説明

ガスシールドアーク溶接方法

【課題】耐食性に優れたガスシールドアーク溶接方法を提供する。
【解決手段】質量%でSi:0.01〜0.10%、Ti:0.05〜0.30%、Al:0.005〜0.3%、C:0.01〜0.3%、Mn:0.1〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Cr:0.05〜0.5%およびN:0.001〜0.02%を含み、残部はFeおよび不可避的不純物からなる鋼板に対して、溶接ワイヤを用い、主体ガスと酸化性ガスとからなるシールドガスを供給してガスシールドアーク溶接を行う方法であって、シールドガス中に含まれる酸化性ガスは体積%で3〜12%のCO2または1〜3%のO2もしくはその両方からなり、該酸化性ガスは下記式(A)を満足するようにする。

3≦3X+Y≦12 (A)
ただし、X:O2量〔体積%〕、Y:CO2量〔体積%〕である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスシールドアーク溶接方法、特に継手部の耐食性を向上させるガスシールドアーク溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼の溶接施工に用いられるガスシールドアーク溶接法は、CO2単独のガス、あるいはArとCO2との混合ガスを溶融部のシールドに用いる消耗電極式のものが一般的であり、自動車、建築、電気機器等の製造分野で幅広く用いられている。
【0003】
ここで、建機、橋梁分野のように、鋼を素材とする製品において高い耐食性が要求される場合、溶接ビードおよびその周辺は、ショットブラスト加工によって滑らかに仕上げられている。しかし、ショットブラスト加工には多くの工数を要することから、この工数の低減が強く求められている。
【0004】
一方、自動車分野では、地球温暖化防止を目的としたCO2排出抑制や衝突時の乗員および歩行者の安全性向上に対する社会的要請が増大してきている。このうち、自動車走行時のCO2排出量削減については、車体重量の軽減効果も大きく、100 kgの軽量化により、平均的には約1 km/lの燃費の節減が可能になるとともに、CO2排出量も削減できる。
一方、衝突安全性については、その基準が年々厳しくなっており、車体強度および剛性の向上や強度の最適配分による乗員および歩行者の安全性の確保が必要となっている。
【0005】
一般的には、車体強度の向上を図ると車体重量が増加するが、車体に使用される素材の高強度化により車体重量の低減(すなわちCO2排出抑制)と衝突安全性とのバランスをとることが可能である。鉄鋼材料は自動車の重量の約7割を占める主要な素材であり、中でも鋼板の高強度化は年々進行している。ここで、鋼板の高強度化には、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、B等の高強度化元素を鋼中に添加し、加工と温度制御により要求される強度を満足させる必要がある。
【0006】
車体の軽量化、すなわち鋼板の薄厚化には、高強度化に加えて耐食性の確保が必要である。特に、溶接部は塗装欠陥が散見され、塗装性および耐食性の向上が課題となっている。上述のように、溶接法としてはアーク溶接、中でもCO2、Ar-CO2(O2)といった活性なガスをシールドガスに用いるガスシールドアーク溶接が一般的であり、シールドガスに含まれるCO2、O2といった、活性な酸化性ガスによって、溶接部(ビード)にはスラグとスケールが形成される。ここで、自動車部品においては、塗装によって耐食性が確保されるが、スラグおよびスケールは、塗装欠陥の原因となるため、腐食による耐用年数を考慮した場合の板厚確保が鋼板の薄板化ひいては自動車の軽量化の妨げとなっている。
【0007】
こうした背景の下、特許文献1には、シールドガスを不活性ガス主体とすることにより、スラグとそれに起因する塗装欠陥を抑制し、耐食性を確保する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−33982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に開示された方法では、溶接ビード止端部におけるスラグ形成の抑制が未だ不十分であり、腐食が依然として発生する問題があり、この問題を含む溶接継手部の耐食性を向上させるガスシールドアーク溶接方法が希求されていた。
【0010】
