説明

カーボンナノチューブ担持発泡体及びその製法

【課題】少量のカーボンナノチューブの使用であっても良好な導電性を有する発泡体を提供すること
【解決手段】本発明は、(工程1)カーボンナノチューブを添加した媒体に、発振周波数50〜150kHzの超音波を照射して、上記カーボンナノチューブを上記媒体中に分散させる工程;及び(工程2)工程1で得られたカーボンナノチューブを分散させた媒体に、発振周波数20〜40kHzの超音波を照射して、上記カーボンナノチューブを発泡体に含浸させる工程を特徴とする、カーボンナノチューブ担持発泡体の製造方法;及び上記製造方法で得ることができる発泡体に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少量のカーボンナノチューブ含有量であっても良好な導電性を有する発泡体の製法、その製法で得られる発泡体、及びその発泡体の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品や自動車部品関係の樹脂成形体に導電性を付与する場合、カーボンブラックや炭素繊維などの炭素系フィラーを樹脂材料に添加・混練し、射出成形などで成形して行う。しかしながら、カーボンブラックや炭素繊維などを添加・混練して導電性を付与するためには、多量の添加が必要である。また、樹脂材料に炭素系フィラーを添加していくと、添加量の増大と共に成形加工性が低下し、成形時の流動不良現象を誘発する。このため、成形性に悪影響を与えずに導電性を付与する方法の開発が望まれている。
【0003】
一方、ナノテクノロジーの新材料として、カーボン材料が注目されている。カーボン材料の有用な物性の一つとして導電性がある。例えば、カーボンナノチューブは、従来の炭素系フィラーに比べて桁違いに小さいナノスケールの導電性ネットワークを形成するため、少量の添加で導電性が付与でき、また樹脂からの脱落による電子部品の汚染などの問題が少ないことが報告されている。
しかしながら、カーボンナノチューブは強固に絡まりあった形態をとっているため、樹脂材料中に均一に混練するためには比較的多量に配合しなければならない。しかも、カーボンナノチューブは非常に高価であるため、このことが製品化の障害にもなっている。そこで、カーボン材料を如何に均一に分散させ、その使用量を低減させるかが課題となっている。
【0004】
カーボンナノチューブを担持した成形体の製法が特許文献1〜9に開示されている。
【特許文献1】特開2003−100147号公報
【特許文献2】特開2003−192914号公報
【特許文献3】特開2003−221510号公報
【特許文献4】特開2006−008945号公報
【特許文献5】特開2006−063307号公報
【特許文献6】特許3764986号公報
【特許文献7】特許3837557号公報
【特許文献8】特許3049019号公報
【特許文献9】特開2007−288765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、射出成形機を用いて射出時のせん断でカーボンナノチューブ(以下「CNT」ともいう)を分散させている。しかし、射出充填速度が低いほど得られる導電性材料の表面抵抗値が低下する傾向にあると記載されているから、射出成形以外の成形方法が使用できないという欠点がある。
特許文献2にはせん断に関する記載はないが、熱可塑性樹脂とCNTの比率によっては導電性に劣る場合がある。また、熱可塑性樹脂とCNTの重量比率を50:50にすると、CNTの嵩が高いためコンパウンドが困難であった。
特許文献3は、熱可塑性樹脂が同文献の請求項2にあるように芳香族系熱可塑性樹脂に限定されている。芳香族系熱可塑性樹脂は、カーボン材料との親和性から良分散を示すと思われるが、ポリカーボネートはエンジニアリングプラスチックで比較的高価であり、融点などから成形性にも問題がある。本発明者らはポリプロピレンなどの脂肪族オレフィン系汎用樹脂に効率よく分散させることを試みたが、微分散化つまりは導電性の向上レベルは低く再現性はなかった。
以上のように、特許文献1〜3のようなコンパウンドでは、カーボン材料が強固に絡み合った形態をとるために樹脂中に分散させることは極めて困難である。
【0006】
特許文献4では、ポリオレフィン発泡体を、カーボン材料を含有する有機溶媒中に浸漬し、亜臨界状態又は超臨界状態の二酸化炭素の存在下で、カーボン材料を成形体表面に収着させた後、二酸化炭素及び有機溶媒を除去してCNTを含浸させた樹脂成形体を製造しているが、操作が複雑になるという問題がある。
特許文献5は環状グルカンとCNTを水溶液中で分散させる方法を開示するが、この方法では得られた成型物に環状グルカンが残渣として残ってしまうという問題がある。
特許文献6は超音波を用いた単層CNT分散溶液に関するが、酸溶液中と溶媒を限定している。また、CNTを前処理する必要があるので、工程が増えるのも問題である。
