説明

カーボンナノチューブ浸出繊維材料を含有する金属マトリックス複合材料及びその製造方法

少なくとも1つの金属を有する金属マトリックスとカーボンナノチューブ浸出繊維材料とを含有する複合材料が本明細書に記載される。金属マトリックスには、アルミニウム、マグネシウム、銅、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、銀、金、チタン、及びこれらの様々な混合物が含まれる。繊維材料には、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、セラミック繊維、有機繊維、炭化ケイ素繊維、炭化ホウ素繊維、窒化ケイ素繊維、及び酸化アルミニウム繊維が含まれる。複合材料は、少なくともカーボンナノチューブ浸出繊維材料を、任意的には複数のカーボンナノチューブをオーバーコートする保護層を含むことができる。金属マトリックスは、金属マトリックスとカーボンナノチューブ浸出繊維材料との親和性を向上させる少なくとも1つの添加剤を含むことができる。繊維材料は、金属マトリックス中において、均一に、不均一に、又は勾配をもって分布する。不均一な分布は、金属マトリックスの異なる領域に、機械的、電気的又は熱的に異なる性質を付与するために用いられてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概略的には複合材料に関し、より具体的に言えば、繊維強化金属マトリックス複合材料に関する。
【0002】
(関連出願の相互参照)
本願は、2009年12月1日出願の米国仮特許出願第61/265,717号に基づき、合衆国法典35巻(35 U.S.C.)第119条に従って優先権を主張するものであり、参照により全内容が本明細書に組み込まれる。また、本願は、全て2009年11月2日に出願された米国特許出願第12/611,073号、第12/611,101号、及び第12/611,103号に関連する。
【0003】
(連邦政府の資金提供による研究開発の記載)
適用なし。
【背景技術】
【0004】
ナノ材料を含有する複合材料は、ナノスケールレベルで実現される有益な性質強化のために、ここ数年来広く研究されてきた。特に、カーボンナノチューブは、その強度及び電気伝導性が極めて高いことから、複合材料に使用するために広く研究されてきたナノ材料である。複合材料には、組み込まれたナノ材料を介して有益な性質が与えられるが、ナノ材料、特に、カーボンナノチューブを含有する複合材料の商業的に有望な製造は、ナノ材料の組み込みが複雑であるために、一般的には実現していない。複合材料のマトリックスに対してカーボンナノチューブを組み込む場合にしばしば直面する問題としては、例えば、カーボンナノチューブの担持による粘性の上昇、勾配(gradient)制御の問題、及び、カーボンナノチューブの不正確な配向性が含まれる。
【0005】
前述のことを考慮すると、カーボンナノチューブを含有する複合材料を容易に製造できれば、技術的に大いに有用である。本発明はこの必要性を満たし、関連する利点をも提供するものである。
【発明の概要】
【0006】
本明細書には、様々な実施形態において、金属マトリックス及びカーボンナノチューブ浸出繊維材料を含有する複合材料が記載される。
【0007】
ある実施形態において、複合材料には、少なくとも1つの金属を含有する金属マトリックス、第1のカーボンナノチューブ浸出繊維材料、及び、第2のカーボンナノチューブ浸出繊維材料が含まれる。第1のカーボンナノチューブ浸出繊維材料、及び、第2のカーボンナノチューブ浸出繊維材料は、金属マトリックスのうち、夫々、第1領域及び第2領域に分布する。第1のカーボンナノチューブ浸出繊維材料におけるカーボンナノチューブの平均長さ、及び第2のカーボンナノチューブ浸出繊維材料におけるカーボンナノチューブの平均長さは、金属マトリックスの第1領域及び第2領域が、機械的、電気的又は熱的性質を異にするように選択される。
【0008】
本明細書には、ある実施形態において、金属マトリックス及びカーボンナノチューブ浸出繊維材料を含有する複合材料を含む製品が記載される。金属マトリックスは、少なくとも1つの金属を含有する。
【0009】
本明細書には、他の様々な実施形態において、金属マトリックスを生産するための方法が記載される。その方法には、カーボンナノチューブ浸出繊維材料を提供すること、及び、そのカーボンナノチューブ浸出繊維材料を金属マトリックスに組み込むこと、が含まれる。金属マトリックスは、少なくとも1つの金属を含有する。
【0010】
前述では、後述の詳細な説明をより良く理解するために、本開示の特徴をある程度広く概説した。本開示の更なる特徴及び利点は後述されるが、これらは特許請求の範囲の主題を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】炭素繊維に浸出したカーボンナノチューブの例示的なTEM画像を示す。
【図2】カーボンナノチューブが浸出した炭素繊維の例示的なSEM画像を示しており、ここで、カーボンナノチューブは目標長さ40μmの+20%以内の長さである。
【図3】カーボンナノチューブ浸出炭素繊維織物(fabric weave)の例示的なSEM画像を示す。
【図4】カーボンナノチューブ浸出繊維材料を含むアルミニウム合金複合材料の例示的なSEM画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示及びその利点を十分理解するために、以下の詳細な説明を本開示の特定の実施形態を説明する添付図面と一致させて説明する。
【0013】
本開示は、1つには、金属マトリックス及びカーボンナノチューブ浸出繊維材料を含有する複合材料を対象とする。また、本開示は、1つには、金属マトリックス及びカーボンナノチューブ浸出繊維材料を含有する複合材料と、このような複合材料を有する製品と、を製造するための方法を対象とする。
【0014】
繊維材料と複合材料マトリックス(composite matrix)を含有する複合材料において、複合材料マトリックス(例えば、金属マトリックス)には、繊維材料により物理的又は化学的に強化された性質が与えられる。本複合材料において、これらの強化される性質は、繊維材料に浸出したカーボンナノチューブにより更に向上する。繊維材料だけでは強化が不可能な性質の中には、カーボンナノチューブを繊維材料に浸出させることにより、強化されるものがある(例えば、電気伝導度、熱伝導度、及び熱膨張の向上)。これらの性質の強化については、以下において詳細に考察される。
【0015】
カーボンナノチューブ浸出繊維材料は、カーボンナノチューブを複合材料に導入するための多用途基盤(versatile platform)である。複合材料にカーボンナノチューブ浸出繊維材料を用いることにより、カーボンナノチューブの組み込みに関する重要な問題を解消することが可能となる。また、例えば、繊維材料に浸出するカーボンナノチューブの長さ及び被覆密度(density of coverage)を変化させることにより、複合材料に異なる性質を選択的に与えることができる。例えば、長さの短いカーボンナノチューブは、複合材料に対して構造的な支持体を与えるために用いられる。長いカーボンナノチューブは、構造的な支持体を与えることに加え、一般的に低伝導性又は非伝導性の複合材料において電気伝導性のパーコレーション経路を確立するために用いられる。電気伝導性は物理的に熱的伝導性に関係し、関連する熱膨張係数の改善を実現するうえで、複合材料、特に、金属マトリックス複合材料にカーボンナノチューブ浸出繊維材料を含むことは有利である。また、複合材料の異なる領域において、カーボンナノチューブ浸出繊維材料の不均一配置又は勾配配置を用いることにより、複合材料の異なる領域に対して所望の性質を選択的に与えることができる。
【0016】
複合材料、特に、金属マトリックス複合材料の用途は拡大し続けている。この複合材料の既存の及び新たな用途は、現在の繊維強化技術の限界を押し広げ続けている。カーボンナノチューブが浸出した繊維材料を含有する複合材料は、現在の技術的な障害を解消する1つの方法であり、これにより、構造的な強度、及び、更なる有益な性質(例えば、電気伝導性及び熱伝導性など)のいずれについても向上した複合材料を提供できる。複合材料の熱伝導性に影響を与える目的で複合材料に繊維材料を含めることは、当該技術分野で慣行化されていない。カーボンナノチューブ浸出繊維材料を含有する複合材料には、複合材料に構造的強化あるいは他の性質強化をもたらすことが好ましい他の多くの潜在的な用途が存在する。例えば、本金属マトリックス複合材料の例示的な用途には、耐摩耗性の向上、及び熱伝導性の強化が好ましい例が含まれる。このような用途には、例えば、ブレーキローター、ドライブシャフト、工具(tools)、ヒートシンク、ハウジング、ベースプレート(base plates)、及び熱分散器(thermal spreader)などの限定されない利用法が含まれる。
【0017】
本明細書において、用語「金属マトリックス」とは、ランダム(random)配向などの特定の配向でカーボンナノチューブ浸出繊維材料を組織化する働きをする、少なくとも1つの金属を意味する。複合材料において、金属マトリックスは、これにカーボンナノチューブ浸出繊維材料を含有させることにより、例えば、構造的、電気的又は熱的性質の強化を通して利益を得る。
【0018】
本明細書において、用語「浸出する」とは結合することを意味し、用語「浸出」とは、結合プロセスを意味する。例えば、カーボンナノチューブが浸出した繊維材料は、カーボンナノチューブが結合した繊維材料を意味する。繊維材料に対するカーボンナノチューブのこのような結合には、共有結合、イオン結合、π−π相互作用又はファンデルワールス力の介在した物理吸着などが包含され得る。ある実施形態において、カーボンナノチューブは繊維材料に直接的に結合される。他の実施形態において、カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブの成長を媒介するために用いられるバリアコーティング又は触媒ナノ粒子を介して繊維材料に間接的に結合される。カーボンナノチューブが繊維材料に浸出する具体的な態様は、結合モチーフ(bonding motif)と呼ばれる。
【0019】
本明細書において、用語「ナノ粒子」とは、相当球径で約0.1nmから約100nmの直径を有する粒子を意味するが、ナノ粒子は必ずしも球形である必要はない。
【0020】
本明細書において、用語「保護層(passivation layer)」とは、カーボンナノチューブ浸出繊維材料上の少なくとも一部に付着して(deposited)、これにより繊維材料又はその上に浸出するカーボンナノチューブの反応を防止又は十分に抑制する層を意味する。保護層は、例えば、高温下における複合材料の形成中、反応を防止又は十分に抑制するのに有用である。また、保護層は、複合材料の形成前後における大気成分との反応を防止又は十分に抑制する。保護層のための例示的な材料には、例えば、電気めっきされたニッケル又は二ホウ化チタンが含まれる。
【0021】
本明細書において、用語「サイジング剤(sizing agent)」又は「サイジング(sizing)」とは、繊維材料の健全性を保護するための、複合材料における繊維材料と金属マトリックスとの界面相互作用を強化するための、あるいは、繊維材料の特定の物理的性質を変更又は強化するためのコーティングとして、繊維材料の製造において用いられる材料を総称するものである。
【0022】
本明細書において、用語「巻き取り可能な寸法」とは、長さが限定されず、カーボンナノチューブの浸出後に繊維材料をスプール(spool)又はマンドレル(mandrel)に巻き取っておくことを可能にする、繊維材料の少なくとも1つの寸法をいう。「巻き取り可能な寸法」の繊維材料は、繊維材料に対するカーボンナノチューブ浸出のためのバッチ(batch)プロセス又は連続プロセスのいずれかの使用を示す少なくとも1つの寸法を有する。
【0023】
本明細書において、用語「遷移金属」とは、周期表のdブロック(第3属から第12属)におけるあらゆる元素又はその合金をいう。また、用語「遷移金属塩」とは、例えば、遷移金属の酸化物、炭化物、窒化物などのあらゆる遷移金属化合物も意味する。例示的な遷移金属触媒ナノ粒子には、例えば、Ni、Fe、Co、Mo、Cu、Pt、Au、Ag、これらの合金、これらの塩、及びこれらの混合物が含まれる。
【0024】
本明細書において、「長さが均一」とは、約1μmから約500μmに及ぶカーボンナノチューブ長さに関して、全てのカーボンナノチューブ長さの誤差が±約20%以内となるような長さをカーボンナノチューブが有する状態である。極めて短いカーボンナノチューブ長さ(例えば、約1μmから約4μmまで)では、全てのカーボンナノチューブ長さの誤差は、±約1μm、すなわち、約20%よりも若干大きくてもよい。
【0025】
本明細書において、「密度分布が均一」とは、繊維材料上におけるカーボンナノチューブの密度が、カーボンナノチューブにより被覆される繊維材料表面積の被覆率で±約10%の誤差を有している状態を意味する。
【0026】
本明細書の様々な実施形態において、金属マトリックス及びカーボンナノチューブ浸出繊維材料を含有する複合材料が記載されている。金属マトリックスは少なくとも1つの金属を含有する。
【0027】
カーボンナノチューブが浸出した繊維材料(炭素繊維、セラミック繊維、金属繊維及びガラス繊維など)は、2009年11月2日に全て出願され、同時係属中である出願人の米国特許出願第12/611,073号、第12/611,101号及び第12/611,103号に記載されており、各出願について、その全内容が参照により本明細書に組み込まれる。図1は、炭素繊維に浸出したカーボンナノチューブの例示的なTEM画像を示す。図2は、カーボンナノチューブが浸出した炭素繊維の例示的なSEM画像を示しており、ここで、カーボンナノチューブは目標長さ40μmの+20%以内の長さである。図1及び2の画像において、カーボンナノチューブは多層カーボンナノチューブであるが、単層カーボンナノチューブ、2層カーボンナノチューブ及び3層以上の多層カーボンナノチューブなどのあらゆるカーボンナノチューブを用いて本複合材料の繊維材料に浸出させてもよい。
【0028】
