説明

カーボンナノファイバ形成用構造体、カーボンナノファイバ構造体及びその製造方法

【課題】カーボンナノファイバを十分に成長させることができるカーボンナノファイバ形成用構造体、カーボンナノファイバ構造体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】酸素イオン伝導性酸化物を含む基材10と、基材10上に担持される金属触媒30とを備えるカーボンナノファイバ形成用構造体40。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノファイバ形成用構造体、カーボンナノファイバ構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
色素増感太陽電池、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ、燃料電池などの電極や電線として、優れた導電性を有することから、カーボンナノチューブ電極が注目されている。
【0003】
特に色素増感太陽電池においては、カーボンナノチューブ電極は白金電極に匹敵する性能を発揮することから期待が高まってきている。
【0004】
カーボンナノチューブ電極のカーボンナノチューブは通常、基板上に触媒を担持してなるカーボンナノチューブ形成用構造体の触媒上に、化学気相成長法により成長させることによって得られる。ここで、電極の性能を高める観点からは、カーボンナノチューブは長尺であることが望ましい。また、カーボンナノチューブの生産性向上の観点からも、時間あたりのカーボンナノチューブの成長量がより多いことが望ましい。
【0005】
長尺状のカーボンナノチューブを成長させるカーボンナノチューブの製造方法として、例えば特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1に記載の製法では、カーボンナノチューブ形成用構造体として、例えば基板をシリコンで構成し、触媒を鉄で構成したものが用いられている。そして、カーボンナノチューブ成長時に酸化性ガスを使用し、この酸化性ガスによって、触媒に付着した炭素を除去し、その結果、触媒の活性を持続させ、高さが著しく増大したカーボンナノチューブを得ることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-145634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載のカーボンナノチューブの製造方法では、カーボンナノチューブを十分に成長させることができなかった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、カーボンナノチューブ等のカーボンナノファイバを十分に成長させることができるカーボンナノファイバ形成用構造体、カーボンナノファイバ構造体、及びカーボンナノファイバ構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、上記特許文献1に記載の製造方法でカーボンナノチューブを十分に成長させることができない理由について以下のように考えた。すなわち、上記特許文献1に記載の製造方法では、カーボンナノチューブを成長させる際に酸化性ガスを使用するため、カーボンナノチューブが成長するにつれて酸化性ガスが徐々に触媒に届きにくくなる。その結果、触媒が徐々に失活してカーボンナノチューブを十分に成長させることができないのではないかと考えた。そこで、本発明者はさらに鋭意研究を重ねた結果、カーボンナノチューブを成長させる際、基材に酸素イオン伝導性酸化物を含ませることで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、酸素イオン伝導性酸化物を含む基材と、前記基材上に担持される金属触媒とを備えるカーボンナノファイバ形成用構造体である。
【0011】
このカーボンナノファイバ形成用構造体によれば、当該カーボンナノファイバ形成用構造体の金属触媒上に化学気相成長法(以下、「CVD法」と呼ぶことがある)によりカーボンナノファイバを成長させる際、炭素を含有する原料ガスが使用される。このとき、基材が、酸素イオンが移動できる程度の温度に加熱されるため、基材中の酸素イオンが基材を伝導して金属触媒に到達する。その結果、カーボンナノファイバが成長しても、金属触媒に十分な酸素を供給することが可能となり、金属触媒の失活を十分に抑制できるため、カーボンナノファイバを十分に成長させることができる。
【0012】
