説明

ガイドローラ

【課題】ガイドローラの回転トルクの低減・安定化、使用環境の汚染防止、搬送物品の品質低下防止を図る。
【解決手段】内輪1と外輪2の間で保持器3によって回転自在に保持される複数の転動体4について、その1以上の転動体が固体潤滑剤を含有する複合材からなる深溝玉軸受型のガイドローラであり、その保持器3は、表面のうち少なくとも転動体4との摩擦面を形成する表層部の固体潤滑皮膜3aを、固体潤滑剤で形成するか、または固体潤滑剤を含む複合材で形成する。そして、外輪2またはローラの軌道との接触面を固体潤滑剤またはそれを含む複合材で形成すると共に、複数のボール型の転動体4は、軸受荷重が負荷される負荷転動体4aと、これより小径で軸受荷重が負荷されない1以上の非負荷転動体4bからなり、非負荷転動体4bは固体潤滑剤を含有する複合材で形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、固体潤滑剤を用いたガイドローラに関し、さらにこれをテンタクリップのガイドローラに用いたフィルム延伸機、またはこのようなガイドローラを用いた焼却炉用や焼結炉用などに適用される台車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高温の使用条件に耐えるガイドローラの一例として、フィルム延伸機のテンタクリップ用ガイドローラが知られており、これを図4〜6を利用して説明する。
先ず、図4に示すように、フィルム延伸機11は、溶融押出し機14により押出された樹脂の原反シート13を調製する際、原反シート13の縁部を複数のテンタクリップに挟んで保持し、原反シート13を広げるように引張りながら搬送して、連続的に延伸する機能を有するものである。
【0003】
図5、6に示すように、テンタクリップ21は、ガイドレール22、23に対してガイドローラである外輪回転の転がり軸受を介して支持され、フィルム搬送用の無端環状のガイドレール22、23に沿って所定区間を周回し、繰り返して延伸工程に使用される。
【0004】
このような延伸工程では、フィルム13を、例えば150〜250℃程度の所要温度に保持するので、このような高温使用条件に耐えるテンタクリップの機構部には、耐熱性に優れた転がり軸受を用いたガイドローラが使用されている。
【0005】
従来のテンタクリップの機構部には、潤滑グリースを封入した転がり軸受からなるガイドローラを用いることが知られており、このような転がり軸受には潤滑油や潤滑グリースの封入にシール構造が重要な機能を果たしている(特許文献1)。
【0006】
しかし、高温の使用条件ではゴム製シールの弾性が低下し、シールに必要な構造であるいわゆるラビリンス構造を維持できなくなる。また潤滑油やグリースは、粘度が低下し、基油や増ちょう剤その他の添加剤が熱分解するなどの不安定要因が生じやすく、安定した転がり軸受の低トルク回転が望めなくなる懸念があった。
【0007】
高温雰囲気でも安定した低い回転トルクが求められる転がり軸受の潤滑方式としては、上記した油潤滑やグリース潤滑に代えて固体潤滑方式が採用できる。
例えば、固体潤滑転がり軸受用の固体潤滑剤として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などが周知であるが、これは300℃を超える温度では熱分解する等の理由によって使用温度の限界が金属系固体潤滑剤に比べると低いものである。
【0008】
PTFEより高温の条件でも使用できる固体潤滑剤としては、二硫化タングステンや二硫化モリブデンなどの金属系固体潤滑剤が知られており、これらを転動体の表面に潤滑被膜として設けた固体潤滑転がり軸受も知られている(特許文献2)。
【0009】
また、転がり軸受の転動体が、軸受荷重が負荷される負荷転動体と、これより小径で軸受荷重が負荷されない非負荷転動体からなり、非負荷転動体の1つ以上が二硫化タングステンを90体積%以上含有する焼結材で形成された軸受(特許文献3)、さらに内輪、外輪及び負荷転動体のうちいずれかの表面に二硫化モリブデンまたは二硫化タングステンからなる固体潤滑皮膜を設けることが知られている(特許文献4)。
【0010】
【特許文献1】特開2007−232089号公報
【特許文献2】特開2008−014394号公報
【特許文献3】特開2005−048852号公報
