説明

カーボンナノチューブ樹脂組成物、カーボンナノチューブ分散組成物、それらの使用方法およびそれらを使用した物品

【課題】各種物品中に良好にカーボンナノチューブ(CNT)を分散した組成物、その使用方法及びそれらを使用した物品を提供する。
【解決手段】樹脂処理CNTと樹脂Bとからなり、CNTを0.1〜50質量%含有する樹脂組成物であって、上記樹脂処理CNTが、CNTを水性樹脂A中に分散させた後、該水性樹脂Aを析出させて表面を樹脂Aにて処理した樹脂処理CNTであることを特徴とするCNT樹脂組成物。CNT樹脂組成物は、容易に各種樹脂分散媒体中で1本1本にほぐれた状態に分散することができ、CNTの性能を十分発揮させることができるCNT分散組成物が提供されるCNT分散組成物およびその加工品は、加工性、熱安定性、耐ブリード性などの物性に優れ、容器、フィルム、シート、パイプ、ホース、チューブ、繊維、自動車部品、電気機器部品、文具、家具、日用品などが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ(以下CNTと略す)を、種々の分散媒体に容易に分散できる易分散化されたCNT樹脂組成物、カーボンナノチューブ分散組成物、それらの使用方法およびそれらを使用した物品に関する。
【背景技術】
【0002】
CNTは直径0.4〜100nmで、長さが1〜数十μm程度の、平面構造のグラファイトを丸めた円筒状、すなわち、チューブ状構造の炭素の結晶である。その種類は多岐に亘り、例えば、単層のシングルウォールチューブ(以下SWNTと略す)、多層のマルチウォールチューブ(以下MWNTと略す)、MWNTの範疇に入る二層のダブルウォールチューブ(以下DWNTと略す)などがあり、また、その両端が封鎖されているものから、片末端が封鎖されているもの、両末端とも開いているものがあり、また、その丸め方の構造としてアームチェアー型などの構造にも種類がある。CNTの製造方法もアーク放電型、レーザー蒸発型、化学的気相成長法などがあり、それぞれ一長一短がある。
【0003】
また、CNTは次世代の材料として注目を浴びており、導電性があるため、帯電防止剤や導電材料、半導体、燃料電池電極、ディスプレーの陰極線などの今までにない用途開発が進められている。しかし、CNTは長いチューブ状であるがゆえに絡み合いが生じ、糸鞠状になっている。そこで、これらのCNTを物品に適用する際は、その糸鞠状を如何にほぐすかということ、そしてそれを如何に物品中に分散して安定化できるかということが大きな技術課題となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に前記したようにCNTはそのチューブ状の形状であるがゆえに絡み合いが生じており、CNTが1本1本に分散して物品に保持されることが大きな課題となっている。
【0005】
例えば、CNTをプラスチックなどと混練する場合、混合攪拌機だけでは、糸鞠状がほぐれてCNTがプラスチック中でばらばらになりにくく、すなわち、十分な分散が得られず、またCNTは非常に嵩高いため、分散媒体中に高濃度で分散することは非常に困難であり、特殊な分散機や大きなエネルギーを与えて分散することが必要であった。また、分散不良により、CNTの糸鞠状が十分ほぐれていない部分が存在して、CNTの添加量に応じた性能が十分発揮されていないことがあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、水性樹脂中にCNTを分散して、その糸鞠状を解きほぐした状態で、その水性樹脂を析出させてCNTを樹脂で処理することによって、上記の問題点を解決できることを見出した。
【0007】
本発明は、上記知見に基づいて完成されたものであり、上記樹脂処理CNTに、必要に応じてさらに樹脂を追加混合して得られるCNT樹脂組成物が、従来のCNT単独に比べて各種合成樹脂類の分散媒体に容易に分散できること、樹脂処理CNTは分散媒体に対して相溶性が良く、また、樹脂処理CNTを含む樹脂組成物は加工性に優れ、熱安定性などの物性も優れていることを見いだした。
【0008】
すなわち、本発明は、樹脂処理CNTと樹脂Bとからなり、CNTを0.1〜50質量%含有する樹脂組成物であって、上記樹脂処理CNTが、CNTを水性樹脂A中に分散させた後、水性樹脂Aを析出させて表面を樹脂Aにて処理した樹脂処理CNTであることを特徴とするCNT樹脂組成物(但し、塗布液である場合を除く)を提供する。
【0009】
上記本発明のCNT樹脂組成物においては、樹脂Aが、樹脂Aの水溶液または樹脂Aの水分散液(エマルジョンまたはサスペンジョン)であること;樹脂Bが、水性樹脂A、A以外の水性樹脂、パウダー状、グラニュー状またはペレット状の樹脂であること;および樹脂Aを析出させる方法が、pH変化による方法、貧溶剤による方法または温度変化による方法であることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、上記本発明の樹脂組成物を、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂に相溶または分散させてなることを特徴とするCNT分散組成物を提供する。
【0011】
また、本発明は、分散媒体が樹脂である上記のCNT樹脂組成物またはCNT分散組成物を成形加工することを特徴とするCNT含有樹脂加工物品の製造方法;および該方法によって得られた容器、フィルム、シート、パイプ、ホース、チューブ、繊維、自動車部品、電気機器部品、文具、家具または日用品であるCNT含有樹脂加工物品を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のCNT樹脂組成物は、容易に分散媒体に分散させることができ、かつ分散媒体中でCNTが1本1本にほぐれた状態に分散することができ、CNTの性能を十分発揮させることができる。また、CNTを処理する樹脂として、合成樹脂のバインダーに相溶性があるものを選択でき、従って各種合成樹脂類などとの相溶性が良く、加工性に優れ、熱安定性などの物性に優れているため、各種合成樹脂などの分散媒体に分散させたCNT分散組成物が得られ、該分散組成物およびその加工品は、加工性、熱安定性、耐ブリード性などの物性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
