説明

カーボンナノホーンの製造方法、フッ素化カーボンナノホーン及びその製造方法

【課題】フッ素ガスを多量に吸蔵することができ、フッ素ガスの放出率が極めて高いカーボンナノホーンの製造方法を提供する。
【解決手段】0〜400℃でカーボンナノホーンにフッ素ガスを吸着させる工程(P)、及び、0〜600℃でフッ素ガスを脱着させる工程(Q)を有することを特徴とするカーボンナノホーンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノホーンの製造方法、フッ素化カーボンナノホーン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素ガスは、エネルギー産業におけるウラン濃縮時のUFの合成や、撥水撥油剤、リチウム電池活物質、半導体製造用フルオロポリマー、高分子材料用添加剤、医薬中間体等の工業的に有用な機能性材料の合成に、従来から利用されており、その使用量は年々増加の一途をたどっている。
【0003】
さらにまた、フッ素ガスは、次世代の半導体、液晶製造用ドライエッチャント、クリーニング用ガス、CVD用ガスとしての発展が強く期待されている。
【0004】
しかしながら、フッ素ガスは極めて高い反応性、腐食性を有しており、その貯蔵や取扱いには極めて高い技術力を要する。例えば、このようなフッ素ガスを金属製のシリンダーに貯蔵する場合、安全性の確保のため、低圧下で、窒素等で希釈して充填する必要があった。また、上記シリンダーからフッ素ガスを取り出す際には、特殊な弁装置、減圧装置、安全装置等を何重にも施す必要があった。このため、フッ素ガスの利用は、経済性、生産性に欠けるものであった。
【0005】
また、フッ素ガスを直接貯蔵するのではなく、使用時に反応や加熱等によりフッ素ガスを発生させて利用する方法が知られている。例えば、フッ化水素を含有する溶融塩の電解によりフッ素ガスを発生させたり、金属フッ化物をフッ素貯蔵材料として用い、金属フッ化物の熱分解によりフッ素ガスを発生させたりする方法が知られている。
しかしながら、これらの方法もまた、種々の設備が必要となり、安全性を確保する一方、経済性、生産性が低くなるといった問題があった。また、フッ素貯蔵量が低いといった問題があった。
【0006】
近年、新素材として、カーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノホーン(CNH)が開発され、各種の分野でその利用が図られており、フッ素ガスの貯蔵材料としての検討も行われている。
【0007】
例えば、特許文献1には、カーボンナノチューブをフッ素化し、得られたフッ素化カーボンナノチューブを加熱して、フッ素ガスを取り出す方法が提案されている。
特許文献2には、フッ素化カーボンナノホーンをフッ素貯蔵材料として用いることが開示されており、フッ素化カーボンナノホーンを加熱または減圧することにより高純度のフッ素ガスを取り出すことができることが開示されている。
【0008】
また、カーボンナノチューブやカーボンナノホーンの吸着面積を増やすために開孔処理をすることも知られている(特許文献3)。
特許文献4には、フッ素化開孔カーボンナノホーンを含む含フッ素貯蔵装置、及び、フッ素ガスの取り出し方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−273070号公報
【特許文献2】国際公開第2007/077823号パンフレット
【特許文献3】特開2002−326032号公報
【特許文献4】国際公開第2011/046139号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、これらのカーボンナノホーンは、フッ素ガス放出率が非常に低いものであった。
【0011】
本発明は、上記現状を鑑みて、フッ素ガスを多量に吸蔵することができ、フッ素ガスの放出率が極めて高いカーボンナノホーンを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、カーボンナノホーンにフッ素ガスを吸蔵させる前に、所定の温度でカーボンナノホーンにフッ素ガスを吸着させ、次いで、フッ素ガスを脱着させる処理を行うことにより、フッ素ガスの放出率が極めて高いカーボンナノホーンとすることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、0〜400℃でカーボンナノホーンにフッ素ガスを吸着させる工程(P)、及び、0〜600℃でフッ素ガスを脱着させる工程(Q)を有することを特徴とするカーボンナノホーンの製造方法である。
本発明のカーボンナノホーンの製造方法は、上記カーボンナノホーンにフッ素ガスを吸着させる工程(P)の前に、不活性ガス流通下で200〜650℃でカーボンナノホーンを加熱する工程(O)を有することが好ましい。
本発明のカーボンナノホーンの製造方法は、カーボンナノホーンを開孔処理する工程(N)を更に有することが好ましい。
本発明はまた、上述のカーボンナノホーンの製造方法により得られたカーボンナノホーンをフッ素化したものであることを特徴とするフッ素化カーボンナノホーンでもある。