またこのカーボンナノファイバ形成用構造体によれば、当該カーボンナノファイバ形成用構造体の金属触媒上にCVD法によりカーボンナノファイバを成長させる際、炭素を含有する原料ガスが使用され、基材を、酸素イオンが移動できる程度の温度に加熱すると、基材中の酸素イオンが基材を伝導して金属触媒に到達する。さらに、酸素分子を含有するガスを、基材のうち前記金属触媒とは反対側の面から供給すると、カーボンナノファイバ形成用構造体の金属触媒に、酸素分子が酸素イオンとして効果的に供給される。このため、金属触媒における浸炭や炭素物質の堆積を十分に抑制することが出来、カーボンナノファイバを十分に成長させることができる。加えて、基材に酸素分子を含有するガスが供給されることで、基材中の著しい酸素欠損による基材強度の低下を防止することもできる。
【0013】
上記カーボンナノファイバ形成用構造体において、前記酸素イオン伝導性酸化物がジルコニアを含むことが好ましい。
【0014】
この場合、酸素イオン伝導性酸化物がジルコニアを含まない場合に比べて、カーボンナノファイバの生産性がより高くなる。
【0015】
上記カーボンナノファイバ形成用構造体において、前記金属触媒は、V、Mo、Fe、Co、Ni、Pd、Pt、Rh、Ru及びWからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。この場合、カーボンナノファイバの生産性がより高くなる。すなわち、カーボンナノファイバをより効果的に成長させることができる。
【0016】
本発明は、上記カーボンナノファイバ形成用構造体の上に、CVD法により、炭素を含む原料ガスを供給してカーボンナノファイバを成長させることにより得られるカーボンナノファイバ構造体である。
【0017】
このカーボンナノファイバ構造体は、十分に成長したカーボンナノファイバを有するため、色素増感太陽電池、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ、燃料電池などの電極や電線を形成するのに有用である。
【0018】
また上記カーボンナノファイバ構造体は、上記カーボンナノファイバ形成用構造体に、酸素分子を含有するガスを、前記基材のうち、前記金属触媒とは反対側の面から供給してカーボンナノファイバを成長させることにより得られるカーボンナノファイバ構造体であることが好ましい。
【0019】
このカーボンナノファイバ構造体は、より十分に成長したカーボンナノファイバを有するため、色素増感太陽電池、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ、燃料電池などの電極や電線を形成するのに極めて有用である。
【0020】
本発明は、上記カーボンナノファイバ形成用構造体の金属触媒の上に、CVD法によりカーボンナノファイバを成長させてカーボンナノファイバ構造体を得るカーボンナノファイバ成長工程を含み、前記カーボンナノファイバ成長工程は、炭素を含有する原料ガスを供給して行われるカーボンナノファイバ構造体の製造方法である。
【0021】
この製造方法によれば、カーボンナノファイバ形成用構造体に、CVD法によりカーボンナノファイバを成長させる。この際、カーボンナノファイバ形成用構造体に炭素を含有する原料ガスが供給される。このとき、基材は、酸素イオンが移動できる程度の温度に加熱される。このため、基材中の酸素イオンが基材を伝導して金属触媒に到達する。その結果、カーボンナノファイバが成長しても、金属触媒に十分な酸素を供給することが可能となり、金属触媒の失活を十分に抑制できるため、カーボンナノファイバを十分に成長させることができる。
【0022】
上記製造方法においては、前記酸素イオン伝導性酸化物が500℃以上の高温で酸素イオンを伝導することが可能な高温酸素イオン伝導性酸化物であり、前記カーボンナノファイバ成長工程において、前記カーボンナノファイバ形成用構造体を500℃以上に加熱することが好ましい。
【0023】
この場合、基材が500℃以上に加熱される際に、酸素イオンを伝導させることが容易となるため、金属触媒に十分に酸素イオンを供給することが可能となる。
【0024】
上記製造方法においては、前記カーボンナノファイバ成長工程において、酸素分子を含むガスを、前記カーボンナノファイバ形成用構造体の前記基材に対し、前記金属触媒とは反対側の面から供給することが好ましい。
【0025】
