説明

カーボンブラック分散液、インク組成物及びインクジェット記録方法

【課題】耐熱保存安定性に優れた水性カーボンブラック分散液を提供する。
【解決手段】少なくともカーボンブラック、ポリマー、及び水性媒体を含み、粘度が4.0cp以下で、密閉状態で70℃で1週間保存したときのpHの下がり幅が1.0以下であるカーボンブラック分散液。粘度が4.0cp以下で、密閉状態で70℃で1週間保存したときのpHの下がり幅が1.0以下である本発明のカーボンブラック分散液は、従来のものと比較して良好な耐熱保存安定性を有する。好ましくは、ポリマーの酸価は240mg−KOH/g以下であり、ポリマーの重量平均分子量が15,000以上で、且つ重量平均分子量4,000以下の成分の含有量が20重量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともカーボンブラック、ポリマー、及び水性媒体を含み、粘度と、密閉状態で70℃で1週間保存したときのpHの下がり幅が特定の範囲であるカーボンブラック分散液に関する。詳しくは、インクジェットプリンター等の記録液として好適なカーボンブラック分散液と、このカーボンブラック分散液を含むインク組成物と、このインク組成物を用いたインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンターは、フルカラーの高解像画像が容易に得られること、消費電力が少ないこと、導入コストやランニングコストが安いこと、更には電子写真印刷同等の高速印字が出来るようになってきたこと、などの理由から、ビジネスユースの利用が急速に広がりつつある。現在、インクジェットプリンターに用いる記録液としては水性の記録液が主流であり、特にブラックインクに関しては、色材に顔料であるカーボンブラックを用いた水性記録液が主流となりつつある。
【0003】
インクジェット記録においては、近年、印刷物の解像度の向上に伴い、インク吐出ノズルからの1回のインク吐出量が著しく少なくなっている。更に、ビジネスユースをターゲットにした場合には、電子写真印刷並みの印字速度、高印字濃度、更には高印字耐久性といった要求が益々高まっている。このため、顔料分散型の水性記録液に対して、これまでよりも高い顔料分散安定性が求められてきている。
【0004】
これに対して現在、顔料を水溶性高分子で分散した高分子分散型顔料分散液の開発が進められている。しかし、このものは顔料の分散には寄与しない遊離の水溶性高分子が水性媒体中に存在してしまうため、この分散液を用いたインクは粘度が高くなり、保存安定性や吐出安定性が不十分となりやすいといった問題点があった。特にカーボンブラック分散液は保存時における凝集傾向が強く、この点における改善が強く望まれていた。
【0005】
そこで、上記のような点を改善するために開発が行われてきた。
例えば、特許文献1においては、水、水溶性有機溶剤、分散染料あるいは顔料、アルカリ可溶性水溶性高分子及び/又は特定の界面活性剤を含有する水系分散インクが、分散安定性と吐出安定性が優れていることが開示されている。
また、特許文献2においては、顔料と樹脂分散剤との重量比を特定範囲とすると共に、熱可塑性樹脂エマルジョンをも含有するインクジェット記録用インク組成物が、保存中に物性変化がなかったことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−209048号公報
【特許文献2】特開平9−176533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1には、顔料として実際にカーボンブラックを用いた実施例はなく、本発明者らの検討によると、この特許文献1に例示されているようなインクを、顔料としてカーボンブラックを用いて調製した場合の保存安定性は不十分であった。
【0008】
また、特許文献2に記載されるようなエマルジョンを含む分散液は、本発明者らの検討によると、粘度が高く、十分な保存安定性が得られないことが判明した。
【0009】
本発明は上記従来の問題点を解決し、顔料としてカーボンブラックを用いた水性顔料分散液であって、分散性、保存安定性、特に70℃程度の比較的高い温度での保存安定性(耐熱保存安定性)に優れ、且つ低粘度であるため、特にインクジェットプリンター等の記録液に好適に用いることができるカーボンブラック分散液と、このカーボンブラック分散液を含むインク組成物と、このインク組成物を用いて、高品質かつ高耐久性のインクジェット記録物を得るインクジェット記録方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく、カーボンブラックの水性分散液について鋭意検討を行った。その結果、カーボンブラックの水性分散液では、一般的に不純物や未反応物の影響で経時によりpHが低下する傾向があり、加温条件で保存した際はその傾向が特に顕著に見られること、このようなカーボンブラックの水性分散液の中で、特にそのpH低下幅が少ない、且つ低粘度のカーボンブラック分散液が、保存安定性、特に耐熱保存安定性に優れることを見出した。すなわち、少なくともカーボンブラック、ポリマー、及び水性媒体を含み、粘度が4.0cp以下で、密閉状態で70℃で1週間保存したときのpHの下がり幅が1.0以下であるカーボンブラック分散液が、耐熱保存安定性等の保存安定性、吐出耐久性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の要旨は、少なくともカーボンブラック、ポリマー、及び水性媒体を含み、粘度が4.0cp以下で、密閉状態で70℃で1週間保存したときのpHの下がり幅が1.0以下であることを特徴とするカーボンブラック分散液(請求項1)、に存する。
【0012】
本発明の別の要旨は、このカーボンブラック分散液を含むことを特徴とするインク組成物(請求項6)、に存する。
【0013】
本発明の更に別の要旨は、このインク組成物の液滴をインクジェットヘッドから吐出させ、該液滴を記録媒体に付着させることを特徴とするインクジェット記録方法(請求項7)、に存する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のカーボンブラック分散液は、分散性、保存安定性に優れ、且つ低粘度であるため、このような本発明のカーボンブラック分散液は特にインクジェットプリンター等の記録液に好適に用いることができ、本発明のカーボンブラック分散液を含む本発明のインク組成物を用い、本発明のインクジェット記録方法に従って高品質かつ高耐久性のインクジェット記録物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容には特定されない。
【0016】
[カーボンブラック分散液]
本発明のカーボンブラック分散液は、少なくともカーボンブラック、ポリマー、及び水性媒体を含み、粘度が4.0cp以下で、密閉状態で70℃で1週間保存したときのpHの下がり幅が1.0以下であることを特徴とするものである。
【0017】
{作用機構}
本発明のカーボンブラック分散液が、本発明の効果を奏する作用機構の詳細は明らかではないが、次のように考えられる。
即ち、カーボンブラック分散液中において、カーボンブラックを安定的に分散させる役割を担うのはポリマーが有する電荷の量及び立体障害であるが、分散液のpHが低下するとこのうち特に電荷量が減少し、その結果、分散体同士の斥力が分散状態を保つのに十分でなくなってカーボンブラックが凝集してしまう。また、分散液の粘度が高いと、ポリマー鎖同士の絡み合いが大きく、分散体同士の橋かけ凝集が起こりやすい。そして、このような凝集傾向は加温条件下においてより顕著である。従って、凝集を抑制するためには分散液のpH低下を抑え、低粘度にすることが必要となる。
このようなことから、本発明では、密閉状態で70℃で1週間保存したときのpHの下がり幅を1.0以下、また、粘度を4.0cp以下にすることによって、高い保存安定性、吐出耐久性に優れたカーボンブラック分散液が得られるものと考えられる。
【0018】
{カーボンブラック}
本発明に用いられるカーボンブラックとしては、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック等の各種のカーボンブラックが使用できる。これらの中では、チャンネルブラック又はファーネスブラックが好ましく、特にファーネスブラックが好ましい。
【0019】
上記のカーボンブラックのDBP吸収量は、分散性の観点から、30ml/100g以上250ml/100g以下の範囲が好ましい。中でも、普通紙上での印字濃度の観点からは80ml/100g以上200ml/100g以下の範囲がより好ましく、100ml/100g以上150ml/100g以下の範囲が特に好ましい。DBP吸収量が小さすぎるカーボンブラックは、普通紙で裏抜けしやすく、紙上面に留まりにくく、印字濃度が低くなる場合がある。DBP吸収量が大きすぎるカーボンブラックは難分散性であり、更には保存安定性、吐出安定性も悪くなる場合がある。
なお、ここでのDBP吸収量は、JISK6221で定められたカーボンブラック100gが吸収するジブチルフタレート(DBP)量である。
【0020】
また、カーボンブラックの平均一次粒子径は、10nm以上50nm以下が好ましく、15nm以上40nm以下がより好ましく、15nm以上30nm以下がさらに好ましい。平均一次粒子径が小さすぎると、印字濃度が低くなる傾向にあり、更には吐出安定性や分散性も悪くなる場合がある。また、平均一次粒子径が大きすぎると、保存安定性が悪くなり、また比表面積が小さくなりすぎて印字濃度が低下する場合がある。
ここで、カーボンブラックの一次粒子径は電子顕微鏡による算術平均径(数平均)である。
【0021】
また、カーボンブラックのpHは分散液、更にはインク組成物の保存安定性の観点から3以上、中でも6以上であることが好ましく、その上限は11以下、中でも8以下が好ましい。pHが低すぎるものは、カーボンブラック表面の酸性基量が多くなるために、分散剤である後述のポリマーの吸着が阻害され、十分な保存安定性、吐出安定性が確保できなくなる場合がある。逆に高すぎるものは、カーボンブラック表面の塩基性官能基と分散剤である後述のポリマーのアニオン性基との間の相互作用により、ポリマーの電荷発現が抑制されるため、分散安定性や吐出安定性が不十分となる場合がある。
なお、ここでのカーボンブラックのpHは、カーボンブラック10gに蒸留水100mlを加え、ホットプレート上で10分間煮沸し、室温までに冷却した後、上澄みを分離し、泥状物のpHを、ガラス電極pHメーターを用いて測定した値である。
【0022】
上記カーボンブラックの具体例としては、下記に限定されるわけではないが、以下の(1)〜(4)に示す商品が挙げられる。
【0023】
(1)#2700B,#2650,#2650B,#2600,#2600B,2450B,2400B,#2350,#2300,#2300B,#2200B,#1000,#1000B,#990,#990B,#980,#980B,#970,#960,#960B,#950,#950B,#900,#900B,#850,#850B,MCF88,MCF88B,MA600,MA600B,#750B,#650B,#52,#52B,#50,#47,#47B,#45,#45B,#45L,#44,#44B,#40,#40B,#33,#33B,#32,#32B,#30,#30B,#25,#25B,#20,#20B,#10,#10B,#5,#5B,CF9,CF9B,#95,#260,MA77,MA77B,MA7,MA7B,MA8,MA8B,MA11,MA11B,MA100,MA100B,MA100R,MA100RB,MA100S,MA230,MA220,MA200RB,MA14,#3030B,#3040B,#3050B,#3230B,#3350B(以上、三菱化学(株)製品)。
【0024】
(2)Monarch 1400,Black Pearls 1400,Monarch 1300,Black Pearls 1300,Monarch 1100,Black Pearls 1100,Monarch 1000,Black Pearls 1000,Monarch 900,Black Pearls 900,Monarch 880,Black Pearls 880,Monarch 800,Black Pearls 800,Monarch 700,Black Pearls 700,Black Pearls 2000,VulcanXC72R,Vulcan XC72,Vulcan PA90,Vulcan 9A32,Mogul L,Black Pearls L,Regal 660R,Regal 660,Black Pearls 570,Black Pearls 520,Regal 400R,Regal 400,Regal 330R,Regal 330,Regal 300R,Black Pearls 490,Black Pearls 480,Black Pearls 470,Black Pearls 460,Black Pearls 450,Black Pearls 430,Black Pearls 420,Black Pearls 410,Regal 350R,Regal 350,Regal 250R,Regal 250,Regal 99R,Regal 99I,Elftex Pellets 115,Elftex 8,Elftex 5,Elftex 12,Monarch 280,Black Pearls 280,Black Pearls 170,Black Pearls 160,Black Pearls 130,Monarch 120,Black Pearls 120(以上、キャボット社製品)。
【0025】
