説明

ガスクラスタイオンビーム処理システム及び方法

ガスクラスタイオンビーム処理のためのシステム(350)と方法は改良ビームと対象物中和機器(122)を利用することで達成される。大きなGCIB電流運搬はGCIBの空間荷電の低エネルギー電子中和によって提供される。電流が大きくなるほどGCIBのガス量は増大する。高ガス運搬量にも拘わらず通気型ファラデーカップビーム測定システム(302)はビーム量測定精度を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は対象物の表面を処理するための増電流ガスクラスタイオンビーム(GCIB)の形成並びに利用に関し、特にはGCIBの空間荷電現象の低減、対象物荷電の低減並びにをGCIB電流と照射量の測定精度の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物の表面処理のためのGCIBの利用は知られている(例えば、米国特許5814194;デグチ他)。ガスクラスタとは標準温度と圧力下で気体形態である物質のナノサイズ集合体のことである。そのようなクラスタは典型的には緩く結束した数個から数千個の分子で成る集合体で構成されている。クラスタは電子衝撃等によってイオン化でき、制御可能なエネルギーを有した方向性ビームに形成できる。そのようなイオンは典型的には正電荷のqXe(eは電荷であり、qは1以上の整数)を運搬する。大型クラスタはしばしば最も有効である。なぜなら、クラスタイオン単位で多量のエネルギーを運搬できるが分子あたりのエネルギーを抑えることができるからである。クラスタは衝撃時に分解し、個々の分子は全クラスタエネルギーのほんの一部を有するだけである。その結果、大型クラスタの衝撃効果は大きいが、非常に浅い表面領域のみに影響は限定される。この特徴でイオンクラスタは様々な表面改質処理に有効利用でき、従来のモノマーイオンビーム処理と比して表面への損傷を抑えることができる。
【0003】
GCIBの加速手段は米国特許5814194で解説されている。現在利用が可能なイオンクラスタ源は多彩なサイズNを有したクラスタイオンを発生させる(Nは各クラスタの分子数;アルゴン等の単原子ガスの場合には、単原子ガスは分子として扱い、そのような単原子ガスのイオン化原子は分子イオンあるいは単にモノマーイオンとして扱う)。
【0004】
多くの有益な表面処理効果はGCIBで表面を衝撃処理することで達成できる。これら処理には表面のスムーズ化、エッチング、膜成長等が含まれる。多くの場合、産業的に有効な成果を達成するには、数百から数千μAのGCIB電流が必要であることが知られている。“大イオンビーム”誌(ウィレイ、ニューヨーク、1987年)でA.T.フォレスタが定義したポワザンス(Poissance)が1に接近するときイオンビームにおける空間荷電現象(space charge effect)の発生が予期される。N/q比5000である400μAビームの場合、ポアザンスは正確な作動条件に応じてGCIB加速電圧と共に約0.3程度まで変動する。従って、いくらかの空間荷電ビーム拡大が予測され、観測されるであろう。特に低加速電圧では、低エネルギー電子源を提供することでビームを空間荷電中和化することは高ガスクラスタイオンビーム電流を運搬する能力を高め、ビームのスポットサイズを減少させる。実際的な発生GCIB処理機械のビームラインにおいて、ビームの空間荷電拡大によるビーム損失を最小とするには、ビームラインを実用的に可能な限り短く(50cmまで)することが有益であり、それでも対象物でのビームサイズは比較的に大きい(6cmまで)。従来技術においては、ビーム周辺にて単純な熱イオン電子発生器が使用され、空間荷電中和化電子を提供してきた。さらに高いビーム電流(実用的な従来のGCIB機械では典型的には数百μA程度)を達成するため、GCIB内でさらに効果的な空間荷電中和化を達成することが望まれる。
【0005】
処理能力を高めるために有用なGCIBビーム電流を増大させる別な考察は、対象物がGCIB衝撃の効果によって荷電できるという事実である。これは対象物が半導体基板、磁気メモリセンサーまたは他の感電荷物体であるときに特に重要である。対象物表面電荷中和化はGCIB処理において重要な役割を果たす。磁気メモリスムージング等の利用形態においては、その条件は半導体装置の場合よりもさらに厳しく、最大表面電荷±6ボルト以下が必要である。GCIBと対象物表面に供給される低エネルギー電子は表面荷電制御及びGCIB空間荷電制御を提供するが、種々な条件下で低対象物荷電化電位を達成するには電子は低エネルギーでなければならない。過去においては、充分な空間荷電中和化を達成し、同時的に対象物表面荷電化を充分に低い電位で制御することは実用的ではなかった。単純な熱イオンフィラメント電子源は空間荷電限定ダイオードとして作用し、適量の電子を簡単には放出しない。熱イオンフィラメントの空間荷電領域から電子を引き出すため、空間荷電限定ダイオードの影響を加速化電位を使用して大きく減少させることは可能である。それによって電子電流放出を大きく増加させられるが、電子エネルギー問題が増大し、GCIBが瞬間的に変動したり妨害されるとエネルギー電子によって対象物が負荷電するという不都合なリスクを伴なう。よって、加速された電子源は適当に高い電子電流を提供できるが、対象物を荷電させる高エネルギー電子のリスクは多くの敏感な利用形態での利用を不可能にする。
