説明

カーボンブラック複合体の製造方法

【課題】 導電性付与能力に優れ、容易に樹脂又はゴム等に分散可能であるカーボンブラック複合体及び、その製造方法を提供する。
【解決手段】 マイクロトラックによる粒度分布測定の中央値が5μm以下、濃度が1.0質量%以上10質量%以下の繊維状炭素スラリーを、炭化水素と1500℃以上の非酸化雰囲気下で熱処理する繊維状炭素と非繊維状炭素のカーボンブラック複合体の製造方法。
繊維状炭素を機械的微細処理及び/又は化学的微細処理することが好ましい。機械的微細処理にビーズミル、振動ミル、ボールミル、ロットミル、ディスクミル又はミキサーを用いることが好ましい。化学的微細処理が分散剤処理及び/又は酸処理であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラック複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴム、樹脂等にカーボンブラックを含有させ、導電性を付与させるということが行われている。特にアセチレンブラックは炭素粒子の連鎖構造を有するため、一般のカーボンブラックと比較して導電性の付与能力に優れている。
しかしながら、近年、樹脂等の本来の特性を低下させずに高い導電性を付与することが出来る導電剤が求められており、この要求を満たすためには、導電付与効果が一段と優れたカーボンブラックを開発する必要がある。
【0003】
このような問題に対して、導電剤にカーボンナノチューブを用いることが提案されているが、分散性が悪く、非常に高価である。
また、アセチレンブラックの反応場でカーボンナノチューブを生成させるという提案がなされている(特許文献1)が、アセチレンブラックとカーボンナノチューブを同じ生成場で製造するため、安定した物性の生成物を作製し続けることが難しい。
さらに、カーボンナノチューブを生成した後、アセチレンブラックと複合化させる方法も提案がなされている(特許文献2,3,4)が、カーボンナノチューブの凝集による物性の低下がおこることがあり、凝集体を解砕するために樹脂等を長時間混練を行うと、樹脂等の本来の特性を低下させることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO/2007/013678
【特許文献2】特開2010-31214号公報
【特許文献3】特開2010-77313号公報
【特許文献4】特開2010-248397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、導電性付与能力に優れ、容易に樹脂又はゴム等に分散可能であるカーボンブラック複合体及び、その製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)マイクロトラックによる粒度分布測定の中央値が5μm以下、濃度が1.0質量%以上10質量%以下の繊維状炭素スラリーを、炭化水素と1500℃以上の非酸化雰囲気下で熱処理する繊維状炭素と非繊維状炭素のカーボンブラック複合体の製造方法。
(2)繊維状炭素を機械的微細処理及び/又は化学的微細処理する前記(1)に記載のカーボンブラック複合体の製造方法。
(3)機械的微細処理がビーズミル、振動ミル、ボールミル、ロットミル、ディスクミル又はミキサーを用いることを特徴とする前記(2)に記載のカーボンブラック複合体の製造方法。
(4)化学的微細処理が分散剤処理及び/又は酸処理である前記(2)に記載のカーボンブラック複合体の製造方法。
(5)非繊維状炭素がアセチレンブラックである前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載のカーボンブラック複合体の製造方法。
(6)繊維状炭素の直径が200nm以下である前記(1)〜(5)のいずれか一項に記載のカーボンブラック複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のカーボンブラック複合体は、従来のカーボンブラックよりも導電性付与能力に優れており、樹脂、ゴム等に容易に分散させることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のカーボンブラック複合体は、繊維状炭素とカーボンブラックが連結しているものである。
