説明

ガスケット付き電解質膜−触媒層接合体、これを用いたガスケット付き電解質膜−電極接合体、及び固体高分子形燃料電池

【課題】ガスリークを確実に防止することのできるガスケット付き電解質膜−触媒層接合体、これを用いたガスケット付き電解質膜−電極接合体、及び固体高分子形燃料電池を提供することを課題とする。
【解決手段】固体高分子電解質膜2と、電解質膜2の両面にそれぞれ形成された触媒層3と、各触媒層3の外周縁部31上に設置された、中央に開口部41を有する枠状のガスケット4と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスケット付き電解質膜−触媒層接合体、これを用いたガスケット付き電解質膜−電極接合体、及び固体高分子形燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質の両面に電極が配置され、水素と酸素の電気化学反応により発電する電池であり、発電時に発生するのは水のみである。このように従来の内燃機関と異なり、二酸化炭素等の環境負荷ガスを発生しないために次世代のクリーンエネルギーシステムとして普及が見込まれている。その中でも特に固体高分子形燃料電池は、作動温度が低く、電解質の抵抗が少ないことに加え、活性の高い触媒を用いるので小型でも高出力を得ることができ、家庭用コージェネレーションシステム等として早期の実用化が見込まれている。
【0003】
この固体高分子形燃料電池は、プロトン伝導性を有する固体高分子電解質膜を用い、この電解質膜の両面に触媒層及びガス拡散層を順に積層している。そして、この触媒層及びガス拡散層からなる電極の周囲を囲むようにガスケットを配置し、さらにこれをセパレータで挟んだ構造を有している(例えば、特許文献1参照)。この固体高分子形燃料電池を発電させるために、一方の電極に水素などの燃料ガスを供給し、他方の電極に酸素などの酸化剤ガスを供給している。
【特許文献1】特開平9−274926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記固体高分子形燃料電池では、ガスケットと電極との間には隙間が形成されており、この隙間部分に対応する電解質膜は、電極またはガスケットのどちらにも押さえられていない状態となっている。このため、電解質膜が湿潤状態と乾燥状態とを繰り返して膨張と収縮が繰り返されることで、電解質膜に応力が生じて疲労してしまい、電解質膜が破損してしまうおそれがある。この結果、電解質膜の破損部分を介してガスリークが生じ、燃料ガスと酸化剤ガスが混合してしまうといった問題が生じる。
【0005】
そこで、本発明は、ガスリークを確実に防止することのできるガスケット付き電解質膜−触媒層接合体、これを用いたガスケット付き電解質膜−電極接合体、及び固体高分子形燃料電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るガスケット付き電解質膜−触媒層接合体は、上記課題を解決するためになされたものであり、固体高分子電解質膜と、前記電解質膜の両面にそれぞれ形成された触媒層と、前記各触媒層の外周縁部上に設置された、中央に開口部を有する枠状のガスケットと、を備えている。
【0007】
このように構成されたガスケット付き電解質膜−触媒層接合体は、通常、ガスケットの開口部内から露出する触媒層上にガス拡散層を形成してガスケット付き電解質膜−電極接合体を作製し、さらにこのガスケット付き電解質膜−電極接合体を挟持するようにセパレータを設置することで、固体高分子形燃料電池として使用される。この燃料電池は、仮に電解質膜が膨張収縮を繰り返して破損した場合であっても、ガスリークすることを防止することができる。すなわち、上記構成のガスケット付き電解質膜−触媒層接合体を使用した固体高分子形燃料電池は、ガスケットが触媒層の外周縁部上に設置されている。電解質膜の破損部分は触媒層よりも外側、すなわちガスケットよりも外側に位置するため、セパレータのガス流路から供給された燃料ガスや酸化剤ガスは、ガスケットに妨害されて電解質膜の破損部分まで届くことがなく、この結果、酸化剤ガスと燃料ガスとが混合することを防ぐことができる。
【0008】
上記ガスケット付き電解質膜−触媒層接合体は種々の構成をとることができるが、例えば、上記触媒層は、電解質膜と合致するような外形を有し、電解質膜の両面全体に形成されていることが好ましい。このように、電解質膜を触媒層と同一サイズ且つ同一形状とすることによって、発電に寄与しない電解質膜・触媒層の使用を最小限に抑えることができる。