【0006】
GCIBプロセス制御を目的としてGCIB密度を測定及び制御できることは重要である。このことを達成する1つの便利な方法はGCIB電流を測定することである。伝統的にファラデーカップがイオンビーム電流測定装置として使用され、従来のモノマーイオンビーム分野ではよく知られており、低電流GCIB測定においては成功している。本来的にガスクラスタイオンビームはガスを運搬する。ビーム電流IBを有したアルゴンビームに対してはビーム内のガス流F(SCCM)は次の式で表される。
【0007】
F=2.23x10-18(N/q)(IB/e) (式1)
ビーム電流400μAでN/q比5000のとき、ビームは27SCCMのガス流を運搬する。典型的なGCIB処理機械の場合には、イオナイザーと処理対象物は典型的にはそれぞれ別々のチャンバ内に含まれる。これで基板処理圧力の制御が改善される。しかし、大量ガスを運搬するビームにおける大部分の困難性はビーム電流測定に関して起きる。クラスタビームがファラデーカップの内側に照射されるとき全ガスが放出される。ファラデーカップ内でのビームによる電荷交換とガスイオン化は極端となり、従来型ファラデーカップでは大きな測定誤差が起きる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の1目的は低電子エネルギーを有しているが大きな中和電子電流を提供できる中和装置の提供である。
【0009】
本発明の別目的は高電流GCIBの効果的な空間荷電中和法の提供である。
【0010】
本発明のさらに別目的はGCIBでの処理対象物の表面荷電を制限する改良方法の提供である。
【0011】
本発明の別目的は高ガス運搬量を有したビーム内のビーム電流測定用改良ファラデーカップの提供である。
【0012】
本発明のさらに別な目的は大量ガスを運搬するGCIBのガスクラスタイオンビーム電流の正確な測定法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の前述の目的並びに他の目的及び利点は以下で解説する実施例によって達成される。
【0014】
改良型GCIB中和装置はGCIB軸周囲に配列された熱イオンフィラメント構造を含んでいる。筒状メッシュ加速電極は熱イオン電子をフィラメントから導き出し、GCIB軸に方向付けし、空間荷電限定ダイオード効果に打ち克たせる。別の筒状メッシュ減速電極は加速された電子を減速させ、非常に低いエネルギーを有した状態でGCIB内に進入させる。この加速/減速電子源は多量の電子放出を提供し、非常に低いエネルギーの空間荷電中和化電子を運搬する。従って、高GCIB電流を対象物に送る能力を規制するようなビーム拡大問題を含んだGCIB空間荷電現象を減少させるのにその電子は特に有効である。さらに、低エネルギー電子は、対象物で発生するような電荷を中和させるのに対象物にまでビーム電位井戸(potential-well)により運搬される。多量の電子が利用できるため、ビームによる荷電は最低限となる。その加速/減速発生によって電子は非常に低いエネルギーを有するため、電子はビームが瞬間的に変動しても対象物を過剰に負状態に荷電することはない。よって、正及び負の対象物荷電は数ボルト以内に限定される。GCIB内の効果的な空間荷電中和化はさらに大きなGCIB電流を運搬させる。大きなGCIB電流は対象物及びビーム電流測定装置へのガスクラスタ量を増加させる。
【0015】
ビーム電流測定装置内で放出される大量ガスによるビーム電流測定精度への障害を回避するため、改良ファラデーカップが利用される。改良ファラデーカップはシステムの真空ポンプシステムによってビームが運搬するガスを効果的に除去するように通気されている。さらに測定エラーを減少させるように新規なバイアス手段と形状を有している。改良ファラデーカップは筒状であり、ビーム運搬ガスを放出させるように間隔を有して積み重ねられた平坦盤電極で成る。これら平坦盤間の間隔は放射方向の長さよりも短く、抑制電界はそれら間隙を満たす。ビーム衝撃プレートに最も近い抑制リングは測定回路に接続された正端子によってバイアスされる。これらリングは標的プレートからの二次電子を抑制し、同時に電荷交換で発生するイオンを回収する。ビームセンターに抑制を必要とするバイアス電界は数キロボルトのバイアスを必要とするため、浮遊抑制リングセットに衝突する二次イオンは二次電子を発生させることができ、その一部はリング間で逃避する可能性がある。これら電子を回収するために仲介リングセットがファラデーカップ衝撃プレートに接続され、弱い負バイアスがそれら仲介リングに対向する外側リングに加えられる。ガスをファラデーカップから横方向に逃避させるため、衝撃プレートは表面に溝を有する。好適にはこの溝は同心円形溝である。
