説明

ガイドワイヤ及びバルーン付きアブレーションカテーテルシステム

【課題】バルーン付きアブレーションカテーテルとガイドワイヤを使用してアブレーション治療を行う際に、ガイドワイヤの先端部が誤って加熱されることを防ぐ。
【解決手段】バルーン付きアブレーションカテーテル10用のガイドワイヤ1aであって、ガイドワイヤの長手方向における端部から20〜100mmの領域に、上記ガイドワイヤが屈曲及び/又は湾曲して形成される変形部2aが有り、上記変形部は、上記ガイドワイヤの長手方向の中心軸と該中心軸に対して垂直な方向に最も離れた地点との最短距離が、上記ガイドワイヤとセットで使用するバルーン付きアブレーションカテーテルのカテーテルシャフトのルーメンの最小内径と同じ長さ以上40mm以下である、ガイドワイヤを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガイドワイヤ及びバルーン付きアブレーションカテーテルシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
バルーン付きアブレーションカテーテルは、発作性上室性頻拍、心房頻拍、心房粗動、発作性心室頻拍等の心臓不整脈の治療に使用される医療用具である。
【0003】
バルーン付きアブレーションカテーテルを使った肺静脈の電気的隔離(肺静脈口焼灼術)は、カテーテルの先端部に取り付けられたバルーンを経皮的に下大静脈に導入し、心臓の右心房から心房中隔を経て左心房へと到達させ、バルーンを膨張させた後にバルーン表面を高周波電力によって加熱し、肺静脈口の環状周縁部を焼灼(アブレーション)することによって行われる(特許文献1及び2)。
【0004】
バルーン付きアブレーションカテーテルを使った治療では、バルーンを肺静脈口へ誘導したり、該バルーンを肺静脈口に密着させたりするのに、ガイドワイヤが利用されている。このガイドワイヤは、カテーテルシャフトのルーメンを容易に通過可能とするために直線形状をしており、その先端部は、血管組織の損傷を防止するためにJ型に加工される等の工夫が施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−78809号公報
【特許文献2】特許第4062935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、バルーン付きアブレーションカテーテルとガイドワイヤを使用してアブレーション治療を行う際、バルーンを加熱するとガイドワイヤ自体の先端部も一緒に加熱されてしまい、ガイドワイヤの先端部が治療対象部位以外の組織を焼灼してしまうことがあった。
【0007】
そこで本発明は、バルーン付きアブレーションカテーテルとガイドワイヤを使用してアブレーション治療を行う際に、ガイドワイヤの先端部が誤って加熱されることを防ぐことを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ガイドワイヤの先端部の誤加熱を防止するには、ガイドワイヤの先端部とバルーン付きアブレーションカテーテルの先端部とが常時20mm以上の距離を保っている必要のあることを見出すに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、バルーン付きアブレーションカテーテル用のガイドワイヤであって、ガイドワイヤの長手方向における端部から20〜100mmの領域に、上記ガイドワイヤが屈曲及び/又は湾曲して形成される変形部が有り、上記変形部は、上記ガイドワイヤの長手方向の中心軸と該中心軸に対して垂直な方向に最も離れた地点との最短距離が、上記ガイドワイヤとセットで使用するバルーン付きアブレーションカテーテルのカテーテルシャフトのルーメンの最小内径と同じ長さ以上40mm以下であるガイドワイヤを提供する。
【0010】
バルーン付きアブレーションカテーテルとガイドワイヤを使用したアブレーション治療を行う場合、ガイドワイヤの先端部がバルーン付きアブレーションカテーテルの先端部に接近していることに術者が気付けばガイドワイヤ自体の加熱を防ぐことは可能なようにも思われるが、バルーン付きアブレーションカテーテルが体内の治療部位に到達した段階では、バルーン付きアブレーションカテーテルの先端部とガイドワイヤの先端部の接近を直接目視することは不可能であり、X線透視画像等で当該接近を確認しながら焼灼することは、術者及び患者への負担が大きいものである。ところが、上記ガイドワイヤを使用すれば、ガイドワイヤの先端部がバルーン付きアブレーションカテーテルの先端部に接近するのを物理的に防ぎ、ガイドワイヤの先端部が加熱することを未然に防ぐことができる。