本発明はまた、上述のカーボンナノホーンの製造方法により得られたカーボンナノホーンをフッ素化する工程(R)を有することを特徴とするフッ素化カーボンナノホーンの製造方法でもある。
以下に、本発明を詳述する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、フッ素ガス(F)放出率が極めて高いカーボンナノホーンを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、0〜400℃でカーボンナノホーンにフッ素ガスを吸着させる工程(P)、及び、0〜600℃でフッ素ガスを脱着させる工程(Q)を有することを特徴とするカーボンナノホーンの製造方法である。
【0016】
本発明のカーボンナノホーンの製造方法においては、所定の温度でカーボンナノホーンにフッ素ガスを吸着させ、脱着させることを行う。このような処理をカーボンナノホーンに行うことにより、上記処理を行わないカーボンナノホーンと比較して、フッ素ガスを吸蔵させたカーボンナノホーンのフッ素ガス放出率を増大させることができる。
上記処理を行った場合にフッ素ガス放出率が増大するのは、上記処理により、フッ素ガスを放出させた際に、放出されたフッ素ガスと反応するおそれのある表面含酸素官能基を減少させることができるためであると考えられる。
【0017】
本発明のカーボンナノホーンの製造方法は、0〜400℃でカーボンナノホーンにフッ素ガスを吸着させる工程(P)を有する。
カーボンナノホーンにフッ素ガスを吸着させる工程は、反応容器中にカーボンナノホーンを封入し、フッ素ガスを導入して加熱して行うことができる。
【0018】
本発明において用いる、処理前のカーボンナノホーン(CNH)(粗カーボンナノホーンともいう)としては、高純度のものが好ましいが、特に限定されず、ダリア状、つぼみ状、種状など公知のものを用いることができる。
具体的には、例えば、レーザーアブレーション法により合成されたホーン長10〜20nm、ホーン端径2〜3nm程度の炭素原子のみから構成されているホーンが50〜100nm程度のダリアの花のような形状を有する二次粒子を形成しているカーボンナノホーン(日本電気(株)製)が挙げられる。
【0019】
上記フッ素ガスを吸着させる工程(P)において、加熱温度は、0〜400℃である。加熱温度が低すぎると、カーボンナノホーンにフッ素ガスを吸蔵させて、フッ素ガスを放出させる際、フッ素ガスの放出が不充分となる。高すぎると、カーボンナノホーンの構造にダメージを与え、有効に放出可能なフッ素ガス吸蔵量が低くなる。加熱温度は、25℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましい。また、加熱温度は、250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。
【0020】
上記フッ素ガスは、純度は高い方が好ましいが、フッ素濃度が1.0質量%以上であればよく、99質量%以下のチッ素やアルゴン、ヘリウムにより希釈されていてもよい。
上記フッ素ガスのフッ素濃度は、反応途中で随時変化させることができるが、反応終了時には10質量%以上がより好ましく、99質量%以上が更に好ましい。
【0021】
上記フッ素ガスは、テトラフルオロエタンやヘキサフルオロエタンのようなフルオロカーボン類、又は、フッ化水素、三フッ化窒素、五フッ化ヨウ素等の無機フッ化物等や酸素、水蒸気などを含んでいても差し支えない。
【0022】
反応容器内の圧力は、0.002〜1.0MPaであることが好ましい。この範囲の圧力であると、フッ素ガスを吸蔵させた場合にフッ素ガス放出率が高いカーボンナノホーンを好適に得ることができる。上記圧力は、0.005〜0.5MPaがより好ましい。
【0023】
反応容器は、ニッケルもしくはニッケルを含む合金、黒鉛、アルミナ、フッ素樹脂等のフッ素ガスに対して耐性がある材料からなることが好ましい。また、SUS製反応容器の内面をフッ素樹脂やダイヤモンドライクカーボン薄膜を施す等、使用温度範囲においてフッ素ガスに対して耐性を有する処理を行っても良い。
【0024】
上記フッ素ガスを吸着させる工程(P)は、上述した条件の範囲内であれば、後述するカーボンナノホーンのフッ素化の方法と同様の方法で行ってもよい。
【0025】
本発明のカーボンナノホーンの製造方法は、次いで、0〜600℃でフッ素ガスを脱着させる工程(Q)を有する。
フッ素ガスの脱着は、上記工程(P)で得られた、フッ素ガスが吸着したカーボンナノホーンを、所定の温度で加熱することにより行う。
脱着のための反応温度は、0〜600℃である。反応温度が低すぎると吸着したフッ素ガス脱着の量が低く留まり、またフッ素ガス脱着の速度が大変遅く、処理時間が長くなる。一方、高すぎるとフッ素ガスの脱着が急激に起こり危険であるだけでなく、カーボンナノホーンの構造にダメージを与え、結果として、フッ素化した際のフッ素ガス放出率が低下する。
上記反応温度は、50℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、500℃以下が好ましい。
【0026】
フッ素ガスの脱着は、減圧雰囲気下で行うことが好ましい。
