説明

ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ

【課題】 大入熱・高パス間温度条件でガスシールドアーク溶接を施した際に、溶接部が十分な機械的性能を備えると共に、スラグの発生量が少なく、スラグの剥離性が良好であるガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤを提供する。
【解決手段】 ワイヤの組成を、C:0.02乃至0.10質量%、Si:0.65乃至1.00質量%、Mn:1.40乃至1.80質量%、S:0.005乃至0.025質量%、Ti:0.05乃至0.18質量%、Mo:0.10乃至0.35質量%、及びCu:0.45質量%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn及びMoの合計含有量が2.10質量%以下、Si及びTiの合計含有量が0.75質量%以上、S及びOの合計含有量が0.030質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Oが0.0100質量%以下に規制された組成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟鋼又は強度が520N/mm級以下の高張力鋼を炭酸ガスシールドアーク溶接する際に使用するガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近時、建築鉄骨分野では、二酸化炭素(CO)ガスをシールドガスとするガスシールドアーク溶接法が、主として使用されている。その理由は、炭酸ガスシールドアーク溶接法には能率性が高いという利点があるためである。そして、耐震性向上を主眼として、溶接継手部の性能向上を図るために、1997年のJASS6改定及び1999年の建築基準法改定において、溶接時の入熱・パス間温度に上限管理が規定された。
【0003】
この動向を受けて、溶接ワイヤについても、大入熱・高パス間温度条件に対応するワイヤが開発された。そして、1999年には、540N/mm級ワイヤとして、JIS(Japanese Industrial Standards:日本工業規格)に規定された。このワイヤを用いると、例えば、490N/mm級鋼板に対しては、溶接時の最大入熱が40kJ/cm、パス間温度が350℃まで許容される。また、520N/mm級鋼板に対しては、溶接時の最大入熱が30kJ/cm、パス間温度が250℃まで許容されることになる。それ以後今日まで、大入熱・高パス間温度条件において従来の溶接ワイヤよりも優れた機械的性能が得られる540N/mm級ワイヤは、急速に普及が進んでいる。
【0004】
これまでに開発された炭酸ガスシールドアーク溶接用大電流・高パス間温度対応ワイヤとしては、特許文献1(特開平10−230387号公報)、特許文献2(特開平11−090678号公報)、特許文献3(特開2000−317678号公報)、特許文献4(特開2001−287086号公報)、特許文献5(特開2002−321087号公報)、特許文献6(特開2002−346789号公報)、特許文献7(特開2002−079395号公報)、特許文献8(特開2003−119550号公報)、特許文献9(特開2003−136281号公報)等に記載された溶接ワイヤがある。これらの溶接ワイヤは全般的に、Si、Mn及びTiといった脱酸成分を従来の溶接ワイヤよりも多く含有し、且つ、Mo、B、Cr、Al、Nb及びV等を必要に応じ添加しているのが特徴である。
【0005】
【特許文献1】特開平10−230387号公報
【特許文献2】特開平11−090678号公報
【特許文献3】特開2000−317678号公報
【特許文献4】特開2001−287086号公報
【特許文献5】特開2002−321087号公報
【特許文献6】特開2002−346789号公報
【特許文献7】特開2002−079395号公報
【特許文献8】特開2003−119550号公報
【特許文献9】特開2003−136281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の従来の技術には、以下に示すような問題点がある。従来、溶接は作業者が溶接機を使用することによる半自動溶接法がほとんどであったが、省人化によるコストダウン、並びに夜間及び休日の無人運転によるより一層の能率向上を目的として、ロボットによる全自動溶接が普及してきている。そして、前述の540N/mm級ワイヤについては、入熱管理及びパス間温度の管理が困難である半自動溶接への普及が進んでいたが、最近はロボット溶接にも540N/mm級ワイヤが適用されることが多くなっている。
【0007】
しかしながら、これまでに開発された大電流・高パス間温度対応ワイヤは、ロボットへの搭載を考慮して設計されていない。このため、従来の大電流・高パス間温度対応ワイヤには、スラグ発生量が多く、且つ、スラグの溶接金属部からの剥離性が劣るという欠点がある。このような従来のワイヤを使用して溶接すると、溶接に伴って溶接部にスラグが堆積し、堆積したスラグがアークの安定性を低下させ、溶込み不足及びスラグ巻き込みといった欠陥発生の直接原因となる。また、多少なりともスラグが自然剥離しなければ、ロボットがスターチ位置をずらしながら再アークを試みても、アークスタートミスが続き、ロボットがエラー判定して停止してしまう。溶接ロボットは、作業を無人化できることが最大の利点である。しかし、短時間でスラグが堆積し、アークの不安定化を引き起こしてしまっては、アークスタートミスを復帰させるためにアークスタート部のスラグ除去を行う必要が生じるなど、人手によるスラグ除去作業が高い頻度で必要となり、溶接ロボットの利点を活かせない。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、軟鋼又は強度が520N/mm級以下の高張力鋼に対して、大入熱・高パス間温度条件でガスシールドアーク溶接を施した際に、溶接部が十分な機械的性能を備えると共に、スラグの発生量が少なく、スラグの剥離性が良好であるガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る第1のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤは、C:0.02乃至0.10質量%、Si:0.65乃至1.00質量%、Mn:1.40乃至1.80質量%、S:0.005乃至0.025質量%、Ti:0.05乃至0.18質量%、Mo:0.10乃至0.35質量%、及びCu:0.45質量%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn及びMoの合計含有量が2.10質量%以下、Si及びTiの合計含有量が0.75質量%以上、S及びOの合計含有量が0.030質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Oが0.0100質量%以下に規制されていることを特徴とする。
【0010】
本発明においては、ワイヤ中のMn、Ti及びOの含有量の上限値を規定することにより、スラグの生成量を低減することができる。また、Sを含有させると共に、Mn、Mo及びCuの上限値を規定することにより、スラグの剥離性を向上させることができる。更に、各成分の含有量を上述の如く規定することにより、大入熱・高パス間温度条件で溶接を行っても、溶接金属部の機械的性質が低下することがない。更にまた、Tiを含有させることにより、アークを安定させ、スパッタの発生量を低減することができる。
【0011】