本発明で用いるCNTとしては、従来公知のものが使用でき、特に限定されない。前記したSWNT、DWNT、MWNTなどの形状、末端の形状、その構造や各種製造方法で得られたのもの、それらの混合物でもすべてが使用でき、特にチューブが長く絡み合いが生じているCNTであれば、どのようなものでも使用できる。
【0014】
具体的には、SWNTのCNTとしては、外径が0.4nm〜100nm、長さは0.5μm〜500μmで、純度も50〜100%のもの、該CNTを、例えば、分子量が1,000未満のポリアミドベンゼンスルホン酸などでコーティングしてあるもの、アミノ基やポリアルキレングリコール基などの官能基で樹脂処理されたものが挙げられる。また。MWNTおよびDWNTのCNTとしては、外径1〜100nm、内径0.1〜95nmであり、長さは0.5μm〜500μmのもの、同様に純度も50〜100%のもの、樹脂処理してあるものなどが使用できる。また、これらの3種類のCNTが任意の割合で混合している混合CNTも使用できる。
【0015】
次にCNTを水系で分散処理するのに使用する水性樹脂Aについて説明する。水性樹脂Aとしては、樹脂Aが水または水と水溶性有機溶剤との混合溶剤中で析出することなく、均一溶解または分散しているものを使用する。該水性樹脂Aとしては、樹脂が水に溶解している樹脂水溶液、樹脂が非常に細かく微分散している樹脂水分散液、1μm程度以下までの粒子状になって乳化している樹脂エマルジョン、1μm以上の粒子となって懸濁状態である樹脂水懸濁溶液が挙げられる。
【0016】
上記水性樹脂A中に分散させるCNT量は特に限定されないが、前記したようにCNTそれ自体は、嵩高く、糸鞠状であって水性樹脂中に分散しにくいことから、水性樹脂に添加するCNTの量は10質量%以下、好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下の濃度である。CNT濃度が10質量%を超えると、分散液の初期流動性がなく、CNTの分散が困難である。
【0017】
上記樹脂Aとしては、従来公知の樹脂が使用でき、特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、ビニル系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ビニル脂肪酸エステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、石油系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ハロゲン化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリジエン系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリサルホン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアリレート系樹脂、メラミン系樹脂、セルロース系重合体、キトサン系重合体など、単独または上記の2種またはそれ以上の樹脂を構成する単量体からなる共重合体或いは上記の重合体からなるブロック共重合体、グラフト共重合体が挙げられる。
【0018】
上記樹脂Aとしては、得られるCNT樹脂組成物が、所望の分散媒体に混合可能な、好ましくは相溶性が良好な樹脂が選択される。すなわち、例えば、分散媒体がポリエチレン樹脂の場合、該ポリエチレン樹脂に混合可能な、好ましくは相溶性が良好であり、さらに分散媒体であるポリエチレン樹脂の物性を大きく変化させない樹脂Aが選択される。この場合の樹脂Aは、具体的にはポリオレフィン系(共)重合樹脂やビニル系(共)重合樹脂(ブロックまたはグラフトコポリマーも含む)の水溶液、水分散液、樹脂エマルジョン、樹脂水懸濁溶液などが挙げられる。
【0019】
上記樹脂Aが該樹脂A単独で水溶性を持つものであればそのまま水溶液として使用し、樹脂Aが水溶性でない場合には、該樹脂に酸基、アミノ基、水酸基、ポリエチレングリコール基などの置換基を導入し、さらに酸基の場合は、それをアルカリ性物質にて中和してイオン化し、アミノ基の場合は、酸性物質やハロゲン化炭化水素やアルキル硫酸にて中和または第4級アンモニウム塩にして水溶性にして使用することができる。
【0020】
また、樹脂Aが、分散液や乳化液の場合は、界面活性剤や水溶性樹脂にて樹脂Aを分散または乳化させ、または前記の置換基を樹脂に少量導入することによって、樹脂Aの分散液や乳化液とすることができ、樹脂Aが、懸濁液の場合は、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンの如き水溶性樹脂や界面活性剤などによって、樹脂Aの微粒子水懸濁液とすることができる。
【0021】
上記樹脂Aは、CNT100質量部当たり0.5〜9,900質量部の範囲で使用する。樹脂Aの使用量が0.5質量部未満では十分なCNTの分散が得られず、一方、樹脂Aの使用量が9,900質量部を超えると、CNT濃度が1質量%未満になり、本発明の目的から外れる。また、本発明では、できるだけ少ない量の水性樹脂AでCNTを分散処理し、分散処理時に樹脂Aまたは他の樹脂Bをさらに添加してCNT濃度を0.1〜50質量%にすることが好ましい。すなわち、CNTを水系分散媒体に分散させる時の水性樹脂Aの量(固形分)は、CNT100質量部当たり0.5〜500質量部、さらに好ましくは0.5〜300質量部である。