連結とは単なる接触ではなく、炭素質で物理的に融着していることを意味し、通常の機械的操作では容易に分離されることなく、連結された繊維状炭素とカーボンブラック間で接触抵抗なしで電子が自由に移動できるものである。そのため、樹脂等と混合した際もカーボンブラック複合体のまま存在し、良好な分散性が得られると同時に高導電性が保たれる。繊維状炭素単独では、樹脂等の他の材料と混合する場合、配向や繊維同士の絡み合いのため、良好な分散性を得ることが困難であり、導電性にバラツキが生じる。カーボンブラックと繊維状炭素を単純に混合した場合は形状が異なるため更にバラツキが大きくなるが、本発明のカーボンブラック複合体は導電性の安定性に優れていることが特長の一つである。ここで繊維状炭素は1〜50質量%であることが好ましい。繊維状炭素が1質量%未満であると、十分な導電性が得られず、50質量%を超えるとカーボンブラックとの連結が十分でなくなると同時に、繊維状炭素の凝集などのため分散性が著しく低下する。
【0009】
本発明のカーボンブラック複合体で使用される繊維状炭素とは、炭素繊維(カーボンファイバー)、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等である。本発明においては繊維状炭素を適宜選択可能であるが、繊維状炭素は直径が200nm以下であることが好ましい。
【0010】
本発明のカーボンブラック複合体は、繊維状炭素を炭化水素の熱分解中に導入する方法で製造される。この製造方法を用いることでカーボンブラック複合体のJIS K 1469に規定される灰分を1.0質量%以下にすることが出来る。
【0011】
本発明のカーボンブラック複合体に用いる繊維状炭素は、炭化水素の熱分解温度以上の高温場に供給し、熱処理することにより生成することができる。炭化水素の熱分解温度は、特に500〜1000℃であることが好ましい。炭化水素として、例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン等の飽和炭化水素、例えばエチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン等の2重結合を有する不飽和炭化水素、アセチレン、プロピン、ブチン等の3重結合を有する不飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等を用いることが出来る。また、一酸化炭素や二酸化炭素等も使用できる。中でも、一酸化炭素を使用したものは、直径が30nm以下と非常に細かく、表面に欠陥を持つため、アセチレンブラックと結合しやすく作製される複合体も小粒子径になるため特に好ましい。
【0012】
繊維状炭素化触媒、助触媒としては、Co,Mn,Fe,Mo,S,V,Cr等の微粒子及びそれらの酸化物を用いることが出来る。
【0013】
本発明のカーボンブラック複合体におけるカーボンブラックは、炭化水素の熱分解温度以上の高温場で生成することが好ましく、特に1800〜2200℃で生成することが好ましい。炭化水素として、例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン等の飽和炭化水素、例えばエチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン等の2重結合を有する不飽和炭化水素、アセチレン、プロピン、ブチン等の3重結合を有する不飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等を用いることが出来る。中でもエチレン、アセチレン、ブタジエンは、自己発熱分解反応であるため、反応炉の中心部分でも高温を維持でき、繊維状炭素の欠陥に吸着されやすいため好ましく、特にアセチレンが好ましい。また、炭化水素の供給量は0.6〜6m/hであることが好ましい。
【0014】
本発明のカーボンブラック複合体における球状炭素粒子、繊維状炭素のスラリーを製造するときの溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類や、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等、また、分散剤の使用や酸処理を行うことにより、水を使用することも出来る。
【0015】
本発明のカーボンブラック複合体における繊維状炭素スラリーを製造するときは、ビーズミル、振動ミル、ボールミル、ロットミル、ディスクミルまたはヘンシェルミキサー、プラネタリーミキサー等で機械的に微粉砕若しくは分散したものを用いることが好ましく、特にビーズミル、振動ミル、ボールミルを使用することが好ましい。また、プレ分散をボール(直径1〜10mm)を使用し、その後、ビーズ(直径0.1〜1mm)を使用することが好ましい。ミルに使用するボール及びビーズはアルミナ、ジルコニア等の摩耗に強いセラミックスであることが好ましい。また、前処理として分散剤及び/又は酸処理による処理を行うと、溶媒への分散性が向上するため好ましい。
