説明

カーボンナノチューブ薄膜

【課題】 カーボンナノチューブの金属性・半導体性の分離精製を行うことで、その混合状態では黒色の状況から、様々な色を呈するカーボンナノチューブを獲得すること。
【解決手段】 様々な直径を備えるCNTの金属性・半導体性の分離精製を行うことにより、マゼンタ色・シアン色・イエロー色を呈する金属性カーボンナノチューブを得ることが可能である。カーボンナノチューブ分散水溶液にドデシル硫酸ナトリウム、コール酸ナトリウムおよびiodixanol含有水溶液を混合させて得られたカーボンナノチューブ混合液を遠心分離混合溶液に入れて遠心分離して金属性カーボンナノチューブ分散水溶液と半導体性カーボンナノチューブ分散水溶液とを分離して得られた金属性カーボンナノチューブ分散水溶液がシアン色、マゼンタ色、イエロー色を呈する金属性カーボンナノチューブ分散水溶液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直径の異なる金属性・半導体性を分離したカーボンナノチューブを用いることにより、マゼンタ色、シアン色、イエロー色を呈するカーボンナノチューブの作成、およびそのインクとしての利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNTとも言う)は、1991年に非特許文献1に発表されて以来、電界効果トランジスタや、ミクロサイズの配線材料など種々の潜在的な応用が期待される新しい材料として積極的に開発が進められてきた。特に、稀少資源であるインジウムの代替物質として、カーボンナノチューブによる透明導電膜(透明電極)への応用に期待が持たれている。
カーボンナノチューブはチューブ軸方向への周期的束縛条件により、チューブカイラリティに依存した様々な吸収スペクトル構造を備える。即ち、チューブのカイラリティに依存して様々な色を呈する。導電性等の特殊な機能を備えたインクとしての利用が期待されていたが、しかしながら、金属性・半導体性カーボンナノチューブが混在する状況では、可視光領域全体に吸収バンド構造が存在し、黒色を呈していた。その結果、いままでマゼンタ色・シアン色・イエロー色を呈するカーボンナノチューブ全てを分離精製に成功した例は無かった。
【非特許文献1】Nature,354,56−58,1991.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、カーボンナノチューブの金属性・半導体性の分離精製を行うことで、その混合状態では黒色の状況から、様々な色を呈するカーボンナノチューブを獲得する。また、原料となるカーボンナノチューブとして、さまざまな直径を備えるものを利用することにより、マゼンタ色・シアン色・イエロー色を呈するカーボンナノチューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究し、以下の点を見いだして本発明を完成させた。
様々な直径を備えるCNTの金属性・半導体性の分離精製を行うことにより、マゼンタ色・シアン色・イエロー色を呈する金属性カーボンナノチューブを得ることが可能である。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、以下のことが可能となる。
(1)マゼンタ色・シアン色・イエロー色を呈する金属性カーボンナノチューブを提供可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
CNTには、そのグラフェンシートの巻き方によって、金属及び半導体性CNTが存在する。通常のCNT材料は、金属性及び半導体性CNTの混合物となっている。混合物は可視光領域全体に吸収バンドが存在する為、ほとんど黒色を呈する。しかしながら、下記の方法により、金属性・半導体性カーボンナノチューブの分離精製をすることにより、シアン色・マゼンタ色・イエロー色を呈するカーボンナノチューブを得ることが可能となる。特に、そのカーボンナノチューブは金属性を示す。
【0007】
[シアン色カーボンナノチューブの精製]
レーザー蒸発法を用いて作成されたカーボンナノチューブ(平均直径約1.4nm)6mgをデオキシコール酸ナトリウム(DOC、)1%水溶液30mlに超音波分散させる(ブランソンソニファイアー、レベル2、17時間)。1時間遠心(20万G)をかけ、上澄みを取り出し、CNT分散水溶液を得る。得られたCNT分散水溶液2mlに、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS、シグマアルドリッチより購入:製品コード L6026)20mg、コール酸ナトリウム(SC、シグマアルドリッチより購入:製品コード C6445)20mg、およびiodixanol含有水溶液(第一化学薬品より購入:製品名 Optiprep、iodixanol60%水溶液)2mlを混合させCNT混合液を作製する。
