説明

ガスケット

【課題】被密封部材間に締結圧縮状態で介装されるガスケットであって、被密封空間の内圧に影響されずに良好なシール性が得られ、しかも製造が容易なガスケットを提供することを目的とする。
【解決手段】2つの被密封部材1、2の被密封面1e、2b間に締結圧縮状態で介装され、該被密封部材間をシールするガスケット5であって、バネ定数の異なる2種の環状ガスケット材3a、3bの一方の内周部3aaと他方の外周部3baとを接合して環状ガスケット基材3となし、該ガスケット基材の周方向に沿ってビード部5aを形成し、このビード部の形成によって、上記2つの被密封部材の被密封面間に介装した際、上記バネ定数の異なる2種の環状ガスケット材の内の一方が被密封部材の被密封面の一方に、他方が被密封面の他方に対面するようになされていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの被密封部材の被密封面間、例えば、内燃機関のシリンダブロックとオイルパンとの間、シリンダヘッドとシリンダブロックとの間、自動車用の変速機の実機ケースとオイルパンとの間等に、締結圧縮状態で介装されて被密封部材をシールするガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、上述のような被密封部材の被密封面間に、ゴムや合成樹脂からなるガスケットを介装させ、ボルト等により締結することにより、ガスケットが圧縮されて、その圧接力により被密封面相互のシールがなされている。
【0003】
例えばシリンダブロックとオイルパンとの被密封面間は振動が激しく、貯留されるオイルの飛散や流動が活発になされるため、この被密封面間に介装されるガスケットは、オイルの漏れ、滲みを防止可能なシール性に優れた材料が選択使用される必要がある。またシリンダブロックとオイルパンとの被密封空間ではオイルの波動による内圧が非常に高いので、通常よりも一層シール性を高くすることが求められ、シール漏れを防ぐためにボルト等による締結力を強めたり、被密封面間相互の面圧を高める工夫がなされている。そこで、ガスケットの基材を同じバネ定数のもの(ひとつの剛性材でなるもの)として、ボルト等による締付力を高めたものがみられるが、あまり締付力を高めると板金材からなるオイルパンが鋳物からなるシリンダブロックより強度が弱い為、ボルト間でたわみが発生し、シール性が損なわれるという懸念がある。
【0004】
下記特許文献1には、予めハーフビード形状にビード部を形成した基材とバネ定数の異なる2部材とをそれぞれ重合一体とし、基材とバネ定数の異なる2部材でビードを構成したシリンダヘッドガスケットが開示されている。
このシリンダヘッドガスケットは、シリンダボアに対応するシリンダボア開口部と冷却媒体流通ボアに対応する冷却媒体流通ボア開口部とを備えるが、燃焼室の内圧は極めて高いのに対し、冷却媒体流通ボア内の冷却媒体による内圧はこれに比べて低いため、夫々に適した面圧でシールされることが望ましい。そこでこれによれば、シリンダボア開口部及び冷却媒体流通ボア開口部において、夫々に適した面圧を付与するようにして、バランスのとれたシール性が得ることができるとされている。
【特許文献1】特開2005−320925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のシリンダヘッドガスケットは、シリンダボア開口部と冷却媒体流通ボア開口部における内圧の違いに応じてビード部が形成される部位のバネ定数を変えることにより、各部位のシール性が適性に維持されるものであるが、上記のようにオイルパンとエンジンブロックとの間に介装されるガスケットにおけるボルト間のたわみを防ぐことまでも意図するものではない。また当該シリンダヘッドガスケットは、2部材を積層して構成され、構造上一定の厚みがある構造であるため、薄さが要求されるガスケットとしては、適さない構造といえ、更にはビード部が形成された基材をバネ定数の異なる2部材と重合一体とする加工を要するため、加工が容易とはいえず、改善が望まれるところであった。