説明

ガイドローラ上の堆積物形成を防止する方法

本発明は、高吸水性油中水型エマルションをヤーンに適用する工程時に、ガイドローラ上への高吸水性材料および/または油の堆積物形成を防止または減少させる方法に関し、油が飽和脂肪族炭化水素を含む混合物であり、少なくとも70重量%の炭化水素が、20個〜32個の炭素原子を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油が飽和脂肪族炭化水素を含んでなる混合物である高吸水性油中水型エマルションをヤーンに適用する工程時に、ガイドローラ上の高吸水性材料および/または油の堆積物形成を防止または減少させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高吸水性材料の適用は、アラミドヤーンに関しては特許文献1に、ならびに他のマルチフィラメントヤーンに関しては特許文献2に開示されている。それらに記載された方法は、ヤーンの表面すなわちその水相に高吸水性材料を含有する油中水型エマルションの層に適用することを含んでなる。この方法は、高吸水性ヤーンの商業的生産用に選択する方法であることを立証した。しかしながらこの方法は該性油中水型エマルションが、高水分量、通常25重量%〜40重量%を含有するため、高吸水性材料の適用後に乾燥ステップを必要とすることにより、欠点として高費用原価を有する。はるかに少ない水分を含有する他のエマルションの使用が試みられたが成功しなかった。というのは、これらのエマルションを制御様式でヤーン上に適用することが不可能であると思われるか、および/またはこのプロセスを通してヤーンをガイドするために用いられるガイドローラが、急速に堆積物で満たされてこのプロセスを中断し、ガイドローラを清掃せざるを得なかったからである。
【0003】
特許文献3における高吸水性材料の適用に関する別のプロセスによれば、水溶性プレ高吸水性材料の水溶液をヤーンに適用し、次いでこの水溶性プレ高吸水性材料を架橋させるか、または重合化するために乾燥し加熱することにより高吸水性材料が備わったヤーンを得た。この方法もまた、高吸水性材料の適用後に乾燥ステップが用いられ、さらに材料の架橋を得るために加熱ステップが必要であるという不利益を有する。特許文献4には、高吸水性ポリマーおよび分散媒体を含んでなる本質的に無水分散液を含む水遮断性材料でコーティングされる繊維が記載されている。この方法は、油中水型エマルションを使用しないが、油中に分散された高吸水性材料を使用する。用いられる油類は、飽和炭化水素ではなく、一般に20個未満の炭素原子を有するアルコールとカルボン酸とからなるエステル油潤滑剤である。この方法は、油中水型系の水遮断性材料を用いるよりも簡便なヤーンへの適用を得るために開発された。しかしながらこの方法は、これらの分散液の安定性不良およびガイドローラ上などに形成する堆積物の吸入可能な高吸水性微粒子による作業中の健康リスクに関して好ましくないと思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許第779389号
【特許文献2】欧州特許第0784116号
【特許文献3】国際公開第99/10591号パンフレット
【特許文献4】国際公開第00/31752号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の目的は、ヤーン上への高吸水性材料の適用後、さらなる工程ステップの実施を必要とすることなく、ならびに堆積物を形成せずに、またはガイドローラ上もしくは製造ラインの他の部分上に堆積物形成を少なくとも厳しく減少させて、ヤーン上に高吸水性材料を適用する方法を提供することである。
この記述を通して用いられる用語の「ガイドローラ」は、ガイドローラ、ベールローラ、加圧ローラ、ガイディングロッド、ピン、ワインダなどを含む。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的のため、本発明は、高吸水性油中水型エマルションをヤーンに適用する工程時に、ガイドローラ上への高吸水性材料および/または油の堆積物形成を防止または減少させる方法に関し、油が飽和脂肪族炭化水素を含む混合物であり、少なくとも70重量%の炭化水素が、20個〜32個の炭素原子を有することを特徴とする。少なくとも75重量%の炭化水素が、20個〜32個の炭素原子を有する油を使用することが好ましく、少なくとも79重量%が前記炭化水素を有することが最も好ましい。
【0007】
本発明の方法は、この油中水型エマルションをヤーン上に直接オンラインで使用することを可能にする。このように紡糸工程から得られたヤーンを、最初にボビン上にヤーンを巻き取ることなく、この油中水型エマルションにより直接処理することができる。高吸水性物質含有エマルションの適用後に乾燥ステップまたは加熱ステップを必要とせず、ヤーンは工程終了時にボビンに巻き取られる。油中水型エマルションの適用に先立って、ヤーンを完全にまたは部分的に乾燥することができる。用語の「オンライン」とは、ヤーンがボビン、リール、スプールなどに巻き取られることなく紡糸されるように用いられることを意味する。さらに本方法は、高速度工程を用いることを可能にする。ヤーン速度は、少なくとも220m/分であり得るが、それよりもはるかに高い600m/分などの速度もまた可能である。
