説明

ガスクロマトグラフ質量分析装置

【課題】温度条件の異なる複数のカラムを同時に装着可能なGC/MSを提供する。
【解決手段】それぞれ少なくとも試料導入部12、22とキャピラリカラム11、21とカラムオーブン13、23とを備えた複数のガスクロマトグラフ部1、2と質量分析部5とをキャピラリ直結形のインターフェイス3を介して連結してGC/MSを構成する。質量分析部5に隣接配置できないガスクロマトグラフ部2は加温されたトランスファーライン4を介してインターフェイス3と接続する。このように構成することにより、各ガスクロマトグラフ部1、2に装着した複数のキャピラリカラム11、21をそれぞれの分析目的に応じた最適の温度条件で用いることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば空気中の環境汚染物質の分析等に用いて好適なガスクロマトグラフ質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中の環境汚染物質、例えば各種の揮発性有機化合物(VOC:Volatile organic compounds)はシックハウス問題の原因物質としてその測定技術の確立が急務とされている。近年はVOCよりもさらに沸点の高い有機化合物群であるSVOC(Semi−volatile organic compounds)も含めて環境汚染源となり得る有機化合物は100種を越えると言われる。これら多種の物質を分離して定性・定量するための分析装置としては分離定性能力の高いガスクロマトグラフ質量分析装置(以下、GC/MSと記す)が多用される。例えば特許文献1には多成分の大気中VOCを分析するために、広いダイナミックレンジを持つ水素炎イオン化検出器と定性能力に優れた質量分析装置とを併用するGC/MSが提案されている。
【0003】
しかし、如何にGC/MSが分離能力に優れているとはいえ、1本のカラムによる1回の分析でこれらの多数の成分を分離することは困難であるから、カラムを替えて少なくとも2回に分けて分析する必要がある。例えば、比較的低沸点のVOCを分析するキャピラリカラムとしては内径0.32mm、長さ60m、液相膜厚1.0μmのRtx624(商品名)が好適であり、これをカラム温度40°Cから230°Cまで昇温して用いる。一方、より高沸点のSVOCを分析するには、内径0.25mm、長さ30m、液相膜厚0.25μmのRtx5ms(商品名)を45°Cから320°Cまで昇温して用いる。
【0004】
【特許文献1】特開2004−205313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
VOCからSVOCまで広範囲の有機物質群をガスクロマトグラフィで分離するには、上記のように少なくとも2本のカラムに分けて分析する必要がある。このように複数のカラムに分けて分析を行う方法として、1)分析の途中でカラムを取り替える、2)所要台数のGC/MSを用意し、それぞれに所要のカラムを取り付け、別個に分析する、3)1台のGC/MSのガスクロマトグラフ部に所要の複数本のカラムを同時に取り付けておく、等が考えられる。第1の、途中でカラムを取り替える方法は、分析の都度カラムを取り替える作業が煩わしく、また取り替えのために一旦装置を停止しなければならず、その後再起動して安定化を待つ時間のロスが大きい。第2の、複数台のGC/MSを用いる方法は、設備コストが掛かり、またその設置スペースも必要となる。第3の、複数本のカラムを同時に装着しておく方法は、各カラムの耐熱性について考慮する必要があり、カラムの組み合わせによっては同時装着ができない場合がある。
【0006】
前述のVOCとSVOCの分析用カラムの組み合わせはまさにこの同時装着ができない場合に当たる。即ち、前述したVOC分析用のカラムは最高使用温度が250°Cであるが、SVOCを分析する際のカラムオーブンの温度は最高320°Cに達し、VOC分析用カラムの最高使用温度を越えるから、これら2つのカラムを同じカラムオーブン内に装着することはできない。従って、手間と時間の掛かる第1の方法か、または費用とスペースを費やす第2の方法によっているのが実状である。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、温度条件の異なる複数のカラムを同時に装着しておくことが可能なGC/MSを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、それぞれ少なくとも試料導入部とキャピラリカラムとカラムオーブンとを備えた複数のガスクロマトグラフ部と質量分析部とを組み合わせてGC/MSを構成する。このように構成することにより、各ガスクロマトグラフ部に装着した複数のカラムをそれぞれの分析目的に応じた最適の温度条件で用いることが可能となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明は上記のように構成されているので、温度条件の異なる複数のカラムを同時に装着することが可能となり、その結果として、分析途中でカラムを取り替えたり温度設定を変更する必要がなく、時間と労力のロスがなくなる。また、複数台のGC/MSを設備する場合に比べて、装置購入の初期コストを削減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明が提供するGC/MSは次のような特徴を有する。即ち、第1の特徴は複数のガスクロマトグラフ部を備えて構成された点にあり、第2の特徴は前記ガスクロマトグラフ部のうちのいくつかとインターフェイスとの間をカラムオーブンの温度から独立して温度制御されるトランスファーラインで連結するように構成された点である。
従って、最良の形態の基本的な構成は、これら複数のガスクロマトグラフ部を有する構成とカラムオーブンの温度から独立して温度制御されるトランスファーラインを有する構成とを具備するGC/MSである。
【実施例1】
【0010】
図1に本発明の一実施例を示す。以下図示例に従って説明する。