前述の繊維材料は、カーボンナノチューブが浸出可能であり複合材料に包含可能な様々な繊維材料の単なる例示である。本明細書に記載される様々な実施形態のすべてにおいて、カーボンナノチューブが浸出し得る繊維材料には、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、セラミック繊維及び有機繊維(例えば、アラミド繊維)が含まれる。ある実施形態において、繊維材料には、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、セラミック繊維、有機繊維、炭化ケイ素(SiC)繊維、炭化ホウ素(B4C)繊維、窒化ケイ素(Si34)繊維、酸化アルミニウム(Al23)繊維、及びこれらの様々な組み合わせが含まれる。ある実施形態において、カーボンナノチューブの好ましい性質が、カーボンナノチューブの浸出する繊維材料に与えられ、これにより、得られる複合材料の金属マトリックスを強化する。当業者であれば、本明細書に記載される実施形態に、カーボンナノチューブが浸出可能なあらゆる種類の繊維材料を用いて、これにより要求される目的の性質を強化し得ることも理解できるであろう。さらに、繊維材料の同一性(identity)若しくは割合(fraction)、又は繊維材料に浸出するカーボンナノチューブ量を変化させることにより、複合材料で異なる性質に対応することが可能である。理論又はメカニズムに拘束されるものではないが、出願人は、繊維材料が複合材料の金属マトリックスを構造的に強化すると考える。
【0029】
ある実施形態において、カーボンナノチューブ浸出繊維材料は、カーボンナノチューブのない繊維材料を伴う複合材料に含まれ得る。例示的な組み合わせには、限定するものではないが、カーボンナノチューブ浸出ガラス繊維とカーボンナノチューブが浸出していないセラミック繊維、カーボンナノチューブ浸出セラミック繊維とカーボンナノチューブが浸出していないガラス繊維、カーボンナノチューブ浸出炭素繊維とカーボンナノチューブ浸出していないセラミック繊維、及び、カーボンナノチューブ浸出炭素繊維とカーボンナノチューブが浸出していないガラス繊維が含まれる。また、あらゆる種類のカーボンナノチューブ浸出繊維も、カーボンナノチューブが浸出していない同種の繊維材料とともに複合材料に含まれてもよい。
【0030】
炭素繊維は、繊維の生成に用いられる前駆体(そのいずれもが本明細書に記載される様々な実施形態に使用可能)、すなわち、レーヨン、ポリアクリロニトリル(PAN)及びピッチ(pitch)に基づいて3種類に分類される。セルロース系材料であるレーヨン前駆体から作られる炭素繊維は、炭素含有量が約20%と比較的低く、その繊維は低強度かつ低剛性を有する傾向にある。対照的に、ポリアクリロニトリル(PAN)前駆体が提供する炭素繊維は、炭素含有量が約55%であり、表面欠陥が最小限であるため、極めて優れた引張強度を有する。石油アスファルト、コールタール及びポリ塩化ビニルに基づくピッチ前駆体もまた、炭素繊維を生成するために用いられる。ピッチは、比較的低コストで炭素収率が高いが、得られる炭素繊維に対する既知のバッチ処理に不均一性という問題がある。
【0031】
様々な実施形態において、本複合材料の繊維材料は、フィラメント(filament)、ヤーン(yarn)、繊維トウ(fiber tow)、テープ、繊維編組(fiber-braid)、織物(woven fabric)、不織織物(non-woven fabric)、繊維プライ(fiber ply)、及び、他の3次元織物構造体又は3次元不織織物構造体の限定されない形態である。例えば、繊維材料が炭素繊維である実施形態において、繊維材料は、炭素フィラメント、炭素繊維ヤーン、炭素繊維トウ、炭素テープ、炭素繊維編組、炭素織物、不織炭素繊維マット(no-woven carbon fiber mat)、炭素繊維プライ、及び、他の3次元織物構造体又は3次元不織構造体などの限定されない形態であってよい。一例として、図3は、カーボンナノチューブ浸出炭素繊維織物の例示的なSEM画像を示す。様々な実施形態において、均一な長さ及び均一な分布のカーボンナノチューブは、巻き取り可能な長さのフィラメント、繊維トウ、ヤーン、テープ、織物及び他の3次元織物構造体に沿って生成される。フィラメント、繊維トウ、ヤーン、マット、織物及び不織織物などにカーボンナノチューブを直接浸出させることができる一方、カーボンナノチューブ浸出繊維でできた元となる繊維トウ、ヤーンなどからこのような高い規則構造を生成することも可能である。例えば、カーボンナノチューブ浸出繊維材料を、カーボンナノチューブ浸出繊維トウでできた織物に変えることができる。
【0032】
フィラメントには、大きさが約1μmから約100μmまでの直径を有する高アスペクト比の繊維が含まれる。
【0033】
繊維トウは、通常、炭素フィラメントを密に結合した束(bundle)であり、ある実施形態では、これが撚り合わされてヤーンとなる。ヤーンには、撚り合わされたフィラメントを密に結合した束が含まれるが、ここで、ヤーンにおける各フィラメントの直径は、比較的均一である。ヤーンには、「テックス(tex)」(1000リニアメーター当たりのグラム重量として示される)又は「デニール(denier)」(10,000ヤード当たりのポンド重量として示される)で表される様々な重量がある。ヤーンに関して、標準的なテックス範囲は、通常、約200テックスから約2000テックスまでである。
【0034】
繊維編組は、繊維が高密度に詰め込まれたロープ状構造体を示す。このようなロープ状構造体は、例えば、ヤーンから組まれる。編組構造体は中空部分を含んでもよく、あるいは、別のコア材料の周囲に組まれてもよい。
【0035】
繊維トウには、撚り合わされていないフィラメントを緩く結合した束が含まれる。ヤーンと同様に、繊維トウにおけるフィラメントの直径は概して均一である。また、繊維トウも様々な重量を有し、テックス範囲は、通常、約200テックスから約2000テックスの間である。加えて、繊維トウは、例えば、12Kトウ、24Kトウ、48Kトウなどの繊維トウ内にある数千のフィラメントの数により、しばしば特徴付けられる。
【0036】
テープは、例えば、織物又は不織の扁平繊維トウとして組まれる繊維材料である。テープは様々な幅をもち、通常、リボンに類似する両面構造体である。本明細書に記載される様々な実施形態において、カーボンナノチューブは、テープの一面又は両面において、テープの繊維材料に浸出する。また、種類、直径又は長さの異なるカーボンナノチューブが、テープの各面で成長可能である。種類、直径又は長さの異なるカーボンナノチューブを繊維材料に浸出させる利点は、以下の本明細書で考察される。同時係属中である出願人の米国特許出願に記載されるように、スプールのテープに対するカーボンナノチューブの浸出は、連続的な方法で実施される。
【0037】
ある実施形態において、繊維材料は、織物又はシート状構造体に組織化される。これらには、前述のテープに加えて、例えば、織物、不織繊維マット及び繊維プライが含まれる。このような高い規則構造は、繊維材料に既に浸出しているカーボンナノチューブを伴って、元となる繊維トウ、ヤーン、フィラメントなどから組まれる。テープと同様に、このような構造体もまた、カーボンナノチューブの連続的な浸出のための基材として機能する。
【0038】
同時係属中である出願人の出願に記載されるように、繊維材料は、その上でカーボンナノチューブを成長させる目的で改質され、繊維材料上に触媒ナノ粒子層(通常は単分子層にすぎない)を提供する。様々な実施形態において、カーボンナノチューブの成長を媒介するために用いられる触媒ナノ粒子は、遷移金属及びこれらの様々な塩である。
【0039】
ある実施形態において、繊維材料には、更にバリアコーティングが含まれる。例示的なバリアコーティングには、例えば、アルコキシシラン、メチルシロキサン、アルモキサン、アルミナナノ粒子、スピンオンガラス(spin on glass)及びガラスナノ粒子が含まれる。例えば、1つの実施形態では、バリアコーティングはAccuglass(登録商標)T−11のスピンオンガラス(Honeywell International Inc., Morristown, NJ)である。ある実施形態において、カーボンナノチューブ合成のための触媒ナノ粒子は、未硬化のバリアコーティング材と混合されて、その後、共に繊維材料に適用される(applied)。他の実施形態において、バリアコーティング材は、触媒ナノ粒子の付着(deposition)前に繊維材料に加えられる。バリアコーティングは、通常、カーボンナノチューブ成長のための炭素原料ガスに対する触媒ナノ粒子の曝露を可能にするのに十分な薄さである。ある実施形態では、バリアコーティングの厚さは、触媒ナノ粒子の有効径未満か、あるいは、それとほぼ等しい。ある実施形態では、バリアコーティングの厚さは、約10nmから約100nmの範囲である。他の実施形態では、バリアコーティングの厚さは、40nmを含む、約10nmから約50nmの範囲である。ある実施形態では、バリアコーティングの厚さは、約10nm未満であり、約1nm、約2nm、約3nm、約4nm、約5nm、約6nm、約7nm、約8nm、約9nm及び約10nmと、これらの全中間値とその端数を含む。
【0040】
理論に拘束されるものではないが、バリアコーティングは、繊維材料とカーボンナノチューブとの間の中間層として機能し、また、繊維材料に対してカーボンナノチューブを機械的に浸出させる。このような機械的な浸出は、カーボンナノチューブの有益な性質が繊維材料に与えられるようにしつつ、繊維材料がカーボンナノチューブを組織化するための基盤として機能する強固なシステムを提供する。さらに、バリアコーティングを含むことの利点は、水分にさらされることに起因した化学的損傷、又は、カーボンナノチューブ成長を促進するために用いられる高温での熱的損傷から、繊維材料を保護するという点にもある。ある実施形態において、バリアコーティングは、カーボンナノチューブ浸出繊維材料が複合材料に組み込まれる前に除去される。一方、他の実施形態では、複合材料は、バリアコーティングが損なわれていないカーボンナノチューブ浸出繊維材料を含有してもよい。
【0041】
触媒ナノ粒子の付着後、ある実施形態では、化学蒸着(CVD)ベースのプロセスが用いられ、これにより、繊維材料上でカーボンナノチューブを連続的に成長させる。得られるカーボンナノチューブ浸出繊維材料は、それ自体が複合材料構造である。より概略的には、当業者に既知のあらゆる技術を用いてカーボンナノチューブを繊維材料に浸出させることができる。カーボンナノチューブ合成のための例示的な技術には、例えば、マイクロキャビティ(micro-cavity)、熱又はプラズマCVD法、レーザー・アブレーション、アーク放電、及び高圧一酸化炭素法(HiPCO)による合成が含まれる。ある実施形態において、CVD成長は、成長プロセス中に電界を提供することによりプラズマで支援され、これにより、カーボンナノチューブは電界方向に従う。
【0042】
本複合材料の繊維材料に浸出するカーボンナノチューブの種類は、通常、限定されることなく様々である。本明細書の様々な実施形態において、繊維材料上に浸出するカーボンナノチューブは、例えば、単層カーボンナノチューブ(SWNTs)、2層カーボンナノチューブ(DWNTs)、多層カーボンナノチューブ(MWNTs)及びこれらのあらゆる組み合わせなど、フラーレン族のうち円筒状をしたあらゆる炭素数の同素体であってよい。ある実施形態において、カーボンナノチューブはフラーレン様構造で閉塞される。換言すれば、このような実施形態では、カーボンナノチューブは閉塞端を有している。一方、他の実施形態では、カーボンナノチューブは端部が開口した状態である。ある実施形態において、カーボンナノチューブは他の物質を封入する。ある実施形態において、カーボンナノチューブは、繊維材料に浸出した後に共有結合的に機能化される(covalently functionalized)。機能化は、例えば、複合材料のマトリックス材に対するカーボンナノチューブの親和性を向上するために用いられる。ある実施形態において、プラズマプロセスは、カーボンナノチューブの機能化を促進するために用いられる。
【0043】
ある実施形態において、繊維材料に浸出するカーボンナノチューブは、繊維材料の長手軸に略垂直である。換言すれば、繊維材料に浸出するカーボンナノチューブは、繊維表面に対し、外方へ垂直である。他の実施形態において、繊維材料に浸出するカーボンナノチューブは、繊維材料の長手軸に対して略平行である。
【0044】
ある実施形態において、繊維材料に浸出したカーボンナノチューブは束になっておらず、これにより、繊維材料とカーボンナノチューブとの間の強力な結合を促進する。束になっていないカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブの有益な性質を本複合材料に表すようにする。他の実施形態では、繊維材料に浸出したカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブの合成中における成長密度を減少させることにより、高度に均一で、絡み合った(entangled)カーボンナノチューブのマット(mat)の形態で得られる。このような実施形態において、カーボンナノチューブは、繊維材料の長手軸に対して略垂直にカーボンナノチューブを配列するのに十分な密度では成長しない。
【0045】
ある実施形態において、繊維材料に浸出するカーボンナノチューブの量は、複合材料の少なくとも1つの性質が金属マトリックス単体又は繊維材料単体と比較して強化されるように選択される。このような性質には、例えば、引張強度、ヤング率、せん断強度、せん断弾性係数(shear modulus)、硬度(toughness)、圧縮強度、圧縮係数、密度、電磁波吸収率/反射率、音響透過率、電気伝導性及び熱伝導性が含まれる。また、複合材料におけるカーボンナノチューブの存在により、カーボンナノチューブのない同様の複合材料よりも、高い強度重量比を有する最終製品の複合材料をより軽量に提供することもできる。
【0046】
ある実施形態において、要求される性質の繊維材料、結果的には複合材料を得られるように、繊維材料には特定の種類のカーボンナノチューブを浸出させ得る。例えば、種類、キラリティ、直径、長さ及び密度の様々なカーボンナノチューブを繊維材料に浸出させることにより、複合材料の電気的性質を変更することができる。特に、関連する熱的性質は、例えば、カーボンナノチューブの長さを変えることにより対応可能である。