この製造方法によれば、カーボンナノファイバ形成用構造体に、CVD法によりカーボンナノファイバを成長させる。この際、カーボンナノファイバ形成用構造体に炭素を含有する原料ガスが供給される。このとき、基材が、酸素イオンが移動できる程度の温度に加熱されるため、基材中の酸素イオンが基材を伝導して金属触媒に到達する。さらに、酸素分子を含有する酸素分子含有ガスが、基材のうち、金属触媒とは反対側の面から供給されるため、酸素分子含有ガスに含まれる酸素分子が、基材を通して金属触媒に、酸素イオンとしてより効果的に供給される。このため、カーボンナノファイバをより十分に成長させることができる。加えて、基材に酸素分子含有ガスが供給されることで、基材中の著しい酸素欠損による基材強度の低下を防止することもできる。
【0026】
なお、本発明において、「カーボンナノファイバ」とは、太さが50nm以下である中空状又は中実状のものを言う。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、カーボンナノファイバを十分に成長させることができるカーボンナノファイバ形成用構造体、カーボンナノファイバ構造体及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るカーボンナノファイバ構造体の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1のカーボンナノファイバ形成用構造体を示す断面図である。
【図3】図2のカーボンナノファイバ形成用構造体の基材を示す断面図である。
【図4】図2のカーボンナノファイバ形成用構造体を製造する一工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0030】
図1は、本発明のカーボンナノファイバ構造体の一実施形態を示す断面図、図2は、図1のカーボンナノファイバ形成用構造体を示す断面図である。図1に示すように、カーボンナノファイバ構造体100は、カーボンナノファイバ形成用構造体40と、カーボンナノファイバ形成用構造体40の上に設けられるカーボンナノファイバ50とを備えている。図2に示すように、カーボンナノファイバ形成用構造体40は、基材10と、基材10の一面である触媒担持面10a上に担持され、カーボンナノファイバ50を形成する際に触媒として作用する金属触媒30とを備えており、カーボンナノファイバ50は、金属触媒30から基材10と反対方向に向かって延びている。基材10は酸素イオン伝導性酸化物を含む。
【0031】
<製造方法の第1実施形態>
次に、カーボンナノファイバ構造体100の製造方法の第1実施形態について説明する。
【0032】
カーボンナノファイバ構造体100の製造方法は、カーボンナノファイバ形成用構造体40の金属触媒30の上に、CVD法によりカーボンナノファイバ50を成長させてカーボンナノファイバ構造体100を得るカーボンナノファイバ成長工程を含む。カーボンナノファイバ成長工程は、炭素を含有する原料ガスを供給して行われる。本実施形態では、カーボンナノファイバ形成用構造体40の金属触媒30に、酸素を含有するガスは供給されない。
【0033】
この場合でも、カーボンナノファイバ形成用構造体40の金属触媒30上にCVD法によりカーボンナノファイバ50を形成する際、炭素を含有する原料ガスが使用される。このとき、基材10が、酸素イオンが移動できる程度の温度に加熱されるため、基材10中の酸素イオンが基材10を伝導して金属触媒30に到達する。その結果、カーボンナノファイバ50が成長しても、金属触媒30に十分な酸素を供給することが可能となり、金属触媒30の失活を十分に抑制できるため、カーボンナノファイバ50を十分に成長させることができる。
【0034】
以下、上述したカーボンナノファイバ構造体100の製造方法について詳細に説明する。
【0035】
まずカーボンナノファイバ形成用構造体40を準備する。カーボンナノファイバ形成用構造体40は以下のようにして製造される。
【0036】
(基材準備工程)
はじめに基材10を準備する(図3参照)。
【0037】
基材10としては、酸素イオン伝導性酸化物を含むものが用いられる。酸素イオン伝導性酸化物は、酸素イオンを伝導させることができる酸化物であればよいが、CVD法では基材10が500℃以上の高温とされる。このため、酸素イオン伝導性酸化物は、500℃以上の高温で酸素イオンを伝導することが可能な高温酸素イオン伝導性酸化物であることが好ましい。高温酸素イオン伝導性酸化物としては例えばジルコニアを酸化物によって安定化させてなる安定化ジルコニアが使用可能である。ジルコニア等の高温酸素イオン伝導性酸化物の全部又は一部を安定化する酸化物としては、例えばスカンジア、イットリア、ランタニア、セリア、カルシア及びマグネシアなどが挙げられる。これらの酸化物は、高温酸素イオン伝導性酸化物中に2〜13モル%の範囲の濃度で含有されていることが好ましい。また、高温酸素イオン伝導性酸化物としては、酸素欠陥を有するペロブスカイト型酸化物も使用可能である。ペロブスカイト型酸化物としては、例えばチタン酸ストロンチウム、鉄酸カルシウムなどが挙げられる。