本発明に係る第2のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤは、C:0.02乃至0.10質量%、Si:0.65乃至1.00質量%、Mn:1.40乃至1.80質量%、S:0.005乃至0.025質量%、Ti:0.05乃至0.18質量%、Mo:0.10乃至0.35質量%、Cu:0.45質量%以下、及びB:0.0015乃至0.0050質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn及びMoの合計含有量が2.10質量%以下、Si及びTiの合計含有量が0.75質量%以上、S及びOの合計含有量が0.030質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Oが0.0100質量%以下に規制されていることを特徴とする。
【0012】
本発明においては、ワイヤ中のMn、Ti及びOの含有量の上限値を規定することにより、スラグの生成量を低減することができる。また、Sを含有させると共に、Mn、Mo及びCuの上限値を規定することにより、スラグの剥離性を向上させることができる。更に、各成分の含有量を上述の如く規定することにより、大入熱・高パス間温度条件で溶接を行っても、溶接金属部の機械的性質が低下することがない。更にまた、Tiを含有させることにより、アークを安定させ、スパッタの発生量を低減することができる。更にまた、ワイヤにBを含有させることにより、溶接金属部の靭性をより一層向上させることができる。
【0013】
本発明に係る第3のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤは、C:0.02乃至0.10質量%、Si:0.65乃至1.00質量%、Mn:1.40乃至1.80質量%、S:0.005乃至0.025質量%、Ti:0.05乃至0.18質量%、Mo:0.10乃至0.35質量%、及びCu:0.45質量%以下を含有し、更に、Nb、V、Al、Cr及びNiからなる群から選択された1種又は2種以上の元素を夫々0.20質量%以下含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn及びMoの合計含有量が2.10質量%以下、Si及びTiの合計含有量が0.75質量%以上、S及びOの合計含有量が0.030質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Oが0.0100質量%以下に規制されていることを特徴とする。
【0014】
本発明においては、ワイヤ中のMn、Ti及びOの含有量の上限値を規定することにより、スラグの生成量を低減することができる。また、Sを含有させると共に、Mn、Mo及びCuの上限値を規定することにより、スラグの剥離性を向上させることができる。更に、各成分の含有量を上述の如く規定することにより、大入熱・高パス間温度条件で溶接を行っても、溶接金属部の機械的性質が低下することがない。更にまた、Tiを含有させることにより、アークを安定させ、スパッタの発生量を低減することができる。更にまた、ワイヤにNb、V、Al、Cr又はNiを含有させることにより、溶接金属部の強度をより一層向上させることができる。
【0015】
本発明に係る第4のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤは、C:0.02乃至0.10質量%、Si:0.65乃至1.00質量%、Mn:1.40乃至1.80質量%、S:0.005乃至0.025質量%、Ti:0.05乃至0.18質量%、Mo:0.10乃至0.35質量%、Cu:0.45質量%以下、及びB:0.0015乃至0.0050質量%を含有し、更に、Nb、V、Al、Cr及びNiからなる群から選択された1種又は2種以上の元素を夫々0.20質量%以下含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn及びMoの合計含有量が2.10質量%以下、Si及びTiの合計含有量が0.75質量%以上、S及びOの合計含有量が0.030質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Oが0.0100質量%以下に規制されていることを特徴とする。
【0016】
本発明においては、ワイヤ中のMn、Ti及びOの含有量の上限値を規定することにより、スラグの生成量を低減することができる。また、Sを含有させると共に、Mn、Mo及びCuの上限値を規定することにより、スラグの剥離性を向上させることができる。更に、各成分の含有量を上述の如く規定することにより、大入熱・高パス間温度条件で溶接を行っても、溶接金属部の機械的性質が低下することがない。更にまた、Tiを含有させることにより、アークを安定させ、スパッタの発生量を低減することができる。更にまた、ワイヤにBを含有させることにより、溶接金属部の靭性をより一層向上させることができる。更にまた、Nb、V、Al、Cr又はNiを含有させることにより、溶接金属部の強度をより一層向上させることができる。
【0017】
本発明に係る第5のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤは、C:0.02乃至0.10質量%、Si:0.65乃至1.00質量%、Mn:1.40乃至1.80質量%、S:0.005乃至0.025質量%、Ti:0.05乃至0.18質量%、及びMo:0.10乃至0.35質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn及びMoの合計含有量が2.10質量%以下、Si及びTiの合計含有量が0.75質量%以上、S及びOの合計含有量が0.030質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Oが0.0100質量%以下に規制されていることを特徴とする。
【0018】
本発明においては、ワイヤ中のMn、Ti及びOの含有量の上限値を規定することにより、スラグの生成量を低減することができる。また、Sを含有させると共に、Mn及びMoの上限値を規定することにより、スラグの剥離性を向上させることができる。更に、各成分の含有量を上述の如く規定することにより、大入熱・高パス間温度条件で溶接を行っても、溶接金属部の機械的性質が低下することがない。更にまた、Tiを含有させることにより、アークを安定させ、スパッタの発生量を低減することができる。
【0019】
本発明に係る第6のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤは、C:0.02乃至0.10質量%、Si:0.65乃至1.00質量%、Mn:1.40乃至1.80質量%、S:0.005乃至0.025質量%、Ti:0.05乃至0.18質量%、Mo:0.10乃至0.35質量%、及びB:0.0015乃至0.0050質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn及びMoの合計含有量が2.10質量%以下、Si及びTiの合計含有量が0.75質量%以上、S及びOの合計含有量が0.030質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Oが0.0100質量%以下に規制されていることを特徴とする。
【0020】
本発明においては、ワイヤ中のMn、Ti及びOの含有量の上限値を規定することにより、スラグの生成量を低減することができる。また、Sを含有させると共に、Mn及びMoの上限値を規定することにより、スラグの剥離性を向上させることができる。更に、各成分の含有量を上述の如く規定することにより、大入熱・高パス間温度条件で溶接を行っても、溶接金属部の機械的性質が低下することがない。更にまた、Tiを含有させることにより、アークを安定させ、スパッタの発生量を低減することができる。更にまた、ワイヤにBを含有させることにより、溶接金属部の靭性をより一層向上させることができる。
【0021】