【0047】
電気伝導性又は特定の伝導性は、電流を伝導する材料の性能についての1つの尺度である。カーボンナノチューブは、そのキラリティに応じて、金属的、半金属的又は半導体的となり得る。カーボンナノチューブのキラリティを指定するために公認の命名法が当業者に受け入れられており、2つの指数(n,m)を用いて識別している(ここで、nとmは、六方晶系のグラファイトが管状構造に形成される場合、グラファイトの切断部及び巻き方を表す整数である)。例えば、m=nである場合、そのカーボンナノチューブは「アームチェア」型であるといわれる。このようなアームチェア型のカーボンナノチューブ、特に、単層カーボンナノチューブは、金属導体であり、非常に高い電気伝導性及び熱伝導性を有している。また、このような単層カーボンナノチューブは、非常に高い引張強度を有している。
【0048】
また、キラリティに加えてカーボンナノチューブの直径も、その電気伝導性と熱伝導性に関する性質とに影響を与える。カーボンナノチューブの合成において、カーボンナノチューブの直径は、一定サイズの触媒ナノ粒子を用いることにより制御可能である。カーボンナノチューブの直径は、通常、その形成に触媒作用を及ぼす触媒ナノ粒子の直径程度である。このため、カーボンナノチューブの性質は、例えば、カーボンナノチューブの合成に用いられる触媒ナノ粒子のサイズを調整することで、さらに制御される。限定しない例として、直径約1nmの触媒ナノ粒子を用いることにより、繊維材料に単層カーボンナノチューブが浸出する。より大きな触媒ナノ粒子は、主に、多層カーボンナノチューブを作製するために用いられるが、これは、その複数のナノチューブ層のために、あるいは、単層及び多層カーボンナノチューブの混合のために、より大きな直径を有する。多層カーボンナノチューブは、通常、電流を不均一に再分配する個々のナノチューブ層の間における層間反応のために、単層カーボンナノチューブよりも複雑な導電率プロファイル(conductivity profile)を有する。一方、単層カーボンナノチューブの異なる部分を通る電流は変化しない。
【0049】
複合材料における繊維材料の間隔は、およそ1繊維の直径よりも大きいか、又はそれと等しい(例えば、約5μmから約50μm)ため、この長さの少なくとも約半分のカーボンナノチューブが、複合材料における電気伝導性のパーコレーション経路を確立するために用いられる。このようなカーボンナノチューブの長さにより、隣接繊維間をカーボンナノチューブとカーボンナノチューブとで橋渡しすることで、電気伝導性のパーコレーション経路が確立される。繊維材料の直径と複合材料における繊維材料の間隔とに応じてカーボンナノチューブの長さは調節され、結果的に、電気伝導性のパーコレーション経路が確立される。電気伝導性のパーコレーション経路を確立することが要求されない、又は必要とされない用途において、繊維の直径よりも長さの短いカーボンナノチューブを用いて構造的な性質を強化することができる。ある実施形態において、繊維材料に浸出するカーボンナノチューブの長さは、カーボンナノチューブ合成中に、炭素含有原料ガスの流量及び圧力、キャリアガスの流量及び圧力、反応温度及びカーボンナノチューブ成長条件への曝露時間の各値を調節することにより制御可能である。
【0050】
本複合材料のある実施形態において、同一の連続繊維材料のうち異なる部分で様々な長さを有するカーボンナノチューブが用いられる。このような場合、カーボンナノチューブが浸出した繊維材料は、金属マトリックスの1以上の性質を強化することができる。例えば、所定の複合材料において、せん断強度又は他の構造的性質を強化するために、均一に短いカーボンナノチューブを浸出させた繊維材料の第1部分と、電気的又は熱的性質を強化するために、均一に長いカーボンナノチューブを浸出させた繊維材料の第2部分と、を有することが望ましい。
【0051】
ある実施形態において、繊維材料に浸出したカーボンナノチューブは、概して長さが均一である。ある実施形態において、浸出したカーボンナノチューブの平均長さは、約1μmから約500μmであり、約1μm、約2μm、約3μm、約4μm、約5μm、約6μm、約7μm、約8μm、約9μm、約10μm、約15μm、約20μm、約25μm、約30μm、約35μm、約40μm、約45μm、約50μm、約60μm、約70μm、約80μm、約90μm、約100μm、約150μm、約200μm、約250μm、約300μm、約350μm、約400μm、約450μm、約500μmや、これらの全中間値及び端数が含まれる。ある実施形態において、浸出したカーボンナノチューブの平均長さは、例えば、約0.5μmなど約1μm未満であり、これらの全中間値及び端数が含まれる。ある実施形態において、浸出したカーボンナノチューブの平均長さは、約1μmから約10μmであり、例えば、約1μm、約2μm、約3μm、約4μm、約5μm、約6μm、約7μm、約8μm、約9μm、約10μmや、これらの全中間値及び端数が含まれる。また他の実施形態において、浸出したカーボンナノチューブの平均長さは約500μmよりも大きく、例えば、約510μm、約520μm、約550μm、約600μm、約700μmや、これらの全中間値及び端数が含まれる。様々な実施形態において、浸出したカーボンナノチューブの平均長さは、例えば、カーボンナノチューブ成長条件に対する曝露時間、成長温度、並びに、カーボンナノチューブの合成中に用いられる炭素含有原料ガス(例えば、アセチレン、エチレン又はエタノール)とキャリアガス(例えば、ヘリウム、アルゴン又は窒素)の流量及び圧力により影響を受ける。炭素含有原料ガスは、通常、カーボンナノチューブの合成中に全反応容積の約0.1%から約15%の範囲で供給される。
【0052】
ある実施形態において、浸出したカーボンナノチューブの平均長さは、約1μmから約10μmである。このような長さを有するカーボンナノチューブは、例えば、せん断強度を向上させる用途に有用である。他の実施形態において、浸出したカーボンナノチューブの平均長さは、約5μmから約70μmである。このような長さを有するカーボンナノチューブは、例えば、引張強度向上などの用途、特に、カーボンナノチューブが繊維方向に配列された場合に有用である。また他の実施形態において、カーボンナノチューブの平均長さは、約10μmから約100μmである。このような長さを有するカーボンナノチューブは、例えば、機械的性質に加えて、電気的及び熱的な伝導性も向上させるのに有用である。ある実施形態において、カーボンナノチューブの平均長さは、約100μmから約500μmである。このような長さを有するカーボンナノチューブは、例えば、電気的及び熱的な伝導性を向上させるために特に有益である。
【0053】
ある実施形態において、カーボンナノチューブの平均長さは、カーボンナノチューブがない複合材料に対して、複合材料の熱膨張係数を約4分の1以下まで減少させるのに十分な長さである。ある実施形態において、カーボンナノチューブの平均長さは、カーボンナノチューブがない複合材料に対して、複合材料の剛性及び磨耗性を約3倍以上まで向上させるのに十分な長さである。ある実施形態において、カーボンナノチューブの平均長さは、複合材料における電気的伝導経路を確立するのに十分な長さである。ある実施形態において、カーボンナノチューブの平均長さは、複合材料における熱的な伝導経路を確立するのに十分な長さである。
【0054】
繊維材料上のカーボンナノチューブ密度の均一性に関して、ある実施形態では、繊維材料に浸出したカーボンナノチューブは、通常、密度分布が均一である。前述で定義したように、密度分布の誤差は、カーボンナノチューブが浸出する繊維材料の表面積全体で±約10%である。限定しない例として、この誤差は、直径8nmの5層カーボンナノチューブで、1平方マイクロメートル当たり±約1500のカーボンナノチューブに相当する。このような形状ではカーボンナノチューブの内部空間を充填可能と仮定している。ある実施形態において、繊維材料のパーセント被覆率(すなわち、カーボンナノチューブで被覆される繊維材料の表面積の百分率)として表されるカーボンナノチューブ密度の最大値は、再び直径8nmの5層カーボンナノチューブにおいて内部空間を充填可能と仮定すると、約55%にもなる。55%の表面積被覆率は、前述の寸法を有するカーボンナノチューブに関して、1平方マイクロメートル当たり最大約15,000のカーボンナノチューブに相当する。ある実施形態において、被覆の密度は、1平方マイクロメートル当たり最大約15,000のカーボンナノチューブである。当業者であれば、繊維材料表面上における触媒ナノ粒子の配置、カーボンナノチューブの成長条件に対する曝露時間、及び、繊維材料に対するカーボンナノチューブの浸出に用いられる実際の成長条件自体を変えることにより、幅広いカーボンナノチューブ密度が得られることを認識できる。前述のように、カーボンナノチューブの分布密度が高くなるとともに長さが短くなるにつれて、通常、機械的性質(例えば、引張強度)の向上について有用性が高まる一方、カーボンナノチューブの分布密度が低くなるとともに長さが長くなるにつれて、通常、熱的及び電気的性質の向上について有用性が高まる。しかしながら、増大した分布密度は、長いカーボンナノチューブが存在する場合であっても依然として有益である。
【0055】
引張強度には、3つの異なる測定値、すなわち、1)材料のひずみが弾性変形から塑性変形(その結果、材料の不可逆的な変形が生じる)に変化する応力を評価する降伏強度、2)引張荷重、圧縮荷重又はせん断荷重を受けたとき、材料が耐え得る最大応力を評価する終局強度、及び3)破断点における応力−ひずみ線図上での応力の座標を評価する破壊強度、が含まれる。せん断強度は、繊維方向に垂直に荷重が印加された場合に材料が破断する応力を評価する。圧縮強度は、圧縮荷重が印加された場合(すなわち、繊維方向に平行に荷重が印加される)に、材料が破断する応力を評価する。
【0056】
多層カーボンナノチューブは、特に、約63GPaの引張強度を達成し、これまでに測定されたあらゆる材料の中で、最も高い引張強度を有する。さらに、理論計算によれば、あるカーボンナノチューブに関して、最大約300GPaの引張強度も可能であることが示されている。本複合材料における引張強度の増加は、正確にはカーボンナノチューブの性質、さらには、繊維材料に浸出したときのカーボンナノチューブの密度及び分布による。例えば、カーボンナノチューブ浸出繊維材料では、元となる繊維材料に対して引張強度が2〜3倍以上も増加することが示されている。同じく、例示的なカーボンナノチューブ浸出繊維材料は、元となる繊維材料に対して最大で3倍以上のせん断強度と、最大で2.5倍以上の圧縮強度と、を有している。繊維材料のこのような強度増加は、カーボンナノチューブ浸出繊維材料が分布する複合材料に与えられる。
【0057】
ある実施形態において、浸出したカーボンナノチューブを含有する繊維材料は、金属マトリックスに均一に分布する。換言すれば、カーボンナノチューブの浸出した繊維材料は、金属マトリックス中に均質的に(homogeneously)分布する。ある実施形態において、繊維材料は、金属マトリックスでランダムに配向される。このような場合、複合材料の性質は等方的に強化される。他の実施形態において、繊維材料は、金属マトリックス中で配列され、あるいは配向される。このような場合、複合材料の性質は異方的に強化される。ある実施形態において、繊維材料は、金属マトリックス中で均一に分布するとともに配列される。他の実施形態において、繊維材料は、金属マトリックス中でランダムかつ均一に分布する。
【0058】
ある実施形態において、繊維材料は、これに浸出する2以上の異なる長さのカーボンナノチューブを有する。このような実施形態においても、繊維材料は、ランダムに分布しているか、配列されるか、あるいは何らかの方法で配向されてよい。前述のように、様々な長さのカーボンナノチューブは、同一の繊維材料の異なる部分に浸出し、複合材料に異なる性質の強化をもたらすために用いられる。
【0059】
別の実施形態において、長さの異なるカーボンナノチューブは、2以上の異なる繊維材料に浸出し、その後、それぞれが複合材料に均一に分布する。このような繊維材料も、複合材料に異なる性質の強化をもたらす。したがって、第1の長さを有するカーボンナノチューブは第1の繊維材料に浸出し、第2の長さを有するカーボンナノチューブは第2の繊維材料に浸出し、これにより複合材料に異なる性質の強化をもたらす。2種類以上の繊維材料が用いられる場合にも、ランダム分布であるか、配列されるか、あるいは何らかの方法で配向されてよい。本明細書において後述されるように、浸出したカーボンナノチューブを含有する1つ、2つ又はそれ以上の繊維材料について、分布が不均一であってもよい。
【0060】
他の実施形態において、繊維材料は、金属マトリックス中で不均一に分布する。換言すれば、カーボンナノチューブ浸出繊維材料は、金属マトリックス中に不均質に(heterogeneously)分布する。ある実施形態において、不均一な分布は、金属マトリックス中における勾配分布(gradient distribution)である。ある実施形態において、金属マトリックスの第1部分には、カーボンナノチューブ浸出繊維材料が含まれ、金属マトリックスの第2部分には、カーボンナノチューブ浸出繊維材料が全く含まれない。後者の実施形態の限定しない例として、本開示の金属マトリックスの複合材料は、金属マトリックスの表面近傍に繊維材料を含んだだけで、その最外領域が選択的に強化される。
【0061】
不均一に分布するカーボンナノチューブ浸出繊維材料を含む実施形態において、カーボンナノチューブ浸出繊維材料を用いて、複合材料の特定の部分にのみ強化された性質が選択的に与えられる。限定しない例として、カーボンナノチューブ浸出繊維材料を表面近傍にのみ有する複合材料は、表面の熱伝導性(heat transfer properties)を強化するために、又は表面に耐衝撃性(impact resistance)を与えるために用いられる。別の実施形態において、長さの異なるカーボンナノチューブが2種類以上の繊維材料に浸出し、そしてこれら繊維材料は複合材料中に不均一に分布する。例えば、長さの異なるカーボンナノチューブが浸出した繊維材料は、複合材料の異なる部分に分布する。このような実施形態において、長さの異なる繊維材料は、それらが分布する複合材料の部分を別々に強化する。限定しない例として、耐衝撃性を向上させるのに十分な長さのカーボンナノチューブは、繊維材料に浸出して複合材料の表面近傍に分布し、電気伝導性のパーコレーション経路を確立するために十分な長さのカーボンナノチューブは、繊維材料に浸出して複合材料の別の領域に分布する。性質強化の他の組み合わせは、本開示を考慮すれば、当業者により想定可能である。カーボンナノチューブ浸出繊維材料が複合材料に均一に分布する場合のように、繊維材料の配置は、不均一分布の場合においても、ランダムであるか、配列されるか、あるいは、何らかの方法で配向されてもよい。
