説明

カーボン含有チタンオキシナイトライドと、それを用いた選択吸収膜および太陽光集熱器と、多孔体

【課題】高い可視光吸収率および低い赤外光輻射率を実現できるカーボン含有チタンオキシナイトライドを、低コストで提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のカーボン含有チタンオキシナイトライドは、チタンオキシナイトライド前駆体と、フェノール樹脂とを含有する溶液を基材に塗布して、塗膜を加熱することによって得られる。前記溶液において、フェノール樹脂は、例えば、チタンオキシナイトライド前駆体に対して0.01質量%〜100質量%含まれることが望ましい。本発明のカーボン含有チタンオキシナイトライドは、太陽光集熱器の選択吸収膜に好適に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボン含有チタンオキシナイトライドと、それを用いた選択吸収膜および太陽光集熱器と、多孔体とに関する。
【背景技術】
【0002】
チタンオキシナイトライドは、可視光を吸収する性質を有していることから、太陽光集熱器の選択吸収膜等に広く用いられている。太陽光集熱器の選択吸収膜には、高い太陽光吸収率に加えて低い赤外光輻射率も要求されるが、チタンオキシナイトライドは、高い可視光吸収率と低い赤外光輻射率とを共に実現できる。
【0003】
チタンオキシナイトライドの可視光吸収率は、窒素原子の含有量に応じて変化することが知られている。窒素原子の含有量が多すぎると金属光沢が見られて可視光吸収率が低下し、窒素原子含有量が少なすぎると可視光吸収率が低下して赤外光輻射率が高くなる、という傾向がある。
【0004】
選択吸収膜の可視光吸収率をさらに向上させることを目的として、その内部に空間を持たせる構造についても検討がなされている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、酸素原子と窒素原子の含有割合が同程度であるチタンオキシナイトライドにおいて、薄膜内部に数10vol%の空隙を持たせることによって可視光吸収率を向上させる技術が開示されている。このことから、チタンオキシナイトライドによる可視光領域の光の吸収には、その結晶構造のみならず、その空間構造も関係していると考えられる。
【0005】
チタンオキシナイトライドは、製造コスト等を考慮して湿式法で作製することが望ましい。しかし、湿式法で作製したチタンオキシナイトライドは、比較的酸素リッチの膜となるため、充分に高い可視光吸収率と低い赤外光輻射率とを実現することが難しかった。そこで、カーボンをチタンオキシナイトライド中に導入することによって、可視光吸収率を向上させる検討もなされている。例えば、特許文献2には、チタンオキシナイトライド前駆体に添加するカーボン源の選定とその添加量の適正化を行うことによって、赤外光輻射率をそれほど上昇させることなく可視光吸収率を向上させたチタンオキシナイトライドが得られることが開示されている。チタンオキシナイトライド前駆体は、例えば特許文献3および特許文献4に開示されている。
【特許文献1】特表平9−507095号公報
【特許文献2】特開2006−1820号公報
【特許文献3】特開2005−194213号公報
【特許文献4】特開2005−187221号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2に開示されたカーボン含有チタンオキシナイトライドであっても、低い赤外光輻射率を保持しつつ、より高い可視光吸収率を実現することは困難であった。例えば、カーボン源としてカーボンナノチューブやケッチェンブラックを用いた場合は、比較的高い可視光吸収率を実現できるものの、同時に赤外光輻射率も高くなってしまっていた。また、赤外光輻射率を抑制するためにカーボン源としてフラーレンを用いることも検討されているが、フラーレンを用いた場合は充分に高い可視光吸収率を得ることが難しく、さらにフラーレンが高価であるため製造コストが高くなるという問題もあった。
【0007】