特許文献7では、CNTの分散のために非イオン界面活性剤を添加する必要があり、しかも分散媒体としてアミド系有機溶媒を使用している。これは、これらの分散液にポリアミドやポリエステルを入れることで材料を溶解させて、ナノコンポジットを形成することが目的であり、含浸に関する開示はない。
特許文献8では、アセトンなどの溶媒中で単層CNTを超音波分散させているが、分散液を被材料に堆積させる表面修飾に関するもので、含浸させるものではない。
特許文献9では、発泡樹脂材料にカーボン粒子を含浸・付着させて一体成形されてなる電磁波吸収材が記載されているが、含浸・付着に関する具体的な製法の開示はなく、得られた電磁波吸収材の物性に再現性がない。
【0007】
本発明は、上記の現状に鑑み、少量のカーボンナノチューブの使用でも優れた導電性を有する発泡体を製造することができる方法、その製法により得られる発泡体、及びその発泡体の用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、カーボンナノチューブを、高周波数の超音波で媒体中に分散させてから、低周波数の超音波で発泡体に含浸させることで、少量のカーボンナノチューブの使用であっても良好な導電性を有する発泡体が得られることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、
(工程1)カーボンナノチューブを添加した媒体に、発振周波数50〜150kHzの超音波を照射して、上記カーボンナノチューブを上記媒体中に分散させる工程;及び
(工程2)工程1で得られたカーボンナノチューブを分散させた媒体に、発振周波数20〜40kHzの超音波を照射して、上記カーボンナノチューブを発泡体に含浸させる工程を特徴とする、カーボンナノチューブ担持発泡体の製造方法;及び
上記製造方法で得ることができるカーボンナノチューブ担持発泡体
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製法によれば、優れた導電性、例えば体積抵抗値(体積抵抗率あるいは体積固有抵抗値ともいう)を10−1Ω・cmのレベルまで高めたカーボンナノチューブ担持発泡体が得られる。さらに、一定の導電性を得ようとする場合、カーボンナノチューブを混練して配合する従来法に比べれば、その含有量を低減できるので、発泡体の所望の物理的性質、例えば柔軟性や低比重を維持することでき、金属では達成し得ないような、柔軟性や軽量化が達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
カーボンナノチューブは、炭素6員環構造を主構造とする黒鉛(グラファイト)シートが円筒状に閉じた構造を有するチューブ状の炭素多面体である。一般に平均繊維径0.1nm〜300nm、アスペクト比10〜1000の中空繊維状のものであって、流動触媒化学気相成長法(CCVD法)、化学気相成長法(CVD法)、レーザーアブレーション法、アーク放電法等によって製造することができる。また、カーボンナノチューブには、1層の黒鉛シートが円筒状に閉じた構造を有する単層カーボンナノチューブと、黒鉛シートが何層も同心筒状に閉じた多層構造を有する多層カーボンナノチューブとがある。
本発明で使用できるカーボンナノチューブに特に制限はないが、量産性と価格の点から、平均繊維径5〜200nm、特に平均繊維径10〜100nmの単層又は多層カーボンナノチューブが好ましい。多層カーボンナノチューブとしては、昭和電工株式会社製の商品名マルチウォール、VGCFIII、VGCFIV、VGCF−H、VGCF−S、ハイペリオン・カタリシス・インターナショナル社製の商品名Graphite Fibrils Grades BN、日機装株式会社製の商品名MWCNT、GSIクレオス社製の商品名カルベール、本荘ケミカル株式会社製のカーボンナノチューブ、バイエル社製のCNT、保土ヶ谷社製のMWNT−7等が挙げられる。
【0011】
上記のカーボンナノチューブは、良好な導電性を発泡体に付与できる点から、多層構造が好ましい。
また、良好な導電性を発泡体に付与できる点から、本発明のカーボンナノチューブは、アスペクト比が10〜1000が好ましい。また、良好な導電性を発泡体に付与できる点から、本発明のカーボンナノチューブは、平均繊維径が50〜200nm、特に100〜150nm、とりわけ150nmが好ましく、また、平均繊維長が2500μm以下、特に10μm以下、とりわけ6μm以下が好ましい。これら値は、文献(佐藤栄治、高橋辰宏、小山清人:「気相成長炭素繊維の混合処理前後の長さ比較」、高分子論文集、2004年2月、第61巻、第2号、p.144−148)に記載の方法に従って測定することができる。
【0012】