【0062】
ある実施形態において、複合材料には、複合材料には、金属マトリックス、第1のカーボンナノチューブ浸出繊維材料、及び第2のカーボンナノチューブ浸出繊維材料が含まれる。第1のカーボンナノチューブ浸出繊維材料、及び、第2のカーボンナノチューブ浸出繊維材料は、夫々、金属マトリックスのうち、第1領域及び第2領域に分布する。第1のカーボンナノチューブ浸出繊維材料におけるカーボンナノチューブの平均長さ、及び、第2のカーボンナノチューブ浸出繊維材料におけるカーボンナノチューブの平均長さは、金属マトリックスの第1領域と金属マトリックスの第2領域とが、機械的、電気的又は熱的性質を異にするように選択される。金属マトリックスは、少なくとも1つの金属を含む。
【0063】
ある実施形態において、第1のカーボンナノチューブ浸出繊維材料と第2のカーボンナノチューブ浸出繊維材料とでは、繊維材料が同一である。例えば、ある実施形態において、第1のカーボンナノチューブ浸出繊維材料と第2のカーボンナノチューブ浸出繊維材料とでは、いずれも、炭素繊維であるか、又は、本明細書に記載される他のあらゆる繊維材料である。他の実施形態において、第1のカーボンナノチューブ浸出繊維材料と第2のカーボンナノチューブ浸出繊維材料とでは、繊維材料が異なる。ある実施形態において、第1のカーボンナノチューブ浸出繊維材料と第2のカーボンナノチューブ浸出繊維材料の少なくとも一方には、少なくともカーボンナノチューブ浸出繊維材料をオーバーコート(overcoat)する保護層も含まれる。このような保護層のさらなる詳細については、以下の本明細書においてより詳しく考察される。
【0064】
本明細書に記載される複合材料を形成する上で、多種多様な金属マトリックスが用いられる。ある実施形態において、金属マトリックスには、少なくとも1つの金属(例えば、アルミニウム、マグネシウム、銅、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、銀、金、チタン、及びこれらの混合物など)が含まれる。金属混合物のマトリックスは、金属合金であってよい。限定しない例として、例示的な金属合金はニッケル−コバルト合金である。他の実施形態において、少なくとも1つの金属を含有する混合物は、共晶物質であってよい。
【0065】
ある場合には、金属マトリックスはカーボンナノチューブ浸出繊維材料と反応する可能性がある。このような場合、金属マトリックスとカーボンナノチューブ浸出繊維材料との反応生成物は、複合材料に有害な影響を与える可能性がある。例えば、アルミニウムマトリックスについては、炭化アルミニウムが生じることがあるが、これは複合材料の機械的強度に有害な影響を及ぼし得る脆性材料である。金属マトリックスとカーボンナノチューブ浸出繊維材料との潜在的な反応性ゆえに、本明細書に記載される実施形態の中には、金属マトリックスとカーボンナノチューブ浸出繊維材料との親和性(compatibility)を向上させる少なくとも1つの添加剤を金属マトリックス中に含むものがある。ある実施形態において、親和性の改善により、金属マトリックスとカーボンナノチューブ浸出繊維材料との間の界面(interface)で反応生成物がもたらされる。金属マトリックスとカーボンナノチューブ浸出繊維材料との反応生成物とは異なり、少なくとも1つの添加剤と金属マトリックスとの反応生成物は、複合材料の性質を良好に向上させる。ある実施形態において、金属マトリックスと少なくとも1つの添加剤との反応生成物は、単に金属マトリックスとカーボンナノチューブ浸出繊維材料との間の物理的相互作用を向上させるだけである。他の実施形態において、金属マトリックスと少なくとも1つの添加剤との反応生成物は、金属マトリックスとカーボンナノチューブ浸出繊維材料との間で、結果的に共有結合を形成する。
【0066】
ある実施形態において、少なくとも1つの添加剤は、カーボンナノチューブ浸出繊維材料のカーボンナノチューブと反応して、これにより、金属マトリックスとカーボンナノチューブ浸出繊維材料との界面において、炭化生成物(carbide product)を形成する。その炭化生成物は、金属マトリックスの少なくとも1つの添加剤を含有しない。アルミニウムについては、アルミニウムマトリックスに添加剤として少量のケイ素を含めば、アルミニウムマトリックスとカーボンナノチューブ浸出繊維材料との間の界面において炭化ケイ素を形成し、好ましくない炭化アルミニウムの形成を回避するのに十分である。ある実施形態において、炭化生成物は炭化ケイ素である。ある実施形態において、金属マトリックスはアルミニウムを含有し、また、少なくとも1つの添加剤はケイ素を含有する。金属マトリックスと添加剤との他の組み合わせは、当業者により想起可能であり、本実施形態は限定するものと考えられるべきではない。
【0067】
金属マトリックスとカーボンナノチューブ浸出繊維材料との間の親和性の改善は、金属マトリックスへの少なくとも1つの添加剤の添加と組み合わせる、あるいは、添加剤の添加に代わる、他の手段により達成できる。例えば、ある実施形態において、本複合材料には、少なくともカーボンナノチューブ浸出繊維材料をオーバーコートする保護層も含まれる。また、ある実施形態において、保護層は、繊維材料に浸出したカーボンナノチューブもオーバーコートする。前述のように、複合材料を形成するために用いられる条件下では、繊維材料又はこれに浸出するカーボンナノチューブは、金属マトリックスと反応を起こす可能性がある。カーボンナノチューブ浸出繊維材料に保護層を組み込むことにより、繊維材料又はカーボンナノチューブの好ましくない反応を除去し、あるいは実質的に減少させる。このような保護層は,カーボンナノチューブ浸出繊維材料の反応を排除し、あるいは実質的に最小限に抑える点で、金属マトリックスに対する少なくとも1つの添加剤の添加と区別しやすい。対照的に、金属マトリックスの少なくとも1つの添加剤は、特に、このような反応を促進するために添加される。
【0068】
様々な保護層及びその付着方法が、本明細書に記載されるカーボンナノチューブ浸出繊維材料のオーバーコートに適している。一般に、従来のバリアコーティングのあらゆるものも、カーボンナノチューブの不要な化学反応を防止する保護層として用いられる。従来のバリアコーティングには、前述のサイジング剤、又は、より一般的に、シリカ及びアルミナをベースにした繊維材料用コーティングが含まれる。ある実施形態において、例示的な保護層には、例えば、ニッケル及び二ホウ化チタンが含まれる。また、適合し得る別の保護層には、クロム、マグネシウム、チタン、銀及びスズが含まれる。ある実施形態において、保護層は、例えば、電気めっき又は化学蒸着などの技術により、カーボンナノチューブ浸出繊維材料上に付着する。例えば、保護層は、電気めっき技術により付着した、無電解ニッケル又はニッケル合金であってよい。ある実施形態において、保護層は約1nmから約10μmの厚さを有する。
【0069】
カーボンナノチューブ浸出繊維材料は、複合材料の形成中、金属マトリックスと反応を起こす可能性があり、また、このような反応は、通常、不要であると考えられているが、ある実施形態では、このような反応を、複合材料の性質を有効に強化するために用いる。例えば、有害な反応生成物が生成されなければ、金属マトリックスとカーボンナノチューブ浸出繊維材料との間の反応が、これらの間で共有結合を形成し、両者間の相互作用を向上させることができる。
【0070】
ある実施形態において、カーボンナノチューブが繊維材料に浸出することは、例えば、水分、酸化、剥離(abrasion)又は圧縮から繊維材料を保護するサイジング剤としてなど、更なる目的にも適う。また、カーボンナノチューブをベースにしたサイジング剤は、複合材料において、繊維材料と金属マトリックスとの間の界面としての機能も果たす。このようなカーボンナノチューブをベースにしたサイジング剤は、従来のサイジング剤に代えて、又は従来のサイジング剤に加えて繊維材料に適用される。従来のサイジング剤は、種類及び機能が大きく異なり、例えば、界面活性剤、静電気防止剤、潤滑剤、シロキサン、アルコキシシラン、アミノシラン、シラン、シラノール、ポリビニルアルコール、でんぷん及びこれらの混合物を含む。このような従来のサイジング剤は、存在する場合、カーボンナノチューブ自体を保護し、あるいは、カーボンナノチューブ単独では与えられない、繊維材料に対するさらなる性質強化を提供する。ある実施形態において、従来のサイジング剤は、カーボンナノチューブの浸出前に繊維材料から除去してもよい。前述のように、繊維材料に浸出するカーボンナノチューブは、繊維材料に直接的に結合するか、あるいは触媒ナノ粒子又はバリアコーティング(これらは、ある実施形態において、従来のサイジング剤とすることができる)を通して間接的に結合する。
【0071】
カーボンナノチューブ浸出繊維材料の形成後、金属マトリックス及びカーボンナノチューブ浸出繊維材料を含有する複合材料は、例えば、鋳造、スクイズ鋳造(squeeze casting)、ホットプレス(hot pressing)、溶融金属浸透法(liquid metal infiltration)、溶融紡糸(melt spinning)、溶射堆積(thermal spray deposition)、電気めっき(electrodeposition)、無電解析出(electroless deposition)、摩擦溶接(friction welding)、蒸着(vapor deposition)、スパッタリング、及び粉末冶金など、当業者に既知のあらゆる方法を用いても形成可能である。
【0072】
当業者であれば、複合材料は、通常、約60%の繊維材料と、約40%のマトリックス材と、を用いることを認識できる。この比率は、例えば、浸出したカーボンナノチューブなど、第3の要素の導入に伴って、変更することができる。例えば、最大で約25重量%のカーボンナノチューブを添加することで、繊維材料は約5重量%と約75重量%との間で変動し、金属マトリックスは約25重量%と約95重量%との間で変動する。前述のように、カーボンナノチューブの担持量の百分率は、要求される種類の性質を強化するために変動し得る。カーボンナノチューブの担持量の百分率は、例えば、繊維材料に浸出するカーボンナノチューブの密度を変化させるか、繊維材料の量を変化させるか、又は、繊維材料に浸出するカーボンナノチューブの長さを変化させることにより変動可能である。
【0073】
ある実施形態において、繊維材料のうちカーボンナノチューブの重量百分率は、カーボンナノチューブの平均長さにより決定される。ある実施形態又は他の実施形態において、繊維材料のうちカーボンナノチューブの重量百分率は、繊維材料に浸出するカーボンナノチューブの被覆密度(density of coverage)により更に決定される。例示的な実施形態において、約5重量%未満のカーボンナノチューブ担持量は機械的性質の強化に十分であるが、電気的及び熱的伝導性の強化のためには、カーボンナノチューブの担持量は、通常、約5重量%よりも大きいことが好ましい。ある実施形態において、本明細書に記載される複合材料は、最大で約10重量%のカーボンナノチューブを含有する。ある実施形態において、複合材料のうち、カーボンナノチューブは、約0.1重量%から約10重量%である。ある実施形態において、繊維材料は、最大で約40重量%のカーボンナノチューブを含有する。ある実施形態において、カーボンナノチューブ浸出繊維材料のうち、カーボンナノチューブは、約0.5重量%から約40重量%である。前述を考慮すると、本複合材料は、本明細書に示された開示の精神及び範囲内になお属しつつ、非常に様々な組成を有する。
【0074】
用途に応じて、本複合材料は、連続繊維、短繊維(chopped fiber)又はこれらの組み合わせのいずれかの形態をした繊維材料を用いて形成される。ある実施形態において、繊維材料は短繊維の形態である。短繊維の場合、本明細書、及び同時係属中である出願人の特許出願に記載されるように、連続繊維にカーボンナノチューブを浸出させ、その後、当業者に既知の方法によりより小さなセグメント(segments)に切断される。ある実施形態において、連続繊維は、個々に、あるいは、本明細書で後述される織り繊維(woven fibers)又は不織繊維(non-woven fibers)のあらゆる配列のいずれかで、直接複合材料に分布する。ある実施形態において、繊維材料は、巻き取り可能な寸法を有する。
【0075】
金属マトリックス及びカーボンナノチューブ浸出繊維材料を含有する複合材料には潜在的な用途が多数ある。ある実施形態において、金属マトリックス及びカーボンナノチューブ浸出繊維材料を含有する複合材料を含む製品が、本明細書に記載される。
【0076】
また、カーボンナノチューブの浸出した伝導性の炭素繊維は超伝導用電極の製造に用いられる。超伝導繊維の生成では、繊維材料と超伝導層の熱膨張係数を異にすることが少なくとも一部の原因となり、繊維材料に対する超伝導層の十分な接着性を実現することが困難となり得る。このような接着性は、カーボンナノチューブ浸出繊維材料を含有する本複合材料を含む金属導体で実現可能である。当該技術分野における別の問題は、CVDプロセスによる繊維材料のコーティング中に発生する。例えば、反応ガス(例えば、水素ガス又はアンモニアなど)は、繊維表面を攻撃し、あるいは繊維表面上に有害な炭化水素化合物を形成して、超伝導層の良好な接着をより困難にする。カーボンナノチューブ浸出炭素繊維材料は、当該技術分野におけるこれらの課題を解消する。
【0077】
前述のように、カーボンナノチューブ浸出繊維材料を有する複合材料は、カーボンナノチューブの存在に起因して、耐摩耗性の向上を示す。金属マトリックス及びカーボンナノチューブ浸出繊維材料を含有する複合材料の存在が有効となり得る製品には、限定するものではないが、ブレーキローター、自動車のドライブシャフト、工具、ベアリング、航空機部品、並びに自転車のフレームが含まれる。