【特許文献4】特開2005−133881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上記した従来のガイドローラは、非負荷転動体の1つ以上が二硫化タングステンを含有する焼結材で形成され、さらに内輪、外輪及び負荷転動体のうちいずれかの表面に二硫化モリブデンまたは二硫化タングステンからなる固体潤滑皮膜を設けたものがあるが、このものはガイドローラの作動初期に、非負荷転動体から摩擦面に供給される固体潤滑剤の量が不充分になりやすく、軸受回転トルクを作動初期に低く安定させることが難しいという問題点がある。
【0012】
また、このようなガイドローラが、テンタクリップのガイドローラとして使用された場合には、始動時に複数のガイドローラの回転トルクが異なる状態になることが予想され、その際にはそれぞれのテンタクリップの走行速度が異なるので安定した張力でフィルムを延伸できず、延伸フィルムには歪みや撚れなどが生じ、安定した品質で製造ができないことにもなる。
【0013】
さらにまた、ガイドローラにおけるガイドレールとの接触面を潤滑する必要があり、これを液体潤滑によって行なうと、潤滑油は流出し、または飛散してガイドローラを使用する周囲の環境を汚染し、またフィルムなどの搬送物品の品質を低下させるという問題点もある。
【0014】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、固体潤滑転がり軸受の作動初期にも固体潤滑剤の供給量が充分であるようにして、ガイドローラの回転トルクを作動初期から低く安定させ、かつガイドローラを使用する周囲の環境を汚染せず、またフィルムなどの搬送物品の品質を低下させないことである。
【0015】
特に、フィルム延伸機のテンタクリップ案内用ガイドローラにおいては、始動時から回転トルクを低く安定させ、複数のテンタクリップの走行速度を一定に安定させることも課題である。
【0016】
また、テンタクリップを支持するフィルム延伸機が、始動時から安定した延伸作用が得られるものとし、これによって歪みのない均質なフィルムを安定して生産できるようにすることも課題である。
【0017】
さらにまた、物品搬送案内用ガイドローラを車体に設けた台車については、ガイドローラの回転トルクを作動初期から低く安定させて常に円滑に移動可能な台車とし、またはそのような台車が高温の使用条件として特に厳しい焼却炉または焼結炉に被加熱状態で使用された場合でも円滑に物品搬送に使用可能なものとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記したガイドローラの課題を解決するために、転がり軸受の外輪またはこれと一体に設けたローラを軌道に回転自在に接触させて前記軌道に沿って移動可能なガイドローラにおいて、前記外輪またはローラの軌道との接触面を固体潤滑剤またはそれを含む複合材で形成すると共に、前記外輪と内輪の間に保持器によって回転自在に保持される複数の転動体のうち、1以上の転動体を固体潤滑剤含有の複合材で形成し、前記保持器の少なくとも転動体との接触面を含む表面を固体潤滑剤またはそれを含む複合材で形成したガイドローラとしたのである。
【0019】
上記したように構成されるこの発明のガイドローラは、前記外輪またはローラの軌道との接触面を固体潤滑剤またはそれを含む複合材で形成しているので、このような接触面の潤滑を潤滑油で行なう必要がなく、それ故に液状の潤滑剤が飛散せずガイドローラを使用する周囲の環境を汚染することもなく、フィルムなどの搬送物品の品質を低下させることもない。
【0020】
また、この発明のガイドローラは、固体潤滑剤を含有する複合材からなる転動体と、少なくとも転動体との接触面を含む表面を固体潤滑剤またはそれを含む複合材で形成した保持器を具備しており、転動体および保持器の両方から固体潤滑剤が、始動時より途切れることなく供給されるため、内・外輪の表面などの摩擦面に移着して充分な潤滑作用を奏する。
【0021】
また、ガイドローラは、固体潤滑剤を含有する複合材からなる1以上の転動体が、保持器の表面に接する際、接触する両面のいずれにも固体潤滑剤が含まれているため、ガイドローラの低速回転状態でも転動体および保持器の両表面から固体潤滑剤が供給され、それが途切れることなく長時間供給されるため、内・外輪の表面などの潤滑が必要な摩擦面に移着して充分な潤滑作用を奏する。
このような良好な潤滑作用により、この発明の固体潤滑転がり軸受は、軸受回転トルクを作動初期から低く安定させることができる。
