説明

ガイドワイヤ

【課題】 操作性に優れたガイドワイヤであって、屈曲角度の制御および屈曲操作を繰り返す場合のガイドワイヤの反応性が改良され、構造が簡単で細径化が可能なガイドワイヤを提供する。
【解決手段】 金属製の芯線1と、該芯線1の外側に配置された少なくとも一つの導電体2と、該芯線1と導電体2とを覆うように設けられた可撓性部材3とを有するガイドワイヤであって、
前記導電体2は少なくとも50モル%のピロール単位を有するピロール系高分子からなり、
前記芯線1と導電体2とは先端部で接続され、かつ選択された少なくとも一つの導電体2の基端部と芯線1の基端部とが電源要素4を介して接続されうるガイドワイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の必要部位にカテーテルを導入するために用いられるガイドワイヤに関し、具体的には、基端部における操作によって先端部を屈曲させることにより、カテーテルの導入をスムーズに行いうるガイドワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
超選択的血管造影、経皮的血管形成術(PTA)、動脈塞栓術(TAE)あるいは経皮経管的冠状動脈形成術(PTCA)などの医療行為において用いられるカテーテルの人体内への導入に際しては、カテーテルをガイドしうるガイドワイヤが用いられている。ガイドワイヤは、該ガイドワイヤを血管内に挿入した後、これを軸としてカテーテルをガイドワイヤの外周に配置し、ガイドワイヤに沿ってカテーテルを挿入する経皮的カテーテル法(セルジンガー法)において使用される。
【0003】
カテーテルが挿入される血管は複雑に入り組んでおり、さらに幾多にも分岐している上に、毛細血管などの非常に細い血管もある。そのため、ガイドワイヤは目的部位まで挿入されるために、基端部を押したり引いたりする操作を繰り返され、時には回転されながら徐々に挿入されるが、このような挿入操作は非常に困難である。
【0004】
そこで、ガイドワイヤが血管内への挿入にあたり、血管の分岐点において方向性を持つよう、予め先端がJ字状またはアングル形状に屈曲しているものや、使用前に任意の形状に屈曲可能な先端を有するもの等が開発されている。しかし、このように予め決まった形状を有するガイドワイヤは、血管内の様々な形状に対応するものではないため、挿入操作を多少は行いやすくするものであっても、根本的に操作性が改良されたものではない。
【0005】
このような操作性に関する問題点を改良するものとして、血管の分岐点にさしかかった時に、所望の血管へ挿入しやすいように先端部を任意の角度に屈曲しうるガイドワイヤが提案されている。具体的には、形状記憶材料からなり、通電加熱することにより任意の角度に屈曲しうるガイドワイヤ(例えば、特許文献1参照。)や、イオン交換樹脂からなり、電位差を与えることにより任意の角度に屈曲しうるガイドワイヤ(例えば、特許文献2参照。)が開発されている。
【0006】
しかし、形状記憶材料を通電加熱して屈曲させるガイドワイヤは、屈曲角度の制御が困難であり、かつ、屈曲操作を繰り返す場合のガイドワイヤの反応性が十分に優れたものではなかった。また、イオン交換樹脂に電位差を与えて屈曲させるガイドワイヤは、イオン交換樹脂を含水状態で保持する必要があり、そのための水供給路や水不透過性材料による被覆のためにガイドワイヤ自体が大きなものとなり、細径化が望まれるガイドワイヤとしては好ましくない。
【0007】
【特許文献1】特許第2923308号公報
【特許文献2】特開平8−266636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、操作性に優れたガイドワイヤであって、屈曲角度の制御および屈曲操作を繰り返す場合のガイドワイヤの反応性が改良され、構造が簡単で細径化が可能なガイドワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、気体中でも電気刺激により屈曲等の変形を行いうるピロール系高分子からなる導電体をガイドワイヤの先端部に設け、該導電体と芯線と電源要素とが電気的に接続される閉回路を形成しうる構造とすることにより、上記課題を解決しうるガイドワイヤを提供できることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1) 金属製の芯線と、該芯線の外側に配置された導電体と、該芯線と該導電体とを覆うように設けられた可撓性部材とを有するガイドワイヤであって、