【0009】
また、上記ガスケットは、触媒層に面する一方面側に接着層を有していることが好ましい。このように構成することで、ガスケットと電解質膜−触媒層接合体とを一体として取り扱うことができるので、後工程においてガス拡散層やセパレータを設置する際に取り扱いが容易になる。
【0010】
また、上記各ガスケットは、電解質膜及び触媒層からなる電解質膜−触媒層接合体よりも一回り大きく形成されており、電解質膜−触媒層接合体の外側において互いの接着層同士が接着していることが好ましい。このように、接着層同士を接着させることで、より強固にガスケットを電解質膜−触媒層接合体に接着させることができる。
【0011】
また、上記ガスケットは、他方面側に耐熱層を有していることが好ましい。上述したように、上記ガスケット付き電解質膜−触媒層接合体は、ガス拡散層やセパレータを設置して固体高分子形燃料電池として通常使用されるが、この燃料電池は発電時においてセパレータが高温となるため、ガスケットのセパレータと接する面に耐熱層を形成して耐熱性を持たせることが耐久性の観点から好ましい。
【0012】
また、上記ガスケットは、弾性を有していることが好ましい。このようにガスケットに弾性を持たせることによって、例えば、ガスケットの厚さよりも薄いガス拡散層を設置して、ガスケットがガス拡散層と同じ厚さとなるようにセパレータでガスケットを押さえつけることによって、よりガスケットを電解質膜−触媒層接合体に密着させることができる。
【0013】
また、本発明に係るガスケット付き電解質膜−電極接合体は、上記課題を解決するためになされたものであり、上述したいずれかのガスケット付き電解質膜−触媒層接合体と、前記触媒層の開口部内の前記触媒層上に、前記ガスケットの厚さ以下の厚さに形成されたガス拡散層と、を備えている。
【0014】
また、本発明に係る固体高分子形燃料電池は、上記課題を解決するためになされたものであり、上記ガスケット付き電解質膜−電極接合体と、前記ガスケット付き電解質膜−電極接合体を挟持するように設置され、前記ガス拡散層と対向する領域にガス流路が形成されたセパレータと、を備えている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ガスリークを確実に防止することのできるガスケット付き電解質膜−触媒層接合体、これを用いたガスケット付き電解質膜−電極接合体、及び固体高分子形燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係るガスケット付き電解質膜−触媒層接合体、ガスケット付き電解質膜−電極接合体、及び固体高分子形燃料電池の実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は本実施形態に係る固体高分子形燃料電池の正面断面図、図2は本実施形態に係る固体高分子形燃料電池の平面図、図3はガスケット付き電解質膜−電極接合体の外周縁部の詳細を示す拡大正面断面図である。なお、図2において、説明を分かりやすくするため、セパレータの記載を省略している。
【0017】
図1及び図2に示すように、固体高分子形燃料電池1は、平面視矩形状の電解質膜2を備えており、電解質膜2の上面及び下面に電解質膜2よりも一回り小さい平面視矩形状の触媒層3が形成されている。この電解質膜2の両面に触媒層3が形成されたものを電解質膜−触媒層接合体10という。このように、触媒層3は電解質膜2よりも一回り小さく形成されているため、電解質膜2の外周縁部21上には触媒層3が形成されていない。なお、電解質膜2の外周縁から触媒層3の外周縁までの距離C(図3参照)は、0〜5mmであることが好ましい。
【0018】
