説明

カーボンブレーキの摩耗を低減させるシステム

【課題】カーボンブレーキを有する航空機に使用するためのブレーキ監視システムの提供。
【解決手段】システム12は、各離陸及び着陸サイクル中のような予め選択されたカウントインターバル中にブレーキをかけた回数を表示する。ブレーキをかけた回数についてのパイロットの意識を高めることにより、カーボンブレーキの摩耗は、実質的に、それにより変換された全エネルギーではなくブレーキをかけた回数の関数であるという知識に鑑み、より効率的なブレーキ使用が促される。更に、監視システム12は、ブレーキの温度の指示も与え、これは、越えると摩耗が減少される最低温度をパイロットが維持するように促す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、航空機のブレーキシステムに関し、より詳細には、カーボンブレーキの摩耗を低減させるための工夫に関する。
【背景技術】
【0002】
大きな乗客又は貨物ペイロードを搬送するように設計された多くの近代的な航空機にはカーボンブレーキが取り付けられている。このようなブレーキは、摩擦材料及びヒートシンクとして働くためにカーボン複合材料の使用に依存している。カーボン回転子円板及びカーボン固定子円板のスタックが車輪の軸に沿って交互に同軸的に配列され、回転子円板は、車輪に回転的にキー止めされ、一方、固定子円板は、固定車軸にキー止めされる。ブレーキ力は、ピストンアクチュエータの加圧によって発生され、ピストンアクチュエータは、圧力プレートとバッキングプレートとの間にスタックを圧縮して、隣接円板の摩擦表面を互いに係合させるように構成される。カーボンブレーキは、スチールブレーキよりも重量及び性能の理由で好ましいが、交換と交換との間の着陸サイクルの関数としてのスタックの交換コストは、スチールブレーキの場合より著しく高い。
【0003】
ブレーキの寿命が全吸収エネルギー量によって主として決定される従来のスチールブレーキとは対照的に、カーボンブレーキは、ブレーキをかける回数の関数として摩耗する。というのは、摩耗は、ブレーキ温度が低いときに最初にかける際に最も高いからである。その結果、滑走路とゲートとの間の誘導路を交渉する際にブレーキが定常的に何回もかけられるときのタキシング中、及び離陸の列に並んでいるのろのろ運転中には、最も摩耗が生じる傾向となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ブレーキをかける回数を減少させ、ひいては、カーボンブレーキの摩耗率を低減させるための工夫は、今日まで、低エネルギーのブレーキがけ中に1つ以上のブレーキをディスエイブルすることに集中された。したがって、個々のブレーキは、ブレーキがけの回数が少なくされる一方、各ブレーキがけ中の増加したブレーキ荷重が摩耗に悪影響を及ぼすことはない。停止能力を妥協することなく且つ航空機の安定性に悪影響を及ぼすことなく、ブレーキをディスエイブルするシーケンスを決定して、種々のブレーキがけされる車輪間に均一な摩耗率を達成するシステムが説明されている。このようなシステムは、航空機のブレーキシステムに相当の複雑さ及びコストを付加し、又、既存の航空機を改造するには、著しい量の時間と工夫についての出費を必要とする。
【0005】
カーボンブレーキの摩耗を低減させ、より詳細には、離陸及び着陸サイクル中にブレーキをかける回数を低減させるためのものであって、安価で、簡単で、且つ既存の航空機に容易に適応される別の解決策が要望される。理想的には、このようなシステムは、既存のブレーキシステムを変更することなく、航空機に適用できるものでなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、カーボンブレーキの摩耗を低減させるための比較的簡単な解決策を提供する。既存のブレーキ制御システムを妨げるのではなく、装置は、単に、パイロットによるブレーキの摩耗効率の良い使用を促進する。ブレーキがかけられる回数及びブレーキの温度を監視し及び表示することにより、パイロットは、低い頻度でブレーキをかけ、及び/又はブレーキに所定量の熱を維持するように促される。
【0007】
本発明の装置は、どれほど頻繁にブレーキをかけたかパイロットに知らせ続け、更に、航空機のブレーキ温度の指示を与えるカウンタを備えている。即座のフィードバックをパイロットに与えることにより、パイロットは、低い頻度でブレーキをかけると共に、個々のブレーキがけ中にはより強くブレーキをかける傾向となる。温度指示器は、パイロットがブレーキに熱を維持するように促す。
【0008】
ブレーキペダルメカニズムに物理的に係合して、その移動によりトリガーされるか又は液圧システムの圧力トランスジューサによりトリガーされるスイッチにより、各ブレーキがけが感知される。ブレーキをかける度にそれがカウントされ、全カウントが操縦室のパイロットに表示される。このシステムは、各フライトの後にリセットするよう構成され、例えば予め選択された時間間隔だけ後で又はメンテナンス操作中に検索するために全ブレーキがけカウントを保持する能力を備えることができる。更に、ブレーキの温度を感知して、それら温度の直接的な読みとして表示することもできるし、或いは閾値温度に達したときには読み出されたカウントのカラー変化により表示することができる。
【0009】