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、被密封部材間に締結圧縮状態で介装されるガスケットであって、被密封空間の内圧に影響されずに良好なシール性が得られ、しかも製造が容易なガスケットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明に係るガスケットは、2つの被密封部材の被密封面間に締結圧縮状態で介装され、該被密封部材間をシールするものであって、バネ定数の異なる2種の環状ガスケット材の一方の内周部と他方の外周部とを接合して環状ガスケット基材となし、該ガスケット基材の周方向に沿ってビード部を形成し、このビード部の形成によって、上記2つの被密封部材の被密封面間に介装した際、上記バネ定数の異なる2種の環状ガスケット材の内の一方が被密封部材の被密封面の一方に、他方が被密封面の他方に対面するようになされていることを特徴とする。
【0008】
本発明において、請求項2に記載のように、2種の環状ガスケット材は、金属板からなるものとすることができ、また請求項3に記載のように、2種の環状ガスケット材は、それぞれ異なる材質からなり、バネ定数の異なりは、材質の違いによるものとすることができる。請求項4に記載のように、2種の環状ガスケット材は、それぞれ厚さが異なり、バネ定数の異なりは、厚さの違いによるものとすることができる。
【0009】
請求項5に記載のように、前記ビード部は、ハーフビード構造とすることができ、請求項6に記載のように、前記ビード部は、前記2種の環状ガスケット材の一方の内周部と他方の外周部とが接合された接合部を備え、該接合部は、前記ビード部の幅方向中間部より径方向のいずれかにずれているものとすることができる。請求項7に記載のように、ビード部は、フルビード構造とすることができ、請求項8に記載のように、前記2種の環状ガスケット材の一方の内周部と他方の外周部とが接合された接合部を複数備えているものとすることもできる。請求項9に記載のように、環状ガスケット基材の少なくとも片面には、ゴム又は合成樹脂からなるコーティング層が形成されているものとすることができる。
【0010】
そして請求項10に記載のように、本発明のガスケットにおいて、環状ガスケット基材は、バネ定数の異なる2種のガスケット材を用意し、これらガスケット材の一方の内周部と他方の外周部とが同じ大きさとなる大小関係の環状体に打抜き環状ガスケット材となし、得られた環状ガスケット材のバネ定数の異なるものを組み合わせその内周部と外周部とを接合して調製され、前記ビード部はその後の加工によって形成されたものとすることができる。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明に係るガスケットによれば、バネ定数の異なる2種の環状ガスケット材の一方の内周部と他方の外周部とを接合して環状ガスケット基材となし、2つの被密封部材の被密封面間に介装した際、バネ定数の異なる2種の環状ガスケット材の内の一方が被密封部材の被密封面の一方に、他方が被密封面の他方に対面するようになされているので、圧縮締結時の応力分布が低応力で安定したシール性を得ることができる。即ち、2種の環状ガスケット材からなる環状ガスケット基材の剛性の異なりによって、被密封面間の面圧に差が生じ、2つの被密封部材が強度的に大小がある場合、バネ定数の小さな環状ガスケット材を強度の小さな被密封部材側に配するようにすれば、所定の締結力でもこの被密封部材の変形をきたさず、良好なシール性を維持することができる。従って、ボルト等による締結力を必要以上に強めることなく、ガスケットのシール性を向上させることができる。またビード部を備えていることによりその復元反力を利用してよりシール性の高いものとすることができる。
よって、被密封空間の内圧が非常に高い被密封部材間に介装されるガスケットに好適である。
【0012】
請求項2の発明に係るガスケットによれば、環状ガスケット材は、金属板からなるものとすることができるので、金属板製ガスケットの特性が発揮されるとともに、バネ定数の異なる2種の環状ガスケット材を入手しやすく、ビード加工、打ち抜き成型等が容易である。
請求項3又は請求項4の発明に係るガスケットによれば、バネ定数の設定が容易にできるので、ガスケットの介装部位に応じて最適なバネ定数の組合わせが容易に設定でき、低コスト化を実現することができる。
【0013】
請求項5又は請求項7の発明に係るガスケットによれば、ビード部は、ハーフビード構造又はフルビード構造であるので、ガスケットの介装部位に応じて、最適な構造とすることができる。