本発明で使用できる媒体は、特に制限されず、水、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、芳香族系溶媒(トルエン等)、及びポリオールなどが例示される。
上記アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、第3級ブタノール、イソブタノール、ジアセトンアルコールなどが例示される。上記ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが例示される。上記エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、環状エーテルなどが例示される。これらの中では、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒が好ましい。特に、カーボンナノチューブの良好な分散性及び含浸性が得られる点から、エタノールが好ましい。
あるいは、特許文献7に記載されたようなアミド系極性有機溶媒を使用することもできる。
上記の媒体は、単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0013】
カーボンナノチューブは、上記媒体100重量部に対して0.25重量部以上、好ましくは0.5重量部以上添加するのが、良好な導電性の発泡体が得られる点から好ましい。
【0014】
本発明では、カーボンナノチューブの媒体中での分散、及び発泡体への含浸に、超音波を使用する。またこの場合、先ず高周波数の超音波を照射して媒体中のカーボンナノチューブを分散させる工程(分散工程)、次いで低周波数の超音波を照射してカーボンナノチューブを発泡体に含浸させる工程(含浸工程)の2工程とする。本発明ではこの分散・含浸工程の1サイクルを繰り返して、すなわち、分散・含浸工程を経た発泡体を再度分散・含浸工程に付してもよく、そのサイクル数は、良好な導電性の発泡体が得られる点から、2サイクル以上、特に4サイクル以上が好ましい。
【0015】
本発明で使用される超音波照射装置として、プローブ型又は浴槽型のいずれを使用してもよい。ただし、プローブ型はプローブより剥がれたチタンチップが分散液中に混入する恐れがあること、また浴槽型は密閉が可能であることから浴槽型が好ましい。本発明では、超音波を発振する振動部材と、CNTを分散させた媒体とを、直接接触させて、該振動部材らの超音波を直接媒体に照射させてもよい。あるいは、振動子の腐食を避けるため、金属性又はガラス製の容器などに媒体とカーボンナノチューブを加え、さらに発泡体を浸漬させ、それを浴槽の水に浸漬させて、振動子からの超音波を照射してもよい。その際、該容器は該振動子から約3〜5cmほど離すのがよい。また、浴槽型の超音波照射装置など浴槽底部に振動子がある場合は、上記容器を吊るす形にして浴槽の水に浸漬させてもよい。これらの場合、振動子から発した超音波が容器を通過した際の超音波の減衰の程度を抑えるため、容器の材質は、硬度の高いもの、例えばガラス製又は金属製が好ましく、容器の厚さは、薄い方が好ましい。
【0016】
上記の超音波の発振周波数は、分散工程では50〜150kHzであるが、良好な導電性の発泡体が得られる点から60〜100kHzが好ましい。含浸工程では20〜40kHzであるが、良好な導電性の発泡体が得られる点から26〜38kHzが好ましい。
また、上記の各工程においても、良好な導電性の発泡体が得られる点から、上記超音波照射装置の定格出力は、単位面積当たり約0.1〜約2W/cmが好ましく、特に約0.5〜約1W/cmがさらに好ましい。
【0017】
上記超音波を照射する時間は、十分にカーボンナノチューブを分散させ発泡体に含浸できれば特に制限されないが、良好な導電性の発泡体が得られる点から、各工程で1分〜3時間、さらに好ましくは20分〜2時間である。
また、分散・含浸の際の媒体の温度は特に制限されず媒体の揮発が防げる程度の任意の温度であれば十分である。
【0018】
本発明では上記媒体に、カーボンナノチューブの分散性を高めるために従来技術で使用されてきた、界面活性剤、特許文献5に記載された環状グルカン、又は特許文献6に記載された有機アミンなどを添加したり、あるいは、本発明の媒体として特許文献7に記載されたアミド系極性有機溶媒を用いて、それにポリオキシエチレン系界面活性剤を添加したりしてもよい。
しかし、本発明では超音波を使用してカーボンナノチューブを分散させ得るため、これら界面活性剤、環状グルカン、有機アミン、アミド系極性有機溶媒などを使用しなくてもよく、また、使用しないことが環境面から好ましい。
また、超音波を照射する際またはその前後に、カーボンナノチューブの入った媒体を攪拌してもよい。
【0019】
本発明の製法は、発泡体を媒体に浸漬させてから、上記分散及び含浸工程を行ってよいし、あるいは、上記分散工程を行ってから、そこに発泡体を浸漬させ、次いで上記含浸工程を行ってもよい。