そこで本発明の目的は、溶接継手部の耐食性を向上させるガスシールドアーク溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は、上記課題を解決する方途について鋭意検討した。炭素鋼の溶接施工に使用されるガスシールドアーク溶接では、特許文献1に記載されているように、CO2単独またはArに20%程度のCO2を混合した酸化性ガスをシールドとして用いるのが一般的である。この酸化性ガスは、溶接金属の酸素量を増加させ、脱酸元素であるSiと反応してSiO2を形成し、SiO2はスラグとして溶接ビードを覆う。そのため、塗装欠陥の抑制のためには酸化性ガスとSiとの反応を抑制する必要があり、そのためにはシールドガスとしてArを主体とする低酸化性ガスを使用することが必要である。
しかし、発明者が鋭意検討した結果、溶接ビード止端部のスラグ形成を抑制するためには、低酸化性ガスの使用や溶接ワイヤの組成を調整するだけでは不十分であることが明らかとなった。また、スラグ形成を抑制する方途について鋭意検討した結果、シールドガス中の酸化性ガスの含有量が所定の要件を満足する必要があることに加えて、鋼板中のSiおよびTi含有量を低減することが肝要であることを見出し、本発明を完成させるに到った。
【0012】
即ち、本発明のガスシールドアーク溶接方法は、質量%でSi:0.01〜0.10%、Ti:0.05〜0.30%、Al:0.005〜0.3%、C:0.01〜0.3%、Mn:0.1〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Cr:0.05〜0.5%およびN:0.001〜0.02%を含み、残部はFeおよび不可避的不純物からなる鋼板に対して、溶接ワイヤを用い、不活性ガスと酸化性ガスとからなるシールドガスを供給してガスシールドアーク溶接を行う方法であって、前記シールドガス中に含まれる前記酸化性ガスは、体積%で3〜12%のCO2または1〜3%のO2もしくはこれらの両方からなり、該酸化性ガスは下記式(A)を満足することを特徴とするものである。

3≦3X+Y≦12 (A)
ただし、X:O2量〔体積%〕、Y:CO2量〔体積%〕である。
【0013】
また、本発明のガスシールドアーク溶接方法において、前記鋼板は、更にNb、V、Mo、SbおよびWのうちの1種または2種以上を0.005〜0.5%含むことを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明のガスシールドアーク溶接方法において、前記ガスシールドアーク溶接における溶接電流のピーク値が200〜280Aであることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明のガスシールドアーク溶接方法において、前記溶接ワイヤは、質量%でSi:0.25〜1.00%、S:0.020〜0.050%、O:0.001〜0.005%を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、溶接対象となる鋼板のSiおよびTi含有量、並びにシールドガスに含まれる酸化性ガスの組成比を規制することにより、溶接ビード止端部におけるスラグ形成も抑制されるため、耐食性に優れた溶接継手部を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明によるガスシールドアーク溶接方法は、質量%でSi:0.01〜0.10%、Ti:0.05〜0.30%、Al:0.005〜0.3%、C:0.01〜0.3%、Mn:0.1〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Cr:0.05〜0.5%およびN:0.001〜0.02%を含む鋼板に対して、溶接ワイヤを用い、不活性ガスと酸化性ガスとからなるシールドガスを供給してガスシールドアーク溶接を行う方法である。その際、シールドガス中に含まれる酸化性ガスは、体積%で3〜12%のCO2または1〜3%のO2もしくはその両方からなり、該酸化性ガスは下記式(1)を満足することが肝要である。
3≦3X+Y≦12 (1)
ただし、X:O2量〔体積%〕、Y:CO2量〔体積%〕である。
【0018】
まず、本発明において、アーク溶接を施す鋼板の成分組成から順に説明する。なお、以下、質量%は単に%として記すものとする。
Si:0.01〜0.10%
Siは、溶接金属のぬれ性を良好にさせる効果があるが、酸化によって生成されるSiO2は電着塗装において塗装欠陥となり、腐食の起点となる。鋼板中のSiは溶接ビード止端部のSiO2の形成に大きく影響し、鋼板中に0.10%を超えるSiを含有すると、溶接ビード止端部のSiO2の形成を防ぐことができない。一方、鋼板中のSiが0.01%未満では溶接金属と鋼板の濡れが悪く、安定した滑らかな溶接ビード形状が得られない。このことから、鋼板中のSi含有量は0.01〜0.10%とする。
【0019】
Ti:0.05〜0.30%