減圧雰囲気下で行うことにより、フッ素ガスの脱着を促進させ、フッ素化の際のフッ素ガスの吸蔵量を増大させ、放出率を高めることができる。
上記減圧雰囲気下としては、例えば、反応容器内の圧力が100kPa以下であることが好ましく、0.1〜1.0kPaであることがより好ましい。
【0027】
上記フッ素ガスを脱着させる工程(Q)は、上述した条件の範囲内であれば、後述するフッ素化したカーボンナノホーンのフッ素ガスの放出の方法と同様の方法であってもよい。
【0028】
本発明のカーボンナノホーンの製造方法は、上述のカーボンナノホーンにフッ素ガスを吸着させる工程(P)の前に、不活性ガス流通下で200〜650℃でカーボンナノホーンを加熱する工程(O)を更に有することが好ましい。このような特定の加熱工程をあらかじめ施すことにより、得られたカーボンナノホーンをフッ素化した際、フッ素ガスの放出率をより高くすることができる。
【0029】
不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等が挙げられるが、なかでも、窒素ガスが好ましい。
不活性ガスは、本発明の効果に影響を与えない程度に他の成分を含んでいてもよいが、純度が99質量%以上であることが好ましく、99.99質量%以上であることがより好ましい。
【0030】
不活性ガスの流通は、流速10〜1000ml/分であることが好ましい。流速が上述の範囲であると、得られるフッ素化カーボンナノホーンのフッ素ガス放出率を高めることができる。より好ましい流速は、処理のスケールにもよるが、1gスケール程度であると、50ml/分以上であり、200ml/分以下である。100gスケール程度であると、300ml/分以上であり、600ml/分以下である。
【0031】
上記加熱は、200〜650℃で行うことが好ましい。上述の温度範囲外であると、カーボンナノホーンの構造にダメージを与え、結果としてフッ素ガスの放出率が低下するおそれがある。上記加熱は、250℃以上で行うことがより好ましく、350℃以上で行うことが更に好ましい。また、加熱温度は、600℃以下がより好ましく、500℃以下が更に好ましい。
【0032】
本発明のカーボンナノホーンの製造方法は、カーボンナノホーンを開孔処理する工程(N)を更に有することが好ましい。
カーボンナノホーンを開孔処理することにより、フッ素化した際のフッ素ガス吸蔵量を増大させることができ、かつ、フッ素ガスの放出率をより高めることができる。
【0033】
カーボンナノホーンの開孔処理は、カーボンナノホーンを構成する壁部や先端部に、その炭素−炭素結合を部分的に切断して細孔を形成する処理である。
上記開孔処理としては、例えば、特開2002−326032号公報、特開2002−7217号公報等に記載される、酸化性物質を用いて処理する方法や、酸素雰囲気下で酸化処理する方法が挙げられる。
【0034】
カーボンナノホーンを酸化性物質で処理する方法としては、具体的には、例えば、過酸化水素水を貯えたガラス容器中に、カーボンナノホーンを投入し、処理温度25〜100℃、処理時間1〜180分間の範囲内で、攪拌しながら加熱処理を行い、その後、濾過し、乾燥し、粉砕して、開孔処理したカーボンナノホーンを得る方法が挙げられる。
なお、過酸化水素水の代わりに、硝酸、次亜塩素酸、ペルオキソ二硫酸等の酸化性物質を使用してもよい。
また、カーボンナノホーンとの親和性を改善するため、あらかじめカーボンナノホーンをエタノール等の有機溶媒に分散させ、その後、過酸化水素水で同様に処理してもよい。
【0035】
また、カーボンナノホーンを酸素雰囲気下で酸化処理する方法としては、例えば、バッチ方式にて、酸素分圧1〜101kPaの酸素雰囲気下で、温度250〜700℃、1〜120分間の範囲内で、カーボンナノホーンを加熱して、開孔処理したカーボンナノホーンを得る方法が挙げられる。
なお、一度に処理するカーボンナノホーン量が多い場合は、処理の効率性、均一性の観点から、酸素を流通させる方式で酸化処理を行うことが好ましい。
【0036】
上記カーボンナノホーンを開孔処理する工程(N)は、上記フッ素ガスを吸着させる工程(P)の前に行うことが好ましい。また、上記工程(P)の前に、不活性ガス流通下でカーボンナノホーンを加熱する工程(O)を行う場合は、上記工程(O)の前に行うことが好ましい。
【0037】
開孔処理したカーボンナノホーンは、BET比表面積が1000〜1500m/gであることが好ましい。BET比表面積が上述の範囲内であると、より低い温度で多くのフッ素をすばやく吸蔵及び放出することができる。上記BET比表面積は、1300m/g以上がより好ましく、1400m/g以上が更に好ましい。
上記BET比表面積は、Quantachrome製Autosorb−1 MPを用いて測定して得られる値である。
【0038】
開孔処理したカーボンナノホーンは、細孔容積が0.8〜1.4cm/gであることが好ましい。細孔容積が上述の範囲内であると、放出フッ素ガスの純度、フッ素ガスの吸蔵及び放出のサイクル特性を損なわずにフッ素ガスの吸蔵量を増大させることができる。
上記細孔容積は、0.8〜1.2cm/gがより好ましい。