【0011】
上記変形部は、上記ガイドワイヤが2〜8回以上屈曲及び/又は湾曲して形成されることが好ましく、螺旋状、コイル状又はラッソ状であることがさらに好ましい。このような変形部は、ガイドワイヤの先端部がバルーン付きアブレーションカテーテルの先端部への接近するのをより効果的に防ぎ、ガイドワイヤの先端部が加熱についてもより効果的防ぐことができる。
【0012】
上記ガイドワイヤは、上記変形部に電位測定用電極が配置されていることが好ましい。電位測定用電極が上記変形部に設置されていれば、治療対象部位における組織の焼灼の前後における電位を測定することで、治療効果確認をすることができる。
【0013】
また本発明は、上記ガイドワイヤを備える、バルーン付きアブレーションカテーテルシステムを提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、バルーン付きアブレーションカテーテルとガイドワイヤを使用してアブレーション治療を行う際に、ガイドワイヤの先端部が誤って加熱されることを防ぎ、治療対象部位以外の組織の焼灼リスクを軽減できる。また本発明によれば、ガイドワイヤの先端部をバルーン付きアブレーションカテーテルの先端部からガイドワイヤの誤加熱を防ぐことが可能な一定の距離以上に保つことができ、ガイドワイヤの先端部のバルーン付きアブレーションカテーテルの先端部への接近を手からの感覚として術者に知らせることができるため、バルーン付きアブレーションカテーテルによる安全性の高い治療を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】本発明の第一実施形態に係るガイドワイヤを示す概略図である。
【図1B】本発明の第一実施形態に係るガイドワイヤにおける変形部を示す概略図である。
【図2A】本発明の第二実施形態に係るガイドワイヤを示す概略図である。
【図2B】本発明の第二実施形態に係るガイドワイヤにおける変形部を示す概略図である。
【図3A】本発明の第三実施形態に係るガイドワイヤを示す概略図である。
【図3B】本発明の第三実施形態に係るガイドワイヤにおける変形部を示す概略図である。
【図3C】本発明の第三実施形態に係るガイドワイヤにおける変形部をガイドワイヤの長手方向から見た概略図である。
【図4A】本発明の第四実施形態に係るガイドワイヤを示す概略図である。
【図4B】本発明の第四実施形態に係るガイドワイヤにおける変形部を示す概略図である。
【図4C】本発明の第四実施形態に係るガイドワイヤにおける変形部をガイドワイヤの長手方向から見た概略図である。
【図5A】本発明の第五実施形態に係るガイドワイヤを示す概略図である。
【図5B】本発明の第五実施形態に係るガイドワイヤにおける変形部を示す概略図である。
【図5C】本発明の第五実施形態に係るガイドワイヤにおける変形部をガイドワイヤの長手方向から見た概略図である。
【図6】本発明の別の実施形態に係るガイドワイヤにおける変形部を示す概略図である。
【図7】本発明の第一実施形態に係るガイドワイヤを備えるバルーン付きアブレーションカテーテルシステムの実施形態を示す概略図である。
【図8】本発明の第一実施形態に係るガイドワイヤを備えるバルーン付きアブレーションカテーテルシステムのバルーン部の長手方向に対して水平な断面を示す概略図である。
【図9】ガイドワイヤ先端温度の試験系の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。なお、同一の要素には同一符号を用いるものとし、重複する説明は省略する。また、図面の比率は説明のものとは必ずしも一致していない。
【0017】
本発明のガイドワイヤは、バルーン付きアブレーションカテーテル用のガイドワイヤであって、ガイドワイヤの長手方向における端部から20〜100mmの領域に、上記ガイドワイヤが屈曲及び/又は湾曲して形成される変形部が有り、上記変形部は、上記ガイドワイヤの長手方向の中心軸と該中心軸に対して垂直な方向に最も離れた地点との最短距離が、上記ガイドワイヤとセットで使用するバルーン付きアブレーションカテーテルのカテーテルシャフトのルーメンの最小内径と同じ長さ以上40mm以下であることを特徴としている。
