説明

ガスクロマトグラフ質量分析装置

【課題】 誰でも試料気化室のセプタムやガラスインサートを容易かつ正確に交換することができるガスクロマトグラフ質量分析装置の提供。
【解決手段】 ガスクロマトグラフ用オーブン20と、質量分析部50と、試料気化室30と、ガス供給部40と、制御部60とを備えるガスクロマトグラフ質量分析装置1であって、制御部60は、セプタム32a又はガラスインサート37aの交換作業が開始されたときに、キャリアガスの流量が圧力一定となるようにガス供給部40を制御した後、交換可能温度以下となるようにヒータ24、38、72を制御し、温度が交換可能温度以下になり、セプタム32a又はガラスインサート37aの交換作業が終了されたときに、分析用温度になるようにヒータ24、38、72を制御し、交換作業を開始する前のキャリアガスの流量の制御方法となるようにガス供給部40を制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セプタムやガラスインサートを有する試料気化室を備えるガスクロマトグラフ質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガスクロマトグラフ部(以下、「GC部」という)と、質量分析装部(以下、「MS部」という)と、GC部とMS部とを制御する制御部とを組み合わせたガスクロマトグラフ質量分析装置(以下、「GC/MS」という)が、各種試料の定性分析や定量分析に広く用いられている。
図5は、従来のGC/MSの一例を示す概略構成図である。GC/MS101は、GC部10と、MS部50と、GC部10とMS部50との間に配置されるインタフェイス部70と、制御部160とを備える。
【0003】
制御部160は、パーソナルコンピュータにより具現化され、CPU161やメモリ162を備え、さらにキーボードやマウス等を有する入力装置63と、設定内容の表示や分析結果の表示等を行う表示装置64とが連結されている。このような制御部160によって、入力装置63で入力された設定内容に基づいて、GC部10とMS部50とインタフェイス部70との動作が統括的に制御されるようになっている。
CPU161が処理する機能をブロック化して説明すると、第一ヒータ24や第二ヒータ38(図2参照)や第三ヒータ72等を制御する温度制御部161aと、流量制御ユニット(ガス供給部)40を制御する流量制御部161bと、検出器55からイオン強度信号を受信する分析制御部61cとを有する。
【0004】
GC部10は、ガスクロマトグラフ用オーブン20と、試料が導入される試料気化室30と、キャリアガスを供給する流量制御ユニット(ガス供給部)40とを備える。
ガスクロマトグラフ用オーブン20は、上下左右の4面の壁と背面壁と前面壁となる前面扉とで囲われた立方体形状のハウジング21を備え、ハウジング21の内部には、試料ガスが通過する円管形状のカラム22と、ハウジング21を加熱する第一ヒータ24と、温度Tを検出する温度センサ25とが収容されている。
【0005】
このようなガスクロマトグラフ用オーブン20において、分析する際にオペレータが入力装置63を用いて分析用温度T’(例えば、200℃)を入力することで、CPU161の温度制御部161aが、分析用温度T’をメモリ162に記憶させ、メモリ162に記憶された分析用温度T’と、温度センサ25で検出された温度Tとに基づいて、第一ヒータ24に電力を供給することにより、ハウジング21の内部を分析用温度T’にしている。
よって、ガスクロマトグラフ用オーブン20によれば、試料ガスがカラム22の入口端に導入されれば、分析用温度T’のカラム22の内部を通過する間に、試料ガス中の各成分は分離されていき、その後、分離された各成分が順次、カラム22の出口端に到達していくことになる。
【0006】
インタフェイス部70は、円筒形状の筐体71と、筐体71を加熱する第三ヒータ72とを備える。そして、筐体71の内部には、カラム22の出口端が挿通されてMS部50のイオン化室52まで延伸されている。
このようなインタフェイス部70によれば、カラム22の出口端の温度をガスクロマトグラフ用オーブン20の内部の分析用温度T’と同程度に維持することができ、その結果、試料ガスの流れがインタフェイス部70で滞ることのないようにすることができる。
【0007】
MS部50は、直方体形状の真空室51と、真空室51の内部を真空にするための真空ポンプ56と、カラム22の内部に酸素が存在するか否かを判定するためのPFTBA(Perfluorotributylamine)等が封入された調整用試料源58とを備え、真空室51の内部に、イオン化室52と、イオンレンズ53と、質量分離器としての四重極質量フィルタ54と、イオン強度信号を取得する検出器55とがイオンの進行方向に沿ってこの順に配設されるとともに、真空室51の内部の圧力(真空度)PMSを検出するイオンゲージ(電離真空計)57が配設されている。