前記導電体は少なくとも50モル%のピロール単位を有するピロール系高分子からなり、
前記芯線と導電体とは先端部で接続され、かつ導電体の基端部と芯線の基端部とが電源要素を介して接続されうるガイドワイヤ、
(2) 金属製の芯線と、該芯線の外側に配置された少なくとも二つの導電体と、該芯線と該導電体とを覆うように設けられた可撓性部材とを有するガイドワイヤであって、
前記導電体は少なくとも50モル%のピロール単位を有するピロール系高分子からなり、
前記芯線と導電体とは先端部で接続され、かつ選択された少なくとも一つの導電体の基端部と芯線の基端部とが電源要素を介して接続されうるガイドワイヤ、
(3) 前記導電体は、前記芯線の外側に等間隔に配置されてなることを特徴とする(2)記載のガイドワイヤ、
(4) 前記導電体は、少なくとも50モル%のピロール単位を有するピロール系高分子からなるフィルムまたは繊維である(1)〜(3)のいずれかに記載のガイドワイヤ、
(5) 前記導電体は、ガイドワイヤの長手方向に延びる10〜250mmの長さを有するフィルムまたは繊維である(1)〜(4)のいずれかに記載のガイドワイヤ、
(6) 前記フィルムまたは繊維である導電体は、電気刺激による分子の吸脱着によって、気体中で伸縮しうるものである(4)または(5)記載のガイドワイヤ、
(7) 前記電源要素は、電気刺激を与える少なくとも一つの導電体を選択して電源要素に接続しうる制御部を備えてなる(1)〜(6)のいずれかに記載のガイドワイヤ、
(8) 前記芯線および導電体は、基端部に電源要素に接続するための導線が接続されてなる(1)〜(7)のいずれかに記載のガイドワイヤ、
(9) 前記芯線は、前記導電体および電源要素につながる導線との接続部位を除いて絶縁処理されてなる(8)に記載のガイドワイヤ、
(10) 前記導電体は、前記芯線および電源要素につながる導線との接続部位を除いて絶縁処理されてなる(8)に記載のガイドワイヤ、
(11) 前記可撓性部材は、金属製のコイルスプリングである(1)〜(10)のいずれかに記載のガイドワイヤ、
(12) 前記可撓性部材は、樹脂製の円筒部材である(1)〜(11)のいずれかに記載のガイドワイヤ、
(13) 金属製の芯線と、該芯線の外側に配置された少なくとも50モル%のピロール単位を有するピロール系高分子からなる導電体と、該芯線と該導電体とを覆うように設けられた可撓性部材とを有するガイドワイヤにおいて、
該芯線と該導電体とが先端が開放された可撓性部材の内腔に挿入され、該芯線の先端部と該導電体の先端部が電気的に接続された後、該可撓性部材の先端部が閉鎖され、該芯線の基端部と該導電体の基端部がそれぞれ導線を介して電源要素に接続されることによるものであるガイドワイヤの製造方法、
(14) 前記電源要素は、電気刺激を与える少なくとも一つの導電体を選択して、電源要素に接続しうる制御部を備えてなる(13)記載のガイドワイヤの製造方法、
(15) 前記芯線または前記導電体には、前記先端が開放された可撓性部材の内腔に挿入される前に絶縁処理が施されてなる(13)記載のガイドワイヤの製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のガイドワイヤは、電気刺激により屈曲しうる材料で形成された導電体を先端部に設けたものであるため、血管内分岐点において、所望の血管に向けて方向および角度の微調整が可能であり、従来に比べて挿入操作が非常に容易である。前記ガイドワイヤは、電気刺激に対する可逆反応性に優れたピロール系高分子を使用したことにより、屈曲角度の制御および屈曲操作を繰り返す際のガイドワイヤの反応性が改良される。
また、本発明で用いられる導電体は、気体中でも電気刺激を受けて屈曲しうるため、導電体の含水状態を保持する必要がなく、また水供給路や水不透過性材料による被覆などを必要としないため、構造が簡単で、ガイドワイヤの細径化が可能である。
さらに、本発明のガイドワイヤは、導電体と閉回路を形成しうる金属製の芯線を用いることにより、導電体に電気刺激を与えることが可能になるだけでなく、ガイドワイヤの強度も上がるため、より操作性のよいガイドワイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を用いて本発明の好ましい実施態様を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1は、本発明のガイドワイヤの一実施例を示す縦断面図であり、図3は、本発明のガイドワイヤの他の実施例を示す縦断面図である。また、図5および図6は本発明のガイドワイヤの他の実施例を示す横断面図である。