同図において、1及び2はガスクロマトグラフ部であって、インターフェイス3を介して質量分析部5に連結されてGC/MSを形成する。ガスクロマトグラフ部1は、キャリアガス源6から供給されるキャリアガスの流れを制御する流量制御部14、キャリアガスの流れに試料を導入する試料導入部12、これに接続されるキャピラリカラム11、このキャピラリカラム11を収容するカラムオーブン13及びその温度を制御する温度制御部15等で構成される。ガスクロマトグラフ部2も同様に、流量制御部24、試料導入部22、キャピラリカラム21、カラムオーブン23及び温度制御部25等で構成される。
【0011】
インターフェイス3は、カラムからの溶出ガスをキャリアガスも含めて質量分析部5に導入するキャピラリ直結形と呼ばれるタイプであり、ここでは2本のキャピラリを並行して接続できるものが用いられる。インターフェイス3の一部は質量分析部5に隣接するカラムオーブン13内に突出しており、ここでキャピラリカラム11の末端が、固定相を持たないキャピラリチューブ31を介してインターフェイス3に接続される。
ガスクロマトグラフ部2は質量分析部5に隣接して配置できないので、キャピラリカラム21の末端はトランスファーライン4を介してインターフェイス3に連結される。トランスファーライン4は、キャピラリカラム21の末端に接続された固定相を持たないキャピラリチューブ41を加温する配管ラインであって、図2にその構造の一例を示す。
【0012】
図2に示すように、トランスファーライン4は、内部にキャピラリチューブ41が緩挿された金属管42、その金属管42の外側に捲装された絶縁ヒータ43、及びその外側を覆う断熱被覆44で構成され、図示しない温度制御装置で絶縁ヒータ43への供給電力を制御することにより温度制御されるものである。
【0013】
上記のように構成された本実施例装置の動作を、VOCとSVOCの分析を例として以下に説明する。
VOCの分離にはガスクロマトグラフ部1を当て、キャピラリカラム11として内径0.32mm、長さ60m、液相膜厚1.0μmのRtx624(商品名)をカラムオーブン13内に装着する。ガスクロマトグラフ部2はSVOCの分離に用い、キャピラリカラム21として内径0.25mm、長さ30m、液相膜厚0.25μmのRtx5ms(商品名)をカラムオーブン23内に装着する。カラムオーブン13、23の初期温度はそれぞれ40°C、45°C、またトランスファーライン4の温度は約250°Cに設定する。
【0014】
分析はVOC、SVOCのどちらから先に行ってもよいが、例えば、先ずガスクロマトグラフ部1の試料導入部12に試料を導入し、カラムオーブン13を所定のプログラムに従って昇温しながら試料中のVOCの分離を行う。導入された試料はキャピラリカラム11で各成分に分離され、インターフェイス3を経て質量分析部5に導かれ、ここで質量数に応じた分離が行われてVOC各成分のマススペクトル等のデータが出力される。
続いてガスクロマトグラフ部2の試料導入部22に試料を導入し、同様にしてSVOC各成分のデータが出力され、これらVOC、SVOCのデータを総合して最終の分析結果を得る。
【0015】
このように、2本のキャピラリカラム11、21はそれぞれ別のカラムオーブン13、23に収容されるので、相互に干渉されることなく最適の温度条件で分析できる。また、少し離れて位置するガスクロマトグラフ部2からの溶出成分も加温されたトランスファーライン4を経て質量分析部5に導かれるので、コールドスポットによる試料成分の凝縮や吸着の問題が生じることもない。
【0016】
以上、一実施例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、実施例1におけるガスクロマトグラフ部2と同様のガスクロマトグラフ部をさらに増設して、3台以上のガスクロマトグラフ部を有するGC/MSを構成することも可能である。また、トランスファーライン4の構造に関しても、金属管42として適当な電気抵抗を有する管材を選定して用い、金属管42自体に直接通電して加熱する等の変形例を挙げることができる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明はGC/MSに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例を示す図である。
【図2】本発明の一実施例の細部構造を示す図である。
【符号の説明】
【0019】
1 ガスクロマトグラフ部
2 ガスクロマトグラフ部
3 インターフェイス
4 トランスファーライン
5 質量分析部
6 キャリアガス源
11 キャピラリカラム
12 試料導入部
13 カラムオーブン
14 流量制御部
15 温度制御部
21 キャピラリカラム
22 試料導入部
23 カラムオーブン
24 流量制御部
25 温度制御部
31 キャピラリチューブ
41 キャピラリチューブ
42 金属管
43 絶縁ヒータ
44 断熱被覆

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスクロマトグラフ部と質量分析部とがインターフェイスを介して接続されて成るガスクロマトグラフ質量分析装置であって、前記ガスクロマトグラフ部がそれぞれ少なくとも試料導入部とキャピラリカラムとカラムオーブンとを備えた複数のガスクロマトグラフで構成されることを特徴とするガスクロマトグラフ質量分析装置。
【請求項2】
前記複数のガスクロマトグラフ部の一部とインターフェイスとの間を連結する配管にカラムオーブンの温度から独立して温度制御する温度制御手段を設けたことを特徴とする請求項1記載のガスクロマトグラフ質量分析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−3190(P2007−3190A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−180034(P2005−180034)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】