上記細孔容積は、Quantachrome製Autosorb−1 MPを用いて測定して得られる値である。
【0039】
開孔処理したカーボンナノホーンは、ミクロ孔容積が0.3〜0.5cm/gであることが好ましい。ミクロ孔容積が上述の範囲内であると、放出フッ素ガスの純度、フッ素ガスの吸蔵及び放出のサイクル特性を損なわずにフッ素ガスの吸蔵量を増大させることができる。
上記ミクロ孔容積は、0.3〜0.4cm/gがより好ましい。
上記ミクロ孔容積は、Quantachrome製Autosorb−1 MPを用いて測定して得られる値である。
【0040】
開孔処理したカーボンナノホーンは、ラマン分光測定によるDバンドの強度(I)とGバンドの強度(I)の比(I/I)が1.8〜2.6であることが好ましい。
上記比(I/I)が上述の範囲内であると、放出フッ素ガスの純度、フッ素ガスの吸蔵及び放出のサイクル特性を損なわずにフッ素ガスの吸蔵量を増大させることができる。
上記比(I/I)は、2.1〜2.6がより好ましい。
上記比(I/I)は、ブルカーオプティクス社製のRFS100を用いて、励起波長785nmの半導体レーザーを使用し、電子冷却方式のInGaAs検出器で測定して得られる値である。
【0041】
開孔処理したカーボンナノホーンとしては、具体的には、例えば、国際公開第2011/046139号パンフレットに開示されるものが好ましい。
【0042】
このような本発明のカーボンナノホーンの製造方法により得られたカーボンナノホーンは、フッ素ガスの吸蔵量(貯蔵量ともいう)が高く、また、フッ素ガスの放出率も高いものである。
【0043】
本発明の製造方法により得られたカーボンナノホーンに、フッ素ガスを吸蔵させる方法を説明する。なお、本明細書では、カーボンナノホーンにフッ素ガスを吸蔵させることを、カーボンナノホーンのフッ素化ともいう。
上記フッ素化は、カーボンナノホーンにフッ素ガスを直接接触させることによって行う。フッ素化の方法としては、具体的には、例えば、財団法人産業創造研究所紀要 Vol.25 No.3(通巻99号)2005年9月、p06〜p11、ジャーナル・オブ・フィジカル・ケミストリ(Journal of Physical Chemistry)B,108(28),9614−9618(2004)、又は、第32回炭素材料学会予稿集、2005年12月7日発行、p132〜133において開示された公知の方法で行うことができる。すなわち、ニッケルもしくはニッケルを含む合金、黒鉛等の、フッ素に耐食性を有する材料からなる反応器中に、上記で得られたカーボンナノホーンを封入し、フッ素ガスを導入してフッ素化すればよい。
【0044】
フッ素化反応圧力は、0.002〜1.0MPaであることが好ましい。低すぎるとフッ素化速度が遅くなり、高すぎると反応装置が大がかりとなり、生産性、経済性が低くなる。フッ素化反応圧力は、0.005〜0.5MPaがより好ましい。
【0045】
用いるフッ素化用のガスの純度は高い方が好ましいが、フッ素濃度が1.0質量%以上であればよく、99質量%以下のチッ素やアルゴン、ヘリウムにより希釈されていてもよい。
フッ素化用のガスのフッ素濃度はフッ素化反応途中で随時変化させることができるが、反応終了時には10質量%以上がより好ましく、99質量%以上が更に好ましい。
【0046】
また、フッ素化用のガスは、テトラフルオロエタンやヘキサフルオロエタンのようなフルオロカーボン類、又は、フッ化水素、三フッ化窒素、三フッ化塩素、五フッ化ヨウ素等の無機フッ化物等や酸素、水蒸気などを含んでいても差し支えない。
【0047】
フッ素化反応は、十分な容積を有する反応器においてバッチ式で行ってもよく、適宜、フッ素ガスを置換しながら行うセミバッチ式としてもよく、さらに、流通式で行ってもよい。また、一度に大量のカーボンナノホーンのフッ素化を行う場合は、反応を均一化するために反応器に適当な撹拌機構を設けることが好ましい。撹拌機構としては、各種撹拌翼による撹拌、反応器を機械的に回転あるいは振動させる方法、カーボンナノホーンの粉体層を気体の流通により流動させる方法等が用いられるが、過度の撹拌はカーボンナノホーンの構造を破壊するおそれがあるので注意しなければならない。
【0048】
フッ素化反応温度は、−100℃〜500℃の範囲で生産性、経済性、安全性を考慮して選定すればよく、より好ましくは室温(25℃)〜350℃であり、更に好ましくは室温〜150℃である。反応温度が低すぎるとフッ素化の速度が遅くなり、高すぎるとカーボンナノホーンの分解反応が早くなるので、注意を要する。
反応時間は、反応方式、反応条件にもよるが、特に限定されず10秒間から100時間の範囲内で適宜設定することが望ましい。短すぎると十分なフッ素化を行うことが難しくなり、仕込んだカーボンナノホーンの一部のみしかフッ素化されず、カーボンナノホーンの利用効率が低くなる傾向にあり、また長くなりすぎると分解反応を助長するだけでなく、長時間を要するため工業的に生産効率が低くなる。
【0049】
上記フッ素化したカーボンナノホーンは、フッ素原子と炭素原子の組成比F/C(モル比)が0.01〜0.60であることが好ましい。上記組成比において、フッ素原子の割合が少ないと、単位カーボンナノホーンあたりのフッ素ガス貯蔵量が少なくなるおそれがあり、多すぎると、単位カーボンナノホーンあたりのフッ素ガス貯蔵量は大きいもののフッ素ガス放出率は低くなるおそれがある。
