説明

ガスセルの製造方法およびガスセル

【課題】ガスセルの特性の均一性を向上させること。
【解決手段】ガスセルの製造方法は、板材の面にコーティング層を形成するコーティング工程と、前記コーティング層が形成された複数の前記板材を、前記コーティング層が形成された面で囲まれたセルを形成するように組み立てる組立工程と、前記形成されたセル内にアルカリ金属ガスを充填する充填工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセルの製造方法およびガスセルに関する。
【背景技術】
【0002】
生体の心臓等から発せられる磁場を検出する生体磁気測定装置として、光ポンピング式の磁気センサーが用いられている。特許文献1は、ガスセルと、ポンプ光と、プローブ光とを用いた磁気センサーを開示している。この磁気センサーにおいては、ガスセル内に封入された原子は、ポンプ光により励起され、スピンの偏極を生じる。ガスセルを透過したプローブ光の偏光面は磁場に応じて回転するので、プローブ光の偏光面の回転角を用いて磁場が測定される。
【0003】
特許文献2、特許文献3、および非特許文献1は、セルにガスを充填する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−236599号公報
【特許文献2】特開平11−238469号公報
【特許文献3】米国特許第7666485号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Grbax Singh, Philip Diavore, and Carrol O.Alley, “A Technique for preparing Wall Coated Cesium Vapor Cells”, The Review of Scientific Instruments, Vol. 43, No. 9, pp. 1388-1389 (1972)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複数のガスセルを製造する際、ガスセルの特性にばらつきがあると、それが磁気センサーの感度のばらつきとして反映されてしまう。
本発明は、ガスセルの特性の均一性を向上させる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、板材の第1面にコーティング層を形成するコーティング工程と、前記コーティング層が形成された複数の前記板材を、前記コーティング層が形成された面で囲まれたセルを形成するように組み立てる組立工程と、前記形成されたセル内にアルカリ金属原子を充填する充填工程とを有するガスセルの製造方法を提供する。
この製造方法によれば、組立後にコーティング層を形成する場合と比較して、ガスセル内壁のコーティング層の厚さの均一性を向上させることができる。
【0008】
好ましい態様において、前記板材は、前記第1面の裏に第2面を有し、前記コーティング工程において、前記板材の前記第1面および前記第2面に前記コーティング層が形成され、前記組立工程において、前記第1面を含む複数の面で囲まれた第1セルおよび前記第2面を含む複数の面で囲まれた第2セルを含む複数の前記セルが形成されてもよい。
この製造方法によれば、複数のセルを有するセルアレイにおいて、ガスセル内壁のコーティング層の厚さの均一性を向上させることができる。
【0009】
別の好ましい態様において、前記複数のセルは、内部にアルカリ金属固体が置かれた第3セルを有し、前記第1セルおよび前記第2セルと前記第3セルとの間の前記板材には貫通孔が設けられており、前記充填工程は、前記第3セル内の前記アルカリ金属固体を気化して前記アルカリ金属ガスを発生させる気化工程と、発生した前記アルカリ金属ガスを前記貫通孔を介して前記第3セルから前記第1セルおよび前記第2セルに拡散させる拡散工程とを含んでもよい。
この製造方法によれば、複数のセルを有するセルアレイにおいて各セルに個別にアルカリ金属ガスを封入する場合と比較して、アルカリ金属ガスの濃度の均一性を向上させることができる。
【0010】
さらに別の好ましい態様において、前記複数のセルは、第4セルおよび第5セルを有し、前記第1セル、前記第2セル、前記第4セル、および前記第5セルを含むセル群は、平面上に2次元配置され、前記第3セルは、前記平面上に位置してもよい。
この製造方法によれば、第3セルがセル群に対して2次元的に配置されたガスセルを製造することができる。
【0011】
さらに別の好ましい態様において、前記複数のセルは、第4セルおよび第5セルを有し、前記第1セル、前記第2セル、前記第4セル、および前記第5セルを含むセル群は、平面上に2次元配置され、前記第3セルは、前記セル群に対して前記平面に垂直な方向に積まれていてもよい。