【0008】
このようなMS部50によれば、イオン化室52で試料分子がイオン化され、発生したイオンはイオン化室52の外側に引き出される。引き出されたイオンはイオンレンズ53で収束されて四重極質量フィルタ54に導入される。四重極質量フィルタ54には電源回路(図示せず)により直流電圧と高周波電圧とを重畳した電圧が印加され、その印加電圧に応じた質量(詳細には質量電荷比)を有するイオンのみが四重極質量フィルタ54の長軸方向の空間を通過して検出器55に到達する。このとき、例えば、四重極質量フィルタ54への印加電圧を徐々に変化させると、四重極質量フィルタ54を通過し得るイオンの質量が変化するので、分析制御部61cによって四重極質量フィルタ54への印加電圧を徐々に変化させながら、検出器55に到達するイオンの数に応じた電流の大きさを検出することにより、質量とイオン強度との関係を示す質量スペクトルを取得している。
【0009】
次に、GC部10の試料気化室30と流量制御ユニット40とについて説明する(例えば、特許文献1参照)。図2は、試料気化室30と流量制御ユニット40との拡大断面図である。
試料気化室30は、円筒形状の金属製の筐体31と、筐体31の外周面を加熱する第二ヒータ38とを備える。
筐体31は、上部筐体31bと下部筐体31aとに分割可能となっており、分割することで、円筒形状のガラス製のガラスインサート37aを内部に配置することができるようになっている。
【0010】
上部筐体31bは、上面に形成され液体試料Sが導入される試料導入口32を有する。
下部筐体31aは、左側壁に形成されキャリアガスが導入されるキャリアガス導入口33と、右側壁に形成されキャリアガスが排出されるパージ口34と、下面に形成されカラム22の入口端に接続されたカラム接続口35と、右側壁に形成され筐体31の内部に注入された試料ガスの一部をキャリアガスとともに排出するスプリット口36とを有する。
【0011】
試料導入口32には、略円柱形状のシリコンゴム製のセプタム32aが配置され、セプタム32aがセプタムナット32bによって下方に押し付けられることで上部筐体31bに固定されている。このようなセプタム32aにおいて、分析する際にオペレータが、液体試料Sが収容されたマイクロシリンジ90の針91をセプタム32aに突き刺すことにより、筐体31の内部に液体試料Sを滴下することができるようになっている。そして、セプタム32aは弾力性を有するので、針91が挿入されたときに開いた孔は、針91が抜去されると即座に閉塞することになる。
【0012】
下部筐体31aの内部には、ガラスインサート37aが円環形状のシールリング37bによって支持されて配置されている。このようなガラスインサート37aにおいて、分析する際にオペレータが、マイクロシリンジ90の針91をガラスインサート37aに形成された内部空間の上部に配置することで、ガラスインサート37aの内部空間を液体試料Sが上側から下側へと通過しながら気化していくことになる。
【0013】
なお、上部筐体31bは、シールナット37cによって下方に押し付けられることで上部筐体31bに固定されている。
また、カラム接続口35は、カラム22の入口端に接続され、カラムナット35aによって固定されている。
【0014】
キャリアガス供給源41には、キャリアガスが封入されている。そして、キャリアガス供給源41は、ガス導入管42の一端部が接続され、さらにガス導入管42の他端部はガス流量調節弁43を介してキャリアガス導入口33に接続されており、ガス導入管42とガス流量調節弁43とキャリアガス供給源41とによって、キャリアガスを供給するための流量制御ユニット40が構成される。
【0015】
スプリット口36は、ガス排出管46の一端部が接続され、さらにガス排出管46には、ガス流量調節弁47が配置されている。よって、ガス流量調節弁47が開いているときには、一定割合のキャリアガスがスプリット口36を通って排出されるようになっている。
パージ口34は、ガス排出管44の一端部が接続され、さらにガス排出管44には、筐体31の内部の圧力PGCを検出する圧力センサ45が配置されている。
【0016】