そして、この電解質膜−触媒層接合体10の上面及び下面に、中央に開口部41を有する枠状のガスケット4がそれぞれ設置されている。ガスケット4は、弾性を有するガスケット本体40から構成されており、このガスケット本体40の電解質膜−触媒層接合体10と対向する面(一方面)に接着層42が形成され、もう一方の面、すなわち、後述するセパレータ6と対向する面(他方面)に耐熱層43が形成されている。ガスケット4自体の厚さは、特に限定されるものではないが、100〜500μmであることが好ましく、この内、接着層42の膜厚は、5〜100μmとすることが好ましく、耐熱層43の膜厚は、5〜100μmとすることが好ましい。ガスケット4が電解質膜−触媒層接合体10に設置された状態では、触媒層3がその外周縁部31を除いてガスケット4の開口部41から露出しているとともに、触媒層3の外周縁部31と電解質2の外周縁部21上にガスケット4が接着している。なお、触媒層3の外周縁からガスケット4の内周縁までの距離B(図3参照)は、1〜5mmとすることが好ましい。また、ガスケット4は、電解質膜2よりも一回り大きく形成されているため、電解質膜2の外側で、電解質膜2からはみ出た各ガスケット4の外周縁部45同士が接着している。このガスケット4の外周縁から電解質膜2の外周縁までの距離D(図3参照)は10〜100mmであることが好ましい。なお、このように、電解質膜−触媒層接合体10にガスケット4が設置されたものが、本発明のガスケット付き電解質膜−触媒層接合体に相当する。
【0019】
ガスケット4の開口部41から露出している触媒層3上に平面視矩形状のガス拡散層5が設置されている。このガス拡散層5の厚さは、ガスケット4の厚さと同じか、若しくはガスケット4の厚さよりも20〜200μm程度薄いものを使用する。このガス拡散層5の外周縁からガスケット4の内周縁までの距離A(図3参照)は、0〜5mmであることが好ましい。このように、触媒層3上にガス拡散層5が形成されて電極Eを構成しており、電解質膜2の両面に電極Eが形成されたものを電解質膜−電極接合体20という。なお、本実施形態のように、電解質膜−電極接合体20にガスケット4が設置されているものが、本発明のガスケット付き電解質膜−電極接合体に相当する。
【0020】
ガスケット付き電解質膜−電極接合体を挟持するように、ガスケット付き電解質膜−電極接合体の上面及び下面にセパレータ6が設置されている。セパレータ6は、ガス拡散層5と対向する領域にガス流路71が形成されている。
【0021】
次に上記のように構成された固体高分子形燃料電池1の各構成要素の材質について説明する。
【0022】
電解質膜2は、例えば、基材上に水素イオン伝導性高分子電解質を含有する溶液を塗工し、乾燥することにより形成される。水素イオン伝導性高分子電解質としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂、より具体的には、炭化水素系イオン交換膜のC−H結合をフッ素で置換したパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー(PFS系ポリマー)等が挙げられる。電気陰性度の高いフッ素原子を導入することで、化学的に非常に安定し、スルホン酸基の解離度が高く、高いイオン伝導性が実現できる。このような水素イオン伝導性高分子電解質の具体例としては、デュポン社製の「Nafion」(登録商標)、旭硝子(株)製の「Flemion」(登録商標)、旭化成(株)製の「Aciplex」(登録商標)、ゴア(Gore)社製の「Gore Select」(登録商標)等が挙げられる。水素イオン伝導性高分子電解質含有溶液中に含まれる水素イオン伝導性高分子電解質の濃度は、通常5〜60重量%程度、好ましくは20〜40重量%程度である。なお、電解質膜2の膜厚は通常20〜250μm程度、好ましくは20〜80μm程度である。
【0023】
触媒層3は、公知の白金含有の触媒層(カソード触媒及びアノード触媒)である。詳しくは、触媒層3は、触媒粒子を担持させた炭素粒子及び水素イオン伝導性高分子電解質を含有する。触媒粒子としては、例えば、白金や白金化合物等が挙げられる。白金化合物としては、例えば、ルテニウム、パラジウム、ニッケル、モリブデン、イリジウム、鉄等からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と、白金との合金等が挙げられる。なお、通常は、カソード触媒層に含まれる触媒粒子は白金であり、アノード触媒層に含まれる触媒粒子は前記金属と白金との合金である。また、水素イオン伝導性高分子電解質としては、上述した電解質膜2に使用されるものと同じ材料を使用することができる。
【0024】