本方法は、任意のマルチフィラメントヤーンに使用することができ、特にアラミドヤーンおよびガラスヤーンに好適である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
高吸水性材料は、欧州特許第779389号に記載されている。これらの材料は親水性を有し、任意に加圧下で比較的大量の水分を吸収し保持することができる。それ故、本発明により適用される材料としては、P.K.Chatterjee編集のAbsorbency、Elsevier、アムステルダム(1985年)の198頁および欧州特許出願公開第0 351 100号に記載された不溶性高吸水性物質に加えて、完全にまたは部分的に水溶性である高吸水性材料が挙げられる。本発明によるアラミドヤーンは、高吸水性を有する任意の材料により提供され得るが、安定な油中水型エマルションに処理され得る高吸収性物質が好ましい。特にポリアクリル酸の高吸収性誘導体が使用に好適である。これらには、アクリルアミドから、アクリルアミドとアクリル酸ナトリウムとから、ならびにアクリルアミドとジアルキルアミノエチルメタクリレートから誘導されるホモポリマー類およびコポリマー類が含まれる。これらの化合物は、それぞれ非イオン性、アニオン性、およびカチオン性(コ)ポリマー類の群から選択される。それらは、水溶性ポリマーを形成するために一般にモノマー単位を結合させることによって調製される。次いでこれを、イオン性架橋および/または共有性架橋の手段によって不溶性にすることができる。本発明によるヤーンの製造に使用することができる高吸収性物質の例としては:ナトリウム塩に部分的に中和させた架橋ポリアクリル酸、アクリル酸ポリカリウム、アクリル酸ナトリウムとアクリルアミドとのコポリマー類、アクリルアミドとカルボキシル基およびスルホ基含有モノマー類(ナトリウム塩)とのターポリマー類、およびポリアクリルアミドコポリマー類が挙げられる。アクリルアミドとカルボキシル基およびスルホ基含有モノマー類(ナトリウム塩)とのターポリマー、またはアクリルアミドとアクリル酸もしくはその(ナトリウムまたはカリウム)塩とのコポリマーを使用することが好ましい。本発明のヤーンは、アラミドヤーン表面上に、水相に高吸収性を有する材料を含有する油中水型エマルション層を提供し、さらなる乾燥処理を必要としない工程を用いて作製される。高吸収性物質含有油中水型エマルションは、ヤーン上で変化しないままである。このエマルションを水と接触させた場合、水中油型エマルションに転化することによってこのエマルションは高粘性ゲルを形成する。このゲルは、水が損傷したヤーンまたはケーブルに侵入することを防止する。
【0009】
このようなエマルションの調製は以下のとおりである:乳化剤を用いて、一定量の水を混合した水溶性モノマーを、水および該モノマーに不混和性の非極性溶媒中に分散させてから重合し、油中水型エマルションを形成する。形成されたポリマーは、該エマルションの水相中にある。該エマルションの水分含量は、調製されたエマルションの真空処理によって低下させることができる。この方法で、高濃縮された高吸収剤を含有する一方、該液体の粘度が低いままであり、該エマルション中の揮発性成分を減少し得る液体生成物が得られる。該エマルションの分散媒(continuous oil phase)として、水に非混和性であるか、または低混和性である線状および分枝状の炭化水素を用いることができる。線状または分枝状の飽和脂肪族炭化水素を用いることが好ましい。これらの炭化水素は主に、20個〜32個の炭素原子を有する分子からなる。より小型の炭化水素は、30重量%まで、好ましくは、20重量%未満存在し得る。20個未満の炭素原子を有する炭化水素をできるだけ少なく、より好ましくは、23個未満の炭素原子を有する炭化水素をできるだけ少なく含有する混合物を使用すると最良の結果が得られることが判明した。大部分が20個〜32個の炭素原子含有する炭化水素は、純粋な非分枝状または分枝状の炭化水素であってもよいが、通常は、種々の長さの分枝状と非分枝状の炭化水素双方の混合物である。好適な炭化水素は、Shell Lubricants、Ineos、Dow、Exxon Mobile、Chevron Phillips、Total、British PetrolおよびLubLineなどの製造元での様々な名称で市販されている。これらの炭化水素は、油中水型エマルションの粘度を減少させるための希釈剤としても使用することができる。好適な分枝状飽和炭化水素の一例は、Ineos社のイソエイコサンである。即時使用のエマルションは、Ashland、Cytec、Defotec、Bozzetto、Nalco、およびDrew Chemicalなどの種々の製造元において入手可能である。
【0010】
使用される乳化剤は、前記混合物が油中水型エマルションへと変換できるように選択される。これは、該乳化剤が3〜12のHLB(親水−親油バランス)値を有する必要があることを意味する。本発明により使用されるエマルション中の高吸収性材料の濃度は、該エマルションの全重量に基づいて計算して1〜90%、好ましくは25〜65%である。
滑剤、安定化剤、乳化剤、および/または希釈剤などのさらなる添加剤を該エマルションに添加することができる。
