説明

ガスクロマトグラフ装置用制御装置及び該制御装置に用いる制御プログラム

【課題】GC装置が最適な分析条件を得るまでの試行錯誤に要する手間及び時間を削減することのできる制御装置及び該制御装置に用いる制御プログラムを提供する。
【解決手段】本発明のガスクロマトグラフ装置用制御装置では、単一の制御系によって制御される単一の流路(分析ライン)に直列に繋がれた複数のカラムの各々において、流量及び/又は平均線速度が算出される。従来、複数の直列カラムの流量制御は、流路途中に複数の制御系を備える装置において行われていたが、本発明ではそれに比べて制御系が少なく、設定すべきパラメータの数も少なくなることから、最適な分析条件を得るまでの試行錯誤に要する手間及び時間を削減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスクロマトグラフ(GC)分析装置用制御装置及びそれに用いる制御プログラムに関する。なお、ここで言うGCには、質量分析計を検出器として使用するガスクロマトグラフ質量分析も含まれる。
【背景技術】
【0002】
GC装置は、試料気化室で気化させた試料ガスをカラムに流すことで試料成分を時間的に分離し、該カラムの下流に設けた検出器により分離した試料成分を順次検出していくものである。
【0003】
このようなGC装置では一般的に、分析を制御するとともに分析で得られたデータを処理するための装置が設けられている。そのような制御/データ処理は装置に内蔵されたプログラムにより実行されるが、同様の制御/データ処理プログラムをGC装置に接続したパーソナルコンピュータ(PC)上実行することにより、装置の制御及びデータ処理を行うことも行われる。
【0004】
例えば非特許文献1の制御/データ処理プログラムでは、装置に設置するカラムの長さ、内径、膜厚、装置各部の圧力、キャリアガスの種類、スプリット比等をパラメータとして、該制御/データ処理プログラムがインストールされたパーソナルコンピュータ(PC)に入力することにより、カラムを流れる試料ガスの流量及び平均線速度を予め算出する機能が備わっている。ユーザ(分析者)はこの算出された流量及び平均線速度が測定対象の試料の分析に適しているかを判断した上で、実際の分析を開始することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「GCsolution」、[online]株式会社島津製作所、[平成23年4月22日検索]、インターネット<URL:http://www.an.shimadzu.co.jp/data-net/gcsolv2.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、複数の成分を効率よく分析するため、流路を並列に複数設け、それぞれの流路にカラムを設けることが行われていた。この場合、各流路毎に上記のような流量や平均線速度の計算が行われ、流量制御が行われていた。
【0007】
一方、試料成分の詳細な分析を行うため、1本の流路に複数のカラムを直列に接続し、各カラムを制御することも行われていた(これをマルチディメンジョナルGC=MDG Cという)。MDGCでは、図6に示すようにカラムとカラムの間に分岐部を設け、流路入口と分岐部の間、分岐部間、分岐部と流路出口の間の各カラム毎に個別に制御を行うことにより、それぞれの流量を制御していた。しかしながら、このようなMDGCでは、装置が複雑になると共に、目的とする分析を最適な条件とするためには、各カラム毎のパラメータを少しずつ変え、その変更が他のカラムに及ぼす影響を確認しながら更にパラメータを変えるという試行錯誤を繰り返さねばならなかった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、GC装置が最適な分析条件を得るまでの試行錯誤に要する手間及び時間を削減することのできる制御装置及び該制御装置に用いる制御プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係るガスクロマトグラフ装置用制御装置は、
1本の流路において複数のカラムが分岐部を介さずに直列に接続されるガスクロマトグラフ装置用の制御装置において、
前記複数のカラムをユーザに選択させるための複数カラム選択手段と、
前記複数のカラムの各々における流量と平均線速度の算出に必要なパラメータを、ユーザに入力させるためのパラメータ入力手段と、
ユーザが入力したパラメータに基づいて、前記複数のカラムの各々における流量及び/又は平均線速度を算出する演算手段と、
を有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係るGC装置用制御装置では、1本の流路に接続された複数のカラムを、従来のMDGCのように各個のカラム毎に制御するのではなく、単一の制御系で制御する。従って、GC装置の制御系が複雑になることを回避することができると共に、制御に必要なパラメータの数が少なくなるため、最適な分析条件を得るまでの試行錯誤に要する手間及び時間を削減することができる。
【0011】
また、上記課題を解決するために成された本発明に係るガスクロマトグラフ制御プログラムは、
1本の流路において複数のカラムが分岐部を介さずに直列に接続されるガスクロマトグラフ装置用の制御装置に用いる制御プログラムにおいて、コンピュータを、