【0022】
また、本発明における上記の水性樹脂の水性とは、水単独または水と水溶性有機溶剤との混合物である。水溶性有機溶剤は、分散時のCNTの濡性を改善したり、糸鞠状のCNTをほぐし易くしたり、CNTの分散を助けるために使用する。水溶性有機溶剤としては、従来公知のものがいずれも使用できるが、特にグリコール系の溶剤が好ましい。グリコール系の溶剤としては、例えば、モノ、ジ、トリエチレングリコール、それらのモノ、ジアルキルエーテル、モノ、ジ、トリプロピレングリコール、それらのモノ、ジアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0023】
特に水溶性有機溶剤としては、モノアルキルグリコールエーテル系溶剤が好ましく、特に炭素数4以上12以下のモノアルキルエーテルが好ましく、具体的にはブチルセロソルブエーテル、ヘキシルグリコールエーテル、ブチルジグリコールエーテル、ヘキシルジグリコールエーテル、ブチルカルビトールエーテル、へキシレンジグリコールエーテル、2−エチルヘキシルトリグリコールエーテルが挙げられ、これらの有機溶剤は、分子中に疎水部と親水部があり、界面活性剤として働き、CNTを効果的に分散させることができる。また、上記有機溶剤は水溶性であるので、樹脂Aを析出後のCNT樹脂組成物を洗浄する際に、樹脂組成物から洗い流されてしまい、また、揮発性もあるので乾燥で揮発して、組成物中に不純物として残りにくい。水溶性有機溶剤の使用量はCNTの分散時の水性分散媒体中で好ましくは0〜80質量%である。使用量が80質量%を超えると、水性樹脂Aが析出する場合がある。
【0024】
また、必要であればCNTの分散時に従来公知の界面活性剤を使用できる。界面活性剤としては、低分子量のアニオン活性剤、カチオン活性剤、ノニオン活性剤、両性活性剤、ノニオンアニオン系活性剤などが挙げられる。本発明においては、界面活性剤を使用せず、水性樹脂AだけでもCNTの糸鞠状をほぐし十分に分散させることができるが、さらに界面活性剤を使用することで上記CNTの分散を促進し、また、分散中のCNTの凝集を防止することができる。界面活性剤の使用量はCNTの0.1〜50質量%がよい。使用量が50質量%を超えると、界面活性剤が本発明のCNT樹脂組成物に含有されてしまう恐れがあり、組成物中に残った界面活性剤が分散媒体に含有されることとなり、得られる物品にべたつきなどの不都合が生じる場合がある。
【0025】
以上のような材料を使用してCNTを分散する。分散前のCNTは、内部が空洞であるので空気を多く保持していることから、CNTの分散に際してはCNTを脱泡処理することが好ましい。この脱泡処理は、従来公知の方法でよく特に限定されない。脱泡が容易である真空脱泡装置や超音波脱泡装置を使用することが好ましい。
【0026】
次いで脱泡処理した配合液を従来公知の方法で分散して、CNTの糸鞠状をほぐし、CNTを1本1本にする。この分散方法は特に限定されるものではない。例えば、ビーズミル分散、超音波分散、乳化装置などを使用した分散などが挙げられ、本発明において使用できる分散機としては、例えば、ニーダー、アトライター、ボールミル、ガラスやジルコンなどを使用したサンドミルや横型メディア分散機、コロイドミル、2本または3本ロール、超音波分散機などが使用できる。非常に微小なビーズを使用するビーズ分散方法や高出力で超音波分散する方法が特に好ましい。
【0027】
CNTの分散の確認は、従来公知の方法、例えば、顕微鏡で観察する、粒度分布計にて粒子径を測定する、またはその分散液の抵抗値を測定するなどして確認することができる。分散に関する各種値はCNTの種類に依存するので、そのCNTの物性に合った値を基準とする。また、分散処理後に分散液を適当なフィルターでろ過をすることによって、若干残存している糸鞠状のCNTを除去することが高い信頼性を得るためには好ましい。
【0028】
また、以上で得られた分散液は、次いで樹脂Aの析出処理があるので長期保存性は不要である。例えば、室温で1ヶ月程度、好ましくは1週間以下でその糸鞠状が再度糸鞠状にならない、CNTの沈降や凝集が起こらないものであればよい。従ってCNTを高度に分散安定化するような特殊な分散剤やCNTの樹脂処理が不要であることも本発明の特徴である。
【0029】
次いで以上のようにして得られたCNTの分散液を、水にて希釈して低濃度にして攪拌する。得られたCNTの分散液のCNT濃度は前記したようにCNT濃度は10質量%以下であるが、そのまま処理すると分散系が著しく増粘してしまい、混合攪拌が困難であるので、好ましくはCNT量が0.1〜1質量%になるように希釈する。さらにその析出時の全固形分は、あまりに多いと前記したように、析出で著しく増粘して混合攪拌が困難であるので、全固形分としては0.2〜5質量%がよい。
【0030】
上記の希釈分散液に、必要に応じて水性樹脂Aまたは他の樹脂Bを添加する。該他の樹脂Bとしては、樹脂A以外の水性樹脂、パウダー状、グラニュー状またはペレット状の樹脂である。上記水性樹脂Aおよび他の樹脂Bの添加量は最終的に得られる組成物のCNT含有量が0.1〜50質量%の範囲になる量である。
【0031】
樹脂Bとしては、分散媒体に混合可能、好ましくは相溶性がよく分散媒体に相溶する樹脂を選択することが好ましい。また、樹脂Bとしては、必ずしも水性樹脂である必要はなく、水性樹脂Aを析出させることで、樹脂Aとともに共沈する形状の樹脂であればよい。例えば、パウダー状、グラニュー状、ペレット状の樹脂Bは水性樹脂Aが析出する際、その表面に樹脂Aが吸着されて析出する。好ましい樹脂Bは、CNTを含む水性樹脂Aを析出させた際に、樹脂Aが均一に表面に析出できるパウダー状がよい。