Tiは、Siと同様に強脱酸元素であり、溶鉄の表面張力および粘性を確保し、溶接線方向に均一な溶接ビードを得るのに有効な元素である。また、鋼板にTiを含有させることにより、アーク溶接におけるビード止端部にTiO2を含むスラグが形成される。このTiO2を含む微細な溶接スラグは、電着塗装においても塗膜形成が可能であるが、鋼板中のTi含有量が0.05%未満ではこの効果が得られない。一方、0.30%を超えるTiを含有させると、鋼板を脆くし、溶接金属の耐衝撃性を著しく低下させる。このことから、鋼板中のTi含有量は0.05〜0.30%とする。より好ましくは0.05〜0.15%である。
【0020】
C:0.01〜0.3%
Cは、鋼の強度を向上させ、また、溶接ビードの酸化を抑制する効果を有する。これらの効果を十分に得るためには、0.01%以上添加することが好ましい。しかし、0.3%を超える量を添加すると、常温で時効性を発現させ成形性を低下させる。このため、鋼板中のCの量は0.01%〜0.3%とする。
【0021】
Mn:0.1〜3.0%
Mnは、強度と靭性の確保に必須な元素であり、0.1%以上の添加を必要とする。しかし、3.0%を超えて添加すると、発生するスラグの量が増加し、低酸化性の雰囲気においてもスラグの形成およびその凝集を抑制することが困難になる。このことから、鋼板中のMnの量は0.1〜3.0%とする。
【0022】
P:0.05%以下
Pは、フェライトに固溶してその延性を低下させるため、0.05%を超える量の添加は、鋼板のプレス成形性における穴広げ性を著しく低下させる。このことから、鋼板中のPの量は0.05%以下とする。ただし、0.0005%未満まで低下させるためには、非常に生産コストがかかる。好ましくは、0.0005〜0.05%である。
【0023】
S:0.01%以下
Sは、MnSを形成して破壊の起点として作用し、鋼板のプレス成形性における穴広げ性を著しく低下させるため、鋼板中のSの添加量は、0.01%以下とする。ただし、0.0005%未満まで低下させるためには、非常に生産コストがかかる。好ましくは、0.0005〜0.01%である。
【0024】
Al:0.005〜0.30%
Alは、脱酸調整元素および結晶粒度調整元素として重要な元素であり、鋼材中のミクロ組織の調整、すなわち酸化物、硫化物の介在形態と分布の改善、オーステナイト結晶粒の微細化に効果があり、この効果を得るためには0.005%以上の添加が必要である。また、Tiと同様に、アーク溶接におけるビード止端部に酸化物を含むスラグを形成し、塗装における欠陥の抑制を可能にする。ただし、Alの添加量が0.30%を超えるとAlNが析出し、鋼板のプレス成形性における穴広げ性を著しく低下させる。このことから、鋼板中のAlの添加量は、0.005〜0.30%とする。好ましくは0.015〜0.10%である。
【0025】
Cr:0.05〜0.5%
Crは、その添加によって酸化を抑制する効果があり、溶接熱影響部の塗膜密着性の向上に効果がある。しかし、0.05%未満の添加量ではこれらの効果がなく、また0.5%を超える量を添加すると、鋼板の成形性を大きく低下させる。このことから、鋼板中のCrの添加量は、0.05〜0.5%とする。
【0026】
N:0.001〜0.02%
Nは、鋼のミクロ組織の制御に重要な元素であり、強度の向上に有効である。通常の鋼には、0.001〜0.005%程度が含まれている。一方、0.02%を超える量を添加すると加工性が低下し、プレス加工時に割れを生じる等の問題が生じる。このことから、鋼板のN添加量は、0.001〜0.02%とする。
【0027】
Nb、V、Mo、Sb、W:0.005〜0.5%
Nb、V、Mo、SbおよびWの添加は、それぞれCrと同様の効果を有するが、MoおよびWは原料コストがCrに比べて高く、NbおよびVはTiの微細析出を阻害し、鋼板の成形性を大きく低下させる。このことから、鋼板中のNb、V、Mo、SbおよびWの添加量は、それぞれ0.005〜0.5%とすることが好ましい。
なお、上記Nb、V、Mo、SbおよびWは、組み合わせて用いてもよい。
【0028】
なお、上記成分以外の残部は、Feおよび製造工程において混入する不可避的不純物である。
また、本発明によるガスシールドアーク溶接方法が対象とする鋼材の引張り強さは特に限定されないが、特に590〜1480 MPaの鋼材に有効である。
【0029】
上記組成を有する鋼板に対して、ガスシールドアーク溶接を行う。上述のように、CO2単独またはArに20体積%程度のCO2を混合した活性な酸化性ガスがシールドに用いられるのが一般的である。酸化性ガスは、溶接金属の酸素量を増加させ、脱酸元素であるSiと反応してSiO2を形成し、SiO2はスラグとして溶接ビードを覆うことになる。従って、シールドガスにおける酸化性ガスの比率を低減することにより、スラグとしてのSiO2生成を抑制することが可能である。
【0030】
