説明

カーボンナノチューブ層とオーバーコート層とを具備する複合層のパターン形成方法、及び前記方法で形成されたパターン

【課題】導電膜の所望部分を面内均一に除去することが出来ると共に高性能な導電膜を得ることが可能なパターン形成方法を提供することを目的とする。
【解決手段】カーボンナノチューブ層と、該カーボンナノチューブ層を覆うオーバーコート層とを具備する複合層のパターン形成方法であって、前記カーボンナノチューブ層が、単独では、実質上、エッチングされないものの、前記オーバーコート層のエッチングによって、前記カーボンナノチューブ層が共にエッチングされる前記オーバーコート層のエッチング剤が、前記オーバーコート層上に、所定パータンで塗布される塗布工程を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等の表示パネル、タッチパネル、又は、太陽電池などのオプト−エレクトロニクスデバイスの透明電極に用いられ得る透明導電膜に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、インジウム錫酸化物(ITO)等からなる透明導電膜が透明基板上に設けられた透明導電膜基板が知られている。この種の基板は、例えば液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等の表示パネルに用いられる。或いは、タッチパネルに用いられる。又は、太陽電池などに用いられる。その他にも各種の分野で用いられる。ところで、透明導電膜は所望のパターンに形成されている。このパターン形成方法として、一般的には、ケミカルエッチング手段(フォトレジストやエッチング液が用いられたフォトリソグラフィ手段)が採用されている。
【0003】
しかしながら、このケミカルエッチングの手法は、フォトレジスト膜成膜工程(基板の全面に成膜したITO膜上にフォトレジスト塗料を塗布)→フォトレジスト膜パターニング工程(露光現像によって、フォトレジスト膜を所定パターンに成形)→ITO膜エッチング工程(所定パターンのフォトレジスト膜をマスクとして、ITO膜をエッチング)→フォトレジスト膜除去工程と言った多くの工程を必要とする。かつ、このケミカルエッチングの手法は、溶液中でのフォトレジスト膜の膨潤によるエッチング精度低下や、エッチング液の取り扱い、廃液処理に課題が有る。
【0004】
このような課題を解決する方法として、レーザーを、直接、導電膜に照射することで不要部分を除去するレーザーアブレーション法が提案されている。この方法は、フォトレジストを必要とせず、精度の高いパターニングが可能になる。
【0005】
しかしながら、この手法は、適用可能な基材が限定される。更には、プロセスコストが高く、処理速度が遅い。従って、量産プロセスに適した方法では無い。
【0006】
フォトリソグラフィ工程が不要なケミカルエッチング技術として、「塩化鉄(III)または塩化鉄(III)六水和物の、酸化物表面のエッチングのための組成物における、エッチング成分としての使用」「塩化鉄(III)または塩化鉄(III)六水和物の、ディスプレイ技術(TFT)における、太陽光発電、半導体技術、高性能エレクトロニクス、鉱物学またはガラス工業における、OLED照明、OLEDディスプレイの製造における、およびフォトダイオードの製造のため、およびフラットパネルスクリーン用途(プラズマディスプレイ)のためのITOガラスの構築のための、ペースト形態の組成物における、エッチング成分としての使用」「酸化物層のエッチングのための組成物であって、a)エッチング成分として塩化鉄(III)または塩化鉄(III)六水和物、b)溶媒、c)随意的に、均質に溶解した有機増粘剤、d)随意的に、少なくとも1種の無機酸および/または有機酸、および随意的にe)添加剤、例えば消泡剤、チキソトロープ剤、流れ制御剤、脱気剤、接着促進剤、を含み、ペースト形態であり印刷可能である、前記組成物」が提案(特表2008−547232号公報)されている。
【0007】
「酸化物の透明な導電層をエッチングするためのエッチング媒体であって、リン酸、もしくはその塩またはリン酸付加物またはリン酸と、リン酸塩および/またはリン酸付加物との混合物からなる少なくとも1種のエッチャントを含むエッチング媒体」「酸化物の透明な導電層をエッチングするための方法であって、前記エッチング媒体を、印刷工程によってエッチングする基板に適用することを特徴とする方法」が提案(特表2009−503825号公報)されている。
【0008】
しかし、特表2008−547232号公報や特表2009−503825号公報の技術は、エッチングが面内において均一に進行し難い。この為、ムラが発生する。
【0009】