このような試料気化室30と流量制御ユニット40とにおいて、分析する際にオペレータが入力装置63を用いて、キャリアガスの流量が「線速度一定」となるように入力することで、CPU161の流量制御部161bは、「線速度一定」をメモリ162に記憶させ、メモリ162に記憶された「線速度一定」となるように、ガス流量調節弁43を制御することにより、キャリアガスがガス導入管42を通って筐体31の上部に供給されるとともに、ガス流量調節弁47を制御することにより、所定量のキャリアガスをカラム22へと流すとともに、所定量のキャリアガスをスプリット口36へと流す。
このとき、筐体31が第二ヒータ38により液体試料Sの気化温度以上に加熱され、液体試料Sがガラスインサート37aの内部空間に注入されると、液体試料Sはガラスインサート37aの内部空間で即座に気化してキャリアガス流に乗って、「線速度一定」でカラム22の入口端に送られることになる。
なお、「線速度一定」とは、単位時間あたりにカラム22の断面積を通過するキャリアガスの体積が一定であるように制御することをいう。
【0017】
ところで、試料気化室30の筐体31の内部に配置されるガラスインサート37aは、試料Sに直接接触するものであるから、試料Sの気化残渣等の付着により汚れやすい。よって、ガラスインサート37aが汚れたとき、古いガラスインサート37aと新品のガラスインサート37aとを交換する必要がある。
ここで、ガラスインサート37aを交換する交換作業について説明する。図3は、試料気化室30の分解図である。
【0018】
まず、高温の分析用温度T’下でカラム22の内部に空気が混入すると、カラム22の内部の固定相皮膜が酸化され、その結果、カラム22の寿命を早めることになるので、試料気化室30やカラム22の温度Tを室温付近まで下げるように、オペレータは入力装置63を用いて交換用温度T’(例えば、20℃)を入力する。
このとき、キャリアガスの流量が「線速度一定」となるように設定されたまま、カラム22の温度Tが交換用温度T’付近になると、カラム22の長さや内径によっては、線速度を一定に維持するために必要な圧力でキャリアガスを制御できないために、CPU161の流量制御部161bはエラー信号を発生させることがある。そのため、オペレータは入力装置63を用いて、交換用温度T’を入力する前に、キャリアガスの流量が「圧力一定」となるように入力するか、又は、交換用温度T’にて制御できる圧力を入力する。
なお、「圧力一定」とは、圧力センサ45で検出される圧力PGCが一定となるように制御することをいう。
【0019】
次に、オペレータは表示装置64を見ながら、試料気化室30やカラム22の温度Tが交換用温度T’付近になったと確認した後、シールナット37bを下部筐体31aから緩めて取りはずし、ガラスインサート37aを下部筐体31aの内部から抜き取る。次に、オペレータは新品のガラスインサート31aを下部筐体31aの内部に挿入して、シールナット37bを下部筐体31aに締めつける。
最後に、オペレータは入力装置63を用いて、試料気化室30やカラム22の温度Tを分析用温度T’まで上げるように分析用温度T’を入力し、さらにキャリアガスの流量が「線速度一定」となるように入力するか、或いは、交換用温度T’に変更する前の圧力を入力する。
【0020】
また、セプタム32aの弾性力は長期間の使用により劣化したり、使用回数が増えて孔の箇所が多くなったりすると、孔が完全には閉塞されず、その結果、筐体31の内部からキャリアガスが外部に漏れるようになる。このようなガス漏れの状態で分析を行うと、クロマトグラムのピークの発生する時間であるリテンションタイムがずれたり、ピーク面積が小さくなったりして正確な分析に支障をきたすため、セプタム32aを交換する交換作業を行う必要がある。
このようなセプタム32aを交換する交換作業も、ガラスインサート37aを交換する交換作業と同様の手順でオペレータが実行することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開平11−101788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
しかしながら、上述したような交換作業において、熟練していないオペレータの場合、試料気化室30やカラム22の温度Tが室温付近まで下がる前に、シールナット37bを下部筐体31aから緩めて取りはずす工程を始めてしまうことがあり、その結果、オペレータが火傷を負ったり、高温のカラム22の内部に空気が混入し、カラム22の寿命を早めることとなっていた。
また、試料気化室30やカラム22の温度Tが室温付近まで下がる前に、キャリアガスの流量が「圧力一定」となるように入力するか、又は、温度が下がった段階で制御できる適切な圧力を入力する必要があるにもかかわらず、オペレータが入力しないまま試料気化室30やカラム22の温度Tが室温付近まで下がり、その結果、CPU161が圧力を制御することができず、エラー信号を発生させることがあった。