そこで、CO2およびO2の量を単独で、または混合の場合は上記式に従って、酸化性ガスを抑制することとした。すなわち、CO2:Yが12体積%を超える場合、O2:Xが3体積%を超える場合、またはこれらの混合ガスが3X+Yで12を超える場合には、SiO2の生成を抑制することができない。一方、CO2:Yが3体積%未満、O2:Xが1体積%未満、またはこれらの混合ガス3X+Yが3体積%未満の場合には、鋼板側のアーク点が定まらず均一な溶接ビードを得ることができない。このことから、シールドガスは、主体となる不活性ガスと酸化性ガスとからなり、酸化性ガスとして3〜12体積%のCO2または1〜3体積%のO2もしくはこれらの両方からなり、酸化性ガス量が3≦3X+Y≦12(X:O2量〔体積%〕、Y:CO2量〔体積%〕)を満足することが肝要となる。
【0031】
上記の酸化性ガス量以外の溶接条件に関しては、適宜適切に設定すればよい。以下、酸化性ガス量以外の条件について説明する。
【0032】
ガスシールドアーク溶接における溶接入熱を抑制することにより、熱影響による鋼板の酸化を抑制することができる。しかし、溶け込みを深くして溶接止端部におけるコールドラップを防止するために、また、亜鉛めっき鋼を用いた場合に鉄の酸化の抑制に有効であることから、溶接入熱Qは、120〜200 J/mm以下とすることが好ましい。また、溶接入熱Qを上記範囲とする場合には、溶接速度は10〜30 mm/分の範囲とすることが好ましい。
【0033】
上述のような、シールドガス中の活性な酸化性ガスの低減は、アークの不安定を招く虞がある。このアークの不安定はスラグの分布を不均一にし、溶接ビード止端部に粗大なSiO2を主体とするスラグを形成する。また、溶接入熱を抑制する場合には、溶け込みを減少させ、溶接止端部にコールドラップを生じる虞がある。
これらに対する対策としては、ガスシールドアーク溶接における電流の波形制御が有効であり、溶接電流のピーク値を200〜280Aとすることが好ましい。これにより、アークを安定化することができ、ひいては溶接継手部の耐食性を更に向上させることができる。ここで、アーク溶接における溶滴移行の形態は、パルス溶接とは異なる短絡移行であり、その移行周期は、溶接ワイヤの組成に大きく影響されるが、安定な移行周期は50〜150 Hzである。
【0034】
更に、以上の本発明において、使用する溶接ワイヤ組成を、Si:0.25〜1.00%、S:0.020〜0.050%、O:0.001〜0.005%とすることにより、溶接継手部の耐食性を更に向上させることができる。以下、溶接ワイヤの成分組成の限定理由について説明する。なお、以下、質量%は単に%として記すものとする。
【0035】
Si:0.25〜1.00%
Siは、強い脱酸作用を有し、溶接金属の脱酸のためには不可欠な元素であり、かつ、溶接金属の強度を確保するために重要な固溶強化元素である。また、Siは、溶接金属のぬれ性を良好にさせ、溶接ビードの形状を平滑にする効果がある。しかし、1.00%を超えて添加すると、酸化物であるSiO2が溶接ビード止端部に集まり、逆に、溶接ビードの形状の平滑性を阻害し、塗装性、耐食性を低下させる。よって、溶接ワイヤのSiの添加量は、0.25〜1.00%とすることが好ましい。
【0036】
S:0.020〜0.050%
Sは、溶鋼の粘性および表面張力を低下させて、溶接ビードの形状を平滑にする働きがある。また、生成するスラグを溶接ビード中央に集め、溶接ビード止端部のスラグ形成を抑制する効果がある。この効果は0.020%未満の添加量では得られない。一方、0.05%を超えて添加すると、溶接金属の靭性を著しく低下させる。よって、溶接ワイヤのSの添加量は、0.020〜0.050%とすることが好ましい。
【0037】
O:0.001〜0.005%
溶接金属中のOの量を高めることにより、溶接ビード形状を平滑にすることができる。しかし、溶接ワイヤ中に0.005%以上添加すると、低酸化性雰囲気においてもスラグの生成を抑制することが困難となる。一方、0.001%未満の添加量では、粘性および表面張力が低下しないため、溶接ビード止端部の形状の平滑性を低下させる。よって、溶接ワイヤのOの添加量は、0.001〜0.005%とすることが好ましい。
【0038】
また、溶接ワイヤ中のSi、SおよびO以外の合金成分は、所望の特性に応じて適宜添加することができるが、以下の範囲とすることがより好ましい。
【0039】
C:0.30%以下
Cは、溶接金属の強度を確保するために重要な固溶強化元素である。しかし、0.30%を超える量を含有させると、溶接金属の脆性を低下させる。よって、溶接ワイヤのC添加量は、0.30%以下とすることが好ましい。
【0040】
Mn:0.50〜2.50%