【0018】
図1Aは、本発明の第一実施形態に係るガイドワイヤ1aを示す概略図であり、図1Bは、本発明の第一実施形態に係るガイドワイヤ1aにおける変形部2aを示す概略図である。
【0019】
ガイドワイヤ1aは、長手方向における先端側に、上記ガイドワイヤが屈曲及び/又は湾曲して形成される変形部2aが有るが、ガイドワイヤ先端部の誤加熱を防ぐ観点から、変形部2aの手元端5は、ガイドワイヤの長手方向における端部4から20mm以上の領域にあることが好ましく、ガイドワイヤの長手方向における端部4による血管組織の損傷防止の観点から、ガイドワイヤの長手方向における端部4から20〜100mmの領域にあることがより好ましい。
【0020】
また、ガイドワイヤ1aは、変形部2aよりも手元側にガイドワイヤ本体部3を、変形部2aよりも先端側にガイドワイヤ先端ストレート部7を有する。
【0021】
ガイドワイヤ本体部3及びガイドワイヤ先端ストレート部7の形状としては、直線状が好ましい。
【0022】
ガイドワイヤ1aの材料としては、例えば、ステンレス鋼などの金属又は合金が挙げられるが、挿入時の抵抗軽減又は柔軟性の確保の観点から、テフロン(登録商標)等のコーティングを施すことが好ましい。
【0023】
ガイドワイヤ1aの長さとしては、実用性の観点から、0.5〜2.5mが好ましい。
【0024】
ガイドワイヤ本体部3の曲げ剛性は、ガイドワイヤ本体部3の材料のヤング率と、断面2次モーメントとの積であって、以下の式1で算出されるが、600〜3700N・mmであることが好ましい。
【0025】
曲げ剛性=ヤング率E×断面2次モーメントI・・・・・・式1
【0026】
変形部2a及びガイドワイヤ先端ストレート部7の曲げ剛性は、ガイドワイヤ1aの先端が患部組織に接触した場合の組織損傷のリスクを考慮して、ガイドワイヤ本体部3の曲げ剛性よりも低いことが好ましい。
【0027】
ガイドワイヤ1aの先端は、患部組織へ接触した場合の組織損傷のリスクを考慮して、柔軟であることが好ましく、図1Aに示されるようなJ型であることがより好ましい。
【0028】
「ガイドワイヤの長手方向の中心軸」とは、ガイドワイヤ本体部の長手方向の中心軸であって、図1Bでは、ガイドワイヤ本体部3の長手方向の中心軸である中心軸8に相当する。
【0029】
「該中心軸に対して垂直な方向に最も離れた地点との最短距離」とは、図1Bでは、中心軸8に対して垂直な方向に最も離れた地点との最短距離である、変形部高6aに相当する。
【0030】
中心軸に対して垂直な方向に最も離れた地点との最短距離、すなわち、図1Bにおける変形部高6a等は、ガイドワイヤ1aを手元方向に引いた術者が、変形部2がバルーン付きアブレーションカテーテルの先端に接したことを容易に把握可能な観点から、ガイドワイヤを通すカテーテルシャフトのルーメンの最小内径と同じ長さ以上であることが好ましく、焼灼する血管口径を考慮して、ガイドワイヤを通すカテーテルシャフトのルーメンの最小内径と同じ長さ以上40mm以下であることがより好ましい。
【0031】
ガイドワイヤ先端ストレート部7は、中心軸8と同軸上にあることが好ましい。
【0032】
変形部2aの形状は、図1Bに示すように、屈曲部51a、51b及び51cからなる形状である。
【0033】
図1Bに示されるガイドワイヤ1aの屈曲部は3つであるが、挿入時の抵抗軽減の観点から、ガイドワイヤ1本当たりの屈曲部の数は、2〜8であることが好ましい。
【0034】
図2Aは、本発明の第二実施形態に係るガイドワイヤ1bを示す概略図であり、図2Bは、本発明の第二実施形態に係るガイドワイヤ1bにおける変形部2bを示す概略図である。
【0035】
ガイドワイヤ1bは、ガイドワイヤ1aと同様に、変形部2bよりも手元側にガイドワイヤ本体部3を、変形部2bよりも先端側にガイドワイヤ先端ストレート部7を有し、変形部2bの手元端5は、ガイドワイヤの長手方向における端部4から20mm以上の領域にあることが好ましく、ガイドワイヤの長手方向における端部4から20〜100mmの領域にあることがより好ましい。
【0036】
ガイドワイヤ1bの材料、長さ、先端及び変形部2bの曲げ剛性は、ガイドワイヤ1aと同様であることが好ましい。
【0037】
変形部2bの形状は、図2Bに示すように、屈曲部51d、51e及び湾曲部52a、52bからなる形状又は複数の湾曲部の組み合わせからなる形状である。