この製造方法によれば、第3セルがセル群に対して立体的に配置されたガスセルを製造することができる。
【0012】
さらに別の好ましい態様において、前記製造方法は、前記コーティング層が形成された前記板材を複数に切断する切断工程を有し、前記組み立て工程において、前記切断工程により得られた複数の板材が組み立てられてもよい。
この製造方法によれば、コーティング工程で取り扱う板材の数が少なくてすむので、切断後にコーティング工程を行う場合と比較して、板材の取り扱いが簡便になる。
【0013】
また、本発明は、閉空間を形成する外壁と、前記閉空間を複数のセルに仕切る内壁と、前記内壁に形成され、隣接するセルのうち少なくとも1つのセル同士を結ぶ貫通孔と、前記セル内に封入されたアルカリ金属原子とを有するガスセルを提供する。
このガスセルによれば、複数のセルを有するセルアレイにおいて、ガスセルの特性の均一性を向上させることができる。
【0014】
さらに、本発明は、閉空間を形成する壁面と、前記閉空間に収容され、アルカリ金属を内包した第1アンプルとを有するガスセルを提供する。
このガスセルの製造方法によれば、作業者の技能によらず、安定的にガスセルを製造することができる。
【0015】
好ましい態様において、このガスセルは、前記閉空間の壁面に形成されたコーティング層であって、前記アルカリ金属の原子のスピン偏極状態の緩和を抑制するコーティング層を有してもよい。
このガスセルによれば、作業者の技能によらず、安定的に製造することができる。
【0016】
別の好ましい態様において、前記閉空間は、前記アルカリ金属の原子が充填される第1主室と、前記第1アンプルを収容する収容室と、前記第1主室と前記収容室とを接続する第1孔とを有してもよい。
このガスセルによれば、第1アンプルが収容室に収容される場合でも、作業者の技能によらず、安定的に製造することができる。
【0017】
さらに別の好ましい態様において、前記第1アンプルは、前記アルカリ金属の原子の移動速度を抑制するためのバッファーガスを内包していてもよい。
このガスセルによれば、第1アンプルにバッファーガスが内包される場合でも、作業者の技能によらず、安定的に製造することができる。
【0018】
さらに別のこのましい態様において、前記バッファーガスは、希ガスであってもよい。
このガスセルによれば、第1アンプルに希ガスが内包される場合でも、作業者の技能によらず、安定的に製造することができる。
【0019】
さらに別の好ましい態様において、前記第1アンプルは、前記バッファーガスを前記第1アンプルの外部に拡散させる貫通孔を有していてもよい。
このガスセルによれば、バッファーガスを閉空間に拡散させることができる。
【0020】
さらに別の好ましい態様において、前記閉空間は、前記アルカリ金属の原子が充填され、前記第1主室と異なる第2主室と、前記第1主室と前記第2主室とを接続する第2孔とを有していてもよい。
このガスセルによれば、複数の主室を有するセルを、作業者の技能によらず、安定的に製造することができる。
【0021】
さらに別の好ましい態様において、前記第1アンプルは、前記貫通孔を形成するための光を吸収する吸収材を有していてもよい。
このガスセルによれば、第1アンプルに光照射される場合でも、作業者の技能によらず、安定的に製造することができる。
【0022】
さらに別の好ましい態様において、このガスセルは、前記コーティング層を形成するためのコーティング材を内包した第2アンプルを有していてもよい。
このガスセルによれば、第2アンプルが収容室に収容される場合でも、作業者の技能によらず、安定的に製造することができる。
【0023】
さらに別の好ましい態様において、前記アルカリ金属は固体または液体であってもよい。
このガスセルによれば、第1アンプルに収容されるアルカリ金属が固体または液体であっても、作業者の技能によらず、安定的に製造することができる。
【0024】
さらに、本発明は、閉空間を形成する壁面、および前記閉空間に収容され、アルカリ金属を内包した第1アンプルを有するセルにおいて、前記第1アンプルの破壊をする工程と、前記第1アンプルを破壊した後で、前記アルカリ金属を前記閉空間に拡散させる工程とを有するガスセルの製造方法を提供する。
このガスセルの製造方法によれば、作業者の技能によらず、安定的にガスセルを製造することができる。
【0025】
好ましい態様において、前記第1アンプルの破壊は、前記第1アンプルへの光照射により貫通孔を形成する工程を含んでもよい。
このガスセルの製造方法によれば、光照射を用いて、安定的にガスセルを製造することができる。
【0026】
別の好ましい態様において、前記光照射は、1マイクロ秒以下のパルス幅で光照射するパルスレーザーを用いて行われてもいよい。
このガスセルの製造方法によれば、パルスレーザーを用いて、安定的にガスセルを製造することができる。
【0027】