得られたCNT混合液を遠心チューブ内の遠心分離混合溶液(iodixanol濃度20%〜40%にて濃度勾配を形成、SDS1.5%、SC1.5%)に挿入し、遠心分離(20万G、18時間、遠心分離機:ベックマン社製:ローターSW41)を行った。
その結果、遠心チューブ内にいくつかの層が形成された。各々の層を丁寧に分取することにより、金属性CNT分散水溶液(1)、半導体性CNT分散水溶液を分離することができた。金属性CNT分散水溶液(1)は吸収スペクトルや写真で見られるように(図1)シアン色を呈している。
【0008】
[金属性の評価]
上記金属性CNT分散水溶液(1)に等量のメタノール(和光純薬:特級)を加え、孤立分散した金属性CNTを凝集させた後、ポアサイズ10ミクロンのフィルター(ミリポア オムニポアメンブレン)により吸引濾過し、金属性CNT分散水溶液(1)に含まれるiodixanol分子、ドデシル硫酸ナトリウム、コール酸ナトリウムを除去した。フィルター上に残された金属性CNTを再度メタノールに分散し、バス型超音波槽(シャープ製 UT−205H 200W型超音波洗浄機)にて分散後、ポアサイズ1ミクロンのフィルター(ミリポア オムニポアメンブレン)により吸引濾過した。フィルター上に残された金属性CNTをTriton X−100(関東化学より購入)1%水溶液に入れ、バス型超音波槽(シャープ製 UT−205H 200W型超音波洗浄機)にて1時間分散し、金属性CNT分散水溶液(2)を作製した。この金属性CNT分散水溶液(2)をポアサイズ0.22ミクロンのセルロース混合エステル製のメンブレンフィルター(ミリポア GSWP02400)にて吸引濾過し、フィルター表面に金属性CNT薄膜を形成した。さらに純水(ミリポア ミリQ Gradient)を薄膜上から注ぎながら吸引濾過を継続し、Triton X―100を洗い流した後、室温にて乾燥させた。セルロース混合エステル製のメンブレンフィルターに付着した金属性CNT薄膜をアセトン(和光純薬製:特級)中に石英板と共に入れ、セルロース混合エステル製のメンブレンフィルターをアセトンに溶解させて除去することにより、石英基板上に金属性CNT薄膜を形成した。金属性CNT薄膜を形成した石英基板をさらに新しいアセトンに2度含浸させ、セルロース混合エステル製のメンブレンフィルターの残存物を完全に溶解除去し、石英基板上に金属性CNT薄膜を得た。金属性CNT薄膜を1×10―6Torrに真空排気した石英管に入れ、250℃に加熱して1時間保持して乾燥し、金属性CNT薄膜試料を準備した。その結果得られた金属性CNT薄膜の面抵抗は55−100Ω/□であり、金属性に由来する導電性の高い薄膜が得られた。
【0009】
[マゼンタ色カーボンナノチューブの精製]
HiPCO法によって作製されたカーボンナノチューブ(平均直径約1.0nm,CNI社より購入:Rφ500)30mgをデオキシコール酸ナトリウム(DOC、)1%水溶液30mlに超音波分散させる(ブランソンソニファイアー、レベル2、17時間)。1時間遠心(20万G)をかけ、上澄みを取り出し、CNT分散水溶液を得る。得られたCNT分散水溶液2mlに、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS、シグマアルドリッチより購入:製品コード L6026)20mg、コール酸ナトリウム(SC、シグマアルドリッチより購入:製品コード C6445)20mg、およびiodixanol含有水溶液(第一化学薬品より購入:製品名 Optiprep、iodixanol60%水溶液)2mlを混合させCNT混合液を作製する。
得られたCNT混合液を遠心チューブ内の遠心分離混合溶液(iodixanol濃度20%〜40%にて濃度勾配を形成、SDS1.5%、SC1.5%)に挿入し、遠心分離(20万G、18時間、遠心分離機:ベックマン社製:ローターSW41)を行った。
その結果、遠心チューブ内にいくつかの層が形成された。各々の層を丁寧に分取することにより、金属性CNT分散水溶液、半導体性CNT分散水溶液を分離することができた。金属性CNT分散水溶液は吸収スペクトルや写真で見られるように(図2)マゼンタ色を呈している。
【0010】
[イエロー色カーボンナノチューブの精製]