本発明におけるガイドワイヤは、例えば図1に示されるように、芯線1と、該芯線1の外側に設けられた導電体2と、該芯線1と導電体2とを覆うように設けられた可撓性部材3と、該芯線1および導電体2が電気的に接続される電源要素4とを有してなる。
【0013】
前記芯線1は、導電性および剛性を有する線状部材であり、ニッケルチタン合金やステンレスからなる金属製弾性材料で形成される。該芯線1の横断面は、円形、正方形あるいは長方形であり、その最大外径は、好ましくは0.1〜1.0mmであり、より好ましくは0.2〜0.7mmである。該芯線1の最大外径が0.1mmよりも小さいと剛性が不足するおそれがある。また該芯線の最大外径が1.0mmよりも大きいと、ガイドワイヤ自体の径が大きくなったり、またガイドワイヤの径を小さい状態に保とうとすると芯線1と導電体2とが近接しすぎて導電体2の動きが妨げられるおそれがある。また該芯線1の長さは、ガイドワイヤが体内に挿入される時に目的部位に達するために必要な長さであって、具体的には700〜1,500mm程度である。
【0014】
前記芯線1は、導電体2に追従して円滑に屈曲しうるように、先端部が先端に向かって径が減少するテーパー形状に成形されたものであってもよい。該テーパー形状は、芯線1の先端部15〜100mmの範囲に形成されていることが好ましい。前記芯線1は、先端部がテーパー形状部と同一径の円筒部との組み合わせによるものであってもよい。例えば、該芯線1の先端部として、テーパー形状部の先端側に同一径の円筒部が設けられた形状があげられる。
【0015】
前記導電体2は、該芯線1の外側に配置される。該導電体2と該芯線1とは直接接することのないように配置される。該導電体2は該芯線1と同様に細長い形状を有しており、該芯線1の外側に該芯線1の中心軸に平行に配置される。
【0016】
本発明で用いられる導電体2は、少なくとも50モル%のピロール単位を有するピロール系高分子からなることを特徴とする。このようなピロール系高分子は、ピロールまたはピロール基を有する化合物をモノマーとして重合して得られた高分子化合物であり、その構造および製造方法については、特許第3131180号などに記載されている。具体的には、本発明で用いられるピロール系高分子は、モノマーとしてピロールや3−アルキルピロール、3,4−ジアルキルピロール、N−アルキルピロール、N−アルキル−3−アルキルピロール、3−カルボキシピロール等を重合して得られたピロール系高分子、あるいはこれらのモノマーと他のモノマーとを重合して得られた共重合体等である。
【0017】
前記導電体2は、このようなピロール系高分子からなるフィルムまたは繊維である。該導電体2は、電気刺激による分子の吸脱着によって、気体中で伸縮しうる。すなわち該導電体2は、電気刺激を加えると該フィルムまたは繊維が吸着していた水分子を脱離して収縮し、電気刺激を加えるのをやめると再び気体中の水分子を吸着して、即座に元の状態に伸張する。このような導電体2は、気体中の水分子を利用するものであるため、導電体の含水状態を保持する必要がなく、また水供給路や水不透過性材料による被覆などを必要としない。
【0018】
前記導電体2のフィルムまたは繊維の収縮率は、印可される電圧によっても変化する。したがって、前記導電体2をガイドワイヤの先端部に設け、任意の電圧を負荷することにより、ガイドワイヤの所望の角度の屈曲が可能となる。該ピロール系高分子は電気刺激に対する可逆反応性がよいため、該ピロール系高分子を導電体2として用いた本発明のガイドワイヤは、屈曲角度の制御および屈曲操作を繰り返す際のガイドワイヤの反応性に優れたものとなる。
【0019】
前記ピロール系高分子からなるフィルムは、電気化学的重合法(電解重合法)などの公知の合成方法により、重合と同時にフィルム状に合成された後、所定の幅に切断されて得られる。また前記ピロール系高分子からなる繊維は、該フィルムを所定の幅に押し切って得られる糸状のものを、複数本用いて紡糸することによって得られる。