【0016】
改良ファラデーカップを試験するため、大幅に小型でさらに通常であり、ガスロー充填を制限するように非常に細いスリットを有したファラデーカップが改良ファラデーカップの前方でスキャン処理され、比較測定が行われた。この従来式小型ファラデーカップはガス除去手段を含んでおり、ビームをスキャン処理するときにその信号は集積され、ビームの全電流が決定された。2つのファラデーカップは約2%の範囲で一致した。相違のほとんどは小型ファラデーカップのシステムエラーによるものであった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の理解を助けるため、図面を活用して本発明を解説する。
【0018】
図1は従来技術による典型的なGCIBプロセッサ100の基本要素の概略図である。このプロセッサ100の真空容器102は3つの連通チャンバであるビーム源チャンバ104、イオン化/加速チャンバ106及び処理チャンバ108に分割されている。これら3チャンバはそれぞれ真空ポンプシステム146a、146b及び146cで適当な作動圧に減圧されている。ガス保存シリンダ111に保存された濃縮性ソースガス112(例えばアルゴンまたはN2)はガス測定バルブ113とガス供給チューブ114を介して滞留チャンバ116に圧力下で送られ、適正な形状のノズル110を介して低圧の真空チャンバ内に放出される。超音速ガスジェット118が発生する。ジェット流の膨張による冷却はガスジェット118の一部をクラスタ状に濃縮する。それぞれのクラスタは数個から数千個の弱結合原子または分子で成る。ガススキマー開口部120はクラスタジェットから、クラスタジェットに濃縮されなかったガス分子を部分的に分離し、高圧が不都合な下流領域(例えば、イオナイザ122、高電圧電極126、処理チャンバ108)で圧力を最低状態とする。適当な濃縮性ソースガス112は窒素、二酸化炭素、酸素等である。
【0019】
ガスクラスタを含んだ超音速ガスジェット118が形成された後に、クラスタはイオナイザ122内でイオン化される。イオナイザ122は典型的には電子衝撃型イオナイザであり、白熱フィラメント124から熱電子を発生させ、電子を加速及び指向させてガスジェット118内のガスクラスタと衝突させる。ジェットはイオナイザ122を通過する。電子衝撃によって電子がクラスタから飛び出し、クラスタの一部を正にイオン化させる。適切にバイアスされた高電圧電極126のセットはイオナイザからクラスタイオンを導き出してビームを形成及び加速させ、望むエネルギー(典型的には1KeVから数十KeV)を与え、焦点させてGCIB128を形成させる。フィラメント電源136は電圧VFを与え、イオナイザフィラメント124を加熱する。アノード電源134は電圧VAを与え、フィラメント124から飛び出す熱電子を加速してクラスタ含有ガスジェット118を照射し、イオンを発生させる。導出電源138は電圧VEを提供し、高電圧電極をバイアスしてイオナイザ122のイオン化領域からイオンを導出し、GCIB128を形成する。加速電源140は電圧VACCを提供し、イオナイザ122に関する高電圧電極をバイアスし、全GCIB加速エネルギーをVACC電子ボルト(eV)と等しくする。レンズ電源(142と144等)を提供して電位(VL1とVL2等)の高電圧電極をバイアスし、GCIB128を焦点させる。
【0020】
GCIBで処理される半導体ウェハーまたは他の対象物である対象物152は対象物ホルダ150に保持され、GCIB128の通路内に設置される。ほとんどの適用形態では大型対象物を空間的に均質に処理すことを想定するので、スキャン処理システムは大きな面積で空間的に均質な結果を提供するようにGCIB128を均質にスキャン処理することが望ましい。2対の直交静電スキャンプレート130と132を利用して望む処理面積でラスタや他のスキャン模様を創出することができる。ビームスキャン処理が実施されると、GCIB128はスキャン処理されたGCIB148に変換され、対象物152の全表面をスキャン処理する。
【0021】
図2は従来技術のGCIB処理装置200の基本要素の概略図である。この装置は物理的にスキャンされた対象物152を備えた固定ビームを有しており、ビーム測定のための従来型ファラデーカップ及び従来型イオン中和装置を有している。GCIB構造は図1で示すもののと類似するが、図2の機械的にスキャン処理するGCIBプロセッサ200においてはGCIB128は固定され(非スキャン処理)、対象物152はGCIB128で機械的にスキャン処理され、対象物152の表面にGCIB128の効果を提供する。
【0022】