CoMoCAT法によって作製されたカーボンナノチューブ(平均直径約0.8nm、SouthWestNanotechnologies inc.より購入:S−P95−03:ASE−A002)30mgをデオキシコール酸ナトリウム(DOC、)1%水溶液30mlに超音波分散させる(ブランソンソニファイアー、レベル2、17時間)。1時間遠心(20万G)をかけ、上澄みを取り出し、CNT分散水溶液を得る。得られたCNT分散水溶液2mlに、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS、シグマアルドリッチより購入:製品コード L6026)20mg、コール酸ナトリウム(SC、シグマアルドリッチより購入:製品コード C6445)20mg、およびiodixanol含有水溶液(第一化学薬品より購入:製品名 Optiprep、iodixanol60%水溶液)2mlを混合させCNT混合液を作製する。
得られたCNT混合液を遠心チューブ内の遠心分離混合溶液(iodixanol濃度20%〜40%にて濃度勾配を形成、SDS1.5%、SC1.5%)に挿入し、遠心分離(20万G、18時間、遠心分離機:ベックマン社製:ローターSW41)を行った。
その結果、遠心チューブ内にいくつかの層が形成された。各々の層を丁寧に分取することにより、金属性CNT分散水溶液、半導体性CNT分散水溶液を分離することができた。金属性CNT分散水溶液は吸収スペクトルや写真で見られるように(図3)イエロー色を呈している。
【実施例1】
【0011】
[シアン色カーボンナノチューブの精製]
レーザー蒸発法を用いて作成されたカーボンナノチューブ(平均直径約1.4nm)6mgをデオキシコール酸ナトリウム(DOC、関東化学より購入)1%水溶液30mlに超音波分散させる(ブランソンソニファイアー、レベル2、17時間)。1時間遠心(20万G)をかけ、上澄みを取り出し、CNT分散水溶液を得る。得られたCNT分散水溶液2mlに、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS、シグマアルドリッチより購入:製品コード L6026)20mg、コール酸ナトリウム(SC、シグマアルドリッチより購入:製品コード C6445)20mg、およびiodixanol含有水溶液(第一化学薬品より購入:製品名 Optiprep、iodixanol60%水溶液)2mlを混合させCNT混合液を作製する。
得られたCNT混合液を遠心チューブ内の遠心分離混合溶液(iodixanol濃度20%〜40%にて濃度勾配を形成、SDS1.5%、SC1.5%)に挿入し、遠心分離(20万G、18時間、遠心分離機:ベックマン社製:ローターSW41)を行った。
その結果、遠心チューブ内にいくつかの層が形成された。各々の層を丁寧に分取することにより、金属性CNT分散水溶液(1)、半導体性CNT分散水溶液を分離することができた。金属性CNT分散水溶液(1)は吸収スペクトルや写真で見られるように(図1)シアン色を呈している。
上記金属性CNT分散水溶液(1)に等量のメタノール(和光純薬:特級)を加え、孤立分散した金属性CNTを凝集させた後、ポアサイズ10ミクロンのフィルター(ミリポア オムニポアメンブレン)により吸引濾過し、金属性CNT分散水溶液(1)に含まれるiodixanol分子、ドデシル硫酸ナトリウム、コール酸ナトリウムを除去した。フィルター上に残された金属性CNTを再度メタノールに分散し、バス型超音波槽(シャープ製 UT−205H 200W型超音波洗浄機)にて分散後、ポアサイズ1ミクロンのフィルター(ミリポア オムニポアメンブレン)により吸引濾過した。フィルター上に残された金属性CNTをTriton X−100(関東化学より購入)1%水溶液に入れ、バス型超音波槽(シャープ製 UT−205H 200W型超音波洗浄機)にて1時間分散し、金属性CNT分散水溶液(2)を作製した。この金属性CNT分散水溶液(2)をポアサイズ0.22ミクロンのセルロース混合エステル製のメンブレンフィルター(ミリポア GSWP02400)にて吸引濾過し、フィルター表面に金属性CNT薄膜を形成した。さらに純水(ミリポア ミリQ Gradient)を薄膜上から注ぎながら吸引濾過を継続し、Triton X―100を洗い流した後、室温にて乾燥させた。セルロース混合エステル製のメンブレンフィルターに付着した金属性CNT薄膜をアセトン(和光純薬製:特級)中に石英板と共に入れ、セルロース混合エステル製のメンブレンフィルターをアセトンに溶解させて除去することにより、石英基板上に金属性CNT薄膜を形成した。金属性CNT薄膜を形成した石英基板をさらに新しいアセトンに2度含浸させ、セルロース混合エステル製のメンブレンフィルターの残存物を完全に溶解除去し、石英基板上に金属性CNT薄膜を得た。金属性CNT薄膜を1×10―6Torrに真空排気した石英管に入れ、250℃に加熱して1時間保持して乾燥し、金属性CNT薄膜試料を準備した。その結果得られた金属性CNT薄膜の面抵抗は55−100Ω/□であり、金属性に由来する導電性の高い薄膜が得られた。