Mnは、Siと同様に、脱酸作用を有し、溶接金属の脱酸のためには不可欠な元素であり、溶接金属の強度を確保するために0.50%以上の添加が好ましい。一方、2.50%を超える過剰な添加は、溶接金属靭性を著しく低下させる。よって、溶接ワイヤのMnの添加量は、0.50〜2.50%とすることが好ましい。
【0041】
更に、溶接金属の強度、疲労向上を目的としてCu、Cr、Ni、Mo、Alそれぞれ3.0%以下、Ti、V、W、Nb、B、SbおよびNを0.5%以下添加してもよい。
なお、上記成分以外の残部は、製造工程において混入する不可避的不純物およびFeであ
る。
【0042】
溶接ワイヤは、上記範囲を満足する所望の組成を有する鋼を溶製した後、熱間または冷間において、圧延および引抜き加工を施して所望の径とすることにより得ることができる。
【0043】
こうして、溶接ビード止端部におけるスラグの形成が抑制されるため、耐食性に優れた溶接継手部を形成することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例について説明する。
(腐食試験片の作製)
まず、供試鋼板として表1に成分を示す2.3 mm厚の熱延鋼板および表2に示す溶接ワイヤを用いて、表3に示す溶接条件の下で重ねすみ肉溶接を行った。次いで、幅60 mm×長さ170 mmの寸法を有し、溶接線が幅方向に平行かつ長さ方向の中央に位置するように加工した後、通常の化成処理(燐酸亜鉛処理)を施し、約20μmの塗装膜となるよう電着塗装した。続いて、150℃にて30分の硬化処理を施した後、周囲の幅5 mmの部分に対して樹脂によるシール処理を施して腐食試験片を得た。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
(腐食試験)
まず、上述のようにして得られた試験片に対して5%の塩水噴霧を行った後、湿度25%の雰囲気中において試験片を乾燥させ、続いて湿度90%の高湿雰囲気中に8時間置いた。この一連の処理を1サイクルとして30サイクル繰り返した後、溶接ビード止端から2.5 mmの範囲における溶接線方向の腐食長さを測定した。耐食性の評価は、得られた腐食長さを試験片の長さで除した値の100分率を用いて行った。その際、10%以下を最良(○)、10%超え25%以下を良(△)、25%超えを不良(×)とした。得られた結果を表4に示す。この表から明らかなように、Si量およびTi量が上述の範囲内にあり、酸化性ガスが式(1)を満足するものについては、腐食試験の結果は最良となった。また、溶接電流のピーク電流値が200〜280Aの範囲にあると、腐食試験の結果が向上した。更に、溶接ワイヤにおけるSi、SおよびOの含有量が本発明に規定された範囲に入っている場合には、腐食試験の結果が更に向上することが分かる(発明例1〜3、6および11)。
【0049】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%でSi:0.01〜0.10%およびTi:0.05〜0.30%、Al:0.005〜0.3%、C:0.01〜0.3%、Mn:0.1〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Cr:0.05〜0.5%およびN:0.001〜0.02%を含み、残部はFeおよび不可避的不純物からなる鋼板に対して、溶接ワイヤを用い、不活性ガスと酸化性ガスとからなるシールドガスを供給してガスシールドアーク溶接を行う方法であって、
前記シールドガス中に含まれる前記酸化性ガスは、体積%で3〜12%のCO2または1〜3%のO2もしくはこれらの両方からなり、該酸化性ガスは下記式(A)を満足することを特徴とするガスシールドアーク溶接方法。

3≦3X+Y≦12 (A)
ただし、X:O2量〔体積%〕、Y:CO2量〔体積%〕である。
【請求項2】
前記鋼板は、更にNb、V、Mo、SbおよびWのうちの1種または2種以上を0.005〜0.5%含むことを特徴とする、請求項1に記載のガスシールドアーク溶接方法。
【請求項3】
前記ガスシールドアーク溶接における溶接電流のピーク値が200〜280Aであることを特徴とする、請求項1または2に記載のガスシールドアーク溶接方法。
【請求項4】
前記溶接ワイヤは、質量%でSi:0.25〜1.00%、S:0.020〜0.050%、O:0.001〜0.005%を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接方法。

【公開番号】特開2012−213801(P2012−213801A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−72398(P2012−72398)
【出願日】平成24年3月27日(2012.3.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】