【0023】
さらに、オペレータは、試料気化室30やカラム22の温度Tを分析用温度T’とする前に、MS部50にPFTBAを導入して、カラム22の内部の酸素の存在量を確認しながら、試料気化室30やカラム22の内部に入り込んだ空気を除く必要もある。
すなわち、試料気化室30のセプタム32aやガラスインサート37aを交換する交換作業には、決まった手順で様々な工程を実行する必要があり、熟練していないオペレータにとっては非常に大変な作業であった。
そこで、本発明は、誰でも試料気化室のセプタムやガラスインサートを容易かつ正確に交換することができるガスクロマトグラフ質量分析装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記課題を解決するためになされた本発明のガスクロマトグラフ質量分析装置は、ハウジングと、前記ハウジングの内部に配置されるカラムと、前記ハウジングを加熱する第一ヒータとを備えるガスクロマトグラフ用オーブンと、液体試料が導入される試料導入口と、キャリアガスが導入されるキャリアガス導入口と、前記カラムの入口端に接続されたカラム接続口とを有する筐体と、前記筐体を加熱する第二ヒータとを備える試料気化室と、前記カラムの出口端に接続され、前記液体試料のイオン強度信号を検出する検出器を有する質量分析部と、前記試料気化室のキャリアガス導入口にキャリアガスを供給するガス供給部と、分析用温度を含む設定内容を入力するための入力装置を有する制御部とを備え、前記試料導入口には液体試料が収容された注射器の針が刺入されるセプタムが配置されるとともに、前記筐体の内部には液体試料を気化するためのガラスインサートが配置され、前記制御部は、前記入力装置で入力された設定内容に基づいて、第一ヒータ、第二ヒータ及びガス供給部を制御しながら、前記検出器からイオン強度信号を取得するガスクロマトグラフ質量分析装置であって、前記制御部は、前記セプタム又はガラスインサートの交換作業が開始されたときに、前記キャリアガスの流量が圧力一定となるようにガス供給部を制御した後、交換可能温度以下となるようにヒータを制御し、交換可能温度以下になり、前記セプタム又はガラスインサートの交換作業が終了されたときに、分析用温度になるようにヒータを制御し、交換作業が開始される前のキャリアガスの流量の制御方法となるようにガス供給部を制御するようにしている。
【0025】
ここで、「交換可能温度」とは、設計者等によって予め決められた任意の温度であり、カラムの内部に酸素が存在してもカラムの内部の固定相皮膜が酸化されない上限の温度であり、例えば、30℃等となる。
本発明のガスクロマトグラフ質量分析装置によれば、制御部は、セプタムやガラスインサートの交換作業が開始されたときに、キャリアガスの流量が「圧力一定」となるようにガス供給部を制御した後、交換可能温度以下となるようにヒータを制御する。つまり、オペレータはキャリアガスの流量が「圧力一定」となるように入力するか、カラム22の温度Tが「交換可能温度」になってもキャリアガスの圧力を制御できるように適切な値を入力する必要もなく、交換用温度T’を入力する必要もない。
その後、交換可能温度以下になり、セプタムやガラスインサートの交換作業が終了されたときに、分析用温度T’になるようにヒータを制御し、交換作業が開始される前のキャリアガスの流量の制御方法、例えばキャリアガスの流量が「線速度一定」となるようにガス供給部を制御する。なお、交換作業が開始される前に、キャリアガスの流量が「圧力一定」となるようにガス供給部を制御していれば、キャリアガスの流量が「圧力一定」となるようにガス供給部を制御することになる。つまり、オペレータは分析用温度T’を入力する必要もなく、キャリアガスの圧力・流量を交換作業開始前の値に戻す必要もない。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明のガスクロマトグラフ質量分析装置によれば、誰でも試料気化室のセプタムやガラスインサートを容易かつ正確に交換することができる。
【0027】
(その他の課題を解決するための手段及び効果)
また、本発明のガスクロマトグラフ質量分析装置は、前記交換作業が開始される前のキャリアガスの流量の制御方法は、前記キャリアガスの流量が線速度一定となるようにガス供給部を制御することであるようにしてもよい。
