説明

カーボンナノチューブ含有樹脂組成物、硬化物、成形体及びカーボンナノチューブ含有樹脂組成物の製造方法

【課題】カーボンナノチューブ自体の特性を損なうことなく、酸処理や溶媒の除去といった煩雑な操作をすることなく、簡単な方法によりカーボンナノチューブが樹脂中で再凝集することなく均一に分散したカーボンナノチューブ含有樹脂組成物、機械強度(曲げ強度、曲げ弾性率)や導電性(特に均一性)が優れた硬化物及び成形体を提供することであり、さらに該カーボンナノチューブ含有樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂(a)に対して、直径1〜80nmでアスペクト比が50以上のカーボンナノチューブ(b)0.01〜5.0質量%を混合、分散させる際に、粒径が1〜50nmの超微粒子無水シリカ粉末(c)を、樹脂(a)及びカーボンナノチューブ(b)の合計量に対して0.1〜3.0質量%添加して高せん断混合してなるカーボンナノチューブ含有樹脂組成物、硬化物、成形体及びカーボンナノチューブ含有樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械強度(曲げ強度、曲げ弾性率)や導電性(特に均一性)に優れたカーボンナノチューブ含有樹脂組成物、硬化物、成形体及びカーボンナノチューブ含有樹脂組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、1991年に飯島澄男氏が発見した新しい炭素材料である(非特許文献1)が、その後、電気伝導性、熱伝導性や機械的強度の点で従来の物質にない特性を持つことが確認され、ナノテクノロジー分野の代表的な材料として注目されている。
【0003】
しかしながら、カーボンナノチューブは、通常絡まった状態で製造されるため、取扱いが非常に煩雑になるという問題がある。また、樹脂や溶液に混合した場合は、カーボンナノチューブがさらに凝集し、上記のようなカーボンナノチューブ本来の特性が発揮できないという問題があった(特許文献1〜3)。
【0004】
このため、カーボンナノチューブを物理的に処理したり、化学的に修飾したりして溶媒や樹脂に溶解することが試みられている。例えば、単層カーボンナノチューブを強酸中で超音波処理することによって短く切断して分散する方法が提案されている(非特許文献2)。
【0005】
また、上記提案のように切断されたカーボンナノチューブは、その両末端が開いておりカルボキシル基で終端されていることに着目し、カルボキシル基を酸塩化物にした後アミン化合物と反応させ長鎖アルキル基を導入して溶媒に可溶化することが提案されている(非特許文献3)。
【0006】
さらに、カーボンナノチューブを予め均一に分散した溶媒に樹脂を溶かすことによって、カーボンナノチューブが均一に分散した樹脂を製造することが提案されている(特許文献4)。さらにまた、カーボンナノチューブをアミド系極性有機溶媒、非イオン性界面活性剤等のいわゆる分散剤及びポリビニルピロリドンとともに超音波処理して分散を行い、樹脂と混合する方法も提案されている(特許文献5)。
【特許文献1】特許第2862578号公報
【特許文献2】特許第3034027号公報
【特許文献3】特開平7−102112号公報
【特許文献4】特表2005−500648号公報
【特許文献5】特開2005−154630号公報
【非特許文献1】S.Iijima,Nature,354,56(1991)
【非特許文献2】R.E.Smalley等,Science,280,1253(1998)
【非特許文献3】J.Chen等,Science,282,95(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献2の方法は、強酸中で処理するため取扱い作業が煩雑であり、廃棄物の処理の問題もあり、工業的に適した方法ではなかった。また、非特許文献3の化学的修飾法では、カーボンナノチューブのグラフェンシート構造の損傷やカーボンナノチューブ自体の特性に影響を与えるなどの問題点が残されていた。
【0008】
さらに、特許文献4及び5の方法では、例え樹脂中にカーボンナノチューブが再凝集することなく均一に分散したとしても、溶媒を除去する工程が必要であり、その除去工程で加熱、真空等の最適条件を選択しなければ再凝集が起こるという問題点があった。さらにまた、製造過程で溶剤が大気中に放出される恐れがあり、環境保全の観点からも大量溶剤の使用は望まれていなかった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、カーボンナノチューブ自体の特性を損なうことなく、酸処理や溶媒の除去といった煩雑な操作をすることなく、簡単な方法によりカーボンナノチューブが樹脂中で再凝集することなく均一に分散したカーボンナノチューブ含有樹脂組成物、機械強度(曲げ強度、曲げ弾性率)や導電性(特に均一性)が優れた硬化物または成形体を提供することであり、さらに該カーボンナノチューブ含有樹脂組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂にカーボンナノチューブを混合分散させる際に、特定の粒径を持つ超微粒子無水シリカ粉末を添加して高せん断混合することによって、無添加に比べてさらに強力なせん断力が与えることができ、再凝集が防止でき、機械強度や導電性が優れたカーボンナノチューブ含有樹脂組成物が得られることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物は、樹脂(a)に対して、直径1〜80nmでアスペクト比が50以上のカーボンナノチューブ(b)0.01〜5.0質量%を混合、分散させる際に、粒径が1〜50nmの超微粒子無水シリカ粉末(c)を、樹脂(a)及びカーボンナノチューブ(b)の合計量に対して0.1〜3.0質量%添加して高せん断混合してなることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物は、前記樹脂(a)が、熱硬化性樹脂(d)または熱可塑性樹脂(e)であることが好ましい。