ところで、透明導電膜は、ITO製の透明導電膜の他にも、カーボンナノチューブ製の透明導電膜が知られている。カーボンナノチューブは、直径が1μm以下の太さのチューブ状材料である。炭素6角網目の面がチューブの軸に平行になって管を形成したカーボンナノチューブは理想的なものである。尚、この管が多重になることもある。カーボンナノチューブは、炭素で出来た6角網目の繋がり方や、チューブの太さにより、金属的あるいは半導体的な性質を示す。このことから、機能材料として期待されている。但し、カーボンナノチューブの構成や製造法によっては、太さも方向もランダムである。この為、利用に際して、合成後に回収して精製し、利用する形態に合わせての処理が必要な場合も有る。この種のカーボンナノチューブをパターニングする手法として次の手法が提案(特表2006−513557号公報、特表2007−529884号公報(国際公開2005/086982号パンフレット))されている。例えば、基板表面にカーボンナノチューブ分散液を塗布してカーボンナノチューブ被膜を形成する。このカーボンナノチューブ被膜にバインダ溶液を所定パターンで塗布する。この後、溶媒を乾燥する。これにより、バインダがカーボンナノチューブ被膜中に残り、カーボンナノチューブのネットワークが強化される。この後、バインダを溶解しない溶媒で基板を洗浄する。これにより、バインダが存する(バインダが塗布された)部分のみが残存したパターンが形成される。バインダの代わりにフォトレジスト材料を用いることも出来る。すなわち、カーボンナノチューブ被膜にフォトレジスト含有塗料を塗布する。これにより、カーボンナノチューブのネットワーク内にフォトレジストが含浸する。この後、フォトリソグラフィを用いて所定パターンに形成する。或いは、スクリーン印刷、インクジェット、グラビア印刷などの塗布方法を用い、予め、パターン化されたカーボンナノチューブ被膜を、直接、基板上に形成することも挙げられる。
【0010】
しかしながら、例えば基板表面全体にカーボンナノチューブ被膜を形成してからパターニング手法を行う手法は、工程が煩雑である。パターン化されたカーボンナノチューブ被膜を、直接、スクリーン印刷などの塗布方法で形成する場合には、カーボンナノチューブ含有塗料の物性を、塗布方法に合った物性に調整しておく必要が有る。カーボンナノチューブ分散液は、一般的には、界面活性剤等の分散剤を用いることで調整されている。そして、比較的低粘度である。しかるに、塗布方法に合ったインク物性のものとする為には、カーボンナノチューブ分散液に粘度や表面張力の調整の為の材料が必要となる。しかしながら、溶媒や金属微粒子、バインダ等の他の材料を混合すると、カーボンナノチューブの分散性が悪化する恐れが有る。
【0011】
この特表2006−513557号公報や特表2007−529884号公報で提案の技術に代わるものとして、次の技術が提案(国際公開2010/113744号パンフレット)されている。すなわち、沸点が80℃以上の酸(例えば、硫酸またはスルホン酸化合物)または沸点が80℃以上の塩基もしくは外部エネルギーにより酸または塩基を発生させる化合物、溶媒、樹脂(例えば、第1級〜第4級アミノ基のいずれかを構造の一部に含むカチオン性樹脂)およびレベリング剤を含む導電膜除去剤が提案されている。又、基材上にウィスカー状導電体、繊維状導電体(例えば、カーボンナノチューブ)または粒子状導電体を含む導電膜を有する導電膜付き基材の少なくとも一部に、前記の導電膜除去剤を塗布する工程、80℃以上で加熱処理する工程および液体を用いた洗浄によって導電膜を除去する工程を有する導電膜除去方法が提案されている。又、この導電膜除去方法であって、導電膜上にオーバーコート層を有する導電膜付き基材からオーバーコート層と導電膜とを除去する導電膜除去方法が提案されている。そして、前記導電膜除去剤を塗布後に80〜200℃に加熱処理することにより、導電膜除去剤が塗布された部分の導電膜は、分解、溶解または可溶化され、又、オーバーコート層を有する場合は、オーバーコート層と導電膜とが分解、溶解または可溶化されると謳われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特表2008−547232号公報
【特許文献2】特表2009−503825号公報
【特許文献3】特表2006−513557号公報
【特許文献4】特表2007−529884号公報(国際公開2005/086982号パンフレット)
【特許文献5】国際公開2010/113744号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献5の技術で用いられた導電膜除去剤は、カーボンナノチューブを、直接、エッチングする。この為、エッチング領域外のカーボンナノチューブにも影響を与える。すなわち、エッチング領域外のカーボンナノチューブに欠陥を引き起こす恐れが高い。更には、本来のエッチング領域外のカーボンナノチューブをもエッチングする恐れが高い。このことは、形成されるパターンが設計通りのものでない恐れが高い。つまり、高精度なパターンの導電膜が形成され難い。更に、特許文献5の技術は、所定パターンに塗布された導電膜除去剤を80℃以上に加熱する加熱工程を必須としている。従って、作業性が悪い。更には、基板は80℃以上の耐熱性を持つことが要求される。このことは、基板選択の自由度が低下する。
