説明

カーボンナノチューブ配合光造形樹脂電極

【課題】成形性と共に導電性にも優れた光造形樹脂電極を提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、コクーン、カーボンナノコイル、フラーレンおよびこれらの誘導体の少なくとも一種が光造形用樹脂中に混合、分散されたペーストを光照射により硬化させ、基板上に形成せしめた電極。ペースト中には、グラファイトまたは金属粉をさらに添加することができる。この電極は、バイオセンサ用電極などとして有効に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを配合した光造形樹脂電極に関する。さらに詳しくは、バイオセンサ用電極または関連成形体などとして好適に用いられるカーボンナノチューブを配合した光造形樹脂電極に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、電気化学的特性として、触媒活性が他の電極材料より高いことが挙げられ、これを電極として用いた場合、同一電位において、酸化電流、還元電流が大きく感度向上につながることや、測定妨害物質に対する選択性があるといった特徴がある。
【非特許文献1】Nature, 354, 56 (1991)
【0003】
このような(バイオ)センサとしては、例えばミネラルオイルにカーボンナノチューブや酵素を配合し、他の電極の先端に付けるといったものがあるが、これはあくまで実験室的な製作法にすぎず、生産性、経済性、利便性に問題があった。
【非特許文献2】Bioelectrochem. Bioenerg. 41, 121 (1996)
【非特許文献3】Electroanalysis 14, 1609 (2002)
【非特許文献4】J. Am. Chem. Soc. 125, 2408 (2003)
【非特許文献5】Anal. Chem. 75, 2075 (2003)
【非特許文献6】Electrochem. Commun. 5, 689 (2003)
【0004】
一方、ラピッドプロトタイピング(RP、rapid prototyping)の一手法である、光造形法(stereolithography)で用いられる光造形用樹脂(液状紫外線硬化性樹脂)は、3次元CAD上で入力された形状データ用いて、機械加工することなく、一層ずつ積層しながら立体モデル(3次元モデル)を直接生成することができる樹脂である。しかし、形状確認モデルが主な目的であるため、光造形用樹脂は汎用樹脂や導電性樹脂などと比較し、物性的に満足のいくものは少ないのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、成形性と共に導電性にも優れた光造形樹脂電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる本発明の目的は、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、コクーン、カーボンナノコイル、フラーレンおよびこれらの誘導体の少なくとも一種が光造形用樹脂中に混合、分散されたペーストを光照射により硬化させ、基板上に形成せしめた電極によって達成される。
【発明の効果】
【0007】
カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、コクーン、カーボンナノコイル、フラーレンおよびこれらの誘導体の少なくとも一種が、光造形用樹脂中に分散、配合されたペーストに光照射して得られた電極は、成形性および導電性に優れており、バイオセンサ用電極または関連成形体など種々の電極として有効に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
電極形成に用いられるペーストは、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、コクーン、カーボンナノコイル、フラーレンおよびこれらの誘導体の少くとも一種と光造形性樹脂とを混合、分散することにより得ることができる。
【0009】
カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、コクーン、カーボンナノコイル、フラーレンなどのいわゆるナノカーボンは、グラファイトやダイヤモンドなどと同様に炭素の同素体である。この内、カーボンナノチューブはアーク放電法、化学的気相成長法またはレーザー蒸発法などにより製造されたものが用いられ、構造的には多層または単層のいずれのものも用いられる。