本発明に係る第7のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤは、C:0.02乃至0.10質量%、Si:0.65乃至1.00質量%、Mn:1.40乃至1.80質量%、S:0.005乃至0.025質量%、Ti:0.05乃至0.18質量%、及びMo:0.10乃至0.35質量%を含有し、更に、Nb、V、Al、Cr及びNiからなる群から選択された1種又は2種以上の元素を夫々0.20質量%以下含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn及びMoの合計含有量が2.10質量%以下、Si及びTiの合計含有量が0.75質量%以上、S及びOの合計含有量が0.030質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Oが0.0100質量%以下に規制されていることを特徴とする。
【0022】
本発明においては、ワイヤ中のMn、Ti及びOの含有量の上限値を規定することにより、スラグの生成量を低減することができる。また、Sを含有させると共に、Mn及びMoの上限値を規定することにより、スラグの剥離性を向上させることができる。更に、各成分の含有量を上述の如く規定することにより、大入熱・高パス間温度条件で溶接を行っても、溶接金属部の機械的性質が低下することがない。更にまた、Tiを含有させることにより、アークを安定させ、スパッタの発生量を低減することができる。更にまた、ワイヤにNb、V、Al、Cr又はNiを含有させることにより、溶接金属部の強度をより一層向上させることができる。
【0023】
本発明に係る第8のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤは、C:0.02乃至0.10質量%、Si:0.65乃至1.00質量%、Mn:1.40乃至1.80質量%、S:0.005乃至0.025質量%、Ti:0.05乃至0.18質量%、Mo:0.10乃至0.35質量%、及びB:0.0015乃至0.0050質量%を含有し、更に、Nb、V、Al、Cr及びNiからなる群から選択された1種又は2種以上の元素を夫々0.20質量%以下含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn及びMoの合計含有量が2.10質量%以下、Si及びTiの合計含有量が0.75質量%以上、S及びOの合計含有量が0.030質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Oが0.0100質量%以下に規制されていることを特徴とする。
【0024】
本発明においては、ワイヤ中のMn、Ti及びOの含有量の上限値を規定することにより、スラグの生成量を低減することができる。また、Sを含有させると共に、Mn及びMoの上限値を規定することにより、スラグの剥離性を向上させることができる。更に、各成分の含有量を上述の如く規定することにより、大入熱・高パス間温度条件で溶接を行っても、溶接金属部の機械的性質が低下することがない。更にまた、Tiを含有させることにより、アークを安定させ、スパッタの発生量を低減することができる。更にまた、ワイヤにBを含有させることにより、溶接金属部の靭性をより一層向上させることができる。更にまた、Nb、V、Al、Cr又はNiを含有させることにより、溶接金属部の強度をより一層向上させることができる。
【0025】
また、Cの含有量が0.05質量%以上であることが好ましい。更に、Tiの含有量が0.16質量%以下であることが好ましい。
【0026】
更にまた、前記ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤに、ワイヤ10kgあたりの重量でワイヤ表面にMoSを0.01g/10kg乃至1.00g/10kg付着させることが好ましい。これにより、スラグの剥離性をより一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤの組成を上述の如く規定することにより、軟鋼又は強度が520N/mm級以下の高張力鋼に対して、大入熱・高パス間温度条件で炭酸ガスシールドアーク溶接を施した際に、スラグの発生量を少なくし、スラグの剥離性を良好にし、且つ、溶接部の機械的性能を十分に高く確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明者等は、上述の問題点を解決するために、溶接スラグに関する研究を重ね、スラグの生成量及びスラグの剥離性に及ぼす影響要因を明らかにし、以下に示す知見を得た。溶接スラグの生成量は、強脱酸成分、即ち、Mn及びTiの含有量と強い関係があり、これらの含有量が増加するとスラグの生成量も増加する。また、溶接金属部からのスラグの剥離性は、溶融状態におけるスラグ/溶接金属間界面エネルギー、凝固後のスラグ自体の強度、溶接金属部表面の凹凸、即ち、溶接金属部の物理的高低差とその高低部位生成頻度、と強い関係があり、Mn含有量及びMo含有量の増加、並びにS含有量の減少により剥離性が低下する。また、ワイヤ成分以外の要因として、ワイヤの送給が不安定になると、溶融池の形成が乱れ、生成されたスラグの厚さが不均一になり、スラグ剥離性が低下することも明らかになった。これらは従来知られていなかった知見である。そして、これらの影響因子は、従来の高張力鋼用溶接ワイヤ、低温鋼用溶接ワイヤ及び高電流用ワイヤにおいて、一般にスラグ量増大及び剥離性低下が避けられなかった要因であると考えられる。
【0029】
一方、上述の知見に基づき、スラグ生成量の低減及び剥離性の向上を過度に追求すると、溶接金属部における強度及び靭性等の機械的性能の低下、高電流溶接時のアーク安定性の低下、並びにスパッタ量の増大といった問題が生じやすいことも明らかになった。
【0030】
そこで、本発明者等は上述の各要素を考慮し、ロボット溶接に適した大入熱・高電流溶接用として最適な溶接ワイヤ、即ち、(1)スラグ発生量が少なく、(2)スラグ剥離性が良好であり、(3)入熱量が大きく、パス間温度が高く、従って溶接金属部の冷却速度が小さくなる溶接条件においても溶接金属部の機械的性質が優れ、更に、ノズル閉塞により連続溶接が阻害されることを防止するために、(4)スパッタ発生量が少ないガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤを開発した。
【0031】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。先ず、本発明の第1の実施形態について説明する。本実施形態に係るガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ(以下、単にワイヤともいう)は、軟鋼又は強度が490N/mm級以下の高張力鋼に対して、最大入熱量が40kJ/cm、最高パス間温度が350℃の条件で炭酸ガスシールドアーク溶接を施す際に、又は、強度が520N/mm級以下の高張力鋼に対して、最大入熱量が30kJ/cm、最高パス間温度が250℃の条件で炭酸ガスシールドアーク溶接を施す際に使用するワイヤである。このワイヤは、例えば、溶接ロボットに搭載されて、自動溶接に使用される。
【0032】
このワイヤの組成は、C:0.02乃至0.10質量%、Si:0.65乃至1.00質量%、Mn:1.40乃至1.80質量%、S:0.005乃至0.025質量%、Ti:0.05乃至0.18質量%、Mo:0.10乃至0.35質量%、及びCu:0.45質量%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn及びMoの合計含有量が2.10質量%以下、Si及びTiの合計含有量が0.75質量%以上、S及びOの合計含有量が0.030質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Oが0.0100質量%以下に規制されている。より好ましくは、C:0.05乃至0.10質量%、Ti:0.05乃至0.16質量%である。