【0020】
本発明で使用される発泡体の基材は、特に制限されず、得られる本発明の発泡体の用途に応じて適宜選択される。例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、又は熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とのブレンドを使用してもよい。
【0021】
上記熱硬化性樹脂として、ポリウレタン、天然ゴム、合成ゴム、エチレンプロピレンジエンコポリマー(EPDM)、エポキシ類、フェノール樹脂類、シリコーン、ユリア樹脂、メラミン樹脂、架橋ポリエチレンなどが例示され、また、これら熱硬化性樹脂の少なくとも1種を含む組合せなども使用できる。
【0022】
上記熱可塑性樹脂としては、一般にフィルム、基板、各種成形体材料として用いられれば特に制限はなく、非晶性熱可塑性樹脂、結晶性熱可塑性樹脂のいずれも使用することができる。
上記非晶性熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリメタクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0023】
上記ポリスチレン系樹脂としては、汎用ポリスチレン(GPPS)、ゴム強化ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS系樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)、スチレン−メチルメタクリレート共重合体、スチレン−メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体等が挙げられる。
上記ポリカーボネート系樹脂としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)、ビス(3,5−ジアルキル−4−ヒドロキシフェニル)、又はビス(3,5−ジハロ−4−ヒドロキシフェニル)置換を有する炭化水素誘導体を有するポリカーボネートが好ましく、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)を有するビスフェノールA型ポリカーボネートが特に好ましい。
上記ポリメタクリル系樹脂としては、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、メチルメタクリレート−スチレン共重合体等が挙げられる。
【0024】
前記ポリ塩化ビニル系樹脂としては、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル−エチレン共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
前記熱可塑性エラストマーとしては、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、スチレン−イソプレンースチレン(SIS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック熱可塑性樹脂(SEBS)等のスチレン系ブロック共重合体の他、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、エチレン−プロピレン−ジエンモノマーゴム、エチレンプロピレンゴム、ポリエチレン−テレフタレート(PETG)等が挙げられる。
【0025】
その他の非晶性熱可塑性樹脂の具体的としては、環状オレフィン系樹脂(日本ゼオン株式会社:シクロオレフィンポリマー「ZEONOR」、三井化学株式会社:エチレン・テトラシクロドデセン共重合体「アペル」等)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、ポリフェニレンオキシド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ四フッ化エチレン、ポリビニルアセテート、ポリ塩化ビニリデン、液晶熱可塑性樹脂、及び生分解性樹脂等を挙げることができる。
【0026】
上記生分解性樹脂は、生分解性を有する樹脂であればよく、化学合成系樹脂、微生物系樹脂、天然物利用系樹脂等を挙げることができる。例えば、脂肪族ポリエステル、ポリビニールアルコール(PVA)、セルロース誘導体等を挙げることができる。