【0014】
従って、本発明が解決しようとする課題は、前記問題点を解決することである。特に、加熱工程を不要とし、かつ、残されたカーボンナノチューブに悪影響が引き起こされ難く、しかも高精度なカーボンナノチューブ層のパターンを形成できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記問題点についての検討が、鋭意、推し進められて行った。その結果、特許文献5の技術の問題点は、カーボンナノチューブを、直接、エッチング除去できる剤を用いたからではないかとの啓示を得るに至った。このような啓示に基づいて更なる検討が推し進められて行った。ところで、カーボンナノチューブ層の表面には、通常、オーバーコート層(保護層)が設けられている。オーバーコート層(保護層)が無いケースは皆無と言っても良い程である。従って、カーボンナノチューブを直接エッチングすることは出来ないものの、オーバーコート層をエッチングした場合、このオーバーコート層のエッチングによってカーボンナノチューブも共にエッチングできるようにしたならば、前記問題点が解決できるであろうとの知見を得るに至った。
【0016】
斯かる知見に基づいて本発明が達成された。
【0017】
すなわち、前記の課題は、
カーボンナノチューブ層と、該カーボンナノチューブ層を覆うオーバーコート層とを具備する複合層のパターン形成方法であって、
前記カーボンナノチューブ層が、単独では、実質上、エッチングされないものの、前記オーバーコート層のエッチングによって生ずる剤によって、前記カーボンナノチューブ層が共にエッチングされる前記オーバーコート層のエッチング剤が、前記オーバーコート層上に、所定パターンで塗布される塗布工程
を具備することを特徴とするカーボンナノチューブ層とオーバーコート層とを具備する複合層のパターン形成方法によって解決される。
【0018】
好ましくは、前記カーボンナノチューブ層とオーバーコート層とを具備する複合層のパターン形成方法であって、塗布工程後に洗浄が行われる洗浄工程を更に具備することを特徴とする複合層のパターン形成方法によって解決される。
【0019】
好ましくは、前記カーボンナノチューブ層とオーバーコート層とを具備する複合層のパターン形成方法であって、カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(但し、G(1590cm−1付近に表れるグラファイト物質に共通なラマンピークにおける強度)/D(1350cm−1付近に表れる欠陥に起因するラマンピークにおける強度)≧10)であることを特徴とする複合層のパターン形成方法によって解決される。
【0020】
好ましくは、前記カーボンナノチューブ層とオーバーコート層とを具備する複合層のパターン形成方法であって、オーバーコート層は、有機系または無機系の材料や、有機―無機のハイブリッド樹脂などが挙げられ、有機系材料としては、例えば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、セルロース樹脂、光硬化性樹脂、無機系材料としては、例えばシリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、これら無機系材料に水や酸触媒を加えて加水分解し脱水縮合させた重合物の群の中から選ばれる何れかを含有することを特徴とする複合層のパターン形成方法によって解決される。
【0021】
好ましくは、前記カーボンナノチューブ層とオーバーコート層とを具備する複合層のパターン形成方法であって、オーバーコート層上に塗布される剤が、有機溶媒、酸性材料、アルカリ性材料、アンモニウム、アルカリ金属、およびアンチモンのフッ化物、カルシウムの酸性フッ化物、アルキル化アンモニウム、ならびにテトラフルオロホウ酸カリウムの群の中から選ばれる何れかであることを特徴とする複合層のパターン形成方法によって解決される。
【0022】
前記の課題は、前記カーボンナノチューブ層とオーバーコート層とを具備する複合層のパターン形成方法によって形成されてなるパターンによって解決される。
【発明の効果】
【0023】
例えば、高精度なパターンの透明導電膜が得られる。しかも、80℃以上に加熱と言った工程が不要であるから、作業性が良い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の剤塗布工程での断面図
【図2】本発明の剤塗布後におけるエッチング具合を示す断面図