【0033】
また、ワイヤの表面には、MoSがワイヤ10kgあたり0.01乃至1.00g付着している。即ち、MoS付着量は0.01g/10kg乃至1.00g/10kgである。このMoSは、例えば塗布によってワイヤ表面に被着されたものである。
【0034】
以下、本発明の数値限定理由について説明する。
【0035】
C含有量:0.02乃至0.10質量%
炭素(C)は溶接金属部の強度を確保する為に重要な添加元素であるが、Cの含有量が0.02質量%未満では、大入熱・高パス間温度溶接時には溶接金属部の冷却速度が小さいため、必要な強度を確保できない。従って、C含有量は0.02質量%以上とする。望ましくは、0.05質量%以上である。一方、ワイヤにCを過剰に添加すると、溶接金属部に高温割れが発生しやすくなる。C含有量が0.10質量%を超えると、高温割れの発生が顕著になるため、C含有量は0.10質量%以下とする。
【0036】
Si含有量:0.65乃至1.00質量%
珪素(Si)はスラグ生成量及びスラグ剥離性には大きな影響を及ぼさないが、主として強度確保、脱酸による気孔欠陥防止、及びなじみ性向上のために添加する。これらの効果は0.65質量%以上の添加で有効になる。従って、Si含有量は0.65質量%以上とする。但し、Ti含有量が少ない場合は、Si含有量を更に増加させる必要がある。一方、Siを1.00質量%を超えて過剰に添加すると、溶接金属部の靭性が低下する。このため、Si含有量は1.00質量%以下とする。
【0037】
Mn含有量:1.40乃至1.80質量%
マンガン(Mn)は、脱酸を促進すると共に、溶接金属部の強度及び靱性を向上させる効果がある。従来の一般的な大入熱用ワイヤはMnを多く含有するが、一方でMnはスラグの生成量を増加させ、且つ剥離性を低下させてしまう。ロボット等による自動溶接の場合は、人手による溶接と比較して、ワイヤの突き出し長さが短く、且つ安定することから、シールド性が良好であり、大入熱溶接条件と言えども脱酸元素の酸化消耗量が少ない。このため、本発明においては、Mn含有量を従来よりも低めに設計することにより、溶接金属部の機械的性質とスラグ発生量及びスラグ剥離性とのバランスを改善している。Mn含有量が1.40質量%未満では、大入熱溶接時の溶接金属部の強度及び靭性が不足する。従って、Mn含有量は1.40質量%以上とする。一方、Mn含有量が1.80質量%を超えると、スラグ量が増加し、剥離性が低下する。従って、Mn含有量は1.80質量%以下とする。より好ましくは、1.70質量%以下である。但し、Mo含有量が多い場合は、Mo含有量に応じてMn含有量の上限を減少させる必要がある。
【0038】
S含有量:0.005乃至0.025質量%以下
硫黄(S)の添加は、溶融池の表面張力を低減し、凝固時の物理的凹凸を減少させて溶接金属部の表面を滑らかにする効果がある。これによりスラグの剥離性が向上する。但し、S含有量が0.005質量%未満ではこの効果は現れない。従って、S含有量は0.005質量%以上とする。好ましくは、0.009質量%以上である。一方、Sを0.025質量%を超えて添加しても、溶接金属部の表面形状を改善する効果が飽和してしまう上に、溶接金属部の靭性が低下し、高温割れが発生しやすくなる。また、スラグの形態が粒状化し、アークによる溶融を妨げ、不安定要因となる。従って、S含有量は0.025質量%以下とする。但し、O含有量が多い場合は、O含有量に応じてS含有量の上限値を低下させる必要がある。
【0039】
Ti含有量:0.05乃至0.18質量%
チタン(Ti)の添加は、高電流域におけるアーク安定性を向上させる効果がある。Ti含有量が0.05質量%未満では、アーク安定性が低下し、スパッタ発生量が増加する。従って、Ti含有量は0.05質量%以上とする。但し、Si含有量が少ない場合にはTi含有量を増加させる必要がある。一方、ワイヤにTiを0.18質量%を超えて添加すると、スラグ量が過剰に多くなり、アークによる溶融が困難となって連続溶接を阻害する。従って、Ti含有量は0.18質量%以下とする。より好ましくは、0.16質量%以下である。
【0040】
Mo含有量:0.10乃至0.35質量%
モリブデン(Mo)は、溶接金属の焼入れ性を向上させ、溶接金属部の強度を向上させる効果がある。この効果を得るためには、Moを最低でも0.10質量%以上添加する必要がある。従って、Mo含有量は0.10質量%以上とする。一方、Moはスラグの硬度を上昇させ、スラグを割れ難くして剥離性を低下させる。Mo含有量が0.35質量%を超えると、スラグ剥離性が急激に低下するため、Mo含有量は0.35質量%以下とする。但し、Mn含有量が多い場合には、Mn含有量に応じてMo含有量の上限値を低下させる必要がある。
【0041】
Cu:0.45質量%以下
銅(Cu)は、焼入性の向上を目的としてワイヤ中に含有させることがある。また、ワイヤの送給性の向上を目的として、ワイヤ表面にCuめっきを施すことがある。但し、ワイヤにCuを過剰に添加又はめっきすると、溶接金属部において高温割れが発生しやすくなると共に、スラグの性質が変化して剥離性が低下する。ワイヤ中にCuを0.45質量%を超えて添加すると、これらの問題が顕著になるため、Cu含有量は0.45質量%以下とする。一方、焼入性又は送給性を向上させるためには、Cu含有量は0.10質量%以上とすることが好ましい。なお、線材の表面に銅めっきが施されているワイヤにおいては、上述のCu含有量は、線材に含まれるCu量と銅めっきに含まれるCu量との合計量とする。
【0042】
Mn及びMoの合計含有量:2.10質量%以下
Mn及びMoは共にスラグの剥離性を低下させる性質があり、Mn及びMoの含有量が合計で2.10質量%を超えると、スラグ剥離性の低下が顕著となる。また、スラグ量も増加する。従って、Mn及びMoの合計含有量は2.10質量%以下とする。
【0043】
Si及びTiの合計含有量:0.75質量%以上
SiとTiとには多少の補完関係があり、一方の効果を他方が補うことができるが、合計含有量が0.75質量%以上でなければ、スパッタ量が増加すると共に、溶接金属部の強度が低下する。従って、Si及びTiの合計含有量は0.75質量%以上とする。
【0044】
S及びOの合計含有量:0.030質量%以下
S及びOの合計含有量が0.030質量%を超えると、溶接金属部に高温割れが発生しやすくなると共に、スラグの形態が粒状化するため、アークによる溶融を妨げ、不安定要因となる。また、溶接金属部の靭性も低下する。従って、S及びOの合計含有量は0.030%以下とする。
【0045】
P含有量:0.020質量%以下
鋼にはPが不可避的不純物として混入しているが、りん(P)は高温割れを発生させる主要元素の一つであり、本発明に係るワイヤに故意に添加する利点はない。P含有量が0.020質量%を超えると、高温割れが問題となる。従って、P含有量は0.020質量%以下に規制する。
【0046】
O含有量:0.0100質量%以下
鋼には酸素(O)が不可避的不純物として混入しているが、スラグは酸化物であるため、ワイヤ中のO量が増加すると、化学反応によって生じるスラグ生成量も増加する。また、O含有量が増加すると、溶接金属部中の介在物が増加するため、溶接金属部において高温割れが発生しやすくなると共に、溶接金属部の靭性が低下する。通常、O含有量が0.0100質量%以下であれば問題ないので、O含有量は0.0100質量%以下に規制する。但し、S含有量が多い場合は、高温割れを防止するために、O含有量の上限値を減少させる。なお、上述のO含有量の規定は、ワイヤ中のOの分布、即ち、線材のバルク中に含有されているか表面に存在しているかといったOの存在位置には無関係であり、総合計で規定することができる。
【0047】
ワイヤ表面のMoS付着量:0.01g/10kg乃至1.00g/10kg