そこで、本発明は、チタンオキシナイトライドが本来有する低い赤外光輻射率を維持しつつ、さらにより高い可視光吸収率を実現可能なカーボン含有チタンオキシナイトライドを、比較的低コストで提供することを目的とする。さらに、本発明の別の目的は、このようなカーボン含有チタンオキシナイトライドを用いて、効率良く太陽光を吸収できる選択吸収膜およびそれを用いた太陽光集熱器と、多孔体とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、フェノール樹脂をカーボン源として用いることによって、サブミクロンからミクロンスケール(例えば、0.1μm〜10μm)で制御された3次元網目構造を有するカーボン含有チタンオキシナイトライドが得られることを見いだした。なお、3次元網目構造とは、3次元網目状に連続した骨格と3次元網目状に連続した貫通孔とによって形成される構造であり、サブミクロンからミクロンスケールで制御された3次元網目構造とは、骨格の太さ(骨格断面の直径)や貫通孔の直径がサブミクロンからミクロンスケールであるということである。
【0009】
本発明のカーボン含有チタンオキシナイトライドは、チタンオキシナイトライド前駆体と、フェノール樹脂と、を含有する溶液を基材に塗布して、塗膜を加熱することによって得られる。
【0010】
本発明は、さらに、本発明のカーボン含有チタンオキシナイトライドを含む選択吸収膜を提供する。
【0011】
本発明は、さらに、基材と、前記基材上に設けられた本発明の選択吸収膜と、を含む太陽光集熱器を提供する。
【0012】
本発明は、さらに、カーボン含有チタンオキシナイトライドからなる3次元網目状に連続した骨格と、3次元網目状に連続した貫通孔と、から形成されており、前記骨格の直径が0.1μm〜5μmの範囲内であり、且つ、前記貫通孔の直径が0.1μm〜10μmの範囲内である多孔体を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、フェノール樹脂をカーボン源とすることによって、サブミクロン〜ミクロンスケールで制御された3次元網目構造を有するカーボン含有チタンオキシナイトライドが得られる。このような空間構造を有するカーボン含有チタンオキシナイトライドは、低い赤外光輻射率を維持しつつ、より高い可視光吸収率を実現できるので、太陽光集熱器の選択吸収膜に好適に用いられる。さらに、カーボン源としてフェノール樹脂を用いているので、製造コストの上昇も抑制できる。また、本発明によれば、3次元網目構造を有する多孔体も提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の記載は本発明を限定するものではない。
【0015】
本発明のカーボン含有チタンオキシナイトライドは、チタンオキシナイトライド前駆体とフェノール樹脂とを含有する溶液を基材に塗布して、塗膜を加熱することによって得られる。
【0016】
本実施の形態におけるチタンオキシナイトライド前駆体は、例えば、チタンテトラクロライドと酸素非含有含窒素配位子とを互いに結合させたり、チタンテトラアルコキシドと含窒素配位子とを互いに結合させたりすることによって、得ることができる。このようなチタンオキシナイトライド前駆体は、例えば特開2005−187221号公報や特開2005−194213号公報に開示されている方法を用いて作製できる。以下、本実施の形態におけるチタンオキシナイトライド前駆体の製造方法の一例として、特開2005−194213号公報に開示されている方法について簡単に説明する。
【0017】
まず、溶媒に、チタンテトラアルコキシドを攪拌しながら入れ、チタンテトラアルコキシド溶液を調製する。チタンテトラアルコキシドとしては、チタンイソプロポキシド、チタンエトキシド、チタンプロポキシド、チタン−n−ブトキシド、チタン−iso−ブトキシド、チタン−tert−ブトキシド等が使用できる。溶媒としては、アルコール類が好ましく、例えば、エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、エトキシエタノール等が用いられる。
【0018】
次に、チタンテトラアルコキシドに結合させる含窒素配位子を含む化合物の溶液を調製し、その溶液にチタンテトラアルコキシド溶液を攪拌しながら添加する。本実施の形態において用いられる含窒素配位子を含む化合物として、例えば尿素、アミノアルコール、ピリジン、トリアゾール(1,2,4−トリアゾール)等が用いられる。これらの化合物は、酸素原子に対する窒素原子のモル比が1以上の窒素化合物である。アミノアルコールの種類は、酸素原子に対する窒素原子のモル比が1以上であれば特に限定されないが、好適には1−アミノ−2−プロパノール(イソプロパノールアミン)、3−アミノ−1−プロパノール(プロパノールアミン)が用いられる。これらの含窒素配位子を含む化合物は、1種類で用いてもよく、複数種類を混合して用いてもよい。例えば、プロパノールアミンおよび尿素が好適に用いられる。