請求項6の発明に係るガスケットによれば、ビード部の接合部を幅方向中間部より径方向のいずれかにずらせることで、それぞれの部材の締結方向のバネ定数を微調整することができ、より最適なバネ定数の組合わせが実現をきる。また、これにより、介装される部位に応じたシール性の良好なガスケットとすることができる。
【0014】
請求項8の発明に係るガスケットによれば、ビード部に複数の接合部を備えているので、ガスケットの介装部位に応じて、最適なバネ定数の組合わせが容易にでき、低コスト化を実現することができる。
請求項5又は請求項7の発明に係るガスケットによれば、ビード部は、ハーフビード構造又はフルビード構造であるので、ガスケットの介装部位に応じて、最適な構造とすることができる。
請求項9の発明に係るガスケットのように、環状ガスケット基材の少なくとも片面には、ゴム又は合成樹脂からなるコーティング層が形成されているものとすれば、このコーティング層が被密封面間に直接接することになるから、より良好なシール性が得られる。また2種の環状ガスケット材の厚さを異ならせた場合、コーティング層の厚みもそれに応じて異ならせれば、シール性を考慮したバネ定数の組み合わせを最適にした上で、ガスケットの表面は、均一な厚さのものとできるので、より一層シール性を向上させることができる。
【0015】
請求項10の発明に係るガスケットにおいて、環状ガスケット基材は、バネ定数の異なる2種のガスケット材を用意し、これらガスケット材の一方の内周部と他方の外周部とが同じ大きさとなる大小関係の環状体に打抜き環状ガスケット材となし、得られた環状ガスケット材のバネ定数の異なるものを組み合わせその内周部と外周部とを接合して調製され、前記ビード部はその後の加工によって形成されたものとすれば、上述の効果を有したガスケットの製造を容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明の最良の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1は本発明のガスケットが用いられた自動車用エンジンの一部を概略的に示す部分破断正面図、図2は図1におけるX部の拡大図、図3乃至10は本発明のガスケットの他の実施形態を示す断面図、図11は本発明のガスケットの製造工程の一例を示すフローチャート、図12(a)〜(c)は本発明のガスケットの成形工程図の一例、図13(a)〜(c)は本発明の成形工程図の別の例、図14は本発明のガスケットの別の実施例を示す平面図、図15は図14におけるY−Y線矢視断面図である。尚、下記実施例1では、本発明のガスケットを自動車用エンジンのシリンダブロックとオイルパンとの接合面間に介装する例、下記実施例2では、本発明のガスケットをシリンダブロックとシリンダヘッドとの接合面間に介装する例について述べるが、これに限らず、シリンダヘッドとヘッドカバーとの接合面間、自動車用の変速機の実機ケースとオイルパンとの接合面間、その他の産業機器等における高精度な密封を要する接合面間にも適用され得るものである。
【実施例1】
【0017】
図1は、自動車用エンジンを示し、シリンダブロック(被密封部材)1上に、シリンダヘッド及びヘッドカバー(いずれも不図示)が連接され、また、シリンダブロック1の下端面にはオイルパン(被密封部材)2が連接されている。シリンダブロック1は、鋳物の成型体からなり、シリンダ1a、このシリンダ1a内を上下動するピストン1b、ピストン1bに連結されたコンロッド1c及びコンロッド1cの下端に連結されたクランクシャフト1d等のエンジンの主要機構部を備えている。そして、コンロッド1cのクランクシャフト1dとの連結部分及びクランクシャフト1dは、オイルパン2の上方空間部分に位置している。シリンダブロック1の周縁下端面は研磨加工されて、オイルパン2との接合面(被密封面)1eとされている。その他のエンジンの機構部については図示及び説明を省略する。
【0018】
オイルパン2は、鉄板や鋼板の板金加工によって上端開口の容器形に形成され、上記エンジンの機構部を還流し潤滑させる為の潤滑オイル(エンジンオイル)を滞留させるものである。その上端開口周縁部分には外向きのフランジ部2aが形成され、このフランジ部2aの上面がシリンダブロック1との接合面(被密封面)2bとされている。シリンダブロック1とオイルパン2とは、双方の接合面1e、2b間に本発明に係るガスケット5を介装し、ボルト6の螺合締結によりガスケット5を圧縮状態で連接一体とされる。Sは被密封空間である。
