説明

カーボンブラック、その製造方法および用途

【課題】導電性付与能力に優れたカーボンブラック、その製造方法、導電性組成物を提供する。
【解決手段】(1)カーボン球状粒子の連鎖部と(2)カーボン棒状粒子の連鎖部とが連結された鎖状体を含むカーボンブラックで、そのカーボンブラックを、アセチレンガスと、炭化水素と、カーボンナノチューブ化触媒とを含む混合原料を、炭化水素の熱分解温度以上の高温場に供給し、熱処理することにより、又は、アセチレンガスの熱分解中に、及び/又はアセチレンガスを熱分解させた状態で、カーボンナノチューブ化触媒を含む炭化水素を供給し、炭化水素の熱分解温度以上の温度で熱処理することにより製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラック、その製造方法および用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばゴム、樹脂等にカーボンブラック含有させ導電性を付与させることが行われている。特に、アセチレンブラックはカーボン球状粒子の連鎖構造を有するため、一般のカーボンブラックに比べて導電性付与能力に優れているため広く使用されている。しかし、樹脂等に一段と高い導電性を付与することが要求されている今日、樹脂等の本来の物性を低下させないでカーボンブラックを配合できる最大量はほぼ決まっているので、この要求を満たすには、導電性付与能力に一段と優れたカーボンブラックを開発すること以外には良策がない状況下にある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
登録商標ケッチェンブラック(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製)は、アセチレンブラックの約2倍の導電性付与能力があるといわているが極めて高価である。本発明の目的は、登録商標ケッチェンブラックに匹敵する導電性付与能力を有するカーボンブラックと、その製造方法と、それを樹脂及び/又はゴムに配合させた組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、(1)カーボン球状粒子の連鎖部と(2)カーボン棒状粒子の連鎖部とが連結された鎖状体を含むカーボンブラックを提供する。この場合において、カーボン球状粒子の連鎖部がアセチレンブラックを、カーボン棒状粒子の連鎖部がアセチレンブラック以外のカーボンブラックを含むことが好ましい。
【0005】
また、本発明は、上記カーボンブラックと、上記該カーボンブラック以外のカーボンブラックとを含有するカーボンブラック粉末を提供する。この場合において、上記カーボンブラックをカーボンブラック粉末に対して10質量%以上含有することが好ましい。
【0006】
また、本発明は、アセチレンガスと、炭化水素と、カーボンナノチューブ化触媒とを含む混合原料を、該炭化水素の熱分解温度以上の高温場に供給し、該混合物を熱処理する、カーボンブラックの製造方法を提供する。また、本発明は、アセチレンガスの熱分解中に、及び/又はアセチレンガスを熱分解させた状態で、カーボンナノチューブ化触媒を含む炭化水素を供給し、得られた該混合物を、該炭化水素の熱分解温度以上の温度で熱処理する、カーボンブラックの製造方法を提供する。
【0007】
さらに、本発明は、本発明のカーボンブラック又はカーボンブラック粉末を、樹脂及び/又はゴムに含有させてなる組成物を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のカーボンブラック又はカーボンブラック粉末は、従来のアセチレンブラックよりも導電性付与能力に優れている。その結果、カーボン又はカーボン粉末の樹脂等への配合量を従来のアセチレンブラックよりも少なくしても、従来と同等の導電性を有する樹脂及び/又はゴムを含む組成物を提供することができる。また、本発明のカーボンブラックの製造方法によれば、本発明のカーボンブラック又は本発明のカーボンブラック粉末を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のカーボンブラックは、図1、2に示したように、カーボン球状粒子の連鎖部(1)とカーボン棒状粒子の連鎖部(2)とが連結された鎖状体を含んでいる。本発明のカーボンブラックは、アセチレンブラックがカーボン球状粒子の連鎖部(1)のみから構成されているのと比べて特異な構造である。カーボン球状粒子の連鎖部(1)は、従来のアセチレンブラックの連鎖構造と同様に、好ましくは10〜200nm、特に好ましくは20〜100nmのカーボン球状粒子の複数個が連鎖した構造であることが好ましい。一方、カーボン棒状粒子の連鎖部(2)は、長さが好ましくは0.1〜1000μm、特に好ましくは0.2〜100μmで、長短径比が好ましくは2以上、特に好ましくは5以上の繊維状粒子の複数個が連鎖した構造であることが好ましい。
