説明

カーボンバインダー

【課題】 特に50℃以上の高温保存や0℃以下の低温保存を繰り返し行う温度変化(ヒートショック試験)条件でのバインダーの密着性に優れたカーボンバインダーを提供すること。
【解決手段】 共役ジエン系化合物(a)と芳香族ビニル系化合物(b)とエチレン性不飽和カルボン酸系化合物(c)とを含有する重合性単量体類を、重合して得られるポリマー(I)と、酸化防止剤(II)とを含有したカーボンバインダーであって、前記ポリマー(I)が前記重合性単量体類の固形分に対して、乳化剤を0.5重量%以下使用して乳化重合させることで、高温保存と低温保存を繰り返して行う温度変化(ヒートショック試験)条件でのバインダーの電極への密着性を向上させることを特徴とするカーボンバインダー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子機器、各種デイスプレイ、その他の機器、装置等に使用される伝熱性に優れたカーボンバインダーに関し、50℃以上の高温条件や0℃以下の低温条件下で、高温保存と低温保存を繰り返して行う温度変化(ヒートショック試験)条件でのバインダーの基盤への密着性に優れたカーボンバインダーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器又は各種デイスプレイ分野を初めとして、放熱性又は伝熱性に優れたカーボンバインダーが注目されている。例えば、パソコンなどの電子機器においては、近年CPU(中央演算処理装置)の動作周波数の増加により、その発熱量も増加の一途を辿っており、CPU以外の部品についても消費電力は増加傾向にある。一方、装置自体は、益々小型化、軽量化が求められており、これに加えて静音化、消費電力低減の要求もあることから、ファンによる空冷によらない放熱システムが求められている。また、デイスプレイの分野においても、例えばプラズマデイスプレイでは、発熱による温度上昇を抑えることが大きな課題であり、その他有機EL等のデイスプレイにおいても放熱に関する対策が必要となっている。
【0003】
このような分野において、カーボンバインダーと呼ばれる部材が使用されている。この材料は、熱を伝える働きをし、柔らかく部材間の接触熱抵抗を低く抑えることができるが、50℃以上の高温条件や0℃以下の低温条件下で、高温保存と低温保存を繰り返して行う温度変化(ヒートショック試験)条件でのバインダーの基盤に対する密着性は不十分であり満足のいくものではなかった(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特許第3627586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近、急速に要求レベルが高まっている特性、特に50℃以上の高温保存や0℃以下の低温保存を繰り返し行う温度変化(ヒートショック試験)条件でのバインダーの密着性に優れたカーボンバインダーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、50℃以上の高温保存や0℃以下の低温保存を繰り返し行う温度変化(ヒートショック試験)条件でバインダーの密着性に優れたカーボンバインダーを得るべく鋭意検討した結果、共役ジエン系化合物(a)と芳香族ビニル系化合物(b)とエチレン性不飽和カルボン酸系化合物(c)とを含有する重合性単量体類を重合する際に、乳化剤を極力減らして重合して得られるポリマー(I)と、酸化防止剤(II)とを含有する組成物がカーボンバインダーとして、上記の課題を解決することを見出し、本発明を完成するに到った。
【0007】
すなわち、本発明は、共役ジエン系化合物(a)と芳香族ビニル系化合物(b)とエチレン性不飽和カルボン酸系化合物(c)とを含有する重合性単量体類を、乳化剤を前記重合性単量体類の固形分に対して0.01〜0.5重量%を用いて重合して得られるポリマー(I)と、酸化防止剤(II)とを含有することを特徴とするカーボンバインダーを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のカーボンバインダーによれば、0℃以下の低温であっても、密着性に優れた電極用バインダー配合物を得ることが出来、これにより、0℃以下の低温保存を繰り返し行っても電極への密着性に優れるカーボンバインダーを得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のカーボンバインダーは、共役ジエン系化合物(a)と芳香族ビニル系化合物(b)とエチレン性不飽和カルボン酸系化合物(c)とを含有する重合性単量体類を、重合して得られるポリマー(I)と、酸化防止剤(II)とを含有し、更に、前記ポリマー(I)が前記重合性単量体類の固形分に対して、乳化剤を0.01〜0.5重量%使用して乳化重合させることを特徴とするものである。
【0010】
以下、本発明のカーボンバインダーに用いるポリマーについて詳述する。
【0011】
前記ポリマー中に含有する共役ジエン系化合物(a)は共役ジエン系モノマーにより与えられ、その具体例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、及び2,4−ヘキサジエン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの共役ジエン系モノマーは、1種または2種以上の混合物として用いることができる。共役ジエン系モノマーの含有量は、全重合体単量体の25〜98重量%であり、好ましくは、30〜70重量%、特に好ましくは、35〜55重量%である。共役ジエン系モノマーが多すぎるとバインダーの強度が不足し、逆に少なすぎると柔軟性が不足することになる。