該フィルムは、厚さが0.001〜0.3mmで幅が0.1〜0.5mmであることが、ガイドワイヤの製造が容易で、かつ、ガイドワイヤの機能性を損なわず好ましい。該繊維もまた、フィルムと同様の理由で、直径が0.001〜0.3mmで断面積が0.002〜0.100mmであることが好ましい。
また、前記導電体2の長さは、ガイドワイヤを操作する上で先端を屈曲させるために必要な長さであることが好ましく、具体的には10〜250mm程度である。
【0020】
前記芯線1および前記導電体2の基端部には、後述する電源要素4に電気的に接続されるための導線11、21が接続される。該導線11、21は、直径が0.05〜0.20mmの金、銅、ステンレスなどの金属製材料からなる線状部材である。前記芯線1と導線11および導電体2と導線21との接続は、溶着、溶接、はんだ付けなどにより行われる。該導線11、12は、予め絶縁処理が施されたエナメル導線等の絶縁導線であることがより好ましい。
【0021】
本発明のガイドワイヤは、前記芯線1と導電体2とを覆うように可撓性部材3が設けられる。該可撓性部材3は、ニッケルチタン合金やステンレスなどの金属製材料、またはポリウレタンやナイロンなどの樹脂性材料から形成された円筒部材である。該可撓性部材が金属製材料からなる場合、可撓性を向上させるためにコイルスプリング形状を有していてもよい。
ガイドワイヤは細径化が望まれるものであるため、該可撓性部材3の内腔31は、該芯線1および導電体2を収容しうる最小限の断面積を有していることが好ましい。また、該可撓性部材3の厚みは、ガイドワイヤ使用時に破損するおそれのない厚みであって、好ましくは0.05〜0.20mmである。
【0022】
前記可撓性部材3の内腔31には、該導電体2の伸縮に必要な水分子の吸脱着を行いうるよう、気体が充填されている。該気体中の水分量は特に限定されず、該導電体2の用途が伸縮が少なくてよいものである場合には、水分量は非常に少なくても十分に作用する。また、該導電体2を被覆する可撓性部材3の内腔31がある程度密閉された空間であれば、該導電体2は自身が脱離した水分子を吸着することで伸縮を繰り返すことができるため、該内腔31に充填される気体は湿度が0%の気体であってもよい。
【0023】
該可撓性部材3の先端部は、内腔を外部から遮断するべく閉鎖されているが、その形状は平坦であっても、球状であってもよく、あるいは球形の別部材を溶融接着により固定したものであってもよい。また、先端部の引っ張り強度を向上させるために、芯線1に接続されるリボンと呼ばれる板状のステンレス製部材が該先端部に固定されていてもよい。
【0024】
前記芯線1の先端部と前記導電体2の先端部とは、電気的に接続されてなる。この接続方法としては、導電性接着剤による接着やはんだ付けの他、前記可撓性部材3の先端部によって該芯線1の先端部と該導電体2の先端部が接触した状態で固定されるものであってもよい。
【0025】
前記芯線1の基端部と前記導電体2の基端部とは、可撓性部材3の基端部で電源要素4を介して電気的に接続される。該電源要素4とは、ガイドワイヤの先端部を屈曲させるために該導電体2に電気刺激を与えるためのものである。本発明における電源要素4としては、直流波、交流波、三角波、矩形波などの電気刺激を、1〜40Vで発するものが用いられる。
前記芯線1は、基端部に接続された導線11と電源要素4とが溶接、ろう付けまたははんだ付けされることによって、電源要素4に電気的に接続される。前記導電体2もまた、基端部に接続された導線12と電源要素4とが、導線11の場合と同様の方法によって電気的に接続される。
【0026】
さらに、本発明のガイドワイヤは、前記導電体2と電源要素4との間に、必要に応じて電源要素4によって電気刺激を与える少なくとも一つの導電体2を選択し、選択された導電体2と該電源要素4とを電気的に接続しうる制御部5を備えてなる。前記ガイドワイヤは、電気刺激を与えられた導電体2が収縮することにより、該導電体2が配置される方向に屈曲する。したがって、屈曲させたい方向に配置される導電体2を選択して電気刺激を与えることにより、ガイドワイヤ先端部の操縦操作が行える。
【0027】
すなわち、予め先端が一方向に曲げられたガイドワイヤに、前記導電体2を伸縮によりガイドワイヤが逆方向に曲がるように設け、必要に応じて該導電体2に電気刺激を与えれば、二方向への屈曲が可能なガイドワイヤを得ることができる。該導電体2が二つ設けられたガイドワイヤの場合もまた、いずれか一方の導電体2を選択して電気刺激を与えることで、二方向への屈曲が可能である。