【0032】
また、樹脂Bの種類としては、特に限定されないが、後述する分散媒体として使用する熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂と同一の樹脂が使用でき、前記したアクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、ビニル系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ビニル脂肪酸エステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、石油系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ハロゲン化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリジエン系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリサルホン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアリレート系樹脂、メラミン系樹脂、セルロース系重合体、キトサン系重合体などが使用できる。
【0033】
また、上記水性樹脂Aを析出させる際に、得られるCNT樹脂組成物に取り込まれるように、他の機能性材料を予め添加しておいてもよい。機能性材料とは、紫外線吸収剤、抗酸化剤、光安定剤などの耐久性向上剤;剥離剤または剥離性向上剤;抗菌剤、防黴剤;可塑剤、帯電防止剤、乾燥防止剤、難燃剤、赤外線吸収剤、遠赤外線吸収剤、熱線反射剤、難溶性無機塩、ガラス繊維、ガラス粉末などのフィラーなど;顔料、染料などが挙げられる。これらの機能性材料がCNT樹脂組成物に取り込まれるので、後述の分散媒体や将来の物品に新たに機能性材料を添加する必要がなくなる。
【0034】
次に水性樹脂Aを析出させる方法としては、例えば、pH変化による方法、貧溶剤を用いる方法または温度変化による方法などが挙げられる。まず、pH変化による場合は、水性樹脂Aが酸基を有しており、該酸基が中和されている場合には、酸性物質またはその1〜10質量%水希釈液を攪拌しながら添加すると、水性樹脂Aが析出する。この場合、pHは2〜5付近まで下げて酸性領域に持っていくことが、水性樹脂Aを十分析出させるために必要である。
また、樹脂Aがアミノ基を有し、そのアミノ基が酸性物質により中和されている場合は、アルカリ性物質またはその1〜10質量%水溶液を攪拌しながら添加することにより樹脂Aが同様に析出する。この際、pHは10〜14付近にすることで樹脂Aを十分析出させることができる。また、これらのpH変化の後、加温して樹脂の析出を完全にさせたり、細かい粒子を凝集させてろ過を容易にさせてもよい。
【0035】
貧溶剤を用いて樹脂Aを析出させる方法は、前水性樹脂Aが、水酸基やポリエチレングリコール基などの置換基の導入、アミノ基の第4級アンモニウム塩、または各種活性剤やポリビニルアルコールなどを使用して水性にされている場合に有効であり、樹脂Aを溶解しない有機溶剤によって樹脂Aを析出させることができる。具体的には、CNT分散液に上記貧溶剤を添加する、またはCNT分散液を貧溶剤中に添加することによって樹脂Aが析出する。
【0036】
温度変化によって樹脂Aを析出させる方法は、前記水性樹脂Aが、水酸基やポリエチレングリコール基などのノニオン系置換基が導入されて水性にされている場合、または樹脂Aがノニオン系界面活性剤によって水性にされている場合に有用である。例えば、温度を上げることによってノニオン性基やノニオン性界面活性剤の水素結合を破壊し、樹脂Aを凝集析出させる方法である。すなわち曇点を利用した析出方法である。上記ノニオン基の曇点は、例えば、ポリエチレングリコールの場合、その分子量によって異なるので、一概に言えないが、好ましくは80℃以下である。このようにして温度変化で樹脂Aが析出凝集してCNT樹脂組成物を得ることができる。
【0037】
以上のような析出方法において、糸鞠状がほぐれて分散し、CNTが1本1本に分散したCNTの分散液を、そのCNT1本1本を樹脂Aに取り込ませることとなり、CNTの糸鞠状がほぐれ、チューブ状になったままCNTが樹脂Aによって処理されたCNT樹脂組成物が得られる。上記のようにして得られたCNT樹脂組成物は、ろ過、洗浄を行い、ペーストのまま使用でき、また、必要に応じて従来公知の方法で乾燥して固形物とし、また、必要に応じて粉砕して使用することができる。以上のようにして、CNTを0.1〜50質量%含有する本発明のCNT樹脂組成物を得ることができる。
【0038】
次に上記本発明のCNT樹脂組成物の使用方法として、CNT分散組成物の製造方法およびそれらの使用方法について説明する。
本発明のCNT樹脂組成物を、分散媒体としての熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂中に、混練機、混合機または分散機を用いて溶解、溶融混練または分散させてCNT分散組成物とすることができる。
【0039】
上記分散媒体としての熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂としては、メタクリル酸メチル樹脂、メタクリル酸ブチル樹脂などのアクリル系樹脂;スチレン樹脂、スチレンブタジエン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、HIPS、スチレンマレイン酸樹脂などのスチレン系樹脂;ビニルメチルエーテル樹脂などのビニルエーテル系樹脂;ビニルピロリドンなどのビニル系樹脂;ビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、酢酸ビニルビニルアルコール共重合体などのビニルアルコール系樹脂が挙げられる。