また、本発明のガスクロマトグラフ質量分析装置は、前記質量分析部は、前記質量分析部の真空度を計測する電離真空計を備え、前記制御部は、前記電離真空計からの信号に基づいて、エラー信号を発生させるか否かを判定するようになっており、前記制御部は、前記セプタム又はガラスインサートの交換作業が開始されたときに、前記キャリアガスの流量が0となるようにガス供給部を制御するとともに、前記電離真空計の電源がOFFとなるように制御し、前記セプタム又はガラスインサートの交換作業が終了されたときに、交換作業が開始される前のキャリアガスの流量の制御方法となるようにガス供給部を制御するとともに、前記電離真空計の電源がONとなるように制御するようにしてもよい。
セプタム又はガラスインサートの交換時はカラムを介して空気が真空室に入り込み、電離真空計が示す真空度の悪化が制御部に通知されるが、本発明のガスクロマトグラフ質量分析装置によれば、電離真空系の電源をOFFにすることにより、電離真空計が示す真空度悪化の通知を防ぐことができる。その結果、交換作業中に制御部が危険であると判定して、ガスクロマトグラフ質量分析装置全体の動作を停止させることを防止することができる。
【0028】
また、本発明のガスクロマトグラフ質量分析装置は、前記制御部は、前記セプタム又はガラスインサートの交換作業が終了されたときに、前記検出器からイオン強度信号を取得して、当該イオン強度信号に基づいて、窒素の質量スペクトルの強度を算出して、前記分析用温度になるようにヒータを制御するか否かを判定するようにしてもよい。
本発明のガスクロマトグラフ質量分析装置によれば、試料気化室やカラムの温度が分析用温度T’になる前に、試料気化室やカラムの内部に入り込んだ空気を追い出すことができる。
【0029】
そして、本発明のガスクロマトグラフ質量分析装置は、前記制御部は、前記入力装置で入力された交換作業開始信号に基づいて、前記セプタム又はガラスインサートの交換作業が開始されたと判定し、前記入力装置で入力された交換作業終了信号に基づいて、前記セプタム又はガラスインサートの交換作業が終了されたと判定するようにしてもよい。
さらに、本発明のガスクロマトグラフ質量分析装置は、前記制御部は、交換可能温度以下となるようにヒータを制御した後、交換可能温度以下になったことを示す画像を表示装置に表示するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るGC/MSの一例を示す概略構成図である。
【図2】試料気化室と流量制御ユニットとの拡大断面図である。
【図3】試料気化室の分解図である。
【図4】交換方法の手順を示すフローチャートである。
【図5】従来のGC/MSの一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0032】
図1は、本発明に係るGC/MSの一例を示す概略構成図である。なお、上述した従来のGC/MS101と同様のものについては、同じ符号を付している。
GC/MS1は、GC部10と、MS部50と、GC部10とMS部50との間に配置されるインタフェイス部70と、制御部60とを備える。
【0033】
制御部60は、パーソナルコンピュータにより具現化され、CPU61やメモリ62を備え、さらにキーボードやマウス等を有する入力装置63と、設定内容の表示や分析結果の表示等を行う表示装置64とが連結されている。
CPU61が処理する機能をブロック化して説明すると、第一ヒータ24や第二ヒータ38(図2参照)や第三ヒータ72等を制御する温度制御部61aと、流量制御ユニット(ガス供給部)40を制御する流量制御部61bと、検出器55からイオン強度信号を受信する分析制御部61cと、カラム22の内部に空気が存在するか否かを判定する判定部61dとを有する。
【0034】
また、メモリ62には、カラム22の内部に酸素が存在してもカラム22の内部の固定相皮膜が酸化されない上限の温度として、交換可能温度T(例えば、30℃)が予め記憶されるとともに、GC/MS1においてカラム22の温度を交換可能温度T以下にするために目標とする温度として、設定温度T(例えば、20℃)が予め記憶されている。
さらに、メモリ62には、カラム22の内部に所定量の酸素が存在しているか否かを判定するための閾値Ithが予め記憶されている。
【0035】
流量制御部61bは、オペレータが入力装置63を用いて、キャリアガスの流量が「線速度一定」となるように入力することで、「線速度一定」をメモリ62に記憶させ、メモリ62に記憶された「線速度一定」となるように、ガス流量調節弁43を制御することにより、キャリアガスがガス導入管42を通って筐体31の上部に供給されるとともに、ガス流量調節弁47を制御することにより、所定量のキャリアガスをカラム22へと流すとともに、所定量のキャリアガスをスプリット口36へと流す。