【0022】
また、複数の転動体が、軸受荷重が負荷される負荷転動体と、これより小径で軸受荷重が負荷されない非負荷転動体からなり、少なくとも1以上の非負荷転動体が固体潤滑剤を含有する複合材からなるガイドローラであることが、ガイドローラを始動当初または間欠的に回転する際に低回転トルクの状態を安定させるために好ましい。
【0023】
なぜなら、負荷転動体より小径の非負荷転動体は、負荷転動体より多く回転する場合が多く、特に転がり軸受が始動当初にあるとき、または間欠的に回転と停止を繰り返すような条件では、負荷転動体よりも小径の非負荷転動体の方が保持器に対して頻繁に摩擦接触する。その際に、非負荷転動体表面から所要の摩擦面に二硫化タングステンまたは潤滑性の良い硫化物を供給するのである。
【0024】
このような潤滑作用を、より充分に発揮させるためには、非負荷転動体の直径Aが、負荷転動体の直径を1.0とした場合に0.8≦A<1.0である条件を採用することが好ましい。
【0025】
非負荷転動体の直径が上記所定範囲未満の小径(A<0.8)では、非負荷転動体が負荷転動体や保持器および内・外輪に摩擦接触した際、転動体表面が接触する効率が低下して潤滑性能が低下するので好ましくなく、また転動体の遊動量が必要以上に大きくなって好ましくない。また上記所定範囲以上の大径(A≧1)では、非負荷転動体に必要以上に高荷重が負荷され、割れが発生する可能性が生じて好ましくない。
【0026】
この発明に用いる固体潤滑剤は、二硫化タングステンばかりでなく、二硫化モリブデンであってもよい。
【0027】
そして、上記の作用をより長時間にわたって安定して発揮させるために、転動体を構成する固体潤滑剤を含有する複合材または保持器の少なくとも転動体との接触面を形成する複合材が、金属材中に固体潤滑剤を分散させた焼結体からなる複合材とすることが好ましい。焼結体は、内部の焼結金属の粒子間に多くの固体潤滑剤を保持することができ、固体潤滑剤の供給量を多くすることができ、供給時間を長く持続させることができるからである。
【0028】
また、固体潤滑剤を含有する複合材が、タングステン合金中に二硫化タングステンを分散させた焼結体からなる複合材である構成を採用することは、低トルクの持続性と共に耐熱性に優れた固体潤滑転がり軸受とするために好ましい。
【0029】
特に、固体潤滑剤を含有する複合材が、タングステン合金中に二硫化タングステンを80体積%以上分散させた焼結体からなる複合材であることが上記の作用をより安定させるために好ましい。二硫化タングステン80体積%未満を含有する焼結材で形成されたガイドローラでは、200℃以上の高温での耐久性が所期した程度に奏されず、そのような高温での耐久性が確実に得られなくなる。
この発明のガイドローラは、使用中に二硫化タングステン、その他の硫化物が摩擦面に適当量だけ途切れることなく供給されるので、軸受の耐久寿命が延長される。
【0030】
また、非負荷転動体が、二硫化タングステンを全体に含まれるタングステン合金系の焼結材からなることにより、長時間使用した場合に非負荷転動体の表面が多少擦り減っても二硫化タングステン、その他の硫化物からなる固体潤滑剤の摩擦面への供給は常に途切れることなく安定し、摩擦面は充分に潤滑される。
【0031】
以上のようなガイドローラの用途として、フィルム延伸機は適当な用途であり、すなわち、帯状フィルムの幅方向に対向する両縁をそれぞれテンタクリップで把持し、帯状フィルムの移送に伴って幅方向の把持間隔が広がるようにテンタクリップを案内する軌道を設け、この軌道に案内されるガイドローラをテンタクリップと一体に設けたフィルム延伸機においては、前記したガイドローラを適用できるものである。
【0032】
言い換えれば、上記のようなガイドローラは、フィルム延伸機のテンタクリップに適用できるものであるとも言え、すなわち、フィルム延伸機内で移送される帯状フィルムの幅方向両縁をそれぞれ把持し、この把持する幅方向の間隔を広げるように軌道を案内されて前記帯状フィルムの幅方向を延伸するテンタクリップにおいて、このテンタクリップと一体に設けられて軌道に案内されるガイドローラを、前記のガイドローラとしたテンタクリップとすることができる。
【0033】
このように、この発明のガイドローラは、始動時から回転トルクを低く安定させ、複数のテンタクリップの走行速度を一定に安定させるから、このようなテンタクリップを用いて始動時から安定した延伸作用が得られ、歪みのない均質なフィルムを安定して生産できるフィルム延伸機になる。