【図3】本発明の実施により得られたパターンの平面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
第1の本発明はパターン形成方法である。例えば、所定パターンの透明導電膜を形成する方法である。特に、カーボンナノチューブ層とオーバーコート層とを具備する複合層のパターン形成方法である。本方法は塗布工程を具備する。この塗布工程は所定パターンで塗布が行われる工程である。特に、オーバーコート層上に塗布が行われる工程である。本塗布工程で用いられる剤は、この剤のみでは、カーボンナノチューブ層を、実質上、エッチングできない剤である。しかしながら、前記剤は、オーバーコート層をエッチングできる剤である。この塗布工程に先立って、例えば基板上にカーボンナノチューブ層が設けられる工程を有する。例えば、カーボンナノチューブ分散液が基板上に塗布される工程を有する。このカーボンナノチューブ分散液塗布工程の後、例えばカーボンナノチューブ層上にオーバーコート層が設けられる工程を有する。例えば、オーバーコート層構成材料含有塗料が塗布される工程を有する。本方法は、好ましくは、更に、塗布工程後に行われる洗浄工程を具備する。前記カーボンナノチューブは、好ましくは、単層カーボンナノチューブ(但し、G(1590cm−1付近に表れるグラファイト物質に共通なラマンピークにおける強度)/D(1350cm−1付近に表れる欠陥に起因するラマンピークにおける強度)≧10)である。尚、G/Dの実質上の上限値は、例えば150程度である。前記オーバーコート層は、好ましくは、有機または無機系の材料や、有機―無機のハイブリッド樹脂などが挙げられ、有機系材料としては熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、セルロース樹脂、光硬化性樹脂、無機系材料としてはシリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、これら無機系材料に水や酸触媒を加えて加水分解し脱水縮合させた重合物
の群の中から選ばれる何れかの樹脂を含有する。特に好ましいオーバーコート層は、4官能加水分解性オルガノシランと、エポキシ基及びアルコキシ基を有する加水分解性オルガノシランとの加水分解物と、シリカ系金属酸化物微粒子とを含有する組成物からなるものである。前記オーバーコート層上に塗布される剤は、好ましくは、有機溶媒、酸性材料、アルカリ性材料、アンモニウム、アルカリ金属、およびアンチモンのフッ化物、カルシウムの酸性フッ化物、アルキル化アンモニウム、ならびにテトラフルオロホウ酸カリウムの群の中から選ばれる何れかである。特に好ましくは、好適に用いられるオーバーコート層に対応するものとして、アンモニウムのフッ化物である。
【0026】
第2の本発明は前記パターン形成方法の実施により形成されたパターンである。
【0027】
以下、更に詳しい説明がされる。
【0028】
図1〜図3は本発明の一実施形態を説明する為のもので、図1は本発明の剤塗布工程での断面図、図2は本発明の剤塗布後におけるエッチング具合を示す断面図、図3は本発明の実施により得られたパターンの平面図である。
【0029】
各図中、1は、カーボンナノチューブで構成された導電膜(透明導電膜)である。
【0030】
導電膜(特に、透明導電膜)1を構成するカーボンナノチューブ(CNT)としては、単層カーボンナノチューブ、2層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ等が挙げられる。中でも、単層カーボンナノチューブが好ましい。特に、G/Dが10以上(例えば、20〜60)の単層カーボンナノチューブが好ましい。更には、直径が0.3〜100nmのCNTが好ましい。特に、直径が0.3〜2nmのCNTが好ましい。又、長さが0.1〜100μmのCNTが好ましい。特に、長さが0.1〜5μmのCNTが好ましい。そして、導電膜(透明導電膜)1におけるCNTは互いに絡み合ったものである。
【0031】
単層カーボンナノチューブは、如何なる製法によって得られた単層カーボンナノチューブでも良い。例えば、アーク放電法、化学気相法、レーザー蒸発法などの製法で得られた単層カーボンナノチューブを用いることが出来る。但し、結晶性の観点から、アーク放電法で得られた単層カーボンナノチューブが好ましい。そして、このものは入手も容易である。単層カーボンナノチューブは、酸処理が施された単層カーボンナノチューブが好ましい。酸処理は、酸性液体中に単層カーボンナノチューブが浸漬されることで実施される。浸漬の代わりに噴霧と言った手法が採用されても良い。酸性液体は各種のものが用いられる。例えば、無機酸や有機酸が用いられる。但し、無機酸が好ましい。例えば、硝酸、塩酸、硫酸、リン酸、或いはこれらの混合物が挙げられる。