同様に流量制御部61bは、オペレータが入力装置63を用いて、キャリアガスの流量が「圧力一定」となるように入力することで、「圧力一定」をメモリ62に記憶させ、圧力センサ45で検出される圧力PGCが一定となるようにガス流量調節弁43を制御する。交換作業開始前は「線速度一定」と「圧力一定」のどちらで制御されていてもかまわない。
また、本発明の流量制御部61bは、オペレータが入力装置63を用いて「交換作業開始」を入力することで、「交換作業開始」をメモリ62に記憶させ、メモリ62に記憶された「交換作業開始」に基づいて、キャリアガスの流量が「圧力一定」となるように、ガス流量調節弁43、47を制御するようになっている。
さらに、本発明の流量制御部61bは、オペレータが入力装置63を用いて「交換作業終了」を入力することで、「交換作業終了」をメモリ62に記憶させ、メモリ62に記憶された「交換作業終了」に基づいて、温度制御部61aが分析用温度T’となるようにした後で、交換作業が開始される前のキャリアガスの流量の制御方法、例えばキャリアガスの流量が「線速度一定」となるように、ガス流量調節弁43、47を制御するようになっている。
【0036】
温度制御部61aは、オペレータが入力装置64を用いて分析用温度T’を入力することで、分析用温度T’をメモリ64に記憶させ、メモリ64に記憶された分析用温度T’と、温度センサ25をはじめとしたセンサで検出された温度Tとに基づいて、第一ヒータ24と第二ヒータ38と第三ヒータ72とに電力を供給することによって加熱することにより、分析用温度T’にする制御を行う。
また、本発明の温度制御部61aは、オペレータが入力装置64を用いて「交換作業開始」を入力することで、「交換作業開始」をメモリ62に記憶させ、メモリ62に記憶された「交換作業開始」に基づいて、流量制御部61bがキャリアガスの流量が「圧力一定」となるようにした後で、第一ヒータ24と第二ヒータ38と第三ヒータ72とに電力を供給することを停止することにより、設定温度Tにするようになっている。そして、温度センサ25で検出された温度Tが交換可能温度T以下になったときには、表示装置64に「交換作業可能」と表示する。
さらに、本発明の温度制御部61aは、オペレータが入力装置64を用いて「交換作業終了」を入力することで、「交換作業終了」をメモリ62に記憶させ、メモリ62に記憶された「交換作業終了」と、判定部61dからの信号とに基づいて、第一ヒータ24と第二ヒータ38と第三ヒータ72とに電力を供給することにより、分析用温度T’にするようになっている。
【0037】
分析制御部61cは、検出器55で取得したイオン強度信号をメモリ62に蓄積させるとともに、イオン強度信号に基づいて、様々な演算処理を実行し、分析結果を表示装置64に表示する制御を行う。
例えば、或る保持時間で質量走査を行った際のイオンの強度を縦軸にとるとともに、質量電荷比(m/z)を横軸にとることにより、質量スペクトルを作成する。このとき、一定間隔あけて間欠的に連続して繰り返し質量走査を行うことにより、カラム22から順次流出する各成分に対応する多数の質量スペクトルを取得する。
よって、このような多数の質量スペクトルを取得した後、或るm/zに着目して時間軸方向にイオンの強度を展開して描出することにより、選択した質量電荷比のイオンのマスクロマトグラム等を得ることができるようになっている。
【0038】
判定部61dは、セプタム32aやガラスインサート37aの交換作業が終了されたときに、MS部50にPFTBAを導入することで、検出器55からイオン強度信号を取得して、イオン強度信号に基づいて、PFTBAの質量スペクトルの強度に対する窒素の質量スペクトルの強度比を算出して、分析用温度T’になるように第一ヒータ24と第二ヒータ38と第三ヒータ72とを制御するか否かを判定する制御を行うようになっている。
具体的には、分析制御部61cが取得した質量スペクトルに基づいて、PFTBAのイオン(質量69)のピークの強度に対する窒素のイオン(質量28)のピークの強度比を算出して、強度比が閾値Ith以上であるときには、カラム22の内部に所定量の酸素が存在していると判定し、つまり設定温度Tになるように第一ヒータ24と第二ヒータ38と第三ヒータ72とを制御したままとする。一方、強度比が閾値Ith未満であるときには、カラム22の内部に所定量の酸素が存在していないと判定し、つまり分析用温度T’になるように第一ヒータ24と第二ヒータ38と第三ヒータ72とを制御するように信号を温度制御部61aに出力する。
【0039】