また、図1に示すようにシアン色カーボンナノチューブをセルロース膜上に薄膜を形成させた場合は青色を示すことから青色インクとして利用可能であることがわかる。
【実施例2】
【0012】
[マゼンタ色カーボンナノチューブの精製]
HiPCO法によって作製されたカーボンナノチューブ(平均直径約1.0nm,CNI社より購入:Rφ500)30mgをデオキシコール酸ナトリウム(DOC、)1%水溶液30mlに超音波分散させる(ブランソンソニファイアー、レベル2、17時間)。1時間遠心(20万G)をかけ、上澄みを取り出し、CNT分散水溶液を得る。得られたCNT分散水溶液2mlに、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS、シグマアルドリッチより購入:製品コード L6026)20mg、コール酸ナトリウム(SC、シグマアルドリッチより購入:製品コード C6445)20mg、およびiodixanol含有水溶液(第一化学薬品より購入:製品名 Optiprep、iodixanol60%水溶液)2mlを混合させCNT混合液を作製する。
得られたCNT混合液を遠心チューブ内の遠心分離混合溶液(iodixanol濃度20%〜40%にて濃度勾配を形成、SDS1.5%、SC1.5%)に挿入し、遠心分離(20万G、18時間、遠心分離機:ベックマン社製:ローターSW41)を行った。
その結果、遠心チューブ内にいくつかの層が形成された。各々の層を丁寧に分取することにより、金属性CNT分散水溶液、半導体性CNT分散水溶液を分離することができた。金属性CNT分散水溶液は吸収スペクトルや写真で見られるように(図2)マゼンタ色を呈している。
【実施例3】
【0013】
[イエロー色カーボンナノチューブの精製]
CoMoCAT法によって作製されたカーボンナノチューブ(平均直径約0.8nm、SouthWestNanotechnologies inc.より購入:S−P95−03:ASE−A002)30mgをデオキシコール酸ナトリウム(DOC、)1%水溶液30mlに超音波分散させる(ブランソンソニファイアー、レベル2、17時間)。1時間遠心(20万G)をかけ、上澄みを取り出し、CNT分散水溶液を得る。得られたCNT分散水溶液2mlに、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS、シグマアルドリッチより購入:製品コード L6026)20mg、コール酸ナトリウム(SC、シグマアルドリッチより購入:製品コード C6445)20mg、およびiodixanol含有水溶液(第一化学薬品より購入:製品名 Optiprep、iodixanol60%水溶液)2mlを混合させCNT混合液を作製する。
得られたCNT混合液を遠心チューブ内の遠心分離混合溶液(iodixanol濃度20%〜40%にて濃度勾配を形成、SDS1.5%、SC1.5%)に挿入し、遠心分離(20万G、18時間、遠心分離機:ベックマン社製:ローターSW41)を行った。
その結果、遠心チューブ内にいくつかの層が形成された。各々の層を丁寧に分取することにより、金属性CNT分散水溶液、半導体性CNT分散水溶液を分離することができた。金属性CNT分散水溶液は吸収スペクトルや写真で見られるように(図3)イエロー色を呈している。
以上の過程により、シアン色、マゼンタ色、イエロー色のカーボンナノチューブを得ることに成功した。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】シアン色カーボンナノチューブの吸収スペクトル及び溶液・およびセルロースフィルター上のシアン色カーボンナノチューブの色
【図2】マゼンタ色カーボンナノチューブの吸収スペクトル及び溶液の写真
【図3】イエロー色カーボンナノチューブの吸収スペクトル及び溶液の写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ分散水溶液にドデシル硫酸ナトリウム、コール酸ナトリウムおよびiodixanol含有水溶液を混合させて得られたカーボンナノチューブ混合液を遠心分離混合溶液に入れて遠心分離して金属性カーボンナノチューブ分散水溶液と半導体性カーボンナノチューブ分散水溶液とを分離して得られた金属性カーボンナノチューブ分散水溶液がシアン色、マゼンタ色、イエロー色を呈することを特徴とする金属性カーボンナノチューブ分散水溶液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−18948(P2009−18948A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−180698(P2007−180698)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】