ガスケット4は、ガスケット本体40、接着層42及び耐熱層43から構成されている。ガスケット本体40としては、繊維質シート及び多孔質シート、紙等を使用できる。繊維質シート及び多孔質シートを構成する繊維あるいは樹脂としては、耐熱性、耐酸性、耐加水分解性や柔軟性が必要である。繊維としては、例えばセルロース、羊毛、絹、綿、麻等の天然繊維、あるいはガラス繊維、炭素繊維、岩石繊維、またはポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリメチルペンテン等の周知の耐熱性合成樹脂を繊維化した化学繊維、あるいは、上記の耐熱性合成樹脂からなる未延伸シートあるいは延伸シートを多孔質化したものを挙げることができる。紙としては、クラフト紙、クレープ紙、上質紙、コート紙、和紙等が挙げられる。例えば、アセテート繊維のクロス、ポリエステルの不織布、紙、あるいはこれらの複合基材を使用することができる。また、接着層42の材料としては、合成樹脂系の接着剤を使用することができ、例えば、アクリル系、ゴム系、シリコーン系を使用できる。より具体的にはアクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸エステル共重合体、天然ゴム(NR)、合成天然ゴム(IR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ポリイソブチレン(PIB)、ブチルゴム(IIR)、シリコンゴム等である。また、耐熱層43の材料としては、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリメチルペンテン、ポリエーテルエーテルケトン等を挙げることができる。
【0025】
ガス拡散層5としては、公知であり、燃料極、空気極を構成する各種のガス拡散層を使用でき、燃料である燃料ガス及び酸化剤ガスを効率よく触媒層3に供給するため、多孔質の導電性基材からなっている。多孔質の導電性基材としては、例えば、カーボンペーパーやカーボンクロス等が挙げられる。
【0026】
セパレータ6としては、公知であり、燃料電池内の環境においても安定な導電性板であればよく、一般的には、カーボン板にガス流路71を形成したものが用いられる。また、セパレータ6をステンレス等の金属により構成し、金属の表面にクロム、白金族金属又はその酸化物、導電性ポリマーなどの導電性材料からなる被膜を形成したものや、同様にセパレータを金属によって構成し、該金属の表面に銀、白金族の複合酸化物、窒化クロム等の材料によるメッキ処理を施したもの等も使用可能である。
【0027】
次に上述した固体高分子形燃料電池1の製造方法について図面を参照しつつ説明する。図4は、本実施形態に係る固体高分子形燃料電池1の製造方法を示す説明図である。
【0028】
まず、上述した材料からなる電解質膜2を準備し、この電解質膜2の両面に触媒層形成用転写シート8を重ねて配置する(図4(a))。ここで触媒層形成用転写シート8とは、転写される触媒層3が転写用基材81に形成されたものである。この触媒層形成用転写シート8の製造方法について説明すると、まず、上述した触媒粒子を担持させた炭素粒子及び水素イオン伝導性高分子電解質を適当な溶剤に混合、分散して触媒ペーストを作製する。そして、形成される触媒層3が所望の膜厚になるように触媒ペーストを公知の方法に従い、必要に応じて離型層を介して転写用基材81上に塗工する。このとき、触媒層3が、電解質膜2よりも一回り小さい形状となるように、触媒ペーストを転写用基材81に塗工する。触媒ペーストの塗工方法としては、スクリーン印刷や、スプレーコーティング、ダイコーティング、ナイフコーティングなどの公知の塗工方法を挙げることができる。また、上記の溶剤としては、各種アルコール類、各種エーテル類、各種ジアルキルスルホキシド類、水またはこれらの混合物等が挙げられ、これらの中でもアルコール類が好ましい。アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、等の炭素数1〜4の一価アルコール、各種の多価アルコール等が挙げられる。転写用基材81としては、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリパルバン酸アラミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテル・エーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート等の高分子フィルムを挙げることができる。また、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の耐熱性フッ素樹脂を用いることもできる。さらに転写用基材81は、高分子フィルム以外にアート紙、コート紙、軽量コート紙等の塗工紙、ノート用紙、コピー用紙などの非塗工紙であっても良い。転写用基材81の厚さは、取り扱い性及び経済性の観点から通常6〜100μm程度、好ましくは10〜30μm程度程度とするのがよい。従って、転写用基材81としては、安価で入手が容易な高分子フィルムが好ましく、ポリエチレンテレフタレート等がより好ましい。