Xスキャン処理アクチュエータ202はXスキャン処理モーション208方向(紙に垂直)に対象物ホルダー150を直線的に移動させる。Yスキャン処理アクチュエータ204はYスキャン処理モーション210方向に対象物ホルダー150の直線移動を提供する。典型的にはこの方向はXスキャン処理モーション208に直交する。Xスキャン処理モーションとYスキャン処理モーションの組み合わせは対象物ホルダー150で保持された対象物152をGCIB128を通じて類ラスタースキャン処理モーションで移動させ、対象物152の均質処理のためにGCIB128で対象物152の表面を均質照射する。対象物ホルダー150は対象物152をGCIB128の軸に対して傾斜保持し、GCIB128に対象物152の表面に対して有角のビーム入射角206を付与する。ビーム入射角206は90°等であるが、典型的には90°から90°近辺の角度である。Yスキャン処理中に、対象物ホルダー150で保持された対象物152は図示の位置から152A及150Aで示された交互位置“A”へそれぞれ移動する。これら2位置間での移動中に対象物152はGCIB128によって両端位置にてスキャン処理され、GCIB128の通路から完全に出る(オーバースキャン処理)。図2では明確には図示されていないが、同様なスキャン処理とオーバスキャン処理が(典型的には)直交Xスキャン処理モーション208方向で実行される(紙に垂直)。
【0023】
ビーム電流センサー222はGCIB128の通路の対象物ホルダー150を越えて設置され、対象物ホルダー150がGCIB128の通路を外れてスキャン処理されるときGCIB128のサンプルをインターセプトさせる。ビーム電流センサー222は典型的にはファラデーカップ等であり、ビーム入口以外は閉鎖されており、電気絶縁マウント212で真空容器102の壁に固定されている。
【0024】
マイコンベースのコントローラ等であるコントローラ220はXスキャン処理アクチュエータ202とYスキャン処理アクチュエータ204にケーブル216を介して接続しており、Xスキャン処理アクチュエータ202とYスキャン処理アクチュエータ204を制御し、対象物152をGCIB128内外に出入させ、対象物152をGCIB128に対して均質にスキャン処理し、GCIB128による対象物152の均質な処理を達成する。コントローラ220はリード214を介してビーム電流センサー222で回収されたサンプル処理ビーム電流を受領し、GCIBをモニターして所定の望まれる照射量が運搬されたときに対象物152をGCIB128から取り除くことで対象物152で受領されるGCIB照射量を制御する。
【0025】
図3は本発明で提供される改良中和装置270を示す概略図250であり、電源、測定及びデータ通信並びに制御ケーブルを含んだ関連中和電子システム352を示す。改良中和装置270はGCIB128のビーム軸304を包囲するように設置されている。GCIB128は方向306で中和装置を通過する。改良中和装置270は3つの実質的に同心である電極と熱イオンフィラメント構造を含んでいる。図3では改良中和装置270は断面図によって示されている。3本から6本のフィラメントが好適であるが、図3では2本のフラメント252Aと252Bが説明のために提供されている。図4は6本のフィラメントの構成を示す。図3の中和装置電子加速電極254は略筒状であり、導電性メッシュで提供され、好適には90%以上の透明度を有する。中和装置の電子減速電極256は別の導電メッシュ製筒状体であり、好適には90%以上の透明度を有している。中和装置電子反発電極258はさらに別な筒状の導電電極である。電極256、254及び258は実質的に同軸であり、ビーム軸304を中心として提供されている。
【0026】
中和装置電子システム352は中和装置フィラメント電源264を含んでいる。それは中和装置フィラメント電源電圧VNFを提供する。中和装置フィラメント電源264の負端末はケーブル354のリードを介してフィラメント252Aと252B(例)の負端末に接続されている。中和装置フィラメント電源264の正端末はケーブル354のリードを介してフィラメント252Aと252B(例)の正端末並びに中和装置電子減速電極256に接続されている。中和装置フィラメント電源264の正端末はリードを介して中和装置電子反発電極バイアス電源262の正端末と中和装置電子加速電源260の負端末並びに中和装置放射電流トランスジューサ/インディケータ266の端末にも接続されている。中和装置電子反発電極バイアス電源262の負端末はケーブル354のリードを介して中和装置反発電極258に接続されている。中和装置電子加速電源260の正端末はケーブル354のリードを介して中和装置電子加速電極254に接続されている。
【0027】