さらに、前記熱硬化性樹脂(d)が、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、シアネートエステル樹脂の中から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、前記熱可塑性樹脂(e)が、スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリオレフィン樹脂及び液晶性樹脂の中から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明の硬化物は、前記カーボンナノチューブ含有樹脂組成物に硬化剤を添加して硬化させたことを特徴とするものである。
【0014】
さらにまた、本発明の成形体は、前記カーボンナノチューブ含有樹脂組成物を成形してなることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物の製造方法は、樹脂(a)に対して、直径1〜80nmでアスペクト比が50以上のカーボンナノチューブ(b)0.01〜5.0質量%を混合、分散させる際に、粒径が1〜50nmの超微粒子無水シリカ粉末(c)を、樹脂(a)及びカーボンナノチューブ(b)の合計量に対して0.1〜3.0質量%添加して高せん断混合することを特徴とするものである。
【0016】
さらに、本発明のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物の製造方法は、前記樹脂(a)が、熱硬化性樹脂(d)または熱可塑性樹脂(e)であることが好ましい。さらにまた、前記熱硬化性樹脂(d)が、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、シアネートエステル樹脂の中から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、前記熱可塑性樹脂(e)が、スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリオレフィン樹脂及び液晶性樹脂の中から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、カーボンナノチューブ自体の特性を損なうことなく、酸処理や溶媒の除去といった煩雑な操作をすることなく、簡単な方法によりカーボンナノチューブが樹脂中で再凝集することなく均一に分散したカーボンナノチューブ含有樹脂組成物、機械強度(曲げ強度、曲げ弾性率)や導電性(特に均一性)が優れた硬化物または成形体を提供することができる。また、該カーボンナノチューブ含有樹脂組成物の製造方法を提供することができる。さらに、本発明は、従来の酸処理や溶媒の除去などの操作がないため、環境保全の観点からも望ましいものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、樹脂(a)にカーボンナノチューブ(b)を混合、分散させる際に、1〜50nmの粒径を持つ超微粒子無水シリカ粉末(c)を、樹脂(a)及びカーボンナノチューブ(b)の合計量に対して0.1〜3.0質量%添加することにより、超微粒子無水シリカ粉末(c)を無添加の従来法と比べて、得られた硬化物または成形体の体積抵抗率を顕著に低下させるものである。
【0019】
また、一般的に導電性のカーボンナノチューブ(b)を混合、分散させた樹脂(a)に非導電性(電気絶縁性)のシリカ粉末を添加すれば導電性が低下するが、本発明は特定の粒径を持つ超微粒子無水シリカ粉末(c)を特定量添加して高せん断混合することにより、得られた硬化物または成形体の導電性が向上するという従来の常識では不可能なことを可能にした。
【0020】
さらに、本発明は、一般的に樹脂の充填剤として使用されている破砕シリカや溶融シリカなどのシリカ粉末ではなく、一般的にチクソトロピック剤として塗料のダレ止めに使用されている超微粒子無水シリカ粉末(c)をカーボンナノチューブ(b)とともに樹脂(a)に添加して高せん断混合するという極めて簡単な操作をすることにより、カーボンナノチューブ含有樹脂組成物から機械強度や導電性が優れた硬化物または成形体を製造するものである。
【0021】
このように、本発明によれば、従来のようなカーボンナノチューブ(b)の表面を改質させるなど煩雑な操作が必要なく、適量の超微粒子無水シリカ粉末(c)を介在してカーボンナノチューブ(b)の再凝集を抑制することにより製造操作を大幅に簡素化できる。また、本発明では、超微粒子無水シリカ粉末(c)が一定の量を超えると、逆に体積抵抗率が大きくなるため、超微粒子無水シリカ粉末(c)の添加量を一定の範囲に限定する必要がある。
【0022】