【0012】
前記ポリマー中に含有する芳香族ビニル系化合物は、芳香族ビニル系モノマーにより与えられ、その具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルアニソール、α−ハロスチレン、ビニルナフタリン、ジビニルスチレン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの芳香族ビニル系モノマーは、1種以上の混合物として用いることができる。
【0013】
前記ポリマー中に含有するエチレン性不飽和カルボン酸系化合物は、エチレン性不飽和カルボン酸モノマーにより与えられ、分子内にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有するものであれば特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、2−(メタ)アクリロイルプロピオン酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。特に、電極の接着強度の面でイタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸化合物を併用ことが好ましい。エチレン性不飽和ジカルボン酸化合物の含有量は、全重合性単量体の0.05以上であることが、電極の接着強度が高くなることから好ましく、また10重量%以下であることが、集電剤の表面を過度に被覆しにくく、その結果過電圧が上昇したりすることがないことから好ましい。更に、前記の範囲の中でも、0.1〜5重量%が好ましく、0.2〜2重量%が特に好ましい。
【0014】
本発明に用いる酸化防止剤とは、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、及びリン系酸化防止剤からなる群から選ばれる1種以上の化合物である。この中でもバインダーの電極への密着性の点でフェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤の使用が好ましい。フェノール系酸化防止剤としては、2,2′−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2′−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4′−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(ノルマルオクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスフォネート−ジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト、2,4−ビス〔(オクチルチオ)メチル〕−オルト−クレゾール、イソオクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス〔メチレン3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、3,9−ビス[2−〔3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニオキシ〕−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5・5〕ウンデカン等が挙げられる。
【0015】
アミン系酸化防止剤としては、2,2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル−ベンゾトリアゾール、4,4’−ビス−(2,2−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、ビス(1,2,2,6、6−ペンタメチル−4−ピペリジルデカンジオナート等が挙げられる。イオウ系酸化防止剤としては、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオネート、2−メルカプトベンズイミダゾール等が挙げられる。リン系酸化防止剤としては、トリスノニルフェニルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイト等が挙げられる。酸化防止剤としては、上記に限定されるわけではない。酸化防止剤の含有量は、前記ポリマー100重量部に対して、0.01〜5.0重量部であることが必須であり、0.05〜3重量部が好ましく、0.1〜1重量部が特に好ましい。0.01重量部未満であると耐熱性が得られず5.0重量部を越えると重合速度が非常に遅くなり実用的ではない。この酸化防止剤の添加方法は、重合開始前に一括仕込みしてもよいし、又重合開始時に少量存在させ、重合途中で残りを添加しても良い。
【0016】
本発明のカーボンバインダー中のポリマーは、通常粒子形状で分散媒中に分散されている。粒子存在の確認は、透過型電子顕微鏡法や光学顕微鏡法等によって容易にできる。
【0017】
前記ポリマーを得る方法は特に制限されない。ポリマーが水に分散されたラテックスを製造し、このラテックスをそのままバインダーとして用いることもできるし、得られたラテックスの水を有機分散媒に置換してポリマーの有機分散体を得、これをバインダーとして用いることもできる。分散媒の置換方法としては、ラテックスに有機分散媒を加えた後、分散媒中の水分を蒸留法、分別濾過法、分散媒相転換法などにより除去する方法などが挙げられる。
【0018】