(3)Color Black FW1,Color Black FW2,Color Black FW2V,Color Black FW18,Color Black FW200,Special Black 4,Special Black 4A,Special Black 5,Special Black 6,Color Black S160,Color Black S170,Printex U,Printex V,Printex 150T,Printex 140U,Printex 140V,Printex 95,Printex 90,Printex 85,Printex 80,Printex 75,Printex 55,Printex 45,Printex 40,Printex P,Printex 60,Printex XE,Printex L6,Printex L,Printex 300,Printex 30,Printex 3,Printex 35,Printex 25,Printex 200,Printex A,Printex G,Special Black 550,Special Black 350,Special Black 250,Special Black 100(以上、デグッサ社製品)。
【0026】
(4)Raven 7000,Raven 5750,Raven 5250,Raven 5000 ULTRA,Raven 3500,Raven 2000,Raven 1500,Raven 1255,Raven 1250,Raven 1200,Raven 1170,Raven 1060 ULTRA,Raven 1040,Raven 1035,Raven 1020,Raven 1000,Raven 890H,Raven 890,Raven 850,Raven 790 ULTRA,Raven 760 ULTRA,Raven 520,Raven 500,Raven 450,Raven 430,Raven 420,Raven 410,CONDUCTEX 975 ULTRA,CONDUCTEX SCULTRA,Raven H2O,Raven CULTRA(以上、コロンビア社製品)。
【0027】
なお、上記カーボンブラックとしては、化学修飾がされておらず、また、カーボンブラックの小粒径化を促進するための結晶化抑止剤等の、カーボンブラック以外の不純物を含まないものが、ポリマーのカーボンブラックへの吸着を阻害しないことから好ましい。ただし、カーボンブラックに自己分散性を持たせるために、予め公知の化学修飾を行った自己分散性を有するカーボンブラックを使用することもできる。即ち、本発明のカーボンブラック分散液において用いるカーボンブラックは、先述したような、未処理のカーボンブラックでも、また表面を化学修飾したカーボンブラックでも、任意のカーボンブラックを使用することができる。
【0028】
また、安全性の観点から、600〜1500℃での焼成や、水、温水、溶剤等で洗浄することにより、多環芳香族成分を低減させたカーボンブラックを使用することが好ましい。特に高温での焼成処理は、カーボンブラック表面の官能基が除去されることにより、分散剤としてのポリマーがカーボンブラック表面により効率よく、より堅固に吸着されるため、より好ましい。
【0029】
本発明に係るカーボンブラックとしては、前記のカーボンブラックの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、他の色材と組み合わせて用いることもできる。
【0030】
また、カーボンブラックの形状は、ペースト、パウダー、固溶体等のいずれの形態であっても良い。
【0031】
{ポリマー}
本発明におけるカーボンブラック分散液には、ポリマーが含まれる。このポリマーとしては公知のものが使用されるが、中でも分散性の観点から少なくとも1種類以上の疎水性モノマーと、1種類以上の親水性モノマーとを構成単位とするポリマーであることが好ましい。
【0032】
ここでいう構成単位とは、ポリマーの基本構造の構成単位であり、合成高分子の場合には、重合又は共重合による当該ポリマーの製造に用いられたモノマー分子に由来する単位、もしくはそれらが変性などにより修飾された単位である。また、天然高分子の場合には、繰り返し単位もしくはそれが変性等により修飾された単位である。
また、以下において「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート及び/又はメタクリレート」を意味し、「(メタ)アクリル」は「アクリル及び/又はメタクリル」を意味する。
【0033】
<疎水性モノマー>
ポリマーの構成単位である疎水性モノマーとしては、特に限定されるものではなく、従来公知の疎水性モノマーが使用できるが、特に、疎水性モノマーの少なくとも1つが以下に記載するような芳香環含有モノマー及び/又は脂肪族炭化水素基を含有するモノマーであることが好ましい。
【0034】
芳香環含有モノマーとは、芳香族複素環含有モノマー又は芳香族炭化水素環含有モノマーであり、例えばベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−ナフチル(メタ)アクリレート、9−アントラセニル(メタ)アクリレート、1−ピレニルメチル(メタ)アクリレートスチレン、ビニルナフタレン、スチレン、α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、p−メチルスチレン、o−メトキシスチレン、m−メトキシスチレン、p−メトキシスチレン、o−t−ブトキシスチレン、m−t−ブトキシスチレン、p−t−ブトキシスチレン、o−クロロメチルスチレン、m−クロロメチルスチレン、p−クロロメチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、4−ビニルビフェニル、1,1−ジフェニルエチレン、ビニルフェノール、安息香酸ビニル、ビニルナフタレン、ベンジルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0035】
これらの中で、カーボンブラックとの親和性の観点から、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、スチレン、α−メチルスチレンのような無置換のフェニル基を有するモノマー構造が好ましく、中でもスチレン、ベンジルメタクリレートがより好ましく、スチレンが最も好ましい。
【0036】
脂肪族炭化水素基含有モノマーに含まれる脂肪族炭化水素基は、直鎖状、環状、分岐状のいずれであってもよい。
【0037】
直鎖状又は分岐状の脂肪族炭化水素基を有するモノマーとしては、例えば、次のようなものが挙げられる。
エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン類;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、i−アミル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、i−オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、i−デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、i−ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、i−ステアリル(メタ)アクリレート、ベへニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレートエステル類;
メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル類;
アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;
塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類;
酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;
マレイン酸エステル、イタコン酸エステル等のジカルボン酸エステル誘導体;
ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;
酢酸ビニル、酢酸イソプロペニル等のビニルエステル類:
【0038】
環状の脂肪族炭化水素基を有するモノマーとしては、例えばシクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロブチル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、シクロノニル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレート等、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート等、アダマンチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレートエステル類、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロドデセン、1,5−シクロオクタジエン、シクロペンタジエン、1,5,9−シクロドデカトリエン、1−クロロ−1,5−シクロオクタジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン、5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチル、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸ジメチル等の環状オレフィン類などが挙げられる。
【0039】
これらの中でも、カーボンブラックとの親和性の観点から直鎖状又は分岐状の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートエステル類が好ましい。中でも、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートがより好ましく、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートが最も好ましい。
【0040】
これらの疎水性モノマーは、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0041】
<親水性モノマー>
ポリマーの構成単位である親水性モノマーとしては、特に限定されるものではなく、従来公知の親水性モノマーが使用できるが、中でもアニオン性モノマー、カチオン性モノマー、ノニオン性モノマーが好ましい。その中でも分散性の観点からアニオン性モノマーが最も好ましい。
【0042】
(アニオン性モノマー)
アニオン性モノマーとしては以下に例示されるものを用いることができるが、これらに限定されるものではなく、従来公知のものが使用できる。
アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、或いはこれらの塩等のカルボン酸系モノマー;
ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタクリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミドエタンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−メタクリルアミドエタンスルホン酸、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−アクリロイルオキシエタンスルホン酸、3−アクリロイルオキシプロパンスルホン酸、4−アクリロイルオキシブタンスルホン酸、2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸、3−メタクリロイルオキシプロパンスルホン酸、4−メタクリロイルオキシブタンスルホン酸、或いはこれらの塩等のスルホン酸系モノマー;
ビニルホスホン酸、メタアクリロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジオクチル−2−(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート或いはこれらの塩等のリン酸系モノマー:
【0043】
アニオン性モノマーとしては、印字濃度やにじみが少ないといった印字品位の観点から、カルボキシル基を有するモノマー或いはその塩が好ましく、メタクリル酸、アクリル酸或いはその塩、中でもアクリル酸或いはその塩がより好ましい。
【0044】
また、アニオン性モノマーは塩であることが好ましい。中でもアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩であることがより好ましく、ナトリウム塩であることが特に好ましい。
【0045】
(カチオン性モノマー)
カチオン性モノマーとしては以下に例示されるものを用いることができるが、これらに限定されるものではなく、従来公知のものが使用できる。
N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジ−t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレートなどのN,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクレート;N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどのN,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドのような3級アミノ基含有重合性不飽和モノマー;