本発明における樹脂としては、所望の効果が得られれば特に限定されないが、好ましくは熱硬化性樹脂(d)または熱可塑性樹脂(e)である。
【0023】
熱硬化性樹脂(d)としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、シアネートエステル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂等を使用することができる。このうちエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、シアネートエステル樹脂の中から選ばれる少なくとも1種が、好ましい。また、耐衝撃性向上のために上記熱硬化性樹脂にエラストマーや合成ゴム等の柔軟成分を添加したものであってもよい。
【0024】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、環状脂肪族エポキシ化合物、複素環式エポキシ化合物、ジグリシジルエステル系エポキシ化合物などが挙げられる。これらのエポキシ樹脂は単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用される。
【0025】
エポキシ樹脂の硬化剤としては、脂肪族アミン、芳香族アミン、ポリアミドアミン、カルボン酸無水物、フェノールノボラック樹脂、ジシアンジアミド、イミダゾール化合物、チオ尿素付加アミン、ポリメルカプタン、カルボン酸ヒドラジド、カルボン酸アミド及びアミン−エポキシアダクトやマイクロカプセル型硬化剤等の各種潜在性硬化剤を使用することができる。
【0026】
熱硬化性樹脂(d)の硬化剤(例えば、上記のエポキシ樹脂硬化剤)は、熱硬化性樹脂(d)とカーボンナノチューブ(b)を超微粒子無水シリカ粉末(c)とともに高せん断混合する際に、発熱や粘度上昇等の硬化反応の進行が認められるなら、高せん断混合時には添加せず、後から添加して混合してもよい。
【0027】
熱可塑性樹脂(e)としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、液晶ポリエステル等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等のポリオレフィンやスチレン系樹脂の他、ポリオキシメチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリメチレンメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート、さらにポリスチレン系ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系エラストマー等を使用することができる。このうち、スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリオレフィン樹脂及び液晶性樹脂の中から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0028】
ここでスチレン系樹脂とは、スチレン及び/またはその誘導体(芳香族ビニル系モノマー)から生成した単位を含有する樹脂のことである。例えば、芳香族ビニル系モノマー1種または2種以上を重合した重合体、芳香族ビニル系モノマーの1種または2種以上とそれと共重合可能なモノマーの1種または2種以上を共重合した共重合体などが挙げられる。また、ゴム強化したスチレン系樹脂も好ましく用いられる。
【0029】
本発明において好ましいスチレン系樹脂としては、PS(ポリスチレン)、HIPS(高衝撃ポリスチレン)、AS(アクリロニトリル・スチレン共重合物)樹脂、AES(アクリロニトリル・EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン・ターポリマ)・スチレン共重合物)樹脂、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合物)樹脂、MBS(メタクリル酸メチル・ブタジエン・スチレン共重合物)樹脂、ASA(アクリロニトリル・スチレン・アクリルゴム共重合物)樹脂などが挙げられ、なかでもPS、HIPS、AS樹脂、ABS樹脂、ASA樹脂が好ましく用いられる。
【0030】
本発明で使用するカーボンナノチューブ(b)は、黒鉛シート(すなわち、黒鉛構造の炭素原子面ないしグラフェンシート)がチューブ状に閉じた中空炭素物質であり、その直径はナノメートルスケールであり、壁構造は黒鉛構造を有している。壁構造が1枚の黒鉛シートでチューブ状に閉じたものは単層カーボンナノチューブと呼ばれ、複数枚の黒鉛シートがそれぞれチューブ状に閉じて、入れ子状になっているものは入れ子構造の多層カーボンナノチューブと呼ばれている。本発明では、これら単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブのいずれも使用できる。
【0031】
本発明で使用できる単層カーボンナノチューブとしては、直径が1〜10nm程度、長さが1〜50μm程度のものが、好ましい。また、本発明で使用できる多層カーボンナノチューブとしては、直径が1〜80nm、長さが1〜50μm程度のものが、好ましい。
【0032】