【0010】
カーボン球状粒子の連鎖部(1)とカーボン棒状粒子の連鎖部(2)との結合部は、少なくとも一カ所あればよい。カーボン球状粒子の連鎖部(1)の長さは、一個の鎖状体中の全長に対し、5〜99%であることが好ましく、特に10〜95%であることが好ましい。また、カーボン球状粒子の連鎖部を含むカーボンブラックがアセチレンブラックを含み、カーボン棒状粒子の連鎖部を含むカーボンブラックがアセチレンブラック以外のカーボンブラックを含むカーボンブラックが好ましい。本発明のカーボンブラックは、後述する本発明のカーボンブラックの製造方法によって製造することができる。
【0011】
本発明のカーボンブラック粉末は、本発明のカーボンブラックと、このカーボンブラック以外のカーボンブラックとの混合物を含むものである。本発明のカーボンブラック以外のカーボンブラックとしては、例えばアセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、更には本発明に係るカーボンブラックの繊維状部(2)のみから構成されているカーボンブラック等を例示することができる。本発明のカーボンブラック粉末は、本発明のカーボンブラックをカーボンブラック粉末の質量に対して10〜100質量%、特に20〜100質量%含有することが好ましい。
【0012】
本発明のカーボンブラック粉末は、本発明のカーボンブラックを製造し、それと本発明のカーボンブラック以外のカーボンブラックとを混合して製造することができる。また、後述する本発明のカーボンブラックの製造方法において、その条件を選ぶことによっても製造することができる。
【0013】
本発明のカーボンブラックの製造方法は、アセチレンガスと、炭化水素と、カーボンナノチューブ化触媒とを含む混合原料を、炭化水素の熱分解温度以上の高温場に供給し、熱処理するものである。炭化水素としては、例えばメタン,エタン,プロパン,ブタン等の飽和炭化水素、例えばエチレン,プロピレン,ブテン,ブタジエン等の2重結合を有する不飽和炭化水素、例えばアセチレン,プロピン,ブチン等の3重結合を有する不飽和炭化水素、例えばベンゼン,トルエン,キシレン等の芳香族炭化水素などを用いることができる。中でも、芳香族炭化水素が常温で液体でありナノチューブ化触媒と事前に混合調整しやすいので特に好ましい。
【0014】
また、ナノチューブ化触媒としては、例えばCo,Ni,Fe,Mo,S,V,Cr等の微粒子を用いることができる。中でも、フェロセンやチオフェン等の有機物質はベンゼン等の芳香族炭化水素に可溶なため取り扱いが容易で、しかも化合物中に含まれる元素が原子サイズのため反応場中では微粒子よりも触媒として有効に作用するので特に好ましい。
【0015】
アセチレンガスと、炭化水素と、ナノチューブ化触媒とを含む混合原料の各成分の割合の一例を示せば、アセチレンガスが40〜99質量%、アセチレンガス以外の炭化水素が1〜60質量%、ナノチューブ化触媒が炭化水素100質量部に対し5〜20質量部である。高温場の温度の一例は500〜2000℃である。
【0016】
本発明の製造方法においては、アセチレンガスの熱分解中に、及び/又はアセチレンガスを熱分解させた状態で、炭化水素を供給し、炭化水素の熱分解温度以上の温度で熱処理することが望ましい。
【0017】
カーボン棒状粒子の連鎖部(2)は通常500〜2000℃で生成するが、低温ほど生成し易い性質を有するので、500〜1700℃、特に500〜1500℃で生成させることが好ましい。一方、アセチレンガスの熱分解温度(すなわちカーボン球状粒子の連鎖部(1)の生成温度)は約2000℃である。そのため、アセチレンガスと、炭化水素と、ナノチューブ化触媒を混合し、その混合原料を高温場に供給するよりも、あるいはナノチューブ化触媒を含む炭化水素をアセチレンガスの熱分解中に供給するよりも、まずはアセチレンガスを高温場に供給し熱分解させてカーボン球状粒子の連鎖部(1)を生成させ、ナノチューブ化触媒を含む炭化水素を同一反応容器内の500℃〜2000℃の領域に供給しカーボン棒状連鎖部を生成させ、それぞれを同一反応容器内で連結,成長させることが好ましい。
【0018】