中和装置フィラメント電源電圧VNFは典型的には数ボルトであり、電子の熱イオン放出のために白熱させるべくフィラメントを過熱するように選択される。フィラメント径は10ボルト以内(好適には6ボルト以内)がフィラメントに提供されるように選択される。よって、VNFは10ボルト以内(好適には6ボルト以内)である。フィラメント252Aと252Bによって放出される電子(”e”)268A、268B及び268C(例示)は中和装置電子加速電極254に引付けられて加速される。電極は電子をフィラメント252Aと252Bを囲む空間荷電雲から電子を引き出し、電子放出井戸を空間荷電限定ダイオード条件を超えて増加させる。中和装置電子加速電極254と中和装置電子減速電極256との間で電子は減速される。中和装置電子減速電極256はフィラメント252Aと252Bの正端末の電位でバイアスされているので、電子は熱エネルギーと、最大VNFである10電子ボルト(好適には6電子ボルト)以内との合算に減速される。VNFが6ボルト以内であるとき、引き出された電子は約6ボルト以上には電子衝撃面を荷電することはない。
【0028】
中和装置電子反発電極バイアス電圧VNRは約120ボルト(例)であり、中和装置電子反発電極258をバイアスし、GCIB128から離れるように発生電子268D(”e”)をGCIB128方向に戻し、加速させ、続いてビーム通路内に減速させる。それはビームを通過し、反対側のグリッドに入り、ビームを通過して再循環されて戻される。
【0029】
中和装置電子加速電源260は中和装置電子加速電圧VNAを提供し、約50から250ボルト(例)である。それは中和装置電子加速電極254をバイアスし、フィラメント252Aと252Bを包囲する空間荷電雲から電子を引き出す。
【0030】
中和装置放出電流トランスジューサ/インディケータ266はフィラメントの全放出電流IEMISを測定する。2本または3本の約10cm長のフィラメントで、低エネルギー電子の数ミリアンペアの放出電流が達成できる。これは少なくとも数百マイクロアンペアのGCIBを効果的に空間荷電中和させるに充分である。中和装置内での軌道巡回後にこれら電子は中和装置シリンダの端部を通過して逃避してビーム電位井戸に沿って移動し、上下流で空間荷電中和化を提供する。下流電流はGCIB処理中の対象物荷電を最小とするのにも利用できる。
【0031】
中和装置電子加速電源260、中和装置電子反発電極バイアス電源262、中和装置フィラメント電源264及び中和装置放出電流トランスジューサ/インディケータ266は全て遠隔操作できる読み取り可能な機器や回路であって、高レベルなシステムコントローラでデータ及びコントロール信号を交信させるものが望ましい。それらはケーブル356の電気接続によってそのような高レベルシステムコントローラに供給される自身のコントロール及びデータ接続を有する。
【0032】
図4は本発明の改良中和装置270の端面の概略図である(GCIB128の移動方向)。この概略図は改良中和装置270の電極が実質的に円筒状であり、同心であることを示す。6本のフィラメント252A、252B、252C、252D、252E及び252Fの場合が図示されている。これらフィラメントは端部図で示されており、典型的にはGCIB128に平行である。改良中和装置270はビームを送る開口部272を有している。他の数のフィラメントでも有効であり、2本から16本が好適である。複数のフィラメントが存在するとき、それらを搭載サークル周辺に等間隔に配置するのが望ましい。
【0033】
図5は本発明の改良ファラデーカップ302と、その電源及び測定電子機器を含んだ関連ファラデーカップ電子システム358の概略図である。この改良ファラデーカップ302は通気型ファラデーカップであり、新規なバイアスを有しており、高ガス負荷をファラデーカップに輸送するGCIB用のビーム電流測定の正確性を確実にする。
【0034】
改良ファラデーカップ302は円筒状であり、実質的にGCIBビーム軸304と同心であり、GCIB運搬ガスを逃避させるために間隔を有して積層された幾つかの平坦ディスクセットで成る。これらディスクは絶縁支持体(図5では図示せず)で適切な位置に維持される。GCIB128は306方向に移動し、開口部320から進入して円形ビーム衝撃プレート308に衝突する。衝撃プレート308は一連の鋸状溝310を有している。それらは好適には円形溝であり、ビーム軸304と同心である。これら溝はGCIB128で衝撃プレート上に提供されたガスの横方向移動を提供する。ビーム衝撃プレート308はケーブル362のリードを介してビーム電流(IB)測定システム330に電気的に接続される。ビーム電流IBは測定システム330を通過して接地される。従来のビーム電流測定システム330は実質的に接地電位にて衝撃プレート308の電位を維持する。
【0035】