これらのカーボンナノチューブは、例えば、炭化水素等の炭素含有ガスを遷移金属触媒とともに高温で気相分解する方法や、グラファイトを用いたアーク放電法あるいはレーザー蒸着法等により製造できるが、どのような方法で製造したカーボンナノチューブを使用しても構わない。上記のカーボンナノチューブは、例えば、特公表平2−503334号公報や特開平11−256430号公報などに製造方法が開示されているが、通常、直径が1〜80nmで、長さが1〜50μmあり、長さと直径の比、いわゆるアスペクト比が50以上あるものが、好ましい。直径が1nm未満や長さが1μm未満のカーボンナノチューブでは、樹脂中で再凝集が起きやすく、本発明の効果が充分に得られないので、好ましくない。一方、直径が80nmを越えると、所望の導電性や機械強度が得られないので好ましくない。長さが50μmを超えると、導電性の均一性(硬化物や成形体の場所により、体積抵抗率や表面抵抗率等の導電性を示す数値のばらつきが少ないこと)が劣るので、好ましくない。また、アスペクト比が50未満でも導電性の均一性が劣るので、好ましくない。
【0033】
本発明に使用するカーボンナノチューブ(b)は、熱硬化性樹脂(d)または熱可塑性樹脂(e)に対して、0.01〜5.0質量%の範囲で混合、分散する必要がある。より好ましくは0.05〜4.5質量%、とりわけ0.1〜4.0質量%の範囲内であるのが、好ましい。0.01質量%未満では、導電性の均一性や所望の機械強度が得られない場合があるので、好ましくない。一方、5.0質量%を超えるとカーボンナノチューブ含有樹脂組成物の粘度が高粘度になったり、流動性が劣り、硬化時や成形時の作業性が悪化するので好ましくない。また、カーボンナノチューブ(b)は、樹脂(a)に混合、分散できれば形態は限定されないが、好ましくは粉体のまま混合、分散される。
【0034】
本発明に使用する粒径が1〜50nmの超微粒子無水シリカ粉末(c)は、乾式シリカの1種である。一般的には、四塩化珪素を水素及び酸素とともに燃焼して作られるが、四塩化珪素の代わりにメチルトリクロロシランやトリクロロシラン等のシラン類を単独または四塩化珪素と混合した状態で作られたものでもよい。これらの超微粒子無水シリカ粉末(c)は、例えば、日本アエロジル(株)から「アエロジル」、トクヤマ(株)から「レオロシール」、米国のキャボット社から「Cab−O−Sil」の商品名で市販されており入手することができる。
【0035】
上記の超微粒子無水シリカ粉末(c)の添加量は、樹脂(a)及びカーボンナノチューブ(b)の合計量に対して、0.1〜3.0質量%の範囲である必要がある。より好ましくは0.5〜2.5質量%、特に1.0〜2.2質量%の範囲内であることが、好ましい。0.1質量%未満では、樹脂中でカーボンナノチューブの再凝集が起き、導電性の均一性が得られないので、好ましくない。一方、3.0質量%を超えると、電気絶縁性の超微粒子無水シリカ粉末が電気伝導性に優れたカーボンナノチューブの表面を被覆し、樹脂の導電性が低下するので、好ましくない。
【0036】
本発明のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物の製造方法は、樹脂(a)にカーボンナノチューブ(b)を混合、分散させる際に、超微粒子無水シリカ粉末(c)を樹脂(a)及びカーボンナノチューブ(b)の合計量に対して0.1〜3.0質量%添加して高せん断混合することを特徴とする。従って、従来のように予めカーボンナノチューブを溶媒に均一に分散させたり、カーボンナノチューブを界面活性剤等のいわゆる分散剤を添加した特定の溶媒中に超音波分散するような前処理が不要で、カーボンナノチューブを熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂に直接簡単な操作で均一に分散、混合することができる。また、カーボンナノチューブを混合、分散後、樹脂中から脱溶媒等の煩雑な操作が不要となる。従って、本発明は従来の酸処理や溶媒の除去などの操作がないため、環境保全の観点からも望ましい。
【0037】
カーボンナノチューブ含有樹脂組成物の製造にあたっては、凝集物をほぐしつつ再凝集を防止しながら行なうことによって良好な分散物が得られる。そのためには、樹脂(a)にカーボンナノチューブ(b)を混合、分散させる際に十分なせん断力が与えられることが、好ましい。樹脂(a)中に添加したカーボンナノチューブ(b)の分散過程について、高瀬らは4段階の分散モデル図を用いて「マトリクス(樹脂)中に混入したカーボンナノチューブ凝集体がマトリクス材料から伝達されるせん断力によりさらに破砕・凝集が解け微細化し、マトリクス中に分配・拡散する」と説明している(日本接着学会誌、Vol.39,No7,279(2003))。本発明のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物の製造方法によれば、特定の粒径を持つ超微粒子無水シリカ粉末(c)を樹脂(a)及びカーボンナノチューブ(b)の合計量に対して、0.1〜3.0質量%添加して高せん断混合することによって、無添加に比べて混合分散時にさらに強力なせん断力を与えることができ、再凝集が防止でき、上記のような良好な特性を持ったカーボンナノチューブ含有樹脂組成物が製造できる。
【0038】
