説明

ガスケット及びシリンダヘッド部のシール構造

【課題】主シール部と補助シール部との間の連結部が、繰り返し変形することを抑制することができるようにする。
【解決手段】ガスケット15には、シリンダヘッド11とシリンダヘッドカバー14との間の外周部及び内側部に介在される主シール部16を設け、その主シール部16には連結部23を一体に設ける。連結部23には厚肉のボス部32を形成し、そのボス部32の中心にはシリンダヘッドカバー14側に設けた固定ピン34に嵌合固定される嵌合孔33を形成する。ボス部32の上端面にはシリンダヘッドカバー14側の内面に当接される当接面32aを形成するとともに、下端面にはシリンダヘッド11上にカムキャップ12を固定するためのボルト13の頭部13aに当接される当接面32bを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用エンジンのシリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとの間に介在されるガスケット及びそのガスケットが使用されるシリンダヘッド部のシール構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術としては、例えば特許文献1及び特許文献2に開示されるような構成が提案されている。これらの従来構成のガスケットでは、シリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとの外周部間に介在される主シール部と、点火プラグの部分においてシリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとの間をシールするために介在される補助シール部と、主シール部及び補助シール部間を連結する薄肉状の連結部とが一体に形成されている。
【特許文献1】実開昭60−54753号公報(実公平1−17634号公報)
【特許文献2】特開平10−246152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、これらの従来構成のガスケットにおいて、主シール部と補助シール部との間の連結部は、シリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとの間で挟持固定されることなく、フリーな状態で延長配置されている。このため、エンジンや車両の振動にともなって単独で振動して繰り返し変形し、劣化のおそれがあって、場合によっては破断されてしまうという問題があった。
【0004】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、主シール部と補助シール部との間の連結部がエンジンや車体の振動にともなって繰り返し変形されることを抑制し、これによって連結部の劣化や破断を防止することができるガスケット及びシリンダヘッド部のシール構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、ガスケットに係る本発明は、シリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとの外周部間及び内側部間にそれぞれ介在される主シール部及び補助シール部と、主シール部及び補助シール部間を一体に連結する連結部とを備えたガスケットにおいて、前記連結部にはシリンダヘッドカバーに形成した固定部に固定される被固定部を設けたことを特徴としている。
【0006】
従って、この発明のガスケットの組付け状態では、主シール部がシリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとの外周部間に介在されて固定されるとともに、補助シール部がシリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとの内側部間に介在されて固定される。また、主シール部と補助シール部との間の連結部が、被固定部においてシリンダヘッドカバーの固定部に固定される。よって、車両振動やエンジン振動にともなう連結部の繰り返し変形が抑制される。このため、連結部が劣化したり破損したりするおそれを防止することができる。
【0007】
また、前記の構成において、前記被固定部は、ピンよりなる固定部に嵌合される嵌合孔から構成するとよい。このように構成した場合には、連結部側の嵌合孔をシリンダヘッドカバー側のピンに嵌合させることにより、連結部をシリンダヘッドカバーに対して簡単に固定することができる。
【0008】
さらに、前記の構成において、前記嵌合孔をボス部の中心に形成するとよい。このように構成した場合には、ピンに対する嵌合孔の周囲の剛性を十分に確保することができて、連結部を安定状態で固定することができる。
【0009】