【0038】
図2Bに示される屈曲部51は2つ、湾曲部52は2つであるが、挿入時の抵抗軽減の観点から、ガイドワイヤ1本当たりの屈曲部及び/又は湾曲部の数は、2〜8個であることが好ましい。
【0039】
「中心軸に対して垂直な方向に最も離れた地点との最短距離」とは、図2Bでは、変形部高6bに相当する。
【0040】
図3Aは、本発明の第三実施形態に係るガイドワイヤ1cを示す概略図であり、図3Bは、本発明の第三実施形態に係るガイドワイヤ1cにおける変形部2cを示す概略図であり、図3Cは、本発明の第三実施形態に係るガイドワイヤ1cにおける変形部2cをガイドワイヤの長手方向から見た概略図である。
【0041】
ガイドワイヤ1cは、ガイドワイヤ1aと同様に、変形部2cよりも手元側にガイドワイヤ本体部3を、変形部2cよりも先端側にガイドワイヤ先端ストレート部7を有し、変形部2cの手元端5は、ガイドワイヤの長手方向における端部4から20mm以上の領域にあることが好ましく、ガイドワイヤの長手方向における端部4から20〜100mmの領域にあることがより好ましい。
【0042】
ガイドワイヤ1cの材料、長さ、先端及び変形部2cの曲げ剛性は、ガイドワイヤ1aと同様であることが好ましい。
【0043】
変形部2cの形状は、図3Bに示すように、螺旋状又はコイル状からなる形状である。
【0044】
「中心軸に対して垂直な方向に最も離れた地点との最短距離」とは、図3B及び図3Cでは、変形部高6cに相当する。
【0045】
図4Aは、本発明の第四実施形態に係るガイドワイヤ1dを示す概略図であり、図4Bは、本発明の第四実施形態に係るガイドワイヤ1dにおける変形部2dを示す概略図であり、図4Cは、本発明の第四実施形態に係るガイドワイヤ1dにおける変形部2dをガイドワイヤの長手方向から見た概略図である。
【0046】
図5Aは、本発明の第五実施形態に係るガイドワイヤ1eを示す概略図であり、図5Bは、本発明の第五実施形態に係るガイドワイヤ1eにおける変形部2eを示す概略図であり、図5Cは、本発明の第五実施形態に係るガイドワイヤ1eにおける変形部2eをガイドワイヤの長手方向から見た概略図である。
【0047】
ガイドワイヤ1d及び1eは、ガイドワイヤ1aと同様に、変形部2d又は2eよりも手元側にガイドワイヤ本体部3を、変形部2d又は2eよりも先端側にガイドワイヤ先端ストレート部7を有し、変形部2d及び2eの手元端5は、ガイドワイヤの長手方向における端部4から20mm以上の領域にあることが好ましく、ガイドワイヤの長手方向における端部4から20〜100mmの領域にあることがより好ましい。
【0048】
ガイドワイヤ1d及び1eの材料、長さ、先端並びに変形部2d及び2eの曲げ剛性は、ガイドワイヤ1aと同様であることが好ましい。
【0049】
変形部2d及び2eの形状は、図4Bや図5Bに示すように、ラッソ状(投げ縄形状)である。
【0050】
「中心軸に対して垂直な方向に最も離れた地点との最短距離」とは、図4B、図4C、図5B及び図5Cでは、変形部高6d及び6eに相当する。
【0051】
図6は、本発明の別の実施形態に係るガイドワイヤ1fにおける変形部2fを示す概略図である。
【0052】
ガイドワイヤ1fは、ガイドワイヤ1aと同様に、変形部2fよりも手元側にガイドワイヤ本体部3を、変形部2fよりも先端側にガイドワイヤ先端ストレート部7を有し、変形部2fの手元端5は、ガイドワイヤの長手方向における端部4から20mm以上の領域にあることが好ましく、ガイドワイヤの長手方向における端部4から20〜100mmの領域にあることがより好ましい。
【0053】
ガイドワイヤ1fの材料、長さ、先端及び変形部2fの曲げ剛性は、ガイドワイヤ1aと同様であることが好ましい。
【0054】
変形部2fには、図6に示されるように電位測定用電極9を変形部2に設置して、治療効果確認のために電位を測定することが好ましい。
【0055】
電位測定用電極9に接続された電位測定用電極リード線の他端は、ガイドワイヤ1fの内部を挿通して、電位測定機器に接続される。
【0056】
なお、電位測定用電極9は、いずれの実施形態のガイドワイヤであっても、その変形部に設置可能である。
【0057】
電位測定用電極の数としては、ガイドワイヤ1本当たり1〜16個が好ましく、4〜10個がより好ましい。
【0058】