【0040】
また、酢酸ビニル樹脂などのビニル脂肪酸エステル系樹脂;LDPE、HDPE、LLDPE、超高分子量PEなどのポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(エチレン−co−プロピレン)、ポリ(エチレン−co−プロピレン−co−α−オレフィン)などのポリオレフィン系樹脂;ポリシクロデカン、ポリシクロペンタジエンなどの環状オレフィン系樹脂;ポリメチルテルペンなどの石油系樹脂が挙げられる。
【0041】
また、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメチルテレフタレート、ポリ乳酸、ポリεカプロラクトン、ポリエチレンアジペート、ポリグリコール酸などのポリエステル系樹脂;ポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテルジオールを使用したポリエーテルポリウレタン樹脂、ポリブチレンアジペートなどのポリエステルジオールを使用したポリエステルポリウレタン樹脂、ポリヘキサメチレンカーボネートジオールなどのポリカーボネート系ジオールを使用したポリカーボネートウレタン樹脂などのポリウレタン系樹脂が挙げられる。
【0042】
また、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン6T、ナイロン6Iなどのポリアミド系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどのハロゲン化ビニル系樹脂;ポリビスフェノールAカーボネート、ポリヘキサメチレンカーボネートなどのポリカーボネート系樹脂;ポリ1,4−ブタジエン、ポリ1,2−ブタジエンなどのポリジエン系樹脂;ポリビスフェノールAグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAグリシジルエーテル、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンなどのエポキシ系樹脂;ジメチルシリコーン、フェニルメチルシリコーンなどのシリコーン系樹脂が挙げられる。
【0043】
また、ポリフェニレンスルフィド、ポリジメチルフェニレンスルフィドなどのポリフェニレンスルフィド系樹脂;ポリフェニレンエーテルやポリジメチルフェニレンエーテルなどのポリフェニレンエーテル系樹脂;ポリオキシメチレンであるポリアセタール系樹脂;ポリサルホン樹脂;無水ピロメリット酸とジアミノジフェニルエーテルやフェニレンジアミンなどから得られるポリイミド系樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ポリアリールエーテルケトンやポリエーテルケトン樹脂;ポリアミドイミド樹脂;ビスフェノールAとテレフタル酸やイソフタル酸との縮合物であるポリアリレート系樹脂;メラミン樹脂;トリアセチル化セルロース、ニトロセルロースなどのセルロース系重合体;キトサン系重合体などが挙げられる。
【0044】
上記樹脂としては、上記樹脂を構成する単量体からなる共重合体或いは上記の重合体からなるブロック共重合体、グラフト共重合体、またはそれらの2種以上のポリマーアロイやポリマーブレンドが挙げられ、また、リサイクルされた樹脂も使用可能である。また、樹脂を構成する単量体は、それぞれの樹脂に対して従来公知のものすべてが挙げられ、特に限定されない。
【0045】
次にCNT分散組成物の製造方法について説明する。以上のような分散媒体に本発明のCNT樹脂組成物を加えて、混練機、混合機または分散機により溶融混練または分散させて、本発明のCNT分散組成物を得ることができる。
【0046】
従来は前記の如き分散媒体にCNTをそのまま添加して機械的分散力で分散していた。その場合、分散は非常に困難で、特徴的に強力な力やエネルギーが必要であり、また、完全にCNTの糸鞠状をほぐすことが難しかったが、本発明のCNT樹脂組成物を分散媒体に添加し、通常の混練、溶融混合や分散を行い、CNT樹脂組成物の樹脂を分散媒体と相溶させることで、容易に糸鞠状がほぐれ、1本1本に分散したCNTの分散組成物が得られる。
【0047】
上記において、本発明のCNT樹脂組成物を上記の媒体に加えて、従来公知の乾式方法であるミキシングロール、バンバリーミキサー、ニーダー、ニーダールーダー、単軸押出機あるいは多軸押出機などで混練分散され、その機械中で、CNT樹脂組成物を分散媒体中で溶融し、分散媒体とCNT樹脂組成物の樹脂とを混合・分散して、CNTが樹脂中に均一に分散したCNT分散組成物を得ることができる。その後、CNT分散組成物はシート状に裁断されるか、ペレタイザーでペレット化されるなどして使用される。
【0048】
また、CNT樹脂組成物を分散媒体に分散させる時に、従来公知の分散剤を使用することができる。上記分散剤としては、例えば、アクリル系、ウレタン系、エステル系、エステルアミド系などの分散剤が挙げられる。また、これらの分散時に、前記の機能性材料を一緒に混合、溶融混合、分散してもよい。特に顔料を同時に混練、分散させることで、着色剤やカラーリングも兼ね備えたCNT分散組成物を得ることができる。
【0049】
上記顔料としては、従来公知のものが使用でき、通常使用されている有機顔料、無機顔料および体質顔料、および染料が使用される。具体的には、例えば、溶性アゾ系顔料、不溶性アゾ系顔料、ポリアゾ系顔料、アゾメチンアゾ系顔料、アントラキノン系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ペリノン−ペリレン系顔料、アゾメチン系顔料、イソインドリノン系顔料、イソインドリン系顔料、ピロロピロール系顔料、蛍光顔料などの有機顔料、カーボンブラック顔料、酸化チタン系顔料、黄色酸化鉄、弁柄、酸化クロム、群青、複合酸化物顔料、硫化亜鉛などの無機顔料、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、硫酸バリウムなどの体質顔料、さらに分散染料、油溶性染料が挙げられ、特に限定されるものではない。