前記ラテックスの製造方法は特に制限されず、乳化重合法、懸濁重合法などによって製造することが出来る。例えば、「実験化学講座」第28巻、(発行元:丸善(株)、日本化学会編)に記載された方法、即ち、攪拌機及び加熱装置付きの密閉容器に水、分散剤や乳化剤、架橋剤等の添加剤、開始剤、及び原料となるモノマーを所定の組成になるように加え、攪拌してモノマー等を水に懸濁あるいは乳化させ、攪拌しながら温度を上昇させることによって、ジエン系ポリマーが水に分散したラテックスを得ることができる。乳化剤や分散剤、重合開始剤などはこれらの重合法において一般的に用いられるものでよい。また重合に際しては、シード粒子を採用すること(シード重合)もできる。
【0019】
乳化重合法で使用する乳化剤は、乳化重合で使用されているものであれば如何なるものでも用いることができる。代表的なものをあげると、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキル硫酸塩類類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルスルホン酸塩類、ジアルキルスルホサクシネートの塩類等のアニオン乳化剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体等のノニオン乳化剤などが挙げられる。勿論、これらに限定されるものではなく、乳化重合時に用いることが出来る乳化剤であれば上記骨格に限定せず、如何なるものでも用いることが出来、また、これらを複数種併用することも可能である。
【0020】
更に、一般的に「反応性乳化剤」と称される重合性不飽和基を分子内に有する乳化剤を使用することも出来る。反応性乳化剤の具体例としては、ビニルスルホン酸ソーダ、アクリル酸ポリオキシエチレン硫酸アンモニウム、メタクリル酸ポリオキシエチレンスルホン酸ソーダ、ポリオキシエチレンアルケニルフェニルスルホン酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルケニルフェニル硫酸ソーダ、ナトリウムアリルアルキルスルホサクシネート、メタクリル酸ポリオキシプロピレンスルホン酸ソーダ等のアニオン系反応性乳化剤、ポリオキシエチレンアルケニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンメタクリロイルエーテル等のノニオン系反応性乳化剤などが挙げられる。
【0021】
また、一般的に市販されている反応性乳化剤、例えば、アクアロンHS−10、ニューフロンティアA−229E〔以上、第一工業製薬(株)製〕、アデカリアソープSE−3N、SE−5N、SE−10N、SE−20N、SE−30N〔以上、旭電化工業(株)製〕、AntoxMS−60、MS−2N、RA−1120、RA−2614〔以上、日本乳化剤(株)製〕、エレミノールJS−2、RS−30〔以上、三洋化成工業(株)製〕、ラテムルS−120A、S−180A、S−180〔以上、花王(株)製〕等のアニオン型反応性乳化剤、アクアロンRN−20、RN−30,RN−50,ニューフロンティアN−177E〔以上、第一工業製薬(株)製〕、アデカリアソープNE−10、NE−20,NE−30、NE−40〔以上、旭電化工業(株)製〕、RMA−564,RMA−568,RMA−1114〔以上、日本乳化剤(株)製〕、NKエステルM−20G、M−40G、M−90G、M−230G〔以上、新中村化学工業(株)製〕等のノニオン型反応性乳化剤等、乳化重合反応に使用できるものであれば、何等問題なく、如何なるものでも用いることができる。勿論、これらを複数種併用することも可能である。
モノマーの重合の際に用いる重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤が用いられ、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類、過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物類、過酸化水素等があり、これら過酸化物のみを用いてラジカル重合するか、或いは前記過酸化物と、アスコルビン酸、ホルムアルデヒドスルホキシラートの金属塩、チオ硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、塩化第二鉄等のような還元剤とを併用したレドックス重合開始剤系によっても重合でき、また、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等のアゾ系開始剤を使用することも可能であり、これらの1種または2種以上の混合物が使用できる。
【0022】
乳化剤の使用量は、通常、乳化重合の反応性を考慮し、重合性単量体類の固形分に対して、0.5重量%以上使用するが、0.5重量%以上使用した場合、残存する乳化剤のバインダーの性能への影響が著しく、50℃以上の高温保存や0℃以下の低温保存を繰り返し行う温度変化(ヒートショック試験)条件下でバインダーの密着性が著しく低下する。本発明者らは、50℃以上の高温保存や0℃以下の低温保存を繰り返し行う温度変化(ヒートショック試験)条件でバインダーの密着性に優れたカーボンバインダーを得るべく鋭意検討した結果、共役ジエン系化合物(a)と芳香族ビニル系化合物(b)とエチレン性不飽和カルボン酸系化合物(c)とを含有する重合性単量体類を、重合して得られるポリマー(I)と、酸化防止剤(II)とを含有し、更に、前記ポリマー(I)が前記重合性単量体類の固形分に対して、乳化剤を0.5重量%以下使用して乳化重合させることで、50℃以上の高温保存や0℃以下の低温保存を繰り返し行う温度変化(ヒートショック試験)条件でバインダーの密着性が良好であることを見出し、本発明を完成するに到った。