【0034】
さらにまた、上記のようなガイドローラを物品搬送案内用ガイドローラとして車体に設けた台車にすることができる。
このように構成された台車は、ガイドローラの回転トルクを作動初期から低く安定させて常に円滑に移動可能な台車となり、このような台車は、高温の使用条件として特に厳しい焼却炉または焼結炉にて被加熱状態で物品搬送に用いることができる。
【発明の効果】
【0035】
この発明は、ガイドローラにおいて、外輪またはローラの軌道との接触面を固体潤滑剤またはそれを含む複合材で形成すると共に、1以上の転動体が固体潤滑剤を含有する複合材からなり、かつ保持器の表面を固体潤滑剤またはそれを含む複合材で形成した固体潤滑転がり軸受としたので、ガイドローラを使用する周囲の環境を汚染せず、またフィルムなどの搬送物品の品質を低下させないものであり、かつ固体潤滑転がり軸受の作動初期にも固体潤滑剤の供給量が充分であり、軸受回転トルクを作動初期から低く安定させることができるという利点がある。
【0036】
また、フィルム延伸機のテンタクリップ案内用ガイドローラにおいては、始動時から回転トルクが低く安定し、複数のテンタクリップの走行速度を一定に安定させることができる利点がある。
【0037】
または、テンタクリップを支持するフィルム延伸機が、始動時から安定した延伸作用があるものになり、歪みのない均質なフィルムを安定して生産できるようになる利点がある。
【0038】
さらにまた、物品搬送案内用ガイドローラを車体に設けた台車が、ガイドローラの回転トルクを作動初期から低く安定させて常に円滑に移動可能な台車となり、またはそのような台車が高温の使用条件として特に厳しい焼却炉または焼結炉に被加熱状態で使用された場合でも円滑に物品搬送に使用可能なものとなる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
この発明の実施形態のガイドローラは、特に種類や型式または大きさを限定したものではなく、代表例として深溝玉軸受等を挙げることができる。この発明のガイドローラの実施形態を、以下に添付図面に基づいて説明する。
【0040】
図1〜3に示すように、実施形態は内輪1と外輪2の間で保持器3によって回転自在に保持される複数の転動体4について、その1以上の転動体4が固体潤滑剤を含有する複合材からなる深溝玉軸受型のガイドローラであり、その保持器3は、表面のうち少なくとも転動体4との摩擦面を形成する表層部の固体潤滑皮膜3aを、固体潤滑剤または固体潤滑剤を含む複合材で形成したものである。
なお、保持器3は、転動体との接触面を含む表層部の固体潤滑皮膜3aばかりでなく、その形成部位や深さを問わず、さらには全体が固体潤滑剤を含む複合材で形成されたものであってもよい。
【0041】
複数のボール型の転動体4は、軸受荷重が負荷される負荷転動体4aと、これより小径で軸受荷重が負荷されない1以上の非負荷転動体4bからなり、非負荷転動体4bが固体潤滑剤を含有する複合材で形成されていることが好ましい。
【0042】
固体潤滑剤を含む複合材で転動体4を形成するには、例えば焼結性金属マトリクス中に周知の固形潤滑剤を分散状態に配合して、この複合化された焼結材料を多面体状に形成し、次いでこれをバレル加工機などによって球形状に研摩加工して製造することができる。非負荷転動体の直径Aは、負荷転動体の直径を1.0とした場合に0.8≦A<1.0に調整されることが、前述したように転動体の接触効率などの点で好ましい。
【0043】
固体潤滑剤の種類については、転がり軸受の用途に対応させて選択すればよく、例えば高分子化合物であるPTFEその他のフッ素化合物、または二硫化モリブデン、グラファイト、窒化ホウ素などの層状構造化合物、その他の非層状化合物として酸化鉛(PbO)、フッ化カルシウム(CaF2)、または軟質金属である鉛、錫、金、銀、銅などが挙げられる。
【0044】
保持器3の少なくとも転動体との接触面を含む表面を固体潤滑剤で形成するには、表面に固体潤滑皮膜3aを周知の手法によって形成すればよく、具体的にはそのような固体潤滑皮膜3aをタンブリングまたはスパッタリングによって形成することができる。そのようにして形成された固体潤滑皮膜は、剥がれ難く、安定した膜厚で形成され、始動初期から潤滑性能が良好である。
