説明

ガスケット用素材

【課題】NBR、H−NBRまたは官能基変性NBRからなる発泡ゴム層を形成したガスケット用素材において、電装部品に使用した場合でも金属腐食を起こすおそれがなく、良好にシールする。
【解決手段】鋼板、および鋼板の片側または両側に設けられた発泡ゴム層を有するガスケット用素材であって、前記発泡ゴム層は、ゴム材料として、NBR、H−NBRまたは官能基変性NBR、および架橋剤を含むゴム組成物から得られ、かつ、キノイド架橋構造を有することを特徴とするガスケット用素材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電装部品用等に好適なガスケット用素材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鋼板の片側または両側にNBRやH−NBR、官能基変性NBRからなる発泡ゴム層を形成したガスケット用素材が使用されている。このようなガスケット用素材は発泡ゴム層中に多くの気泡を有するため、発泡していないゴム層を形成したガスケット用素材と比べて圧縮率が大きく、面粗度の粗いフランジや低面圧下でのシール性に優れていることから、現在主流になっている。
【0003】
また、NBRやH−NBR、官能基変性NBRは、硫黄または過酸化物で架橋を行うのが一般的であるが、過酸化物架橋は硫黄架橋と異なり大気中での架橋が困難で、通常行われるオーブン中での架橋に適さない。そのため、ガスケット用素材においても硫黄架橋が一般的である(例えば、特許文献1参照)。しかし、発泡ゴム層から硫黄が遊離することがあり、特に電装部品に使用した場合に、構成部品を形成している金属、あるいは周辺の金属部品を腐食するおそれがある。
【0004】
また、近年では、駆動源としてエンジンと電動モータとを組み合わせたハイブリッド自動車や、電動モータのみで駆動する電気自動車が普及しつつあるが、硫黄架橋した発泡ゴム層を成形したガスケット用素材をオルタネータ等の電装部品に使用すると、遊離した硫黄が電動モータの金属部品を腐食することが想定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−268163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、NBR、H−NBRまたは官能基変性NBRからなる発泡ゴム層を形成したガスケット用素材において、電装部品に使用した場合でも金属腐食を起こすおそれがなく、良好にシールすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、下記のガスケット用素材を提供する。
(1)鋼板、および鋼板の片側または両側に設けられた発泡ゴム層を有するガスケット用素材であって、
前記発泡ゴム層は、ゴム材料として、NBR、H−NBRまたは官能基変性NBR、および架橋剤を含むゴム組成物から得られ、かつ、キノイド架橋構造を有することを特徴とするガスケット用素材。
(2)前記架橋剤が、p−キノンジオキシム、p,p´−ジベンゾイルキノンジオキシムまたはポリ−p−ジニトロソベンゼンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記(1)記載のガスケット用素材。
(3)前記ゴム組成物が、さらに架橋促進剤として、酸化鉛、酸化銅、酸化マンガン、酸化マグネシウム、N,N´−m−フェニレンジマレイミド及びグラファイトからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする上記(1)または(2)記載のガスケット用素材。
(4)前記ゴム組成物が、さらに発泡剤として、DPT系、ADCA系またはHDCA系の熱分解型発泡剤及び非架橋性の熱膨張性マイクロカプセルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする上記(1)〜(3)の何れか1項に記載のガスケット用素材。
(5)前記発泡ゴム層における発泡前の厚さが10〜200μmで、発泡倍率が1.5〜5.0倍であることを特徴とする上記(1)〜(4)の何れか1項に記載のガスケット用素材。
(6)電装部品用であることを特徴とする上記(1)〜(5)の何れか1項に記載のガスケット用素材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、NBR、H−NBRまたは官能基変性NBRからなる発泡ゴム層を形成したガスケット用素材において、発泡ゴム層をキノイド架橋することによりガスケット用素材からの硫黄の遊離を無くし、電装部品に使用した場合でも金属の腐食を防ぐことができ、また良好なシール性も維持できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明のガスケット用素材は、鋼板と、鋼板の片側または両側に設けられた、NBR、H−NBRまたは官能基変性NBRからなる発泡ゴム層を有するものであるが、前記発泡ゴム層は硫黄架橋構造に代えてキノイド架橋構造を有する。
【0011】
キノイド架橋は、NBR、H−NBR及び各種の官能基変性NBR(以下、これらゴムを「NBR」で総称)について行うことができる。架橋剤としてはp−キノンジオキシム、p,p´−ジベンゾイルキノンジオキシム、ポリ−p−ジニトロソベンゼンからなる群から選ばれる少なくとも1種が用いられることが好ましい。これら架橋剤の添加量は、NBR100質量部に対し0.5〜50.0質量部、好ましくは2.0〜15.0質量部である。また、これらキノイド系架橋剤はそれぞれ単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0012】
また、架橋を効率良く形成させるために架橋促進剤を併用することが好ましく、例えば酸化鉛、酸化銅、酸化マンガン、酸化マグネシウム、N,N´−m−フェニレンジマレイミド、またはグラファイトからなる群から選ばれる少なくとも1種を併用する。これら架橋促進剤の添加量は、下限は架橋促進効果が得られる量であり、上限は過架橋にならない量である。具体的には、酸化鉛、酸化銅、酸化マンガンの場合は、NBR100質量部に対し0.1〜20質量部、好ましくは0.5〜5質量部である。酸化マグネシウムの場合は、NBR100質量部に対し0.5〜25質量部、好ましくは1〜5質量部である。N,N´−m−フェニレンジマレイミドの場合は、NBR100質量部に対し0.1〜30質量部、好ましくは0.3〜5質量部である。尚、酸化鉛、酸化銅、酸化マンガン、酸化マグネシウム、N,N´−m−フェニレンジマレイミドはそれぞれ単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。グラファイトの場合は、NBR100質量部に対し3〜25質量部、好ましくは5〜10質量部である。
【0013】
NBRには、発泡のために、熱分解型発泡剤及び非架橋性の熱膨張性マイクロカプセルの少なくとも一種が配合されることが好ましい。熱分解型発泡剤としては、DPT系、ADCA系及びHDCA系が好ましく、分解温度が120℃以上のものが好ましく、150〜210℃のものが最良である。配合量はNBR100質量部に対し1〜100質量部が好ましく、より好ましくは3〜30質量部である。非架橋性の熱膨張性マイクロカプセルとしては、樹脂の内部に炭化水素を内包したものが好ましく、非架橋性の熱膨張性マイクロカプセルの配合量は、NBR100質量部に対し0.5〜30質量部が好ましく、より好ましくは1〜20質量部である。
【0014】
尚、架橋型のマイクロカプセルは加熱時に架橋が進行して高い発泡倍率を得ることが難しいため、好ましくない。
【0015】
発泡ゴム層の発泡倍率は、シール性を考慮すると1.4〜10倍が好ましく、1.5〜5.0倍がより好ましい。尚、この発泡倍率は、ゴム層の発泡前の厚さと発泡跡の厚さとの比率であり、下記式から求められる。
【0016】
【数1】