前述の如く、ワイヤの送給性もスラグ剥離性に大きな影響を及ぼす。ワイヤの送給が安定することにより、溶融池の形成もまた安定となり、生成されたスラグの厚さが均一となり、熱収縮の歪が均一に作用することにより、スラグが全面剥離しやすくなる。ワイヤ表面に存在するMoSは、チップ−ワイヤ間の給電点における融着を低減し、ワイヤの送給性を向上させる。従来、ワイヤ表面の粒界に沿ってワイヤを過剰酸化させることによりワイヤの送給性を向上させる技術が知られているが、この方法ではO含有量が過剰になってしまい、スラグの生成量が増加するという欠点がある。これに対して、ワイヤ表面にMoSを付着させる方法は、スラグ生成量の増加等の懸念がないため、ワイヤの送給性を向上させる方法として好適である。この効果は、ワイヤ表面にMoSをワイヤ10kgあたり0.01g以上付着させることにより、顕著になる。一方、MoSをワイヤ10kgあたり1.00gより多く付着させると、送給機構内にMoSが堆積し、送給機構内にMoSが詰まり、却ってワイヤ送給性を低下させてしまう。これにより、スラグ性状に影響を及ぼして、スラグの剥離性を低下させることになる。従って、ワイヤ表面のMoS付着量は0.01g/10kg乃至1.00g/10kgであることが好ましい。
【0048】
上述の各成分の含有量の限定理由を添付の図面を参照してまとめて説明する。図1は、横軸にMn含有量をとり、縦軸にMo含有量をとって、本発明の成分範囲及びこの成分範囲を外れることによる影響を示すグラフ図であり、図2は、横軸にSi含有量をとり、縦軸にTi含有量をとって、本発明の成分範囲及びこの成分範囲を外れることによる影響を示すグラフ図であり、図3は、横軸にS含有量をとり、縦軸にO含有量をとって、本発明の成分範囲及びこの成分範囲を外れることによる影響を示すグラフ図である。図1乃至図3において、領域1は本発明の範囲を示し、領域2は領域1の内部に位置し、本発明におけるより好適な範囲を示す。
【0049】
図1に示すように、本発明の範囲(領域1)よりもMn含有量が多くなると、スラグ量が過剰となると共に、スラグの剥離性が低下する。また、本発明範囲よりもMn含有量が少なくなると、溶接金属部の強度及び靭性が低下する。一方、本発明範囲よりもMo含有量が多くなると、スラグの剥離性が低下する。また、本発明範囲よりもMo含有量が少なくなると、溶接金属部の強度が低下する。
【0050】
また、図2に示すように、本発明範囲よりもSi含有量が多くなると、溶接金属部の靭性が低下する。また、本発明範囲よりもSi含有量が少なくなると、溶接金属部の強度が低下する。一方、本発明範囲よりもTi含有量が多くなると、スラグ量が過剰になる。また、本発明範囲よりもTi含有量が少なくなると、アークが不安定となり、スパッタ量が増加する。
【0051】
更に、図3に示すように、本発明範囲よりもS量が多くなると、溶接金属部の靭性及び耐高温割れ性が低下する。また、本発明範囲よりもS量が少なくなると、スラグの剥離性が低下する。一方、本発明範囲よりもO含有量が多くなると、スラグ量が過剰になる。
【0052】
以下、本実施形態の効果について説明する。上述の如く、本実施形態に係るワイヤにおいては、Mn含有量が1.80質量%以下であり、Ti含有量が0.18質量%以下であり、O含有量が0.0100質量%以下に規制されているため、スラグの生成量が少ない。また、Mn含有量が1.80質量%以下であり、S含有量が0.005質量%以上であり、Mo含有量が0.35質量%以下であり、Cu含有量が0.45質量%以下であり、ワイヤの表面にワイヤ10kgあたり0.01g以上のMoSが付着しているため、スラグの剥離性が良好である。更に、各成分の含有量を上述の如く規定しているため、大入熱・高パス間温度条件で溶接を行っても、溶接金属部の機械的性質を良好な状態に維持できる。更にまた、Ti含有量が0.05質量%以上であるため、アークが安定し、スパッタの発生量が少ない。
【0053】
このように、本実施形態においては、ワイヤの諸成分を適正範囲に規定することにより、鉄骨建築用として主に用いられる大入熱・高パス間温度溶接において、溶接金属部の良好な機械的性質を維持したまま、これまで大きな課題とされていたスラグ量の低減及びスラグ剥離性の向上を図ることが可能となる。この技術は、今後益々増加することが見込まれるロボットを使用することによる自動溶接化及び無人溶接化に極めて好適である。つまり、(1)スラグ堆積に伴うアーク不安定の解消、(2)スラグ巻き欠陥の改善、(3)連続積層可能な板厚の増大、(4)スラグ除去作業の回数減少と剥離性向上に伴う作業負荷低下、(5)アークスタートミスによるロボット停止及びそれに伴う復帰作業の頻度の減少等、得られる効果は絶大であり、鉄骨建築の能率向上、コスト低減に大きく貢献する。
【0054】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態に係るガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤは、前述の第1の実施形態と同様に、軟鋼又は強度が490N/mm級以下の高張力鋼に対して、最大入熱量が40kJ/cm、最高パス間温度が350℃の条件で炭酸ガスシールドアーク溶接を施す際に、又は、強度が520N/mm級以下の高張力鋼に対して、最大入熱量が30kJ/cm、最高パス間温度が250℃の条件で炭酸ガスシールドアーク溶接を施す際に使用するワイヤである。
【0055】
このワイヤの組成は、C:0.02乃至0.10質量%、Si:0.65乃至1.00質量%、Mn:1.40乃至1.80質量%、S:0.005乃至0.025質量%、Ti:0.05乃至0.18質量%、Mo:0.10乃至0.35質量%、Cu:0.45質量%以下、及びB:0.0015乃至0.0050質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn及びMoの合計含有量が2.10質量%以下、Si及びTiの合計含有量が0.75質量%以上、S及びOの合計含有量が0.030質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Oが0.0100質量%以下に規制されている。より好ましくは、C:0.05乃至0.10質量%、Ti:0.05乃至0.16質量%である。
【0056】
また、ワイヤの表面には、MoSがワイヤ10kgあたり0.01乃至1.00g付着している。即ち、MoS付着量は0.01g/10kg乃至1.00g/10kgである。このMoSは、例えば塗布によってワイヤ表面に被着されたものである。
【0057】
以下、B含有量の数値限定理由について説明する。本実施形態におけるB含有量以外の数値限定理由は、前述の第1の実施形態と同様である。
【0058】
B含有量:0.0015乃至0.0050質量%
ホウ素(B)は少量の添加で溶接金属部の靭性を向上させる効果がある。但し、B含有量が0.0015質量%未満では、靭性向上効果が現れないので、0.0015質量%をB含有量の下限値とする。一方、0.0050質量%を超えて過剰にBを添加すると、溶接金属部の高温割れが発生しやすくなる。従って、0.0050質量%をB含有量の上限値とする。
【0059】
本実施形態においては、前述の第1の実施形態の効果に加えて、ワイヤにBを添加することにより、溶接金属部の靭性をより一層向上させることができる。本実施形態における上記以外の効果は、前述の第1の実施形態と同様である。
【0060】
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態に係るガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤは、前述の第1及び第2の実施形態と同様に、軟鋼又は強度が490N/mm級以下の高張力鋼に対して、最大入熱量が40kJ/cm、最高パス間温度が350℃の条件で炭酸ガスシールドアーク溶接を施す際に、又は、強度が520N/mm級以下の高張力鋼に対して、最大入熱量が30kJ/cm、最高パス間温度が250℃の条件で炭酸ガスシールドアーク溶接を施す際に使用するワイヤである。