【0019】
含窒素配位子を含む化合物とチタンテトラアルコキシド溶液とを混合した後、この混合溶液を例えば25〜80℃で30分〜4時間、攪拌、加熱、還流する。一例として、含窒素配位子としてプロパノールアミンを用い、80℃で2時間、攪拌、加熱、還流した場合は、以下のような反応が生じる。
【0020】
(RO)3TiOR + HO−(CH23−NH2
→(RO)3TiO−(CH23−NH2 + ROH
【0021】
前記反応式において、Rはアルキル基である。含窒素配位子(プロパノールアミン)中の窒素がチタンに配位結合し、チタンオキシナイトライド前駆体である(RO)3TiO−(CH23−NH2が合成される。この工程では、チタンテトラアルコキシドに窒素の導入が行われることによって、酸窒化物であるチタンオキシナイトライド前駆体が合成される。この後、この溶液を室温まで冷却し、減圧濃縮を行うことによって、反応副生成物の2−プロパノール(イソプロパノール)を留去し、さらに溶液中のチタニア(TiO2)濃度が例えば1〜5質量%となるように濃度を調製して、チタンオキシナイトライド前駆体を含む溶液(溶液A)を得る。
【0022】
次に、チタンオキシナイトライド前駆体とフェノール樹脂とを含む溶液(溶液B)を作製する。具体的には、上記のようにして作製された溶液Aと、フェノール樹脂と、溶媒とを混合することによって、溶液Bを作製する。溶液Bにおけるフェノール樹脂の添加量は、チタンオキシナイトライド前駆体に対して例えば0.01質量%〜100質量%であることが好ましい。チタンオキシナイトライド前駆体に対するフェノール樹脂の添加量が多すぎると、赤外光輻射率の抑制が困難となる場合がある。一方、チタンオキシナイトライド前駆体に対するフェノール樹脂の添加量が少なすぎると、可視光吸収率の充分な向上が得られない場合がある。
【0023】
なお、本発明において、フェノール樹脂は、チタンオキシナイトライドにカーボンを含有させるためのカーボン源として用いられ、ノボラック型フェノール樹脂であってもレゾール型フェノール樹脂であっても使用できる。
【0024】
次に、上記のように作製した溶液Bを基材に塗布して、塗膜を加熱処理する。基材に溶液Bを塗布する方法は、特には限定されず、スプレーコーティング、ディップコーティング、スピンコーター等の公知の方法を適用できる。例えば、溶液Bを満たした容器中に基材を浸漬することによって基材に溶液Bを塗布する、ディップコーティング等を使用できる。熱処理炉中で、溶液Bが塗布された基材を例えば600〜1000℃で15〜240分間加熱することによって、カーボン含有チタンオキシナイトライドが作製される。
【0025】
以上のように、フェノール樹脂をカーボン源として作製されたカーボン含有チタンオキシナイトライドは、サブミクロンからミクロンスケールで制御された3次元網目構造を有する。すなわち、本実施の形態におけるカーボン含有チタンオキシナイトライドは、カーボン含有チタンオキシナイトライドからなる3次元網目状に連続した骨格と、0.1μm〜10μmの範囲内の直径を有する貫通孔と、から形成された多孔体として得ることができる。この場合、骨格の直径は、例えば0.1μm〜5μmの範囲内である。このような3次元網目構造(空間構造)を備えることによって、より高い可視光吸収率と低い赤外光輻射率とが実現できる。
【0026】
次に、本発明の太陽光集熱器の一例について説明する。本実施の形態の太陽光集熱器は、基材の表面に、上記に説明した本実施の形態のカーボン含有チタンオキシナイトライドを含む選択吸収膜が形成された集熱板を備えている。基材には、例えば銅、アルミ等が使用できる。選択吸収膜は、複数層設けられていてもよい。また、選択吸収膜上に、反射防止膜等の他の膜がさらに設けられていてもよい。なお、本実施の形態の選択吸収膜は、上記に説明した本実施の形態のカーボン含有チタンオキシナイトライドからなる膜であることが望ましいが、その性能を低下させない程度にカーボン含有チタンオキシナイトライド以外の材料を含んでいてもよい。
【0027】