【0017】
更に、NBRには、補強のために充填材を配合することもできる。充填材としてはカーボンブラックが好ましく、これらゴム100質量部に対し5〜100質量部、好ましくは10〜70質量部配合される。
【0018】
その他にも、NBRには、酸化防止剤をはじめとして通常配合される添加剤を適量配合してもよい。
【0019】
本発明のガスケット用素材を製造するには、NBRに上記の架橋剤、架橋促進剤、発泡剤、充填材、その他の添加剤を所定量配合してゴムコンパウンドとし、それを有機溶剤に溶解・分散させて塗布液とし、鋼板に塗布し、発泡させればよい。有機溶剤は制限されるものではないが、トルエン等の芳香族炭化水素系溶剤やケトン系溶剤とエステル系溶剤との比率を10:90〜90:10の任意の割合で混合したものを例示できる。そして、この有機溶剤にゴムコンパウンドを固形分濃度10〜60質量%となるように溶解・分散し、塗布液とする。
【0020】
塗布液の塗布方法にも制限はないが、塗布厚を制御できる方法が好ましく、スキマコーターやロールコーター等が好適である。塗布厚は10〜200μmが好ましく、より好ましくは20〜150μmである。
【0021】
その後、発泡剤の発泡条件にて、例えば約150〜240℃で、約5〜15分間熱処理して発泡剤を発泡させ、発泡ゴム層を形成する。その際、上記の発泡倍率となるように、用いる発泡剤、加熱温度、加熱時間等の発泡条件を調整する。
【0022】
鋼板は特定されず、ステンレス鋼板(フェライト系/マルテンサイト系/オーステナイト系ステンレス)、SPCC鋼板、アルミニウム鋼板等の従来からガスケット用素材に使用されている鋼板を使用することができる。これらの鋼板は、アルカリ脱脂した後、クロメート処理剤または、ノンクロメート処理剤等の防錆皮膜を形成させる化成処理を施されてもよい。また、SPCC鋼板ではリン酸亜鉛、リン酸鉄被膜を形成させる場合もあるが、本発明においても同様の皮膜が形成されていてもよい。また、表面をショットブラスト、スコッチブラスト等で粗面化した鋼板も用いることができる。
【0023】
このようにして得られるガスケット用素材は、後述される実施例に示すように、網目鎖密度が高いものになっている。
【実施例】
【0024】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0025】
(試料の作製)
表1に示すように、ゴム材料、充填材、架橋剤、架橋促進剤、添加剤及び発泡剤を配合したゴムコンパウンドを、固形分濃度28.5質量%となるようにトルエンと酢酸エチルとを7:3の割合で調製した混合有機溶剤に溶解・分散し、塗布液を調製した。そして、ノンクロム処理したステンレス鋼板にプライマー処理を施し、塗布液をロールコーターで塗布し、210℃で10分間熱処理して試料を得た。なお、表1に示す値は、DN3350の100質量部に対する質量部を表す。
【0026】
【表1】