(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルオクチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルオクチルアンモニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルドデシルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルドデシルアンモニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルヘキサデシルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルヘキサデシルアンモニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルオクチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルオクチルアンモニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルドデシルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルドデシルアンモニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルヘキサデシルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルヘキサデシルアンモニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルオクチルアンモニムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルオクチルアンモニムブロマイド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルドデシルアンモニムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルドデシルアンモニムブロマイド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルヘキサデシルアンモニムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルヘキサデシルアンモニムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムメチルスルフェート、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウムエチルスルフェー卜、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムp−トルエンスルホネート、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムメチルスルフェート、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルエチルアンモニウムエチルスルフェー卜、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムp−トルエンスルホネートのような4級アンモニウム塩基含有重合性不飽和モノマー;
その他、ジメチルアミノスチレン、ジメチルアミノメチルスチレン等のジアルキルアミノ基を有するスチレン類;4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン等のビニルピリジン類;又はこれらをハロゲン化アルキル、ハロゲン化ベンジル、アルキル若しくはアリールスルホン酸又は硫酸ジアルキル等の公知の四級化剤を用いて四級化したもの、重合後に加水分解することによってアミノ基を生成するN−ビニルホルムアミド及びN−ビニルアセトアミド、アリルアミン塩酸塩など:
【0046】
中でも、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の3級アミノ基含有重合性不飽和モノマー、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムメチルスルフェート、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウムエチルスルフェー卜等の4級アンモニウム塩基含有重合性不飽和モノマーが好ましく、その中でも4級アンモニウム塩基含有重合性不飽和モノマーが更に好ましい。その中でも、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドが最も好ましい。
【0047】
4級アンモニウム塩基含有重合性不飽和モノマーを構成単位とするポリマーは、3級アミノ基含有重合性不飽和モノマーを重合した後、塩化メチルなどのハロゲン化アルキル、ベンジルクロライドなどのベンジルハライド、エピクロロヒドリン、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸などのアルキル化剤を用いて4級化反応により合成してもよいし、モノマーの状態で4級化したものを重合して合成してもよい。中でも、モノマーの状態で4級化したものを重合して得られるポリマーが好ましい。
【0048】
(ノニオン性モノマー)
ノニオン性モノマーとしては、以下のものが挙げられるが、以下の例示に限定されるものではなく、従来公知のものを用いることができる。
(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸アミノプロピルなどの第1級アミノ基を有するモノマー;
(メタ)アクリル酸メチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸メチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸エチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸エチルアミノプロピル、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンなどの第2級アミノ基を有するモノマー;
(メタ)アクリルアミド、アルキル基の炭素数が1〜6のN−アルキル(メタ)アクリルアミド、アルキル基の炭素数が1〜3のN,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエタノール(メタ)アクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、N−メチル−N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N−メチル−N−ビニルホルムアミド、N−(2−(ポリエチレングリコール)エチル)(メタ)アクリルアミド、N,N−(2,2’−(ポリエチレングリコール)ジエチル)(メタ)アクリルアミドなどのアミド基含有モノマー;
2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、1−ビニルイミダゾール、N−ビニルピロリドン、2−ビニルー2−オキサゾリン、5−メチル−2−ビニル−2−オキサゾリン、N−ビニルオキサゾリドン、2−N−ピロリドンエチル(メタ)アクリレート、N−ビニルカプロラクタム、9−ビニルカルバゾール、N−ビニルフタルイミド、グリシジル(メタ)アクリレート、アジリジン環含有モノマーなどのヘテロ環を有するモノマー;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸エステル、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリル酸エステル、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルビニルエーテルなどの水酸基を含有するモノマー;
ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール−テトラメチレングリコール)(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール−テトラメチレングリコール)(メタ)アクリレート、プロピレングリコールポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、アリロキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)(メタ)アクリレートなどの含オキシアルキレン鎖モノマー;
グルコース、マンノース、ガラクトース、グルコサミン、マンノサミン、ガラクトサミン等の六炭糖類、アラビノース、キシロース、リボース等の五炭糖類、マルトース、ラクトース、トレハロース、セロビオース、イソマルトース、ゲンチオビオース、メリビオース、ラミナリビオース、キトビオース、キシロビオース、マンノビオース、ソホロース等の二糖類、その他、マルトトリオース、イソマルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マンノトリオース、マンニノトリオース等のオリゴ糖、セルロース、変性セルロース等の多糖類に由来するような構造を持ちグリコシル基を有するモノマー、例えばグルコシルエチルメタクリレート等のようなモノマー;
ポリビニルアルコール構造を側鎖に有するマクロモノマー:
【0049】
ノニオン性モノマーとしては、これらのうち、分散性、保存安定性の観点から、アミド基含有モノマー、ヘテロ環を有するモノマー、水酸基を含有するモノマー、含オキシアルキレン鎖モノマー、ポリビニルアルコール構造を側鎖に有するマクロモノマーが好ましく、写真専用紙用の記録液として使用する場合は、印字物の光沢性の観点から、アミド基含有モノマー、水酸基を含有するモノマー、含オキシアルキレン鎖モノマーが好ましく、その中でも含オキシアルキレン鎖モノマーが特に好ましい。
【0050】
これらの親水性モノマーは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0051】
<モノマー組成>
ポリマーは少なくとも1種類以上の疎水性モノマーと、1種類以上の親水性モノマーを構成単位とするポリマーであることが好ましいが、モノマー組成は以下の通りであることが好ましい。
【0052】
疎水性モノマー構成単位の含有量は、ポリマーの全構成単位に対して10モル%以上が好ましく、より好ましくは20モル%以上である。上限としては90モル%以下が好ましく、88モル%以下が更に好ましい。この下限より少ないとポリマーがカーボンブラックに吸着しにくくなり遊離したポリマーが増大するため分散液の粘度が高くなりこの分散液を記録液に使用したとき吐出性が低下したり、記録液の保存安定性が低下する場合がある。この上限より多い場合、カーボンブラック分散液の水分散性が低下する場合がある。
【0053】
親水性モノマー構造単位の含有量は、ポリマーの全構成単位に対して10モル%以上が好ましく、12モル%以上がより好ましい。上限としては、90モル%以下が好ましく、80モル%以下がより好ましく、70モル%以下が最も好ましい。この下限より少ないとカーボンブラック分散液の水分散性が極端に低下し、この上限より多いとポリマーがカーボンブラックに吸着しにくくなり遊離したポリマーが増大するため分散液の粘度が高くなりこの分散液を記録液に使用したとき吐出性が低下したり、記録液の保存安定性が低下する場合がある。
【0054】
<ポリマー構造>
疎水性/親水性ポリマーのポリマー構造は、ランダムコポリマー、ジブロックコポリマー、トリブロック以上のマルチブロックコポリマー、グラジエントコポリマー、グラフトコポリマー、スターコポリマー等いずれでもよいが、中でもランダムコポリマー、ブロックポリマーであることが好ましく、ランダムコポリマーであることが最も好ましい。
【0055】
<酸価>
ポリマーの酸価としては240mg−KOH/g以下が好ましく、220mg−KOH/g以下がより好ましく、200以下が更に好ましい。
ポリマーの酸価の下限としては、20mg−KOH/g以上が好ましく、30mg−KOH/g以上がより好ましい。
ポリマーの酸価が上記下限より少ないとカーボンブラック分散液の水分散性が低下する傾向があり、この上限より多いとポリマーがカーボンブラックに吸着しにくくなり遊離したポリマーが増大するため、分散液の粘度が高くなり、この分散液を記録液に使用したとき吐出性が低下したり、記録液の保存安定性が低下する傾向がある。
【0056】
<分子量>
ここでいう数平均分子量及び重量平均分子量の値は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によって測定されるポリスチレン換算の値である
【0057】
本発明に係るポリマーの数平均分子量(Mn)は、上限としては150,000以下であることが好ましく、100,000以下がより好ましく、50,000以下であることが特に好ましい。下限としては、1,000以上であることが好ましく、5,000以上であることがより好ましく、7,000以上であることが特に好ましい。この範囲よりも分子量が大きいと分散液、記録液の粘度が高くなり吐出性が低下し、小さいと記録液を調製した際にカーボンブラックからポリマーがはがれて分散性が低下する場合がある。
【0058】
ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、上限としては300,000以下であることが好ましく、200,000以下であることがより好ましく、100,000以下であることが特に好ましい。下限としては2,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましく、15,000以上であることが特に好ましい。この範囲よりも分子量が大きいと分散液、記録液の粘度が高くなり吐出性が低下する場合があり、小さいと記録液を調製した際にカーボンブラックからポリマーがはがれて分散性が低下する場合がある。
【0059】
また、本発明に係るポリマーの低分子量成分の存在量は、重量平均分子量4,000以下の成分が、20重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましい。この低分子量成分の割合は、分散性、分散安定性、保存安定性を左右するパラメーターの一つと考えられるが、低分子量成分が上記範囲よりも多い場合、分散性を確保するのは容易であるが、分散安定性や保存安定性を確保するのが困難となる場合がある。また、サーマルタイプの印字ヘッドでは、長期の吐出安定性も悪化する傾向にある。
ポリマー中のこのような重量平均分子量4,000以下の低分子量成分の含有量は、ポリマーのゲルパーミエーショングロマトグラフィー(GPC)で得られるクロマトグラフにおける、ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)4,000以下の成分の面積から、未反応モノマー及び重合溶媒のピーク面積を除いた面積の全面積に対する比率を計算することにより求めることができる。