【0078】
カーボンナノチューブの有効表面積が大きいことにより、本複合材料が、水のろ過用途や他の抽出プロセス(例えば、水からの有機油の分離など)に適したものとなる。また、カーボンナノチューブ浸出繊維材料を含有する複合材料は、地下水面、水貯蔵施設、又は家庭若しくは職場用のインラインフィルタから有機毒を除去するためにも用いられる。
【0079】
油田技術において、本複合材料は、例えば、パイプベアリング、配管補強材及びゴム製Oリングなどの掘削装置の製造に有用である。また、前述したように、カーボンナノチューブの浸出した繊維は、地層から有益な石油埋蔵物を採取するために油田にも適用可能な抽出プロセスに用いられる。例えば、本複合材料は、大量の水又は砂が存在する地層から石油を抽出するために、又は、高沸点のため別の方法では分離が困難となる重油を抽出するために用いられる。例えば、有孔配管システムと併せて、有孔配管にオーバーコートされる本複合材料による前記重油のウィッキング(wicking)が、真空システム(vacuum system)などと動作可能に連動して、これにより、重油層又はオイルシェール層から高沸点留分を連続的に取り除くことが可能である。さらに、このようなプロセスは、当該技術分野において既知の従来の熱クラッキング法又は触媒クラッキング(catalyzed cracking)法と併せて、あるいは、これらに代えて用いられ得る。
【0080】
また、本複合材料は、航空宇宙用途及び飛行物体用途において構造的な構成要素を強化する。例えば、ミサイルのノーズコーン、航空機の翼端、主要航空構造部品(例えば、フラップ、エアロフォイル、プロペラ及びエアブレーキ、小型飛行機の胴体、ヘリコプターのシェル(shell)及びローターブレード)、補助的航空構造部品(例えば、フロアー、ドア、シート、空調装置及び補助タンク)並びに航空機の動力装置部品などの構造体にとって、カーボンナノチューブ浸出繊維材料を含有した本複合材料により提供される構造的な強化は有益である。他の多くの用途において強化される構造体には、例えば、掃海艇の船体、ヘルメット、レードーム(radome)、ロケット・ノズル、担架及びエンジン構成部品が含まれる。建造物及び建築物において、外観上の特徴上、強化される構造体には、例えば、柱、ペディメント(pediments)、ドーム、コーニス(cornices)及び型枠(formwork)が含まれる。同様に、建造物内部の強化には、例えば、ブラインド、衛生陶器、窓枠などが含まれる。
【0081】
海洋産業において、強化される構造体には、ボートの船体、ストリンガー(stringer)、マスト、プロペラ、舵及び甲板が含まれる。また、本複合材料は、大規模運輸業において、例えば、トレーラー壁面の大型パネル、鉄道車両の床板、トラックの運転室、車体外部鋳造品(exterior body molding)、バスの車体、及び貨物コンテナにも用いられる。自動車用途において、複合材料は、内部部品(例えば、トリミング(trimming)、シート及び計器盤)、外部構造体(例えば、車体パネル、開口部、車体底面部、並びに、フロント及びリアモジュール)、並びに、エンジンルーム及び燃料機械エリアの部品(例えば、アクスル及びサスペンション、燃料及び排気システム、並びに、電気的及び電子的な構成部品)に用いられる。
【0082】
本複合材料の他の用途には、橋梁構造物、強化コンクリート製品(例えば、ダウエルバー、鉄筋、ポストテンション(post-tension)及びプレストレス(pre-stress)テンドン)、定置の骨組み(stay-in-place framework)、電力送電及び配電構造体(例えば、電柱、送電塔及び腕金)、幹線道路の安全装置及び沿道機能(例えば、標識支柱、ガードレール、標柱及び支柱)、遮音壁、導管及び貯蔵タンクが含まれる。
【0083】
また、本複合材料は、例えば、水上及び雪上スキー、自転車、カヤック、カヌーとそのパドル、スノーボード、ゴルフクラブのシャフト、ゴルフ用手押しカート、釣竿並びにスイミングプールなどの様々なレジャー用具(equipment)にも用いられる。他の消費財及び事務機器には、例えば、歯車、鍋(housing)、ガス耐圧瓶、及び家庭用電化製品(例えば、洗濯機、皿洗い機ドラム、ドライヤー、ごみ処理機、空調装置及び加湿器)が含まれる。
【0084】
また、カーボンナノチューブ浸出繊維材料の電気的性質は、様々なエネルギー及び電気的用途にも影響を及ぼす。例えば、本複合材料は、風力タービンブレード、太陽光を利用する構造体(solar structures)、電子回路の筐体(例えば、ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話及びコンピュータ・キャビネットであり、これらにおいて、浸出したカーボンナノチューブは、EMI遮蔽に利用される)に用いられる。他の用途には、電力線、冷却機、照明用ポール、回路基板、配電盤、ラダーレール(ladder rails)、光ファイバー、データ回線やコンピュータ端子箱などの建造物に組み込まれた電源(power)、及び事務機器(例えば、コピー機、キャッシュレジスター及び郵便機器)が含まれる。
【0085】
他の様々な実施形態において、金属マトリックス及びカーボンナノチューブ浸出繊維材料を含有する複合材料を製造するための方法が本明細書に記載される。ある実施形態において、本方法には、カーボンナノチューブ浸出繊維材料を提供すること、及びカーボンナノチューブ浸出繊維材料を金属マトリックスに組み込むこと、が含まれる。
【0086】
ある実施形態において、金属マトリックスに対するカーボンナノチューブ浸出繊維材料の組み込みは、例えば、鋳造、スクイズ鋳造、ホットプレス、溶融金属浸透法、溶融紡糸、溶射堆積、電気めっき、無電解析出、摩擦溶接、蒸着、スパッタリング、及び粉末冶金などの技術により行われる。本方法の様々な実施形態において、金属マトリックスは、これにカーボンナノチューブ浸出繊維材料が組み込まれるとき、液体状態である。ある実施形態において、本方法には、金属マトリックスにカーボンナノチューブ浸出繊維を組み込んだ後、金属マトリックスを固体化することが更に含まれる。
【0087】
ある実施形態において、本方法の金属マトリックスは、例えば、アルミニウム、マグネシウム、銅、コバルト、ニッケル、及びこれらの混合物であってよい。ある実施形態において、金属マトリックスには、金属マトリックスとカーボンナノチューブ浸出繊維材料との親和性を向上する少なくとも1つの添加剤が更に含まれる。ある実施形態において、その少なくとも1つの添加剤は、カーボンナノチューブ浸出繊維材料のカーボンナノチューブと反応し、これにより、金属マトリックスとカーボンナノチューブ浸出繊維材料との界面に炭化生成物を形成する。前述のように、このような実施形態において、炭化生成物は、金属マトリックスの少なくとも1つの金属を含有しない。
【0088】
ある実施形態において、本方法には、カーボンナノチューブ浸出繊維材料の少なくとも一部を保護層でオーバーコートすることが更に含まれる。ある実施形態において、保護層でカーボンナノチューブもオーバーコートされる。ある実施形態において、保護層は、例えば、電気めっき又は化学蒸着などの技術により付着する。例示的な保護層には、例えば、ニッケル、二ホウ化チタン、クロム、マグネシウム、チタン、銀及びスズが含まれる。通常、従来のバリアコーティングのいずれも(例えば、シリカ及びアルミナをベースにしたコーティングなどのサイジング剤を含めて)保護層として用いられる。
【0089】
ある実施形態において、本方法には、複合材料を高密度化する(densify)ことが更に含まれる。例示的な高密度化の方法は当業者に既知であり、例えば、圧縮、焼結、及び電流活性化圧力(current-activated pressure)による高密度化が含まれる。高密度化は、本複合材料の装甲用途にとって、その耐衝撃性を向上させるために特に有益である。
【0090】
本方法のある実施形態において、カーボンナノチューブ浸出繊維材料は、金属マトリックス中に均一に分布する。他の実施形態において、カーボンナノチューブ浸出繊維材料は、金属マトリックス中において不均一に分布する。ある実施形態において、不均一な分布は、金属マトリックス中における勾配分布である。
【0091】
ある実施形態において、カーボンナノチューブ浸出繊維材料には、第1の長さのカーボンナノチューブを有する第1のカーボンナノチューブ浸出繊維材料と、第2の長さのカーボンナノチューブを有する第2のカーボンナノチューブ浸出繊維材料と、が含まれる。第1のカーボンナノチューブ浸出繊維材料は、金属マトリックスの第1領域に組み込まれ、第2のカーボンナノチューブ浸出繊維材料は、金属マトリックスの第2領域に組み込まれる。前述のように、カーボンナノチューブ浸出繊維材料のこのような配列は、金属マトリックスの異なる領域に対して、構造的、電気的又は熱的に異なる性質を与えることができる。
【0092】
本方法のある実施形態において、繊維材料は短繊維である。他の実施形態において、繊維材料は連続繊維材料である。ある実施形態では、短繊維と連続繊維との混合物が本複合材料に用いられる。
【0093】
本明細書に開示された実施形態は、米国特許出願第12/611,073号、第12/611,101号及び第12/611,103号(各出願はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載された方法で容易に作製されるカーボンナノチューブ浸出繊維材料を提供する。
【0094】
繊維材料にカーボンナノチューブを浸出させるために、カーボンナノチューブは繊維材料上に直接合成される。これは、ある実施形態において、繊維材料上にカーボンナノチューブ形成触媒を最初に配置することで可能となる。この触媒付着の前に、いくつかの準備プロセスを行ってもよい。
【0095】
ある実施形態において、繊維材料をプラズマで任意に処理して、触媒を受け入れる表面を準備できる。例えば、プラズマで処理されたガラス繊維材料により、カーボンナノチューブ形成触媒が付着する粗面化されたガラス繊維表面がもたらされる。また、ある実施形態において、プラズマは、繊維表面を「浄化」する機能をも果たす。このように繊維表面を「粗面化(roughing)」するためのプラズマプロセスは、触媒の付着を容易にする。粗度は、通常、ナノメートルのスケールである。プラズマ処理プロセスにおいて、深さ及び直径がナノメートル単位のクレーター(crater)又はくぼみが形成される。このような表面改質は、限定するものではないが、アルゴン、ヘリウム、酸素、アンモニア、窒素及び水素など、種々異なる1以上のあらゆるガスのプラズマを用いても達成される。
【0096】
ある実施形態において、使用される繊維材料が、これに付随するサイジング剤を有する場合、このようなサイジング剤を、触媒の付着前に任意除去してもよい。任意的には、サイジング剤を触媒付着後に除去することもできる。ある実施形態において、サイジング剤の除去は、カーボンナノチューブの合成中、又は予熱工程におけるカーボンナノチューブの合成の直前に行われる。他の実施形態において、サイジング剤の中には、カーボンナノチューブ合成プロセスの全体にわたって残存するものがある。
【0097】
カーボンナノチューブ形成触媒の付着前、又はこれと同時におけるさらにもう1つの工程として、繊維材料に対するバリアコーティングの適用がある。バリアコーティングは、繊細な繊維材料(例えば、炭素繊維、有機繊維、金属繊維など)の健全性を保護するために設けられる材料である。このようなバリアコーティングには、例えば、アルコキシシラン、アルモキサン、アルミナナノ粒子、スピンオンガラス(spin on glass)及びガラスナノ粒子が含まれる。一実施形態において、カーボンナノチューブ形成触媒は、未硬化のバリアコーティング材に加えられて、その後、共に繊維材料に適用されてもよい。他の実施形態において、バリアコーティング材は、カーボンナノチューブ形成触媒の付着前に繊維材料に加えられる。このような実施形態において、バリアコーティングは、触媒の付着前に部分的に硬化してよい。バリアコーティング材は、後続のCVD成長のための炭素原料にカーボンナノチューブ形成触媒をさらすことが可能な程度に十分薄い厚さである。ある実施形態において、バリアコーティングの厚さは、カーボンナノチューブ形成触媒の有効径未満か、それとほぼ等しい。カーボンナノチューブ形成触媒及びバリアコーティングが適切に配置された時点で、バリアコーティングを十分に硬化させることができる。ある実施形態において、バリアコーティングの厚さは、触媒位置へのカーボンナノチューブ原料ガスのアクセスがまだ可能である限り、カーボンナノチューブ形成触媒の有効径よりも大きくてよい。このようなバリアコーティングは、カーボンナノチューブ形成触媒に対する炭素原料ガスのアクセスを可能にする程度に十分多孔質であってよい。
【0098】
理論に拘束されるものではないが、バリアコーティングは、繊維材料とカーボンナノチューブの中間層として機能し、また、繊維材料に対するカーボンナノチューブの機械的な浸出も支援する。このような機械的な浸出は、繊維材料がカーボンナノチューブを組織化するための基盤としてさらに機能する強固なシステムを提供し、そして、バリアコーティングを備えた機械的な浸出の利点は、本明細書で前述した間接型の結合と同様である。また、バリアコーティングを含むことの利点は、水分にさらされることに起因した化学的損傷、又は、カーボンナノチューブ成長を促進するために用いられる温度で繊維材料を加熱することに起因したあらゆる熱的損傷から、繊維材料を直接保護するという点にある。
【0099】
更に後述するように、カーボンナノチューブ形成触媒は、遷移金属ナノ粒子としてのカーボンナノチューブ形成触媒を含有する液体溶液として作製される。合成されたカーボンナノチューブの直径は、前述のように、遷移金属ナノ粒子の大きさに関係する。
【0100】
カーボンナノチューブの合成は、高温で生じる化学蒸着(CVD)プロセスに基づく。具体的な温度は触媒の選択に依存するが、通常は、約500℃〜1000℃の範囲である。したがって、カーボンナノチューブの合成には、前記範囲の温度まで繊維材料を加熱して、これによりカーボンナノチューブの成長を支援することが含まれる。
【0101】