【0010】
このようなナノカーボンは、光造形用樹脂との合計量中0.1〜20重量%、好ましくは2〜8重量%の割合で用いられる。ナノカーボンがこれより少ない割合で用いられると、ナノカーボンに起因する特性である優れた導電性などが発現しないことがあり、一方これより多い割合で用いられると、ペースト製作の段階で凝集を起こし易くなり、また紫外線透過が困難となるため硬化時間が長くなり、電極製作が困難となる。
【0011】
また、ナノカーボンに加えて、さらにグラファイトを加えることもできる。このようなグラファイトは、電極形成成分中10〜60重量%、好ましくは30〜45重量%の割合で用いられる。グラファイトがこれより少ない割合で用いられると、電極は導電性を発揮することができない場合があり、一方これより多い割合で用いられると、光造形用樹脂が硬化しなくなる。
【0012】
さらに、物性を改善すべく金属粉を加えることもできる。金属粉としては、一般に粒径が約0.01〜0.5μm、好ましくは約0.02〜0.3μm程度のインジウムスズ酸化物(ITO)、ニッケル、銅、銀、コバルト、酸化チタン、酸化亜鉛などの粒状または針状の粉末が用いられる。これらの金属は、導電性を改善するばかりでなく、ニッケル、銅、銀、コバルトなどは核酸、タンパク質、アミノ酸、アルコールなどに対して反応するので、これらの添加により核酸、タンパク質、アミノ酸、アルコールなどを検知・検出するセンサなどへの応用が可能となる。また、透明電極材料であるインジウムスズ酸化物(ITO)などは、紫外線を透過し易くし、硬化時間短縮の効果も期待できる。
【0013】
このような金属粉は、電極形成成分中30重量%以下、好ましくは5〜20重量%の割合で用いられる。金属粉がこれより多い割合で用いられると、電極が脆く、基板との密着性が低下するようになる。
【0014】
光造形用樹脂は、光重合性オリゴマ−(広義の単量体を含む重合主剤)、反応性希釈剤および光重合開始剤を必須要素とし、これらに必要に応じて光重合助剤、添加剤、着色剤などを配合しているものであり、硬化の反応機構により大別して二つに分類することができる。一つはラジカル重合反応により硬化するタイプであり、もう一つはカチオン重合反応により硬化するタイプである。前者はアクリロイル基やビニル基が官能基であり、後者はエポキシ基やビニルエーテル基が官能基となる。また、使用される光重合性オリゴマ−の種類によって大別して、(a)ウレタンアクリレ−ト系、(b)エポキシアクリレ−ト系、(c)エステルアクリレ−ト系、(d)アクリレ−ト系、(e)エポキシ系、(f)ビニルエーテル系、(g)オキセタン系とに識別される。(a)〜(d)の4種類のものはラジカル重合反応で硬化するタイプであり、(e)〜(f)の3種類のものはカチオン重合反応により硬化するタイプである。現状では、この中でウレタンアクリレ−ト系およびエポキシ系の感光性樹脂が主に使われている。この両者には一長一短があり、その目的に応じて使い分けられている。また、最近ではオキセタン化合物を用いた系も、いくつか提案されるようになっている。ウレタンアクリレート系樹脂は、エポキシ系樹脂に比べ機械特性、および熱的特性にすぐれている。エポキシ系樹脂は重合硬化物の収縮歪みが小さく、そのため造形物の寸法精度の点で有利である。しかし、主剤は特定の脂環族エポキシ化合物に殆ど限定されており、光造形用樹脂としてはエポキシ系が主流になりつつある。
【0015】
エポキシ系、ビニルエーテル系、オキセタン系など光カチオン重合を用いる光造形用樹脂は、カチオン(水素イオン)で反応が開始し、進行する。その重合メカニズムを以下に示す。アリールスルホニウム塩(光カチオン重合開始剤)が紫外線光で励起し、ポリオール等の水素供与化合物から水素を引き抜き、結果として水素イオンを放出する。この水素イオンが、エポキシ基、ビニルエーテル基、オキセタン基などを攻撃して反応が開始する。

【非特許文献7】電子通信学会論文誌, J64-C, No. 4, 237-241頁 (1981)
【非特許文献8】Rev. Sci. Instrum., Vol. 52, No.11, 1770-1773頁 (1981)
【0016】
以上の各成分の混合に際しては、一般の混合機、例えば乳鉢、撹拌翼を有する混合機などが用いられ、ペーストの粘度が高いときには3本ロールなどが、またペーストの粘度が低いときにはボールミルなどを使用することができる。各成分の配合順序は任意である。
【0017】