【0060】
なお、ポリマー中のこれらの低分子量成分は、限外濾過膜や透析膜などを用いたり、低分子量成分が溶解する溶媒中でポリマーを再沈殿させる方法により低減することができる。
【0061】
<水溶性>
ポリマーとしては、ポリマー中に存在しているイオン性基の90モル%を中和した状態において、そのポリマーの2重量%の濃度の水分散液において沈殿を生じない「水分散性」のものが好ましく、中でもポリマーの25℃の水に対する溶解度が2重量%以上である「水溶性」のものが特に好ましい。通常は25℃で20重量%以下の濃度の水分散液において沈殿が生じないものが使用される。沈殿が生じるか否かはポリマー水分散液を調製した直後に目視で確認するものとする。
【0062】
上述の「イオン性基」とは、水中でイオンに解離し得る基をいい、例えばアミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、又はこれらの塩等が挙げられる。上述の「ポリマー中に存在しているイオン性基の90モル%を中和した状態において」とは、ポリマー中に含まれるイオン性基の90モル%が中和剤によって塩になっている状態を指す。上記定義範囲にポリマーが入っていることを確認する手順としては、例えば、ポリマー中のイオン性基全体のうち中和されて塩になっている割合(イオン性基の中和度)を測定し、イオン性基の中和度を90モル%に調整し、これを25℃、2重量%濃度で水に溶解又は分散させて、その外観を目視観測する。イオン性基の中和度は、例えばH−NMRでポリマー全体に対するイオン性基の組成比を測定し、また、塩を形成しているポリマーのカウンターイオン、例えばカルボキシル基がNaと塩を形成している場合はNa電荷を測定し、実際にNa塩となっている量を、組成比より計算される全部がNa塩になっていると仮定した場合の電荷量で割ることによって、求めることができる。測定の結果、中和度がイオン性基の中和度が90%に満たない場合は、アルカリを添加することで中和度を調整する。また別の方法としては、アルカリを添加することによってポリマー中のイオン性基と重合しないで残ったモノマーのイオン性基が同じ割合で中和されると仮定し、ポリマーの合成からインクの調製までの一連の工程において添加したアルカリのモル数をポリマー合成時の仕込モノマーのイオン性基全体のモル数で割ることによって、ポリマー中のイオン性基の中和度を見積もって確認することもできる。
【0063】
<ポリマーの合成方法>
本発明に係るポリマーの合成法は特に限定されず、例えばラジカル重合、イオン重合、重付加、重縮合などの公知の重合方法を選択でき、またポリマーは、これらの公知の方法で合成したポリマーの誘導体や変性体であってもよい。また、水や有機溶媒中にカーボンブラックとモノマー、重合開始剤、必要に応じて界面活性剤、反応性界面活性剤、ポリマーを同時に混合し、重合しても良い。更に、カーボンブラック表面にモノマーを直接反応させ重合しても良い。中でも、合成手法が簡便であることから、ラジカル重合を用いて合成されるポリマーが好ましい。
【0064】
以下に本発明に係るポリマーとして好適なランダムコポリマーの好ましい合成法であるラジカル重合によるポリマーの合成方法について説明する。
【0065】
(重合反応溶媒)
本発明に係るポリマーはランダムコポリマーであることが特に好ましい。その好ましい合成法であるラジカル重合反応は、無溶媒又は溶媒の存在下に行なうことができるが、溶媒存在下で重合反応を行うことが好ましい。
【0066】
重合反応溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメトキシベンゼン等のエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカルボニル化合物、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、イソアミルアルコール等のアルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類が挙げられるが、中でも、重合反応溶媒としては水性溶媒が好ましい。
【0067】
水性溶媒とは、水100%もしくは水と極性有機溶媒とを任意の比率で混合した溶媒を指す。ここで用いる極性有機溶媒は、水と任意の比率で混合可能なものであれば良く、具体的にはメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジチルスルホキシド、テトラヒドロフラン等が例示される。これらの中で、特にテトラヒドロフラン、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールが好ましい。
【0068】
また、重合反応溶媒は1種類のみからなる単一溶媒でも良いし、2種類以上からなる混合溶媒でも良い。
【0069】
(重合開始剤)
ポリマーを合成する際のラジカル重合反応には公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。
重合開始剤としては、水溶性の重合開始剤でも油溶性の重合開始剤でも使用できる。
【0070】
水溶性の重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン}ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6,−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]二塩酸塩等のアゾ化合物系開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸ソーダ、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の酸化剤単独;或いはこれらの酸化剤と亜硫酸ソーダ、次亜硫酸ソーダ、硫酸第1鉄、硝酸第1鉄、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、チオ尿素等の水溶性還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤が挙げられる。
【0071】
これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0072】
油溶性の重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビスシクロヘキサン1−カーボニトリル、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物系開始剤;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、3,5,5−トリメチルヘキサノニルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、プロピオニトリルパーオキサイド、サクシニックアシッドパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、t−ブチルパーオキシラウレート、シクロヘキサノンパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5−ジメチル−2,5−ジベンゾイルパーオキシヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジイソブチルジパーオキシフタレート、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジt−ブチルパーオキシヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、ジt−ブチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、パラメンタンヒドロパーオキサイド、ピナンヒドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロパーオキサイド及びクメンパーオキサイド等のパーオキサイド重合開始剤;さらにヒドロペルオキサイド(tret−ブチルヒドロキシペルオキサイド、クメンヒドロキシペルオキサイド等)、過酸化ジアルキル(過酸化ラウロイル等)及び過酸化ジアシル(過酸化ベンゾイル等)等の油溶性過酸化物と、第三アミン(トリエチルアミン、トリブチルアミン等)、ナフテン酸塩、メルカプタン(メルカプトエタノール、ラウリルメルカプタン等)、有機金属化合物(トリエチルアルミニウム、トリエチルホウ素及びジエチル亜鉛等)等の油溶性還元剤とを併用する油溶性レドックス重合開始剤が挙げられる。
【0073】
これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0074】
(その他の添加剤)
ラジカル重合反応には、上記の重合開始剤に加え、得られる重合体を好ましい分子量に調節するために、連鎖移動剤、連鎖停止剤、重合促進剤等、公知のものを添加使用することができる。
【0075】
(重合条件)
ラジカル重合反応を行う際、モノマー、重合反応溶媒、ラジカル開始剤等の添加順序等は任意であるが、例えば、モノマー、重合反応溶媒、ラジカル重合開始剤を反応容器に一括で仕込んだ後に温度を上昇させて重合反応を行う方法が挙げられる。この場合、モノマーあるいはラジカル重合開始剤をそのままの状態あるいは溶液にして追加添加してもよい。また、別の方法としては、重合性モノマー、重合反応溶媒を反応容器に仕込んで温度を上昇させた後に、ラジカル重合開始剤を含有するモノマー溶液、重合反応溶媒、又はこれらの混合物を、連続的に又は分割して添加し、重合反応を行う方法等が挙げられる。
中でも操作の簡便性から、原料を一括で仕込んだ後に温度を上昇させて重合反応を行う方法が好ましい。
【0076】
重合反応溶媒の使用量は特に限定されないが、モノマー100重量部に対し、通常1重量部以上、通常2000重量部以下、好ましくは1000重量部以下である。
【0077】
重合開始剤の使用量は、用いる重合開始剤の種類によっても異なり、特に限定されないが、モノマー100重量部に対して、通常0.5重量部以上、15重量部以下である。
【0078】
重合温度は特に限定されないが、通常0℃以上、好ましくは20℃以上であり、その上限は通常200℃以下、好ましくは150℃以下である。
【0079】
重合により得られたポリマーは未精製のまま使用しても特に問題はないが、常法に従って精製し、次のカーボンブラック分散工程へ供されるのが好ましい。精製方法としては、ポリマーが不溶でモノマーと重合開始剤が可溶な溶媒へポリマー溶液を滴下し、ポリマーの沈澱、濾別を繰り返す再沈精製、ポリマー溶液にポリマーが不溶でモノマーと重合開始剤が可溶な溶媒を滴下し、ポリマーの沈澱、濾別を繰り返す分別沈澱精製、加熱蒸留や、減圧蒸留等によって未反応モノマーや反応溶媒を除去した後に、溶媒を水及び/又は水性溶媒に置換する方法、さらには限外濾過膜や透析膜などを用いて低分子不純物や低分子量オリゴマー成分を除去する方法などが挙げられる。
【0080】
カーボンブラック分散液中に含まれるポリマーは、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。上述の通り、ポリマーは少なくとも1種類以上の疎水性モノマーと、1種類以上の親水性モノマーとを構成単位とするポリマーであることが好ましいが、親水性モノマーとしてアニオン性モノマーを使用したアニオンポリマーや、カチオン性モノマーを使用したカチオンポリマーや、ノニオン性モノマーを使用したノニオンポリマーをそれぞれ単独で用い、カーボンブラックをポリマーで分散したカーボンブラック分散液を作ってもよいし、これらを併用してもよい。併用した例としては、例えば、アニオンポリマーとカチオンポリマーの静電相互作用を利用し、カーボンブラックをポリマーで被覆した複合ポリマーカプセルなどが挙げられる。
【0081】
{水性媒体}
本発明のカーボンブラック分散液に用いる水性媒体としては、水及び/又は水溶性の有機溶媒が挙げられる。
水溶性の有機溶媒としては、この用途に一般的に用いられるものであれば特に限定されないが、具体的には、水よりも蒸気圧の小さいものであり、次のようなものが挙げられる。
【0082】
エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ペンタメチレングリコール、トリメチレングリコール、ブチレングリコール、イソブチレングリコール、チオジグリコール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、グリセリン等の多価アルコール類;
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピレンエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル等の多価アルコールエーテル類;
アセトニルアセトン等のケトン類;
γ−ブチロラクトン、ジアセチン、リン酸トリエチル等のエステル類;
2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール等の低級アルコキシアルコール類;
エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタメチルジエチレントリアミン等のアミン類;
ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;
2−ピロリドン、N−エチルピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、モルホリン、N−エチルモルホリン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、イミダゾール、メチルイミダゾール、ヒドロキシイミダゾール、ジメチルアミノピリジン、1,3−プロパンスルトン、ヒドロキシエチルピペラジン、ピペラジン等の複素環類;
ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;
スルホラン等のスルホン類:
これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0083】
本発明で用いる水性媒体としては、水又は水と上述のような水溶性有機溶媒との混合物であることが好ましい。中でも、水のみであることが特に好ましい。
【0084】
{カーボンブラック分散液の組成}
本発明のカーボンブラック分散液は、少なくとも上述のようなカーボンブラック、ポリマー、及び水性媒体を含み、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。
【0085】
本発明のカーボンブラック分散液中のカーボンブラック濃度としては、通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下である。ここで、カーボンブラック濃度が高過ぎるとカーボンブラックが分散不良となり、また、分散液の粘度が増大し、分散液がゲル化したり、また、分散破壊により分散液が使用できなくなる場合があるが、カーボンブラック濃度が低すぎるとインク組成物とした際に十分な印字濃度が出ないため、通常、0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上である。
【0086】
また、本発明のカーボンブラック分散液中におけるカーボンブラックとポリマーとの重量比は、適宜選択し決定すればよいが、一般的にはカーボンブラック1重量部に対してポリマー(2種以上のポリマーを含む場合はその合計)が0.001重量部以上、中でも0.01重量部以上、特に0.05重量部以上、とりわけ0.08重量%以上であることが好ましく、その上限は2重量部以下、中でも1.5重量部以下であることが好ましい。この範囲よりもポリマーが少ないと分散安定性が低下し、多いと分散液、インクの粘度が高くなって吐出性が低下してしまう。
【0087】
なお、本発明のカーボンブラック分散液中には、カーボンブラック、ポリマー、水性媒体以外の成分が含まれていても良く、特に、後述するような本発明のインク組成物に含有され得る他の添加剤としてエマルジョン粒子、非イオン性水溶性ポリマーなど、その他の成分が含まれても良い。
【0088】
{カーボンブラック分散液の物性}
<表面張力>
本発明のカーボンブラック分散液の表面張力は特に限定されないが、水性媒体のみの表面張力と比較して上限は通常+1dyne/cmであり、下限は、通常−50dyne/cm、好ましくは−40dyne/cm以上である。例えば水性媒体として水を用いた場合、水の表面張力は72.75dyne/cmであるため、カーボンブラック分散液の表面張力の上限は通常73.75dyne/cmであり、下限は通常22.75dyne/cm、好ましくは32.75dyne/cmである。カーボンブラック分散液の表面張力が上記範囲から外れた場合、印字濃度の低下や吐出安定性や保存安定性の低下が見られる場合がある。
【0089】
<粘度>
本発明のカーボンブラック分散液液の粘度は4.0cp以下であるが、中でも3.5cp以下がより好ましく、3.0cp以下が更に好ましく、2.5cp以下が特に好ましい。粘度の下限としては1.0cp以上が好ましく、1.5cp以上が特に好ましい。カーボンブラック分散液の粘度が低すぎると、インクジェット液滴の生成/飛翔をコントロールするのが難しくなる場合があり、高すぎるとインクジェットの駆動周波数が低くなってしまう場合がある。また、粘度の高いカーボンブラック分散液は、前述の如く、ポリマー同士の絡み合いが大きく、凝集し易いために保存安定性に劣るものとなる。
【0090】
<カーボンブラックの平均分散粒子径>
本発明のカーボンブラック分散液中のカーボンブラックの平均分散粒子径は、通常300nm以下、好ましくは200nm以下である。また下限としては、通常20nm以上である。カーボンブラックの平均分散粒子径が小さすぎる場合は、分散安定性を保つのが非常に難しくなり、かつ普通紙の紙上表面に残りにくくなるために印字濃度が低くなってしまう場合がある。また、平均分散粒子径が大きすぎる場合も、保存中にカーボンブラックが沈降しやすくなり、分散液の分散安定性や記録液の保存安定性が低くなってしまう場合がある。
上記平均分散粒子径は、SEMやTEM等の電子顕微鏡を用いて測定するか、市販の動的光散乱測定装置を使用して測定することができる。
【0091】
<pH>
本発明のカーボンブラック分散液のpHは、通常3以上、好ましくは5以上、更に好ましくは7以上である。pHの上限としては、通常12以下であり、好ましくは11以下である。カーボンブラック分散液のpHが低いと、アニオン性基の解離度が抑えられ、分散液の分散性や分散安定性、記録液の保存安定性、吐出性が低下し、逆に高すぎるとプリントヘッドを傷めてしまう場合がある。
【0092】
また、本発明のカーボンブラック分散液のpHは、保存安定性の観点から、カーボンブラック分散液の調製に用いた、即ち、カーボンブラック分散液中に含有されるポリマーを用いて別途調製した1.0重量%のポリマー水溶液のpHとの差が0.5以下であることが好ましい。
このpH差が大きいことは、その理由は定かではないが恐らくカーボンブラックが共存することによってポリマー構造のコンフォメーションが大きく変わって分散安定性が十分に保たれないと考えられ、カーボンブラック分散液の保存安定性が良好でないことを意味する。このpH差は好ましくは0.4以下で、小さい程好ましい。
なお、カーボンブラック分散液中にポリマーを2種以上含有する場合、後述の比較例2に示されるように、カーボンブラック分散液中の含有重量比で混合したポリマー混合物の1重量%水溶液を調製し、そのpHについて評価を行えばよい。
【0093】
<保存安定性>
本発明のカーボンブラック分散液を密閉状態で70℃で1週間保存したときのpHの下がり幅は1.0以下であるが、長期間の保存安定性の観点からこの下がり幅は0.95以下であることが好ましく、0.90以下であることが更に好ましい。即ち、本発明のカーボンブラックの上記保存前のpHを「pH」、本発明のカーボンブラック分散液を密閉状態で70℃で1週間保存したときのpHを「pH」としたとき、その差ΔpH=pH−pHが1.0以下であり、好ましくは0.95以下、より好ましくは0.90以下である。このΔpHの下限としては、−1.0以上であることが好ましく、−0.95以上であることがより好ましく、−0.90以上であることが更に好ましい。
このΔpHが大き過ぎても、小さ過ぎても、本発明で目的とする保存安定性を達成し得ない。
【0094】
{カーボンブラック分散液の製造方法}
本発明のカーボンブラック分散液の製造方法において、カーボンブラック、ポリマー、及び水性媒体の混合方法や添加順序は任意であるが、例えば、カーボンブラック、ポリマー、及び水性媒体を一度に混合し、この混合液に対して一般的な分散機を用いて分散処理を施せばよい。
【0095】
分散処理に用いる分散機としては、通常、顔料分散に使用される各種分散機が使用できる。
【0096】
分散機としては、特に限定されるものではないが、ニーダー、ソルトミリング、ロールミル、プラネタリーミキサー、ペイントシェーカー、ボールミル、サンドミル、アトライ ター、パールミル、コボールミル、ホモミキサー、ホモジナイザー、湿式ジェットミル、 高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等を用いることができる。分散機としてメディアを使うものには、ガラスビーズ、ジルコニアビーズ、アルミナビーズ、磁性ビーズ、 スチレンビーズを用いることができる。このうち、好ましい分散処理方法は、超音波ホモジナイザーで分散する方法である。
【0097】
超音波ホモジナイザーで分散処理を行う際は、予め上記のニーダー、ソルトミリング、ロールミル、プラネタリーミキサー、ホモミキサー、ホモジナイザー、湿式ジェットミル、高圧ホモジナイザー、ビーズミルなどの各種方法でカーボンブラック、ポリマー、及び水性媒体を予備分散した後に行うのがよい。
【0098】
超音波ホモジナイザーによる分散処理時のカーボンブラック濃度は、通常3〜30重量%であり、好ましくは5〜20重量%、より好ましくは6〜16重量%である。この範囲よりもカーボンブラック濃度が低い場合は、カーボンブラック粒子が希薄なために分散効率が悪く、更には長時間超音波を照射してもカーボンブラックの粒子径が小さくならない場合がある。逆に、この範囲よりも高い場合は、カーボンブラック粒子の濃度が高すぎることに加え、分散液粘度が高くなるので攪拌効率が下がるため、超音波が均一にカーボンブラック粒子当りにくくなり、分散が不均一となる場合がある。
従って、目的とするカーボンブラック分散液のカーボンブラック濃度が、上記の超音波ホモジナイザーによる分散処理に好適なカーボンブラック濃度と異なる場合は、水を加えて希釈したり加熱して濃縮したりして好適な濃度に合わせる。
【0099】
また、超音波ホモジナイザーによる分散処理時は、超音波の照射により著しく発熱するので、氷水などで冷却しながら分散処理を行うのが好ましく、その際、分散液温度が60℃以下、例えば0〜50℃となるように冷却を行うのが好ましい。分散液の温度が上がりすぎると、分散の進行よりもカーボンブラック同士の凝集の方が起こりやすくなるために分散は進まず、更には壁面で凝集したカーボンブラックが分散液に混入し、粗大粒子混入の原因となり、吐出性を悪化させるのでよくない。
【0100】
超音波ホモジナイザーの出力は、カーボンブラックの粒子径が目標とする大きさになれば特に限定しないが、通常50W以上1200W以下である。出力が小さすぎると目標の粒子径まで小粒径化できなかったり、分散処理に長時間を要し、出力が大きすぎるとカーボンブラックやポリマー構造が破壊されたり、あるいは振動素子(金属チップ)から微小の金属片が多量に剥離し、不純物として分散液中に混入し、その結果、吐出性や保存安定性、あるいは、濾過性を悪化させる原因となるので注意が必要である。
【0101】
分散処理時間は、カーボンブラックの粒子径が目標とする大きさになればよく、特に限定しないが、通常1分/分散液1kg以上800分/分散液1kg以下であり、好ましくは10分/分散液1kg以上である。分散処理時間が短すぎると、粗大粒子が多く残ったり、分散剤であるポリマーのカーボンブラック表面への吸着が不十分となり、分散安定性や保存安定性が悪くなるので好ましくない。一方で、分散処理時間が長すぎると、数ナノから数十ナノメートルレベルのカーボンブラック微粒子が多く発生し、それらが分散安定性、保存安定性、更には吐出安定性を悪化させ、更には印字濃度を低下させる原因となるので好ましくない。
【0102】
[インク組成物]
本発明のカーボンブラック分散液を含む本発明のインク組成物は、特に記録液、とりわけインクジェット用記録液として優れた効果を奏する。
【0103】
記録液等として用いられる本発明のインク組成物は、上述の本発明のカーボンブラック分散液の着色剤濃度を必要に応じて調整し、更には用途に応じて各種添加剤を加えて調製される。もしくは、カーボンブラック分散液の製造時に、用途に応じて各種添加剤を加えて調製してもよい。
【0104】
着色剤としては、上述の本発明のカーボンブラック分散液中のカーボンブラックに加え、更に調色等の目的などで表面処理された自己分散性顔料や、染料、界面活性剤、ポリマー分散剤等で分散された顔料、あるいは、染料等を追加で含んでいても良い。
【0105】
本発明のインク組成物における全着色剤の濃度は、インク組成物全量に対する、全着色剤の濃度として、通常0.1重量%以上、中でも0.5重量%以上であることが好ましく、その上限は通常25重量%以下、好ましくは20重量%以下、特に好ましくは15重量%以下である。この着色剤濃度が高過ぎると増粘し、かつ吐出性が悪化し、低すぎると印字濃度が低くなりすぎる場合がある。一方で、カーボンブラック分散液に追加する着色剤の量は、カーボンブラック分散液中のカーボンブラック100重量部に対して、通常100重量部以下、好ましくは75重量部以下、より好ましくは50重量部以下、特に好ましくは25重量部以下である。この着色剤の追加量が多過ぎると本発明の効果が低下する場合がある。
【0106】
また、本発明のインク組成物に用いる溶媒は、水及び水溶性有機溶媒を含むことが好ましく、更に所望により他の成分を含むことができる。
【0107】
本発明のインク組成物中の水溶性有機溶媒濃度は、適宜選択し決定すればよいが、通常、インク組成物に対して1重量%以上45重量%以下、中でも40重量%以下であることが好ましい。またインク組成物における水の含有量は、上述の着色剤や水溶性有機溶媒、及び以下に記載される任意の添加成分の濃度を適宜設定できる量であればよい。
【0108】
水溶性の有機溶媒としては、前述の本発明のカーボンブラック分散液の水性媒体として例示したものを用いることができる。
【0109】
本発明のインク組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて各種添加剤を含んでいても良い。
【0110】
このような添加剤としては例えば、浸透促進剤、表面張力調整剤、ヒドロトロピー剤、pH調整剤、キレート剤、防腐剤、粘度調整剤、保湿剤、防黴剤、防錆剤等の記録液用添加剤として公知のものが挙げられる。
【0111】
本発明のインク組成物における、これら添加剤の含有量は、インク組成物の全量に対して、通常その合計で30重量%以下、中でも15重量%以下であることが好ましい。
【0112】
浸透促進剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール等の低級アルコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテルグリコールエーテル等のカルビトール類、界面活性剤等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0113】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤及びポリマー系の界面活性剤等、任意のものの1種又は2種以上を使用できる。中でも非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤及びポリマー系の界面活性剤が好ましい。