【0061】
このワイヤの組成は、C:0.02乃至0.10質量%、Si:0.65乃至1.00質量%、Mn:1.40乃至1.80質量%、S:0.005乃至0.025質量%、Ti:0.05乃至0.18質量%、Mo:0.10乃至0.35質量%、及びCu:0.45質量%以下を含有し、更に、Nb、V、Al、Cr及びNiからなる群から選択された1種又は2種以上の元素を夫々0.20質量%以下含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn及びMoの合計含有量が2.10質量%以下、Si及びTiの合計含有量が0.75質量%以上、S及びOの合計含有量が0.030質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Oが0.0100質量%以下に規制されている。より好ましくは、C:0.05乃至0.10質量%、Ti:0.05乃至0.16質量%である。また、ワイヤの表面には、MoSがワイヤ10kgあたり0.01乃至1.00g付着している。
【0062】
以下、Nb、V、Al、Cr及びNiの含有量の数値限定理由について説明する。本実施形態における上記以外の数値限定理由は、前述の第1の実施形態と同様である。
【0063】
Nb、V、Al、Cr及びNiからなる群から選択された1種又は2種以上の元素の含有量:夫々0.20質量%以下
Nb、V、Al、Cr及びNiは、溶接金属部の強度を向上させるために、必要に応じて微量添加される元素である。しかし、夫々の含有量が0.20質量%を超えると、スラグ量が増加する。また、Nb、V、Al、Crの含有量が夫々0.20質量%を超えると、溶接金属部の靭性が低下する。従って、Nb、V、Al、Cr及びNiの含有量は、夫々0.20質量%を上限とする。
【0064】
本実施形態においては、前述の第1の実施形態の効果に加えて、ワイヤにNb、V、Al、Cr及びNiからなる群から選択された1種又は2種以上の元素を添加することにより、溶接金属部の強度をより一層向上させることができる。本実施形態における上記以外の効果は、前述の第1の実施形態と同様である。
【0065】
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。本実施形態に係るガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤは、前述の第1乃至第3の実施形態と同様に、軟鋼又は強度が490N/mm級以下の高張力鋼に対して、最大入熱量が40kJ/cm、最高パス間温度が350℃の条件で炭酸ガスシールドアーク溶接を施す際に、又は、強度が520N/mm級以下の高張力鋼に対して、最大入熱量が30kJ/cm、最高パス間温度が250℃の条件で炭酸ガスシールドアーク溶接を施す際に使用するワイヤである。
【0066】
このワイヤの組成は、C:0.02乃至0.10質量%、Si:0.65乃至1.00質量%、Mn:1.40乃至1.80質量%、S:0.005乃至0.025質量%、Ti:0.05乃至0.18質量%、Mo:0.10乃至0.35質量%、Cu:0.45質量%以下、及びB:0.0015乃至0.0050質量%を含有し、更に、Nb、V、Al、Cr及びNiからなる群から選択された1種又は2種以上の元素を夫々0.20質量%以下含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn及びMoの合計含有量が2.10質量%以下、Si及びTiの合計含有量が0.75質量%以上、S及びOの合計含有量が0.030質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Oが0.0100質量%以下に規制されている。より好ましくは、C:0.05乃至0.10質量%、Ti:0.05乃至0.16質量%である。また、ワイヤの表面には、MoSがワイヤ10kgあたり0.01乃至1.00g付着している。
【0067】
本実施形態は、前述の第2及び第3の実施形態を組み合わせたものである。即ち、本実施形態においては、前述の第1の実施形態の効果に加えて、ワイヤにBを添加することにより、溶接金属部の靭性をより一層向上させることができる。また、ワイヤにNb、V、Al、Cr及びNiからなる群から選択された1種又は2種以上の元素を添加することにより、溶接金属部の強度をより一層向上させることができる。本実施形態における上記以外の効果は、前述の第1の実施形態と同様である。
【0068】
なお、前述の各実施形態においては、ワイヤの表面にMoSが付着している例を示したが、MoSは必ずしも付着している必要はない。また、ワイヤが線材及びこの線材の周囲に被覆される銅めっき層から構成されていてもよい。更に、ワイヤに銅めっき層が形成されておらず、且つ、ワイヤ中にCuが含有されていなくてもよい。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の実施例の効果について、その特許請求の範囲から外れる比較例と比較して具体的に説明する。図4は、溶接試験片の形状及び寸法を示す平面図及び側面図である。図4に示すように、母材として、縦が350mmであり、横が125mmであり、厚さが28mmである鋼板11と、縦が300mmであり、横が150mmであり、厚さが28mmである鋼板12とを準備した。鋼板12には、開先角度が35°であるレ型開先を形成した。そして、鋼板11及び12の長辺間に7mmの間隔が形成されるように、鋼板11及び12を平行に配置した。また、鋼板12の表面における長手方向中央部で且つ開先から10mmの位置に、パス間温度測定位置Tを設定した。そして、鋼板11及び鋼板12の対向部分の裏側には、裏当金13を配置した。また、鋼板12の長手方向両側には夫々固定タブ14を配置し、鋼板11及び12を相互に固定した。なお、図4の側面図においては、固定タブ14は図示が省略されている。
【0070】
そして、複数の種類のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ(図示せず)を使用して、開先溶接を行った。これにより、鋼板11と鋼板12との間に、ビード15が形成された。このときの溶接条件を表1に示す。また、使用したワイヤの組成を表2及び表3に示す。表2に示す各成分の含有量及び表3に示すMoS以外の含有量の単位は[質量%]であり、表3に示すMoSの付着量の単位は[g/10kg]、即ち、ワイヤ10kgあたりのg数である。なお、表2及び表3に示すワイヤは、線材の表面に銅めっきが施されているワイヤと、銅めっきが施されていないワイヤとの両方を含むが、ワイヤ全質量中のCu含有量(質量%)のみを指標として整理している。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
【表3】

【0074】
そして、溶接中の(1)アーク安定性及び(2)スパッタ発生量を評価した。また、溶接終了後に、デジタル画像処理により(3)スラグの剥離性を評価し、また、(4)スラグ生成量を計測した。更に、(5)溶接金属部の機械的性質を評価した。更にまた、(6)溶接金属部における高温割れの発生の有無を調査した。これらの評価結果を表4に示す。以下、これらの評価方法について説明する。
【0075】
(1)アーク安定性
アーク安定性は、溶接中の官能試験によって評価した。スラグがアークの発生を邪魔してアークを乱すことがなく、アーク安定性が極めて優れていた場合を極めて良好(◎)と判定し、スラグが若干アークを乱したものの、アーク安定性が実用上問題のないレベルであった場合を良好(○)と判定し、それ以外の場合を不良(×)と判定した。なお、ワイヤの送給不良に起因してアークの乱れが生じた場合も不良(×)とした。