次に、ガラスインサート37aを交換する交換方法について説明する。図4は、交換方法の手順を示すフローチャートである。
まず、ステップS101の処理において、流量制御部61bは、オペレータによって「交換作業開始」が入力されたか否かを判定する。「交換作業開始」が入力されていないと判定したときには、ステップS101の処理を繰り返す。
一方、「交換作業開始」が入力されたと判定したときには、ステップS102の処理において、流量制御部61bは、キャリアガスの流量が「圧力一定」となるように、ガス流量調節弁43、47を制御する。
【0040】
次に、ステップS103の処理において、温度制御部61aは、第一ヒータ24と第二ヒータ38と第三ヒータ72とに電力を供給することを停止することにより、設定温度Tにする。
次に、ステップS104の処理において、温度制御部61aは、交換可能温度T以下になったか否かを判定する。交換可能温度T以下になっていないと判定したときには、ステップS104の処理を繰り返す。
一方、交換可能温度T以下になったと判定したときには、ステップS105の処理において、表示装置64に「交換作業可能」を表示する。これにより、オペレータはガラスインサート37aを交換してもよいことを認識する。
【0041】
次に、ステップS106の処理において、オペレータはガラスインサート37aを交換する。
次に、ステップS107の処理において、判定部61dは、「交換作業終了」が入力されたか否かを判定する。「交換作業終了」が入力されていないと判定したときには、ステップS107の処理を繰り返す。
一方、「交換作業終了」が入力されたと判定したときには、ステップS108の処理において、判定部61dは、MS部50にPFTBAを導入することで、検出器55からイオン強度信号を取得して、イオン強度信号に基づいて、PFTBAのイオン(質量69)のピークの強度に対する窒素のイオン(質量28)のピークの強度比を算出する。
【0042】
次に、ステップS109の処理において、判定部61dは、強度比が閾値Ith以上であるか否かを判定する。強度比が閾値Ith以上であると判定したときには、ステップS109の処理を繰り返す。
一方、強度比が閾値Ith未満であると判定したときには、ステップS110の処理において、温度制御部61aは、第一ヒータ24と第二ヒータ38と第三ヒータ72とに電力を供給することにより、分析用温度T’にする。
次に、ステップS111の処理において、流量制御部61bは、交換作業が開始される前のキャリアガスの流量の制御方法、例えばキャリアガスの流量が「線速度一定」となるように、ガス流量調節弁43、47を制御する。
【0043】
以上のように、本発明のガスクロマトグラフ質量分析装置1によれば、誰でも試料気化室30のセプタム32aやガラスインサート37aを容易かつ正確に交換することができる。
【0044】
(他の実施形態)
(1)上述したガスクロマトグラフ質量分析装置1において、流量制御部61bは、オペレータが入力装置63を用いて「交換作業開始」を入力することで、キャリアガスの流量が「圧力一定」となるように、ガス流量調節弁43、47を制御する構成としたが、制御部は、オペレータが入力装置を用いて「交換作業開始」を入力することで、キャリアガスの流量が0となるようにガス流量調節弁を制御するとともに、イオンゲージの電源がOFFとなるように制御するような構成としてもよい。そして、制御部は、オペレータが入力装置を用いて「交換作業終了」を入力すれば、交換作業が開始される前のキャリアガスの流量の制御方法、例えばキャリアガスの流量が「線速度一定」となるようにガス流量調節弁を制御するとともに、イオンゲージの電源がONとなるように制御することになる。
(2)上述したガスクロマトグラフ質量分析装置1において、オペレータが入力装置63を用いて「交換作業開始」を入力する構成としたが、計測器45が、筐体31の内部の圧力PGCの変化を検出することにより、「交換作業開始」を設定するような構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、ガスクロマトグラフ質量分析装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
20: ガスクロマトグラフ用オーブン
21: ハウジング
22: カラム
24、38、72: ヒータ
31: 筐体
32: 試料導入口
32a: セプタム
33: キャリアガス導入口
35: カラム接続口
37a : ガラスインサート
40: 流量制御ユニット(ガス供給部)
50: 質量分析部(MS部)
55: 検出器
60: 制御部
63: 入力装置
90: 注射器