さらに別の好ましい態様において、前記第1アンプルの破壊は、前記第1アンプルへの光照射により前記第1アンプルを割断する工程を含んでもよい。
このガスセルの製造方法によれば、光照射を用いた貫通孔形成により破壊する場合と比較して、脱ガスが少なくなる。
【0028】
さらに別の好ましい態様において、前記光照射は、1ナノ秒以下のパルス幅で光照射するパルスレーザーを用いて行われてもよい。
このガスセルの製造方法によれば、パルスレーザーを用いて、安定的にガスセルを製造することができる。
【0029】
さらに別の好ましい態様において、このガスセルの製造方法は、前記第1アンプルに応力集中部を形成する工程を有してもよい。
このガスセルの製造方法によれば、応力集中部を設けない場合と比較して、安定的にガスセルを製造することができる。
【0030】
さらに別の好ましい態様において、前記第1アンプルの破壊は、前記セルに加速度を加える工程を含んでもよい。
このガスセルの製造方法によれば、加速度を力学的に与える工程を用いて、安定的にガスセルを製造することができる。
【0031】
さらに別の好ましい態様において、前記第1アンプルの破壊は、前記第1アンプルに熱応力を発生させる熱を与える工程を含んでもよい。
このガスセルの製造方法によれば、熱を与える工程を用いて、安定的にガスセルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】磁気測定装置1の構成を表すブロック図。
【図2】ガスセルアレイ10の外観図。
【図3】ガスセルアレイ10のIII−III断面図。
【図4】ガスセルアレイ10のIV−IV断面図。
【図5】ガスセルアレイ10の製造工程を示すフローチャート。
【図6】切断された板材を示す図。
【図7】アンプルが収納されたガスセルアレイ10を示す模式図。
【図8】アルカリ金属ガスが拡散されたガスセルアレイ10を示す模式図。
【図9】比較例の構成を示す図。
【図10】変形例1に係るガスセルアレイ15の外観図。
【図11】ガスセルアレイ15のXI−XI断面図。
【図12】変形例2に係る貫通孔の配置を示す模式図。
【図13】変形例3に係る貫通孔の配置を示す模式図。
【図14】変形例8に係るガスセルアレイの製造工程を示すフローチャート。
【図15】変形例9に係るガスセルアレイの製造工程を示すフローチャート。
【図16】変形例10に係るガスセルの製造方法を示すフローチャート。
【図17】パッケージの断面図。
【図18】パッケージおよびリッドの断面図。
【図19】アンプル200が破壊された後の状態を例示する図。
【図20】変形例11に係るガスセルアレイ70の断面図。
【図21】変形例12に係るガスセルの断面図。
【図22】変形例13におけるガスセルの断面図。
【図23】変形例15に係るガスセルの断面図。
【図24】変形例15に係るガスセルの製造方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0033】
1.構成
図1は、一実施形態に係る磁気測定装置1の構成を表すブロック図である。磁気測定装置1は、心臓から発生する磁場(心磁)または脳から発生する磁場(脳磁)等、生体から発生する磁場を、生体の状態の指標として測定する生体状態測定装置である。磁気測定装置1は、ガスセルアレイ10と、ポンプ光照射ユニット20と、プローブ光照射ユニット30と、検出ユニット40とを有する。ガスセルアレイ10は、複数のガスセルを有する。ガスセル内には、アルカリ金属ガス(例えば、セシウム(Cs))が封入されている。ポンプ光照射ユニット20は、アルカリ金属原子と相互作用するポンプ光(例えば、セシウムのD1線に相当する波長894nmの光)を出力する。ポンプ光は円偏光成分を有する。ポンプ光が照射されると、アルカリ金属原子の最外殻電子が励起され、スピン偏極が生じる。スピン偏極したアルカリ金属原子は、被測定物が生じる磁場Bによって歳差運動をする。一つのアルカリ金属原子のスピン偏極は、時間の経過とともに緩和するが、ポンプ光がCW(Continuous Wave)光であるので、スピン偏極の形成と緩和は、同時平行的
かつ連続的に繰り返される。その結果、原子の集団全体としてみれば、定常的なスピン偏極が形成される。
【0034】
プローブ光照射ユニット30は、直線偏光成分を有するプローブ光を出力する。ガスセルの透過前後において、プローブ光の偏光面は、ファラデー効果により回転する。偏光面の回転角は、磁場Bの関数である。検出ユニット40は、プローブ光の回転角を検出する。検出ユニット40は、入射した光の光量に応じた信号を出力する光検出器と、信号を処理するプロセッサーと、データを記憶するメモリーとを有する。プロセッサーは、光検出器から出力された信号を用いて磁場Bの大きさを算出する。プロセッサーは、算出した結果を示すデータをメモリーに書き込む。こうして、ユーザーは、被測定物から発生する磁場Bの情報を得ることができる。