また、前記導電体2を三つ以上配置することにより、ガイドワイヤを複数の方向へ屈曲することも可能となる。つまり、該導電体2が三つ設けられたガイドワイヤの場合、まず、いずれか一つの導電体2を選択して電気刺激を与えることで、3方向への屈曲が可能である。そして、いずれか二つの導電体2を選択して電気刺激を与えることにより、二つの導電体2の中間点の方向に屈曲させることができるため、屈曲可能な方向は6つになる。
【0028】
このように、ガイドワイヤ先端部の屈曲は、導電体2の数が多いほど方向性が向上する。また、導電体2が二つ以上配置される場合は、それぞれが芯線1の外側に等間隔に設けられることが、操縦性がより優れたものとなって好ましい。しかし、導電体2の数が増えれば、それだけガイドワイヤ自体の径が大きくなるため、該導電体2の数は、ガイドワイヤの細径化と用途を考慮して適宜設定することができる。
【0029】
前記制御部5としては、前記導電体2の数が一つの場合は、単に接続状態と非接続状態とを切り替えうるボタンスイッチやスライドスイッチ、ロッカスイッチ等が用いられる。また、前記導電体2の数が二つの場合は、いずれか一方の接続状態と非接続状態とを切り替えうるスライドスイッチやロッカスイッチが、制御部5として用いられる。さらに、前記導電体2の数が三つ以上の場合は、選択された少なくとも一つの導電体の接続状態と非接続状態とを切り替えうる十字キーやアナログスティックなどが、制御部5として用いられる。
【0030】
本発明のガイドワイヤは、芯線1と導電体2が、接続部位である先端部と基端部を除いて絶縁処理されていてもよい。
例えば、図3および図4に示されるように、前記芯線1に、先端部における導電体2との接続部位と、基端部における導線11との接続部位を除いて絶縁処理を行うことができる。該絶縁処理とは、該芯線1の外周面をフッ素樹脂やシリコーン、ポリイミドなどの絶縁性材料によって被覆することや、空気中で熱処理して表面を酸化させることなどがあげられる。該芯線1の外周面の絶縁被覆12は、図4に示されるように芯線1の外周面全体にわたってなされるものであってもよいし、導電体2に隣接する部分にのみ設けられていてもよい。
【0031】
あるいは、図5に示されるように、前記導電体2に、先端部における芯線1との接続部位と、基端部における導線12との接続部位を除いて絶縁処理を行うことができる。該絶縁処理は、芯線1の外周面に設けられるものと同様のものであり、導電体2の外周面全体にわたってなされるものであってもよいし、図5に示されるように芯線1に隣接する部分にのみ設けられる絶縁被覆22であってもよい。
【0032】
このような絶縁性材料による絶縁被覆を該芯線1または導電体2の外表面に固定する方法としては、該絶縁性材料を含む溶液を前記芯線1または導電体2の外表面に塗布した後、乾燥させ、また必要に応じて焼き付けする方法や、該絶縁材料で形成されたチューブを該芯線1または導電体2の外表面にかぶせて固定する方法などがあげられる。
さらに、図6に示されるように、可撓性部材3の内腔が複数のルーメンに区画されてなり、各ルーメンに芯線1および導電体2を配置するものであれば、該ルーメンを区画する壁32が絶縁被膜の代わりとなるため、前記絶縁処理を行う必要なく、容易に芯線1と導電体2を接続部位を除いて絶縁状態に配置することができる。
【0033】
本発明のガイドワイヤは、血管内に挿入する際の摺動抵抗を減少させるために、可撓性部材3の外表面が親水性高分子等の潤滑剤でコーティングされていてもよい。該親水性高分子としては、無水マレイン酸−メチルビニルエーテル共重合体やポリビニルピロリドンなどがあげられる。
また、該ガイドワイヤは、X線造影性を付与するために、可撓性部材3を構成する材料中に、X線不透過性を有する硫酸バリウムや次炭酸ビスマスなどの造影剤が混合されていてもよい。
さらに、該ガイドワイヤは、抗凝固性を得るために、ヘパリンなどの抗凝固剤を含む物質や、ポリメトキシエチルメタクリレートやメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンなどの抗血栓性材料など、体内に挿入される医療用器具に必要とされる物質を含む材料により、該可撓性部材3の外表面がコーティングされていてもよい。
【0034】
次に、本発明のガイドワイヤの製造方法について説明する。