得られたペーストは、例えばポリエチレンテレフタレートなどのプラスチック、ポリ乳酸などの生分解性材料、紙、セラミック、ガラスなどの基板上に塗布などの方法で適用され、その後365nm波長単色光(i線)、248nm波長単色光(KrFエキシマレーザー光源)、193nm波長単色光(ArFエキシマレーザー光源)、電子線などを約10〜300分間程度照射して、厚さが約1〜200μm程度の電極として形成される。
【0018】
このようにして得られた電極は、バインダーである光造形樹脂中にナノカーボンが分散していることにより、ナノカーボンの特性(導電性など)が発現する。ナノカーボンの特性の発現は、ナノカーボン同志の接触、ナノカーボンとグラファイトや金属粉との接触、グラファイトや金属粉同志の接触、トンネル効果などにより得られる。
【0019】
また、得られたペーストは機能性材料としても使用可能であり、光造形用ばかりでなく、電気回路基板、加熱用エレメント、電磁波シールド材料、磁気遮蔽物、帯電防止物、スイッチ、コネクター、ロール、センサ、バイオセンサ、DNAチップ、プロテインチップなどの成形体の製作に応用することができる。この際、機能性材料としての配合割合は任意である。
【0020】
ナノカーボンを光造形用樹脂に分散、配合し、光照射して得られた電極を用い、バイオセンサを製作することが可能である。電極構造としては、作用極と対極の2極またはこれに参照極を加えた3極の電極のものが用いられ、好ましくはセンサを小型化する観点からは2極のものが、また測定精度の信頼性を高める観点からは、銀塩化銀などの参照極を加えた3極のものが用いられる。バイオセンサとして用いる場合には、これらの電極に加えて、酵素などの有機物質層が形成されたものが用いられる。なお、電極の大きさ、配置は特に限定されない。
【0021】
電極の面積規定法は熱硬化性または光硬化性のレジストをスクリーン印刷で形成するのが好ましい。
【0022】
また2つのバイオセンサを同一基板上に形成することもできる。例えば、グルコースセンサとクレアチニンセンサ、グルコースセンサとケトン体センサ、さらに3つのセンサを同一基板上に形成することもでき、例えばグルコースセンサ、クレアチニンセンサおよびケトン体センサなどである。
【0023】
さらに電極にあっては、予め電極端子が形成された基板の電極端子の一方の端部上に塗布形成することも可能である。この場合、電極端子の材料を選ぶことにより、電流を取り出す端子部分の抵抗を制御できる長所がある。材料としては、白金、パラジウム、銀、銅などの導電性金属単体またはこれらがバインダー樹脂などに分散されたものであり、これらは蒸着、スパッタ、スクリーン印刷、箔貼り付けなどの方法で基板上に電極端子を形成できる。
【0024】
本発明のセンサを用いた測定法としては、酸化電流もしくは還元電流を測定するポテンシャルステップクロノアンペロメトリー法、クーロメトリー法、サイクリックボルタンメトリー法などが用いられる。測定方式としては、デスポーザブル(使い捨て)方式が望ましいが、他にFIA(Flow Injection Analysis)方式やバッチ方式でもよい。
【0025】
測定に際しては、電極間電圧を特定の電圧に設定することにより、測定妨害物質の影響を避け、目的物質を選択的に測定することができる。例えば、血液中または尿中の糖(グルコース)を測定する場合には、電極に電圧をかけて測定するが、電圧により過酸化水素だけでなく、アスコルビン酸、尿酸、アセトアミノフェンなども電極反応してしまうが、カーボンナノチューブを配合した電極は電圧を選択することにより(ここでは特定電圧という)、過酸化水素に電極反応し、これらの夾雑物質にそれほど電極反応しない状態を設定でき、選択性にすぐれたバイオセンサを形成できる。このような特定電圧は、測定物質によって異なる。
【0026】
ここで、電極のみから構成されるセンサを用いた場合には、過酸化水素、NADH、尿酸、ドーパミンなどの神経伝達物質、モノアミン、アルコール、金属イオン、遺伝子損傷マーカーである8-ヒドロキシデオキシグアノシンなどの核酸(特許文献1参照)、たんぱく質(特許文献2参照)、脂質、炭水化物またはそれらの誘導体などが検出できる。
【特許文献1】特開2001−258597号公報
【特許文献2】USP 5653864
【0027】
例えば、過酸化水素は、次式の電極反応に従って酸化または還元された電流を測定することにより、その濃度を電気化学的に測定可能となる。
電極による酸化の場合:H2O2 → O2 + 2H+ + 2e-
電極による還元の場合:H2O2 + 2H+ + 2e- → 2H2O
【0028】
また、電極と共に酵素などの有機物質層から構成されるセンサを用いた場合には、グルコース、エタノール、乳酸、ピルビン酸、コレステロール、クレアチニン、ヘモグロビンエーワンシー、ケトン体(β-ヒドロキシ酪酸、βOHD)などの検出が可能となる。