上記のモノマーの重合の際に用いる重合開始剤の内、有機過酸化物類としては、例えば、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、tert−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、tert−ブチルパーオキシラウレート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル類、クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物が使用できる。
【0023】
また、重合の際に用いる重合開始剤の内、還元性有機化合物としては、例えば、アスコルビン酸およびその塩、エリソルビン酸およびその塩、酒石酸およびその塩、クエン酸およびその塩、ホルムアルデヒドスルホキシラートの金属塩等が挙げられ、上記有機過酸化物類と併用して、これらの1種または2種以上の混合物が使用できる。
【0024】
本発明において、前記ポリマーの重合体の分子量を調整する必要がある場合は、分子量調整剤として連鎖移動能を有する化合物、例えば、ラウリルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸、チオグリセリン等のメルカプタン類、またはα−メチルスチレン・ダイマー等を添加してもよい。
【0025】
更にこれらの方法によって得られるラテックスに、アルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs)水酸化物、アンモニア、無機アンモニウム化合物(NHClなど)、有機アミン化合物(エタノールアミン、ジエチルアミンなど)などが溶解している塩基性水溶液を加えてpH5〜13、好ましくは6〜12の範囲になるように調整することができる。なかでも、アンモニア及びアルカリ金属水酸化物を用いるpH調整は、集電体と活物質との結着性を向上させるため好ましい。
【0026】
本発明のカーボンバインダーの固形分濃度は特に限定するものではないが、通常10〜65重量%、好ましくは20〜65重量%である。
【0027】
本発明のカーボンバインダーを、あらかじめ水性分散剤と導電性カーボンと必要に応じて水を加えた水性分散体として、混合し、更に高剪断力を有する分散装置により混合して調製することで、カーボンバインダー配合物を得ることが出来る。高剪断力を有する分散装置としては、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザーなどを挙げることが出来る。高剪断力を有する装置を用いることにより、導電性カーボンとラテックスはサブミクロンのレベルで混合することが出来る。さらに分散効率と生産効率の観点から全水性分散剤量の50%以上と全導電性カーボン量の50重量%以上をあらかじめ混合し、上記高剪断力を有する装置で微分散した後に、残余の水性分散剤と残余の導電性カーボン及びラテックスを混合することが好ましい。分散の度合いは、つぶゲージを用いて調べることができ、好ましくは10μm以下、更に好ましくは3μm以下、特に好ましくは1μm以下である。
【0028】
前記カーボンバインダー配合物は、各種バインダーとして各種添加剤とともに混合して集電材に塗布して電極とすることができる。バインダーとして基板に使用する量は特に限定するものではないが、通常カーボン100重量部に対して組成物の固形分として0.1〜30重量部、好ましくは0.5〜10重量部である。0.1重量部未満では良好な接着力が得られず、30重量部を超えると過電圧が著しく上昇し電気特性に悪影響を及ぼす。
【0029】
更に本発明のカーボンバインダーには、添加剤として水溶性増粘剤を前記ポリマー、例えば、カルボキシ変性スチレンブタジエン共重合体ラテックス固形分100重量部に対して2〜60重量部用いてもよい。水溶性増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸(塩)、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼインなどが含まれる。本発明で用いるカーボンの平均粒径は電流効率の低下、スラリーの安定性の低下、また得られる電極の塗膜内での粒子間抵抗の増大などの問題より、0.1〜200μm、好ましくは3〜100μm、さらに好ましくは5〜50μmの範囲であることが好適である。
【0030】
本発明のカーボンバインダーは、塗工液として基材上に塗布し、前記の条件での加熱、乾燥し、成形する。この時要すれば集電体材料と共に成形してもよいし、また別法としてアルミ箔、銅箔、ニッケル箔などの集電体を基材として用いることもできる。また、ここで用いる塗布方法としてリバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、エアーナイフ法など種々のコーターヘッドを用いることができる。乾燥方法には特に制限はないが、放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機などが使用できる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。なお、以下に示す実施例及び比較例において、部または%は、特に断りのない限り重量基準である。実施例および比較例中の各種評価は、次のようにして行なった。
【0032】