まず、導電体2であるピロール系高分子のフィルムが前述の方法により作製される。該導電体2としてピロール系高分子の繊維を用いる場合は、該フィルムを所定の幅に押し切って得られる糸状のものを、複数本用いて紡糸することにより得られる。該導電体2の基端部には、導線21が接続される。同様に、芯線1の基端部にも導線11が接続される。
【0035】
次に、芯線1または導電体2の外表面に絶縁処理が施された後、先端が開放された可撓性部材3の内腔に挿入される。図6に示されるように、可撓性部材3の内腔が壁32によって複数のルーメンに区画されている場合は、絶縁処理は必要なく、該芯線1および導電体2はそれぞれ該可撓性部材3の所定のルーメンに挿入される。
【0036】
該可撓性部材3に挿入された該芯線1および該導電体2は、いったん該可撓性部材3の先端から外部に突出せしめられ、前述の方法により電気的に接続される。ついで、接続された芯線1および導電体2を可撓性部材3の内腔に引き戻し、該可撓性部材3の先端部は半球状の部材などを固着することにより閉鎖される。該芯線1の先端部と導電体2の先端部が該可撓性部材3の先端部によって接触した状態で固定される場合は、該可撓性部材3の先端から外部に突出させる工程は必要ない。
【0037】
その後、前記可撓性部材3は、親水性高分子などによって必要な性能を付与するべく、外周面にコーティングが施される。次いで、前記可撓性部材3内に挿入された芯線1の基端部に接続された導線11と、導電体2の基端部に接続された導線12とは、予め制御部5が設けられた電源要素4に電気的に接続され、本発明のガイドワイヤが完成する。
本発明のガイドワイヤは、以上の工程により得られるものであるため、従来のガイドワイヤに比べて部品点数が少なく、より細径のガイドワイヤを得ることができる。
【0038】
次に、本発明のガイドワイヤの使用方法を、導電体2が二つ以上設けられたガイドワイヤについて説明する。
使用前の状態では、導電体2の基端部は電源要素4と接続されておらず、導電体2は伸縮していない状態を維持しているため、ガイドワイヤは直線状である。該ガイドワイヤが血管内に挿入され、先端部を屈曲させる必要が生じたとき、該制御部5によってガイドワイヤを所望の方向に屈曲させるために必要な少なくとも一つの導電体2を選択し、該導電体2の基端部と電源要素4とを接続する。この状態で、該導電体2は、芯線1と導線11、電源要素4、導線12によって閉回路を形成している。電源要素4により直流波などが発せられると、該導電体2が電気刺激を受けて収縮し、ガイドワイヤは屈曲する。該屈曲の方向は、電気刺激を与える導電体2の位置および導電体2の数によって決定され、該屈曲の度合いは、電源要素4によって与えられる電気刺激の強さによって決定される。該制御部5は、電源要素4によって与えられる電気刺激の強さも制御できるものであってもよい。
【0039】
なお、電源要素4によって電気刺激を発することを停止するか、制御部5によって導電体2の基端部と電源要素4とを非接続状態にすることにより、導電体2に電気刺激が付与されなくなると、該導電体2は収縮していないもとの状態に戻るため、前記ガイドワイヤもまた屈曲していない直線状にもどる。
このように、前記ガイドワイヤは電気刺激の有無によってガイドワイヤの屈曲を制御することができるため、挿入操作が非常に容易である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明のガイドワイヤの一実施例を示す縦断面図である。
【図2】図1に示されるガイドワイヤのX−X線断面図である。
【図3】本発明のガイドワイヤの他の実施例を示す縦断面図である。
【図4】図3に示されるガイドワイヤのY−Y線断面図である。
【図5】本発明のガイドワイヤの他の実施例を示す横断面図である。
【図6】本発明のガイドワイヤの他の実施例を示す横断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 芯線
11 導線
12 絶縁被覆
2 導電体
21 導線
22 絶縁被覆
3 可撓性部材
31 内腔
32 壁
4 電源要素
5 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の芯線と、該芯線の外側に配置された導電体と、該芯線と該導電体とを覆うように設けられた可撓性部材とを有するガイドワイヤであって、