中でも、硝酸、或いは硝酸と硫酸との混酸を用いた酸処理が好ましい。この酸処理によって、単層カーボンナノチューブと炭素微粒子とがアモルファスカーボンを介して物理的に結合している場合に、アモルファスカーボンを分解して両者を分離したり、単層カーボンナノチューブ作製時に使用した金属触媒の微粒子を分解することになる。そして、酸処理によって、導電性が向上していた。単層カーボンナノチューブは、濾過によって不純物が除去され、純度が向上した単層カーボンナノチューブが好ましい。その理由は、不純物による導電性の低下や光透過率の低下が防止されるからである。濾過には各種の手法が採用される。例えば、吸引濾過、加圧濾過、クロスフロー濾過などが用いられる。中でも、スケールアップの観点から、中空糸膜を用いたクロスフロー濾過の採用が好ましい。
【0032】
導電膜(特に、透明導電膜)1中には、前記CNTの他に、好ましくは、フラーレンが含まれる。すなわち、導電膜(特に、透明導電膜)1は、好ましくは、前記特徴のCNT、及びフラーレンを含有する。尚、本明細書にあっては、「フラーレン」には「フラーレン類縁体」も含まれる。フラーレンを含ませておくことにより、耐熱性が向上したからである。又、導電性にも優れていたからである。フラーレンは如何なるフラーレンでも良い。例えば、C60,C70,C76,C78,C82,C84,C90,C96等が挙げられる。勿論、複数種のフラーレンの混合物でも良い。分散性能の観点からはC60が特に好ましい。更に、C60は入手し易い。C60のみでは無く、C60と他の種類のフラーレン(例えば、C70)との混合物でも良い。フラーレン内部に金属原子が内包されたものでも良い。フラーレン類縁体としては、官能基(例えば、OH基、エポキシ基、エステル基、アミド基、スルホニル基、エーテル基などの官能基)を含むものが挙げられる。又、フェニル−C61−プロピル酸アルキルエステル、フェニル−C61−ブチル酸アルキルエステルを持つものも挙げられる。又、水素化フラーレンなども挙げられる。中でも、OH基(水酸基)を持つフラーレン(水酸化フラーレン)が好ましい。それは、単層カーボンナノチューブ分散液の塗工時の分散性が高かったからである。尚、水酸基の量が少ないと、単層カーボンナノチューブの分散性向上度が低下する。逆に、多すぎると、合成が困難である。従って、OH基の量はフラーレン1分子当り5〜30個が好ましい。特に、8〜15個が好ましい。フラーレンの添加量(含有量)は、多すぎると、導電性が低下する。逆に、少なすぎると、効果が乏しい。従って、フラーレン量は、好ましくは、CNT100質量部に対して10〜1000質量部(特に、20質量部以上。100質量部以下。)である。
【0033】
尚、導電膜(特に、透明導電膜)1は、バインダ樹脂を含有していても良い。但し、導電性の観点からすると、バインダ樹脂を含まない方が好ましい。例えば、CNTが絡み合った構造のものが用いられと、バインダ樹脂が無くても済む。すなわち、CNT同士が、直接、接触した構造となる。従って、間に絶縁物が介在してないことから、導電性が良い。尚、走査型電子顕微鏡で導電膜表面を観察したならば、CNTが絡み合った構造であるか否かを確認・判定できる。
【0034】
導電膜(透明導電膜)1は、上記特徴のCNT、及び必要に応じて添加されたフラーレンが分散した分散液が基板2の上に塗布されることで構成される。塗布方法としては、例えばダイコート、ナイフコート、スプレー塗布、スピンコート、スリットコート、マイクログラビア、フレキソ等が挙げられる。勿論、これに限らない。塗布は基板2の全面に行われる。
【0035】
基板2の構成材料としては各種のものが適宜用いられる。例えば、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、スチレン−メチルメタクリレート共重合体(MS)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の樹脂が用いられる。本発明では、導電膜のパターン化に際して加熱を要さないことから、耐熱性の要求度が低い。従って、基板2構成材料として樹脂が用いられる場合でも、樹脂選定の自由度が高い。樹脂の他にも、無機ガラス材料やセラミック材料を用いることが出来る。
【0036】