【0038】
基材10の厚さは通常は100〜10000μmであるが、500〜5000μmであることが好ましい。この場合、500〜5000μmの範囲を外れた場合に比べて、基材に、十分な強度が備わり、酸素イオンの伝導制御がしやすいという利点がある。
【0039】
(触媒担持工程)
次に、基材10の触媒担持面10a上に金属触媒30を担持させる(図2参照)。金属触媒30は、例えば基材10の触媒担持面10a上にスパッタリング法によって形成した膜を還元雰囲気下で加熱することによって形成することができる。
【0040】
金属触媒30としては、カーボンナノファイバを成長させるのに使用される公知の金属触媒が使用可能である。このような金属触媒としては、例えばV、Mo、Fe、Co、Ni、Pd、Pt、Rh、Ru、W、Al、Au、Tiなどが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することが可能である。中でも、カーボンナノファイバをより効果的に成長させることができるという点から、V、Mo、Fe、Co、Ni、Pd、Pt、Rh、Ru、Wが好ましい。
【0041】
金属触媒30の形状は特に限定されるものではないが、通常は粒子状である。粒子状の金属触媒30の平均粒径は通常は1〜50nmであるが、2〜25nmであることが好ましい。この場合、2〜25nmの範囲を外れた場合に比べてカーボンナノファイバをより効果的に成長させることができるという利点がある。
【0042】
こうしてカーボンナノファイバ形成用構造体40が得られる。
【0043】
次に、CVD法により、炭素を含む原料ガスを用いてカーボンナノファイバ形成用構造体40の金属触媒30の上にカーボンナノファイバ50を成長させる。
【0044】
ここで、炭素を含有する原料ガスとしては、適当な触媒の存在下で、カーボンナノチューブを生じさせるものであればいかなるものでも良く、例えば、メタン、エタン、プロパンなどの飽和炭化水素化合物、エチレン、プロピレン、アセチレンなどの不飽和炭化水素化合物、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素化合物などが挙げられる。これらのうち、メタン、エチレン、プロピレン、アセチレンが好ましい。該炭素含有化合物の導入形態としては、ガス状のまま導入しても良いし、アルゴンのような不活性ガスと混合して導入しても良いし、水素ガスと混合して導入しても良いし、あるいは不活性ガス中の飽和蒸気として導入しても良い。
【0045】
またCVD法においては、熱又はプラズマ等がエネルギー源とされる。
【0046】
このとき、カーボンナノファイバ50を成長させる際の圧力は通常、100〜150000Paであり、好ましくは1000〜122000Paである。またカーボンナノファイバ50を成長させる際の温度は通常、500〜900℃であり、好ましくは550〜800℃である。
【0047】
また既に述べたように、本実施形態では基材10の中の酸素イオンが金属触媒30へ供給される。このため、本実施形態では、基材10のうち金属触媒30が設けられた面10aを除いた面にはこれを覆うコーティングが施されることが好ましい。これは、基材10において表面に到達した酸素イオンが酸素ガスとなって基材10から放出されることが、コーティングによってより十分に抑制され、酸素イオンの供給面が面10aに限定され、金属触媒30に効果的に酸素イオンが供給されるためである。このため、基材10のうち金属触媒30が設けられた面10aを除いた面にコーティングが施されていない場合に比べて、カーボンナノファイバ50をより効果的に成長させることができる。また酸素ガスが基材10から放出されないことで、カーボンナノファイバ50の品質に悪影響が出ることも十分に抑制される。さらに、長時間にわたってカーボンナノファイバ50を成長させる際に、過度の酸素ガス放出による酸素欠損によって、基材10の端部の強度が低下することを防止することができる。このため、長時間にわたるカーボンナノファイバの成長を安定的に行うことができるようになる。
【0048】
