン((株)ADEKA製PEP−36),
(D−2)リン系添加剤:トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト((株)ADEKA製2112),
(E−1)ヒンダードアミン系添加剤:1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノール及び3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンとの混合エステル化物((株)ADEKA製LA−68),
(E−2)ヒンダードアミン系添加剤:1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノール及び3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンとの混合エステル化物((株)ADEKA製LA−63P)。
【0049】
[質量減少時間測定法]
熱分析装置(セイコーインスツル(株)製TGA EXSTAR TG/DTA6000)により、樹脂組成物25mgを空気流通下(200cc/min)10℃/minで230℃まで昇温し、230℃で保持した際に、質量が10%が減少するまでの時間を計測した。
【0050】
実施例1
カーボンナノチューブ(B)2質量部と添加剤(C),(D−1),(E−1)各0.2質量部を予め混合し、カーボンナノチューブ混合物を得た。同方向2軸押出機(TEX30α日本製鋼所(株)製)の主フィード口からポリアセタール樹脂(A)100質量部を投入し、前記混合物は主フィード口と脱気ベント口の間に取り付けられたサイドフィーダーから投入した。混練された樹脂組成物はペレタイザで切断しペレット状に加工した。
得られたペレットから射出成形機(FUNAC製S−200i100B)を用いて、100mm×100mm×2mmtの平板試験片を作成した。表面抵抗値は平板試験片を絶縁性の台上に置き、平板試験片の平面中央を表面抵抗計(TReK社製Model152)により、100Vの電圧を印加し測定した。
評価結果を表1に示す。
【0051】
実施例2
(C),(D−1)(E−1)の添加量を各々0.3質量部にした以外は、実施例1と同様に実施した。評価結果を表1に示す。
【0052】
実施例3
(C),(D−2)(E−2)の添加量を各々0.5質量部にし、樹脂組成物の製造時に主フィード口から窒素ガスを10L/min供給した以外は、実施例1と同様に実施した。評価結果を表1に示す。
【0053】
比較例1〜3
(C),(D−1)の添加量を表1に示した量とした以外は実施例1と同様に実施した。評価結果を表1に示す。
【0054】
比較例4
(C)〜(E)を添加しないこと以外は実施例3と同様に実施した。評価結果を表1に示す。
【0055】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂、カーボンナノチューブ、ヒンダードフェノール系添加剤、リン系添加剤およびヒンダードアミン系添加剤を含有する導電性樹脂組成物。
【請求項2】
熱可塑性樹脂100質量部に対し、カーボンナノチューブの配合量が0.1〜10質量部、ヒンダードフェノール系添加剤の配合量が0.01〜8質量部、リン系添加剤の配合量が0.01〜8質量部、ヒンダードアミン系添加剤の配合量が0.01〜8質量部である請求項1に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項3】
ヒンダードフェノール系添加剤とリン系添加剤との配合質量比、リン系添加剤とヒンダードアミン系添加剤との配合質量比、およびヒンダードアミン系添加剤とヒンダードフェノール系添加剤との配合質量比が、いずれも0.25〜4である請求項1または2に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂およびカーボンナノチューブを含み、表面抵抗値が103〜109Ωであり、前記熱可塑性樹脂の熱分解開始温度よりも50℃低い温度で保持したとき質量が10%減少するまでの時間が70分以上である導電性樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度(ASTM D-648;1.82MPa)が130℃以下である請求項1乃至4のいずれか1つに記載の導電性樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂がポリアセタール(POM)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリアミド(PA)およびポリエチレンテレフタレート(PET)から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1乃至5のいずれか1つに記載の導電性樹脂組成物。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブが、ラマン分光法における1580cm-1付近に観測されるGバンドと1350cm-1付近に観測されるDバンドとの比(D/G;R値)で0.1以上である請求項1乃至6のいずれか1つに記載の導電性樹脂組成物。
【請求項8】
熱可塑性樹脂にカーボンナノチューブ、ヒンダードフェノール系添加剤、リン系添加剤、およびヒンダードアミン系添加剤を添加し混練する工程および成形する工程を含むことを特徴とする導電性樹脂複合材料の製造方法。
【請求項9】
前記混練工程および成形工程の少なくとも一部を酸素を含有しないガスの雰囲気下で実施する請求項8に記載の導電性樹脂複合材料の製造方法。

【公開番号】特開2012−224687(P2012−224687A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91581(P2011−91581)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】