前記複数のカラムをユーザに選択させるための複数カラム選択手段、
前記複数のカラムの各々における流量と平均線速度の算出に必要なパラメータを、ユーザに入力させるためのパラメータ入力手段、
ユーザが入力したパラメータに基づいて、前記複数のカラムの各々における流量及び/又は平均線速度を算出する演算手段、
として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、単一の制御系によって制御される単一の流路において直列に繋がれた複数のカラムの各々に対し、その流量及び/又は平均線速度を算出することができる。従来、複数の直列カラムの流量制御は、MDGCのような流路途中に複数の制御系を備える装置において行われていたが、本発明ではそれに比べて制御系が少なくすることができ、それに伴って設定すべきパラメータの数も少なくなることから、最適な分析条件を得るまでの試行錯誤に要する手間及び時間を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るGC分析用制御プログラムの一実施例を適用した制御装置の概略構成図。
【図2】本実施例のGC分析用制御プログラムの環境設定画面を示す図。
【図3】本実施例のGC分析用制御プログラムのパラメータ入力画面を示す図。
【図4】本実施例のGC分析用制御装置で使用するGC装置の構成の一例を示す図。
【図5】図4のGC装置における分析条件及びその結果を示す表。
【図6】MDGC装置の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0014】
本発明に係るGC分析用制御プログラムの一実施例を適用した制御装置10の概略構成を、図1を参照して説明する。本実施例の制御装置10の実態はコンピュータであり、中央演算処理装置であるCPU(Central Processing Unit)11、メモリ12、LCD(Liquid Crystal Display)等から成るモニタ(表示部)13、キーボードやマウス等から成る入力部14、ハードディスク等の大容量記憶装置から成る記憶部15が互いに接続されている。記憶部15には、GC分析用制御プログラム16(以下、「プログラム16」と略記する)が設けられている。記憶部15にはまた、OS(Operating System)17が記憶されている。
【0015】
制御装置10は、GC装置20との直接的な接続や、LAN(Local Area Network)などのネットワークを介した接続を司るためのインターフェース(I/F)18を備え、I/F18より通信線19を介してGC装置20に接続されている。なお、制御装置10は、I/F18を介してGC装置20と接続される形態に限られる必要はなく、GC装置20と一体化されていても構わない。
【0016】
また、本実施例の制御装置10では、プログラム16とOS17とを別体としているが、プログラム16がOS17の一部に組み込まれていたとしても、勿論構わない。
【0017】
次に、本実施例の制御装置10の動作について説明する。なお、以下で説明する動作は、CPU11がプログラム16を実行することによりソフトウエア的に実現される。
【0018】
ユーザがプログラム16を起動し、所定の操作を行うことで、プログラム16はGC装置20の装置環境を設定するための設定画面30をモニタ13上に表示する。ユーザはこの設定画面30上で、GC装置20に使用するオートサンプラや試料気化室、カラム、検出器等の分析ユニットを選択する。
【0019】
設定画面30における選択操作について説明する。ユーザは画面左欄の「有効なユニット」欄において、GC装置20に使用する分析ユニットをクリック等により選択する。図2(a)では「カラム」が選択されている。次に、画面中央の右矢印をクリックすると、選択された分析ユニットが画面右欄の「分析に使用するユニット」欄内において展開中の分析ライン(図中では「分析ライン1」)内に追加される。なお、「分析ライン」とは単一の制御系によって内部の流量が制御される単一の流路のことを指す。分析ラインは並列に複数設けることができる。
図2(b)では、以上の操作によって「カラム2」が「分析ライン1」に新たに追加されている。更に同様の操作を繰り返せば、「カラム3、カラム4、…」のように順に番号が付与されたうえで、「分析に使用するユニット」の「分析ライン1」に「カラム」が追加されていく。
【0020】
従来のGC分析用制御プログラムでは、1つの分析ラインに対して1つのカラムしか選択することができなかった(制御可能なカラムは1つだけであった)が、本実施例のプログラム16ではこのように、1つの分析ラインに対して2つ以上のカラムを設定画面30上で選択することができる。
【0021】
ユーザは次に、プログラム16に対して所定の操作を行い、図3に示すパラメータ入力画面31をモニタ13上に表示させる。この入力画面31では、図2の設定画面30で「分析ライン1」に対して選択された各分析ユニットについて、GC分析に必要なパラメータを入力することができる。
【0022】