ファラデーカップを形成する平坦同心ディスクが構成され、数群にて電気接続される。衝撃プレート308に最も近い抑制リング群312は電位VS1で浮遊(接地状態から隔絶)電源328によりビーム衝撃プレートに対して負にバイアスされる。電源328の正端末はビーム衝撃プレート308に接続される。抑制リング群312はビーム衝撃プレート308からの二次電子を抑制し、同時的にGCIBとファラデーカップのガスとの間の電荷交換で創出された正(陽)イオンを回収する。ビームの中央に向けて抑制するのに必要なバイアス電界は数キロボルトのバイアス(VS1は例えば約3.5kV)を必要とするので、抑制リング群312を照射するイオンは二次電子を発生させるであろう。その一部は抑制リング群312のリング間で逃避することがある。これら電子を回収するため、抑制リング仲介群314がビーム衝撃プレート308に接続される。さらに別な抑制リング群316は電源326が提供する低負バイアスVS2を有する。抑制リング群316は最外側に提供され、抑制リング群312から逃避する二次電子を抑制リング群314に戻す。一般的にこれら二次電子によって必要となる修正は小さく、場合によっては抑制リング群316を接地させることで電源326を排除することも可能である。電源326が使用されるとき、VS2は典型的には約50ボルトである。
【0036】
電源324は電圧VS3を提供し、さらに別な抑制リング群318を数キロボルト(VS3は典型的には約3.5kV)で負にバイアスする。このバイアスでビーム衝撃プレート308からの二次電子がファラデーカップから逃避することが防止され、ファラデーカップの外側の電子が進入することを防止する。開口部320を定義する入口とリング群322は全てケーブル362のリードを介して接地され、抑制リング群318からの電界を終結させる。
【0037】
電源324の負端末はケーブル362のリードを介して抑制リング群318に接続される。電源326の負端末はケーブル362のリードを介して抑制プレート群316に接続する。好適には電源324、326、328及びビーム電流測定システム330は全て遠隔操作できる読み取り可能な機器または回路であり、高レベルのシステムコントローラでデータ及びコントロール信号を交信することができるものである。それらはケーブル360の電気接続によってそのような高レベルシステムコントローラに利用できる自身のコントロール及びデータ接続を有している。
【0038】
図6は本発明の改良GCIB処理システム350の概略図であり、このシステムは改良中和装置270と改良ファラデーカップ302並びに関連電子機器を含んでいる。GCIB構築、機械的スキャン処理及び他の一般的な特徴は図2の従来技術のものと同様である。
【0039】
改良ファラデーカップ302はGCIB128の通路の対象物ホルダー150を越えて配置され、対象物ホルダー150がGCIB128の通路の外側でスキャン処理されるときGCIB128のサンプルをインターセプトする。改良ファラデーカップ302は電気絶縁マウント212によって真空容器102の壁に固定されている。ケーブル362は改良ファラデーカップ302とその関連ファラデーカップ電子システム358との間で電気接続を提供する。
【0040】
コントローラ368はマイコン型コントローラでよく、Xスキャン処理アクチュエータ202とYスキャン処理アクチュエータ204に電気ケーブル216を介して接続され、Xスキャン処理アクチュエータ202とYスキャン処理アクチュエータ204を制御し、対象物152をGCIB128内外に移動させ、対象物152をGCIB128に対して均質にスキャン処理し、GCIB128によって対象物152の均質な処理を達成する。コントローラ368は改良ファラデーカップ302のビーム電流センサーと、電源及び測定電子機器を含んだその関連ファラデーカップ電子システム358で回収されたサンプルビーム電流を受領する。コントローラ368は電流測定データを受領し、制御信号を電気ケーブル360を介してファラデーカップ電子システム358に送る。コントローラ368はGCIBをモニターし、所定の望む照射量が運搬されたときにGCIB128から対象物152を取り去ることで対象物152が受領するGCIB照射量を制御する。
【0041】
コントローラ368は改良中和装置270で提供され、電気ケーブル356の信号を介して中和装置電子システム352で測定される測定中和装置放出電流IEMISを受領する。コントローラ368は電気ケーブル356の信号を介して中和装置電子システム352の電源をも制御し、改良中和装置の操作を制御する。電子(例えば364と366;e)はGCIB128に沿って改良中和装置から逃避して上下流方向に移動し、GCIB空間荷電中和処理を施してビーム運搬を改善し、対象物で得られるビーム電流を増加させる。電子(366等)は下流方向にGCIB128に沿って移動し、対象物へ低エネルギー移動し、低エネルギー中和化電子の大量源(GCIB電流より大のこともある)を提供し、ビーム処理時に対象物荷電を減少または排除する。対象物に移動する電子の実際量は対象物荷電の開始によってビームから電子を静電的に引き付けることで決定される。
【0042】