前記導電体は少なくとも50モル%のピロール単位を有するピロール系高分子からなり、
前記芯線と導電体とは先端部で接続され、かつ導電体の基端部と芯線の基端部とが電源要素を介して接続されうるガイドワイヤ。
【請求項2】
金属製の芯線と、該芯線の外側に配置された少なくとも二つの導電体と、該芯線と該導電体とを覆うように設けられた可撓性部材とを有するガイドワイヤであって、
前記導電体は少なくとも50モル%のピロール単位を有するピロール系高分子からなり、
前記芯線と導電体とは先端部で接続され、かつ選択された少なくとも一つの導電体の基端部と芯線の基端部とが電源要素を介して接続されうるガイドワイヤ。
【請求項3】
前記導電体は、前記芯線の外側に等間隔に配置されてなることを特徴とする請求項2記載のガイドワイヤ。
【請求項4】
前記導電体は、少なくとも50モル%のピロール単位を有するピロール系高分子からなるフィルムまたは繊維である請求項1〜3のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【請求項5】
前記導電体は、ガイドワイヤの長手方向に延びる10〜250mmの長さを有するフィルムまたは繊維である請求項1〜4のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【請求項6】
前記フィルムまたは繊維である導電体は、電気刺激による分子の吸脱着によって、気体中で伸縮しうるものである請求項4または5記載のガイドワイヤ。
【請求項7】
前記電源要素は、電気刺激を与える少なくとも一つの導電体を選択して電源要素に接続しうる制御部を備えてなる請求項1〜6のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【請求項8】
前記芯線および導電体は、基端部に電源要素に接続するための導線が接続されてなる請求項1〜7のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【請求項9】
前記芯線は、前記導電体および電源要素につながる導線との接続部位を除いて絶縁処理されてなる請求項8に記載のガイドワイヤ。
【請求項10】
前記導電体は、前記芯線および電源要素につながる導線との接続部位を除いて絶縁処理されてなる請求項8に記載のガイドワイヤ。
【請求項11】
前記可撓性部材は、金属製のコイルスプリングである請求項1〜10のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【請求項12】
前記可撓性部材は、樹脂製の円筒部材である請求項1〜11のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【請求項13】
金属製の芯線と、該芯線の外側に配置された少なくとも50モル%のピロール単位を有するピロール系高分子からなる導電体と、該芯線と該導電体とを覆うように設けられた可撓性部材とを有するガイドワイヤにおいて、
該芯線と該導電体とが先端が開放された可撓性部材の内腔に挿入され、該芯線の先端部と該導電体の先端部が電気的に接続された後、該可撓性部材の先端部が閉鎖され、該芯線の基端部と該導電体の基端部がそれぞれ導線を介して電源要素に接続されることによるものであるガイドワイヤの製造方法。
【請求項14】
前記電源要素は、電気刺激を与える少なくとも一つの導電体を選択して、電源要素に接続しうる制御部を備えてなる請求項13記載のガイドワイヤの製造方法。
【請求項15】
前記芯線または前記導電体には、前記先端が開放された可撓性部材の内腔に挿入される前に絶縁処理が施されてなる請求項13記載のガイドワイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−334198(P2006−334198A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163726(P2005−163726)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(800000079)株式会社山梨ティー・エル・オー (11)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【出願人】(000000147)伊藤忠商事株式会社 (43)
【Fターム(参考)】