【0019】
ガスケット5は、バネ定数の異なる2種の環状ガスケット材3a、3bのうち、内周側に配置される環状ガスケット材3b(以下、内周側の環状ガスケット材3bという。)の外周部3baと、外周側に配置される環状ガスケット材3a(以下、外周側の環状ガスケット材3aという。)の内周部3aaとを接合して環状ガスケット基材3となし、該ガスケット基材3にその周方向に沿って形成されるビード部5aを備えている(図3参照)。よって、内周側の環状ガスケット材3bの外周部3baと、外周側の環状ガスケット材3aの内周部3aaとは同じ大きさとなる。
このガスケット5は、ビード部5aが形成されているので、シリンダブロック1とオイルパン2との間に介装した際、バネ定数の異なる2種の環状ガスケット材の一方、即ち内周側の環状ガスケット材3bがシリンダブロック1の接合面1eに対面するようになされ、他方の環状ガスケット材、即ち外周側の環状ガスケット材3aが接合面2bに対面するようになされ、ボルト6によって締結圧縮状態となるよう構成されている。そして、環状ガスケット基材3の両面には、ゴム又は合成樹脂からなるコーティング層4が形成されている。ここでコーティング層4は両面に限らず、片面であってもよく、介装部位に応じて選択されるものであるから、コーティング層4がないものとしてもよいことは言うまでもない。また5bは2種の環状ガスケット材3a、3bの接合部を示しており、レーザー溶接、スポット溶接、カシメ或いは接着等によってなされる。
【0020】
2種の環状ガスケット材3a、3bは、圧延鋼板(SUS、SPCC)や合成樹脂板を用いることができる。また2種の環状ガスケット材3a、3bは、それぞれ異なる材質からなり、バネ定数の異なりは材質(硬質或いは軟質)の違いによるものとすることができる。例えばSUS304とSUS430とからなる環状ガスケット材3a、3bを接合してなるものとでき、このように、異なる材質のもの2種からなるガスケット5とすることにより、バネ定数の設定が容易になされ、ガスケット3の介装部位に応じて最適なバネ定数の組合わせが容易にできるので、低コスト化を実現することができる。
【0021】
コンパウンド層4を構成するゴム材として、NBR、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)、ブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、フッ素ゴム(FKM)、シリコーンゴム(VMQ)、クロロスルフォン化ポリエチレン(CSM)、エチレン酢ビゴム(EVA)、塩化ポリエチレン(CPE)、塩化ブチルゴム(CIR)、エビクロルヒドリンゴム(ECO)、ニトリルイソプレンゴム(NIR)、天然ゴム(NR)等を用いることができる。
また、コンパウンド層4及び環状ガスケット材3a、3bとして、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、硅素樹脂等を用いることができる。更に、前記ゴム材とこれら合成樹脂材との混和物も用いることができる。
また上記コンパウンド層4としては、ゴム材及び合成樹脂材に繊維材を混合させたものを用いることができる。混合される繊維材としては、圧縮性無機繊維または圧縮性有機繊維が用いられ、具体的には、石綿以外の無機繊維として、ガラス繊維、セラミック繊維、岩綿、鉱滓綿、溶融石英繊維、化学処理高シリカ繊維、溶融硅酸アルミナ繊維、アルミナ連続繊維、安定化ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、チタン酸アルカリ繊維、ウィスカー、ボロン繊維、炭素繊維、金属繊維等を、有機繊維として、芳香族ポリアミド繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリ尿素系繊維、ポリウレタン系繊維、ポリフルオロカーボン系繊維、フェノール繊維、セルロース系繊維等を用いることができる。
【0022】