そして、触媒を含んだ繊維材料上でCVDにより促進されるカーボンナノチューブ成長が行われる。CVDプロセスは、例えば、炭素含有原料ガス(アセチレン、エチレン又はエタノールなど)により進められる。カーボンナノチューブ合成プロセスでは、主要なキャリアガスとして、一般に、不活性ガス(窒素、アルゴン又はヘリウム)が用いられる。炭素含有原料ガスは、通常、混合物全体の約0%から約15%の範囲で供給される。CVD成長のための略不活性環境は、成長チャンバーから水分及び酸素を除去して準備される。
【0102】
カーボンナノチューブ合成プロセスにおいて、カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブを成長させる働きをする遷移金属触媒ナノ粒子の位置で成長する。強プラズマ励起電界の存在を任意に用いて、カーボンナノチューブの成長に影響を与えることができる。すなわち、成長は、電界方向に従う傾向がある。プラズマ・スプレー及び電界の配置(geometry)を適切に調節することにより、垂直配列の(すなわち、繊維材料の長手軸に対して垂直な)カーボンナノチューブを合成できる。一定の条件下では、プラズマがない場合であっても、密集したカーボンナノチューブは成長方向を略垂直に維持して、結果として、カーペット(carpet)又はフォレスト(forest)に似た高密度配列のカーボンナノチューブになる。
【0103】
繊維材料上に触媒ナノ粒子を配置する工程は、溶液のスプレー若しくは浸漬コーティングにより、又は、例えば、プラズマプロセスを介した気相蒸着により可能である。このように、ある実施形態では、溶媒に触媒を含んだ溶液を形成した後、その溶液で繊維材料をスプレー若しくは浸漬コーティングすることにより、又はスプレー及び浸漬コーティングの組み合わせにより、触媒が適用される。単独であるいは組み合わせて用いられるいずれか一方の手法は、1回、2回、3回、4回、あるいは何回でも使用され、これにより、カーボンナノチューブを形成する働きをする触媒ナノ粒子が十分均一にコーティングされた繊維材料を提供することができる。例えば、浸漬コーティングが使用される場合、繊維材料は、第1の浸漬槽において、第1の滞留時間、第1の浸漬槽内に置かれる。第2の浸漬槽を使用する場合、繊維材料は、第2の滞留時間、第2の浸漬槽内に置かれる。例えば、繊維材料は、浸漬の形態及びラインスピードに応じて約3秒〜約90秒の間、カーボンナノチューブ形成触媒の溶液にさらされる。スプレー又は浸漬コーティングを用いることにより、繊維材料は、触媒の表面密度が約5%未満から約80%もの表面被覆率で得られる。高表面密度(例えば、約80%)では、カーボンナノチューブ形成触媒ナノ粒子はほぼ単分子層である。ある実施形態において、繊維材料上にカーボンナノチューブ形成触媒をコーティングするプロセスは単分子層だけを生成する。例えば、積み重ねたカーボンナノチューブ形成触媒上におけるカーボンナノチューブの成長は、カーボンナノチューブが繊維材料へ浸出する程度を低下させることがある。他の実施形態において、遷移金属触媒ナノ粒子は、蒸着技術、電解析出技術、及び当業者に既知の他のプロセス(例えば、遷移金属触媒を、有機金属、金属塩又は気相輸送を促進する他の組成物として、プラズマ原料ガスへ添加することなど)を用いて繊維材料上に付着する。
【0104】
カーボンナノチューブ浸出繊維を製造するためのプロセスは連続的に設計されるため、巻き取り可能な繊維材料は、一連の槽で浸漬コーティングを施すことが可能である(この場合、浸漬コーティング槽は空間的に分離されている)。例えば、炉から新たに形成されたガラス繊維など、発生期の繊維が新たに生成されている連続プロセスにおいて、カーボンナノチューブ形成触媒の浸漬又はスプレーは、新たに形成された繊維材料を十分に冷却した後の第1段階となり得る。ある実施形態において、新たに形成されたガラス繊維の冷却は、カーボンナノチューブ形成触媒粒子を分散させた冷却水の噴流で実施される。
【0105】
ある実施形態では、連続プロセスにおいて、繊維を生成してこれにカーボンナノチューブを浸出させる場合に、サイジング剤の適用に代えてカーボンナノチューブ形成触媒の適用が行われる。他の実施形態において、カーボンナノチューブ形成触媒は、他のサイジング剤の存在下で新たに形成された繊維材料に適用される。このようなカーボンナノチューブ形成触媒及び他のサイジング剤の同時適用は、繊維材料と表面接触するカーボンナノチューブ形成触媒を供給してカーボンナノチューブの浸出を確実にすることができる。またさらなる実施形態において、繊維材料が、例えば、焼きなまし温度近傍又はそれ未満の十分に軟化した状態にある間、カーボンナノチューブ形成触媒をスプレー又は浸漬コーティングにより発生期の繊維に適用し、これにより、カーボンナノチューブ形成触媒が繊維材料の表面に僅かに埋め込まれる。例えば、高温のガラス繊維材料上にカーボンナノチューブ形成触媒を付着する場合、ナノ粒子が溶融して結果的にカーボンナノチューブの特性(例えば、直径)が制御不能とならないように、カーボンナノチューブ形成触媒の融点を超えないように配慮する必要がある。
【0106】
カーボンナノチューブ形成触媒溶液は、あらゆるdブロック遷移金属の遷移金属ナノ粒子溶液であってよい。また、ナノ粒子には、元素形態及び塩形態のdブロック金属からなる合金や非合金の混合物、並びにこれらの混合物が含まれる。このような塩形態には、限定するものではないが、酸化物、炭化物、窒化物、酢酸塩、硝酸塩などが含まれる。限定しない例示的な遷移金属ナノ粒子には、例えば、Ni、Fe、Co、Mo、Cu、Pt、Au及びAgと、これらの塩と、これらの混合物と、が含まれる。ある実施形態において、このようなカーボンナノチューブ形成触媒は、カーボンナノチューブ形成触媒を直接繊維材料に適用あるいは浸出させることにより、繊維材料上に配置される。多くのナノ粒子遷移金属触媒が、例えば、Ferrotec Corporation(Beford, NH)などの様々なサプライヤーから市販されており容易に入手できる。
【0107】
繊維材料にカーボンナノチューブ形成触媒を適用するために用いられる触媒溶液は、カーボンナノチューブ形成触媒が全域にわたって均一に分散可能ないかなる共通溶媒でもよい。このような溶媒には、限定するものではないが、水、アセトン、ヘキサン、イソプロピルアルコール、トルエン、エタノール、メタノール、テトラヒドロフラン(THF)、シクロヘキサン、又はカーボンナノチューブ形成触媒ナノ粒子の適切な分散系を形成するために極性が制御された他のいかなる溶媒も含まれる。触媒溶液中におけるカーボンナノチューブ形成触媒の濃度は、触媒対溶媒で、およそ1:1から1:10000の範囲内である。
【0108】
ある実施形態において、繊維材料にカーボンナノチューブ形成触媒を適用した後、繊維材料は軟化温度まで任意に加熱される。この工程は、繊維材料の表面にカーボンナノチューブ形成触媒を埋め込むのに役立ち、これにより、種結晶成長(seeded growth)を促して、成長するカーボンナノチューブの先端に触媒が浮き上がる(float)先端成長を阻止することが可能である。実施形態の中には、繊維材料上にカーボンナノチューブ形成触媒を付着した後、繊維材料が約500℃から約1000℃までの温度で加熱されるものがある。カーボンナノチューブの成長のために用いられるこのような温度への加熱は、繊維材料上の既存のサイジング剤を除去する役割を果たして、繊維材料上にカーボンナノチューブ形成触媒を直接付着させることを可能にする。また、ある実施形態では、カーボンナノチューブ形成触媒は、加熱前に、サイジング剤のコーティング表面上に置かれてもよい。加熱工程は、カーボンナノチューブ形成触媒を繊維材料表面上に配置したままにしながら、サイジング剤を除去するために用いられる。この温度での加熱は、カーボンナノチューブ成長のための炭素原料ガスの導入前に、又はこれと略同時に行われる。
【0109】
ある実施形態において、カーボンナノチューブを繊維材料に浸出させるプロセスには、繊維材料からサイジング剤を除去すること、サイジング剤除去後にカーボンナノチューブ形成触媒を繊維材料に適用すること、繊維材料を少なくとも500℃まで加熱すること、及び、繊維材料上にカーボンナノチューブを合成することが含まれる。ある実施形態において、カーボンナノチューブ浸出プロセスの工程には、繊維材料からサイジング剤を除去すること、繊維材料に対してカーボンナノチューブ形成触媒を適用すること、カーボンナノチューブの合成温度まで繊維を加熱すること、及び、触媒を含有する繊維材料上へ炭素プラズマをスプレーすること、が含まれる。このように、工業用のガラス繊維材料が使用される場合、カーボンナノチューブ浸出繊維を構成するためのプロセスには、繊維材料上に触媒を配置する前に、繊維材料からサイジング剤を除去する個別の工程が含まれる。工業用サイジング剤の中には、これが存在する場合、カーボンナノチューブ形成触媒と繊維材料との面接触を防止して、繊維材料に対するカーボンナノチューブの浸出を抑制できるものがある。ある実施形態において、カーボンナノチューブの合成条件下でサイジング剤を確実に除去する場合には、サイジング剤の除去は、カーボンナノチューブ形成触媒付着後であって炭素含有原料ガスの供給直前又は供給中に行われる。
【0110】
カーボンナノチューブを合成する工程には、限定するものではないが、マイクロキャビティ(micro-cavity)、熱又はプラズマ助長CVD法、レーザー・アブレーション、アーク放電、高圧一酸化炭素法(HiPCO)など、カーボンナノチューブを形成するための多数の手法が含まれる。CVD中、特に、サイジングされた繊維材料が、これにカーボンナノチューブ形成触媒を配置した状態で直接用いられる。ある実施形態において、従来のいかなるサイジング剤もカーボンナノチューブの合成中に除去可能である。ある実施形態において、他のサイジング剤は除去されないが、サイジング剤を介した炭素原料の拡散のため、繊維材料へのカーボンナノチューブの合成及び浸出を妨害することはない。ある実施形態において、アセチレンガスはイオン化されて、カーボンナノチューブ合成のための低温炭素プラズマジェットを形成する。プラズマは触媒を有する繊維材料に向けられる。このように、ある実施形態では、繊維材料上におけるカーボンナノチューブの合成には、(a)炭素プラズマを形成すること、及び(b)繊維材料上に配置された触媒に炭素プラズマを向けること、が含まれる。成長するカーボンナノチューブの直径は、カーボンナノチューブ形成触媒の大きさにより決定される。ある実施形態において、サイジングされた繊維材料は約550℃〜約800℃に加熱され、カーボンナノチューブの合成を容易にする。カーボンナノチューブの成長を開始させるために、反応器(reactor)には2つ以上のガス、すなわち、不活性キャリアガス(例えば、アルゴン、ヘリウム又は窒素)及び炭素含有原料ガス(例えば、アセチレン、エチレン、エタノール又はメタン)が流される。カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブ形成触媒の位置で成長する。
【0111】
ある実施形態において、CVD成長はプラズマで助長される。プラズマは、成長プロセス中に電界を与えることにより生成される。この条件下で成長するカーボンナノチューブは電界方向に従う。したがって、反応器の配置を調節することにより、垂直配向のカーボン・ナノチューブが、円筒状の繊維の周囲から放射状に成長する。ある実施形態では、繊維の周囲に放射状に成長させるために、プラズマは必要とされない。明確な面を有する繊維材料(例えば、テープ、マット、織物、パイルなど)に関して、カーボンナノチューブ形成触媒は、繊維材料の一面又は両面に配置可能である。これに対応して、このような条件下、カーボンナノチューブもまた、繊維材料の一面又は両面で成長する。
【0112】
前述のように、カーボンナノチューブ合成は、巻き取り可能な繊維材料にカーボンナノチューブを浸出させる連続プロセスを提供するのに十分な速度で行われる。以下に例示されるように、このような連続的な合成は、多くの装置構成により容易になる。
【0113】
ある実施形態において、カーボンナノチューブ浸出繊維材料は、「オール・プラズマ(all plasma)」プロセスで作製される。このような実施形態では、繊維材料は、多くのプラズマ介在工程を通って、最終的なカーボンナノチューブ浸出繊維材料を形成する。プラズマプロセスの第1には、繊維表面の改質工程が含まれる。これは、前述のように、繊維材料の表面を「粗面化(roughing)」して触媒の配置を容易にするためのプラズマプロセスである。また前述のように、表面改質は、限定するものではないが、アルゴン、ヘリウム、酸素、アンモニア、水素及び窒素などの種々異なる1以上のガスからなるプラズマを用いて実現できる。
【0114】
表面改質後、繊維材料は触媒の適用へと進む。本願のオール・プラズマプロセスにおいて、この工程は、繊維材料上にカーボンナノチューブ形成触媒を配置するためのプラズマプロセスである。カーボンナノチューブ形成触媒は、前述のように、通常、遷移金属である。遷移金属触媒は、例えば、磁性流体、有機金属、金属塩、これらの混合物、又は気相輸送の促進に適した他のあらゆる組成物など、限定しない形態の前駆体としてプラズマ原料ガスに添加され得る。カーボンナノチューブ形成触媒は、真空及び不活性雰囲気のいずれも必要とはせず、周囲環境の室温で適用可能である。ある実施形態において、繊維材料は触媒の適用前に冷却される。
【0115】
オール・プラズマプロセスを継続すると、カーボンナノチューブの合成がカーボンナノチューブ成長反応器で起こる。カーボンナノチューブの成長は、炭素プラズマが触媒を含む繊維にスプレーされるプラズマ助長化学蒸着を用いて実現される。カーボンナノチューブの成長は高温(触媒にもよるが、通常は約500℃〜約1000℃の範囲)で起こるので、触媒を含む繊維は炭素プラズマにさらされる前に加熱される。カーボンナノチューブ浸出プロセスのために、繊維材料は、軟化が始まるまで任意に加熱されてもよい。加熱後、繊維材料は炭素プラズマを受けられる状態になっている。炭素プラズマは、例えば、炭素を含む原料ガス(例えば、アセチレン、エチレン、エタノールなど)を、ガスのイオン化が可能な電界中に通すことにより生成される。この低温炭素プラズマは、スプレーノズルにより繊維材料に向けられる。繊維材料は、プラズマを受けるために、例えば、スプレーノズルから約1センチメートル以内など、スプレーノズルにごく近接している。ある実施形態において、加熱器は、繊維材料の上側のプラズマ・スプレーに配置され、これにより繊維材料を高温に維持する。