【0029】
ここで有機物質としては、測定物質に対応した酵素、酵素のミュータント、抗体、核酸、プライマー、ペプチド核酸、核酸プローブ、アプタマー、微生物、オルガネラ、シャペロン、レセプター、細胞組織、クラウンエーテル、フェリシアン化カリウムなどのメディエーター、挿入剤、補酵素、抗体標識物質、基質、界面活性剤、脂質、アルブミン、ナフィオン、チオールなどの官能基導入試薬および共有結合試薬の少なくとも一種が用いられる。例えば、特許文献3に示されるようにDNAチップを作成する場合、核酸プローブやアクリジンオレンジなどのインターカレーター(挿入剤)、トリス(フェナントロリン)コバルト錯体などのメタロインターカレーターなどを用いることができる。
【特許文献3】特開平5−199898号公報
【0030】
有機物質層は、有機物質を水溶液または有機溶剤溶液としてデスペンサーなどにより滴下する方法や有機物質を有機溶剤溶液としてスクリーン印刷法により印刷する方法により、電極上および/または電極周辺の基板上または電極と基板に接触するように形成される。形成された有機物質層は、形成後に乾燥処理を行うことが好ましい。
【0031】
酵素としては、オキシダーゼ、デヒドロゲナーゼなどの酵素、例えばグルコースオキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、ザルコシンオキシダーゼ、フルクトシルアミンオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼが挙げられ、この他にコレステロールエステラーゼ、クレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、DNAポリメラーゼ、さらにこれら酵素のミュータントなどが用いられる。
【0032】
特許文献4〜6に示される如く、酵素センサでは、検体の測定対象によって分子識別素子としての酵素の種類を変えることが必要である。例えば、測定対象がグルコースの場合にはグルコースオキシターゼまたはグルコースデヒドロゲナーゼが、測定対象がエタノールの場合にはアルコールオキシターゼまたはアルコールデヒドロゲナーゼが、測定対象が乳酸の場合には乳酸オキシターゼが、測定対象が総コレステロールなどの場合にはコレステロールエステラーゼとコレステロールオキシダーゼとの混合物などが用いられる。
【特許文献4】USP 6071391
【特許文献5】USP 6156173
【特許文献6】USP 6503381
【0033】
例えば、下記式に示す如く、グルコースオキシダーゼ(GOD)が触媒する反応を用いてグルコースを測定する場合には、発生した過酸化水素を、電極のみから構成されるセンサを用いた場合と同様に、酸化または還元された電流を測定することにより、その濃度が電気化学的に測定可能となり、これにより間接的にグルコース濃度を測定することができる。

グルコース + 酸素 → グルコノラクトン + H22
【0034】
このようなセンサにおいて、反応が溶存酸素濃度に律速され、低濃度の試料しか測定できない場合、検出範囲の拡大を目的として酵素とともに電子伝達体(メディエーター)が使用される。メディエーターにはフェリシアン化カリウム、フェロセン、フェロセン誘導体、ベンゾキノン、キノン誘導体、オスミウム錯体などが用いられる。例えばグルコースを測定する場合、グルコースオキシダーゼやグルコースデヒドロゲナーゼなどの酵素のいずれかと、フェリシアン化カリウムを用いる。酵素により還元されたフェリシアンイオンは、以下の式のようにさらに電極によりフェロシアンイオンに酸化され、このときの電流値を測定することにより、間接的にグルコースを測定することができる。

2[Fe(CN)6]4- → 2[Fe(CN)6]3- + 2e-
【0035】
これらのセンサをとりつける測定器本体はデータをパソコン、携帯電話に有線または無線で送信できる機能を有することが好ましい。例えば、医療・健康関係のバイオセンサの場合、データをグラフ化して自己管理したり、また病院、かかりつけの医者に送信して、データをもとにした相談などができる利点がある。
【実施例】
【0036】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0037】
実施例1