【0114】
非イオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類、ポリオキシエチレン誘導体類、オキシエチレン/オキシプロピレンブロックコポリマー類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキルアミン類、アセチレングリコール類、アセチレンアルコール類等が挙げられる。
【0115】
陰イオン性界面活性剤としては、例えば脂肪酸塩類、アルキル硫酸エステル塩類、アルキルベンゼンスルフォン酸塩類、アルキルナフタレンスルフォン酸塩類、アルキルスルホコハク酸塩類、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸塩類、アルキルリン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸エステル塩類、アルカンスルフォン酸塩類、ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物類 、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル類、 α−オレフィンスルフォン酸塩等が挙げられる。
【0116】
また、ポリマー系界面活性剤としては、ポリアクリル酸、スチレン/アクリル酸コポリマー、スチレン/アクリル酸/アクリル酸エステルコポリマー、スチレン/マレイン酸コポリマー、スチレン/マレイン酸/アクリル酸エステル共重合、スチレン/メタクリル酸コポリマー、スチレン/メタクリル酸/アクリル酸エステルコポリマー、スチレン/マレイン酸ハーフエステルコポリマー、スチレン/スチレンスルフォン酸コポリマー、ビニルナフタレン/マレイン酸コポリマー、ビニルナフタレン/アクリル酸コポリマーあるいはこれらの塩等が挙げられる。
【0117】
カチオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、テトラアルキルアンモニウム塩、アルキルアミン塩、ベンザルコニウム塩、アルキルピリジウム塩、イミダゾリウム塩等が挙げられる。
【0118】
その他、ポリシロキサンオキシエチレン付加物等のシリコーン系界面活性剤や、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、オキシエチレンパーフルオロアルキルエーテル等のフッ素系界面活性剤、ラムノリピド、リゾレシチン等のバイオサーファクタント等の界面活性剤も使用することができる。
【0119】
これらの界面活性剤の含有量は、適宜選択し決定すればよい。通常はインク組成物に対して0.001重量%以上5重量%以下の範囲で添加することによって、印刷物の速乾性及び印字品位をより一層改良できる。
【0120】
表面張力調整剤としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、グリセリン、ジエチレングリコール等のアルコール類、ノニオン、カチオン、アニオン、あるいは両性界面活性剤の1種又は2種以上を挙げることができる。
【0121】
ヒドロトロピー剤としては、尿素、アルキル尿素、エチレン尿素、プロピレン尿素、チオ尿素、グアニジン酸塩、ハロゲン価テトラアルキルアンモニウム等の1種又は2種以上が好ましい。
【0122】
保湿剤としては、グリセリン、ジエチレングリコール等の1種又は2種以上を水溶性有機溶媒と兼ねるものとして添加することもできる。
【0123】
更に、固体保湿剤(保水機能を有する25℃で固体の水溶性物質)を添加することもできる。好ましい固体保湿剤としては、糖類、糖アルコール類、ヒアルロン酸塩、トリメチロールプロパン、1,2,6−トリオール等が挙げられる。糖類としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類(三糖類及び四糖類を含む)及び多糖類が挙げられ、具体的には、グルコース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、ソルビット、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース等が挙げられる。糖アルコール類 としては、マルチトール、ソルビトール、キシリトール等が挙げられ、これらの固体保湿剤の1種又は2種以上を添加することもできる。
【0124】
キレート剤としては、特に限定されるものではないが、エチレンジアミンテトラアセティックアシッドのナトリウム塩、エチレンジアミンテトラアセティックアシドのジアンモニウム塩等の1種又は2種以上が用いられる。これらは、インク組成物に対して0.005重量%以上0.5重量%以下の範囲で用いられることが好ましい。
【0125】
防黴剤としては、特に限定されるものではないが、デヒドロ酢酸ナトリウム、ジクロロフェン、ソルビン酸、安息香酸ナトリウム、p−ヒドロキシ安息香酸エステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン(製品名:プロキセルGXL(アーチ・ケミカルズ社製))等が用いられる。これらは、インク組成物に対して0.05重量%以上1重量%以下の範囲で含まれることが好ましい。
【0126】
また、インク組成物のpHを調整し、インク組成物の安定性を得るため、特に限定されるものではないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、硝酸、アンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のpH調整剤、リン酸等の緩衝液を用いることができる。
なお、インク組成物のpHとしては、通常、中性からアルカリ性の範囲であり、中でもpH6〜11程度に調整することが好ましい。
【0127】
本発明のカーボンブラック分散液から本発明のインク組成物を調製する際、エマルジョン粒子や非イオン性水溶性ポリマーなどのポリマー成分を追加添加してもよい。この際に添加するポリマー成分量は、通常、インク組成物に対して0.05重量%以上、好ましくは0.25重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上であり、その上限は20重量%以下、中でも10重量%以下であることが好ましい。また、カーボンブラック分散液中に含有されるポリマーに対する上記追加添加されるポリマー成分の割合としては、500重量%以下であることが好ましい。
【0128】
本発明のインク組成物は、本発明のカーボンブラック分散液の製造方法に記載の方法で製造されたカーボンブラック分散液に、必要に応じて着色剤や各種添加剤を加えて同様に混合、分散処理することにより調製される。もしくは、カーボンブラック分散液の製造時に、必要に応じて着色剤や各種添加剤を加えて分散処理することにより調製してもよい。
【0129】
[記録方法]
本発明のインク組成物を用いる記録方法としては、本発明のインク組成物の液滴をインクジェットヘッドから吐出させ、該液滴を記録媒体に付着させてインクジェット記録する方法が好ましく、本発明のインク組成物を用いて本発明のインクジェット記録方法に従って高品質かつ高耐久性のインクジェット記録物を得ることができる。
【実施例】
【0130】
以下に合成例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0131】
なお、以下の諸例においては、ポリマーA〜Gの数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)の測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を使用した下記条件で行った。
カラム充填剤: スチレン−ジビニルベンゼン共重合体
溶媒: テトラヒドロフラン(THF)
流速: 0.7mL/min
温度: 40℃
また、キャリブレーションはポリスチレンを用いて行った。
なお、今回は、以下の装置、検出器及びカラムを使って測定した。
装置: 日本ウォーターズ(株)製 Waters 2690
検出器: 日本ウォーターズ(株)製 Waters 2410
カラム: 昭和電工株式会社製 Shodex GPC KF−604・
KF−603・KF−602.5
【0132】
以下の表記において、「co」はcopolymerの「co」を意味し、「b」はblockcopolymerの「block」を意味する。
【0133】
[ポリマーの合成]
以下に実施例及び比較例で分散剤として用いたポリマーの合成例を示す。なお、以下の合成例で製造されたポリマーは、いずれも、本発明でいう「水溶性」のものであった。
【0134】
<合成例1>
ポリ(アクリル酸ナトリウム−co−n−ブチルアクリレート−co−スチレン)(ポリマーA)の合成
内部を窒素置換したコンデンサー、窒素導入管、撹拌機及び温度計付きのフラスコに、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)30gを仕込み、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)3500.0g、モノマーとしてアクリル酸400.0g、n−ブチルアクリレート600.0g、及びスチレン400.0gを仕込んだ。バス温度を室温から70℃まで1時間かけて上昇させ、70℃で8時間、重合反応を行った。
【0135】
反応終了後、反応液を室温まで冷却し、エバポレーターで溶媒であるTHFの一部を留去した濃縮液を、アセトニトリル中に再沈殿させた。上澄みをデカンテーションし、真空乾燥して溶媒を完全に除去した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えて中和することでポリ(アクリル酸ナトリウム−co−n−ブチルアクリレート−co−スチレン):ポリマーAを含む水溶液を得た。
この水溶液を真空乾燥することで、ポリ(アクリル酸ナトリウム−co−n−ブチルアクリレート−co−スチレン):ポリマーAとアクリル酸ナトリウムの混合物を得た。
このポリマーAの数平均分子量(Mn)は11,000、重量平均分子量(Mw)は15,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.4であった。また、重量平均分子量4,000以下の低分子量成分は8.8重量%であった。
【0136】
上記ポリマーAとアクリル酸ナトリウムの混合物30.0gを水970.0gに溶解した後、限外濾過により、アクリル酸ナトリウムを除去した。アクリル酸ナトリウム除去後、ポリマーA水溶液を濃縮・乾固することにより、上記ポリマーAを得た。
このポリマーAの構造を、重水を溶媒としたH−NMRにより確認したところ、ランダムコポリマーAの中のアクリル酸構成単位、n−ブチルアクリレート構成単位、スチレン構成単位の組成比は、40/21/39(モル比)=30/28/42(重量比)(酸価233mg−KOH/g)であった。
また、ポリマーAの1.0重量%水溶液のpHは8.88であった。
【0137】
<合成例2>
ポリ(アクリル酸ナトリウム−co−スチレン)(ポリマーB)の合成
内部を窒素置換したコンデンサー、窒素導入管、撹拌機及び温度計付きのフラスコに、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)3.15gを仕込み、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)384g、モノマーとしてアクリル酸47.35g、及びスチレン102.65gを仕込んだ。バス温度を室温から70℃まで1時間かけて上昇させ、70℃で8時間、重合反応を行った。
【0138】
反応終了後、反応液を室温まで冷却し、エバポレーターで溶媒であるTHFの一部を留去した濃縮液を、アセトニトリル中に再沈殿させた。上澄みをデカンテーションし、真空乾燥して溶媒を完全に除去し、水酸化ナトリウム水溶液を加えて中和し、限外濾過膜で精製することで、ポリ(アクリル酸ナトリウム−co−スチレン):ポリマーBを含む水溶液を得た。
この水溶液を真空乾燥することで、ポリ(アクリル酸ナトリウム−co−スチレン):ポリマーBとアクリル酸ナトリウムの混合物を得た。
このポリマーBの数平均分子量(Mn)は12,000、重量平均分子量(Mw)は20,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.7であった。また、重量平均分子量4,000以下の低分子量成分は4.2重量%であった。
【0139】
上記ポリマーBとアクリル酸ナトリウムの混合物30.0gを水970.0gに溶解した後、限外濾過により、アクリル酸ナトリウムを除去した。アクリル酸ナトリウム除去後、ポリマーB水溶液を濃縮・乾固することにより、上記ポリマーBを得た。
このポリマーBの構造を、重水を溶媒としたH−NMRにより確認したところ、ランダムコポリマーBの中のアクリル酸構成単位、スチレン構成単位の組成比は、13/87(モル比)=9/91(重量比)(酸価73mg−KOH/g)であった。
また、ポリマーBの1.0重量%水溶液のpHは9.1であった。
【0140】
<合成例3>
ポリ(アクリル酸ナトリウム−co−2−エチルヘキシルアクリレート)(ポリマーC)の合成
内部を窒素置換したコンデンサー、窒素導入管、撹拌機及び温度計付きのフラスコに、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)2.05gを仕込み、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)205g、モノマーとしてアクリル酸55.46g、2−エチルヘキシルアクリレート94.54gを仕込んだ。バス温度を室温から70℃まで1時間かけて上昇させ、70℃で8時間、重合反応を行った。
【0141】
反応終了後、反応液を室温まで冷却し、エバポレーターで溶媒であるTHFの一部を留去した濃縮液を、アセトニトリル中に再沈殿させた。上澄みをデカンテーションし、真空乾燥して溶媒を完全に除去した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えて中和することでポリ(アクリル酸ナトリウム−co−2−エチルヘキシルアクリレート):ポリマーCを含む水溶液を得た。