【0116】
連続的なカーボンナノチューブ合成の別の構成には、カーボンナノチューブを繊維材料上に直接合成・成長させるための専用の矩形反応器が含まれる。その反応器は、カーボンナノチューブ浸出繊維材料を生成するための連続的なインラインプロセス用に設計され得る。ある実施形態において、カーボンナノチューブは、CVDプロセスにより、大気圧、かつ、約550℃から約800℃の範囲の高温で、マルチゾーン反応器(multi-zone reactor)内で成長する。カーボンナノチューブの合成が大気圧で起こるということは、繊維材料にカーボンナノチューブを浸出させるための連続処理ラインに反応器を組み込むことを容易にする一因である。このようなゾーン反応器を用いた連続的なインライン処理に合致する別の利点は、カーボンナノチューブの成長が数秒単位で発生するということであり、当該技術分野で標準的な他の手法及び装置構成における数分単位(又はもっと長い)とは対照的である。
【0117】
様々な実施形態によるカーボンナノチューブ合成反応器には、以下の特徴が含まれる。
【0118】
(矩形に構成された合成反応器)
当該技術分野で既知の標準的なカーボンナノチューブ合成反応器は横断面が円形である。これには、例えば、歴史的理由(研究所では円筒状の反応器がよく用いられる)及び利便性(流体力学は円筒状の反応器にモデル化すると容易になり、また、加熱器システムは円管チューブ(石英など)に容易に対応する)、並びに製造の容易性などの多くの理由がある。本開示は、従来の円筒形状を変えて、矩形横断面を有するカーボンナノチューブ合成反応器を提供する。変更の理由は以下の通りである。
【0119】
1)反応器により処理される多くの繊維材料は相対的に平面的である(例えば、形状が薄いテープやシート状、あるいは、開繊したトウ若しくはロービング(roving)など)ので、円形横断面では反応器の体積を十分に使用していない。この不十分な使用は、円筒状のカーボンナノチューブ合成反応器にとって、例えば、以下のa)ないしc)に挙げるような、いくつかの欠点となる。a)十分なシステムパージの維持;反応器の体積が増大すれば、同レベルのガスパージを維持するためにガス流量の増大が必要になる。これは、開放環境におけるカーボンナノチューブの大量生産には不十分なシステムとなる。b)炭素含有原料ガス流量の増大;前記a)のように、システムパージのための不活性ガス流を相対的に増大させると、炭素含有原料ガス流量を増大させる必要がある。例示的な12Kのガラス繊維ロービングが、矩形横断面を有する合成反応器の全体積に対して2000分の1の体積であることを考慮されたい。同等の円筒状反応器(すなわち、矩形横断面の反応器と同じ平坦化されたガラス繊維材料を収容できるだけの幅を有する円筒状の反応器)では、ガラス繊維材料の体積は、反応器の体積の17,500分の1である。CVDなどのガス蒸着プロセス(gas deposition processes)は、通常、圧力及び温度だけで制御されるが、体積は蒸着の効率に顕著な影響を与え得る。矩形反応器の場合、それでもなお過剰な体積が存在し、この過剰体積は無用の反応を促進する。しかしながら、円筒状反応器は、無用な反応の促進が可能なその体積が約8倍もある。このように競合する反応が発生する機会が増加することにより、所望の反応が有効に生じるには、円筒状反応器では一層遅くなってしまう。このようなカーボンナノチューブ成長の速度低下は連続的な成長プロセスの進行にとって問題となる。矩形反応器構成の別の利点は、矩形チャンバーの高さを更に低くすることで反応器の体積が低減され、これにより体積比が改善され反応が更に効率的になるという点である。本明細書に開示される実施形態の中には、矩形合成反応器の全体積が、合成反応器を通過中の繊維材料の全体積に対して僅か約3000倍にしかすぎないものがある。更なる実施形態の中には、矩形合成反応器の全体積が、合成反応器を通過中の繊維材料の全体積に対して僅か約4000倍にしかすぎないものもある。また更なる実施形態の中には、矩形合成反応器の全体積が、合成反応器を通過中の繊維材料の全体積に対して約10,000倍未満のものがある。加えて、円筒状反応器を使用した場合、矩形横断面を有する反応器と比較すると、同じ流量比を提供するためには、より大量の炭素含有原料ガスが必要である点に注目されたい。当然のことながら、他の実施形態の中には、矩形ではないがこれに類似し、かつ、円形横断面を有する反応器に対して、反応器の体積を同様に低減する多角形状で表される横断面を有する合成反応器がある。c)問題のある温度分布;相対的に小径の反応器を用いた場合、チャンバー中心からその壁面までの温度勾配はごく僅かである。しかし、例えば、工業規模の生産に用いられるなど、サイズの増大に伴い、このような温度勾配は増加する。温度勾配は、繊維材料の全域で製品品質がばらつく(すなわち、製品品質が半径位置に応じて変化する)原因となる。この問題は、矩形横断面を有する反応器を用いた場合に殆ど回避される。特に、平面的な基材が用いられる場合、基材のサイズが大きくなったときに、反応器の高さを一定に維持することができる。反応器の頂部と底部間の温度勾配は基本的にごく僅かであり、結果的に、生じる熱的な問題や製品品質のばらつきは回避される。
【0120】
2)ガス導入:当該技術分野では、通常、管状炉が使用されているので、一般的なカーボンナノチューブ合成反応器は、ガスを一端に導入し、それを反応器に通して他端から引き出している。本明細書に開示された実施形態の中には、ガスが、反応器の両側面又は反応器の頂面及び底面のいずれかを通して対称的に、反応器の中心又は対象とする成長ゾーン内に導入されるものがある。これにより、流入する原料ガスがシステムの最も高温の部分(カーボンナノチューブの成長が最も活発な場所)に連続的に補充されるので、全体的なカーボンナノチューブ成長速度が向上する。
【0121】
(ゾーン分け)
比較的低温のパージゾーンを提供するチャンバーは、矩形合成反応器の両端から延びる。出願人は、仮に高温ガスが外部環境(すなわち、反応器の外部)と接触(mix)すると、繊維材料の劣化(degradation)が増加することを究明した。低温パージゾーンは、内部システムと外部環境間の緩衝となる。当該技術分野で既知のカーボンナノチューブ合成反応器の構成では、通常、基材を慎重に(かつ緩やかに)冷却することが求められる。本願の矩形カーボンナノチューブ成長反応器の出口における低温パージゾーンは、連続的なインライン処理に必要とされるような短時間の冷却を実現する。
【0122】
(非接触、ホットウォール型、金属製反応器)
ある実施形態において、金属製ホットウォール型(hot-walled)反応器(例えば、ステンレス鋼)が用いられる。この種類の反応器の使用は、金属、特にステンレス鋼が炭素の付着(すなわち、すす及び副生成物の形成)を受けやすいために、常識に反するようにも考えられる。したがって、大部分のカーボンナノチューブ合成反応器は、炭素の付着が殆どないため、また、石英は洗浄しやすく試料の観察を容易にするため、石英製である。しかしながら、出願人は、ステンレス鋼上におけるすす及び炭素付着物が増加することにより、より着実、より効率的、より高速、かつ、より安定的なカーボンナノチューブ成長がもたらされること、を見つけた。理論に拘束されるものではないが、大気圧運転(atmospheric operation)と連動して、反応器内で起こるCVDプロセスでは拡散が制限されることが示されている。すなわち、カーボンナノチューブ形成触媒に「過度に供給される(overfed)」、つまり、過量の炭素が、(反応器が不完全真空下で運転している場合よりも)その相対的に高い分圧により反応器システム内で得られる。結果として、開放システム(特に清浄な(clean)もの)では、過量の炭素がカーボンナノチューブ形成触媒の粒子に付着して、カーボンナノチューブの合成能力を低下させる。ある実施形態において、反応器に「汚れが付いて(dirty)」いる、すなわち、金属反応器壁にすすが付着している状態の場合に、矩形反応器を意図的に運転する。炭素が反応器壁上の単分子層に付着すると、炭素は、それ自体を覆って付着しやすくなる。得られる炭素の中には、この機構により「回収される(withdrawn)」ものがあるので、ラジカルの形で残っている炭素原料が、カーボンナノチューブ形成触媒を被毒させない速度でこの触媒と反応する。既存のシステムでは「清浄に(cleanly)」運転するが、連続処理のために開放状態であれば、減速した成長速度で、はるかに低い収率でしかカーボンナノチューブを生産できない。
【0123】
カーボンナノチューブの合成を、前述のように「汚れが付いて」いる状態で実施するのは概して有益であるが、それでも、装置のある部分(例えば、ガスマニフォールド及びガス入口)は、すすが閉塞状態を引き起こした場合、カーボンナノチューブの成長プロセスに悪影響を与える。この問題に対処するために、カーボンナノチューブ成長反応チャンバーの当該部分を、例えば、シリカ、アルミナ又はMgOなどのすす抑制コーティングで保護してもよい。実際には、装置のこれらの部分は、すす抑制コーティングで浸漬コーティングが施される。INVAR(商標名)は高温におけるコーティングの適切な接着性を確実にする同様のCTE(熱膨張係数)を有し、重要なゾーンにおけるすすの著しい堆積を防止するので、INVAR(商標名)などの金属が、これらのコーティングに用いられる。
【0124】
(触媒還元及びカーボンナノチューブ合成の組み合わせ)
本明細書に開示されたカーボンナノチューブ合成反応器において、触媒還元及びカーボンナノチューブ成長のいずれもが反応器内で起こる。還元工程が個別の工程として実施されると、連続プロセスに用いるものとして十分タイムリーに行えなくなるため、このことは重要である。当該技術分野において既知の標準的なプロセスにおいて、還元工程の実施には、通常1〜12時間かかる。本開示によれば、両工程は1つの反応器内で生じるが、これは、少なくとも1つには、炭素含有原料ガスを導入するのが、円筒状反応器を用いる当該技術分野では標準的となっている反応器の端部ではなく、中心部であることに起因する。還元プロセスは、繊維が加熱ゾーンに入ったときに行われる。この時点に至るまでに、ガスには、触媒を(水素ラジカルの相互作用を介して)還元する前に反応器壁と反応して冷える時間があるということである。還元が起こるのは、この移行領域である。システム内で最も高温の等温ゾーンでカーボンナノチューブの成長は起こり、反応器の中心近傍におけるガス入口の近位で最速の成長速度が生じる。
【0125】
ある実施形態において、例えば、トウ又はロービングなど(例えば、ガラスロービングのように)、緩くまとまった(loosely affiliated)繊維材料が使用される場合、連続プロセスには、トウ又はロービングのストランド(strand)又はフィラメントを広げる工程が含まれる。このように、トウ又はロービングは、アンスプールされる(unspooled)ときに、例えば、真空ベースの開繊システム(vacuum-based fiber spreading system)を用いて開繊される(spread)。例えば、サイジングされて比較的堅いガラス繊維ロービングを使用する場合、ロービングを「軟化」して繊維の開繊を容易にするために、更なる加熱を用いることができる。個々のフィラメントを含んで構成される開繊繊維(spread fiber)は、フィラメントの全表面積をさらせるよう十分分離して開繊され、こうして後続の処理工程でロービングがより効率的に反応できるようにする。例えば、開繊トウ又は開繊ロービングは、前述のようにプラズマシステムで構成される表面処理工程を経る。その後、粗面化された開繊繊維はカーボンナノチューブ形成触媒の浸漬槽を通過する。その結果、表面で放射状に分布した触媒粒子を有するガラスロービングの繊維となる。触媒を含んだロービングの繊維は、その後、前述のように、例えば、矩形チャンバーなどの適切なカーボンナノチューブ成長チャンバーに入るが、ここでは、大気圧CVD又はプラズマ助長CVDプロセスを通る流れを用いて、毎秒数ミクロンの速度でカーボンナノチューブを合成する。ロービングの繊維は、こうして放射状に配列されたカーボンナノチューブを備えて、カーボンナノチューブ成長反応器を出る。
【0126】
当然のことながら、本発明の様々な実施形態の働きに実質的に影響を与えない変更も、本明細書で提供された本発明の定義内に含まれる。したがって、以下の実施例は、本発明を例示するものであって限定するものではない。
【実施例1】
【0127】
(減少した熱膨張係数を有するアルミニウム金属マトリックス複合材料の形成)
アルミニウ金属マトリックス複合材料は、カーボンナノチューブ浸出炭素繊維の溶融金属圧力浸透により作製された。炭素繊維は、グラフィル社(カリフォルニア州サクラメント)の34−700、12kフィラメントであり、これには前述の連続浸出プロセスにより作製された平均長さ55μmのカーボンナノチューブを浸出させた。金属マトリックス複合材料は、型が底部に置かれた加熱浸透容器(heated infiltration vessel)を含む圧力封止されたチャンバー内で作製された。カーボンナノチューブ浸出炭素繊維は、型の底部に一方向配列で置かれ、これにより試験タイル(test tiles)を作製した。アルミニウム原料は型内のカーボンナノチューブ浸出繊維材料の上部に配置された。アルミニウム原料は、Al12Si2FeCu0.5Ni0.5Zn0.35Mnの組成を有するアルミニウム合金A413であった。チャンバーに真空が適用されるとともに、浸透容器が675℃まで加熱され、これにより、カーボンナノチューブ浸出炭素繊維の上でアルミニウム合金を溶融させた。アルミニウム合金が溶融した状態で、窒素ガスによる1500psiの圧力を用いてカーボンナノチューブ浸出炭素繊維にアルミニウム合金を浸透させ、これにより、6.75インチ×3.0インチ×0.55インチの試験タイルを形成した。得られたカーボンナノチューブ浸出炭素繊維材料含有アルミニウム合金複合材料について、35〜100℃の平均熱膨張係数は、厚さ方向で18.64ppm/℃であり、また面内で7.57ppm/℃であった。図4は、カーボンナノチューブ浸出繊維材料含有アルミニウム合金複合材料の例示的なSEM画像を示す。前述のように、本方法を変更して、アルミニウム金属マトリックスにケイ素を含めることにより、カーボンナノチューブ浸出繊維材料と金属マトリックスとの間の界面において炭化ケイ素を形成し、これにより炭素とアルミニウムとの間の好ましくない相互作用を防止することができる。