【0050】
本発明のCNT樹脂組成物はCNTを0.5〜50質量%含有する。該組成物を前記分散媒体で分散希釈して、所望のCNT濃度に希釈する。CNT分散組成物がマスターバッチや高濃度品として、CNT濃度が1〜10質量%の場合には、その後希釈してコンパウンド化し加工する。または、コンパウンドや希釈品として、CNT濃度を0.1〜1質量%とすることができる。
【0051】
次いで上記CNT分散組成物(CNT樹脂組成物)を成形加工する方法について説明する。上記加工物品におけるCNT濃度は0.1〜5質量%、さらに好ましくは0.1〜2.5質量%であり、かかる濃度でCNTの性能効果が十分に発揮できる。
【0052】
また、前記CNTのマスターバッチまたは高濃度品は、そのままでも物品の加工に使用できるが、好ましくはその用途に合わせて希釈され、コンパウンドとしてまたは希釈品として使用される。そのコンパウンド化方法や希釈方法は前記した物品に使用される樹脂にて、前記したような混合、溶融、分散方法や機械類でなされる。
【0053】
まず、本発明のCNT分散組成物がマスターバッチである場合には、該マスターバッチを、該マスターバッチの樹脂と同じ樹脂と混合し、常法に従いヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、タンブラーなどにて混合し、ミキシングロール、射出成形機、押出し成形機、ブロー成形機、インフレーション成形機、圧縮成形機、回転成形機、熱硬化性樹脂成形機などで成形される。
【0054】
また、本発明のCNT分散組成物がコンパウンドである場合は、該CNT分散組成物はそのまま物品の成形に使用され、ミキシングロール、射出成形機、押出し成形機、ブロー成形機、インフレーション成形機、圧縮成形機、回転成形機、熱硬化性樹脂成形機などで成形される。その際、他の顔料マスターバッチや機能性材料マスターバッチ、ガラス繊維入り複合材料、発泡剤、架橋剤などの各種添加剤、樹脂用の添加剤として、例えば、ポリオレフィン系樹脂微粉末、ポリオレフィン系ワックス、エチレンビスアマイド系ワックス、ガラス繊維、炭素繊維、半炭化繊維、セルロース系繊維、ガラスビーズなどを同時に混合して成型してもよい。
【0055】
本発明のCNT分散組成物を使用すると、非常に容易に均一にCNTが配合された物品が得られ、CNTの性能である導電性がいかんなく発揮され、CNT由来の低い表面抵抗値や体積抵抗値が得られる。また、CNTの分散均一性から、例えば、フィルムの場合には、透明性を保持し、光透過率が高く、また、ヘイズが小さいものが得られ、表面および体積抵抗値も非常に小さいものが得られる。
【0056】
本発明のCNT樹脂組成物および分散組成物を使用した加工物品について説明すると、物品として容器(食品容器、化粧品容器、医薬品容器など)、フィルム、シート、ブリスター、パイプ、ホース、チューブ、ビーズ、繊維、自動車部品(車両内装品など)、電気機器部品(電気器具のハウジングなど)、文具、おもちゃ、家具(衣装収納製品など)、日用品(台所用品、浴用製品など)などの成型物やそのコーティング物が挙げられ、さらに好ましい物品について記載すると、半導体や電子部品用包装トレー、半導体や電子部品を製造する場所などに使用する導電性マット、トレーおよび文具などの備品、導電性シューズや手袋、導電性アース線、クリーンルームなどの静電対策床材、プリント基板などの導電塗料、薄膜導電皮膜などがあり、さらに用途が広がると考えられ、本発明のCNT樹脂組成物やCNT分散組成物は有用なものである。
【実施例】
【0057】
次に実施例および応用例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、文中「部」または「%」とあるのは質量基準である。
【0058】
[実施例1]
3,000ミリリットルビーカーに、CNT(SWNT、外径1〜2nm、長さ1μm、純度90.0%)10部、アクリル樹脂の水分散液(樹脂:スチレン/メタクリル酸メチル/アクリル酸ブチル/メタクリル酸/メタクリル酸2−ヒドロキシエチルコポリマー(共重合質量比:40/20/15/10/15、GPCによるポリスチレン換算の数平均分子量10,000のアンモニア中和水溶液、固形分25%)120部、ブチルカルビトール150部および水1,050部を仕込んだ。CNTは水に湿潤されたが、その形状のまま底に沈んだ状態であり、上部は水の透明層であった。
【0059】
次いで上記ビーカー中に攪拌子を入れ、マグネチックスターラーで攪拌し、超音波脱泡装置で15分間脱泡した。次いでビーカーの外側から氷で冷やしながら、1分間の間隔をおいて出力1,200Hzの超音波分散機で15分間超音波を4回照射した。その間仕込み時のCNTの沈殿が解れてきて透明な水が徐々に黒くなってきて、CNTの糸鞠状がほぐされてCNTが分散しつつあることが確認できた。上記の超音波照射後、一部をサンプリングして光学顕微鏡で観察したところ、CNTの糸鞠状はなく、すべてのCNTが分散していることが確認できた。次いでその液をフィルターでろ過して、粗大粒子や壁面について乾燥した部分を一応取り除くが、特に残るものはなかった。これを樹脂処理CNT分散液という。
【0060】
次に上記樹脂処理CNT分散液を水で2倍に希釈してCNT濃度を約0.5%とした後、前記したアクリル樹脂分散液240部を添加して、ディスパーで攪拌した。攪拌しながら、5%酢酸水溶液を徐々に添加し、液のpHを3.0とし、アクリル樹脂を析出させた。次いで系を50℃に加温し、1時間攪拌後、そのままろ過して、次いでイオン交換水で洗浄し、70℃の乾燥機で24時間乾燥して、若干白味がかった黒色の比較的硬いチップ状組成物を得た。該組成物の灰分を測定したところ、CNTとして10%含有していることがわかった。この樹脂組成物をCNT樹脂組成物−1とする。