より具体的には、上記脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸(PLA)樹脂及びその誘導体、ポリヒドロキシブチレート(PHB)及びその誘導体、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリテトラメチレンアジペート、ポリグリコール酸(PGA)、ジオールとジカルボン酸の縮合物等、セルロース類としてはアセチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等を挙げることができる。これらの中では、ポリ乳酸樹脂が好ましい。
上記ポリ乳酸樹脂は、乳酸又はラクチドの重縮合物である。ポリ乳酸樹脂にはD体、L体、DL体の光学異性体があるが、それらの単独物又は混合物を含む。
【0027】
一方、前記結晶性熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、特殊ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、PPEを他樹脂(ポリプロピレン、ナイロン、ABS等)とブレンド又はグラフト重合させて変性させた変性PPE系樹脂、等が挙げられる。
【0028】
上記ポリオレフィン樹脂としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メタクリレート共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体等のポリプロピレン樹脂、アイオノマー、ポリブテン、及び特殊ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
上記特殊ポリオレフィン樹脂としては、超高分子量ポリエチレン、超高分子量ポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン(ポリプロピレン単独重合体、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−1−ブテン共重合体等)、ポリ4−メチル−ペンテン−1、環状ポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。
これらの中では、特に、ポリプロピレン樹脂、及びシンジオタティシティーが70%以上、特に80%以上のシンジオタクチックポリプロピレンが好ましい。
【0029】
前記特殊ポリスチレン系樹脂としては、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、α−メチルスチレン共重合体等が挙げられる。
前記ポリアミド系樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、芳香族ポリアミド、芳香族・脂肪族ポリアミド共重合体等が挙げられる。
前記飽和ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。
前記ポリアセタール樹脂としては、ホモポリオキシメチレン、ポリオキシメチレン共重合体等が挙げられる。
【0030】
その他の結晶性熱可塑性樹脂としては、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルニトリル、サーモトロピック液晶性樹脂(主鎖骨格中にパラオキシ安息香酸、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、ナフタレン環等の分子構造を含有するもの)等が挙げられる。
【0031】
上記の樹脂の中では、非晶性樹脂としては、特に、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、メタクリル系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、及びポリ乳酸樹脂が好ましい。また、結晶性樹脂の中では、特に、ポリプロピレン樹脂、シンジオタクチックポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリアミド系樹脂、及び飽和ポリエステル樹脂が好ましい。
上記の熱可塑性樹脂は、一種単独で又は二種以上を混合して使用することができる。また、上記の熱可塑性樹脂には、強度・耐熱性の付与、寸法精度の向上等を目的として、無機系または有機系の充填剤を添加することができる。
【0032】
上記の樹脂又は上記の樹脂からなる組成物を、慣用の方法を用いて発泡させて発泡体を得ることができる。上記の発泡方法は、特に制限されず、物理発泡、化学発泡、機械的発泡、ガス発泡と慣用の発泡手段が採用できる。得られる本発明の発泡体の導電性が高まる点で、熱可塑性樹脂は超臨界状態で発泡させることが好ましい。
本発明で使用される発泡体の物性は、特に制限されず、本発明の発泡体の用途に応じて適宜選択される。
【0033】