コーティングを構成するコーティング材料は、酸素イオンを実質的に伝導しない材料であればよく、このようなコーティング材料としては、例えばガラス、チタニア及び金属が挙げられる。
【0049】
こうしてカーボンナノファイバ構造体100が得られる。
【0050】
こうして得られるカーボンナノファイバ構造体100は、十分に成長したカーボンナノファイバ50を有している。このため、カーボンナノファイバ構造体100を用いて形成したカーボンナノファイバ電極は、色素増感太陽電池、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ、燃料電池などの電極として極めて有用である。なお、カーボンナノファイバ構造体100を用いてカーボンナノファイバ電極を形成する場合は通常、電極用の基板に、カーボンナノファイバ構造体100のカーボンナノファイバ50を転写することが必要である。電極用の基板へのカーボンナノファイバ50の転写は、例えば、電極用基板との間に、導電性粘着フィルムを挟んで圧着するようにして行えばよい。
【0051】
<製造方法の第2実施形態>
次に、カーボンナノファイバ構造体100の製造方法の第2実施形態について説明する。
【0052】
本実施形態の製造方法は、カーボンナノファイバ50を成長させる際に、酸素を含有するガスを基材10のうち金属触媒30が設けられている面10a側から供給する点で第1実施形態の製造方法と相違する。
【0053】
この場合でも、第1実施形態と同様に、カーボンナノファイバ形成用構造体40の金属触媒30上にCVD法によりカーボンナノファイバ50を形成する際、炭素を含有する原料ガスが使用される。このとき、基材10が、酸素イオンが移動できる程度の温度に加熱されるため、基材10中の酸素イオンが基材10を伝導して金属触媒30に到達する。さらに酸素を含有するガスを基材10のうち金属触媒30が設けられている面10a側から供給する。その結果、カーボンナノファイバ50が成長しても、金属触媒30に十分な酸素を供給することが可能となり、金属触媒30の失活が十分に抑制されるため、カーボンナノファイバ50を十分に成長させることができる。
【0054】
ここで、酸素を含有する酸素含有ガスは、適当な温度で、金属触媒30へ酸素を供給できるものであればいかなるものでも良く、このような酸素含有ガスとしては、例えば、純酸素ガス、大気などの酸素分子含有ガスが挙げられる。あるいは、酸素含有ガスとして、水や、一酸化炭素や、メタノール、エタノール、アセトンなどの含酸素炭化水素化合物からなる酸素分子非含有ガスを用いることもできる。これらのうち、含酸素炭化水素化合物は、原料ガスを兼ねることができる。
【0055】
該酸素含有ガスの供給形態としては、それ単独で供給してもよいし、アルゴンのような不活性ガスと混合して供給しても良いし、あるいは不活性ガス中の飽和蒸気として供給しても良い。なお、カーボンナノファイバ50を形成する際の酸素含有ガスを供給した雰囲気中の酸素濃度は酸素分子濃度に換算して、好ましくは0.003〜0.03体積%である。酸素分子濃度が上記範囲内にあると、上記範囲を外れた場合に比べて、より効果的にカーボンナノファイバ50を成長させることができる。
【0056】
なお、本実施形態においても基材10の中の酸素イオンが金属触媒30へ供給される。このため、基材10のうち金属触媒30が設けられた面10aを除いた面にはこれを覆うコーティングが施されることが好ましい。これは、基材10において表面に到達した酸素イオンが酸素ガスとなって基材10から放出されることが、コーティングによってより十分に抑制され、酸素イオンの放出面が面10aに限定され金属触媒30に効果的に酸素イオンが供給されるためである。このため、基材10のうち金属触媒30が設けられた面10aを除いた面にコーティングが施されていない場合に比べて、カーボンナノファイバ50をより効果的に成長させることができる。また酸素ガスが基材10から余剰に放出されることで、カーボンナノファイバ50の成長に最適な条件から酸素濃度が逸脱し、成長に悪影響が出ることも十分に抑制される。さらに、長時間にわたってカーボンナノファイバ50を成長させる際に、過度の酸素ガス放出による酸素欠損によって、基材10の端部の強度が低下することを防止することができる。このため、長時間にわたるカーボンナノファイバ50の成長を安定的に行うことができるようになる。コーティングを構成するコーティング材料としては、第1実施形態と同様のものを用いることができる。
【0057】
<製造方法の第3実施形態>
次に、カーボンナノファイバ構造体100の製造方法の第3実施形態について説明する。
【0058】