また、本発明のバルーン付きアブレーションカテーテルシステムは、本発明のガイドワイヤを備えることを特徴としている。
【0059】
図7は、本発明の第一実施形態に係るガイドワイヤを備えるバルーン付きアブレーションカテーテルシステムの実施形態を示す概略図であり、図8は本発明の第一実施形態に係るガイドワイヤを備えるバルーン付きアブレーションカテーテルシステムのバルーン部の長手方向に対して水平な断面を示す概略図である。
【0060】
図7に示されるバルーン付きアブレーションカテーテルシステムは、バルーン付きアブレーションカテーテル10の先端側に膨張及び収縮可能なバルーン11を備え、さらに、外側チューブ体12のルーメンに内側チューブ体13が挿入された二重筒式カテーテルシャフトを備える。なお、バルーン11の先端部は内側チューブ体13の長手方向における先端部に固定され、バルーン11の後端部は外側チューブ体12の長手方向における先端部に固定されている。なお、本発明のガイドワイヤ1の効果を得るためには、カテーテルシャフトは二重筒式ではなく、単一管であっても構わない。
【0061】
外側チューブ体12及び内側チューブ体13の長さとしては、0.5〜2mが好ましく、0.8〜1.2mがより好ましい。
【0062】
外側チューブ体12及び内側チューブ体13の材料としては、抗血栓性に優れる可撓性のある材料が好ましく、例えば、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂又はポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0063】
バルーン11の形状としては、血管にフィットできる形状であればよいが、例えば、直径20〜40mmの球形又は先すぼみの円錐状の外形が挙げられる。
【0064】
バルーン11の膜厚みとしては、20〜200μmが好ましく、30〜100μmがより好ましい。
【0065】
バルーン11の材料としては、抗血栓性に優れた伸縮性のある材料が好ましく、ポリウレタン系の高分子材料がより好ましい。
【0066】
ポリウレタン系の高分子材料としては、例えば、熱可塑性ポリエーテルウレタン、ポリエーテルポリウレタンウレア、フッ素ポリエーテルウレタンウレア、ポリエーテルポリウレタンウレア樹脂又はポリエーテルポリウレタンウレアアミドが挙げられる。
【0067】
高周波通電用電極14は、バルーン11の内部に配置される。
【0068】
高周波通電用電極14を内側チューブ体13に固定する場合、その固定方法としては、例えば、かしめ、接着剤、溶着又は熱収縮チューブが挙げられるが、高周波通電用電極14は内側チューブ体13に固定されていなくても構わない。
【0069】
高周波通電用電極14と、患者体表面に貼付したバルーン外側電極15との間に、高周波発生装置16により高周波電力を供給することでバルーンが加熱されるが、高周波通電用電極間に高周波電力を供給するために、バルーン11の内部に、高周波通電用電極14を複数個配置してもよい。また、高周波通電用電極14が配置された範囲のバルーン部の可撓性を向上させる観点から、高周波通電用電極14を複数個に分割して配置してもよい。
【0070】
高周波通電用電極14の形状としては特に限定はないが、コイル状又は円筒状などの、筒状の形状が好ましい。
【0071】
コイル状の高周波通電用電極14の電線の直径は、実用性の観点から、0.1〜1mmが好ましく、0.2〜0.5mmがより好ましい。
【0072】
高周波通電用電極14の材料としては、高導電率金属が好ましい。
【0073】
高導電率金属としては、例えば、銀、金、プラチナ又は銅などの高導電率金属が挙げられる。
【0074】
高周波通電用電極14に接続された高周波電力供給用リード線は、電極コネクタ17を介して高周波発生装置16に接続され、高周波通電用電極14へ高周波電流を伝達する。
【0075】
高周波電力供給用リード線は、半田又はかしめなどで高周波通電用電極14に接続されている。
【0076】
高周波電力供給用リード線の直径としては、実用性の観点から、0.1〜1mmが好ましく、0.2〜0.5mmがより好ましい。
【0077】
高周波電力供給用リード線の材料としては、例えば、銅、銀、金、白金、タングステン又は合金などの高導電率金属が挙げられるが、短絡を防止する観点から、フッ素樹脂などの電気絶縁性保護被覆が施されていることが好ましく、半田又はかしめなどでの接続が不要となる観点から、電気絶縁性保護被覆を剥いだ高周波電力供給用リード線の一部をコイル状に成形して高周波通電用電極14とすることがより好ましい。