本発明の発泡体は、独立気泡でも連続気泡でも特に制限されないが、導電性材料に使用する場合、連続気泡の方が良好な導電性の発泡体が得られるので好ましい。すなわち、連続気泡であれば、カーボンナノチューブは連続気泡の内表面に沿って発泡体全体に良好に分散できるので、発泡体の導電性が高まると考えられる。
【0034】
本発明では、上記カーボンナノチューブを含浸させた発泡体を、慣用の固定処理、例えば加熱プレス又は熱オーブンなどで乾燥などしたりして、好ましくは加熱プレスして、カーボンナノチューブを発泡体に固定させてもよい。
【0035】
また、上記固定処理は、上記カーボンナノチューブを含浸させた発泡体を乾燥させずに、すなわち、該発泡体が媒体を含有する状態を保ちながら、直ちに、固定処理、特に加熱プレスするのが好ましい。
カーボンナノチューブを含浸させた発泡体を乾燥させずに固定処理することによって、得られる発泡体の表面にムラが生じるのを減らすことができ、また期待する物性値(体積抵抗値)も乾燥してから固定処理したものと比べて優れている。
【0036】
前記加熱プレスでは、熱によって、発泡体基材の表面は一旦融解してから再び固化するので、その表面とカーボンナノチューブとが融着することとなり、該表面からのカーボンナノチューブの脱落が抑えられる。その点から、加熱プレスの温度は、発泡体基材の融点付近であって、基材表面をわずかに溶融させる温度、例えば基材の融点±3℃に設定するのが好ましい。プレス時間は、カーボンナノチューブが発泡体表面と融着するのに十分な時間であればよく、約1〜30分間でよい。
また、この加熱プレス処理において、プレス圧は、気泡を潰さずに、気泡の内表面にカーボンナノチューブを融着させるために、低いほど望ましく、10kgf/cm2以下、好ましくは5kgf/cm2以下である。
この加熱プレスによって、発泡体は圧縮されるので、発泡体に担持されたカーボンナノチューブは密集することになり、その結果、得られる発泡体の導電性は高まる。それ以外にも、圧縮されることで発泡体自体が薄くなるので、その体積抵抗値を低下させることができる。
プレス回数は、得られる発泡体の導電性が高まる点から、1回以上、特に2回以上、とりわけ5回以上が好ましく、また得られる発泡体の比重を低減させる点からは、5回以下、特に2回以下、とりわけ1回が好ましい。
プレスの圧縮倍率は、得られる発泡体の導電性が高まる点から、2倍以上、特に5倍以上、とりわけ7倍以上が好ましい。
【0037】
このようにして本発明の製法で得られるカーボンナノチューブ担持発泡体は、例えば、カーボンナノチューブを1〜30重量%で担持した場合でも、体積抵抗値10〜10−1Ω・cmを示すことができる。また、カーボンナノチューブを15〜25重量%で担持した場合でも、体積抵抗値10〜10−1Ω・cmを示すことができる。
【0038】
本発明のカーボンナノチューブ担持発泡体のセル径は、特に制限されないが、担持したカーボンナノチューブの脱落が低下する点から、300μm以下、特に200μm以下、とりわけ100μm以下が好ましい。セル径の下限値は特に制限されないが、カーボンナノチューブが良好に発泡体全体に分散して導電性が高まる点から、1μm以上、特に4μm以上が好ましい。
【0039】
本発明のカーボンナノチューブ担持発泡体は、本発明の効果を損なわない限り、必要に応じて、ガラス繊維やタルクなどの無機充填剤、染料や顔料、可塑剤、分散剤、塗面調整剤、流動性調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保存安定剤、接着助剤、増粘剤などの公知の各種物質をさらに含み得る。本発明の発泡体は、本発明の効果を損なわない限り、その導電性を更に向上させるためにカーボンナノチューブ以外の導電性物質を含有してもよい。このような導電性物質の例としては、炭素系物質(例えば、炭素繊維、導電性カーボンブラック、黒鉛など)、金属酸化物(例えば、酸化錫、酸化亜鉛など)、金属(例えば、銀、ニッケル、銅など)などが挙げられる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例などを挙げて本発明を更に詳しく具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
(測定法)
含浸率は、含浸工程前の発泡体の重量と、含浸後固定処理したものの重量とを測定し、その差から算出した。
体積抵抗値は、4端子法にて測定した。
比重は、株式会社A&D社製の電子比重計MD−200Sを用いて、含浸後固定処理した発泡体の比重を測定した。
【0042】
実施例1
連続気泡ポリプロピレン樹脂発泡体(FOLEC-OP)(株式会社イノアックコーポレーション社製)をシート状(100mm×100mm、厚み0.7mm、質量0.25g)に成形した。