【0016】
上記界面活性剤は、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤を用いることが出来る。特に、トリトンX−100、ドデジル硫酸ナトリウム、ドデジルベンゼンスルホン酸ナトリウムはカーボンナノチューブの分散に優れた効果を示すため好ましい。
【0017】
上記酸処理方法として、塩酸、硫酸、硝酸等の酸により表面改質を行うことが出来る。
また、酸素雰囲気下による燃焼やオゾン処理を行うことで表面改質を行うことも出来る。
【0018】
上記スラリーの粒度分布は粒度分布の中央値が5μm以下であることが好ましく、特に2μm以下であることが好ましい。スラリー濃度は1.0質量%以上10質量%以下であることが好ましい。特に有機溶媒を使用する場合は、有機溶媒が熱分解してカーボンブラックとなるためスラリー濃度は5.0質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0019】
本発明のカーボンブラック複合体の粒度分布は、粒度分布の中央値が5μm以下であることが好ましく、特に3μm以下であることが好ましい。
【実施例】
【0020】
次に実施例により本発明の具体的態様を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
(実施例1〜3)
繊維状炭素は以下の方法で作製した。炭素源として一酸化炭素、触媒として酸化コバルト、酸化マンガンの混合粉を使用した。作製方法としては石英皿に触媒を敷き反応炉内に設置し、窒素、水素の混合ガス雰囲気で置換した後、常温から570℃まで昇温し、570℃で触媒の還元処理を行った。その後、一酸化炭素を導入し繊維状炭素を生成した。
次に、作製した繊維状炭素をエタノールに加え、直径6mmのアルミナボールを使用して振動ミルで60分間プレ分散を行い、その後、直径0.3mmのジルコニアビーズを使用してビーズミルで90分間分散させて、繊維状炭素が5質量%で粒度分布の中央値が1μmのスラリーを作製した。
その後、2000℃に加熱した反応炉(炉長2m、炉直径0.2m)の炉頂に設置された二本のノズル(一流体ノズル,二流体ノズル)の一方の二流体ノズル{外径(窒素ガスライン):2mm,内径(スラリーライン):1.5mm}から上記カーボンスラリーをスラリー流量3,6,12L/時間で噴霧し、もう一方の一流体ノズル(内径:10mm)からアセチレンガスを0.3m/時間で流し、複合化を行った。生成されたカーボンブラック複合体は炉下部に直結されたバグフィルターから捕集した。このときのカーボンブラック複合体の粒度を表1に示す。また、それらについての評価結果を表1に示す。
【0021】
実施例4,5,6として実施例1に記載された方法で繊維状炭素をエタノールに加え、振動ミルで60分間プレ分散を行い、その後、直径0.3mmのジルコニアビーズを使用してビーズミルで30分間分散させて、カーボンが1,3,10質量%で粒度分布の中央値が1μmのスラリーを作製した。また、比較例1,2として、実施例4,5の方法に基づきカーボンが0.5,12質量%で粒度分布の中央値が1μmのスラリーを作製した。その後、2000℃に加熱した反応炉(炉長2m、炉直径0.2m)の炉頂に設置された二本のノズル(一流体ノズル,二流体ノズル)の一方の二流体ノズル{外径(窒素ガスライン):2mm,内径(スラリーライン):1.5mm}から上記カーボンスラリーをスラリー流量3L/時間と、窒素ガス流量:36m/時間で噴霧し、もう一方の一流体ノズル(内径:10mm)からアセチレンガスを0.06,0.18,0.60m/時間で流し、複合化を行った。比較例1,2として、アセチレンガスを0.03,0.72m/時間で流し、複合化を行った。生成されたカーボンブラック複合体は炉下部に直結されたバグフィルターから捕集した。
【0022】
実施例7,8として、実施例1の方法で繊維状炭素を生成して、水溶媒で分散剤としてドデジルベンゼンスルホン酸ナトリウムを繊維状炭素と質量比で1:1になるように混ぜて、粒度分布の中央値が1μmの繊維状炭素のスラリーを作製した。その後、実施例1のアセチレン反応炉にアセチレンガスを炉頂に設置された2本のノズルの一方の二流体ノズル{外径(窒素ガスライン):2mm,内径(スラリーライン):1.5mm}から上記スラリーを3,12L/時間で噴霧し、もう一方の一流体ノズル(内径:10mm)からアセチレンガスを0.5,1.8m/時間で流し、複合化を行った。
【0023】
実施例9として、実施例1の方法に基づき炭素源として、アセチレンを導入せずエタノールのみとして、複合化を行った。
【0024】