【0076】
(2)スパッタ発生量
スパッタ発生量は、溶接終了後にシールドノズルに付着したスパッタを回収し、その質量を測定することによって評価した。回収されたスパッタ量が3g以下である場合を良好(○)と判定し、3gよりも多かった場合を不良(×)と判定した。
【0077】
(3)スラグの剥離性
溶接完了後、図4に示すパス間温度測定位置Tにおいて測定される鋼板表面温度が250℃まで冷却した時点で、ビード15の外観を写真撮影した。次に、そのビード外観写真をコンピュータに取り込んで画像解析ソフトにより二値化処理を行い、スラグが自然剥離した領域と、スラグが付着したままの領域とを区別した。そして、前記画像解析ソフトにより、スラグが自然剥離した領域の面積と、スラグが付着したままの領域の面積とを夫々算出した。そして、これらの面積に基づいて、スラグ剥離率を求めた。スラグが自然剥離した領域の面積をaとし、スラグが付着したままの領域の面積をbとし、スラグ剥離率をR(%)とするとき、スラグ剥離率Rを下記数式1により計算した。スラグ剥離率Rが15%以上である場合を良好(○)と判定し、15%未満である場合を不良(×)と判定した。
【0078】
【数1】

【0079】
(4)スラグ生成量
スラグ生成量については、ビード外観写真の撮影後に自然剥離したものも含めて全てのスラグを回収し、その質量を測定して評価した。回収されたスラグの質量が6g以下である場合を良好(○)とし、6gを超える場合を不良(×)とした。
【0080】
(5)溶接金属部の機械的性質
溶接金属部の機械的性質の評価は、引張試験により強度を測定し、シャルピー衝撃試験により靭性を測定して行った。図4に示す試験片から、JIS Z3111に規定される試験片を、その中心がビード表面下10mm、ビード幅中央部となるように採取して、引張試験及びシャルピー衝撃試験に供した。なお、引張試験は室温(20℃)の雰囲気で行った。また、シャルピー衝撃試験は0℃の雰囲気で行い、3本の試験片を夫々測定してその平均値を評価値とした。そして、強度については、引張強さが490N/mm(=490MPa)以上である場合を合格(○)とし、それ未満である場合を不合格(×)とした。また、靭性については、シャルピー衝撃試験における吸収エネルギーが70J以上である場合を合格(○)とし、それ未満である場合を不合格(×)とした。
【0081】
(6)高温割れ
溶接金属部における高温割れの有無は、超音波探傷試験により調査した。
【0082】
【表4】

【0083】
表4に示す結果を説明する。No.1乃至16は本発明の実施例である。実施例No.1乃至16においては、各成分の含有量が本発明の範囲内にあるため、アークの安定性が優れ、スパッタの発生量が少なく、スラグの剥離性が良好で、スラグの生成量が少なく、溶接金属部の強度及び靭性が高く、耐割れ性が良好であった。このため、優れた溶接作業性及び溶接金属の機械的性質が得られた。
【0084】
これに対して、表4に示すNo.17乃至41は比較例である。比較例No.17はCが過少であり溶接金属部の強度が不足した。比較例No.18はCが過剰であり溶接金属部に高温割れが発生した。比較例No.19はSiが過少であり溶接金属部の強度が不足した。比較例No.20はSiが過剰であり溶接金属部の靭性が不足した。比較例No.21はTiが過少でありスパッタ発生量が多くアーク安定性も劣っていた。比較例No.22はTiが過剰であり、スラグ生成量が多く、剥離性が悪かった。また、スラグ生成量が多く、スラグの厚さが増加したため、アークの安定性が損なわれ不安定となった。比較例No.23はSi及びTiの単独量は問題ないものの、Si及びTiの合計量が過少であったため、強度が不足し、スパッタ量が増加し、アークが不安定化した。比較例No.24はMnが過少であり溶接金属部の引張強度及び靭性が共に低かった。
【0085】
比較例No.25はMnが過剰であり、スラグ量が多く、剥離性が悪かった。また、スラグ量が多く、スラグの厚さが増加したため、アークの安定性が損なわれ不安定となった。比較例No.26はMoが過少であり引張強さが低かった。比較例No.27はMoが過剰であり、スラグの剥離性が悪かった。比較例No.28はMn及びMoの単独量は問題ないものの、Mn及びMoの合計量が過剰であったため、スラグ量が多く、剥離性が悪かった。また、スラグ量が多く、スラグの厚さが増したので、アークが不安定となった。比較例No.29はSが過少であり、スラグの剥離性が悪かった。比較例No.30はSが過剰であり、靭性が低いと共に高温割れも発生した。また、スラグが粒状化し、厚さが増してアークの安定性を損なった。
【0086】
比較例No.31はOが過剰であり、スラグ量が増加して剥離性も低下した。また、スラグの厚さが増したのでアークが不安定になった。更に、溶接金属中の介在物が過剰となって高温割れが発生し、靭性も低かった。比較例No.32はS及びOの単独量は問題ないものの、S及びOの合計量が過剰であり、靭性が低いと共に高温割れも発生した。また、スラグが粒状化し、厚さが増してアークの安定性を損なった。比較例No.33はPが過剰であり、高温割れが発生した。比較例No.34はCuが過剰であり、スラグ量が多く、剥離性が悪かった。また、スラグ量が多く、スラグの厚さが増したので、アークの安定性が損なわれ不安定になった。更に、高温割れも発生した。比較例No.35はBが過剰であり、高温割れが発生した。比較例No.36乃至No.40は夫々Nb、V、Al、Cr、Niが過剰であり、スラグ量が増加して剥離性が低下した。また、スラグの厚さが増したのでアークの安定性が損なわれ、不安定となった。比較例No.36乃至No.39は溶接金属部の靭性も低下した。比較例No.41はワイヤ表面におけるMoSの付着量が過剰であり、コンジットライナー等の送給系にMoSが堆積して詰まり、ワイヤ送給が不安定となった。その結果、アーク安定性が損なわれ、スラグ分布が不均一化して悪影響を及ぼし、スラグの剥離性が低下した。また、スパッタ量も増加した。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明に係るガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤは、軟鋼又は強度が520N/mm級以下の高張力鋼、主に490N/mm級の高張力鋼を炭酸ガスシールドアーク溶接する際に特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】横軸にMn含有量をとり、縦軸にMo含有量をとって、本発明の成分範囲及びこの成分範囲を外れることによる影響を示すグラフ図である。
【図2】横軸にSi含有量をとり、縦軸にTi含有量をとって、本発明の成分範囲及びこの成分範囲を外れることによる影響を示すグラフ図である。
【図3】横軸にS含有量をとり、縦軸にO含有量をとって、本発明の成分範囲及びこの成分範囲を外れることによる影響を示すグラフ図である。
【図4】溶接試験片の形状及び寸法を示す平面図及び側面図である。
【符号の説明】
【0089】
1;領域(本発明の範囲)
2;領域(本発明の好適範囲)
11、12;鋼板
13;裏当金
14;固定タブ
15;ビード
T;パス間温度測定位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.02乃至0.10質量%、Si:0.65乃至1.00質量%、Mn:1.40乃至1.80質量%、S:0.005乃至0.025質量%、Ti:0.05乃至0.18質量%、Mo:0.10乃至0.35質量%、及びCu:0.45質量%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn及びMoの合計含有量が2.10質量%以下、Si及びTiの合計含有量が0.75質量%以上、S及びOの合計含有量が0.030質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Oが0.0100質量%以下に規制されていることを特徴とするガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