金属缶(スチール製すずメッキ処理、170mm×Ф125mm×厚さ1mm)にエタノール200gとカーボンナノチューブ(昭和電工株式会社製、VGCF-H)1gを加え、そこに上記シートを1枚浸漬させた。この缶を金属性のメッシュ籠に入れた。次に超音波洗浄機(超音波工業株式会社製、エネルギー密度1.0W/cm)の浴槽に水を張り、そこに上記メッシュ籠を吊るして水中に浸漬させた。缶を当該浴槽の底部に備えられた振動板から3〜5cm程度離して吊るし、その振動板からの超音波を照射させた。先ず、発振周波数70kHzの超音波を30分間照射してCNTを分散させ(分散工程)、次に、発振周波数38kHzの超音波を30分間照射してCNTをシートに含浸させた(含浸工程)。その後、シートを取り出し、直ちに、加熱プレス(プレス時間4分、温度160℃、プレス圧5kgf/cm2、プレス回数1回)して、CNT担持発泡体を得た。
【0043】
実施例2
含浸工程を発振周波数26kHzの超音波を30分間照射して行った以外は、実施例1と同様にしてCNT担持発泡体を得た。
実施例3
分散・含浸工程を2回繰り返して行った以外は、実施例2と同様にしてCNT担持発泡体を得た。
実施例4
分散・含浸工程を4回繰り返して行った以外は、実施例2と同様にしてCNT担持発泡体を得た。
【0044】
比較例1〜3
分散工程をせず、含浸工程を発振周波数26kHz(比較例1)、38kHz(比較例2)、又は70kHz(比較例3)の超音波を30分照射して行った以外は、実施例1と同様にしてCNT担持発泡体を得た。
【0045】
上記の実施例で得られたCNT担持発泡体の含浸率又は体積抵抗値を評価した。結果を下表にまとめた。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
試験例1
超音波処理する以外は実施例1と同様にしてCNT担持発泡体を得た。また、超音波照射をしなかった以外はこれと同様にしてCNT担持発泡体を別に得た。これらの発泡体の体積抵抗値を測定し、下表にまとめた。外観観察では、超音波照射なしのものは表面状態にムラが生じた。
【0049】
【表3】

【0050】
試験例2
それぞれ加熱プレスを1〜5回行った以外は実施例1と同様にしてCNT担持発泡体を得、その厚みなどを測定した。結果を下表にまとめた。
【0051】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の発泡体は、電子機器や電子部品、例えば、キャリアテープ、包装・梱包材料、あるいは、複写機、プリンタ、又はファクシミリ等の電子写真装置、あるいは静電記録装置に用いられる帯電ローラ、現像ローラ、供給ローラ、転写ローラ、又は駆動ローラ等の導電性ローラ等として、あるいは面状発熱体、あるいは電磁波シールド材、あるいは電磁波吸収材として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(工程1)カーボンナノチューブを添加した媒体に、発振周波数50〜150kHzの超音波を照射して、上記カーボンナノチューブを上記媒体中に分散させる工程;及び
(工程2)工程1で得られたカーボンナノチューブを分散させた媒体に、発振周波数20〜40kHzの超音波を照射して、上記カーボンナノチューブを発泡体に含浸させる工程
を特徴とする、カーボンナノチューブ担持発泡体の製造方法。
【請求項2】
媒体がエタノールである、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
工程2で得られたカーボンナノチューブを含浸させた発泡体を、乾燥させずに、加熱プレスする工程をさらに含む、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブである、請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項5】
カーボンナノチューブのアスペクト比が10〜1000である、請求項1〜4のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項6】
工程1及び2を2回以上繰り返す、請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の製造方法で得ることができる、カーボンナノチューブ担持発泡体。
【請求項8】
カーボンナノチューブを1〜30重量%含有し、体積抵抗値が10〜10−1Ω・cmである、請求項7記載のカーボンナノチューブ担持発泡体。
【請求項9】
請求項7又は8記載のカーボンナノチューブ担持発泡体を含む、面状発熱体、電磁波シールド、又は電磁波吸収材。

【公開番号】特開2009−160754(P2009−160754A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339760(P2007−339760)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】