【0029】
そして、触媒ペーストを塗工した後、所定の温度及び時間で乾燥することにより転写用基材81上に触媒層3が形成される。乾燥温度は、通常40〜100℃程度、好ましくは60〜80℃程度である。乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、通常5分〜2時間程度、好ましくは10分〜1時間程度である。
【0030】
固体高分子形燃料電池の製造方法について説明を続けると、上述したように作製した触媒層形成用転写シート8を触媒層3が電解質膜1に対面するように配置し(図4(a))、転写シート8の背面側から加熱プレスを施して触媒層3を電解質膜2に転写させて、転写シート8の転写用基材81を剥離する(図4(b))。作業性を考慮すると、触媒層3を電解質膜2の両面に同時に積層することが好ましいが片面ずつ触媒層3を形成することもできる。加熱プレスの加圧レベルは、転写不良を避けるために、通常0.5〜20MPa程度、好ましくは1〜10MPa程度がよい。また、この加圧操作の際に、転写不良を避けるために加圧面を加熱するのが好ましい。加熱温度は、電解質膜2の破損、変形等を避けるために、通常200℃以下、好ましくは150℃以下がよい。このように電解質膜2の両面に触媒層3を形成することで電解質膜−触媒層接合体10が形成される。このとき、触媒層3は、電解質膜2よりも一回り小さいため、電解質膜2の外周縁部21は露出された状態となっている。
【0031】
次に、このようにして形成された電解質膜−触媒層接合体10に、ガスケット4を取り付ける(図4(c))。より詳細には、電解質膜−触媒層接合体10の上面及び下面にガスケット4をそれぞれ配置する。このとき各ガスケット4の接着層42が互いに向き合うように各ガスケット4を配置する。そして、ガスケット4の開口部41から触媒層3が外周縁部31を除いて露出するよう、ガスケット4をそれぞれ触媒層3の外周縁部31及び電解質膜2の外周縁部21上に接着させる。
【0032】
続いて、上述したガスケット付き電解質膜−触媒層接合体の開口部41から露出している触媒層3上に、ガス拡散層5を熱圧着により積層形成して、ガスケット付き電解質膜−電極接合体が完成する(図4(d))。そして、このガスケット付き電解質膜−電極接合体を挟持するように、セパレータ6を設置する。このときセパレータ6のガス流路61はガス拡散層5と対向している。以上により固体高分子形燃料電池1が完成する(図4(e))。
【0033】
以上のように、本実施形態では、電解質膜2の外周縁部21は、ガスケット4によって拘束されているため、電解質膜2の膨張・収縮を抑制することができ、その結果、電解質膜2の破損を防止することができる。また、仮に電解質膜2の外周縁部21が破損してしまっても、ガスケット4が触媒層3の外周縁部31上に設置されているため、セパレータ6のガス流路61から供給されるガスは、ガスケット4に妨害されて電解質膜2の外周縁部21における破損部分まで届くことがなく、アノード電極に供給される燃料ガスとカソード電極に供給される酸化剤ガスとが混合することを確実に防止することができる。
【0034】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、ガスケット4は、電解質膜−触媒層接合体10よりも一回り大きく形成されていたが、特にこれに限定されるものではなく、図5に示すように、ガスケット4を触媒層3とほぼ同じ大きさに形成し、触媒層3の外周縁部31上にのみガスケット4を設置することもできる。
【0035】
また、上記実施形態では、触媒層3は電解質膜2よりも一回り小さく形成されているが、特にこれに限定されるものではなく、触媒層3を電解質膜2と同じ大きさに形成することもできる。すなわち、図7に示すように、電解質膜2を、触媒層3と同一サイズ且つ同一形状とし、触媒層3が電解質膜2の両面全体を覆うように形成することができる。このように、発電に寄与していなかった電解質膜2の外周縁部21を省略することによって、一般的に高価な電解質膜2の使用を抑制し低コスト化を図ることができる。