本実施形態の製造方法は、カーボンナノファイバ50を成長させる際に、酸素分子を含有する酸素分子含有ガスを、基材10のうち金属触媒30とは反対側の面10b側から供給する点で第1実施形態の製造方法と相違する。
【0059】
酸素分子含有ガスを、基材10のうち金属触媒30とは反対側の面10bから適宜供給することで、酸素分子含有ガスに含まれる酸素分子が、基材10を通して金属触媒30に、酸素イオンとしてより効果的に供給される。このため、金属触媒30への酸素イオン供給量を制御することができ、カーボンナノファイバ50をより十分に成長させることができる。加えて、基材10中の著しい酸素欠損による基材強度の低下を防止することもできる。
【0060】
特に、図4に示すように、筒状体60の一端側の開口をカーボンナノファイバ形成用構造体40の基材10の面10bで塞いだ状態で、基材10の面10bに向かって、すなわち図4の矢印A方向に向かって酸素分子含有ガスを供給することが好ましい。このとき、酸素分子含有ガスが筒状体60とカーボンナノファイバ形成用構造体40の継ぎ目から漏れないようにする。この場合、基材10に供給した原料ガスが筒状体60の内部に混入して酸素分子含有ガスと反応して酸素分子濃度が変化することを十分に抑制し、筒状体60の内部に供給した酸素分子含有ガスを、安定的に基材10の面10bに向かって供給することができる。さらに、基材10のうち面10b側で酸素分子を含有するガスを使用し、基材10のうち面10a側で酸素含有ガスを使用していない。このため、基材10のうち面10a側のカーボンナノファイバ50が酸素分子含有ガスによって酸化されることが十分に抑制され、カーボンナノファイバ50の導電性の低下や強度の低下を十分に抑制することができる。すなわち、カーボンナノファイバ50の品質の低下をより十分に抑制することができる。
【0061】
また本実施形態の製造方法においても基材10の中の酸素イオンが金属触媒30へ供給される。このため、金属触媒30が設けられた面10aと酸素分子含有ガスを供給する面10bを除いた面には、コーティングが施されていることが好ましい。
【0062】
この場合、基材10において表面に到達した酸素イオンが酸素ガスとなって基材10から放出されることがコーティングによって十分に抑制され、酸素イオンの供給面が面10aに限定され、金属触媒30に効果的に酸素イオンが供給される。このため、基材10のうち金属触媒30が設けられた面10aと酸素分子含有ガスを供給する面10bを除いた面にコーティングが施されていない場合に比べて、カーボンナノファイバ50をより効果的に成長させることができる。また酸素ガスが基材10から放出されないことで、カーボンナノファイバ50の品質に悪影響が出ることも十分に抑制される。コーティングを構成するコーティング材料としては、第1実施形態と同様のものを用いることができる。
【0063】
なお、酸素分子含有ガス中の酸素分子濃度は好ましくは0.01〜5体積%である。酸素分子濃度が上記範囲内にあると、上記範囲を外れた場合に比べて、より効果的にカーボンナノファイバ50を成長させることができる。
【0064】
<製造方法の第4実施形態>
次に、カーボンナノファイバ構造体100の製造方法の第4実施形態について説明する。
【0065】
本実施形態の製造方法は、酸素分子を含有する酸素分子含有ガスを、基材10のうち金属触媒30とは反対側の面10b側から供給する点で第2実施形態の製造方法と相違する。
【0066】
酸素分子含有ガスを金属触媒30とは反対側の面10bから適宜供給することで、酸素分子含有ガスに含まれる酸素分子が、基材10を通して金属触媒30に、酸素イオンとしてより効果的に供給される。このため、金属触媒30への酸素イオン供給量を制御することができ、カーボンナノファイバ50をより十分に成長させることができる。加えて、基材10中の著しい酸素欠損による基材強度の低下を防止することもできる。さらに酸素を含有するガスを基材10のうち金属触媒30が設けられている面10a側から供給する。その結果、カーボンナノファイバ50が成長しても、金属触媒30に十分な酸素を供給することが可能となり、金属触媒30の失活を十分に抑制できるため、カーボンナノファイバ50を十分に成長させることができる。
【0067】