本発明のこれら及び他の効果は、本発明の原理を例示する添付図面を参照した好ましい実施形態の以下の詳細な説明から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のブレーキ監視システムの好ましい実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明のディスプレイコンポーネントの好ましい実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ブレーキが何回かけられたか及びブレーキの温度をパイロットに知らせ続ける程度まで航空機のカーボンブレーキの摩耗効率の良い使用を促進するように働く。カーボンブレーキの摩耗が実質的にブレーキをかけた回数の関数であることを知ると、パイロットは、ブレーキがけのカウントがリアルタイムで分かれば、ブレーキをかける回数を低減させる一方、各使用中にブレーキをより強くかけるという気持ちが強くなるであろう。更に、ブレーキの温度が分かれば、ブレーキが閾値温度より低いときには、パイロットがブレーキに熱を維持し、ひいては、ブレーキがけの回数を低減させるように促す。
【0012】
図1は、本発明の好ましい実施形態の概略図である。システム12は、操縦室に位置されたディスプレイコンポーネント14を備えている。このディスプレイは、マイクロプロセッサ16から情報を受け取り、マイクロプロセッサは、次いで、スイッチメカニズム18から、任意であるが、温度センサ20から信号を受け取る。
【0013】
スイッチメカニズムは、航空機のブレーキペダルに係合して、ペダルが押されたときに回路を閉じ、ひいては、信号を送信するように構成されたマイクロスイッチの形態をとることができる。或いは又、スイッチは、ブレーキシステムの液圧作動システム内の圧力上昇が検出されたときに回路を閉じて信号を発生するように構成された圧力トランスジューサの形態をとってもよい。
【0014】
温度センサ20は、ブレーキの温度、好ましくは、航空機の各ブレーキの温度を個々に測定するように配置される。このような温度センサは、例えば、サーモカップル又は赤外線センサの形態をとる。
【0015】
マイクロプロセッサ16は、スイッチメカニズム18から受信した信号をカウントし、そのようなカウントを表す信号をディスプレイコンポーネントへ送信すべく発生するという機能を果たす。カウントは、例えば、エンジンの始動により又は外部電力の接続でリセット機能22が作動されて、カウントを各離陸及び着陸サイクルに制限するまで、勘定される。又、例えば、航空機のブレーキシステムが、全ブレーキではなく、あるブレーキを選択的に解除するタクシーブレーキ選択特徴を含む場合には、カウントを変更するためにマイクロプロセッサを呼び出すこともできる。又、各ブレーキがかけられた回数を正確に反映するために、各メイン着陸ギアの車輪の数に基づいてカウントが1/2ないし1/3に減少する。更に、カウントは、データ検索システム24にアクセスすることができ、これは、後で検討し解釈するためにカウント履歴を記憶するように構成できる。マイクロプロセッサ16は、航空機のブレーキ制御システム又は中央航空機通信システムに一体化することもできるし、それと通信することもできる。
【0016】
マイクロプロセッサは、更に、温度センサ20から受信した信号を受け取って解釈するように構成することができる。このような信号は、ディスプレイコンポーネント14へ送信するために℃又は°Fに変換することができる。更に、到来する温度信号は、各ブレーキ、全ブレーキの平均、又は最も低温のブレーキに対して個別の読みを与えるように処理されてもよい。或いは又、ブレーキカウント及び温度情報を積分して、温度が閾値温度を越えるときに、表示されるブレーキカウントが色を変えるようにしてもよい。好ましい実施形態では、ブレーキカウントは、温度が350°Fより低いときは赤で表示され、ブレーキ温度が350°Fを越えるときは緑で表示される。
【0017】
図2は、本発明のブレーキ監視システムのディスプレイコンポーネント14により情報がどのように表示されるかの好ましい実施形態である。このようなディスプレイは、航空機の集中ディスプレイシステムにより制御される操縦室ディスプレイに一体化することができる。種々の他のブレーキ関連データを表示するのに加えて、ディスプレイは、ブレーキをかけた回数の読み26を含む。このような読みは、温度が予め確立された閾値温度より低い場合には赤で表示され、温度がこのような予め確立された閾値温度より高い場合には緑で表示される。
【0018】
使用中に、ブレーキ監視システムは、離陸及び着陸サイクル中にブレーキをかけた回数及びブレーキの温度をパイロットに通知し続けるように働く。摩耗は、ブレーキをかける強度ではなく頻度と共に低い温度において加速されるという程度までカーボンブレーキの摩耗特性が分かり、且つブレーキをかけた回数及びその温度がリアルタイムで分かれば、摩耗効率の良い仕方でブレーキを使用するようにパイロットを促す。したがって、パイロットは、タキシング中にブレーキを低い頻度で且つより強く使用すると共に、より多くの熱をブレーキに維持し、及び/又はブレーキの温度がブレーキ摩耗低閾値温度より低い間は使用を回避するように促されることになる。
【0019】
本発明の特定の態様を図示して説明したが、当業者であれば、本発明の精神及び範囲から逸脱せずに種々の変更がなされ得ることが明らかであろう。したがって、本発明は、特許請求の範囲のみによって限定される。
【0020】
追加的に、原出願の出願時の特許請求の範囲の開示事項を以下の通り開示する。
〔開示事項1〕
カーボンブレーキが取り付けられた航空機のブレーキ摩耗を低減させるためのシステムであって、
予め選択されたインターバル中にブレーキをかけた回数のカウントをリアルタイムでパイロットに表示するためのモニタを具備することを特徴とするシステム。
〔開示事項2〕
前記ブレーキの温度の指示を前記パイロットに与えるためのモニタを更に具備する、開示事項1に記載のシステム。
〔開示事項3〕
前記カウントの表示は、或る閾値温度に到達したときに色を変える、開示事項2に記載のシステム。
〔開示事項4〕
前記閾値温度が350°Fである、開示事項3に記載のシステム。
〔開示事項5〕