本発明にあっては、導電膜(特に、透明導電膜)1上に、オーバーコート膜(保護膜)3が設けられている。オーバーコート膜(保護膜)3は、有機または無機系の高分子材料、有機−無機のハイブリッド樹脂などで構成される。有機系高分子材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、セルロース樹脂、光硬化性樹脂などが挙げられる。可視光透過性、基板の耐熱性、ガラス転移点および膜硬化度などの観点から、適宜、選択される。熱可塑性樹脂としては、例えばポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ABS樹脂などが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、ポリイミド、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。セルロース樹脂としては、例えばアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等が挙げられる。光硬化性樹脂としては、例えば各種オリゴマー、モノマー、光重合開始剤を含有する樹脂等が挙げられる。無機系材料としては、例えばシリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル等が挙げられる。又、前記無機系材料に水や酸触媒を加えて加水分解し、脱水縮合させた重合物なども挙げられる。有機−無機のハイブリッド樹脂としては、例えば前記無機材料の一部を有機官能基で修飾されたものや、シランカップリング剤などの各種カップリング剤を主成分とする樹脂等が挙げられる。オーバーコート膜3は、その膜厚が厚すぎると、導電膜1の接触抵抗が大きくなる。逆に、オーバーコート膜3の膜厚が薄すぎると、保護膜としての効果が得られ難い。従って、オーバーコート膜3の厚さは1nm〜1μmが好ましい。特に、10nm以上が好ましい。又、100nm以下が好ましい。
【0037】
本発明における導電膜(特に、透明導電膜)1上に設けられるオーバーコート膜(保護膜)3は、好ましくは、加水分解性オルガノシランの加水分解物を含有する組成物からなる。更に好ましくは、4官能加水分解性オルガノシランを含有する組成物からなる。特に、4官能加水分解性オルガノシランと、エポキシ基及びアルコキシ基を有する加水分解性オルガノシランとの加水分解物を含有する組成物からなる。中でも、前記エポキシ基及びアルコキシ基を有する加水分解性オルガノシランの加水分解物の含有量が、樹脂の全固形分に対して1〜10重量%のものが好ましい。エポキシ基及びアルコキシ基を有する加水分解性オルガノシランの共加水分解物を含有させていると、これらを含む組成物を塗布して硬化させた場合、共加水分解物のエポキシ基が、基板に含まれる水酸基やカルボニル基といった酸素サイトと結合する。この為、オーバーコート膜(保護膜)と基板との密着性が向上する。更には、シリカ系金属酸化物微粒子を含有する組成物からなる。場合によっては、フッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシランの加水分解物を更に含有する組成物からなる。前記加水分解性オルガノシランの加水分解物は、該加水分解性オルガノシランに含まれるアルコキシ基に対する水比が1.0〜3.0で反応させたものが好ましい。前記加水分解性オルガノシランの加水分解物は、ポリスチレン換算重量平均分子量1000〜2000の化合物のものが好ましい。
【0038】
前記4官能加水分解性オルガノシランは、例えばSiXで表される化合物である。前記Xは加水分解基である。例えば、アルコキシ基、アセトキシ基、オキシム基、エノキシ基などである。特に、Si(ORで表される4官能加水分解性オルガノアルコキシシランである。前記Rは、好ましくは、1価の炭化水素基である。例えば、炭素数1〜8の1価の炭化水素基である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基等のアルキル基である。本実施形態で用いられる4官能加水分解性オルガノシランとしては、例えばテトラメトキシシランやテトラエトキシシラン等が挙げられる。エポキシ基及びアルコキシ基を有する加水分解性オルガノシランは、例えばRSi(OR,RSi(ORで表される化合物である。Rは、エポキシ基、グリシドキシ基、及びこれらの置換体から選ばれた基である。Rは、前記Rと同様に、1価の炭化水素基である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基などである。Rは、水素、アルキル基、フルオロアルキル基、アリール基、アルケニル基、メタクリルオキシ基、エポキシ基、グリシドキシ基、アミノ基、及びそれらの置換体から選ばれた基である。本実施形態で用いられるエポキシ基及びアルコキシ基を有する加水分解性オルガノシランとしては、例えばγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジメトキシメチルシラン等が挙げられる。シリカ系金属酸化物微粒子としては、好ましくは、中空シリカ微粒子が用いられる。中空シリカ微粒子は、シリカ系金属酸化物の外殻の内部に空洞が形成されたものである。外殻は、細孔を有する多孔質なものが好ましい。細孔が閉塞されて空洞を密封したものであっても良い。尚、形成された被膜の低屈折率化に寄与するものであれば必ずしも上述した中空シリカに限られない。