【0027】
そして、各試料について下記の評価を行った。結果を表2に示す。
(評価方法)
(1)発泡倍率
発泡倍率の測定は、発泡前のゴム層の厚さと、発泡後のゴム層の厚さをマイクロメーターで測定し、下記式から算出した。
【0028】
【数2】

【0029】
(2)網目鎖密度測定
発泡ゴム層を約10mm角程度に切り出し、その面積を計測した(ジオキサン液膨潤前の面積)。その後、ジオキサン溶液に5分間浸して取り出し、膨順した面積を算出した(ジオキサン液膨潤後の面積)。そして、ジオキサン液膨潤前の面積とジオキサン液膨潤後の面積とをFlory−Rehner式に代入してゴムの網目鎖密度を求めた。
【0030】
(3)含有硫黄量
燃焼イオンクロマトグラフィーを用い、残存した硫黄量を測定した。
【0031】
【表2】

注1)比較例4: 従来の硫黄を用いた発泡ガスケット用素材
【0032】
表2から、本発明に従いキノイド架橋した発泡ゴム層は、ガスケット用素材に要求されるシール性に優れるとともに、遊離硫黄が実質的に発生しないことがわかる。尚、実施例において検出された硫黄は、ゴムの調製過程で混入したものである。
【0033】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく、様々な変更や修正を加えることができることは、当業者にとって明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板、および鋼板の片側または両側に設けられた発泡ゴム層を有するガスケット用素材であって、
前記発泡ゴム層は、ゴム材料として、NBR、H−NBRまたは官能基変性NBR、および架橋剤を含むゴム組成物から得られ、かつ、キノイド架橋構造を有することを特徴とするガスケット用素材。
【請求項2】
前記架橋剤が、p−キノンジオキシム、p,p´−ジベンゾイルキノンジオキシムまたはポリ−p−ジニトロソベンゼンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載のガスケット用素材。
【請求項3】
前記ゴム組成物が、さらに架橋促進剤として、酸化鉛、酸化銅、酸化マンガン、酸化マグネシウム、N,N´−m−フェニレンジマレイミド及びグラファイトからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1または2記載のガスケット用素材。
【請求項4】
前記ゴム組成物が、さらに発泡剤として、DPT系、ADCA系またはHDCA系の熱分解型発泡剤及び非架橋性の熱膨張性マイクロカプセルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のガスケット用素材。
【請求項5】
前記発泡ゴム層における発泡前の厚さが10〜200μmで、発泡倍率が1.5〜5.0倍であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のガスケット用素材。
【請求項6】
電装部品用であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のガスケット用素材。



【公開番号】特開2011−99558(P2011−99558A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227696(P2010−227696)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】