前記温度の指示が航空機の全ブレーキの平均温度に基づいている、開示事項2に記載のシステム。
〔開示事項6〕
前記温度の指示は、航空機の最も低温のブレーキの温度に基づいている、開示事項2に記載のシステム。
〔開示事項7〕
各ブレーキがかけられたカウントは機械的にトリガーされる、開示事項1に記載のシステム。
〔開示事項8〕
ブレーキを動作させるのに使用されるブレーキペダルの移動によってマイクロスイッチがトリップされる、開示事項7に記載のシステム。
〔開示事項9〕
各ブレーキがけカウントは、液圧的にトリガーされる、開示事項1に記載のシステム。
〔開示事項10〕
ブレーキを動作させる液圧システムの圧力により圧力スイッチがトリップされる、開示事項9に記載のシステム。
〔開示事項11〕
前記インターバルが1回の離陸と着陸とのサイクルを含む、開示事項1に記載のシステム。
〔開示事項12〕
前記カウントがエンジンの始動により自動的にリセットする、開示事項11に記載のシステム。
〔開示事項13〕
前記カウントは、前記航空機が外部電源に接続されたときに自動的にリセットする、開示事項11に記載のシステム。
〔開示事項14〕
前記カウントが記憶され後のダウンロードに使用できる、開示事項1に記載のシステム。
〔開示事項15〕
前記カウントは、タクシーブレーキ選択特徴が働いて航空機の1又はそれ以上のブレーキをディスエイブルする場合に、各ブレーキをかける回数をより正確に反映するように、調整される、開示事項1に記載のシステム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のカーボンブレーキが取り付けられたブレーキシステムを含む航空機のブレーキ摩耗を低減させるためのシステムであって、
前記複数のカーボンブレーキがけを検知し、そして前記複数のカーボンブレーキがけを示すブレーキがけカウント信号を発生するためのスイッチメカニズム、
前記ブレーキがけカウント信号を受信し、該カウント信号に応答して、予め選択されたインターバル中にブレーキをかけた回数の累積的なブレーキがけカウントを勘定するよう作動するマイクロプロセッサであり、前記ブレーキシステムが、前記複数のカーボンブレーキの全ブレーキではなく、あるブレーキを選択的に解除するタクシーブレーキ選択特徴を含む場合には、前記累積的なブレーキがけカウントを1/2ないし1/3に減少して調整されたブレーキがけカウントを発生するよう作動する前記マイクロプロセッサ、
前記調整されたブレーキがけカウントを記憶するよう構成されたデータ検索システム、及び
前記調整されたブレーキがけのカウントの表示及び前記ブレーキの温度の表示をリアルタイムでパイロットに示し、タキシング中にブレーキを低い頻度で且つより強く使用すると共に、ブレーキの温度がブレーキ摩耗閾値温度より低い間はより多くの熱をブレーキに維持するようにパイロットに指示するモニタ
を具備することを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記カウントの表示は、或る閾値温度に到達したときに色を変える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記閾値温度が350°Fである、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記温度の指示が航空機の全ブレーキの平均温度に基づいている、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記温度の指示は、航空機の最も低温のブレーキの温度に基づいている、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
各ブレーキがかけられたカウントは機械的にトリガーされる、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
ブレーキを動作させるのに使用されるブレーキペダルの移動によってマイクロスイッチがトリップされる、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
各ブレーキがけカウントは、液圧的にトリガーされる、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
ブレーキを動作させる液圧システムの圧力により圧力スイッチがトリップされる、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記インターバルが1回の離陸と着陸とのサイクルを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記カウントがエンジンの始動により自動的にリセットする、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記カウントは、前記航空機が外部電源に接続されたときに自動的にリセットする、請求項10に記載のシステム。
【請求項13】
前記カウントが記憶され後のダウンロードに使用できる、請求項1に記載のシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−232740(P2012−232740A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−141037(P2012−141037)
【出願日】平成24年6月22日(2012.6.22)
【分割の表示】特願2008−552366(P2008−552366)の分割
【原出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【出願人】(597034336)ハイドロ エアー インコーポレイテッド (13)
【Fターム(参考)】