【請求項2】
C:0.02乃至0.10質量%、Si:0.65乃至1.00質量%、Mn:1.40乃至1.80質量%、S:0.005乃至0.025質量%、Ti:0.05乃至0.18質量%、Mo:0.10乃至0.35質量%、Cu:0.45質量%以下、及びB:0.0015乃至0.0050質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn及びMoの合計含有量が2.10質量%以下、Si及びTiの合計含有量が0.75質量%以上、S及びOの合計含有量が0.030質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Oが0.0100質量%以下に規制されていることを特徴とするガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
【請求項3】
C:0.02乃至0.10質量%、Si:0.65乃至1.00質量%、Mn:1.40乃至1.80質量%、S:0.005乃至0.025質量%、Ti:0.05乃至0.18質量%、Mo:0.10乃至0.35質量%、及びCu:0.45質量%以下を含有し、更に、Nb、V、Al、Cr及びNiからなる群から選択された1種又は2種以上の元素を夫々0.20質量%以下含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn及びMoの合計含有量が2.10質量%以下、Si及びTiの合計含有量が0.75質量%以上、S及びOの合計含有量が0.030質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Oが0.0100質量%以下に規制されていることを特徴とするガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
【請求項4】
C:0.02乃至0.10質量%、Si:0.65乃至1.00質量%、Mn:1.40乃至1.80質量%、S:0.005乃至0.025質量%、Ti:0.05乃至0.18質量%、Mo:0.10乃至0.35質量%、Cu:0.45質量%以下、及びB:0.0015乃至0.0050質量%を含有し、更に、Nb、V、Al、Cr及びNiからなる群から選択された1種又は2種以上の元素を夫々0.20質量%以下含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn及びMoの合計含有量が2.10質量%以下、Si及びTiの合計含有量が0.75質量%以上、S及びOの合計含有量が0.030質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Oが0.0100質量%以下に規制されていることを特徴とするガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
【請求項5】
C:0.02乃至0.10質量%、Si:0.65乃至1.00質量%、Mn:1.40乃至1.80質量%、S:0.005乃至0.025質量%、Ti:0.05乃至0.18質量%、及びMo:0.10乃至0.35質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn及びMoの合計含有量が2.10質量%以下、Si及びTiの合計含有量が0.75質量%以上、S及びOの合計含有量が0.030質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Oが0.0100質量%以下に規制されていることを特徴とするガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
【請求項6】
C:0.02乃至0.10質量%、Si:0.65乃至1.00質量%、Mn:1.40乃至1.80質量%、S:0.005乃至0.025質量%、Ti:0.05乃至0.18質量%、Mo:0.10乃至0.35質量%、及びB:0.0015乃至0.0050質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn及びMoの合計含有量が2.10質量%以下、Si及びTiの合計含有量が0.75質量%以上、S及びOの合計含有量が0.030質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Oが0.0100質量%以下に規制されていることを特徴とするガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
【請求項7】
C:0.02乃至0.10質量%、Si:0.65乃至1.00質量%、Mn:1.40乃至1.80質量%、S:0.005乃至0.025質量%、Ti:0.05乃至0.18質量%、及びMo:0.10乃至0.35質量%を含有し、更に、Nb、V、Al、Cr及びNiからなる群から選択された1種又は2種以上の元素を夫々0.20質量%以下含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn及びMoの合計含有量が2.10質量%以下、Si及びTiの合計含有量が0.75質量%以上、S及びOの合計含有量が0.030質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Oが0.0100質量%以下に規制されていることを特徴とするガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
【請求項8】
C:0.02乃至0.10質量%、Si:0.65乃至1.00質量%、Mn:1.40乃至1.80質量%、S:0.005乃至0.025質量%、Ti:0.05乃至0.18質量%、Mo:0.10乃至0.35質量%、及びB:0.0015乃至0.0050質量%を含有し、更に、Nb、V、Al、Cr及びNiからなる群から選択された1種又は2種以上の元素を夫々0.20質量%以下含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn及びMoの合計含有量が2.10質量%以下、Si及びTiの合計含有量が0.75質量%以上、S及びOの合計含有量が0.030質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Oが0.0100質量%以下に規制されていることを特徴とするガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
【請求項9】
Cの含有量が0.05質量%以上であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
【請求項10】
Tiの含有量が0.16質量%以下であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
【請求項11】
ワイヤ10kgあたりの重量でワイヤ表面にMoSを0.01g/10kg乃至1.00g/10kg付着させたことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−26643(P2006−26643A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−204534(P2004−204534)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】