実施例10,11として、実施例1の方法に基づきカーボンブラック生成温度を1700℃,1500℃にして複合化を行った。また、比較例3として、実施例1の方法に基づきカーボンブラック生成温度を1400℃にして複合化を行った。
【0025】
実施例12,13として、実施例1の方法に基づきスラリーの粒度分布の中央値が2,5μmになるようにして複合化を行った。また、比較例4として、実施例1の方法に基づきスラリーの粒度分布の中央値が7μmになるようにして複合化を行った。
【0026】
比較例5については、実施例1に記載された方法で繊維状炭素を作製し、スラリーとはしないで、スクリューフィーダーで160g/時間で反応炉(炉長2m、炉直径0.2m)の炉頂に設置された2本のノズルの一方から供給し、もう一方からはアセチレンガス(純度99%)を流量0.6m/時間で供給し、2000℃で熱分解してカーボンブラックを生成し複合化を行った。
【0027】
各物性の評価方法を以下に示す。
(1)繊維状炭素の直径については透過型電子顕微鏡(TEM)により、倍率3万倍で100本測定し、その平均径を求めた。
(2)粉体抵抗はJIS K 1469に従い測定した。
(3)粒度分布は、測定サンプルが粉体の場合には、0.05gをエタノール30mlに投入し、超音洗浄機(アズワン社製、商品名「US CLEANER US−1R」)で5分間処理した後、マイクロトラック(日機装社製、商品名「MT3300EXII」)により測定した。測定サンプルがスラリーの場合には、そのままマイクロトラック(日機装社製、商品名「MT3300EXII」)により測定した。このとき循環器の溶媒はエタノールまたはスラリーで使用した溶媒を使用し、測定サンプルが適正濃度になるまで調整した。
(4)コンパウンド体積固有抵抗値測定による導電性評価
実施例1〜3のカーボンブラック複合体10質量部をPS樹脂(東洋スチレン社製、商品名「G200」)90質量部に配合し、混練機(東洋精機製作所社製、商品名「ラボプラストミル」)を用いて、ブレード回転数30rpm、温度220℃で2分間混練した。この混練物を200℃に加熱し、9.8×10Paの圧力で加圧成形して2×20×90mmの試験片を作製し、デジタルマルチメーター(横河電機社、商品名「デジタルマルチメータ 7562」)を用い、SRI2301に準じて体積固有抵抗を測定した。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
表1から表3に、実施例と比較例のスラリー、複合化条件、複合体の物性について示す。表1から表3より、本発明の実施例によって得られたカーボンブラック複合体は、比較例1〜5によって得られたカーボンブラック複合体と比べて短時間の混練でコンパウンド抵抗が低くなり、従来のカーボンブラック複合体より優れた導電性付与効果を発揮した。本発明により、導電性付与能力に優れた分散されたカーボンブラック複合体を連続的に製造方法することが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のカーボンブラック複合体は樹脂、ゴムへの導電性付与剤の他に、一次電池、二次電池、燃料電池、キャパシタ等の電池用導電剤等として利用することが出来る。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロトラックによる粒度分布測定の中央値が5μm以下、濃度が1.0質量%以上10質量%以下の繊維状炭素スラリーを、炭化水素と1500℃以上の非酸化雰囲気下で熱処理する繊維状炭素と非繊維状炭素のカーボンブラック複合体の製造方法。
【請求項2】
繊維状炭素を機械的微細処理及び/又は化学的微細処理する請求項1に記載のカーボンブラック複合体の製造方法。
【請求項3】
機械的微細処理がビーズミル、振動ミル、ボールミル、ロットミル、ディスクミル又はミキサーを用いることを特徴とする請求項2に記載のカーボンブラック複合体の製造方法。
【請求項4】
化学的微細処理が分散剤処理及び/又は酸処理である請求項2に記載のカーボンブラック複合体の製造方法。
【請求項5】
非繊維状炭素がアセチレンブラックである請求項1〜4のいずれか一項に記載のカーボンブラック複合体の製造方法。
【請求項6】
繊維状炭素の直径が200nm以下である請求項1〜5のいずれか一項に記載のカーボンブラック複合体の製造方法。


【公開番号】特開2013−64049(P2013−64049A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202704(P2011−202704)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】