金属箔との密着性評価方法:50μmの銅箔とニッケル箔にバインダーを塗布して120℃×10分乾燥し、膜厚15μmの塗布膜を得た。得られた塗膜は、ヒートショック試験機を用い、60℃で1時間試験機中に放置した後、−20℃で更に1時間放置した。これを1回のサイクルとして同操作を100回繰り返した。密着性を碁盤目試験法JIS K5600に準じて塗布膜に碁盤目状の傷をつけて、その上にセロハン粘着テープを貼り付け、剥がした後に残ったマス目の数より評価した。例えば密着性が良好であればマス目がすべて塗布膜上に残り、100/100と示す。
【0033】
実施例1
窒素置換した撹拌機付オートクレーブにイオン交換水125部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ネオペレックスF−25、花王製品)を有効成分量として0.1部、キレート剤としてクレワットTAA0.2部(帝国化学産業製品)、tert−ドデシルメルカプタン0.4部を仕込み表1に示す組成の単量体100部及び4,4’−ビス−(2,2−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(酸化防止剤(1))0.4部を仕込み過硫酸アンモニウム0.15部を加えて撹拌しながら65℃〜80℃の温度範囲で7時間、重合率99.2%迄乳化重合を行なった後、水蒸気蒸留による未反応単量体の除去、濃縮及び20重量%水酸化カリウム水溶液の添加によるpH調整を行い固形分48.9%のカーボンバインダー[A−1]を得た。重合は安定に進行し、凝集物の発生も全く認められず、また得られたバインダーA−1も極めて安定なものであった。
【0034】
実施例2
ブタジエン及びスチレンの使用量を表1に示す量にした以外は実施例1と同様にして固形分49.6%のカーボンバインダー[A−2]を得た。
【0035】
実施例3
イタコン酸の代わりにフマル酸を用い、乳化剤0.1部の代わりに0.2部にした以外は実施例1と同様にして固形分46.7%のカーボンバインダー[A−3]を得た。
【0036】
実施例4
4,4’−ビス−(2,2−ジメチルベンジル)ジフェニルアミンの代わりにトリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(酸化防止剤(2))を用いる以外は実施例1と同様にして固形分49.7%のカーボンバインダー[A−4]を得た。
【0037】
比較例1
窒素置換した撹拌機付オートクレーブにイオン交換水125部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ネオペレックスF−25、花王製品)を有効成分量として0.6部、キレート剤としてクレワットTAA0.2部(帝国化学産業製品)、tert−ドデシルメルカプタン0.4部を仕込み表2に示す組成の単量体100部を仕込み過硫酸アンモニウム0.15部を加えて撹拌しながら65℃〜80℃の温度範囲で7時間、重合率99.5%迄乳化重合を行なった後、水蒸気蒸留による未反応単量体の除去、濃縮及び25重量%アンモニア水の添加によるpH調整を行い固形分48.9%のカーボンバインダー[B−1]を得た。重合は安定に進行し、凝集物の発生も全く認められず、また得られたカーボンバインダー[B−1]も極めて安定なものであった。
【0038】
比較例2
イタコン酸の代わりにフマル酸を用い、4,4’−ビス−(2,2−ジメチルベンジル)ジフェニルアミンの代わりにトリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(酸化防止剤(2))を用いる以外は比較例1と同様にして固形分48.8%のバインダー[B−2]を得た。得られたカーボンバインダーの密着性の試験結果を表2に示す。表より、酸化防止剤の存在下で、基盤へのカーボンバインダーの密着性が向上することは明らかである。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役ジエン系化合物(a)と芳香族ビニル系化合物(b)とエチレン性不飽和カルボン酸系化合物(c)とを含有する重合性単量体類を、乳化剤を前記重合性単量体類の固形分に対して0.01〜0.5重量%を用いて重合して得られるポリマー(I)と、酸化防止剤(II)とを含有することを特徴とするカーボンバインダー。
【請求項2】
更に、前記ポリマー(I)が前記重合性単量体類の固形分に対して、乳化剤を0.5重量%使用して乳化重合して得られるものである請求項1記載のカーボンバインダー。
【請求項3】
前記ポリマー(I)中のエチレン性不飽和カルボン酸系化合物(c)由来の構造単位の含有率が前記ポリマー(I)の0.05〜10.0重量%である請求項1、又は2記載のカーボンバインダー。
【請求項4】
前記酸化防止剤(II)が、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、及びリン系酸化防止剤からなる群から選ばれる1種以上の化合物である請求項1、2又は3記載のカーボンバインダー。
【請求項5】
前記酸化防止剤(II)がアミン系化合物及び/又はフェノール系化合物である請求項4記載のカーボンバインダー。
【請求項6】
更に、前記共役ジエン系化合物(a)が、クロロプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、及び2,4−ヘキサジエンからなる群から選ばれる1種以上の化合物を含有するものである請求項1〜5の何れか1つに記載のカーボンバインダー。

【公開番号】特開2008−195743(P2008−195743A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29090(P2007−29090)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】