ここでいう「せん断力」とは、ずれに伴い材料の横断面に互いに平行で向きが逆に生じる応力のことであり、高せん断力を付与するのに適した高せん断混合機としては、ボールミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、アジテーターミル、アトライター、三本ロール、ニーダー、加圧ニーダー、KXニーダー、プラネタリーミキサー、PDミキサー、BDM二軸ミキサー、ディゾルバー、CDM同芯二軸ミキサー、二軸押出機がある。このうち、三本ロールは熱硬化性樹脂(d)にカーボンナノチューブ(b)を混合分散するのに好ましく使用されるが、各ロール間の間隙やロールの回転数を変えることによりせん断力を変動することができる。また、二軸押出機は、熱可塑性樹脂(e)にカーボンナノチューブ(b)を混合分散するのに好ましく使用されるが、スクリュチップクリアランスやスクリュ回転数を変えることによりせん断力を変動することができる。なお、最適なせん断力は、樹脂(a)中へのカーボンナノチューブ(b)の分散状態を観察することによって決定することができる。
【0039】
本発明のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物は、その目的に応じてその他の成分として導電性付与材、難燃剤、難燃助剤、顔料、染料、滑剤、離型剤、相溶化剤、界面活性剤等の分散剤、結晶核剤、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、流動性改質剤、発泡剤、抗菌剤、制振剤、防臭剤、摺動性改質剤、帯電防止剤等の任意の添加剤を単独でも、2種類以上ブレンドしたものであってもよい。
【0040】
本発明の硬化物の作製方法は、特に限定されないが、例えば、塗布(Coating)、注型(Casting)、含浸(Impregnation)、被覆(Encapsulation)、埋込(Potting)あるいは封止(Sealing)することによって、室温または加熱条件下で硬化物が得られる。また、本発明のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物は、ガラス繊維や炭素繊維に含浸後、プレス成形して複合体とすることもできる。さらに、本発明のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物に、充填剤やその他の成分をブレンドして、例えば、トランスファー成形することもできる。
【0041】
また、本発明の成形体の作製方法は、特に限定されないが、例えば、二軸押出機を使用して作られたペレットを射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、あるいはプレス成形することによって成形体が得られる。
【0042】
本発明における硬化物や成形体の用途としては特に限定されないが、例えば、優れた機械強度や導電性(静電防止や電磁波シールドを含む)が求められる電子・電気機器用、OA機器用、精密機器用、輸送機器用部品や部材に使用される。具体的には、ハウジング、ケーシング、カバー、トレーが挙げられる。その他複合材料としてゴルフシャフト、テニスラケットや釣竿等のスポーツ用品、自動車の車体用部材や航空宇宙用部材にも使用される。
【実施例】
【0043】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の範囲を何ら限定するものではない。なお、本実施例では、カーボンナノチューブをCNTと略記する。
【0044】
硬化物または成形体の評価項目及び評価方法を下記する。
<CNTの凝集>
縦100mm、横100mm、厚さ0.6〜0.7mmの試験片を太陽光または蛍光灯の光にかざし、目視観察した。黒色に着色していない透明部分が部分的に存在するものは、凝集ありと判定した。また、全体が黒色で、部分的な透明部分が全く存在しないものは、凝集なしと判定した。
【0045】
<体積抵抗率>
JIS K7194に準拠して、三菱化学製の四探針式低抵抗率計(ロレスタEP,MCP−T360型)を使用して測定した。なお、この抵抗率計は、10以下の低抵抗を測定するもので、測定範囲に入らないものは、10以上と表記した。
【0046】
<曲げ強度及び曲げ弾性率>
JIS K6911に準拠して、島津製作所製AG−50kNG型オートグラフを使用して測定した。
【0047】
(実施例1)
ジャパンエポキシレジン製エポキシ樹脂JER828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)100質量部に日本アエロジル社製アエロジル200(平均粒径が12nmの超微粒子無水シリカ粉末)1.0質量部を添加してラボスターラーで予備撹拌を行った。次に、この中に韓国CNT社製カーボンナノチューブCNT−100(平均直径10〜50nm、長さ1〜25μm、アスペクト比100〜2500の多層カーボンナノチューブ)1.0質量部を添加し、ラボスターラーで予備撹拌した。その後、アイメックス社製セラミックス小型三本ロールを使用して50rpm/5パスの条件で混練した。
【0048】
これらの混練物100質量部に、硬化剤としてアンカミン1922A(米国のAirProducts&Chemical社製脂肪族アミン)とエポメートSA−1(ジャパンエポキシレジン社製変性脂肪族アミン)の質量比で1:1の混合物45質量部を均一になるまで混合し、減圧脱泡後型に注型し、30℃で16時間硬化させた。
【0049】