【0061】
[実施例2]
CNTとしてCNT(SWNT、外径1.2〜1.5nm、長さ2〜5μm、純度70%)と実施例1と同じアクリル樹脂分散液を使用し、実施例1と同様にして樹脂処理CNT分散液を得た。次に該分散液にパウダー状のスチレン樹脂(比重1.05、MFR2.9g/min)を添加した後、実施例1と同様にしてアクリル樹脂を析出させ、実施例1と同様に処理して、灰色の硬いチップ状の樹脂組成物を得た。該樹脂組成物は実施例1と同様に10%のCNTを含有していることが確認され、これをCNT樹脂組成物−2とする。
【0062】
[実施例3]
実施例2と同じCNTを使用し、樹脂分散液としてポリエチレンアイオノマー分散液(固形分27%、比重0.95、ビットカット軟化点59℃)を使用し実施例1と同様にして樹脂処理CNT分散液を得た。この分散液に上記と同じポリエチレンアイオノマー分散液を添加し、以下実施例1と同様にして若干白味がかった黒色のゴム状チップ状の樹脂組成物を得た。該樹脂組成物も実施例1の場合と同様に10%のCNTを含有し、これをCNT樹脂組成物−3とする。
【0063】
[実施例4]
CNTとしてCNT(MWNT、外径30〜50nm、内径5〜15nm、長さ50μm、純度95%)を使用し、樹脂分散液として実施例1と同じものを1/3の量で使用して樹脂処理CNT分散液を得た。該分散液にペレット状のポリフェニレンスルフィド樹脂(比重1.35、融点285℃)を添加し、以下実施例1と同様にして灰色の硬い異形のペレット状の樹脂組成物を得た。該組成物も実施例1と同様に10%のCNTを含有している。これをCNT樹脂組成物−4とする。
【0064】
[実施例5]
3,000ミリリットルビーカーに、CNT(DWNT、外径5nm、内径1.3〜2nm、長さ15μm、純度80%)10部、アクリル樹脂の水分散液(スチレン/メタクリル酸メチル/アクリル酸2−エチルヘキシル/メタクリル酸コポリマー(共重合質量比:35/25/20/20)、GPCによるポリスチレン換算の数平均分子量8,900のアンモニア中和水溶液、イソプロパノールを15%含有、固形分40%)75部、ブチルカルビトール150部および水1,050部を仕込んだ。
【0065】
次いでビーカー中に攪拌子を入れ、マグネチックスターラーで攪拌し、超音波脱泡機で15分間脱泡した。次いでこのCNTの水分散液を横型ビーズミルで0.5mmのジルコニアビーズをメディアとしてCNTを分散した。初期は粘度が高かったが、徐々に低粘度化した。分散中、一部をサンプリングして光学顕微鏡で観察しながら分散し、CNTの糸鞠状が無くなったときに分散を終了した。次いで得られた分散液をフィルターでろ過して、粗大粒子や壁面について乾燥した部分を一応取り除くが、特に残るものはなかった。
【0066】
以下、実施例1と同様にして処理したが、本実施例では乾燥させずペースト状態の組成物を得た。該組成物は若干白味がかった黒色の比較的硬い粒状であり、固形分19.3%であった。該組成物の灰分を測定したところ、CNTとして10%含有していることがわかった。この処理されたペースト状CNT樹脂組成物をCNT樹脂組成物−5とする。
【0067】
[応用例1:樹脂への応用]
実施例1で得たCNT樹脂組成物−1の10部およびメタクリル酸メチル樹脂(MMA樹脂、比重1.5、MFR2g/min)のペレット10部を混合した後、小型ニーダーを使用して250℃で十分溶融混合して取り出し、ラボ単軸押出機を用いて押出し、造粒しマスターバッチを得た。これはCNTを5%含有するマスターバッチである。
【0068】
次にこのマスターバッチを使用して、上記MMA樹脂にて、CNT濃度が0.1%、0.25%、0.5%、1%になるようにMMAペレットとマスターバッチを混合して、ラボ単軸押出し機を使用し希釈溶融混合して、その後ラボ成型機にてプレートを作成した。それぞれのプレートの表面および断面を薄く裁断して、電子顕微鏡にて観察したところ、均一にCNTが分散していることが確認できた。また、その表面抵抗を測定した結果、0.1%の時は5.36×1010Ω/□、0.25%の時は1.36×108Ω/□、0.5%の時は8.35×106Ω/□、1%の時は6.35×105Ω/□であった。
【0069】
[応用例2:樹脂への応用]
実施例1で得たCNT樹脂組成物−1の10部とメタクリル酸メチル樹脂(比重1.5、MFR2g/min)のペレット190部と混合した後、ラボ2軸押出機を用いて押出し、造粒してCNTを0.5%含有するコンパウンドを作成した。これをラボ成型機にてプレートを作成して、応用例1と同様に電子顕微鏡で観察したところ、CNTが均一に分散していることがわかった。また、このプレートの表面抵抗は応用例1と同等の1.35×107Ω/□の値を示した。
【0070】
[応用例3:樹脂への応用]
実施例2で得たCNT樹脂組成物−2の10部とスチレン樹脂パウダー(同種)90部とをよく混合して、応用例2と同様にして混合溶融させ、次いで成型機で、CNTを1%含有する電子部品用包装用トレーを作成した。該トレーの表面抵抗は8.35×105Ω/□であり、電子部品には静電気があると故障の原因となるので、包装容器には帯電防止性を付与する必要があるが、このトレーは非常に帯電防止性が良好であった。また、同様にしてCNT樹脂組成物−1を使用してトレーを作成した。該トレーに使用したアクリル樹脂はスチレンと相溶性があり、同様に帯電防止性に優れたトレーを得ることができた。
【0071】
[応用例4:樹脂への応用]