エポキシ系光造形樹脂(シーメット社製品TSR-820)0.2gおよび多層カーボンナノチューブ5、10または14mgをそれぞれ乳鉢を用いて混合して、ペーストを得た。得られたペーストを、厚さ188μmのPETシートに幅10mm、長さ50mmの寸法にスパチラで塗布し、露光装置(Electro Lite Corporation社製ELC-500)を用いて紫外線(波長365nm近辺)を照射して、電極を形成した。それぞれの硬化時間(紫外線照射時間)は45分、126分、180分であり、これらの電極の目視による電極性状は正常で、膜厚は平均150μmであった。抵抗測定装置(三菱化学製ロレスターGP、MCP-T600)を用いて体積抵抗率を測定したところ、それぞれ13.0Ω・cm、3.0Ω・cm、1.0 Ω・cmであった。
【0038】
実施例2
実施例1において、多層カーボンナノチューブ量を0.005gに変更し、さらにグラファイト(フィシャー社製品#38)0.10または0.15gが用いられたところ、それぞれの硬化時間は99分、207分と長くなる一方で、体積抵抗率はそれぞれ2.8Ω・cm、1.1Ω・cmと小さくなった。なお、グラファイトを0.20g配合したものについては紫外線の入射困難のため硬化不可であった。
【0039】
実施例3
実施例1において、多層カーボンナノチューブ量を5.0または10.0mgとし、さらにグラファイト0.1gが用いられたところ、それぞれの硬化時間は99分、234分と非常に長くなる一方で、体積抵抗率はそれぞれ2.9Ω・cm、0.7Ω・cmと非常に小さくなった。なお、多層カーボンナノチューブを15.0mg配合したものは、紫外線の入射困難のため硬化不可であった。
【0040】
実施例4
実施例1において、多層カーボンナノチューブ量を10mgとし、さらに針状ITO 50mgを用いたところ、硬化時間は99分であり、体積抵抗率は4.4Ω・cmであった。この結果より、針状ITOを用いた場合には、体積抵抗率は若干上がるものの、硬化時間が短縮されることが示された。
【0041】
比較例1
実施例1において、多層カーボンナノチューブの代わりに、グラファイト(フィシャー社製品#38)0.05、0.10または0.20gを用いたところ、それぞれの硬化時間は27分、27分、54分であったが、体積抵抗率はグラファイトを0.05、0.10g配合したものについては、抵抗が高すぎるため測定不可であり、0.20g配合したものについては62Ω・cmであった。
【0042】
比較例2
実施例1において、多層カーボンナノチューブの代わりに、針状ITO(住友金属鉱山製品)の0.3、0.4または0.5gを用いたところ、それぞれの硬化時間は27分、27分、27分と同一であったが、体積抵抗率は針状ITOを0.3、0.4g配合したものについては測定不可であり、0.5g配合したものについては789000Ω・cmであった。
【0043】
比較例3
実施例1において、多層カーボンナノチューブの代わりに、粒状ITO(住友金属鉱山製品、粒径 20〜40nm)0.2、0.3または0.4gを用いたところ、それぞれの硬化時間は36分、45分、63分であったが、体積抵抗率はいずれも高すぎるため測定不可であった。
【0044】
比較例4
実施例1において、多層カーボンナノチューブの代わりに、粒状ITO 0.1gおよび針状ITO 0.3、0.4または0.5gを用いたところ、それぞれの硬化時間は63分、81分、108分であり、体積抵抗率は針状ITO 0.3gを配合したものについては測定不可、針状ITO 0.4gを配合したものについては590300Ω・cm、針状ITO 0.5gを配合したものについては172900Ω・cmであった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、コクーン、カーボンナノコイル、フラーレン、これらの誘導体またはこれらの混合物と光造形用樹脂が混合、分散されたペーストを光照射して得られた成形体は、導電性材料、電極材料として用いられる。電極材料として用いた場合、センサが製作可能であり、各種溶液中の成分濃度を電気化学的に測定するセンサ、例えばタンパク質の機能、構造解明に用いるプロテインチップ、脳の機能解明に用いる神経伝達物質センサ、環境管理のための水質検査などに用いられるセンサ、あるいは酵素などを利用して電気化学的に測定する家庭内自己診断用の血糖センサ、尿糖センサ、コレステロールセンサ、クレアチニンセンサ、ケトン体センサ、ヘモグロビンエーワンシーセンサ、エタノールセンサ、乳酸センサ、ピルビン酸センサ、DNAチップなどのバイオセンサとして用いられる。また、上記ペーストは電極形成用としてばかりでなく、電気回路基板、加熱用エレメント、電磁波シールド材料、磁気遮蔽物、帯電防止物、スイッチ、コネクター、ロール、センサ、バイオセンサ、DNAチップまたはプロテインチップなどの製作にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の電極の組成比(CNT)と体積抵抗率の関係を示すグラフである。