この水溶液を真空乾燥することで、ポリ(アクリル酸ナトリウム−co−2−エチルヘキシルアクリレート):ポリマーCとアクリル酸ナトリウムの混合物を得た。
このポリマーCの数平均分子量(Mn)は18,000、重量平均分子量(Mw)は22,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.2であった。また、重量平均分子量4,000以下の低分子量成分は7.2重量%であった。
【0142】
上記ポリマーCとアクリル酸ナトリウムの混合物30.0gを水970.0gに溶解した後、限外濾過により、アクリル酸ナトリウムを除去した。アクリル酸ナトリウム除去後、ポリマーC水溶液を濃縮・乾固することにより、上記ポリマーCを得た。
このポリマーCの構造を、重水を溶媒としたH−NMRにより確認したところ、ランダムコポリマーCの中のアクリル酸構成単位、2−エチルヘキシルアクリレート構成単位の組成比は、40/60(モル比)=21/79(重量比)(酸価161mg−KOH/g)であった。
また、ポリマーCの1.0重量%水溶液のpHは8.95であった。
【0143】
<合成例4>
ポリ(アクリル酸ナトリウム−co−ステアリルアクリレート−co−n−ブチルアクリレート−co−スチレン)(ポリマーD)の合成
内部を窒素置換したコンデンサー、窒素導入管、撹拌機及び温度計付きのフラスコに、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)37.5gを仕込み、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)4375.0g、モノマーとしてアクリル酸600.0g、ステアリルアクリレート400.0g、n−ブチルアクリレート600.0g、及びスチレン400.0gを仕込んだ。バス温度を室温から70℃まで1時間かけて上昇させ、70℃で8時間、重合反応を行った。
【0144】
反応終了後、反応液を室温まで冷却し、水酸化ナトリウム/メタノール溶液で中和後、イソプロピルアルコール中に沈殿させた。沈殿を濾過し、真空乾燥することで、アクリル酸ナトリウム−co−ステアリルアクリレート−co−n−ブチルアクリレート−co−スチレン):ポリマーDとアクリル酸ナトリウムの混合物を得た。
このポリマーDの数平均分子量(Mn)は10,000、重量平均分子量(Mw)は18,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.8であった。また、重量平均分子量4,000以下の低分子量成分は9.5重量%であった。
【0145】
上記ポリマーDとアクリル酸ナトリウムの混合物30.0gを水970.0gに溶解した後、限外濾過により、アクリル酸ナトリウムを除去した。アクリル酸ナトリウム除去後、ポリマーD水溶液を濃縮・乾固することにより、上記ポリマーDを得た。
【0146】
このポリマーDの構造を、重水を溶媒としたH−NMRにより確認したところ、ランダムコポリマーD中のアクリル酸構成単位、ステアリルアクリレート構成単位、n−ブチルアクリレート構成単位、スチレン構成単位の組成比は、40/11/14/35(モル比)=24/30/15/31(重量比)(酸価188mg−KOH/g)であった。
また、ポリマーDの1.0重量%水溶液のpHは9.13であった。
【0147】
<合成例5>
ポリ(アクリル酸ナトリウム−co−ラウリルアクリレート−co−スチレン)(ポリマーE)の合成
内部を窒素置換したコンデンサー、窒素導入管、撹拌機及び温度計付きのフラスコに、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)30gを仕込み、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)3500.0g、モノマーとしてアクリル酸600.0g、ラウリルアクリレート600.0g、及びスチレン400.0gを仕込んだ。バス温度を室温から70℃まで1時間かけて上昇させ、70℃で8時間、重合反応を行った。
【0148】
反応終了後、反応液を室温まで冷却し、エバポレーターで溶媒であるTHFの一部を留去した濃縮液を、アセトニトリル中に再沈殿させた。上澄みをデカンテーションし、真空乾燥して溶媒を完全に除去した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えて中和することでポリ(アクリル酸ナトリウム−co−ラウリルアクリレート−co−スチレン):ポリマーEの水溶液を得た。
この水溶液を真空乾燥することで、ポリ(アクリル酸ナトリウム−co−ラウリルアクリレート−co−スチレン):ポリマーEとアクリル酸ナトリウムの混合物を得た。
このポリマーEの数平均分子量(Mn)は12,000、重量平均分子量(Mw)は15,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.3であった。また、重量平均分子量4,000以下の低分子量成分は5.8重量%であった。
【0149】
上記ポリマーEとアクリル酸ナトリウムの混合物30.0gを水970.0gに溶解した後、限外濾過により、アクリル酸ナトリウムを除去した。アクリル酸ナトリウム除去後、ポリマーE水溶液を濃縮・乾固することにより、上記ポリマーEを得た。
このポリマーEの構造を、重水を溶媒としたH−NMRにより確認したところ、ランダムコポリマーEの中のアクリル酸構成単位、ラウリルアクリレート構成単位、スチレン構成単位の組成比は、66/7/27(モル比)=52/18/30(重量比)(酸価400mg−KOH/g)であった。
また、ポリマーEの1.0重量%水溶液のpHは9.19であった。
【0150】
<合成例6>
ポリ(アクリル酸ナトリウム−co−n−ブチルアクリレート−co−スチレン)(ポリマーF)の合成
内部を窒素置換したコンデンサー、窒素導入管、撹拌機及び温度計付きのフラスコに、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)30gを仕込み、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)3500.0g、モノマーとしてアクリル酸600.0g、n−ブチルアクリレート600.0g、及びスチレン400.0gを仕込んだ。バス温度を室温から70℃まで1時間かけて上昇させ、70℃で8時間、重合反応を行った。
【0151】
反応終了後、反応液を室温まで冷却し、水酸化ナトリウム/メタノール溶液で中和後、イソプロピルアルコール中に沈殿させた。沈殿を濾過し、真空乾燥することで、ポリ(アクリル酸ナトリウム−co−n−ブチルアクリレート−co−スチレン):ポリマーFとアクリル酸ナトリウムの混合物を得た。
このポリマーFの数平均分子量(Mn)は11,000、重量平均分子量(Mw)は18,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.6であった。また、重量平均分子量4,000以下の低分子量成分は5.6重量%であった。
【0152】
上記ポリマーFとアクリル酸ナトリウムの混合物30.0gを水970.0gに溶解した後、限外濾過により、アクリル酸ナトリウムを除去した。アクリル酸ナトリウム除去後、ポリマーF水溶液を濃縮・乾固することにより、上記ポリマーFを得た。
このポリマーFの構造を、重水を溶媒としたH−NMRにより確認したところ、ランダムコポリマーFの中のアクリル酸構成単位、n−ブチルアクリレート構成単位、スチレン構成単位の組成比は、43/22/35(モル比)=32/30/38(重量比)(酸価252mg−KOH/g)であった。
また、ポリマーFの1.0重量%水溶液のpHは8.66であった。
【0153】
<合成例7>
ポリビニルアルコール−b−ポリ(アクリル酸ナトリウム−co−アクリル酸メチル−co−メタクリル酸ナトリウム−co−メタクリル酸ベンジル−co−スチレン)(ブロックコポリマーG)の合成
内部が窒素置換された、コンデンサー、窒素導入管、撹拌機及び温度計付きのフラスコに、酢酸ビニル3587g、連鎖移動剤及び溶媒としてクロロホルム1907gを仕込み、1時間掛けて70℃に昇温した。次いで、クロロホルム534gに重合開始剤としてアゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.3gを溶解した重合開始剤溶液を、6時間かけて滴下した。その後、クロロホルム444.5gに、重合開始剤としてアゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.5gを溶解した重合開始剤溶液を、5時間かけて滴下した。触媒溶液の滴下後、加熱し、還流条件下、10時間重合反応を行った。反応終了後反応溶液中に0.01N水酸化ナトリウム/メタノール溶液を連続的に滴下しながら、内温40℃で未反応の酢酸ビニルとクロロホルムを減圧留去し、ポリ酢酸ビニルメタノール溶液(ポリ酢酸ビニル濃度74重量%)を得た。このポリ酢酸ビニルは数平均分子量3,500、分子量分布(Mw/Mn)が2.4であった。
【0154】
次いで、内部が窒素置換された、コンデンサー、窒素導入管、撹拌機及び温度計付きのフラスコに、溶媒としてメタノール17g、及びイソプロピルアルコール1048.5gモノマーとしてアクリル酸メチル2623g、メタクリル酸ベンジル2142g、及びスチレン63.5g、マクロ開始剤として前記のポリ酢酸ビニルメタノール溶液1353gを仕込み、室温から60℃まで1時間で昇温した。内温が60℃に達した時点で、メタノール30gに触媒として臭化第一銅0.6g、配位子としてトリス(2−ジメチルアミノ)エチルアミン12.0gを溶解した触媒溶液を添加した。触媒溶液添加後、加熱し、還流条件下、30時間重合反応を行った。
【0155】
次いで、コンデンサー、撹拌機及び温度計付きの反応釜中でメタノール276gとテトラヒドロフラン(THF)552g、水138gの混合溶媒に上記の重合溶液502gを溶解した後、60℃まで昇温し、5N水酸化ナトリウム728g加え、65℃で7時間反応を行った。反応終了後、上澄み液を除去して得られたポリマー塊にテトラヒドロフラン(THF)550g、水140gを加え、懸濁させた後に、メタノール280gを加えてポリマーを沈殿させた。再度上澄み液を除去し、水300gを加えた後、酢酸で中和し、溶液を90℃まで加熱し、残THFとメタノールを留去し、ポリマー水溶液を得た。その後、限外濾過膜(ACP−1050旭化成株式会社製)を用いてポリマー水溶液から不純物を除去した。限外濾過後のポリマー水溶液を濃縮、乾固することにより、ポリビニルアルコール系ブロックと連結したコポリマーがグラジエントコポリマーであるポリビニルアルコール−b−ポリ(アクリル酸ナトリウム−co−アクリル酸メチル−co−メタクリル酸ナトリウム−co−メタクリル酸ベンジル−co−スチレン):ポリマーGを得た。
【0156】
上記のポリマーGの構造を、重水を溶媒としたH−NMRにより確認したところ、ブロックコポリマーGの中のビニルアルコール構成単位、アクリル酸ナトリウム構成単位、アクリル酸メチル構成単位、メタクリル酸ナトリウム構成単位、メタクリル酸ベンジル構成単位、スチレン構成単位の組成比は、25/26/21/2/21/5(モル比)=12/20/20/2/40/6(重量比)(酸価170mg−KOH/g)であった。
また、ポリマーGの数平均分子量(Mn)は14,000、重量平均分子量(Mw)は22,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.57であった。また、重量平均分子量4,000以下の低分子量成分は3.0重量%であった。
【0157】
また、ポリマーGの1.0重量%水溶液のpHは8.01であり、前記ポリマーAとポリマーGを重量比で5対6で混合したポリマー混合物の1.0重量%水溶液のpHは8.25であった。
【0158】
[実施例及び比較例]
以下に、合成例1〜7で得られたポリマーA〜Gを用いた、カーボンブラック分散液の製造例とそれを用いた評価結果を示す。
【0159】
<実施例1:カーボンブラック顔料分散液(1)>
カーボンブラック(三菱化学(株)試作品; DBP吸収量102cm/100g、平均一次粒子径16nm、pH7)36.0g、ポリマーA水溶液(固形分19.76重量%)16.63g、及び蒸留水247.37gを混合し、ホモミキサーで10分間予備分散した。
【0160】
上記予備分散液を500mlトールビーカーに入れ、ビーカーを氷水中に漬け、分散液の温度を0〜50℃に保って、超音波ホモジナイザー(日本精機製作所(株);US−600T;使用チップ36mmφ)で60分間分散し、12重量%カーボンブラック分散液(1)を得た。
この分散液(1)のpHは9.13であり、表面張力は71.1dyne/cmであった。
【0161】
カーボンブラック分散液(1)中のカーボンブラックの平均分散粒子径と粘度を以下の方法で測定したところ123nm及び2.1cpであった。
【0162】
(平均分散粒子径の測定)
分散液を脱イオン水で10,000倍に希釈し、大塚電子(株)FPAR−1000で希釈用プローブを使用して測定し、平均分散粒子径の値はCumulant法により算出した。
【0163】
(粘度の測定)
レオメーター(REOLOGICA ABInsturuments;VAR−100;コーン1°/55φ)を使用し、剪断速度100/秒の時の値を読み取った。
【0164】
また、カーボンブラック分散液(1)を密閉状態で70℃で1週間保存した後のpHを測定したところ、8.17であった。(pH変化=0.96)
【0165】
(分散液の耐熱保存安定性の評価)
上記カーボンブラック分散液(1)を70℃で2週間保存した後のカーボンブラックの平均分散粒子径と粘度を上記の方法で測定したところ、130nm及び2.1cpであった。
【0166】
(インク組成物の調製)
カーボンブラック分散液(1)を用いて下記組成のインク組成物(1)を調製し、後述の評価を実施した。ここで、インク組成物は、それぞれ下記成分を混合し15分撹拌後、30分間超音波分散処理することにより得た。
【0167】
<インク組成>
カーボンブラック分散液(1):50.0重量部
蒸留水:39.5重量部
ジエチレングリコール:5重量部
グリセリン:5重量部