以上、本発明を種々な実施例を介して解説したが、本発明の精神内でのそれらの様々な改良が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は静電スキャンされたビームを使用する従来技術のGCIB処理装置の基本的要素を示す概略図である。
【図2】図2は対象物を機械的スキャン処理させる固定ビームを使用し、従来式ファラデーカップと熱イオン中和装置を有した従来技術のGCIB処理装置の基本的要素を示す概略図である。
【図3】図3は本発明の改良中和装置とその補助電子システムを示す概略図である。
【図4】図4は(GCIB移動方向に見た)本発明の改良中和装置の概略端面図である。
【図5】図5は本発明の改良ファラデーカップ及びその補助電子機器の概略図である。
【図6】図6は改良中和装置とビーム測定用の改良ファラデーカップを含んだ本発明の改良GCIB処理システムの概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスクラスタイオンビームの空間荷電を少なくとも部分的に中和させる低エネルギー電子源であって、
電子放出用フィラメントと、
該フィラメントをバイアスし、低エネルギー電子放出を促すフィラメント電源と、
該フィラメントから離れる方向で、軸を有したガスクラスタイオンビーム方向に向けて該電子を加速させ、該ガスクラスタイオンビームの空間荷電に対して中和作用を及ぼす陽(正)電極と、
該フィラメントに対して該陽電極をバイアスする加速電源と、
前記加速電子を減速させる減速電極と、
前記フィラメントに対して該減速電極をバイアスする手段と、
を含んで構成されていることを特徴とする電子源。
【請求項2】
減速電極は円筒状であって、ガスクラスタイオンビーム軸と同軸であり、陽電極とガスクラスタイオンビームとの間に提供されており、該陽電極は円筒状であって、該ガスクラスタイオンビーム軸と同軸であり、フィラメントとガスクラスタビームとの間に提供されていることを特徴とする請求項1記載の電子源。
【請求項3】
減速電極はガスクラスタイオンビームを通過させる開口部を含んでいることを特徴とする請求項2記載の電子源。
【請求項4】
ガスクラスタイオンビーム軸と同軸である円筒状電子反発電極と、
フィラメントに対して該電子反発電極をバイアスさせる電源と、
をさらに含んでおり、該フィラメントは該電子反発電極と加速電極との間に提供されており、該電子反発電極は該加速電極に向けて電子を反発させるべくバイアスされていることを特徴とする請求項2記載の電子源。
【請求項5】
バイアスする手段はフィラメントの1端部に減速電極を直流接続させることを特徴とする請求項1記載の電子源。
【請求項6】
陽電極の少なくとも一部は90%以上の電子透過度を有した導電性メッシュを含んでおり、減速電極の少なくとも一部は90%以上の電子透過度を有した導電性メッシュを含んでいることを特徴とする請求項2記載の電子源。
【請求項7】
減速された電子は10電子ボルト以内のエネルギーを有していることを特徴とする請求項2記載の電子源。
【請求項8】
フィラメントはガスクラスタイオンビーム軸に平行であって、該ガスクラスタイオンビーム周囲で等間隔に配置された複数のフィラメントを含んでいることを特徴とする請求項2記載の電子源。
【請求項9】
通気型ファラデーカップであって、
ガスクラスタイオンビームを受領する表面を有した導電性衝撃プレートと、
該衝撃プレートを包囲し、その前方で延びてカップ形状を提供し、間隔を開けて配置された複数の同軸導電リング電極を含んだ通気型容器と、
該衝撃プレートによって回収された電流を電流測定システムに導く導電手段と、
を含んで構成されており、前記導電リング電極は少なくとも2体のリング電極で成る少なくとも3群で構成されて電気的に接続されており、それぞれの群は独立的にバイアスされており、本カップ内外への不都合な荷電粒子漏出を防止することを特徴とするファラデーカップ。
【請求項10】
導電性衝撃プレートの表面は鋸状溝を含んでいることを特徴とする請求項9記載のファラデーカップ。
【請求項11】
導電性衝撃プレートに最も接近した導電リング電極群は該衝撃プレートに対して負にバイアスされており、少なくとも3つの導電リング電極群の1以上は導電性衝撃プレートの電位でバイアスされることを特徴とする請求項9記載のファラデーカップ。
【請求項12】
導電性衝撃プレートに最も接近した導電リング電極群は該衝撃プレートに対して第1負電位にバイアスされており、少なくとも3つの導電リング電極群の1以上はその導電性衝撃プレートの電位でバイアスされ、少なくとも3つの導電リング電極群の1つ以上はその導電性衝撃プレートに対して第2負電位にバイアスされることを特徴とする請求項9記載のファラデーカップ。
【請求項13】
導電性衝撃プレートは円形であり、複数の導電リング電極は円形であり、鋸状溝は円形であり、前記導電リング電極と前記鋸状溝はガスクラスタイオンビーム軸と同心であることを特徴とする請求項10記載のファラデーカップ。
【請求項14】