実施例3で得られたCNT樹脂組成物−3の10部と低密度ポリエチレン(比重0.918、MFR12g/min)233.3部とをラボ2軸押出し機にて混練し、造粒してペレットを作成した。次いでインフレーション成型機にて、0.3%のCNTを含有するフィルムシートを得た。該シートは若干黒ずんでいるが、全光線透過率87.6%、ヘイズ1.53%であり、表面抵抗が2.53×107Ω/□の透明なシートであった。
【0072】
[応用例5:樹脂への応用]
実施例4で得られたCNT樹脂組成物−4の10部と同種のポリフェニレンスルフィド樹脂190部とを330℃の温度で、ラボプラストミルにて溶融混合造粒してペレットを得た。次いで、該ペレットを用いて成型機にてプレートを作成して、黒色のプレートを得た。該プレートを電子顕微鏡で観察するとCNTは分散していることが確認され、また、該プレートの表面抵抗値は3.56×106Ω/□であった。
【0073】
[応用例6:樹脂への応用]
実施例1で得られたCNT樹脂組成物−1の10部とエポキシ樹脂として液状のビスフェノールA型グリシジルエーテル190部とを3本ロールで混合溶融して、エポキシ樹脂にCNT樹脂組成物を溶融混合均一化させた。次いでこのCNT分散組成物にイソホロンジアミンを添加して、熱硬化性樹脂成形機にてエポキシ樹脂成型板を得た。前記と同様にして電子顕微鏡で観察するとCNTは分散していることが確認され、また、その表面抵抗値は9.66×107Ω/□であった。
【0074】
[比較例1:樹脂への応用]
実施例1で用いたと同じCNTの1部とメタクリル酸メチル樹脂(MMA樹脂、比重1.5、MFR2g/min)のペレット19部とを混合した後、小型ニーダーを使用して250℃で十分溶融混合して取り出し、ラボプラストミルを用いて押出し、造粒しマスターバッチを得た。該マスターバッチはCNTを5%含有している。次にこのマスターバッチを使用して、上記MMA樹脂にて、CNT濃度が1%になるようにMMAペレットとマスターバッチを混合して、ラボ単軸押出し機を使用し希釈溶融混合して、その後ラボ成型機にてプレートを作成した。これを比較例1とする。
【0075】
[比較例2:樹脂への応用]
比較例1と同じCNTの1部と比較例1と同じMMA樹脂199部とを混合して、比較例1と同様にしてコンパウンドを作成して、同様に成型機でプレートを得た。これを比較例2とする。これらの比較例1および2のプレートを実施例と同様にして電子顕微鏡で観察したところ、比較例2ではプレート中に未分散の糸鞠状のCNTが多数見られ、比較例1ではほぐれているものもあるが、糸鞠状のCNTが見られた。また、その表面抵抗値は、比較例1で1.33×1011Ω/□、比較例2で3.22×109Ω/□であり、これは本発明のCNT樹脂組成物を使用したCNT分散組成物より、糸鞠状のほぐれが悪く、よく分散していないためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のCNT樹脂組成物を分散媒体に溶解、混合、溶融または分散させることで、容易にCNTの糸鞠状がほぐれて、よく分散されたCNT分散組成物を得ることができ、また、高濃度な分散が困難であったCNTを、容易に高濃度で分散された状態で得ることができ、それらを使用して各種物品に加工することによって、高い導電性を与え、帯電防止された物品や導電性を付与された物品などが得られ、静電気防止対策や静電気に弱い電子部品などの包装など、静電気による各種障害を防止することができる。また、分散が良好であるので、透明性に優れるので、透明でまたは色素で着色して任意の色がついた意匠性のある静電対策された物品を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂処理カーボンナノチューブと樹脂Bとからなり、カーボンナノチューブを0.1〜50質量%含有する樹脂組成物であって、上記樹脂処理カーボンナノチューブが、カーボンナノチューブを水性樹脂A中に分散させた後、水性樹脂Aを析出させて表面を樹脂Aにて処理した樹脂処理カーボンナノチューブであることを特徴とするカーボンナノチューブ樹脂組成物。
【請求項2】
水性樹脂Aが、樹脂Aの水溶液または樹脂Aの水分散液(エマルジョンまたはサスペンジョン)である請求項1に記載のカーボンナノチューブ樹脂組成物。
【請求項3】
樹脂Bが、水性樹脂A、A以外の水性樹脂、パウダー状、グラニュー状またはペレット状の樹脂である請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ樹脂組成物。
【請求項4】
樹脂Aを析出させる方法が、pH変化による方法、貧溶剤による方法または温度変化による方法である請求項1〜3のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物を、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂に相溶または分散させてなることを特徴とするカーボンナノチューブ分散組成物。
【請求項6】
分散媒体が樹脂である請求項1〜5のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ樹脂組成物またはカーボンナノチューブ分散組成物を成形加工することを特徴とするカーボンナノチューブ含有樹脂加工物品の製造方法。
【請求項7】
容器、フィルム、シート、パイプ、ホース、チューブ、繊維、自動車部品、電気機器部品、文具、家具または日用品であることを特徴とする請求項6に記載の方法で得られたカーボンナノチューブ含有樹脂加工物品。

【公開番号】特開2009−62461(P2009−62461A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231785(P2007−231785)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】