【図2】本発明の電極の組成比(グラファイトとCNT)と体積抵抗率の関係を示すグラフである。
【図3】本発明の電極の組成比(グラファイトとCNT)と体積抵抗率の関係を示すグラフである。
【図4】本発明の電極の組成比(グラファイト)と体積抵抗率の関係を示すグラフである。
【図5】本発明の電極の組成比(針状ITO)と体積抵抗率の関係を示すグラフである。
【図6】本発明の電極の組成比(針状ITOと粉状ITO)と体積抵抗率の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、コクーン、カーボンナノコイル、フラーレンおよびこれらの誘導体の少なくとも一種が光造形用樹脂に混合、分散されたペーストを光照射により硬化させ、基板上に形成せしめた電極。
【請求項2】
グラファイトまたは金属粉がさらに添加されたペーストが用いられた請求項1記載の電極。
【請求項3】
予め形成された基板の電極端子の上に形成された請求項1または2記載の電極。
【請求項4】
電極端子の材料が白金、パラジウム、銀、銅またはこれらがバインダー樹脂に分散されたものであり、蒸着、スパッタリング、スクリーン印刷または箔貼り付け方法で電極端子が形成された基板上に設けられる請求項3記載の電極。
【請求項5】
請求項1記載の電極が基板上に形成されたセンサ。
【請求項6】
請求項2記載の電極が基板上に形成されたセンサ。
【請求項7】
請求項3記載の電極が基板上に形成されたセンサ。
【請求項8】
電極上および/または電極周辺の基板上に有機物質が配置された請求項5記載のバイオセンサ。
【請求項9】
電極上および/または電極周辺の基板上に有機物質が配置された請求項6記載のバイオセンサ。
【請求項10】
電極上および/または電極周辺の基板上に有機物質が配置された請求項7記載のバイオセンサ。
【請求項11】
カーボンナノチューブとして、アーク放電法、化学的気相成長法またはレーザー蒸発法のいずれかの方法で製造されたものが用いられた請求項5または8記載のセンサおよびバイオセンサ。
【請求項12】
カーボンナノチューブとして、アーク放電法、化学的気相成長法またはレーザー蒸発法のいずれかの方法で製造されたものが用いられた請求項6または9記載のセンサおよびバイオセンサ。
【請求項13】
カーボンナノチューブとして、アーク放電法、化学的気相成長法またはレーザー蒸発法のいずれかの方法で製造されたものが用いられた請求項7または10記載のセンサおよびバイオセンサ。
【請求項14】
多層または単層のカーボンナノチューブが用いられた請求項5または8記載のセンサおよびバイオセンサ。
【請求項15】
多層または単層のカーボンナノチューブが用いられた請求項6または9記載のセンサおよびバイオセンサ。
【請求項16】
多層または単層のカーボンナノチューブが用いられた請求項7または10記載のセンサおよびバイオセンサ。
【請求項17】
金属粉がインジウムスズ酸化物(ITO)、ニッケル、銅、銀、コバルト、酸化チタンおよび酸化亜鉛の少なくとも一種である請求項2記載のセンサ。
【請求項18】
基板材料としてプラスチック、生分解性材料、紙、セラミックまたはガラスが用いられた請求項5または8記載のセンサおよびバイオセンサ。
【請求項19】
基板材料としてプラスチック、生分解性材料、紙、セラミックまたはガラスが用いられた請求項6または9記載のセンサおよびバイオセンサ。
【請求項20】
基板材料としてプラスチック、生分解性材料、紙、セラミックまたはガラスが用いられた請求項7または10記載のセンサおよびバイオセンサ。
【請求項21】
有機物質が酵素、酵素のミュータント、抗体、核酸、プライマー、ペプチド核酸、核酸プローブ、アプタマー、微生物、オルガネラ、シャペロン、レセプター、細胞組織、クラウンエーテル、メデイエーター、挿入剤、補酵素、抗体標識物質、基質、界面活性剤、脂質、アルブミン、ナフィオン、チオール基導入試薬および共有結合試薬の少なくとも一種である請求項8記載のバイオセンサ。
【請求項22】
有機物質が酵素、酵素のミュータント、抗体、核酸、プライマー、ペプチド核酸、核酸プローブ、アプタマー、微生物、オルガネラ、シャペロン、レセプター、細胞組織、クラウンエーテル、メデイエーター、挿入剤、補酵素、抗体標識物質、基質、界面活性剤、脂質、アルブミン、ナフィオン、チオール基導入試薬および共有結合試薬の少なくとも一種である請求項9記載のバイオセンサ。