画面31の上部に並んでいるタブの中から「カラム1」タブを選択すると、設定画面30で選択された「カラム1」に対する入力画面が表示される。ここで、登録カラム欄内でカラム情報の入力を行う、又は予め登録されたカラムを選択する、等の操作を行い、その上で選択ボタンをクリックすると、選択カラム欄に選択した登録カラムのパラメータが表示される。この選択カラム欄に表示されるパラメータが、「カラム1」に対するカラム情報となる。
【0023】
「カラム2」やその他の分析ユニットについても同様に、入力画面31においてパラメータを入力する。パラメータの入力が終了し、ユーザが所定の操作により制御プログラム10に演算の開始を指示すると、プログラム16は各カラムにおける流量と平均線速度の算出を行う。例えば図4のように、「分析ライン1」の単一の流路内に異なる「カラムオーブン」に入れられた「カラム1」と「カラム2」が直列に接続され、「分析ライン1」の出口に「質量分析計」が検出器として配設された装置構成である場合、「カラム1」と「カラム2」の流量F1, F2と平均線速度u1, u2はそれぞれ、ハーゲン・ポアズイユの法則に基づいて、次の式で算出することができる。
【数1】

ここで、r1, r2はそれぞれ「カラム1」と「カラム2」の半径(内径)、L1, L2はそれぞれ「カラム1」と「カラム2」の長さ、T1, T2はそれぞれ「カラム1」と「カラム2」のカラムオーブン温度、η1, η2はそれぞれ温度T1, T2におけるキャリアガスの粘性係数、Piは「分析ライン1」の入口圧、Pzは「カラム1」と「カラム2」の接続部分の圧力、Poは「分析ライン1」の出口圧、Prefは標準圧力(大気圧)、Trefは標準温度(25℃=298K)である。なお、「分析ライン1」の出口に設けられた質量分析計では真空雰囲気に保たれているため、Po=0である。また、図4の構成において「分析ライン1」の流路内のガス流量の制御(具体的には入口圧Piの設定)は、試料気化室41に送給するキャリアガスの流量を調整するマスフローコントローラ42と、試料気化室41からキャリアガスの一部を排出するスプリット流路に設けられたスプリット弁43と、を有する単一の流量制御系40によって行われる。
【0024】
図5の表は、上式によって実際に流量及び平均線速度を算出した結果を示している。この表のうち、太枠欄がユーザによって入力されるパラメータである。なお、入口圧はゲージ圧で入力される。その他の圧力値は絶対圧である。また、「カラム1」の出口圧と「カラム2」の入口圧は上式のPzに対応するため、同じ値である。
【0025】
ユーザは、プログラム16により算出された流量及び平均線速度が適切であると判断したならば、プログラム16に対して所定の操作を行い、入力したパラメータをGC装置20に反映させたうえで、実際の分析を行う。
【0026】
以上、本発明に係るGC分析用制御装置の一実施例を説明したが、上記は例に過ぎないことは明らかであり、本発明の趣旨の範囲内で適宜に変更や修正、又は追加を行っても構わない。
【0027】
例えば、上記実施例では2つのカラムに対し各々の流量と平均線速度を算出する例を示したが、カラムが3つ以上ある場合であっても、連立する式の数が増えるだけで同様の式により各カラムの流量と平均線速度が算出可能であることは、当業者にとって明らかである。また、カラムオーブンは上記実施例のように各カラムに1つずつ設けられていても、1つのカラムオーブンが複数のカラムを内包するように設けられていてもどちらでも構わない。
【符号の説明】
【0028】
10…制御装置
11…CPU
12…メモリ
13…モニタ
14…入力部
15…記憶部
16…GC分析用制御プログラム
17…OS
18…I/F
19…通信線
20…GC装置
30…環境設定画面
31…パラメータ入力画面
40…流量制御系
41…試料気化室
42…マスフローコントローラ
43…スプリット弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本の流路において複数のカラムが分岐部を介さずに直列に接続されるガスクロマトグラフ装置用の制御装置において、
前記複数のカラムをユーザに選択させるための複数カラム選択手段と、
前記複数のカラムの各々における流量と平均線速度の算出に必要なパラメータを、ユーザに入力させるためのパラメータ入力手段と、
ユーザが入力したパラメータに基づいて、前記複数のカラムの各々における流量及び/又は平均線速度を算出する演算手段と、
を有することを特徴とするガスクロマトグラフ装置用制御装置。
【請求項2】
1本の流路において複数のカラムが分岐部を介さずに直列に接続されるガスクロマトグラフ装置用の制御装置に用いる制御プログラムにおいて、コンピュータを、
前記複数のカラムをユーザに選択させるための複数カラム選択手段、
前記複数のカラムの各々における流量と平均線速度の算出に必要なパラメータを、ユーザに入力させるためのパラメータ入力手段、
ユーザが入力したパラメータに基づいて、前記複数のカラムの各々における流量及び/又は平均線速度を算出する演算手段、
として機能させることを特徴とする制御プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−225886(P2012−225886A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96349(P2011−96349)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)