たとえば、従来のアセチレンガスの製造装置(例えば特開昭56−93765号公報)を用い、縦型熱分解炉の上方からアセチレンガスを供給し、その周辺の温度500〜2000℃の任意の部分から、ガス化されたナノチューブ化触媒を含む炭化水素を、例えば水素等のキャリアガスに同伴させて供給することが好ましい。とくに、ガス化されたナノチューブ化触媒を含む炭化水素をアセチレン供給部よりも更に上方部から供給すると、その部分はアセチレンガスの熱分解温度場よりも低い温度領域であるので、より効率的にカーボン棒状粒子の連鎖部を生成させることができる。しかも、その後、カーボン棒状粒子の連鎖部は炉内を流下し、アセチレンガスの熱分解領域においてカーボン球状粒子の連鎖部と接触し、カーボン棒状粒子の連鎖部の生成領域よりもより高温領域を通過するので、カーボン棒状粒子の連鎖部の結晶性を高めることができる。もちろん、ガス化されたナノチューブ化触媒を含む炭化水素は、アセチレンガスの導入部よりも下方の500℃〜2000℃の領域に導入してもよい。生成したカーボンブラックは、サイクロン、バグフィルター、電気集塵機等の捕集装置によって捕集される。その後、必要に応じて、酸処理等によるカーボンブラックの精製が行われる。
【0019】
本発明の製造方法において、カーボン球状粒子の連鎖部(1)における球状粒子の大きさとその鎖状部の長さは、例えばアセチレンガスの導入量、炭化水素の導入量によって制御することができ、また棒状粒子の連鎖部(2)の棒状粒子の大きさとその鎖状部の長さは、例えば炭化水素の導入量、ナノチューブ化触媒量、これらの供給位置によって制御することができる。
【0020】
本発明の組成物は、本発明のカーボンブラック又は本発明のカーボンブラック粉末を樹脂及びゴムの少なくとも一方に混合したものである。その混合方法の一例を示せば、原料を、例えばブレンダー、ヘンシェルミキサー等の混合機によって混合した後、更に必要に応じて、加熱ロール、ニーダー、一軸又は二軸の押出機等によって混練する方法をあげることができる。また、混合割合の一例を示せば、樹脂及びゴムの少なくとも一方が100質量部に対して、カーボンブラックが5〜150質量部である。
【0021】
樹脂としては、汎用プラスチック、汎用エンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチック、その他の樹脂を用いることができる。汎用プラスチックとしては、ポリエチレン、エチレン/酢酸ビニル樹脂、エチレン/ビニルアルコール樹脂、ポリメチルペンテン、環状オレフィン共重合体等のオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、エチレン/塩化ビニル樹脂等の塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン、スチレン/アクリロニトリル樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂等のスチレン系樹脂、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂が挙げられる。汎用エンジニアリングプラスチックとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性ポリエステル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテルが挙げられる。スーパーエンジニアリングプラスチックとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリアクリレート、熱可塑性ポリイミド、ケトン系樹脂、スルホン系樹脂が挙げられる。その他の樹脂としては、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、アルキド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルエステル、ポリイミド、フラン樹脂、キシレン樹脂、熱硬化性強化プラスチックやポリマーアロイが挙げられる。
【0022】
また、ゴムとしては、例えば天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンターポリマー、エチレンとα−オレフィンとの共重合ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ポリエステル等の熱可塑性エラストマー、クロロプレンゴム、ポリブタジエン、ヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン等である。
【実施例】
【0023】
次に実施例により本発明の具体的態様を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0024】
(実施例1〜3及び比較例)
縦型熱分解炉(全長6m、直径0.5m)の上方の温度2000℃の部分から、表1に示す割合でアセチレンガスを熱分解炉に供給する一方、更にその上方の温度1000℃の部分から、表1に示す割合でフェロセンとチオフェンを含むガス化したベンゼンを水素ガスに同伴させて熱分解炉に供給した。生成したカーボンブラックを熱分解炉の下部に直結されたバグフィルターから捕集した。実施例1と比較例で得られたカーボンブラックの透過型電子顕微鏡による組織観察を行った。それらの結果を図1、図3に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