硬化物を目視観察したところ、全体が黒色で部分的な透明部分が全く存在せず、CNTの凝集なしと判定した。硬化物の体積抵抗率を測定したところ9.3×10Ω−cmであり、場所を変えて測定しても同一な数値を示し、導電性が均一であることが確認できた。また、硬化物の曲げ強度及び曲げ弾性率を測定したところ、曲げ強度は120MPa、曲げ弾性率は4100MPaであった。表1に、CNT含有樹脂組成物の製造方法、硬化物の作製方法及び硬化物の特性をまとめて示す。
【0050】
(実施例2)
実施例1のアエロジル200の添加量を2.0質量部とし、混練物100質量部に対する硬化剤混合物の使用量を44質量部とした以外は実施例1と全く同様に硬化物を得た。
【0051】
硬化物を目視観察したところ、全体が黒色で部分的な透明部分が全く存在せず、CNTの凝集なしと判定した。また、硬化物の体積抵抗率を測定したところ5.3×10Ω−cmであり、場所を変えて測定しても同一な数値を示し、導電性が均一であることが確認できた。さらに、硬化物の曲げ強度及び曲げ弾性率を測定したところ、曲げ強度は121MPa、曲げ弾性率は4100MPaであった。表1に、CNT含有樹脂組成物の製造方法、硬化物の作製方法及び硬化物の特性をまとめて示す。
【0052】
(実施例3)
実施例1のアエロジル200の添加量を0.5質量部とし、CNT−100の添加量を0.5質量部とした以外は実施例1と全く同様に硬化物を得た。
【0053】
硬化物を目視観察したところ、全体が黒色で部分的な透明部分が全く存在せず、CNTの凝集なしと判定した。また、硬化物の体積抵抗率を測定したところ7.2×10Ω−cmであり、場所を変えて測定しても同一な数値を示し、導電性が均一であることが確認できた。さらに硬化物の曲げ強度及び曲げ弾性率を測定したところ、曲げ強度は118MPa、曲げ弾性率は3900MPaであった。表1に、CNT含有樹脂組成物の製造方法、硬化物の作製方法及び硬化物の特性をまとめて示す。
【0054】
(比較例1)
JER828 100質量部にアエロジル200を添加せず、CNT−100 1.0質量部のみを添加してラボスターラーで予備撹拌した。その後、実施例1と同様に三本ロールで混練した。混練物100質量部に対する硬化剤混合物の使用量を46質量部とした以外は実施例1と全く同様に硬化物を得た。
【0055】
硬化物を目視観察したところ、黒色に着色していない透明部分が存在していることから、CNTの凝集ありと判定した。硬化物の体積抵抗率を測定したところ、3.9×10〜6.1×10Ω−cmと場所によって数値がばらつき、導電性が不均一であると判断した。また、硬化物の曲げ強度及び曲げ弾性率を測定したところ、曲げ強度は114MPa、曲げ弾性率は3700MPaであった。表2に、CNT含有樹脂組成物の製造方法、硬化物の作製方法及び硬化物の特性をまとめて示す。
【0056】
(比較例2)
実施例1のアエロジル200の添加量を4.0質量部とし、混練物100質量部に対する硬化剤混合物の使用量を43質量部とした以外は実施例1と全く同様に硬化物を得た。
【0057】
硬化物を目視観察したところ、全体が黒色で部分的な透明部分が全く存在せず、CNTの凝集なしと判定した。硬化物の体積抵抗率を測定したところ、四探針式低抵抗率計の測定範囲に入らず、10Ω−cm以上と判断した。また、硬化物の曲げ強度及び曲げ弾性率を測定したところ、曲げ強度は118MPa、曲げ弾性率は3800MPaであった。表2に、CNT含有樹脂組成物の製造方法、硬化物の作製方法及び硬化物の特性をまとめて示す。
【0058】
(比較例3)
実施例1で使用したアエロジル200の代わりに、龍森社製ヒューズレックスX(平均粒径が1.5〜2.5μmの溶融シリカ)を使用した以外は実施例1と全く同様に硬化物を得た。
【0059】
硬化物を目視観察したところ、黒色に着色していない透明部分が存在していることか ら、CNTの凝集ありと判定した。硬化物の体積抵抗率を測定したところ、四探針式低抵抗率計の測定範囲に入らず、10Ω−cm以上と判断した。また、硬化物の曲げ強度及び曲げ弾性率を測定したところ、曲げ強度は115MPa、曲げ弾性率は3500MPaであった。表2に、CNT含有樹脂組成物の製造方法、硬化物の作製方法及び硬化物の特性をまとめて示す。
【0060】
(比較例4)
JER828 100質量部にアンカミン1922AとエポメートSA−1の質量比で1:1の混合物46質量部を均一になるまでラボスターラーで混合し、減圧脱泡後型に注型し、30℃で16時間硬化させた。
【0061】
硬化物の特性を実施例1と同様に測定したところ、体積抵抗率は四探針式低抵抗率計の測定範囲に入らず、10Ω−cm以上と判断した。また、曲げ強度は98MPa、曲げ弾性率は3300MPaであった。表2に、硬化物の作製方法及び硬化物の特性をまとめて示す。
【0062】
(比較例5)
JER828 100質量部にアエロジル200 1.0質量部を添加してラボスターラーで予備撹拌を行った。次に、この中にCNT−100 1.0質量部を添加し、ラボスターラーで撹拌した。その後、三本ロールでの混練をすることなく、混合物に実施例1と同様な比率で硬化剤を加え、ラボスターラーで均一になるまで混合して減圧脱泡後に注型し、30℃で16時間硬化させた。
【0063】
硬化物を目視観察したところ、黒色に着色していない透明部分が存在していることから、CNTの凝集ありと判定した。硬化物の体積抵抗率を測定したところ、四探針式低抵抗率計の測定範囲に入らず、10Ω−cm以上と判断した。また、硬化物の曲げ強度及び曲げ弾性率を測定したところ、曲げ強度は95MPa、曲げ弾性率は3100MPaであった。表2に、CNT含有樹脂組成物の製造方法、硬化物の作製方法及び硬化物の特性をまとめて示す。
