説明

カーボンナノチューブ添加紙の製造方法

【課題】柔軟性と導電性とを兼備えたカーボンナノチューブ(CNT)添加紙の製造方法を提供すること。
【解決手段】抄紙段階において、単分散した状態のCNT12を、固形材料の重量比で1〜50%含ませることにより、CNT添加紙16を製造する。CNT添加紙16の構成繊維成分は天然繊維、合成繊維、無機繊維、金属繊維等からなり、珪藻土、活性炭等の粉末状物質をCNT12と共に抄き込むことにより、CNT添加紙16の柔軟性や導電性を、その用途に応じて変化させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性を有するカーボンナノチューブ添加紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称する。)とは、網目状の炭素が直径0.4〜100nm程度の極めて微小な円筒状になったものをいう。
近年、ナノテクノロジーの分野においてCNTの研究は特に目覚ましく、その応用によって多くのことが期待されている。CNTのナノ構造体としての性質としては、優れた導電性・引張強度性・柔軟性・熱伝導性・耐熱性等が挙げられる。
【0003】
そこで、上記のような優れた性質を有するCNTを用い、柔軟性を有しながら金属と同じような導電性も有するという素材の研究がなされている。すなわち、CNTを紙等の柔軟性を有する基材に添加することによって、柔軟性と導電性の両者を兼備えた素材の実現を目的とした研究である。
そして、柔軟性と導電性を兼備えたCNT添加紙の用途としては、静電気防止紙や電磁波シールド材、又、導電により発熱させるための面上発熱体等がある。
【0004】
もっとも、CNTは、単層CNTの場合は構成原子がすべて表面原子であり、又、多層CNTの場合は構成原子の多くが表面原子であるため、隣接するCNT間のファン・デル・ワールス力による凝集が生じやすい。凝集したCNTではナ ノ構造体としての性質・特性を生かすことは困難である。
すなわち、凝集した状態でのCNTはセルロース繊維と混合して容易に抄紙できるが、CNTは凝集した状態でセルロース繊維に固定化されるため、CNTのナノ構造体としての特性を得ることはできず、紙の導電性は非常に小さいものになるという問題を有している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
紙にCNTを添加する従来技術として、特開2006−199777号公報がある。
しかし、この発明は、湿式摩擦材に用いられる繊維基材にCNTを添加することで耐ヒートスポット性を向上させようとするものであり、電気導電性の向上に関する発明ではなく、上記の紙の導電性に関する問題点を解決していない。
【特許文献1】特開2006−199777号公報
【0006】
又、他の従来技術として特開2005−327844号公報がある。
これは「優れた屈曲性、優れた耐屈曲性を有する導電材料の提供」をその目的とした発明であるが、CNTを単分散した状態で用いる特徴は有しておらず、CNTのナノ構造体としての特性が発揮されにくい。
又、この発明はCNTを塗布することによって紙へ含浸させることを開示しているが、塗布による手法では紙の内部へCNTを固定化することができず、紙の表面と裏面との間での導電性が著しく低下するという問題を有している。
【特許文献2】特開2005−327844号公報
【0007】
上記のような従来技術の問題点に鑑み、本発明は、柔軟性と導電性とを兼備えたCNT添加紙の製造方法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、抄紙段階において、CNTを、重量比で1〜50%含ませることを特徴とするCNT添加紙の製造方法により、前記課題を解決した。
【0009】
ここで、上記の「CNTの重量比が1〜50%である」という意義については、CNT添加紙の製造段階の溶液中に含まれるCNTの重量と、繊維状物質・粉末状物質の重量の合計をCNT添加紙全体の重量とし、その全体重量を基準にCNTの重量比が1〜50%であると定義する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、柔軟性と導電性とを兼備えたCNT添加紙を製造することができる。
そして、CNT添加紙の用途に応じて、CNTの添加量や、CNTと共に抄き込まれる繊維状物質や粉末状物質の構成割合を調整することにより、CNT添加紙の柔軟性や導電性の大小を、所望のとおりにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図1及び図2に基づき、本発明の実施形態について説明する。