上記組成比F/Cは、0.10以上がより好ましく、0.20以上が更に好ましい。
上記組成比は、フッ素化したカーボンナノホーンのフッ素ガス吸蔵量を、カーボンナノホーンのフッ素化前後の質量変化から求めた値である。
【0050】
このような本発明のカーボンナノホーンの製造方法により得られたカーボンナノホーンをフッ素化したものである、フッ素化カーボンナノホーンもまた、本発明の一つである。
【0051】
また、本発明のカーボンナノホーンの製造方法により得られたカーボンナノホーンをフッ素化する工程(R)を有するフッ素化カーボンナノホーンの製造方法もまた、本発明の一つである。
上記フッ素化する工程(R)は、上述したカーボンナノホーンをフッ素化する方法と同様の方法で行うとよい。
【0052】
上記フッ素化カーボンナノホーンからフッ素ガスを放出させる方法としては、フッ素化カーボンナノホーンを加熱する方法、フッ素化カーボンナノホーンを減圧雰囲気下に置く方法、又は、これらを組み合わせる方法などが挙げられる。
【0053】
上記フッ素化カーボンナノホーンを加熱する方法では、加熱することによりフッ素化したカーボンナノホーンを構成する炭素原子とフッ素原子との結合が切れ(脱フッ素化反応)、フッ素ガス(F)が放出される。
加熱温度は、常圧(大気圧)では40℃以上に保持すればよく、さらにはカーボンナノホーンのフッ素化温度よりも高い温度に保持することにより、より効果的にフッ素ガスを放出させることができる。
【0054】
具体的には、加熱温度は、40〜550℃が好ましく、40〜450℃がより好ましい。加熱温度が高すぎると、熱分解によるフルオロカーボン不純物の発生量が多くなり、カーボンナノホーンの構造が変化して繰り返しの使用に支障をきたすことになる。一方、加熱温度が低すぎると、フッ素ガス放出速度が遅くなり、装置としての経済性を欠くことになる。
【0055】
上記フッ素化カーボンナノホーンを減圧雰囲気下に置く方法において、減圧の程度は、より真空に近い方が効果的にフッ素ガスを放出させることができ、必要なフッ素量やガス圧力、フッ素ガス放出速度などを考慮して選択すればよいが、通常、減圧度は100kPa以下が好ましく、1Pa〜50kPaがより好ましい。
【0056】
この減圧方法によれば、加熱する必要がないため、より安全性やエネルギー効率が高いだけでなく、不純物であるフルオロカーボンガスの発生をさらに少なくすることができる。
【0057】
また、減圧雰囲気下で加熱する方法では、更に効率よく、不純物であるフルオロカーボンガスの発生を抑えて、フッ素ガスを放出させることができる。
具体的には、減圧の程度、必要なフッ素ガス圧力、フッ素ガス放出速度などを考慮して選択すればよいが、例えば、減圧雰囲気が1Pa〜50kPaの場合、加熱温度40〜550℃で適宜選択するとよい。
【0058】
放出されたフッ素ガスは、不純物であるフルオロカーボンの量が極めて少ない。上記フッ素化したカーボンナノホーンから放出されたフッ素ガス中のF濃度は、99.995質量%以上であることが好ましく、99.999質量%以上であることがより好ましい。
【0059】
また、上記フッ素化カーボンナノホーンにおいて、放出可能なフッ素ガスの量(放出割合)は、フッ素吸蔵量(フッ素化量)の99質量%以上である。
【0060】
このように本発明の製造方法により得られるカーボンナノホーンは、フッ素ガスの吸蔵量が高く、フッ素ガスの放出率も高いものである。
このため、本発明の製造方法により得られるカーボンナノホーンは、フッ素貯蔵材料としてフッ素貯蔵装置に適用することができる。
【0061】
上記フッ素貯蔵装置は、多量のフッ素ガスを貯蔵でき、また安全かつ効率的に高純度のフッ素ガスを取り出すことができるため、フッ素ガスを必要とする様々な産業において高い利用可能性を有する。とりわけ、フッ素ガスを使用する半導体用途の様々なプロセスや医薬中間体等の精密な合成反応において利用が期待できる。
【0062】
上記フッ素貯蔵装置は、上記カーボンナノホーン、上記カーボンナノホーンを収容する容器、及び、バルブからなることが好ましい。
上記カーボンナノホーンを収容する容器としては、ニッケル、銅、真鍮、モネル合金、ステンレス等の金属製の容器が挙げられる。容器の形状は、円筒状であることが好ましい。また、容器の周囲に電熱線等の加熱手段を設置してもよい。
具体的な容器としては、フッ素貯蔵ボンベ、フッ素貯蔵カートリッジなどの移動可能な貯蔵容器などが例示できるが、これらのみに限定されるものではない。
【0063】
また、上記フッ素貯蔵装置において、上記カーボンナノホーンの代わりに、フッ素化カーボンナノホーンを使用してもよい。
フッ素化カーボンナノホーンを備えたフッ素貯蔵装置においては、上記カーボンナノホーンにフッ素ガスを吸蔵させて、フッ素化カーボンナノホーンをあらかじめ製造した後、上記容器に収容してもよいし、上記容器内に上記カーボンナノホーンを収容した後、該容器内でフッ素化してフッ素化カーボンナノホーンを製造してもよい。
【0064】