【0036】
また、上記実施形態では、ガスケット4は、弾性を有するガスケット本体42の一方面に接着層42を形成し、他方面に耐熱層43を形成しているが、接着層42や耐熱層43を形成せず、ガスケット本体42のみの構成とすることもできる。
【0037】
また、上記実施形態では、固体高分子形燃料電池1を構成する電解質膜2や触媒層3、ガス拡散層5など全て平面視矩形状として説明したが、特に形状は限定されるものではなく、例えば平面視円形状とすることもできる。
【実施例】
【0038】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
電解質膜2は、63×63mmの大きさに切断された膜厚53μmのNRE212CS(Dupont社製)を使用した。
【0040】
次に、触媒形成用転写シート8を次の要領で作製した。まず、白金触媒担持カーボン(白金担持量:45.7wt%、田中貴金属社製、TEC10E50E)2gに、1−ブタノール10g、3−ブタノール10g、フッ素樹脂(5wt%ナフィオンバインダー、デュポン社製)20g及び水6gを加え、これらを分散機にて攪拌混合することにより、触媒形成用インク組成物を調製した。次に、該インクをポリエステルフィルム(東レ製、X44、25μm)に触媒層乾燥後の白金重量が0.4mg/cmとなるように塗工し、触媒形成用転写シート8を作製した。
【0041】
以上のように作製した触媒形成用転写シート8を60×60mmの大きさに切断し、電解質膜2の両面それぞれに触媒層3が電解質膜2側を向くように中心を合わせて配置した。そして、135℃、5.0MPa、150秒の条件で熱プレスすることで、電解質膜2の両面に触媒層3を形成し、電解質膜−触媒層接合体10を作製した。なお、触媒層3の厚さは20μmである。
【0042】
続いて、ガスケット4として、高絶縁性テープ(日東電工社製、No.341)を使用した。この高絶縁性テープは、厚さ375μmのポリエステル不織布からなるガスケット本体40と、厚さ50μmのおアクリル樹脂からなる接着層42と、厚さ25μmのポリエステルフィルムからなる耐熱層43とから構成されている。このガスケット4を80×80mmの大きさに切断し、その中央部に50×50mmの大きさの開口部41を形成した。そして、ガスケット4を電解質膜−触媒層接合体10の両面に中心を合わせて配置して圧着することでガスケット4を電解質膜−触媒層接合体10に接着させ、ガスケット付き電解質膜−触媒層接合体を作製した。
【0043】
さらに続いて、開口部41から露出している触媒層3上に、ガス拡散層5として、49×49mmの大きさに切断されたカーボンペーパー(東レ社製、TGP−H−090、厚さ280μm)を積層し、ガスケット付き電解質膜−電極接合体を形成した。
【0044】
(比較例1)
電解質膜2は、80×80mmの大きさに切断された膜厚53μmのNRE212CS(Dupont社製)を使用した。
【0045】
次に、上記実施形態1と同一の触媒形成用転写シート8を50×50mmの大きさに切断し、電解質膜2の両面それぞれに触媒層3が電解質膜2側を向くように中心を合わせて配置した。そして、135℃、5.0MPa、150秒の条件で熱プレスすることで、電解質膜2の両面に触媒層3を形成し、電解質膜−触媒層接合体10を作製した。なお、触媒層3の厚さは20μmである。
【0046】
続いて、ガスケットは、ガスケット本体として厚さ100μmのポリエチレンナフタレートを使用し、その上面及び下面にそれぞれ100μmの厚さを有するシリコンゴムの層を形成した。このガスケットを80×80mmの大きさに切断し、その中央部に51×51mmの大きさの開口部41を形成した。開口部41から露出している触媒層3上に、ガス拡散層5として、49×49mmの大きさに切断されたカーボンペーパー(東レ社製、TGP−H−090、厚さ280μm)を積層し、ガスケット付き電解質膜−電極接合体を形成した。図6に示すように、ガスケットは電解質膜2の外周縁部上に設置されており、ガスケットと触媒層との間には隙間が形成されている。
【0047】
(評価方法)