特に本実施形態では、第3実施形態と同様、図4に示すように、筒状体60の一端側の開口をカーボンナノファイバ形成用構造体40の基材10の面10bで塞いだ状態で、基材10の面10bに向かって、すなわち図4の矢印A方向に向かって、酸素分子含有ガスを供給することが好ましい。このとき、酸素分子含有ガスが筒状体60とカーボンナノファイバ形成用構造体40との継ぎ目から漏れないようにする。この場合、基材10に供給した原料ガスが筒状体60の内部に漏れることで酸素分子含有ガスと反応して酸素分子濃度が変化することを十分に抑制し、筒状体60の内部に供給した酸素分子含有ガスを、安定的に基材10の面10bに向かって供給することができる。さらに、基材10のうち面10b側で酸素分子含有ガスを使用し、基材10のうち面10a側で酸素含有ガスを使用している。このため、酸素分子含有ガスに含まれる酸素ガスが継ぎ目から余剰に放出されることで、基材10のうち面10a側のカーボンナノファイバ50の成長に最適な条件から酸素濃度が逸脱し、成長に悪影響が出ることも十分に抑制される。
【0068】
また本実施形態の製造方法においても基材10の中の酸素イオンが金属触媒30へ供給される。このため、金属触媒30が設けられた面10aと酸素分子含有ガスを供給する面10bを除いた面には、コーティングが施されていることが好ましい。
【0069】
この場合、基材10において表面に到達した酸素イオンが酸素ガスとなって基材10から放出されることがコーティングによって十分に抑制され、酸素イオンの供給面が面10aに限定され、金属触媒30に効果的に酸素イオンが供給される。このため、基材10のうち金属触媒30が設けられた面10aと酸素分子含有ガスを供給する面10bを除いた面にコーティングが施されていない場合に比べて、カーボンナノファイバ50をより効果的に成長させることができる。また酸素ガスが基材10から余剰に放出されることで、カーボンナノファイバ50の成長に最適な条件から酸素濃度が逸脱し、成長に悪影響が出ることも十分に抑制される。コーティングを構成するコーティング材料としては、第1実施形態と同様のものを用いることができる。
【0070】
なお、面10b側の酸素分子含有ガス中の酸素分子濃度は好ましくは0.01〜5体積%であり、面10a側の酸素含有ガスの酸素濃度は酸素分子濃度に換算して、好ましくは0.003〜0.03体積%である。酸素分子濃度が上記範囲内にあると、上記範囲を外れた場合に比べて、より効果的にカーボンナノファイバ50を成長させることができる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明の内容を、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0072】
(実施例1)
基材となる厚さ1000μmの板状のイットリア安定化ジルコニア基材(イットリア17モル%含有)を準備した。
【0073】
次いで、基材の表面に、スパッタリング法によって、触媒となる厚さ2nmの鉄の薄膜を形成した。こうして、基材及び鉄薄膜で構成される積層体を得た。
【0074】
次に、この積層体を、800℃の温度に設定した電気炉に収容した。このとき、電気炉には大気圧のアルゴンガスを500sccmの流量で供給した。また積層体は、ガスを供給するための酸化アルミニウムからなる筒状体の一端側の開口を基材が塞ぐように配置した。そして、大気圧のアルゴンガスを100sccmの流量で筒状体の内部に供給した。
【0075】
そして、基材の温度が安定した後、アルゴンガス中に2.5体積%となるように水素ガスを混合し、鉄の薄膜を還元して平均粒径5nmの触媒粒子を形成した。こうしてカーボンナノファイバ形成用構造体を得た。
【0076】
次に、電気炉内に供給するアルゴンガス中に、2.5体積%となるようにアセチレンガスを供給した。
【0077】
こうしてカーボンナノファイバを触媒粒子上に10分間にわたって成長させ、カーボンナノファイバ構造体を得た。
【0078】
(実施例2)
基材を構成する材料を、イットリア安定化ジルコニアからチタン酸ストロンチウムに変更したこと以外は実施例1と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0079】
(実施例3)
酸素を0.1体積%含むアルゴンガスの供給を、筒状体を通して、基材の触媒と反対側の面(裏面)から行ったこと以外は実施例1と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0080】
(実施例4)
金属触媒を構成する材料を、鉄からニッケルに変更したこと以外は実施例1と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0081】
(実施例5)
金属触媒を構成する材料を、鉄からコバルトに変更したこと以外は実施例1と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0082】