容器内でカーボンナノホーンの粉塵の飛散を防止するため、また、充分なカーボンナノホーンの収容量とフッ素ガス放出速度を確保するために、あらかじめ上記カーボンナノホーンを、造粒したり、ローラーコンパクター等を用いて錠剤成形したり、金属あるいは少なくとも表面が金属フッ化物から構成される粒子、繊維、シート、多孔質体に担持させたり、フッ素樹脂に配合し、フィルム状、フィルター状に成形してもよい。
【0065】
また、上記フッ素貯蔵装置のフッ素ガス放出の効率と速度を上げるため、上記容器の内部に、上記カーボンナノホーンをあらかじめ収納した多数のトレイ、カートリッジを設置することができる。
【0066】
上記容器内でフッ素化する方法では、一つの装置で繰り返しフッ素ガスの貯蔵(フッ素化)と放出(取り出し)を容易に行うことができる。
【0067】
本発明のカーボンナノホーンの製造方法により得られるカーボンナノホーンを用いたフッ素貯蔵装置は、フッ素ガスの放出率が非常に高いものである。また、フッ素ガスの吸蔵と放出を容易に繰り返し行うことができる。
【実施例】
【0068】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0069】
(実施例1)
<カーボンナノホーンの調製>
カーボンナノホーン(CNH)として、二酸化炭素レーザーアブレーション法により合成されたホーン長10〜20nm、ホーン端径2〜3nm程度の炭素原子のみから構成されており、ホーンが50nm〜100nm程度のダリアの花のような形状を有する二次粒子を形成しているカーボンナノホーンであり、純度90重量%以上のもの(日本電気(株)製)を用意した。
【0070】
(カーボンナノホーンの開孔処理)
1Lガラス製三角フラスコに上述のカーボンナノホーン10gと30%過酸化水素水400gを仕込み、攪拌しながら1Lガラス製三角フラスコを加熱した。反応終了後、三角フラスコを室温まで冷却し、真空ろ過器を用いて過酸化水素水とカーボンナノホーンとを分離した。分離したカーボンナノホーンをガラス製フラスコに封入し乾燥した。乾燥終了後、フラスコを開放し、得られた開孔処理したカーボンナノホーンをガラス製容器内に保存した。
【0071】
(フッ素ガスの吸着)
上記で得られた開孔処理したカーボンナノホーン1.02gをニッケル製の皿に載せ、ニッケル製反応容器(内容積約200cm)に封入し、まず、反応器内部に高純度窒素ガスを流速100ml/分以下にて流通させて反応器内の空気を十分に置換した。次いで、窒素ガスを流通しながら150℃まで加熱した。反応器内温が安定したところでフッ素ガス(関東電化工業(株)製 純度99.5%)を流通させ、その濃度を反応温度の急激な上昇に留意しながら100%まで徐々に上げた。その後、フッ素ガスの流通を中止して反応器の圧力変化を監視し、1時間で0.5kPa以下の圧力変化となったことを確認し、フッ素ガス吸着の終点とした。反応終了後35℃以下まで放冷してから高純度窒素ガスを流速100ml/分で10分流通させて反応器内部に残存するフッ素ガスを十分に置換したのち反応器を開放し、フッ素ガスが吸着したカーボンナノホーンを得た。
【0072】
(フッ素ガスの脱着)
次に、内容積約200cmのニッケル製反応器内部に、フッ素ガスを吸着させたカーボンナホーン101.1mgを封入し、反応器内部を、液体窒素トラップを経由して接続した耐薬品性仕様のドライ真空ポンプにて約0.1kPaまで減圧した。減圧下、反応器を室温(約25℃)から500℃まで段階的に昇温し(6℃/分で室温から200℃まで昇温し、1.7時間保持し、その後500℃まで13℃/分で昇温させ、1.5時間保持した)、フッ素ガスを脱着させた。
【0073】
<フッ素ガスの吸蔵及び放出>
上述のフッ素ガス脱着後のカーボンナノホーンを、上述したフッ素ガスの吸着と同様の方法にて、フッ素化を行い、質量74.5mgの濃緑色を呈するフッ素化カーボンナノホーンを得た。
得られたフッ素化カーボンナノホーンのフッ素ガス吸蔵量を質量変化から計算するとFとCのモル比(F/C)が0.49、カーボンナノホーン1gあたりのフッ素ガス吸蔵量[F(g)/CNH(g)]が0.78であった。また、XPS測定によると、F/Cは0.91であった。
得られたフッ素化カーボンナノホーンについて、上述のフッ素ガスの脱着と同様の方法にて、フッ素ガスの放出を行った。
【0074】
<放出ガス中のフッ素ガス(F)濃度測定>
放出ガスをフッ化バリウム単結晶の窓を有するガスセル(直径15mm、長さ80mm、内容積1.8ml)に導入し、紫外可視分光光度計(V630型、日本分光社製)にて測定し吸収スペクトルを得た。波長283nmのフッ素ガスに帰属される吸収スペクトルを、予め用意した検量線をもとに解析すると、フッ素ガス放出量は32.3mgであった。
この値を、カーボンナノホーン1gあたりのフッ素ガス放出量[F(g)/CNH(g)]に換算すると0.62となり、カーボンナノホーン1gあたりのフッ素ガス吸蔵量に対するフッ素ガス放出量の比を放出率とすると、79.5%であった。
【0075】
(実施例2)
実施例1において、(フッ素ガスの脱着)及び放出の工程における温度を500℃から200℃に変更した以外は同様の操作により、フッ素ガスの吸蔵・放出実験を行った。