オルフィンE1010(エアプロダクツ社製界面活性剤):0.5重量部
【0168】
インク組成物(1)中のカーボンブラックの平均分散粒子径を上記と同様の方法で測定したところ120nmであった。
【0169】
(インク組成物の耐熱保存安定性の評価)
上記インク組成物(1)を70℃で2週間保持した後のカーボンブラックの平均分散粒子径を上記と同様の方法で測定したところ、121nmであった。
【0170】
<実施例2:カーボンブラック顔料分散液(2)>
カーボンブラック(三菱化学(株)試作品; DBP吸収量102cm/100g、平均一次粒子径16nm、pH7)36.0g、ポリマーB水溶液(固形分9.28重量%)16.63g、及び蒸留水227.53gを混合し、ホモミキサーで10分間予備分散した。
【0171】
上記予備分散液に対して、実施例1と同様にして、超音波ホモジナイザーによる分散処理を行い、12重量%カーボンブラック分散液(2)を得た。
この分散液(2)のpHは9.26であり、表面張力は71.8dyne/cmであった。
このカーボンブラック分散液(2)中のカーボンブラックの平均分散粒子径と粘度を実施例1と同様の方法で測定したところ121nm及び2.2cpであった。
また、カーボンブラック分散液(2)を密閉状態で70℃で1週間保存した後のpHを測定したところ、8.63であった。(pH変化=0.63)
【0172】
(分散液の耐熱保存安定性の評価)
上記カーボンブラック分散液(2)を70℃で2週間保存した後のカーボンブラックの平均分散粒子径と粘度を上記の方法で測定したところ、116nm及び1.9cpであった。
【0173】
(インク組成物の調製)
カーボンブラック分散液(1)をカーボンブラック分散液(2)に変えた以外は実施例1と同様にしてインク組成物(2)を調製し、平均分散粒子径を上記と同様の方法で測定したところ、120nmであった。
【0174】
(インク組成物の耐熱保存安定性の評価)
上記インク組成物(2)を70℃で2週間保持した後のカーボンブラックの平均分散粒子径を上記と同様の方法で測定したところ、123nmであった。
【0175】
<実施例3:カーボンブラック顔料分散液(3)>
カーボンブラック(三菱化学(株)試作品;DBP吸収量102cm/100g、平均一次粒子径16nm、pH7)36.0g、ポリマーC水溶液(固形分13.84重量%)26.53g、及び蒸留水237.47gを混合し、ホモミキサーで10分間予備分散した。
【0176】
上記予備分散液に対して、実施例1と同様にして、超音波ホモジナイザーによる分散処理を行い、12重量%カーボンブラック分散液(3)を得た。
この分散液(3)のpHは9.42であり、表面張力は68.7dyne/cmであった。
このカーボンブラック分散液(3)中のカーボンブラックの平均分散粒子径と粘度を実施例1と同様の方法で測定したところ119nm及び2.0cpであった。
また、カーボンブラック分散液(3)を密閉状態で70℃で1週間保存した後のpHを測定したところ、8.76であった。(pH変化=0.83)
【0177】
(分散液の耐熱保存安定性の評価)
上記カーボンブラック分散液(3)を70℃で2週間保存した後のカーボンブラックの平均分散粒子径と粘度を上記の方法で測定したところ、116nm及び1.9cpであった。
【0178】
(インク組成物の調製)
カーボンブラック分散液(1)をカーボンブラック分散液(3)に変えた以外は実施例1と同様にしてインク組成物(3)を調製し、平均分散粒子径を上記と同様の方法で測定したところ、122nmであった。
【0179】
(インク組成物の耐熱保存安定性の評価)
上記インク組成物(3)を70℃で2週間保持した後のカーボンブラックの平均分散粒子径を上記と同様の方法で測定したところ、123nmであった。
【0180】
<実施例4:カーボンブラック顔料分散液(4)>
カーボンブラック(三菱化学(株)試作品;DBP吸収量102cm/100g、平均一次粒子径16nm、pH7)18.0g、ポリマーD水溶液(固形分15.30重量%)8.82g、及び蒸留水123.18gを混合し、ホモミキサーで10分間予備分散した。
【0181】
上記予備分散液に対して、実施例1と同様にして、超音波ホモジナイザーによる分散処理を行い、12重量%カーボンブラック分散液(4)を得た。
この分散液(4)のpHは8.94であり、表面張力は67.4dyne/cmであった。
このカーボンブラック分散液(4)中のカーボンブラックの平均分散粒子径と粘度を実施例1と同様の方法で測定したところ121nm及び2.0cpであった。
また、カーボンブラック分散液(4)を密閉状態で70℃で1週間保存した後のpHを測定したところ、8.25であった。(pH変化=0.69)
【0182】
(分散液の耐熱保存安定性の評価)
上記カーボンブラック分散液(4)を70℃で2週間保存した後のカーボンブラックの平均分散粒子径と粘度を上記の方法で測定したところ、120nm及び2.0cpであった。
【0183】
(インク組成物の調製)
カーボンブラック分散液(1)をカーボンブラック分散液(4)に変えた以外は実施例1と同様にしてインク組成物(4)を調製し、平均分散粒子径を上記と同様の方法で測定したところ、119nmであった。
【0184】
(インク組成物の耐熱保存安定性の評価)
上記インク組成物(4)を70℃で2週間保持した後のカーボンブラックの平均分散粒子径を上記と同様の方法で測定したところ、116nmであった。
【0185】
<実施例5:カーボンブラック顔料分散液(5)>
カーボンブラック(三菱化学(株)試作品;DBP吸収量102cm/100g、平均一次粒子径16nm、pH7)18.0g、ポリマーE水溶液(固形分19.80重量%)5.91g、及び蒸留水126.09gを混合し、ホモミキサーで10分間予備分散した。
【0186】
上記予備分散液に対して、実施例1と同様にして、超音波ホモジナイザーによる分散処理を行い、12重量%カーボンブラック分散液(5)を得た。
この分散液(5)のpHは9.20であり、表面張力は71.1dyne/cmであった。
このカーボンブラック分散液(5)中のカーボンブラックの平均分散粒子径と粘度を実施例1と同様の方法で測定したところ132nm及び2.1cpであった。
また、カーボンブラック分散液(5)を密閉状態で70℃で1週間保存した後のpHを測定したところ、8.55であった。(pH変化=0.64)
【0187】
(分散液の耐熱保存安定性の評価)
上記カーボンブラック分散液(5)を70℃で2週間保存した後のカーボンブラックの平均分散粒子径と粘度を上記の方法で測定したところ、133nm及び2.4cpであった。
【0188】
(インク組成物の調製)
カーボンブラック分散液(1)をカーボンブラック分散液(5)に変えた以外は実施例1と同様にしてインク組成物(5)を調製し、平均分散粒子径を上記と同様の方法で測定したところ、124nmであった。
【0189】
(インク組成物の耐熱保存安定性の評価)
上記インク組成物(5)を70℃で2週間保持した後のカーボンブラックの平均分散粒子径を上記と同様の方法で測定したところ、121nmであった。
【0190】
<比較例1:カーボンブラック顔料分散液(6)>
カーボンブラック(三菱化学(株)試作品;DBP吸収量102cm/100g、平均一次粒子径16nm、pH7)18.0g、ポリマーF水溶液(固形分18.32重量%)7.37g、及び蒸留水124.63gを混合し、ホモミキサーで10分間予備分散した。
【0191】
上記予備分散液に対して、実施例1と同様にして、超音波ホモジナイザーによる分散処理を行い、12重量%カーボンブラック分散液(6)を得た。
この分散液(6)のpHは9.47であり、表面張力は70.3dyne/cmであった。
このカーボンブラック分散液(6)中のカーボンブラックの平均分散粒子径と粘度を実施例1と同様の方法で測定したところ122nm及び2.1cpであった。
また、カーボンブラック分散液(6)を密閉状態で70℃で1週間保存した後のpHを測定したところ、8.38であった。(pH変化=1.09)
【0192】
(分散液の耐熱保存安定性の評価)
上記カーボンブラック分散液(6)を70℃で2週間保存した後のカーボンブラックの平均分散粒子径と粘度を上記の方法で測定したところ、240nm及び13.0cpであった。
【0193】
(インク組成物の調製)
カーボンブラック分散液(1)をカーボンブラック分散液(6)に変えた以外は実施例1と同様にしてインク組成物(6)を調製し、平均分散粒子径を上記と同様の方法で測定したところ、120nmであった。
【0194】
(インク組成物の耐熱保存安定性の評価)
上記インク組成物(6)を70℃で2週間保持した後のカーボンブラックの平均分散粒子径を上記と同様の方法で測定したところ、351nmであった。
【0195】
<比較例2:カーボンブラック顔料分散液(7)>
カーボンブラック(三菱化学(株)試作品;DBP吸収量102cm/100g、平均一次粒子径16nm、pH7)18.0g、ポリマーA水溶液(固形分19.76重量%)4.55g、ポリマーG水溶液(固形分13.07重量%)8.25g、及び蒸留水119.2gを混合し、ホモミキサーで10分間予備分散した。
【0196】
上記予備分散液に対して、実施例1と同様にして、超音波ホモジナイザーによる分散処理を行い、12重量%カーボンブラック分散液(7)を得た。
この分散液(7)のpHは9.04であり、表面張力は70.1dyne/cmであった。
このカーボンブラック分散液(7)中のカーボンブラックの平均分散粒子径と粘度を実施例1と同様の方法で測定したところ122nm及び4.1cpであった。
また、カーボンブラック分散液(7)を密閉状態で70℃で1週間保存した後のpHを測定したところ、8.28であった。(pH変化=0.76)
【0197】
(分散液の耐熱保存安定性の評価)
上記カーボンブラック分散液(7)を70℃で2週間保存した後のカーボンブラックの平均分散粒子径と粘度を上記の方法で測定したところ、420nm及び8.5cpであった。
【0198】
(インク組成物の調製)
カーボンブラック分散液(1)をカーボンブラック分散液(7)に変えた以外は実施例1と同様にしてインク組成物(7)を調製し、平均分散粒子径を上記と同様の方法で測定したところ、156nmであった。
【0199】
(インク組成物の耐熱保存安定性の評価)
上記インク組成物(7)を70℃で2週間保持した後のカーボンブラックの平均分散粒子径を上記と同様の方法で測定したところ、643nmであった。
【0200】
上記実施例1〜5及び比較例1,2の結果を表1〜3にまとめて示す。
ここで、分散液の耐熱保存安定性の評価(○△×)の基準は以下の通りとした。
○・・・70℃で2週間保存の前後で平均分散粒子径の変化が20nm以下であり、
粘度の変化が0.5cp以下である。
△・・・70℃で2週間保存の前後で平均分散粒子径の変化が21〜100nmであり
、粘度の変化が0.6〜2.0cpである。
×・・・70℃で2週間保存の前後で平均分散粒子径の変化が101nm以上であり、
粘度の変化が2.1cp以上である。
【0201】
【表1】

【0202】
【表2】

【0203】
【表3】

【0204】
表1〜3より以下のことが明らかである。
【0205】
比較例1の分散液(6)は、カーボンブラック分散液の粘度は2.1cpと低い値であるが、密閉状態で70℃で1週間保存したときのpHの下がり幅ΔpHが1.0より大きいため、分散液及びこれを用いて調製したインク組成物の耐熱保存安定性が悪い。
比較例2の分散液(7)は、密閉状態で70℃で1週間保存したときのpHの下がり幅ΔpHが1.0以下であるが、粘度が4.1cpと高いため、分散液及びこれを用いて調製したインク組成物の耐熱保存安定性が悪い。
【0206】
これに対して、実施例1〜5の分散液(1)〜(5)では、70℃で2週間保存した前後でカーボンブラックの平均分散粒子径と粘度がほぼ変わらず、良好な耐熱保存安定性を示しており、調製されたインク組成物の耐熱保存安定性も良好である。
【0207】
以上の結果から、密閉状態で70℃で1週間保存したときのpHの下がり幅ΔpHが1.0以下であり、粘度が4.0cp以下である本発明のカーボンブラック分散液及びこれを用いて調製したインク組成物は、従来のものと比較して良好な耐熱保存安定性を有することが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともカーボンブラック、ポリマー、及び水性媒体を含み、粘度が4.0cp以下で、密閉状態で70℃で1週間保存したときのpHの下がり幅が1.0以下であることを特徴とするカーボンブラック分散液。
【請求項2】
前記ポリマーの酸価が240mg−KOH/g以下であることを特徴とする請求項1に記載のカーボンブラック分散液。
【請求項3】
前記ポリマーの重量平均分子量が15,000以上であり、且つ重量平均分子量4,000以下の成分の含有量が20重量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のカーボンブラック分散液。
【請求項4】
前記水性媒体が水のみであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のカーボンブラック分散液。
【請求項5】
前記ポリマーの1.0重量%水溶液のpHと、該ポリマーを含む前記カーボンブラック分散液のpHとの差が0.5以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のカーボンブラック分散液。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載のカーボンブラック分散液を含むことを特徴とするインク組成物。
【請求項7】
請求項6に記載のインク組成物の液滴をインクジェットヘッドから吐出させ、該液滴を記録媒体に付着させることを特徴とするインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2011−219556(P2011−219556A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87811(P2010−87811)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】