ここで、環状ガスケット材3a、3bのバネ定数を異ならせることにより、締結圧縮される際にいずれかの面圧が高まり、ボルト6の締付によってビード部5aが圧縮されて弾性変形し、その復元弾力が相乗してガスケット5としてのシール性を向上させることができるが、図2のように内周側の環状ガスケット材3bがシリンダブロック1の接合面1eに対面するようビード部5aが形成され、その外周側の環状ガスケット材3aにボルト孔5cが形成されており、ボルト6がオイルパン2側からシリンダブロック1側へと貫通締結される場合は、シリンダブロック1の接合面1eに対面する内周側の環状ガスケット材3bのバネ定数を高くし、オイルパン2の接合面2bに対面する外周側の環状ガスケット材3aのバネ定数を低くすることが望ましい。これによれば、ボルト6による締結圧縮によってバネ定数の高い内周側の環状ガスケット材3bの面圧が高くなり、外周側の環状ガスケット材3aにかかる面圧との差によって、ボルト6の締付を必要以上に強めることなく、また、オイルパン2のフランジ部2aがボルト6、6間で撓み変形をおこす懸念がなく、この部分の面接触による良好なシール性が得られる。
【0023】
即ち、シリンダブロック1とオイルパン2との接合面1e、2b間にガスケット5を介装し、ボルト6によって締結連接すると内周側の環状ガスケット材3bは接合面1eに圧接され、図2のA点とB点とに圧接力が加わり、ビード部5aが圧縮弾性変形して略平坦になる。このとき、A点に加わる圧接力がB点より大きくなるので、接合面1eに対面する内周側の環状ガスケット材3bの面圧を高くすることができ、締結圧縮による環状ガスケット基材3の復元弾力とが相乗して、良好なシール性が得られる。よって、被密封空間Sの内圧が非常に高い接合面1e、2b間に介装されるガスケット5として好適である。またボルト6による軸力の経時的な低下、接合面1e、2bの面域方向における圧接力のばら付等があっても、これらを補ってシール性が均一且つ安定に維持される。
【0024】
図3乃至10は本発明のガスケットの他の実施形態を示す断面図であり、上述の図2及び図3〜図6はガスケットのビード部がハーフビード構造であり、図7〜図10はビード部がフルビード構造のものを示している。図中のガスケットは、上述のようにシリンダブロックとオイルパンとの間に介装される場合、紙面上側がシリンダブロック、下側にオイルパンが位置することになる。尚、上述の実施形態と共通部分に同一符号を付しその説明を割愛する。
図3に示すガスケット5は、図2に示すガスケット5とは、環状ガスケット基材3の両面に、ゴム又は合成樹脂からなるコーティング層4が形成されていない点で異なり、2種の環状ガスケット材3a、3bは、それぞれ異なる材質からなり、バネ定数の異なりは、材質の違いによるものである点は上述と同様である。
【0025】
図4は、ガスケット5の2種の環状ガスケット材3a、3bは、それぞれ厚さが異なるものを示しており、バネ定数の異なりは、厚さの違いによるものとした例である。このように同一の材質を用いた場合でも、厚さを異ならせれば、バネ定数を異ならせることができ、バネ定数の設定が容易になすことができるので、ガスケット5の介装部位に応じて最適なバネ定数の組合わせを容易に設定でき、低コスト化を実現することができる。
図5は、図4の例のガスケット基材3の両面に、コーティング層4を形成したものである。このように厚みが異なる環状ガスケット材3a、3bとした場合、コーティング層4を形成することにより、フラットな表面のガスケット5とすることができる。
【0026】
図6(a)(b)は、ガスケット5の接合部5bがビード部5aの幅方向中間部より径方向のいずれかにずれているものを夫々示している。
図6(a)は、接合部5bが内周側の環状ガスケット材3b方向にずれているものであり、図中のCとDの長さ関係はC<Dである。
図6(b)は、接合部5bが外周側の環状ガスケット材3a方向にずれているものであり、図中のCとDの長さ関係はC>Dである。
このように、接合部5bを、ビード部5aの幅方向中間部より径方向のいずれかにずらせることで、それぞれの部材の締結方向のバネ定数を微調整することができ、より介装部位に最適なバネ定数の組合わせが実現できる。
【0027】
図7に示すガスケット5はビード部5aが断面山形のフルビード構造でなり、2つの接合部5bを備えているものである。尚、接合部5bは2つに限定されず介装部位に応じて適宜設定可能である。