吸蔵の工程で、質量196.8mgの濃緑色を呈するフッ素化カーボンナノホーンを得た。得られたフッ素化カーボンナノホーンのフッ素ガス吸蔵量を質量変化から計算すると、FとCのモル比(F/C)は0.55、カーボンナノホーン1gあたりのフッ素ガス吸蔵量[F(g)/CNH(g)]は0.73であった。また、XPS測定によると、F/Cは1.06であった。
フッ素ガス放出量は、29.8mgであった。この値を、カーボンナノホーン1gあたりのフッ素ガス放出量[F(g)/CNH(g)]に換算すると0.26であった。カーボンナノホーン1gあたりのフッ素ガス吸蔵量に対するフッ素ガス放出量の比を放出率とすると、35.6%であった。
【0076】
(比較例1)
実施例1において、(フッ素ガスの吸着)及び(フッ素ガスの脱着)を行わなかった点以外は、実施例1と同様にして、フッ素ガス吸蔵・放出実験を行った。
吸蔵の工程で、質量1.79gの濃緑色を呈するフッ素化カーボンナノホーンを得た。
得られたフッ素化カーボンナノホーンのフッ素ガス吸蔵量を質量変化から計算すると、FとCのモル比(F/C)は0.47、カーボンナノホーン1gあたりのフッ素ガス吸蔵量[F(g)/CNH(g)]は0.75であった。また、XPS測定によると、F/Cは0.88であった。
フッ素ガス放出量は、13.5mgであった。この値を、カーボンナノホーン1gあたりのフッ素ガス放出量[F(g)/CNH(g)]に換算すると0.22であった。カーボンナノホーン1gあたりのフッ素ガス吸蔵量に対するフッ素ガス放出量の比を放出率とすると、29.3%であった。
【0077】
【表1】

【0078】
表1より、フッ素ガスの吸着及び脱着をいったん行ってからフッ素ガスの吸蔵を行うことにより、カーボンナノホーンのフッ素ガス放出率が向上することがわかる。
【0079】
(実施例3)
<カーボンナノホーンの調製>
カーボンナノホーンとして、二酸化炭素レーザーアブレーション法により合成されたホーン長10〜20nm、ホーン端径2〜3nm程度の炭素原子のみから構成されており、ホーンが50nm〜100nm程度のダリアの花のような形状を有する二次粒子を形成しているカーボンナノホーンであり、純度90重量%以上のもの(日本電気社製)を用意した。
【0080】
(カーボンナノホーンの開孔処理)
1Lガラス製三角フラスコに上述のカーボンナノホーン10gと30%過酸化水素水400gを仕込み、攪拌しながら1Lガラス製三角フラスコを加熱した。反応終了後、三角フラスコを室温まで冷却し、真空ろ過器を用いて過酸化水素水とカーボンナノホーンとを分離した。分離したカーボンナノホーンをガラス製フラスコに封入し乾燥した。乾燥終了後、フラスコを開放し、得られた開孔処理したカーボンナノホーンをガラス製容器内に保存した
【0081】
(カーボンナノホーンの窒素処理)
上記で得られた開孔処理したカーボンナノホーン約50gを、ニッケル製反応器(内容積約200cm)に封入し、高純度窒素(純度99.999%、大陽日酸(株)製)を流速100ml/分で流通させながら、500℃まで10℃/分で昇温した。500℃到達後、窒素ガスを流通させたまま約12時間放置し、その後、窒素流通下で35℃以下まで冷却した後、反応器を開放し、処理後のカーボンナノホーンをガラス製容器内に保存した。
【0082】
(フッ素ガスの吸着及び脱着)
窒素処理後のカーボンナノホーンについて、実施例1の(フッ素ガスの吸着)及び(フッ素ガスの脱着)と同様の方法により、フッ素ガスの吸着及び脱着を行った。
【0083】
<フッ素ガスの吸蔵>
上述の前処理を行ったカーボンナノホーン152.5mgをニッケル製の皿に載せ、ニッケル製反応容器(内容積約200cm)に封入した。そして、反応器内部に高純度窒素ガスを流速100ml/分以下にて流通させて反応器内の空気を十分に置換した。
その後、室温にて高純度フッ素ガス(関東電化工業(株)製 純度99.5%)と高純度窒素ガスの混合ガス(フッ素濃度:15容積%以下)とを、流速100ml/分以下で流通した。フッ素吸着に伴う発熱が収束して温度が安定すると、上記混合ガスを流通しながら、反応器を40℃まで加熱した。反応器内温が安定したところで、フッ素ガスの濃度を、反応温度の急激な上昇に留意しながら100%まで徐々に上げた。その後、フッ素ガスの流通を中止して反応器の圧力変化を監視し、1時間で0.5kPa以下の圧力変化となったことを確認し、フッ素ガス吸蔵の終点とした。反応終了後35℃以下まで放冷してから高純度窒素ガスを流速100ml/分で10分流通させて反応器内部に残存するフッ素ガスを十分に置換したのち反応器を開放し、質量237.9mgの濃緑色を呈するフッ素化カーボンナノホーンを得、ガラス製容器内に保存した。
得られたフッ素化カーボンナノホーンのフッ素ガス吸蔵量を質量変化から計算すると、FとCのモル比(F/C)は0.36、カーボンナノホーン1gあたりのフッ素ガス吸蔵量[F(g)/CNH(g)]は0.56であった。また、XPS測定によると、F/Cは0.40であった。
【0084】
<フッ素ガスの放出>