実施例1及び比較例1のガスケット付き電解質膜−電極接合体について、セパレータ6を設置して固体高分子形燃料電池をそれぞれ作製し、負荷変動サイクル試験を実施した。このときの測定条件は、セル温度80℃、燃料利用率70%、酸化剤利用率40%、加湿温度50℃とした。電流電圧測定評価の結果、実施例1の燃料電池セルの耐久性時間は1000時間であり、評価後、電解質膜の破損は見られなった。一方、比較例1の燃料電池セルの耐久性時間は300時間であり、300時間評価後、電解質膜2の破損が目視により確認された。また、負荷変動サイクル試験後のリーク電流量を測定した結果、実施例1の燃料電池セルのリーク電流量は1mA/cm以下に対し、比較例1の燃料電池セルのリーク電流量は20mA/cm以上で、電解質膜の破損によるガスリークが観られた。
【0048】
このように、実施例1の固体高分子形燃料電池では、耐久時間の上昇がみられることから、本発明の固体高分子型燃料電池を用いると電解質膜破損の問題が解決されたことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る固体高分子形燃料電池の実施形態を示す正面断面図である。
【図2】本発明に係る固体高分子形燃料電池の実施形態を示す平面図である。
【図3】本実施形態に係るガスケット付き電解質膜−電極接合体の外周縁部の詳細を示す拡大正面断面図である。
【図4】本実施形態に係る固体高分子形燃料電池の製造方法を示す説明図である。
【図5】本発明に係る固体高分子形燃料電池の他の実施形態を示す正面断面図である。
【図6】比較例1に係るガスケット付き電解質膜−電極接合体を示す正面断面図である。
【図7】本発明に係る固体酸化物形燃料電池の他の実施形態を示す正面断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 固体高分子形燃料電池
2 電解質膜
21 電解質膜の外周縁部
3 触媒層
31 触媒層の外周縁部
4 ガスケット
40 ガスケット本体
41 開口部
42 接着層
43 耐熱層
45 ガスケットの外周縁部
5 ガス拡散層
6 セパレータ
10 電解質膜−触媒層接合体
20 電解質膜−電極接合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜と、
前記電解質膜の両面にそれぞれ形成された触媒層と、
前記各触媒層の外周縁部上に設置された、中央に開口部を有する枠状のガスケットと、
を備えた、ガスケット付き電解質膜−触媒層接合体。
【請求項2】
前記触媒層は、前記電解質膜と合致するような外形を有し、前記電解質膜の両面全体に形成されている、請求項1に記載のガスケット付き電解質膜−触媒層接合体。
【請求項3】
前記ガスケットは、前記触媒層に面する一方面側に接着層を有している、請求項1又は2に記載のガスケット付き電解質膜−触媒層接合体。
【請求項4】
前記各ガスケットは、前記電解質膜及び触媒層からなる電解質膜−触媒層接合体よりも一回り大きく形成されており、前記電解質膜−触媒層接合体の外側において互いの接着層同士が接着している、請求項3に記載のガスケット付き電解質膜−触媒層接合体。
【請求項5】
前記ガスケットは、他方面側に耐熱層を有している、請求項1から4のいずれかに記載のガスケット付き電解質膜−触媒層接合体。
【請求項6】
前記ガスケットは、弾性を有している、請求項1から5のいずれかに記載のガスケット付き電解質膜−触媒層接合体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のガスケット付き電解質膜−触媒層接合体と、
前記触媒層の開口部内の前記触媒層上に、前記ガスケットの厚さ以下の厚さに形成されたガス拡散層と、
を備えた、ガスケット付き電解質膜−電極接合体。
【請求項8】
請求項7に記載のガスケット付き電解質膜−電極接合体と、
前記ガスケット付き電解質膜−電極接合体を挟持するように設置され、前記ガス拡散層と対向する領域にガス流路が形成されたセパレータと、
を備えた、固体高分子形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−135068(P2009−135068A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15999(P2008−15999)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】