91: 針

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、前記ハウジングの内部に配置されるカラムと、前記ハウジングを加熱する第一ヒータとを備えるガスクロマトグラフ用オーブンと、
液体試料が導入される試料導入口と、キャリアガスが導入されるキャリアガス導入口と、前記カラムの入口端に接続されたカラム接続口とを有する筐体と、前記筐体を加熱する第二ヒータとを備える試料気化室と、
前記カラムの出口端に接続され、前記液体試料のイオン強度信号を検出する検出器を有する質量分析部と、
前記試料気化室のキャリアガス導入口にキャリアガスを供給するガス供給部と、
分析用温度を含む設定内容を入力するための入力装置を有する制御部とを備え、
前記試料導入口には液体試料が収容された注射器の針が刺入されるセプタムが配置されるとともに、前記筐体の内部には液体試料を気化するためのガラスインサートが配置され、
前記制御部は、前記入力装置で入力された設定内容に基づいて、第一ヒータ、第二ヒータ及びガス供給部を制御しながら、前記検出器からイオン強度信号を取得するガスクロマトグラフ質量分析装置であって、
前記制御部は、前記セプタム又はガラスインサートの交換作業が開始されたときに、前記キャリアガスの流量が圧力一定となるようにガス供給部を制御した後、交換可能温度以下となるようにヒータを制御し、
交換可能温度以下になり、前記セプタム又はガラスインサートの交換作業が終了されたときに、分析用温度になるようにヒータを制御し、交換作業が開始される前のキャリアガスの流量の制御方法となるようにガス供給部を制御することを特徴とするガスクロマトグラフ質量分析装置。
【請求項2】
前記交換作業が開始される前のキャリアガスの流量の制御方法は、前記キャリアガスの流量が線速度一定となるようにガス供給部を制御することであることを特徴とする請求項1に記載のガスクロマトグラフ質量分析装置。
【請求項3】
前記質量分析部は、前記質量分析部の真空度を計測する電離真空計を備え、
前記制御部は、前記電離真空計からの信号に基づいて、エラー信号を発生させるか否かを判定するようになっており、
前記制御部は、前記セプタム又はガラスインサートの交換作業が開始されたときに、前記キャリアガスの流量が0となるようにガス供給部を制御するとともに、前記電離真空計の電源がOFFとなるように制御し、
前記セプタム又はガラスインサートの交換作業が終了されたときに、交換作業が開始される前のキャリアガスの流量の制御方法となるようにガス供給部を制御するとともに、前記電離真空計の電源がONとなるように制御することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガスクロマトグラフ質量分析装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記セプタム又はガラスインサートの交換作業が終了されたときに、前記検出器からイオン強度信号を取得して、当該イオン強度信号に基づいて、窒素の質量スペクトルの強度を算出して、前記分析用温度になるようにヒータを制御するか否かを判定することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のガスクロマトグラフ質量分析装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記入力装置で入力された交換作業開始信号に基づいて、前記セプタム又はガラスインサートの交換作業が開始されたと判定し、
前記入力装置で入力された交換作業終了信号に基づいて、前記セプタム又はガラスインサートの交換作業が終了されたと判定することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載のガスクロマトグラフ質量分析装置。
【請求項6】
前記制御部は、交換可能温度以下となるようにヒータを制御した後、交換可能温度以下になったことを示す画像を表示装置に表示することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載のガスクロマトグラフ質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−242175(P2011−242175A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112557(P2010−112557)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】