図2は、太陽光集熱器の構成の一例を示す部分断面図である。この太陽光集熱器には、集熱板1と、集熱板1と接して設けられており、内部に集熱媒体(図示せず)が流入する集熱管2とが設けられている。集熱板1と集熱管2とはステンレスケース3内に収容されており、ステンレスケース3の上面(太陽光が入射する面)には、ガラス板4が取り付けられている。太陽光集熱器の縁部はアルミフレーム5とシール材6とによって封止されている。また、ステンレスケース3の内部は、シリカエアロゲル等の断熱材7が充填されている。集熱板1は、銅板等の基材上に本発明のカーボン含有チタンオキシナイトライドを含む選択吸収膜が配置されることによって形成されている。この集熱板1によって集められた太陽光の熱は、集熱管2を介して内部の集熱媒体に取り込まれて、外部に取り出される。なお、図2に示した太陽光集熱器は一例であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
以下に実施例および比較例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明は、本発明の要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例)
本実施例では、本発明のカーボン含有チタンオキシナイトライドからなる選択吸収膜を作製した。
【0030】
三角フラスコにエトキシエタノール16.95gおよびエタノール150gを入れて攪拌した後、さらにチタンイソプロポキシドを99.15g入れて攪拌した。一方、丸底フラスコに尿素16.95g、1−アミノ−2−プロパノール16.95gおよびメタノール450gを入れて攪拌した後、三角フラスコ内の溶液をさらに加えて攪拌した。丸底フラスコに還流管を付け、丸底フラスコをオイルパス中にセットして、室温から80℃までオイルバスの温度を上げた後、80℃で2時間、加熱還流にて攪拌した。その後、丸底フラスコをオイルバスから取り出して、室温まで放冷した。次に、丸底フラスコ内の溶液をナス型フラスコ内に移し替えて、ロータリーエバポレータを用いてチタニア濃度が10質量%になるまで濃縮して、チタンオキシナイトライド前躯体溶液(溶液A)を得た。
【0031】
次に、別の三角フラスコにフェノール樹脂(昭和高分子株式会社製「FCS119」)を0.3g、ジメチルフォルムアミド(溶媒)を6g入れて、フェノール樹脂を溶解させた。さらに、酢酸エチル(溶媒)1g、チタンオキシナイトライド前駆体溶液(溶液A)3gを入れて攪拌して、カーボン含有チタンオキシナイトライド作製用の溶液(溶液B)を作製した。3gの溶液Aにおけるチタンオキシナイトライド前駆体の質量は0.3gであるから、本実施例において添加されたフェノール樹脂は、チタンオキシナイトライド前駆体に対して100質量%となる。
【0032】
溶液Bを塗布する基材として、5cm角の銅板を用いた。この銅板の表面を研磨紙(粒度:#600)で研磨した後、洗剤で洗い、さらに水洗いした。さらに、この銅板をメタノール浴中に入れた後、乾燥させて基材とした。
【0033】
以上のように前処理した基材を溶液Bの中に浸漬し、引き上げ速度26cm/minで引き上げた。溶液Bが塗布された基材を10分間室温で乾燥させた後、熱処理炉内で真空引きのまま600℃/1hの昇温速度で600℃まで加熱して、15分間保持した。その後放冷して、基材の表面に作製されたカーボン含有チタンオキシナイトライド薄膜を得た。さらに、上記の溶液Bの塗布および熱処理を再度繰り返して、2層目のカーボン含有チタンオキシナイトライド薄膜を作製した。本実施例では、このように2層のカーボン含有チタンオキシナイトライドによって、選択吸収膜を作製した。
【0034】
次に、基材上に形成された選択吸収膜上に、反射防止膜を作製した。反射防止膜用の溶液は、シリカコーティング液とチタニアコーティング液とを混合して作製した。
【0035】
まず、テトラエトキシシラン(TEOS)25.0g、エタノール37.6g、水23.5gおよび塩酸(6mol/L)0.3gを、この順に攪拌しながら混合した。混合溶液を70℃で保持しながら1時間攪拌し、その後室温になるまで放冷することによって、シリカコーティング液を得た。
【0036】