【0045】
また、保持器3の全体または少なくとも転動体との接触面を含む表面に固体潤滑剤を含む複合材を設けるには、固体潤滑剤を配合した粉末焼結材料を用いて全体を焼結成形するか、または保持器素材の表層だけに複合焼結成形する。
【0046】
この発明に好適な焼結材料の例としては、二硫化タングステンを80体積%以上含有するタングステン合金を用いた焼結材からなるもの、より好ましくは二硫化タングステンを90体積%以上含有するタングステン合金を用いた焼結材で形成された物が挙げられる。
【0047】
複合材料の焼結材中の主成分になる金属マトリクスは、二硫化タングステンであるが、その他に含有される金属材料としては、例えばタングステン(W)が挙げられ、その他にも銅(Cu)、スズ(Sn)、カーボン(C)などが挙げられる。
【0048】
上記した実施形態のガイドローラは、二硫化タングステンなどの固体潤滑剤を含有するタングステン合金などの複合材からなる転動体と、表面を二硫化タングステンまたはそれを含むタングステン合金などの複合材で形成した保持器の両方から固体潤滑剤が途切れることなく長時間供給されるため、内・外輪の表面などの摩擦面には移着した固体潤滑剤による充分な潤滑作用が奏される。
【0049】
図4に示すフィルム延伸機11は、上記した実施形態のガイドローラをテンタクリップ案内用ガイドローラとして用いたものである。
【0050】
フィルム延伸機11は、熱可塑性高分子化合物12を溶融して未延伸状態のフィルム13として押し出す押出し機14と、押し出されたフィルム13を受ける冷却ドラム15と共に、次の各工程を行う手段を備えている。
【0051】
すなわち、冷却ドラム15で冷却されたフィルム13を送る送りローラ16と、この送りローラ16で送られるフィルム13に調湿処理を施す水槽17と、この水槽17で調湿処理されたフィルム13を挟み込んで表面の水滴を除去する水切り装置18とを備える。
また、水切り処理後のフィルム13を縦および横方向に2軸延伸する2軸延伸機19と、この2軸延伸機19で形成されたフィルム13を巻き取る回収ローラ20とを備えている。
【0052】
図4、5に示すように、2軸延伸機19の構成要素として横延伸装置30を設け、この横延伸装置30にはテンタクリップ21が備えられている。
図5、6に示すように、横延伸装置30は、送られて来る帯状のフィルム13の進行方向の両側に配置され、フィルム13が進行するにつれて徐々にレール間隔が広がるように配置されたガイドレール22、23を備えていると共に、それぞれ複数のローラが鎖状に連結されてガイドレール22、23上を製造ラインの進行方向に循環する複数個のテンタクリップ21とを備えている。
【0053】
テンタクリップ21は、フィルム13の幅方向に対向する両縁をバネ力などで弾性的に把持するグリップ部24と、無端環状のガイドレール22、23上を外輪回転で転動する複数の転がり軸受からなるガイドローラ25、26、27とを有する。
すなわち、テンタクリップ21は、グリップ部24で帯状のフィルム13の幅方向両縁を掴んだ状態でガイドレール22、23に沿って進行方向に進み、その際にフィルム13を幅方向に広げて延伸させる作用を奏する。
【0054】
図6に示すように、テンタクリップ21のガイドローラ25(25a、25b、25c、25d)、26(26a、26b、26c、26d)、27(27a、27b、27c、27d)は、それぞれ上向き、下向き、横向きに各複数個(図示では4個)を1組にして連結一体化させて設けており、各組で各ガイドレール22、23に対して転がり案内する役割を担う。
ガイドレール22、23の垂直方向に対向するガイド面を転動するガイドローラ25、26は、水平方向(横姿勢)の固定軸(図5中、一点鎖線で示す。)に取り付けられており、垂直方向のガイド面を転動するガイドローラ27は、垂直方向(縦姿勢)の固定軸(図5中、一点鎖線で示す。)に取り付けられている。
【0055】
これら各ガイドローラ25(25a、25b、25c、25d)、26(26a、26b、26c、26d)、27(27a、27b、27c、27d)は、いずれも外輪が回転する。横姿勢および縦姿勢の固定軸に取付けられた各4個ずつのガイドローラ25、26、27のうち、各組1つの25b、26b、27bについては、固体潤滑皮膜3aを有するものであるところの図1〜3に示した実施形態の転がり軸受が用いられている。
【0056】