【0078】
温度センサ18は、内側チューブ体13、高周波通電用電極14又はバルーン11の内面のいずれかに固定されている。温度センサの故障時のバックアップなどの観点から、温度センサ18を複数個固定してもよい。
【0079】
温度センサ18としては、例えば、熱電対又は測温抵抗体が挙げられる。
【0080】
温度センサ18に接続された温度センサ用リード線は、電極コネクタ17を介して高周波発生装置16に接続され、温度センサ18によって測定された温度信号を高周波発生装置16に伝達する。
【0081】
温度センサ用リード線の材料としては、温度センサ18が熱電対であれば、熱電対と同じ材料であることが好ましく、例えば、T型熱電対の場合には、銅及びコンスタンタンが挙げられる。一方で、温度センサ18が測温抵抗体であれば、銅、銀、金、白金、タングステン又は合金などの高導電率金属が好ましい。なお、温度センサ用リード線は、短絡を防止する観点から、フッ素樹脂等の電気絶縁性保護被覆が施されていることが好ましい。
【0082】
また、図7に示されるバルーン付きアブレーションカテーテル10は、バルーン11の内部に液体を供給するためのバルーン膨張/収縮管19が装着される、貫通孔を有する管接続部20を備える。管接続部20は、外側チューブ体12と内側チューブ体13との間の空間と連通する。
【0083】
管接続部20は、外側チューブ体、栓体、蓋体又は外側チューブ体の長手方向における後端側に配置される連結部材に設けられていることが好ましいが、図7に示されるバルーン付きアブレーションカテーテル10の管接続部20は、連結部材21に設けられている。
【0084】
高周波通電用リード線と温度センサリード線は、高周波通電用電極14及び温度センサ18から外側チューブ体12と内側チューブ体13との間の空間(クリアランス)を挿通して、連結部材21から外部に出されるように配置されていることが好ましい。
【0085】
ガイドワイヤ1aは、内側チューブ体13のルーメンに挿通されている。
【0086】
ガイドワイヤを通すカテーテルシャフトのルーメンの最小内径は、例えば、図8では、ガイドワイヤ用ルーメン内径22に相当する。
【0087】
変形部高6aがガイドワイヤ用ルーメン内径22以上であれば、ガイドワイヤ1aをバルーン付きアブレーションカテーテル10から手元方向に引き抜こうとする場合に、変形部2aがバルーン付きアブレーションカテーテルの先端で抵抗となり、変形部2aがバルーン付きアブレーションカテーテルの先端23に接したことを術者が容易に把握することが可能となる。
【実施例】
【0088】
以下、本発明のガイドワイヤ及びそれを備えるバルーン付きアブレーションカテーテルシステムの具体的な実施例を、図を交えて説明する。
【0089】
(実施例1)
本発明の第一実施形態に係るガイドワイヤを備えるバルーン付きアブレーションカテーテルシステムを、以下の通り製作した。
【0090】
断面の形状が直径0.6mmの円であって、長さ2000mmのステンレス線(SUS304WPB線)をガイドワイヤ1aとして、J型に加工した一端であるガイドワイヤの長手方向における端部4から長さ20mmの位置に変形部2の手元端5が配置されるように、3つの屈曲部51a、51b及び51cからなる変形部2aを形成した(以下、実施例1ガイドワイヤ)。なお、ガイドワイヤ1aの長手方向の中心軸と該中心軸に対して垂直な方向に最も離れた地点との最短距離、すなわち、変形部高6aは、5mmとした。
【0091】
次に、所望のバルーン形状に対応する型面を有するガラス製バルーン成形型を濃度13%のポリウレタン溶液に浸漬し、熱をかけて溶媒を蒸発させて、成形型表面にウレタンポリマー被膜を形成するディッピング法によって、直径30mm、厚み50μmのバルーン11を製作した。
【0092】
外径4mm、内径3mm、全長1000mmのポリウレタン製チューブである外側チューブ体12の手元端に、管接続部20を設けた連結部材21を内挿嵌合して、接着固定した。
【0093】
外径1.7mm、内径1.2mm、全長1100mmのポリウレタン製チューブである内側チューブ体13の先端から20mmの位置を開始点として、直径0.5mmの銀メッキ付き電気用軟銅線である高周波電力供給用リード線に施された電気絶縁性保護被覆の一部を剥いでから内側チューブ体13に直接巻き付けて、長さ10mmのコイル状に成形したものを高周波通電用電極14とした。