ヤーン上の高吸収性物質含有油中水型エマルションの量は、ヤーンがケーブル内で用いられる際に好適な水遮断性が得られるように選択される。ヤーンが、0.3〜10重量%、好ましくは、0.5〜8重量%、特に1.0〜5.0重量%のエマルションを含有する場合に、通常好適な結果が得られる。
【0011】
本発明によるヤーンを得るための工程において、それ自体公知の方法、例えば、キスロール、液体アプリケータ、または仕上げ浴を用いて、油中水型エマルションを適用することができる。
本発明は、以下の非限定例によって例示される。
【実施例】
【0012】
濃(99.8重量%)硫酸氷を粉末化ポリ−p−フェニレンテレフタルアミドと混合することによりアラミド紡糸マスを調製した。紡糸マスを脱気し、混練ミキサー溶融室において85〜90℃に加熱し、フィルターおよび紡糸ポンプによりスピナレットに供給した。スピナレットは、直径59マイクロメーターの1000個のオリフィスを有した。紡糸マスを紡糸オリフィスを通してポンプで送りこみ、その後、6mmの長さの空気ゾーンおよび10℃の温度における硫酸の希釈溶液(約18重量%)の凝固浴を連続的に通過させた。このようにして形成されたフィラメント束を、希釈水酸化ナトリウム溶液を含有する中和浴および約70℃の水でフィラメントが完全に洗浄される洗浄浴に連続的に通過させた。一対のスクイーズローラの補助により過剰な付着水を除去した。次に、液体アプリケータおよび計量ポンプの補助により、非乾燥フィラメント束に、0.8%の非イオン性スピン仕上げ剤(15重量%の水溶液から)を供給した。次いでヤーンを、一連の3つの乾燥ドラム上を(160℃の6巻き、200℃の6巻き、230℃の4巻き)通過させた。ヤーンとドラム表面との接触時間は合計6〜7秒であった。引き続き、ヤーンは輸送ドラム上を通過させた(約25℃の4巻き)。輸送ドラムの直後、液体アプリケータおよび計量ポンプの補助により、ヤーンに高吸収性物質含有油中水型エマルション(表を参照)を適用した。最後に、処理したヤーンを340m/分の速度でパッケージ内に巻き取った。得られたTwaron(登録商標)ヤーンは、1610dtexの線密度を有した。結果を表に示す。
【0013】
【表1】

【0014】
表は、主にC20〜C32の炭化水素を有する炭化水素(Ineosからのイソエイコサン)はガイドローラー上に堆積物を生じず(またはほとんど生じず)、19時間を超える製造操作時間を可能にする。低分子量の炭化水素を含有する従来の炭化水素エマルション(例AおよびB:それぞれ、オランダ国、バレンドレヒトのAshland Specialty Chemical社からのDrewfloc 2585、ドイツ国、クレフェルトのBozzetto GmbHからのEstesol AFW)は、ガイドローラ上の堆積物が激しく、製造操作時間を数時間以上の長さにすることは不可能である。この工程を継続させるためにはしばしば洗浄することが必要であった。本発明の高分子量の炭化水素(例1および2)は、きわめて低い水分含量(10重量%未満、好ましくは8重量%未満、最も好ましくは5重量%未満の含量が可能である)で製造することができる。したがって、適用後の乾燥はもはや必要ではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高吸水性油中水型エマルションをヤーンに適用する工程時に、ガイドローラへの高吸水性材料および/または油の堆積物形成を防止または減少させる方法であって、油が飽和脂肪族炭化水素を含む混合物であり、少なくとも70重量%の炭化水素が20個から32個の炭素原子を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
少なくとも75重量%の炭化水素が、20個〜32個の炭素原子を有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも79重量%の炭化水素が、20個〜32個の炭素原子を有する請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記方法が、紡糸工程から直接得られるヤーンにさらにオンライン適用される請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ヤーン速度が、少なくとも220m/分である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ヤーンが、アラミドヤーンまたはガラスヤーンである請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。



【公表番号】特表2010−522287(P2010−522287A)
【公表日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−500127(P2010−500127)
【出願日】平成20年3月22日(2008.3.22)
【国際出願番号】PCT/EP2008/002312
【国際公開番号】WO2008/116619
【国際公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(501469803)テイジン・アラミド・ビー.ブイ. (48)
【Fターム(参考)】