図1(a)は、単分散状態のCNT12(以下、単に「CNT12」と称する場合もある。)が繊維状物質10と共に抄き込まれたCNT添加紙16の断面図及び、CNT12の拡大図であり、図1(b)は、CNT凝集体14が繊維状物質10と共に抄き込まれたCNT添加紙16‘の断面図及び、CNT凝集体14の拡大図である。
図2は本発明のCNTの単分散原理の拡大模式図で、図2(a)はCNT凝集体14に両性イオンを反応させる様子、図2(b)はCNT凝集体14の表面上に形成された両性イオン分子膜20、図2(c)はCNT凝集体14の一部が引き剥がされた様子、図2(d)は単分散状態になったCNT12、をそれぞれ示す。
【0012】
なお、「単分散」した状態のCNTとは、通常は凝集体として存在するCNTが、後述する化学的な処理を施された結果、1本ずつ分離された状態になったものをいう。
【0013】
繊維状物質10とCNT12を共に抄き込むことにより、図1(a)に示すCNT添加紙16のように、CNT12同士の密な繋がりが形成され、又、CNT12が紙のどの部分にも均一に添加されるため、紙に、高い導電性を付与することができる。
一方、凝集した状態のCNT凝集体14を繊維状物質10と共に抄き込んでも、図1(b)に示すCNT添加紙16‘のように、CNT凝集体14同士の密な繋がりが形成されず、又、紙のどの部分においてもCNT凝集体14が均一に存在するという状態を実現できないので、高い導電性は得られない。
【0014】
本発明により得られたCNT添加紙16の導電性を確認するために、以下の条件、及び、手順により実験を行った。
【0015】
まず、実験に使用する、分散状態のCNTが溶け込んでいるCNT溶液について説明する。
既に述べたように、CNTにおいては、隣接するCNT間のファン・デル・ワールス力による凝集が生じやすい。
そこで、本発明では、1分子中に正電荷と負電荷を同時に持つ両性イオン分子、具体的には、3−(N,N−ジメチルステアリルアンモニオ)プロパンスルホネート、又は、2−メタクロイルオキシホスホリルコリン(MPC)とn−ブチメタクリレート(BMA)とのコポリマーで構成されているような高分子様の両性イオンを分散剤として用いた。
なお、分散剤としての両性イオンとしては、アンヒトール20HD、及びアンヒトール55ABを使用しても同等の効果があり、分散剤として用いられる両性イオンは上記の具体例に限定されない。
【0016】
図2(a)に示すCNT凝集体14に、上記のような両性イオン18を反応させると、両性イオン18は、図2(b)に示すように、CNT凝集体14の表面上で自己組織化し、両性イオン分子膜20を形成する。CNT凝集体14を覆うその分子膜20は、静電気的相互作用によって他のCNT凝集体14を覆う分子膜20と引っ張り合う。そして、図2(c)に示すように、CNT凝集体14を構成する各CNTの引剥がれが生じ、新たなCNT凝集体14の表面が露出する。新しく露出した表面は新たに両性イオン18に覆われる。この反応が、CNT凝集体14を構成するCNTが完全に孤立分散するまで繰返され、最終的には図2(d)に示される、単分散状態のCNT12が形成される。
【0017】
そして、単分散状態のCNT12を抄紙材料として用いるには、その水溶液が必要であり、そのような水溶液を得る方法については、WO2004/060798に開示されている。
具体的には、一例としてCNT3%の溶液では、CNT12を30g、分散剤として3−(N,N−ジメチルステアリルアンモニオ)プロパンスルホネートを10g、ボールミルに入れ、水900ccと共にボールミルで攪拌し、その後κ−カラジーナンを添加して更に攪拌し、最後に水を加えて、全体重量を1000gとし、72時間混合してCNT3%溶液とした。
なお、単分散した状態のCNT溶液にκ−カラジーナンやヨウ化カリウム等、CNT12の再凝集を防ぐ薬品を添加することで、CNT12の分散状態が長期間保存できるCNT溶液とした。
【0018】
次に、実験手順について説明する。
使用基材(繊維)に、市販リンターパルプ(平均繊維長1.2mm、フリーネス値315ml)、アラミド繊維(比表面積6±2、フリーネス値600ml)を用いた。
1) リンターパルプ4.9g、アラミド繊維4.9gを水1リットル中で攪拌した。
2) 1)で作製した液状組成物に、CNT溶液を加えた。CNT溶液を、CNTの投入重量がCNT添加紙16の全体重量に対して、それぞれ1%、2%、5%、30%、40%、50%になるように液状組成物に添加した。
3) 2)の液状組成物に1mol/lアンモニア水25ccを加えてアルカリ性にした後、ポリ塩化アルミを9ml加えた。その後、高分子系凝集剤を加えて繊維とCNTの凝集体を作り、その凝集体を沈殿させた。