内容積約200cmのニッケル製反応器内部に上記にて合成したフッ素化カーボンナノホーン200.8mgを封入し、反応器内部を、液体窒素トラップを経由して接続した耐薬品性仕様のドライ真空ポンプにて約0.1kPaまで減圧した。減圧下、反応器を室温(約25℃)から200℃まで段階的に昇温し(1℃/分で室温から50℃まで昇温し、3.0時間保持した。その後100℃まで4℃/分で昇温し、0.5時間保持した。更に、その後、200℃まで3.5℃/分で昇温し、1.0時間保持した)、フッ素ガスを放出させた。
【0085】
放出ガス中のフッ素ガス(F)濃度測定
放出ガスをフッ化バリウム単結晶の窓を有するガスセル(直径15mm、長さ80mm、内容積1.8ml)に導入し、紫外可視分光光度計(V630型、日本分光社製)にて測定し吸収スペクトルを得た。波長283nmのフッ素ガスに帰属される吸収スペクトルを、予め用意した検量線をもとに解析すると、フッ素ガス放出量は48.9mgであった。
この値をカーボンナノホーン1gあたりのフッ素ガス放出量[F(g)/CNH(g)]に換算すると0.38であった。カーボンナノホーン1gあたりのフッ素ガス吸蔵量に対するフッ素ガス放出量の比を放出率とすると、68%であった。
【0086】
放出ガス中の不純物の定量分析
セレン化亜鉛性の窓を有するガスセル(直径40mm、長さ100mm、内容積125ml)を備えたフーリエ変換式赤外分光光度計(IG−1000型 大塚電子社製)に直接発生ガスを導入し、装置内蔵の検量線と解析機構によってフッ素ガス以外の不純物成分を経時変化に定性定量分析した。
50℃昇温時の不純物ガス濃度は、CF:1.1ppm、HF:150ppm、CO:27ppm、CO:0.0ppm、C:0.5ppm、COF:3.1ppmであった。
100℃昇温時の不純物ガス濃度は、CF:1.2ppm、HF:157ppm、CO:34ppm、CO:0.0ppm、C:0.6ppm、COF:1.5ppm、であった。
200℃昇温時の不純物ガス濃度は、CF:2.1ppm、HF:161ppm、CO:57ppm、CO:0.0ppm、C:0.8ppm、COF:1.3ppm、であった。
以上の結果より、高純度のフッ素ガスが発生している事が確認された。
【0087】
(比較例2)
実施例3において、(カーボンナノホーンの窒素処理)と(フッ素の吸着及び脱着)とを行わなかった点以外は実施例3と同様に操作し、フッ素ガス吸蔵・放出実験を行った。
吸蔵の工程で、質量236.4mgの濃緑色を呈するフッ素化カーボンナノホーンを得た。
このフッ素化カーボンナノホーンのフッ素ガス吸蔵量を質量変化から計算すると、FとCのモル比(F/C)は0.29、カーボンナノホーン1gあたりのフッ素ガス吸蔵量[F(g)/CNH(g)]は0.47であった。また、XPS測定によると、F/Cは0.28であった。
フッ素ガス放出量は、4.2mgであった。この値を、カーボンナノホーン1gあたりのフッ素ガス放出量[F(g)/CNH(g)]に換算すると0.02であった。カーボンナノホーン1gあたりのフッ素ガス吸蔵量に対するフッ素ガス放出量の比を放出率とすると、4.3%であった。
【0088】
【表2】

【0089】
表2より、窒素ガスでの処理、並びに、フッ素ガスの吸着及び脱着の処理を行って得られたカーボンナノホーンは、高いフッ素ガス放出率を有することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明によれば、フッ素ガスを多量に吸蔵することができ、フッ素ガスの放出率が極めて高いカーボンナノホーンを得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0〜400℃でカーボンナノホーンにフッ素ガスを吸着させる工程(P)、及び、
0〜600℃でフッ素ガスを脱着させる工程(Q)を有する
ことを特徴とするカーボンナノホーンの製造方法。
【請求項2】
カーボンナノホーンにフッ素ガスを吸着させる工程(P)の前に、不活性ガス流通下で200〜650℃でカーボンナノホーンを加熱する工程(O)を有する請求項1記載のカーボンナノホーンの製造方法。
【請求項3】
カーボンナノホーンを開孔処理する工程(N)を更に有する請求項1又は2記載のカーボンナノホーンの製造方法。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載のカーボンナノホーンの製造方法により得られたカーボンナノホーンをフッ素化したものであることを特徴とするフッ素化カーボンナノホーン。
【請求項5】
請求項1、2又は3記載のカーボンナノホーンの製造方法により得られたカーボンナノホーンをフッ素化する工程(R)を有する
ことを特徴とするフッ素化カーボンナノホーンの製造方法。

【公開番号】特開2013−75811(P2013−75811A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218354(P2011−218354)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテク・先端部材実用化研究開発」「カーボンナノホーンを用いたフッ素貯蔵材料の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】