(実施例6)
金属触媒を構成する材料を、鉄から鉄モリブデン合金に変更したこと以外は実施例1と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0083】
(比較例1)
基材を構成する材料を、イットリア安定化ジルコニアから厚さ500μmの板状のシリコンに変更したこと以外は実施例1と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0084】
(比較例2)
基材を構成する材料を、イットリア安定化ジルコニアから厚さ100μmの板状のチタンに変更したこと以外は実施例1と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0085】
(比較例3)
基材を構成する材料を、イットリア安定化ジルコニアから緻密質アルミナ(酸化アルミニウム)に変更したこと以外は実施例1と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0086】
[評価]
(カーボンナノファイバの長さ)
実施例1〜6及び比較例1〜3のカーボンナノファイバ構造体について、カーボンナノファイバ(CNF:Carbon Nano Fiber)の長さを断面のSEM観察によって調べた。結果を表1に示す。
【表1】

【0087】
表1に示す結果より、実施例1〜6のカーボンナノファイバ構造体におけるカーボンナノファイバが、比較例1〜3のカーボンナノファイバ構造体におけるカーボンナノファイバに比べて、十分に長くなっていることが分かった。このことから、基材の上に金属触媒を担持させる場合には、基材に、酸素イオン伝導性を有する酸化物を含有させることが、カーボンナノチューブの十分な成長に寄与するものと考えられる。
【0088】
以上より、本発明のカーボンナノファイバ形成用構造体によれば、カーボンナノファイバを十分に成長させることができることが確認された。
【符号の説明】
【0089】
10…基材
30…金属触媒
40…カーボンナノファイバ形成用構造体
50…カーボンナノファイバ
100…カーボンナノファイバ構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素イオン伝導性酸化物を含む基材と、
前記基材上に担持される金属触媒とを備えるカーボンナノファイバ形成用構造体。
【請求項2】
前記金属触媒が、V、Mo、Fe、Co、Ni、Pd、Pt、Rh、Ru及びWからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のカーボンナノファイバ形成用構造体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のカーボンナノファイバ形成用構造体の上に、化学気相成長法により、少なくとも炭素を含む原料ガスを供給してカーボンナノファイバを成長させることにより得られるカーボンナノファイバ構造体。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のカーボンナノファイバ形成用構造体の前記金属触媒の上に、化学気相成長法により、カーボンナノファイバを成長させてカーボンナノファイバ構造体を得るカーボンナノファイバ成長工程を含み、
前記カーボンナノファイバ成長工程は、少なくとも炭素を含有する原料ガスを供給して行われるカーボンナノファイバ構造体の製造方法。
【請求項5】
前記酸素イオン伝導性酸化物が500℃以上の高温で酸素イオンを伝導することが可能な高温酸素イオン伝導性酸化物であり、前記カーボンナノファイバ成長工程において、前記カーボンナノファイバ形成用構造体を500℃以上に加熱する請求項4に記載のカーボンナノファイバ構造体の製造方法。
【請求項6】
前記カーボンナノファイバ成長工程において、酸素分子を含有するガスを、前記カーボンナノファイバ形成用構造体の前記基材に対し、前記金属触媒と反対側の面から供給する請求項4又は5に記載のカーボンナノファイバ構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−60341(P2013−60341A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201182(P2011−201182)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】