4) 3)の状態のものを、抄紙器を用いてシート状にした後、プレスし、乾燥させて、CNT添加紙16を作製した。
なお、抄紙の工程がどのようなものであるかは当業者には周知であるから、詳細な説明は省略する。
【0019】
以上のようにして作製したCNT添加紙16の体積抵抗値を三菱化学MCP−T600(4端子法)で測定した結果を、表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
表1に示すように、CNT12の添加量を1%〜5%程度にした場合には、抵抗値が1011〜104Ω・cmとなり、これは静電気防止紙として有用である。
又、CNT12の添加量を30%〜40%程度にした場合には、抵抗値が10〜10−1Ω・cmとなり、これは電磁波シールド材や面上発熱体等として有用である。そして、さらに低い抵抗値のものは、燃料電池用セパレーター材料等の電池材料として有望である。
さらに、CNT添加紙は、液状の硬化性樹脂や熱硬化性樹脂の溶液を含浸し、硬化させることでシートやボードに成形加工することができる。
一方、CNT12の添加量を1%未満とした場合には、導電性への寄与はあるものの、何らかの用途に応用できる程の導電性は認められなかった。又、CNT12の添加量を50%よりも多くした場合には、CNT12が繊維状物質10に定着しきれず、抄紙時に排水と共に流れ出てしまうことも確認された。
【0022】
なお、CNT添加紙16の用途に応じて、CNT添加紙16を構成する繊維成分を変化させることができる。
すなわち、精密電子機器用の包装紙等のようにCNT添加紙16に柔軟性が求められる場合には、木材パルプ・コットンリッター等の天然繊維と共に抄紙したCNT添加紙16を用いる。一方、CNT添加紙16の強度が求められるような場合には、天然繊維の他に、アラミド繊維・アクリル繊維等の合成繊維や、カーボン繊維・カーボンチョップ・アクリルチョップ等のその他の繊維状物質や、珪藻土や活性炭等の粉体成分を加える。
又、金属繊維、カーボン繊維、カーボンチョップ等の炭素繊維や、活性炭、グラファイト等の炭素粉末をCNT12と合わせて抄紙することにより、CNT添加紙16の導電性をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1(a)は、単分散状態のCNTが繊維状物質と共に抄き込まれたCNT添加紙の断面図及び、当該CNTの拡大図、図2(b)は、CNT凝集体が繊維状物質と共に抄き込まれたCNT添加紙の断面図及び、当該CNT凝集体の拡大図。
【図2】図2はCNTの単分散原理の拡大模式図で、図2(a)はCNT凝集体に両性イオンを反応させる様子、図2(b)はCNT凝集体の表面上に形成された両性イオン分子膜、図2(c)はCNT凝集体の一部が引き剥がされた様子、図2(d)は単分散状態になったCNT、をそれぞれ示す。
【符号の説明】
【0024】
10:繊維状物質
12:単分散した状態のカーボンナノチューブ(CNT)
16:カーボンナノチューブ(CNT)添加紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄紙段階において、カーボンナノチューブを、重量比で1〜50%含ませることを特徴とする、
カーボンナノチューブ添加紙の製造方法。
【請求項2】
前記添加紙の構成繊維成分が、天然繊維、合成繊維、無機繊維、金属繊維及び、その他の繊維状物質のうちの、少なくとも1つの繊維状物質からなる、請求項1のカーボンナノチューブ添加紙の製造方法。
【請求項3】
珪藻土、活性炭、及びその他の粉末状物質のうちの、少なくとも1つの粉末状物質がさらに含まれる、請求項1又は2のカーボンナノチューブ添加紙の製造方法。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブが単分散した状態のものである、請求項1から3のいずれかのカーボンナノチューブ添加紙。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−37660(P2010−37660A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−324294(P2006−324294)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(000204882)株式会社ダイナックス (31)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】