さらに、前記の構成において、前記ボス部の上端面にはシリンダヘッドカバーの内面に当接される当接面を形成するとともに、下端面には前記シリンダヘッド上にカムキャップを固定するためのボルトの頭部に当接される当接面を形成するとよい。このように構成した場合には、ボス部の上下両端面の当接面がシリンダヘッドカバーの内面及びボルトの頭部に当接されることにより、嵌合孔がピンに嵌合されている構成においては、嵌合孔がピンから離脱することを防止できる。よって、連結部を固定状態により確実に保持することができる。
【0010】
シリンダヘッド部のシール構造に係る本発明においては、シリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとの外周部間及び内側部間にそれぞれガスケットの主シール部及び補助シール部を介在し、前記ガスケットの前記主シール部と補助シール部との間を一体に連結する連結部には被固定部を形成し、その被固定部をシリンダヘッドカバーに形成された固定部に固定したことを特徴とする。
【0011】
この構成においても、車両振動やエンジン振動にともなう連結部の繰り返し変形が抑制される。このため、連結部が劣化したり破損したりするおそれを防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、この発明によれば、主シール部と補助シール部との間の連結部が、繰り返し変形するおそれを抑制することができるという効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(第1実施形態)
以下に、この発明の第1実施形態を、図1〜図5に基づいて説明する。
図3及び図4に示すように、この実施形態の車両用エンジンのシリンダヘッド11の上面には、カムキャップ12が複数のボルト13により固定されている。このカムキャップ12は、その下面に形成された凹部12aにおいて、エンジンのカム軸(図示しない)上に設けられた動弁カム(図示しない)を覆うように配置されている。
【0014】
図1、図3及び図4に示すように、前記シリンダヘッド11上には、耐熱合成樹脂製のシリンダヘッドカバー14がその周壁部において複数のボルト(図示しない)により固定されている。シリンダヘッド11とシリンダヘッドカバー14との間の外周部間には、アクリルゴム,フッ素ゴム,シリコンゴム等の耐熱性及び耐油性を有する弾性材料よりなるガスケット15のほぼ四角枠状をなす主シール部16が介在されている。
【0015】
図3及び図4に示すように、前記シリンダヘッドカバー14には、同シリンダヘッドカバー14の内部を上下に区画するためのバッフルプレート17が固定されており、そのバッフルプレート17には複数のオイル滴下孔(図示しない)が形成されている。バッフルプレート17にはオイル供給孔18が形成されている。このオイル供給孔18に対応して、バッフルプレート17の下面には接続筒19が形成されている。一方、カムキャップ12及びシリンダヘッド11には、後述の接続孔24を介して接続筒19に接続されるオイル圧送通路20が形成されている。そして、エンジンのオイルパン(図示しない)から圧送された潤滑油が前記圧送通路20,接続孔24,接続筒19及びオイル供給孔18を介してバッフルプレート17の上面側の空間内に供給される。そして、バッフルプレート17上に供給された潤滑油が、前記図示しないオイル滴下孔から前記カム軸の軸受部や動弁カムの部分に対して滴下される。なお、バッフルプレート17の上面側の空間はブローバイガスから潤滑油を分離するための機能をも有している。
【0016】
図1及び図2に示すように、前記ガスケット15の主シール部16の上面には、突条部16aが一体に形成されている。主シール部16の内周には複数の取付座部21が突出形成され、各取付座部21には前記ボルトを挿通させるための挿通孔21aが形成されている。これらの挿通孔21aは、前記シリンダヘッド11に形成された複数のネジ孔(図示しない)及びシリンダヘッドカバー14に形成された複数のネジ挿通孔(図示しない)に対応している。そして、図4及び図5に示すように、シリンダヘッドカバー14の周壁下面に形成された溝部22に主シール部16上の突条部16aが嵌合されることにより、ガスケット15の主シール部16がシリンダヘッドカバー14に取り付けられる。
【0017】
このガスケット15の取り付け状態で、シリンダヘッドカバー14がシリンダヘッド11上に配置され、シリンダヘッドカバー14の各ネジ挿通孔から主シール部16の各挿通孔21aを介して、シリンダヘッド11上の各ネジ孔に複数のボルトが螺合される。この螺合により、シリンダヘッドカバー14がシリンダヘッド11上に組み付けられるとともに、ガスケット15の主シール部16がシリンダヘッド11とシリンダヘッドカバー14との外周部間に介在される。
【0018】