【0094】
電気絶縁性保護被覆を施した極細熱電対銅線を一方の温度センサ用リード線とし、電気絶縁性保護被覆を施した極細熱電対コンスタンタン線を他方の温度センサリード線として、温度センサリード線の先端同士を接続して半田で補強し、当該接続部を温度センサ18とした。温度センサ18は、高周波通電用電極14の先端から3mmの位置でかしめて固定した。
【0095】
高周波通電用電極14及び温度センサ18を固定した内側チューブ体13を、連結部材21の後端側から外側チューブ体12に挿入し、蓋で連結部材21に固定した。
【0096】
高周波通電用リード線と温度センサリード線とは、高周波通電用電極14及び温度センサ18から外側チューブ体12と内側チューブ体13との間の空間を挿通して、連結部材21から外部に取り出し、電極コネクタ17に接続した。
【0097】
バルーン11の先端部を内側チューブ体13の先端から10mmの位置で内側チューブ体13の外周に熱溶着で固定するとともに、バルーン11の後端部を外側チューブ体12の先端部外周に熱溶着することで、本発明の第一実施形態に係るバルーン付きアブレーションカテーテルを製作した。
【0098】
最後に、バルーン11に生理食塩水を供給して最大径が30mmになるように膨張してから、本発明の第一実施形態に係るバルーン付きアブレーションカテーテルの内側チューブ体13のルーメンに実施例1ガイドワイヤを挿通させて、本発明の第一実施形態に係るガイドワイヤを備えるバルーン付きアブレーションカテーテルシステム(以下、実施例1カテーテルシステム)を完成した。
【0099】
(比較例1)
比較例1として、バルーン付きアブレーションカテーテルシステムを以下の通り製作した。
【0100】
断面の形状が直径0.6mmの円であって、長さ2000mmのステンレス線(SUS304WPB線)の一端をJ型に加工し、変形部は形成せずにそのままガイドワイヤとした(以下、比較例1ガイドワイヤ)。
【0101】
次に、実施例1で製作したものと同一のバルーン付きアブレーションカテーテルのバルーン11に生理食塩水を供給して最大径が30mmになるように膨張してから、内側チューブ体13のルーメンに、比較例1ガイドワイヤを挿通させて、バルーン付きアブレーションカテーテルシステム(以下、比較例1カテーテルシステム)を完成した。
【0102】
(ガイドワイヤ先端温度試験)
実施例1及び比較例1で製作したバルーン付きアブレーションカテーテルシステムにおいて、高周波発生装置16により高周波電力を供給して、バルーンを加熱し、ガイドワイヤ先端温度を測定した。
【0103】
図9に、ガイドワイヤ先端温度の試験系の概略図を示す。水槽30の内壁に貼ったバルーン外側電極である対極板31に、高周波発生装置16を接続して、水槽30に37℃の0.9%生理食塩水を35L入れた。
【0104】
水槽30内に、最大径が30mmになるように膨張させたバルーンが嵌合する形状に成形した寒天製の擬似患部組織32を0.9%生理食塩水に完全に浸漬するように設置し、バルーン付きアブレーションカテーテル10のバルーン11を、疑似患部組織32に嵌合した。
【0105】
擬似患部組織32に突き刺さったガイドワイヤの先端温度を、温度データロガー34に接続したT型熱電対33で測定した。なお、ガイドワイヤの先端温度の測定は、高周波発生装置16による高周波電力(周波数1.8MHz、最大電力150W、設定温度70℃)の供給開始から5分間継続し、その間のガイドワイヤ先端の最高温度を、ガイドワイヤ先端温度とした。
【0106】
実施例1カテーテルシステムを用いた試験では、ガイドワイヤ1aの変形部2aの手元端5が、バルーン付きアブレーションカテーテル10の先端に接する位置でガイドワイヤ1aを固定して、ガイドワイヤ1aの長手方向における端部4と、バルーン付きアブレーションカテーテル10の先端との距離を20mmにしてからガイドワイヤ先端温度を測定した。結果を表1に示す。
【0107】
比較例1カテーテルシステムを用いた試験では、ガイドワイヤの先端と、バルーン付きアブレーションカテーテル10の先端との距離が20mm、10mm又は2mmであることを目視で確認してから、それぞれの距離におけるガイドワイヤ先端温度を測定した。結果を表1に示す。