【0064】
(比較例6)
実施例1のアエロジル200の添加量を1.0質量部とし、CNT−100の添加量を6.0質量部とした以外は実施例1と全く同様に予備撹拌及び三本ロール混練を行なった。得られた混練物(CNT含有樹脂組成物)は粘度が非常に高く、静止状態では流動性が全くなかった。この混練物100質量部に、実施例1で使用した硬化剤混合物42質量部を加えラボスターラーで撹拌した。しかし、硬化剤を加えた後でも流動性が全くなく、注型板を作製することができなかった。なお、CNT−100の添加量と混練物の粘度を検討したところ、CNT−100の添加量が増えるに従って粘度が上昇し、流動性が低下することが分かった。表2に、CNT含有樹脂組成物の製造方法、硬化物の作製方法及び硬化物の特性をまとめて示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
(実施例4)
出光石油化学社製タフロンA1900(ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂)100質量部にアエロジル200 2.0質量部、トリメチルホスフェート 0.2質量部及び実施例1で使用した多層カーボンナノチューブCNT−100 3.0質量部を添加し、スーパーミキサーで予備混合した。その後、東芝機械社製TEM35型ベント式二軸押出機に供給して溶融混練し、ペレット化した。押出条件は、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数180rpmで行なった。得られたペレットを120℃で5時間熱風循環式乾燥機を使用して乾燥後、シリンダー温度270℃、金型温度80℃で射出成形して成形体の試験片を得た。
【0068】
成形体を目視観察したところ、全体が黒色で部分的な透明部分が全く存在せず、CNTの凝集なしと判定した。成形体の体積抵抗率を測定したところ2.0×10Ω−cmであり、場所を変えて測定しても同一な数値を示し、導電性が均一であることが確認できた。また、成形体の曲げ強度及び曲げ弾性率を測定したところ、曲げ強度は105MPa、曲げ弾性率は2800MPaであった。表3に、CNT含有樹脂組成物の製造方法、成形体の作製方法及び成形体の特性をまとめて示す。
【0069】
(実施例5)
実施例4のアエロジル200の添加量を1.0質量部とした以外は実施例4と全く同様に行い、成形体の試験片を得た。
【0070】
成形体を目視観察したところ、全体が黒色で部分的な透明部分が全く存在せず、CNTの凝集なしと判定した。成形体の体積抵抗率を測定したところ3.4×10Ω−cmであり、場所を変えて測定しても同一な数値を示し、導電性が均一であることが確認できた。また、成形体の曲げ強度及び曲げ弾性率を測定したところ、曲げ強度は108MPa、曲げ弾性率は2900MPaであった。表3に、CNT含有樹脂組成物の製造方法、成形体の作製方法及び成形体の特性をまとめて示す。
【0071】
(比較例7)
実施例4のアエロジル200の添加量を0質量部とした以外は実施例4と全く同様に行い、成形体の試験片を得た。
【0072】
成形体を目視観察したところ、黒色に着色していない透明部分が存在していることから、CNTの凝集ありと判定した。成形体の体積抵抗率を測定したところ、2.8×10〜7.2×10Ω−cmと場所によって数値がばらつき、導電性が不均一であると判断した。また、成形体の曲げ強度及び曲げ弾性率を測定したところ、曲げ強度は98MPa、曲げ弾性率は2500MPaであった。表3に、CNT含有樹脂組成物の製造方法、成形体の作製方法及び成形体の特性をまとめて示す。
【0073】
(比較例8)
実施例4のアエロジル200の添加量を5.0質量部とした以外は実施例4と全く同様に行い、成形体の試験片を得た。
【0074】
成形体を目視観察したところ、全体が黒色で部分的な透明部分が全く存在せず、CNTの凝集なしと判定した。成形体の体積抵抗率を測定したところ、四探針式低抵抗率計の測定範囲に入らず、10Ω−cm以上と判断した。また、成形体の曲げ強度及び曲げ弾性率を測定したところ、曲げ強度は102MPa、曲げ弾性率は2700MPaであった。表3に、CNT含有樹脂組成物の製造方法、成形体の作製方法及び成形体の特性をまとめて示す。
【0075】
(比較例9)
実施例4で使用したアエロジル200の代わりに、龍森社製ヒューズレックスX(平均粒径が1.5〜2.5μmの溶融シリカ)を使用した以外は実施例4と全く同様に行い、成形体の試験片を得た。
【0076】
成形体を目視観察したところ、黒色に着色していない透明部分が存在していることから、CNTの凝集ありと判定した。成形体の体積抵抗率を測定したところ、四探針式低抵抗率計の測定範囲に入らず、10Ω−cm以上と判断した。また、成形体の曲げ強度及び曲げ弾性率を測定したところ、曲げ強度は100MPa、曲げ弾性率は2600MPaであった。表3に、CNT含有樹脂組成物の製造方法、成形体の作製方法及び成形体の特性をまとめて示す。
【0077】
(比較例10)
タフロンA1900 100質量部にアエロジル200やCNT−100を添加せず、トリメチルホスフェート 0.2質量部のみを添加してスーパーミキサーで予備混合した。その後、実施例4と同様な操作を行い、成形体の試験片を得た。
【0078】