【請求項23】
有機物質が酵素、酵素のミュータント、抗体、核酸、プライマー、ペプチド核酸、核酸プローブ、アプタマー、微生物、オルガネラ、シャペロン、レセプター、細胞組織、クラウンエーテル、メデイエーター、挿入剤、補酵素、抗体標識物質、基質、界面活性剤、脂質、アルブミン、ナフィオン、チオール基導入試薬および共有結合試薬の少なくとも一種である請求項10記載のバイオセンサ。
【請求項24】
有機物質と電極または電極周辺の基板との結合が吸着法、共有結合法で行われた請求項8記載のバイオセンサ。
【請求項25】
有機物質と電極または電極周辺の基板との結合が吸着法、共有結合法で行われた請求項9記載のバイオセンサ。
【請求項26】
有機物質と電極または電極周辺の基板との結合が吸着法、共有結合法で行われた請求項10記載のバイオセンサ。
【請求項27】
電極間電圧を特定電圧に設定することにより、測定妨害物質の影響を避け、目的物質を選択的に測定できるようにした請求項8記載のバイオセンサ。
【請求項28】
電極間電圧を特定電圧に設定することにより、測定妨害物質の影響を避け、目的物質を選択的に測定できるようにした請求項9記載のバイオセンサ。請求項2記載のセンサ。
【請求項29】
電極間電圧を特定電圧に設定することにより、測定妨害物質の影響を避け、目的物質を選択的に測定できるようにした請求項10記載のバイオセンサ。
【請求項30】
カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、コクーン、カーボンナノコイル、フラーレンおよびこれらの誘導体の少なくとも一種が光造形用樹脂に混合、分散されたペースト。
【請求項31】
グラファイトまたは金属粉がさらに添加された請求項30記載のペースト。
【請求項32】
請求項30記載のペーストを使用して製作された電気回路基板、加熱用エレメント、電磁波シールド材料、磁気遮蔽物、帯電防止物、スイッチ、コネクター、ロール、センサ、バイオセンサ、DNAチップまたはプロテインチップ。
【請求項33】
請求項31記載のペーストを使用して製作された電気回路基板、加熱用エレメント、電磁波シールド材料、磁気遮蔽物、帯電防止物、スイッチ、コネクター、ロール、センサ、バイオセンサ、DNAチップまたはプロテインチップ。
【請求項34】
有機物質が、グルコースオキシダーゼとフェリシアン化カリウムとの混合物、グルコースデヒドロゲナーゼとフェリシアン化カリウムとの混合物、アルコールオキシダーゼとフェリシアン化カリウムとの混合物、アルコールデヒドロゲナーゼとフェリシアン化カリウムとの混合物、ピルビン酸オキシダーゼとフェリシアン化カリウムとの混合物、ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼとフェリシアン化カリウムとの混合物、フルクトシルアミンオキシダーゼとフェリシアン化カリウムとの混合物、コレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼおよびフェリシアン化カリウムの混合物、ザルコシンオキシダーゼ、クレアチニナーゼ、クレアチナーゼおよびフェリシアン化カリウムの混合物、酵素、ミュータントおよびフェリシアン化カリウムの混合物である請求項8、9または10記載バイオセンサ。
【請求項35】
電極の面積規定法が熱硬化性または光硬化性のレジストをスクリーン印刷で形成する請求項5、6または7記載のセンサ。
【請求項36】
電極の面積規定法が熱硬化性または光硬化性のレジストをスクリーン印刷で形成する請求項8、9または10記載のバイオセンサ。
【請求項37】
2つまたは3つの異なるセンサを同一基板上に形成させた請求項8、9または10記載のバイオセンサ。
【請求項38】
2つの場合はグルコースセンサとクレアチンセンサまたはグルコースセンサとケトン体センサ、3つの場合はグルコースセンサ、クレアチンセンサおよびケトン体センサである請求項37記載のバイオセンサ。
【請求項39】
測定器本体がデータをパソコン、携帯電話に有線または無線で送信できる機能を有する請求項8、9または10記載のバイオセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−260938(P2006−260938A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−76726(P2005−76726)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】