【0108】
【表1】

【0109】
上記実験の結果、ガイドワイヤ先端と、バルーン付きアブレーションカテーテル先端との距離が短いほど、ガイドワイヤ先端温度が高くなることが確認された。バルーン付きアブレーションカテーテルによる焼灼温度は60℃未満が好適であるところ、ガイドワイヤ先端温度が60℃以上になると、ガイドワイヤ先端部が治療対象部位以外の組織を焼灼してしまい、患者負担が増大することから、安全性の高い焼灼のためにはガイドワイヤ先端と、バルーン付きアブレーションカテーテル先端とが、20mm以上の距離を保つ必要があることは明らかである。
【0110】
さらに、比較例1カテーテルシステムを用いた試験では、術者が目視でガイドワイヤ先端部と、バルーン付きアブレーションカテーテル先端とが、20mm以上の距離を保っていることを確認しなければならないところ、実施例1カテーテルシステムを用いた試験では、ガイドワイヤを手元方向に引いた術者は、変形部2の手元端5が、バルーン付きアブレーションカテーテル10の先端に接する位置で抵抗を感じることから、術者がガイドワイヤ先端部と、バルーン付きアブレーションカテーテル先端とが、20mm以上の距離を保っていることを容易に把握可能であった。したがって、本発明のバルーン付きアブレーションカテーテルによれば、患者及び術者双方の負担を軽減した、安全性の高い焼灼を実現できることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、患部組織を焼灼するバルーン付きアブレーションカテーテルシステムとして用いることができる。
【符号の説明】
【0112】
1a,1b,1c,1d,1e,1f・・・ガイドワイヤ、2a,2b,2c,2d,2e,2f・・・変形部、3・・・ガイドワイヤ本体部、4・・・ガイドワイヤの長手方向における端部、5・・・手元端、6,6a,6b,6c,6d,6e・・・変形部高、7・・・ガイドワイヤ先端ストレート部、8・・・中心軸、9・・・電位測定用電極、10・・・バルーン付きアブレーションカテーテル、11・・・バルーン、12・・・外側チューブ体、13・・・内側チューブ体、14・・・高周波通電用電極、15・・・バルーン外側電極、16・・・高周波発生装置、17・・・電極コネクタ、18・・・温度センサ、19・・・バルーン膨張/収縮管、20・・・管接続部、21・・・連結部材、22・・・ガイドワイヤ用ルーメン内径、23・・・バルーン付きアブレーションカテーテルの先端、30・・・水槽、31・・・対極板、32・・・擬似患部組織、33・・・T型熱電対、34・・・温度データロガー、51,51a,51b,51c,51d,51e・・・屈曲部、52,52a,52b・・・湾曲部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルーン付きアブレーションカテーテル用のガイドワイヤであって、
ガイドワイヤの長手方向における端部から20〜100mmの領域に、前記ガイドワイヤが屈曲及び/又は湾曲して形成される変形部が有り、
前記変形部は、前記ガイドワイヤの長手方向の中心軸と該中心軸に対して垂直な方向に最も離れた地点との最短距離が、前記ガイドワイヤとセットで使用するバルーン付きアブレーションカテーテルのカテーテルシャフトのルーメンの最小内径と同じ長さ以上40mm以下である、
ガイドワイヤ。
【請求項2】
前記変形部は、前記ガイドワイヤが2〜8回以上屈曲及び/又は湾曲して形成される、請求項1記載のガイドワイヤ。
【請求項3】
前記変形部は、螺旋状、コイル状又はラッソ状である、請求項1又は2記載のガイドワイヤ。
【請求項4】
前記変形部に電位測定用電極が配置されている、請求項1〜3のいずれか一項記載のガイドワイヤ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項記載のガイドワイヤを備える、バルーン付きアブレーションカテーテルシステム。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−268847(P2010−268847A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120999(P2009−120999)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】