一方、チタニアコーティング液は、まず、2−プロパノール(IPA)250gとチタニウムイソプロポキシド142.11gとを攪拌しながら混合し、その中に予めIPAと塩酸とを混合した液(IPA:100g、塩酸(0.001mol/L):9.0g)を入れる。80℃で4時間加熱還流を行い、その後放冷した。次に、ロータリーエバポレータを用いてチタニア濃度が20質量%になるまで濃縮して、チタン濃縮液を得た。このチタン濃縮液2.5g、2−エトキシエタノール4.75g、n−ブチルアルコール4.75gおよび酢酸エチル38gを混合して、チタニアコーティング液を得た。
【0037】
上記のように作製したシリカコーティング液とチタニアコーティング液とを、質量比でシリカコーティング液:チタニアコーティング液=8:2となるように混合して、反射防止膜用の溶液とした。
【0038】
選択吸収膜が設けられた基材を、反射防止膜用の溶液の中に浸漬し、引き上げ速度26cm/minで引き上げた。基材を10分間室温で乾燥させた後、熱処理炉内に入れて真空引きのまま500℃/1hの昇温速度で500℃まで加熱して、15分間保持した。その後放冷して、反射防止膜を作製した。
【0039】
以上のように作製したサンプルについて、可視光吸収率および赤外光輻射率を評価した。
【0040】
可視光吸収率は、全反射測定法を用いて測定した。具体的には、紫外可視分光光度計(日本分光(株)社製「V−570」)を用い、太陽光のAM1.5(エアマス1.5)の光に対する吸収率を測定することによって、サンプルの可視光吸収率とした。なお、AM(エアマス)とは、地球大気に入射した太陽直進光が通過した路程の長さであり、標準状態の大気圧(標準気圧:1013hPa)に垂直に入射した太陽直進光が通過した路程の長さをAM1.0として、それに対する倍率で表された数値である。
【0041】
赤外光輻射率は、赤外発光測定法を用いて測定した。具体的には、パーキンエルマ社製の「Spectrum ONE」の装置を用いて、黒体を100%としてサンプルの赤外発光強度を測定した。
【0042】
さらに、表面剥がれと耐熱性についても評価した。表面剥がれは、JIS Z 1522の付着性試験方法に準拠して評価した。耐熱性はJIS A112 の耐熱試験方法に準拠して200℃24時間加熱した後、吸収膜の吸収率を測定した。
【0043】
評価結果は、表1に示すとおりである。
【0044】
また、本実施例における選択吸収膜(カーボン含有チタンオキシナイトライド)の構造を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した。図1(a)および(b)は、SEM写真である。本実施例におけるカーボン含有チタンオキシナイトライドは、サブミクロンからミクロンスケールの3次元網目構造を有する多孔体であることが確認された。SEM写真から確認したところ、本実施例のカーボン含有チタンオキシナイトライド(多孔体)の骨格の直径は0.1〜5μm程度であり、貫通孔の直径は0.1〜10μm程度であった。
【0045】
(比較例1)
フェノール樹脂に替えてフラーレンをカーボン源として用いた以外は、実施例と同様の方法を用いて、選択吸収膜および反射防止膜を備えたサンプルを作製した。フラーレンにとして、フロンティアカーボン株式会社製の水酸化フラーレンを用いた。チタンオキシナイトライド前駆体に対して3質量%のフラーレンを添加した。
【0046】
このように作製した比較例1のサンプルについても、実施例と同様の方法で、可視光吸収率、赤外光輻射率、表面剥がれ、耐熱性を評価した。結果は表1に示すとおりである。
【0047】
比較例1の選択吸収膜は、表面が滑らかで多孔体となっておらず、SEM写真で確認したところ3次元網目構造を有していないことが確認された。
【0048】
(比較例2〜4)
フェノール樹脂に替えて、カーボンナノチューブ(昭和電工株式会社製、「VG−CF−H」)、ケッチェンブラック(ライオン株式会社製、「カーボンECP」)、カーボンブラック(三菱化学株式会社製、「♯3050B」)をそれぞれカーボン源として用いた以外は、実施例と同様の方法を用いて、選択吸収膜および反射防止膜を備えたサンプルを作製した。
【0049】
このようにして作製した比較例2(カーボンナノチューブ)、比較例3(ケッチェンブラック)、比較例4(カーボンブラック)のサンプルについて、実施例1と同様の方法で赤外光輻射率を測定したところ、比較例2のサンプルが15%、比較例3のサンプルが21%、比較例4のサンプルが28%であり、赤外光輻射率が高かった。また、実施例と同様に可視光吸収率を測定したところ、比較例2のサンプルが81%、比較例3のサンプルが95%、比較例4のサンプルが93%であった。
【0050】