図1〜図5に示すように、前記ガスケット15における主シール部16の内周側の一部には、先端部を後述の補助シール部とした薄肉帯状の連結部23が内方に向かって一体に延長されている。この補助シール部はシリンダヘッド11とシリンダヘッドカバー14との内側部間をシールする。連結部23の先端部の上面には、第1筒状部25及び第2筒状部26が隣接して形成されている。連結部23には2つの屈曲部23a,23bが形成され、この屈曲部23a,23bによって、連結部23と前記カムキャップ12との干渉が回避されている。
【0019】
図4に示すように、前記バッフルプレート17の接続筒19の近傍において、シリンダヘッドカバー14の内面にはボス部27が突出形成されている。ボス部27内には金属製のボルト挿通筒28が固定され、このボルト挿通筒28とボス部27との下端部間には環状の溝部29が形成されている。そして、シリンダヘッドカバー14の下端の溝部22にガスケット15の主シール部16上の突条部16aが嵌合されるとき、図4に示すように、連結部23上の第1筒状部25がボス部27の下端の溝部29に嵌合される。それともに、図5に示すように、連結部23上の第2筒状部26がバッフルプレート17の接続筒19の下端部に嵌合されて、接続孔24がオイル圧送通路20と接続筒19との間を接続する。これらの嵌合により、連結部23の先端部がボス部27及び接続筒19の下端部に取り付けられる。
【0020】
この状態で、図4に示すように、シリンダヘッドカバー14上からボルト挿通筒28及び接続孔24を介して、カムキャップ12上のネジ孔30にボルト31が螺合される。この螺合により、バッフルプレート17の接続筒19とカムキャップ12のオイル圧送通路20との近傍部分が締め付けられて、その部分の剛性が向上するとともに位置が規定され、両接続筒19とオイル圧送通路20が位置ずれなく接続される。そして、このシリンダヘッドカバー14のボス部27とカムキャップ12との接合部間、及びオイル圧送通路20とオイル供給孔18との間、すなわちシリンダヘッド11とシリンダヘッドカバー14との内側部間が補助シール部を構成する連結部23の先端部によってシールされる。従って、連結部23は、前記主シール部16と前記補助シール部との間を一体に連結する。
【0021】
図1〜図4に示すように、前記ガスケット15の連結部23には、厚肉状のボス部32が形成されている。ボス部32の中心には、被固定部としての嵌合孔33が形成されている。シリンダヘッドカバー14側のバッフルプレート17の下面には、嵌合孔33に嵌合可能な固定部としての固定ピン34が突出形成されている。ボス部32の上端面には、シリンダヘッドカバー14側のバッフルプレート17の下面に当接される当接面32aが形成されている。ボス部32の下端面には、前記カムキャップ12上のボルト13の頭部13aに当接される当接面32bが形成されている。
【0022】
そして、前記シリンダヘッドカバー14の下端の溝部22にガスケット15の主シール部16上の突条部16aが嵌合された状態において、図4に示すように、ボス部32の嵌合孔33がバッフルプレート17の下面の固定ピン34に嵌合される。この嵌合により、ガスケット15の連結部23がシリンダヘッドカバー14側に固定される。このガスケット15の取り付け状態で、シリンダヘッドカバー14がシリンダヘッド11上に組み付けられるとき、図4に示すように、ボス部32の上端当接面32aがバッフルプレート17の下面に当接されるとともに、下端当接面32bがカムキャップ12上のボルト13の頭部13aに当接される。このため、ボス部32の嵌合孔33が固定ピン34に対して抜け止めされて、ガスケット15の連結部23が固定状態に保持される。
【0023】
そして、この実施形態においては、以下の効果がある。
(1) この実施形態のガスケット15においては、連結部23に、厚肉のボス部32が形成され、そのボス部32の中心にはシリンダヘッドカバー14側に設けた固定ピン34に嵌合固定される嵌合孔33が形成されている。よって、ボス部32の嵌合孔33を固定ピン34に嵌合させることにより、連結部23をシリンダヘッドカバー14に対して簡単かつ強固に固定することができる。従って、エンジン振動や車体振動等にともなって、ガスケット15の連結部23が単独で繰り返し変形することを少なくできて、同部分が劣化するおそれを抑制することができる。
【0024】
(2) この実施形態のガスケット15においては、ボス部32の上端面にシリンダヘッドカバー14側のバッフルプレート17の下面に当接される当接面32aが形成されるとともに、下端面にはカムキャップ12上のボルト13の頭部13aに当接される当接面32bが形成されている。よって、このボス部32の上下両端面の当接面32a,32bがバッフルプレート17の下面及びボルト13の頭部13aに当接されることにより、嵌合孔33が固定ピン34から抜け出すことを防止することができて、連結部23を固定状態に保持することができる。
【0025】
(第2実施形態)
次に、この発明の第2実施形態を、前記第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