なお、他のガイドローラ25(25a、25c、25d)、26(26a、26c、26d)、27(27a、27c、27d)については、外輪2のガイドレール22、23との接触面を固体潤滑剤またはそれを含む複合材で形成していないこと以外は、ガイドローラ25b、26b、27bと全く同じ構成の転がり軸受が採用されている。
【0057】
このようなガイドローラ25、26、27を用いてテンタクリップを支持するフィルム延伸機は、外輪またはローラの軌道との接触面から液状の潤滑剤が飛散せずガイドローラを使用する周囲の環境を汚染することもなく、またフィルムなどの搬送物品の品質を低下させることもない。
【0058】
そして、フィルム延伸機は、転動体および保持器の両方から固体潤滑剤が、始動時より途切れることなく供給されるため、内・外輪の表面などの摩擦面が充分に潤滑され、フィルム延伸機の始動時から安定した延伸作用が奏され、歪みのない均質なフィルムを安定して生産できる。
【0059】
なお、ガイドローラ25a、25c、25d、26a、26c、26d、27a、27c、27dについても、ガイドローラ25b、26b、27bと全く同じ構成のものを適宜に採用することもできるのは勿論である。
【0060】
図7に示すガイドローラの第2実施形態は、転がり軸受の外輪2と一体に設けたローラ28を軌道29に回転自在に接触させて軌道29に沿って移動可能なガイドローラ31を示すものである。
このようなガイドローラは、前記したテンタクリップ用ガイドローラに用いることができる他、物品搬送案内用ガイドローラとして、車体32に設けた台車33を構成することもできる。
【0061】
ローラ28は、軌道29との接触面のみを前記したような固体潤滑皮膜3aまたは固体潤滑剤を含む複合材で層状に形成することができ、または前記した転動体4と同様に固体潤滑剤含有の複合材を成形材料として全体を一体成形してもよい。鋼材などの金属でローラ28を形成した場合は、外輪2に対して締まり嵌めなどによって固定することができる他、焼結金属で外輪2と複合的に一体成形することもできる。
【0062】
このように構成された台車は、焼却炉または焼結炉などにて例えば150〜250℃またはこれを超えるような被加熱状態でも物品搬送に用いることが可能であり、耐熱性に優れたガイドローラまたは台車にすることができる。
【実施例1】
【0063】
SUS440C製の深溝玉軸受(NTN社製:SEB08)の複数の転動体を、軸受荷重が負荷される負荷転動体(直径4mm)と軸受荷重が負荷されない非負荷転動体(直径3.9mm)で構成し、非負荷転動体はタングステン合金中に二硫化タングステン90体積%以上を分散させた焼結材(富士ダイス社製:FWD−CuCoで二硫化タングステンの含有量を90体積%としたもの)をバレル加工機で球形に研摩加工して前記直径の非負荷転動体とした。
【0064】
得られた非負荷転動体の1つを保持器に組み込み、その他の転動体は、軸受荷重が負荷される通常の鋼球製の転動体とした。非負荷転動体の直径Aは、負荷転動体の直径を1.0とした場合に0.9とし、保持器の転動体との接触面を含む全表面および外輪の外周面は、転動体との摩擦面を含めて全面に、二硫化モリブデン(MoS2)をスパッタリングにて全面被覆し、これらの部品を組み付けて実施例1の深溝玉軸受型のガイドローラを作製した。
【実施例2】
【0065】
実施例1において、保持器の表面は、転動体との摩擦面のみに、二硫化モリブデン(MoS2)をスパッタリングにて全面被覆したこと以外は全く同様にして保持器を調製し、その他の部品を組み付けて実施例2の深溝玉軸受型のガイドローラを作製した。
【実施例3】
【0066】
実施例1において、保持器をタングステン合金中に二硫化タングステン90体積%以上を分散させた立方体状の焼結材(富士ダイス社製:FWD−CuCoで二硫化タングステンの含有量を90体積%としたもの)を用いて焼結成形にて製造し、それ以外は実施例1と全く同様にして保持器を調製し、その他の部品を組み付けて実施例3の深溝玉軸受型のガイドローラを作製した。
【実施例4】
【0067】
実施例3において、保持器および非負荷転動体をタングステン合金中に二硫化タングステン80体積%を分散させた立方体状の焼結材(富士ダイス社製:FWD−CuCoで二硫化タングステンの含有量を80体積%としたもの)を用いて焼結成形にて製造し、それ以外は実施例3と全く同様にして保持器を調製し、その他の部品を組み付けて実施例4の深溝玉軸受型のガイドローラを作製した。