ここで3cは外周側の環状ガスケット3aと内周側の環状ガスケット3bの中間に配置される環状ガスケット材(以下、中間の環状ガスケット材3cという)を示しており、山形状のビード部5aの最頂部がオイルパン2の接合面2bに対合するよう構成されており、ここに用いられる材質はバネ定数が外周側及び内周側の環状ガスケット材3a、3bより小さいものが望ましい。これによれば、中間の環状ガスケット材3cよりバネ定数が大きい環状ガスケット材3a、3bの面圧が高まるとともに、ビード部5aがボルト6の締付により圧縮されて弾性変形し、その復元弾力をしてシール性のよいガスケット5とすることができる。
【0028】
図8に示すガスケット5は、図7に示すガスケット5とは、環状ガスケット基材3の両面に、ゴム又は合成樹脂からなるコーティング層4が形成されている点で異なり、外周側及び内周側の環状ガスケット材3a、3bと中間の環状ガスケット材3cのバネ定数の異なりは、材質の違いによるものである点は上述と同様である。
【0029】
図9に示すガスケット5は、中間の環状ガスケット材3cの厚さが、外周側及び内周側の環状ガスケット材3a、3bと異なり、バネ定数の異なりは、厚さの違いによるものを示している。
このように同一の材質を用いた場合でも、厚さを異ならせれば、バネ定数を異ならせることができ、バネ定数の設定が容易になすことができるので、ガスケット5の介装部位に応じて最適なバネ定数の組合わせを容易に設定でき、低コスト化を実現することができる。
図10は、図9の例のガスケット基材3の両面に、コーティング層4を形成したものである。このように厚みが異なる環状ガスケット材3a、3b、3cとした場合、コーティング層4を形成することにより、フラットな表面のガスケット5とすることができる。
【0030】
次に本発明のガスケット5の製造要領を図11〜図13に基づいて説明する。ここでは図2に示すコーティング層4が形成されたガスケット5の製造要領について述べる。
図11、図12(a)〜(c)において、原板としてのバネ定数の異なる2種の鋼板(金属板)でなるガスケット材G1、G2を用意し(図12(a))、打抜きによって、図12(b)に示すようにガスケット材G2の一方の内周部3aaと他方のガスケットG1の外周部3baとが同じ大きさとなる大小関係の環状ガスケット材3b、3aを得る(ステップS1、S2)。打抜加工された環状ガスケット材3b、3aのバネ定数の異なるものを突き合わせて仮組し、この付き合わせた内周部3aaと外周部3baとをレーザー溶接にて接合して(ステップS3)、図12(c)に示すような環状ガスケット基材3を得る。
【0031】
次いで、この環状ガスケット基材3に未加硫ゴムをコーティングして薄層を形成し(ステップS4)、加硫成型した後(ステップS5)、プレス加工することにより図2に示すようなハーフビード構造のビード部5aを形成すれば(ステップS6)、バネ定数の異なる2種の環状ガスケット材3b、3aでなるガスケット5を得ることができる(ステップS7)。
尚、コーティング層4を有しないガスケット5の場合は、ステップS4〜S5が省略され、ビード部5aをフルビード構造のガスケット5とする場合は、ステップS6のプレス加工において、フルビード構造のビード部5aを形成すれば、図7に示すようなガスケット5を得ることができる。
これによれば、上述の効果を有したガスケット5の製造が容易で、環状ガスケット基材3を効率よく、製造することができる。
【0032】
製造要領は上述の例に限定されず、図13(a)〜(c)に示す要領によっても製造可能である。この場合もバネ定数の異なる2種のガスケット材G1、G2を用意し(図13(a))、ひとつのガスケット材G1、G2から打抜きによって、図13(b)に示すようにガスケット材G2、G1の一方の内周部3aaと他方のガスケットG1、G2の外周部3baとが同じ大きさとなる大小関係の2つの環状ガスケット材3b、3aを夫々得る。そして打抜加工された環状ガスケット材3b、3aのバネ定数の異なるものを突き合わせて仮組し、この付き合わせた内周部3aaと外周部3baとをレーザー溶接にて接合すれば、図13(c)に示すようなバネ定数の異なる2種の環状ガスケット材3b、3aからなる複数の環状ガスケット基材3を得ることができる。その後の図11のステップS4〜S7に示す要領、ビード加工等は上述の例と同様でなるので説明を割愛する。