【0128】
本発明は開示された実施形態を参照して説明されたが、当業者であれば、これらが本発明の例示にすぎないことを容易に認識するであろう。当然のことながら、本発明の精神から逸脱することなく、様々な変形例を考え出すことが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの金属を含んで構成される金属マトリックスと、
カーボンナノチューブが浸出した繊維材料であるカーボンナノチューブ浸出繊維材料と、
を含んで構成される複合材料。
【請求項2】
前記金属マトリックスは、アルミニウム、マグネシウム、銅、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、銀、金、チタン、及びこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1つの金属を含んで構成されることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記金属マトリックスは、前記金属マトリックスと前記カーボンナノチューブ浸出繊維材料との親和性を向上させる少なくとも1つの添加剤を更に含んで構成されることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項4】
前記少なくとも1つの添加剤は、前記カーボンナノチューブ浸出繊維材料の前記カーボンナノチューブと反応し、これにより、前記金属マトリックスと前記カーボンナノチューブ浸出繊維材料との界面に、前記金属マトリックスを構成する前記少なくとも1つの金属を含まない炭化生成物を形成することを特徴とする請求項3に記載の複合材料。
【請求項5】
前記炭化生成物は炭化ケイ素であることを特徴とする請求項4に記載の複合材料。
【請求項6】
前記金属マトリックスはアルミニウムを含んで構成されるとともに、前記少なくとも1つの添加剤はケイ素を含んで構成されることを特徴とする請求項3に記載の複合材料。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブ浸出繊維材料は、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、セラミック繊維、有機繊維、炭化ケイ素繊維、炭化ホウ素繊維、窒化ケイ素繊維、酸化アルミニウム繊維、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1つの繊維種を含んで構成されることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項8】
少なくとも前記カーボンナノチューブ浸出繊維材料をオーバーコートする保護層を更に含んで構成されることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項9】
前記保護層は、前記カーボンナノチューブもオーバーコートすることを特徴とする請求項8に記載の複合材料。
【請求項10】
前記保護層は、ニッケル、二ホウ化チタン、クロム、マグネシウム、チタン、銀、又はスズを含んで構成されることを特徴とする請求項8に記載の複合材料。
【請求項11】
前記繊維材料は、短繊維及び連続繊維からなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項12】
前記カーボンナノチューブは、前記複合材料の約0.1重量%から約10重量%を占めることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項13】
前記カーボンナノチューブは、前記カーボンナノチューブ浸出繊維材料の約0.5重量%から約40重量%を占めることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項14】
前記繊維材料は、前記金属マトリックスに均一に分布することを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項15】
前記繊維材料は、前記金属マトリックスに不均一に分布することを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項16】
前記金属マトリックスに不均一に分布することは、前記金属マトリックスにおける勾配分布を含むことを特徴とする請求項15に記載の複合材料。
【請求項17】
前記カーボンナノチューブ浸出繊維材料を構成する前記カーボンナノチューブは、前記繊維材料の長手軸に対して略垂直であることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項18】
前記カーボンナノチューブ浸出繊維材料を構成する前記カーボンナノチューブは、前記繊維材料の長手軸に対して略平行であることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項19】
前記カーボンナノチューブ浸出繊維材料を構成する前記カーボンナノチューブの重量百分率は、前記カーボンナノチューブの平均長さにより決定されることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項20】
前記カーボンナノチューブ浸出繊維材料を構成する前記カーボンナノチューブの重量百分率は、前記繊維材料に浸出する前記カーボンナノチューブの被覆密度により更に決定されることを特徴とする請求項19に記載の複合材料。
【請求項21】
前記被覆密度は、1平方マイクロメートル当たり最大で約15,000のカーボンナノチューブに相当することを特徴とする請求項20に記載の複合材料。
【請求項22】
前記カーボンナノチューブの平均長さは、約1μmから約500μmであることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項23】
前記カーボンナノチューブの平均長さは、約1μmから約10μmであることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項24】
前記カーボンナノチューブの平均長さは、約10μmから約100μmであることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項25】
前記カーボンナノチューブの平均長さは、約100μmから約500μmであることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項26】
前記カーボンナノチューブの平均長さは、カーボンナノチューブがない複合材料に対して、前記複合材料の熱膨張係数を約4分の1以下まで減少させるのに十分な長さであることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項27】
前記カーボンナノチューブの平均長さは、カーボンナノチューブがない複合材料に対して、前記複合材料の剛性及び耐摩耗性を約3倍以上まで向上させるのに十分な長さであることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項28】
前記カーボンナノチューブの平均長さは、前記複合材料における電気的な又は熱的な伝導経路を確立するのに十分な長さであることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項29】
少なくとも1つの金属を含んで構成される金属マトリックスと、
カーボンナノチューブが浸出した繊維材料であるカーボンナノチューブ浸出繊維材料であって、前記金属マトリックスの第1領域における第1のカーボンナノチューブ浸出繊維材料、及び前記金属マトリックスの第2領域における第2のカーボンナノチューブ浸出繊維材料と、
を含んで構成され、
前記第1のカーボンナノチューブ浸出繊維材料におけるカーボンナノチューブの平均長さ、及び前記第2のカーボンナノチューブ浸出繊維材料におけるカーボンナノチューブの平均長さは、前記金属マトリックスの第1領域と前記金属マトリックスの第2領域とが、機械的性質、電気的性質又は熱的性質を異にするように選択されることを特徴とする複合材料。
【請求項30】
前記第1のカーボンナノチューブ浸出繊維材料、及び前記第2のカーボンナノチューブ浸出繊維材料は、同一の繊維材料を含んで構成されることを特徴とする請求項29に記載の複合材料。
【請求項31】
前記第1のカーボンナノチューブ浸出繊維材料、及び前記第2のカーボンナノチューブ浸出繊維材料は、異なる繊維材料を含んで構成されることを特徴とする請求項29に記載の複合材料。
【請求項32】
前記第1のカーボンナノチューブ浸出繊維材料と前記第2のカーボンナノチューブ浸出繊維材料との少なくとも1つは、少なくともカーボンナノチューブ浸出繊維材料をオーバーコートする保護層を更に含んで構成されることを特徴とする請求項29に記載の複合材料。
【請求項33】
前記金属マトリックスは、アルミニウム、マグネシウム、銅、コバルト、ニッケル、及びこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1つの金属を含んで構成される請求項29に記載の複合材料。
【請求項34】
前金属マトリックスは、前記金属マトリックスと前記カーボンナノチューブ浸出繊維材料との親和性を向上させる少なくとも1つの添加剤を更に含んで構成されることを特徴とする請求項29に記載の複合材料。
【請求項35】
前記少なくとも1つの添加剤は、前記カーボンナノチューブ浸出繊維材料の前記カーボンナノチューブと反応し、これにより、前記金属マトリックスと前記カーボンナノチューブ浸出繊維材料との界面に、前記金属マトリックスを構成する前記少なくとも1つの金属を含まない炭化生成物を形成することを特徴とする請求項34に記載の複合材料。
【請求項36】
カーボンナノチューブが浸出した繊維材料であるカーボンナノチューブ浸出繊維材料を提供すること、及び
前記カーボンナノチューブ浸出繊維材料を少なくとも1つの金属を含んで構成される金属マトリックスに組み込むこと、
を含んで構成される方法。
【請求項37】
前記カーボンナノチューブ浸出繊維材料を前記金属マトリックスに組み込むことは、鋳造、スクイズ鋳造、溶融金属浸透法、溶融金属圧力浸透法、溶射堆積、及び粉末冶金からなる群より選択される少なくとも1つの技術を含んで構成されることを特徴とする請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記金属マトリックスは、アルミニウム、マグネシウム、銅、コバルト、ニッケル、及びこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1つの金属を含んで構成されることを特徴とする請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記金属マトリックスは、前記金属マトリックスと前記カーボンナノチューブ浸出繊維材料との親和性を向上させる少なくとも1つの添加剤を更に含んで構成される請求項36に記載の方法。
【請求項40】
前記少なくとも1つの添加剤は、前記カーボンナノチューブ浸出繊維材料の前記カーボンナノチューブと反応し、これにより、前記金属マトリックスと前記カーボンナノチューブ浸出繊維材料との界面に、前記金属マトリックスを構成する前記少なくとも1つの金属を含まない炭化生成物を形成することを特徴とする請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記カーボンナノチューブ浸出繊維材料の少なくとも一部を保護層でオーバーコートすることを更に含んで構成される請求項36に記載の方法。
【請求項42】
前記保護層は、電気めっき及び化学蒸着からなる群より選択される技術により付着することを特徴とする請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記保護層は、ニッケル又は二ホウ化チタンを含んで構成されることを特徴とする請求項41に記載の方法。
【請求項44】
前記複合材料を高密度化することを更に含んで構成される請求項36に記載の方法。
【請求項45】
前記繊維材料は、前記金属マトリックスに均一に分布することを特徴とする請求項36に記載の方法。
【請求項46】
前記繊維材料は、前記金属マトリックスに不均一に分布することを特徴とする請求項36に記載の方法。
【請求項47】
前記金属マトリックスに不均一に分布することは、前記金属マトリックスにおける勾配分布を含むことを特徴とする請求項46に記載の複合材料。
【請求項48】
前記カーボンナノチューブ浸出繊維材料は、第1の長さのカーボンナノチューブを含んで構成される第1のカーボンナノチューブ浸出繊維材料と、第2の長さのカーボンナノチューブを含んで構成される第2のカーボンナノチューブ浸出繊維材料と、を含んで構成され、前記第1のカーボンナノチューブ浸出繊維材料が前記金属マトリックスの第1領域に組み込まれるとともに、第2のカーボンナノチューブ浸出繊維材料が前記金属マトリックスの第2領域に組み込まれることを特徴とする請求項36に記載の方法。
【請求項49】
少なくとも1つの金属を含んで構成される金属マトリックスと、
カーボンナノチューブ浸出繊維材料と、
を含んで構成される複合材料を含む製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−512348(P2013−512348A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−542096(P2012−542096)
【出願日】平成22年11月23日(2010.11.23)
【国際出願番号】PCT/US2010/057918
【国際公開番号】WO2011/078934
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(511201392)アプライド ナノストラクチャード ソリューションズ リミテッド ライアビリティー カンパニー (31)
【氏名又は名称原語表記】APPLIED NANOSTRUCTURED SOLUTIONS, LLC
【Fターム(参考)】