実施例1〜3と比較例で得られたカーボンブラックの導電性付与能力を評価するため、以下に従って樹脂組成物を調整し体積固有抵抗を測定した。
【0027】
(1)体積固有抵抗:カーボンブラックとPS樹脂(東洋スチレン社製商品名「H700」)を表2に示す割合で配合し、混練機(東洋精機製作所社製商品名「ラボプラストミル」)を用い、ブレード回転数30rpm、温度150℃で10分間混練した。この混練物を200℃に加熱し9.8×10Paの圧力で加圧成形して2×20×70mmの試験片を作製し、デジタルマルチメータ(横河電機社商品名「デジタルマルチメータ 7562」)を用い、SRI2301に準じて体積固有抵抗を測定した。
(2)体積固有抵抗の測定で使用した試験片を2×5×5mmの大きさに切断し、流動性測定器(東洋精機製作所社製商品名「メルトインデクサーA−111」)で200℃の加熱下、5kgの荷重下にて内径2mmのノズルから流れる10分間当たりの樹脂組成物の質量(MFI)を測定した。得られた結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
本発明のカーボンブラック(実施例1〜3)は、アセチレンブラック(比較例)よりも導電性付与能力と流動性に優れ、また登録商標「ケッチェンブラック」(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社)よりも優れるものもあった(実験番号2と8対比)。
【0030】
本発明のカーボンブラック又はカーボンブラック粉末は、樹脂・ゴムへの導電性付与剤の他に、塗料、一次電池、二次電池、燃料電池、キャパシタ等の電池用導電剤、帯電防止剤、導電紙用導電剤として利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
導電性付与能力に優れたカーボンブラック、その製造方法、導電性組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のカーボンブラックの構造の一例を示す電子顕微鏡写真(倍率:5万倍)
【図2】図1の電子顕微鏡写真のトレース図
【図3】アセチレンブラックの構造の一例を示す電子顕微鏡写真(倍率:5万倍)
【図4】図3の電子顕微鏡写真のトレース図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)カーボン球状粒子の連鎖部と(2)カーボン棒状粒子の連鎖部とが連結された鎖状体を含むカーボンブラック。
【請求項2】
カーボン球状粒子の連鎖部がアセチレンブラックを、カーボン棒状粒子の連鎖部がアセチレンブラック以外のカーボンブラックを含む請求項1に記載のカーボンブラック。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のカーボンブラックと、該カーボンブラック以外のカーボンブラックとを含有するカーボンブラック粉末。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のカーボンブラックを、カーボンブラック粉末に対して10質量%以上含有する請求項3に記載のカーボンブラック粉末。
【請求項5】
アセチレンガスと、炭化水素と、カーボンナノチューブ化触媒とを含む混合原料を、該炭化水素の熱分解温度以上の高温場に供給し、該混合物を熱処理する、カーボンブラックの製造方法。
【請求項6】
アセチレンガスの熱分解中に、及び/又はアセチレンガスを熱分解させた状態で、カーボンナノチューブ化触媒を含む炭化水素を供給し、得られた混合物を、該炭化水素の熱分解温度以上の温度で熱処理する、カーボンブラックの製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載されたカーボンブラック、又は請求項3又は4に記載されたカーボンブラック粉末を、樹脂及び/又はゴムに含有させてなる組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−503182(P2009−503182A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−523592(P2008−523592)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際出願番号】PCT/JP2006/315356
【国際公開番号】WO2007/013678
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(508026308)デンカ シンガポール プライベート リミテッド (1)
【Fターム(参考)】