これによれば、上述の効果を有したガスケット5の製造が容易で、環状ガスケット基材3を効率よく製造できる他、ガスケット材G1、G2を無駄なく使うことができるので、コストを低減させることができる。
【実施例2】
【0033】
上述の実施例1では、シリンダブロック1とオイルパン2との接合面間1e、2bに介装される略方形の環状ガスケット基材3でなるガスケット5について説明したが、本実施例2では、シリンダブロック(不図示)とシリンダヘッド(不図示)との接合面間に介装されるガスケット5について説明する。
図14及び図15は、本実施例のガスケットを示している。上述の例と共通する部分には同一の符号を付し、その説明を割愛する。また図中、3dはシリンダボア開口部を示しており、冷却媒体が流通する冷却媒体流通ボア開口部は省略する。
このようなガスケット5(シリンダヘッドガスケット)は、シリンダブロックとシリンダヘッドとの接合面間にボルト(不図示)により締結圧縮状態で介装することにより、多気筒エンジンが組み立てられ、シリンダブロック側のシリンダボアと、シリンダヘッド側の燃焼室とがシリンダボア開口部3dを介して連通される。
【0034】
この実施例は、内周側の環状ガスケット材3bが円環状に形成されている点が上述の例と異なるものであるが、バネ定数の異なる2種の環状ガスケット材3b、3aの内周部3aaと外周部3baとを接合して環状ガスケット基材3となし、該ガスケット基材3の周方向に沿ってビード部5aが形成されたもの(図15参照)である点は共通するものである。
バネ定数は、シリンダボア開口部3d側が燃焼室と連通し内圧が高くなるため、内周側の環状ガスケット材3bをバネ定数の高い(剛性の高い)材質を用い、外周側の環状ガスケット材3aを内周側の環状ガスケット材3bよりバネ定数の低い材質を用いれば、シリンダボア開口部3d側の面圧を高くすることができ、高いシール性を得ることができる。またここでは図示していないが、シリンダボア開口部3dの周辺に配置される冷却媒体流通ボア開口部の周囲は、バネ定数の小さな環状ガスケット材3aが位置することになるので、内圧の小さなこれらボア周りのシールにも十分その適性を備えている。
本実施例においても、バネ定数の異なりは、材質の違いによるものとすることができる点は上述の例と同様であり、例えば内周側の環状ガスケット材3bをSUSとし、外周側の環状ガスケット材3aをSECCとすれば、シリンダボア開口部3c側のバネ定数を大きく設定できる。またバネ定数の構成は、上述の例に限定されるものではなく、外周側の環状ガスケット材3aを内周側の環状ガスケット材3bよりバネ定数の高く設定することもできる点は言うまでもない。
【0035】
従って、以上によれば、バネ定数の異なる2種の環状ガスケット材3a、3bの内の一方がシリンダヘッド或いはシリンダブロックの接合面の一方に、他方が接合面の他方に対面するようになされているので、圧縮締結時の応力分布が低応力で安定したシール性を得ることができる。
また、図示していないが、環状ガスケット基材3の少なくとも片面に、ゴム又は合成樹脂からなるコーティング層を形成した場合の作用・効果は上述の実施例1の場合と同様であり、2種の環状ガスケット材3a、3bの厚さを異ならせ、コーティング層の厚みもそれに応じて異ならせたものとできる点も上述の実施例と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明のガスケットが用いられた自動車用エンジンの一部を概略的に示す部分破断正面図である。
【図2】図1におけるX部の拡大図である。
【図3】本発明のガスケットの他の実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明のガスケットの他の実施形態を示す断面図である。
【図5】本発明のガスケットの他の実施形態を示す断面図である。
【図6】本発明のガスケットの他の実施形態を示す断面図である。
【図7】本発明のガスケットの他の実施形態を示す断面図である。
【図8】本発明のガスケットの他の実施形態を示す断面図である。
【図9】本発明のガスケットの他の実施形態を示す断面図である。
【図10】本発明のガスケットの他の実施形態を示す断面図である。
【図11】本発明のガスケットの製造工程の一例を示すフローチャートである。
【図12】(a)〜(c)は本発明のガスケットの成形工程図の一例である。