成形体の体積抵抗率を測定したところ、四探針式低抵抗率計の測定範囲に入らず、10Ω−cm以上と判断した。また、成形体の曲げ強度及び曲げ弾性率を測定したところ、曲げ強度は90MPa、曲げ弾性率は2300MPaであった。表3に、CNT含有樹脂組成物の製造方法、成形体の作製方法及び成形体の特性をまとめて示す。
【0079】
【表3】

【0080】
本発明において、熱硬化性樹脂を使用したカーボンナノチューブ含有樹脂組成物は、塗布、注型、含浸、被覆、埋込、あるいは封止することによって、導電性接着剤、静電防止塗料、電磁波シールド塗料、固体電解コンデンサー、燃料電池セパレーターをはじめ各種電気・電子部品の製造に利用することができる。また、ガラス繊維や炭素繊維との複合体として、ゴルフシャフト、テニスラケットや釣竿等のスポーツ用品、自動車の車体用部材や航空宇宙用部材としても利用することができる。
【0081】
本発明において、熱可塑性樹脂を使用したカーボンナノチューブ含有樹脂組成物は、二軸押出機を使用して作られたペレットを射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、あるいはプレス成形することによって、電子・電気機器用、OA機器用、精密機器用、輸送機器用のハウジング、ケーシング、カバー、トレー等の部材として利用することができる。
【0082】
本発明は、超微粒子無水シリカ粉末(c)がカーボンナノチューブ(b)の分散促進と再凝集防止に効果があることを見出して、従来の常識としては不可能であった「電気絶縁性であるシリカの添加により、導電性能の大幅な向上」を可能にした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂(a)に対して、直径1〜80nmでアスペクト比が50以上のカーボンナノチューブ(b)0.01〜5.0質量%を混合、分散させる際に、粒径が1〜50nmの超微粒子無水シリカ粉末(c)を、樹脂(a)及びカーボンナノチューブ(b)の合計量に対して0.1〜3.0質量%添加して高せん断混合してなることを特徴とするカーボンナノチューブ含有樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂(a)が、熱硬化性樹脂(d)または熱可塑性樹脂(e)である請求項1記載のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂(d)が、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、シアネートエステル樹脂の中から選ばれる少なくとも1種である請求項2記載のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂(e)が、スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリオレフィン樹脂及び液晶性樹脂の中から選ばれる少なくとも1種である請求項2記載のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物。
【請求項5】
請求項3記載のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物に硬化剤を添加して硬化させたことを特徴とする硬化物。
【請求項6】
請求項4記載のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形体。
【請求項7】
樹脂(a)に対して、直径1〜80nmでアスペクト比が50以上のカーボンナノチューブ(b)0.01〜5.0質量%を混合、分散させる際に、粒径が1〜50nmの超微粒子無水シリカ粉末(c)を、樹脂(a)及びカーボンナノチューブ(b)の合計量に対して0.1〜3.0質量%添加して高せん断混合することを特徴とするカーボンナノチューブ含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂(a)が、熱硬化性樹脂(d)または熱可塑性樹脂(e)である請求項7記載のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記熱硬化性樹脂(d)が、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、シアネートエステル樹脂の中から選ばれる少なくとも1種である請求項8記載のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂(e)が、スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリオレフィン樹脂及び液晶性樹脂の中から選ばれる少なくとも1種である請求項9記載のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2009−167369(P2009−167369A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−10369(P2008−10369)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(506209422)地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター (134)
【出願人】(592158936)株式会社寺田 (2)
【Fターム(参考)】