【0068】
得られた実施例1〜4の固体潤滑転がり軸受について、外輪回転の条件で200℃の雰囲気で間欠的に始動する実験を繰り返し行なったところ、軸受回転トルクが作動初期から低く安定させることができることが判明した。また、外輪を鋼材製の軌道上で回転させる条件では固体潤滑剤の塵埃も飛散することなく周囲の環境を汚染しないものことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】実施形態を示すガイドローラの要部平面図
【図2】実施形態を示すガイドローラの要部断面図
【図3】図2の断面図
【図4】実施形態フィルム延伸機の概略構成図
【図5】実施形態のフィルム延伸機のテンタクリップ周辺部を示す断面図
【図6】図5のVI−VI線断面図
【図7】実施形態の台車のガイドローラ周辺部を示す断面図
【符号の説明】
【0070】
1 内輪
2 外輪
3 保持器
3a 固体潤滑皮膜
4 転動体
4a 負荷転動体
4b 非負荷転動体
11 フィルム延伸機
12 熱可塑性高分子化合物
13 フィルム(原反シート)
14 押出し機
15 冷却ドラム
16 送りローラ
17 水槽
18 水切り装置
19 2軸延伸機
20 回収ローラ
21 テンタクリップ
22、23 ガイドレール
24 クリップ部
25、26、27、31 ガイドローラ
28 ローラ
29 軌道
30 横延伸装置
32 車体
33 台車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受の外輪またはこれと一体に設けたローラを軌道に回転自在に接触させて前記軌道に沿って移動可能なガイドローラにおいて、
前記外輪またはローラの軌道との接触面を固体潤滑剤またはそれを含む複合材で形成すると共に、前記外輪と内輪の間に保持器によって回転自在に保持される複数の転動体のうち、1以上の転動体を固体潤滑剤含有の複合材で形成し、前記保持器の少なくとも転動体との接触面を含む表面を固体潤滑剤またはそれを含む複合材で形成したことを特徴とするガイドローラ。
【請求項2】
複数の転動体が、軸受荷重が負荷される負荷転動体と、これより小径で軸受荷重が負荷されない非負荷転動体からなり、少なくとも1以上の非負荷転動体が固体潤滑剤を含有する複合材からなる請求項1に記載のガイドローラ。
【請求項3】
固体潤滑剤が、二硫化タングステンまたは二硫化モリブデンである請求項1または2に記載のガイドローラ。
【請求項4】
固体潤滑剤を含む複合材が、金属材中に固体潤滑剤を分散させた焼結体からなる複合材である請求項1〜3のいずれかに記載のガイドローラ。
【請求項5】
固体潤滑剤を含有する複合材が、タングステン合金中に二硫化タングステンを分散させた焼結体からなる複合材である請求項4に記載のガイドローラ。
【請求項6】
帯状フィルムの幅方向に対向する両縁をそれぞれテンタクリップで把持し、帯状フィルムの移送に伴って幅方向の把持間隔が広がるようにテンタクリップを案内する軌道を設け、この軌道に案内されるガイドローラを前記テンタクリップと一体に設けたフィルム延伸機において、
前記ガイドローラが、請求項1〜5のいずれかに記載のガイドローラであることを特徴とするフィルム延伸機。
【請求項7】
フィルム延伸機内で移送される帯状フィルムの幅方向両縁をそれぞれ把持し、この把持する幅方向の間隔を広げるように軌道を案内されて前記帯状フィルムの幅方向を延伸するテンタクリップにおいて、
このテンタクリップと一体に設けられて軌道に案内されるガイドローラが、請求項1〜5のいずれかに記載のガイドローラであることを特徴とするフィルム延伸機のテンタクリップ。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載のガイドローラを設けた物品搬送用の台車。
【請求項9】
台車が、焼却炉または焼結炉にて被加熱状態で用いられるものである請求項8記載の台車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−19369(P2010−19369A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181398(P2008−181398)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】