【0039】
斯かる組成のオーバーコート膜の場合、光反射率が低下して光透過率が高くなる。更には、摩擦などに対する物理的保護が高い。又、熱や湿度などの環境変化に対しても保護が高い。更なる注目点は、本実施形態のオーバーコート膜3がエッチングされた場合、下層のカーボンナノチューブ膜1もエッチングされたことである。
【0040】
オーバーコート膜(保護膜)3は、上記組成物を含有する塗料が塗布されることによって設けられる。塗布方法としては、上記CNT分散液の塗布で説明された方法が採用される。塗布は導電膜(透明導電膜:カーボンナノチューブ層)上に行われる。しかも、全面に塗布される。
【0041】
本発明では、導電膜(透明導電膜:カーボンナノチューブ層)1のみではエッチングされないものの、オーバーコート膜(保護膜)3がエッチングされたことによって出来た(生成した)剤によって、導電膜(透明導電膜:カーボンナノチューブ層)1がエッチングされる剤を用いた。すなわち、本発明で用いるエッチング剤4のみでは、導電膜(透明導電膜:カーボンナノチューブ層)1はエッチングが行われない(或いは、エッチング速度が非常に遅い為、エッチングが行われているとは見做せない)。しかし、オーバーコート膜(保護膜)3はエッチングが行われる。かつ、オーバーコート膜(保護膜)3のエッチングによって出来た(生成した)剤によって、導電膜(透明導電膜:カーボンナノチューブ層)1のエッチングが可能になったものである。従って、カーボンナノチューブに対する悪影響が少ない。
【0042】
斯かる剤は、前記加水分解性オルガノシランの加水分解物を含有する組成物によってオーバーコート膜3が構成された場合で説明すると、次の例が挙げられる。例えば、アンモニウム、アルカリ金属、及びフッ素化合物(例えば、アンチモンのフッ化物、カルシウムの酸性フッ化物、アルキル化アンモニウム、ならびにテトラフロオロホウ酸カリウムの群より選択される少なくとも一つ)を含有する剤(エッチング剤)である。この剤(エッチング剤)は、必要に応じて、更に、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、硫酸および硝酸の群より選択される酸)を含有する。又、必要に応じて、有機酸を含有する。有機酸としては、例えばアルキルカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、及び/又はジカルボン酸が挙げられる。中でも、炭素数が1〜10個の直鎖または分岐鎖のアルキルラジカルを含み得る有機酸が挙げられる。
【0043】
上記エッチング剤(液)がオーバーコート膜3上に塗布される。塗布方法としては各種のパターニング印刷法が採用される。例えば、スクリーン印刷、フレキソ、インクジェット等の手法が用いられる。
【0044】
エッチング剤(液)がオーバーコート膜3上に塗布された後、所定時間に亘って、そのまま放置がなされる。例えば、10秒〜20分程度に亘って放置される。これによってエッチングが進行する。この後、純水中で超音波洗浄が行われた。この結果、図2,3に示されるパターンが形成された。
【0045】
以下、具体的な実施例を挙げて説明が行われる。しかしながら、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
アーク放電により合成されたシングルウォールカーボンナノチューブ(市販品)に対して、酸処理、水洗浄、遠心分離、濾過が行われた。この精製で得られたカーボンナノチューブに、界面活性剤TritonX-100(GEヘルスケア製)0.2wt%水溶液が加えられた。このカーボンナノチューブ含有水溶液に超音波を用いた分散処理が行われた。次いで、遠心分離が行われた。このようにしてカーボンナノチューブ分散液(CNT:1000ppm)が得られた。
【0047】
上記カーボンナノチューブ分散液の塗布が行われた。塗布方法はダイコーティングである。塗布厚さは、乾燥後の厚さが0.05μmである。基板はPETフィルムA4100(東洋紡社製)が用いられた。塗布後、塗膜中に含まれる界面活性剤を取り除く為、メタノール洗浄が行われた。そして、乾燥(1分間;100℃)が行われた。
【0048】
上記カーボンナノチューブ塗膜上にオーバーコート膜が設けられた。このオーバーコート膜の構成には3.8wt%エアロセラ(加水分解性オルガノシラン含有組成物:パナソニック電工社製)が用いられた。塗布方法はダイコーティングである。塗布厚さは、乾燥後の厚さが0.1μmである。
【0049】
この後、上記オーバーコート膜上にエッチング液(フッ化水素アンモニウム含有:isishape HiperEtch 11S(Merck製))が所定パターンで印刷された。印刷法はスクリーン印刷法である。スクリーン版の印刷パターンは、□(図3参照)であり、ライン幅100μmの開口部を持ち、ライン長5mmである。