隣接導電リング電極は隣接リング電極の環状放射延長部よりも小型であることを特徴とする請求項9記載のファラデーカップ。
【請求項15】
対象物表面のガスクラスタイオンビーム処理のための改良システムであって、
真空チャンバと、
該真空チャンバ内に設置され、ビーム軸を有したガスクラスタイオンビームを形成させるガスクラスタイオンビーム源と、
該真空チャンバ内で対象物を保持し、該対象物をガスクラスタイオンビーム内に配置して処理させ、処理を終了させるために該対象物を該ガスクラスタイオンビームから取り出す対象物ホルダーと、
該真空チャンバ内に設置され、該ガスクラスタビームの空間荷電を中和させる低エネルギー電子源と、
該真空チャンバ内に設置され、ガスクラスタイオンビーム電流を回収して測定させ、前記対象物の処理を制御するための通気型ファラデーカップと、
を含んで構成されることを特徴とする改良システム。
【請求項16】
低エネルギー電子源は、
電子放出用のフィラメントと、
該フィラメントから離れる方向で、軸を有したガスクラスタイオンビーム方向に向けて該電子を加速させる陽(正)電極と、
前記加速電子を減速させる減速電極と、
前記フィラメントをバイアスして電子放出を促すフィラメント電源と、
該フィラメントに対して前記陽電極をバイアスする加速電源と、
該フィラメントに対して前記減速電極をバイアスする手段と、
を含んで構成されていることを特徴とする請求項15記載の改良システム。
【請求項17】
通気型ファラデーカップは、
ガスクラスタイオンビームを受領する表面を有した導電性衝撃プレートと、
該衝撃プレートを包囲してその前方で延びており、間隔を開けて配置された複数の導電リング電極を含んだ通気型容器と、
前記ファラデーカップによって回収された電流を電流測定システムに導く導電手段と、
を含んで構成されており、前記複数の導電リング電極は、独立的にバイアスされた少なくとも3群で電気的に接続されており、前記ファラデーカップ内外への不都合な荷電粒子漏出を防止し、
該少なくとも3群の電気的に接続されたリング電極のそれぞれは複数のリング電極を含んでいることを特徴とする請求項15記載の改良システム。
【請求項18】
ガスクラスタイオンビーム電流は300マイクロアンペア以上であり、あるいはガスクラスタイオンビームはファラデーカップの衝撃プレートで20標準立方センチ/分以上のガス流を放出することを特徴とする請求項15記載の改良システム。
【請求項19】
対象物表面のガスクラスタイオンビーム処理のための改良システムであって、
真空チャンバと、
該真空チャンバ内に設置され、ビーム軸を有したガスクラスタイオンビームを形成させるガスクラスタイオンビーム源と、
該真空チャンバ内にて該対象物をガスクラスタイオンビーム通路内に保持する対象物ホルダーと、
該真空チャンバ内に設置され、該ガスクラスタビームの空間荷電を中和させる低エネルギー電子源と、
該真空チャンバ内に設置され、ガスクラスタイオンビーム電流を回収して測定させ、前記対象物の処理を制御するための通気型ファラデーカップと、
を含んで構成されることを特徴とする改良システム。
【請求項20】
低エネルギー電子源は、
電子放出用のフィラメントと、
該フィラメントから離れる方向でガスクラスタイオンビーム方向に向けて該電子を加速させる陽(正)電極と、
前記加速電子を減速させる減速電極と、
前記フィラメントをバイアスして電子放出を促すフィラメント電源と、
該フィラメントに対して前記陽電極をバイアスする加速電源と、
該フィラメントに対して前記減速電極をバイアスする手段と、
を含んで構成されていることを特徴とする請求項19記載の改良システム。
【請求項21】
ガスクラスタイオンビームの空間荷電を少なくとも部分的に中和する方法であって、
複数の低エネルギー電子を発生させるステップと、
該低エネルギー電子をガスクラスタイオンビームに向けて加速させるステップと、
該低エネルギー電子を減速させてガスクラスタイオンビームを含んだ領域に該電子を照射させ、該ガスクラスタイオンビームの空間荷電を少なくとも部分的に中和させるステップと、
を含んで構成されていることを特徴とする方法。
【請求項22】
ガスクラスターイオンビームを含んだ領域を通過する低エネルギー電子を該領域に向けて再照射させるステップをさらに含んでいることを特徴とする請求項21記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−500741(P2006−500741A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−537918(P2004−537918)
【出願日】平成15年9月19日(2003.9.19)
【国際出願番号】PCT/US2003/029240
【国際公開番号】WO2004/027813
【国際公開日】平成16年4月1日(2004.4.1)
【出願人】(505099750)エピオン コーポレーション (9)
【Fターム(参考)】