【図13】(a)〜(c)は本発明の成形工程図の別の例である。
【図14】本発明のガスケットの別の実施例を示す平面図である。
【図15】図14におけるY−Y線矢視断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 シリンダブロック(被密封部材)
1e 接合面(被密封面)
2 オイルパン(被密封部材)
2b 接合面(被密封面)
3 環状ガスケット基材
3a、3b、3c 環状ガスケット材
3aa 内周部
3ba 外周部
4 コーティング層
5 ガスケット
5a ビード部
5b 接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの被密封部材の被密封面間に締結圧縮状態で介装され、該被密封部材間をシールするガスケットであって、
バネ定数の異なる2種の環状ガスケット材の一方の内周部と他方の外周部とを接合して環状ガスケット基材となし、該ガスケット基材の周方向に沿ってビード部を形成し、このビード部の形成によって、上記2つの被密封部材の被密封面間に介装した際、上記バネ定数の異なる2種の環状ガスケット材の内の一方が被密封部材の被密封面の一方に、他方が被密封面の他方に対面するようになされていることを特徴とするガスケット。
【請求項2】
請求項1に記載のガスケットにおいて、
前記2種の環状ガスケット材は、金属板からなることを特徴とするガスケット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のガスケットにおいて、
前記2種の環状ガスケット材は、それぞれ異なる材質からなり、バネ定数の異なりは、材質の違いによるものであることを特徴とするガスケット。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のガスケットにおいて、
前記2種の環状ガスケット材は、それぞれ厚さが異なり、バネ定数の異なりは、厚さの違いによるものであることを特徴とするガスケット。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のガスケットにおいて、
前記ビード部は、ハーフビード構造であることを特徴とするガスケット。
【請求項6】
請求項5に記載のガスケットにおいて、
前記ビード部は、前記2種の環状ガスケット材の一方の内周部と他方の外周部とが接合された接合部を備え、該接合部は、前記ビード部の幅方向中間部より径方向のいずれかにずれていることを特徴とするガスケット。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれかに記載のガスケットにおいて、
前記ビード部は、フルビード構造であることを特徴とするガスケット。
【請求項8】
請求項7に記載のガスケットにおいて、
前記ビード部は、前記2種の環状ガスケット材の一方の内周部と他方の外周部とが接合された接合部を複数備えていることを特徴とするガスケット。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載のガスケットにおいて、
前記環状ガスケット基材の少なくとも片面には、ゴム又は合成樹脂からなるコーティング層が形成されていることを特徴とするガスケット。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載のガスケットにおいて、
前記環状ガスケット基材は、バネ定数の異なる2種のガスケット材を用意し、これらガスケット材の一方の内周部と他方の外周部とが同じ大きさとなる大小関係の環状体に打抜き環状ガスケット材となし、得られた環状ガスケット材のバネ定数の異なるものを組み合わせその内周部と外周部とを接合して調製され、前記ビード部はその後の加工によって形成されたものであることを特徴とするガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−223952(P2008−223952A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65631(P2007−65631)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【Fターム(参考)】