【0050】
エッチング液が印刷されてから1分間の放置が行われた。次いで、純水中にて、超音波洗浄が行われた。この後、水中から引き上げられ、乾燥が行われた。
【0051】
パターン(□)の内側と外側との導通が、テスターを用いることにより、調べられた。この結果、両者の間では導通の無い(絶縁されている)ことが判明した。
【0052】
更に、スクリーン版の印刷パターン(□)とカーボンナノチユーブ膜のパターン(□)とを比較した処、その精度は高いものであった。
【0053】
[比較例1]
実施例1において、オーバーコート膜を設けなかった以外は全て同様に行われた。
【0054】
その結果、印刷パターン(□)の内側と外側との間で導通が確認された。すなわち、カーボンナノチューブ膜のエッチングが行われていないことが確認された。
【0055】
[比較例2]
実施例1において、オーバーコート層を形成せず、エッチング媒体をITOがエッチング可能なisishape HiperEtch 4S(Merck製)に変更した以外は実施例1と全て同じプロセスでパターン形成を行ったところ、カーボンナノチューブをエッチングすることは出来ず、導通が確認された。
すなわち、国際公開2010/113744号パンフレットで示されるようなエッチング剤では、ITOをエッチング出来ても、CNTはエッチング出来ない。
【符号の説明】
【0056】
1 導電膜(透明導電膜:カーボンナノチューブ層)
2 基板
3 オーバーコート膜(保護膜:オーバーコート層)
4 エッチング剤(オーバーコート層上に塗布される剤)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ層と、該カーボンナノチューブ層を覆うオーバーコート層とを具備する複合層のパターン形成方法であって、
前記カーボンナノチューブ層が、単独では、実質上、エッチングされないものの、前記オーバーコート層のエッチングによって、前記カーボンナノチューブ層が共にエッチングされる前記オーバーコート層のエッチング剤が、前記オーバーコート層上に、所定パターンで塗布される塗布工程
を具備することを特徴とするカーボンナノチューブ層とオーバーコート層とを具備する複合層のパターン形成方法。
【請求項2】
塗布工程後に洗浄が行われる洗浄工程を更に具備する
ことを特徴とする請求項1のカーボンナノチューブ層とオーバーコート層とを具備する複合層のパターン形成方法。
【請求項3】
カーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブ(但し、G(1590cm−1付近に表れるグラファイト物質に共通なラマンピークにおける強度)/D(1350cm−1付近に表れる欠陥に起因するラマンピークにおける強度)≧10)である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2のカーボンナノチューブ層とオーバーコート層とを具備する複合層のパターン形成方法。
【請求項4】
オーバーコート層は、有機系材料、無機系材料、有機系―無機系複合材料の群の中から選ばれる何れかを含有する
ことを特徴とする請求項1〜請求項3いずれかのカーボンナノチューブ層とオーバーコート層とを具備する複合層のパターン形成方法。
【請求項5】
オーバーコート層は加水分解性オルガノシランの加水分解物含有組成物で構成されてなる
ことを特徴とする請求項1〜請求項3いずれかのカーボンナノチューブ層とオーバーコート層とを具備する複合層のパターン形成方法。
【請求項6】
オーバーコート層上に塗布される剤が、有機溶媒、酸性材料、アルカリ性材料、アンモニウム、アルカリ金属のフッ化物、アンチモンのフッ化物、カルシウムの酸性フッ化物、アルキル化アンモニウム、及びテトラフルオロホウ酸カリウムの群の中から選ばれる何れかである
ことを特徴とする請求項1〜請求項5いずれかのカーボンナノチューブ層とオーバーコート層とを具備する複合層のパターン形成方法。
【請求項7】
所定パターンの透明導電膜の形成方法である
ことを特徴とする請求項1〜請求項6いずれかのカーボンナノチューブ層とオーバーコート層とを具備する複合層のパターン形成方法。
【請求項8】
請求項1〜請求項7いずれかのカーボンナノチューブ層とオーバーコート層とを具備する複合層のパターン形成方法によって形成されてなることを特徴とするパターン。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−8877(P2013−8877A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141204(P2011−141204)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】