さて、この第2実施形態においては、図6に示すように、バッフルプレート17の下面に突設された固定部としての固定ピン34の先端外周に、複数の抜け止め突起35が形成されている。そして、ガスケット15側のボス部32の嵌合孔33が固定ピン34に嵌合されたとき、これらの抜け止め突起35が嵌合孔33の内周面に食い込んで、嵌合孔33が固定ピン34に対する嵌合状態に保持される。
【0026】
従って、この第2実施形態においても、前記第1実施形態に記載の効果とほぼ同様の効果を得ることができる。
また、この第2実施形態においては、以下の効果がある。
【0027】
(3) 固定ピン34の先端に抜け止め突起35が形成されているため、前記第1実施形態のように、ボス部32の下端当接面32bとボルト13の頭部13aとの当接構造を設けなくても、嵌合孔33が固定ピン34から抜け出するのを防止することができる。
【0028】
(変更例)
なお、この実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 前記第2実施形態において、カムキャップ12上のボルト13の頭部13aに対して、ガスケット15のボス部32の下端当接面32bを当接させる構造を省略すること。
【0029】
・ 前記第1,第2実施形態において、連結部23の内端部において、シリンダヘッドカバー14のボス部27とカムキャップ12との間、接続筒19とカムキャップ12との間に介在される部分を厚肉状に形成してシール性を向上させること。
【0030】
・ 前記第1,第2実施形態において、固定ピン34を省略し、ボス部32とバッフルプレート17とカムキャップ12あるいはボルト13の頭部との間で挟持すること。
・ 固定ピン34に嵌合される嵌合孔33をボス部32を形成することなく、連結部23に直接形成すること。
【0031】
・ 前記実施形態においては、ボス部32を厚肉に形成したが、このボス部32を厚肉に形成することなく、他の部分と同じ厚さに形成すること。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第1実施形態のガスケットを示す平面図。
【図2】図1の2−2線における要部拡大断面図。
【図3】図1の3−3線における要部拡大断面図。
【図4】図1のガスケットの車両用エンジンに対する組付け状態を示す図2と対応する部分の要部断面図。
【図5】同ガスケットの組付け状態を示す図3と対応する部分の要部断面図。
【図6】第2実施形態のガスケットの組付け状態を示す要部断面図。
【符号の説明】
【0033】
11…シリンダヘッド、12…カムキャップ、13…ボルト、13a…頭部、14…シリンダヘッドカバー、15…ガスケット、16…主シール部、17…バッフルプレート、19…接続筒,20…オイル圧送通路、23…連結部、24…接続口、25…第1筒状部、26…第2筒状部、31…ボルト、32…ボス部、32a,32b…当接面、33…被固定部としての嵌合孔、34…固定部としての固定ピン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとの外周部間及び内側部間にそれぞれ介在される主シール部及び補助シール部と、主シール部及び補助シール部間を一体に連結する連結部とを備えたガスケットにおいて、
前記連結部にはシリンダヘッドカバーに形成した固定部に固定される被固定部を設けたことを特徴とするガスケット。
【請求項2】
前記被固定部は、ピンよりなる固定部に嵌合される嵌合孔であることを特徴とする請求項1に記載のガスケット。
【請求項3】
前記嵌合孔をボス部の中心に形成したことを特徴とする請求項2に記載のガスケット。
【請求項4】
前記ボス部の上端面にはシリンダヘッドカバーの内面に当接される当接面を形成するとともに、下端面には前記シリンダヘッド上にカムキャップを固定するためのボルトの頭部に当接される当接面を形成したことを特徴とする請求項3に記載のガスケット。
【請求項5】
シリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとの外周部間及び内側部間にそれぞれガスケットの主シール部及び補助シール部を介在し、前記ガスケットの前記主シール部と補助シール部との間を一体に連結する連結部には被固定部を形成し、その被固定部をシリンダヘッドカバーに形成された固定部に固定したことを特徴とするシリンダヘッド部のシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−19169(P2010−19169A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180479(P2008−180479)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】