【表1】

【0051】
カーボン源としてフラーレンを用いた比較例1のサンプルは、可視光吸収率が75%であった。これに対し、フェノール樹脂を用いた実施例のサンプルでは、可視光吸収率が92%と高かった。これは、フラーレン等の他のカーボン源を用いて作製されたカーボン含有チタンオキシナイトライドが3次元網目構造を有していないのに対し、フェノール樹脂を用いた作製したカーボン含有チタンオキシナイトライドは、サブミクロンからミクロンスケールで制御された3次元網目構造からなる多孔体であることに起因すると考えられる。
【0052】
また、フェノール樹脂を用いた場合の赤外光輻射率は、フラーレンを用いた場合と同程度であった。比較例2〜4のサンプルは、可視光吸収率は実施例と同程度であったが、赤外光輻射率は高かった。これは、溶液Bを基材へ塗布する際にカーボン源が凝集してしまったためであると考えられる。
【0053】
さらに、フェノール樹脂は安価であるため、製造コストの上昇も抑制できる。
【0054】
以上の結果から、カーボン源としてフェノール樹脂を用いてカーボン含有チタンオキシナイトライドを作製することによって、従来のカーボン含有チタンオキシナイトライドと比較して、高い可視光吸収率、低い赤外光輻射率および製造コストの抑制が実現できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のカーボン含有チタンオキシナイトライドは、高い可視光吸収率と低い赤外光輻射率とを共に実現できるので、太陽光集熱器の選択吸収膜に好適に利用できる。また、本発明のカーボン含有チタンオキシナイトライドは、サブミクロン〜ミクロンスケールで制御された3次元網目構造を有するチタン系多孔体であるため、例えばチタンオキシナイトライドエアロゲルとして断熱材等の用途にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】(a)および(b)は、本発明の実施例のカーボン含有チタンオキシナイトライドについて、走査型電子顕微鏡を用いて観察した状態を示す図である。
【図2】本発明の太陽光集熱器の構成の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 集熱板
2 集熱管
3 ステンレスケース
4 ガラス板
5 アルミフレーム
6 シール材
7 断熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンオキシナイトライド前駆体と、フェノール樹脂と、を含有する溶液を基材に塗布して、塗膜を加熱することによって得られる、カーボン含有チタンオキシナイトライド。
【請求項2】
前記溶液において、前記フェノール樹脂は、前記チタンオキシナイトライド前駆体に対して0.01質量%〜100質量%含まれている、請求項1に記載のカーボン含有チタンオキシナイトライド。
【請求項3】
前記チタンオキシナイトライド前駆体は、チタンテトラアルコキシドと含窒素配位子とを互いに結合させることによって得られたものであり、
前記含窒素配位子を含む化合物として、尿素、アミノアルコール、ピリジンおよびトリアゾールから選ばれる少なくとも何れか1種が用いられる、請求項1または2に記載のカーボン含有チタンオキシナイトライド。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載のカーボン含有チタンオキシナイトライドを含む選択吸収膜。
【請求項5】
基材と、前記基材上に設けられた請求項4に記載の選択吸収膜と、を含む太陽光集熱器。
【請求項6】
カーボン含有チタンオキシナイトライドからなる3次元網目状に連続した骨格と、3次元網目状に連続した貫通孔と、から形成されており、
前記骨格の直径が0.1μm〜5μmの範囲内であり、且つ、前記貫通孔の直径が0.1μm〜10μmの範囲内である、多孔体。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−23887(P2009−23887A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−190161(P2007−190161)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(000204882)株式会社ダイナックス (31)
【Fターム(参考)】