【0035】
図2は、ガスセルアレイ10の外観図である。この例で、ガスセルアレイ10は、xy平面上に2次元配置された複数(2×2個)のガスセルを有する。ガスセルは、内部にアルカリ金属ガスが封入されたセル(箱)である。ガスセルは、石英ガラスまたはホウケイ酸ガラス等、光透過性を有する材料を用いて形成される。また、ガスセルアレイ10は、xy平面上において2×2個のガスセルを囲むように設けられたダミーセルを有する。中央の2×2個のガスセルは磁場の測定に寄与するセルであるが、ダミーセルは磁場の測定に寄与しないセルである。
【0036】
図3は、ガスセルアレイ10のIII−III断面図である。この断面は、xz平面に平行である。この断面には、ガスセル110と、ガスセル120と、ダミーセル130とが示されている。ガスセル110とダミーセル130との間には、貫通孔111が設けられている。ガスセル120とダミーセル130との間には、貫通孔121が設けられている。
【0037】
図4は、ガスセルアレイ10のIV−IV断面図である。この断面は、xy平面に平行である。この断面には、ガスセル110と、ガスセル120と、ガスセル140と、ガスセル150と、ダミーセル130とが示されている。ガスセル140とダミーセル130との間には、貫通孔141が設けられている。ガスセル150とダミーセル130との間には、貫通孔151が設けられている。貫通孔111、貫通孔121、貫通孔141、および貫通孔151の機能については後述する。
【0038】
2.製造方法
図5は、ガスセルアレイ10の製造工程を示すフローチャートである。ステップS100(コーティング工程)において、ガスセルを形成するための板材にコーティング層が形成される。コーティング層には、例えばパラフィンが用いられる。コーティング層は、ドライプロセスまたはウェットプロセスにより塗布される。コーティング層は、板材の表裏両面に塗布される。
ステップS110(切断工程)において、コーティング層が形成された板材が切断される。
【0039】
図6は、切断された板材を示す図である。板材11および板材12は、ガスセルアレイ10の上面および下面を形成する部材である。ここで、「上」とは図1のz軸正方向をいい、「下」とはz軸負方向をいう。板材21、板材22、板材23、および板材24は、ガスセルアレイ10の外部側面を形成する部材である。「外部側面」とはxy平面に垂直であり、外部に露出している面をいう。板材31、板材32、板材33、板材34、板材35、板材41、および板材42は、ガスセルを形成する部材である。板材34および板材35には、貫通孔(貫通孔111、貫通孔121、貫通孔141、および貫通孔151)となる溝(凹部)が設けられている。この例では、板材31、板材32、および板材33がxz平面に平行な壁面を形成する。板材31、板材32、および板材33は、y軸座標が大きくなる向きにこの順番で配置される。板材34、板材35、板材41、および板材42はyz平面に平行な壁面を形成する。
【0040】
再び図5を参照する。ステップS120(組立工程)において、切断された板材が組み立てられる。この時点では、次にアンプルを収納するため、少なくとも1面が開放された状態まで組み立てられる。例えば、ガスセルアレイ10の上面を形成する板材11以外のすべての部材が組み立てられる。組み立てにおいては、板材同士が、例えば、溶着、または接着材による接着により接合される。
ステップS130(アンプル収納工程)において、ガスセルアレイ10内のダミーセル130にアンプルが収納される。アンプルは、開放されている面から収納される。
【0041】
図7は、アンプルが収納されたガスセルアレイ10を示す模式図である。図7は、図4と同様の断面を示している。アンプル200の内部にはアルカリ金属固体300が封入されている。
【0042】
再び図5を参照する。ステップS140(封止工程)において、ガスセルアレイ10は封止される。この例で、ガスセル内には、アルカリ金属ガスに加え、希ガス等の不活性ガス(バッファーガス)が封入される。したがって、ガスセルアレイ10の封止は、不活性ガス雰囲気の中で行われる。具体的には、不活性ガス雰囲気の中で、開放されている面の部材(例えば上面を構成する板材11)が接合される。
【0043】
ステップS150(アンプル破壊工程)において、アンプル200が破壊される。具体的には、アンプル200に焦点を合わせたレーザー光がアンプル200に照射され、アンプルに穴が開けられる。
ステップS160(気化工程)において、アンプル200内のアルカリ金属固体が気化される。具体的には、ガスセルアレイ10を加熱することえによりアルカリ金属固体を加熱し、気化させる。
ステップS170(拡散工程)において、アルカリ金属ガスが拡散される。具体的には、ある温度(室温より高い温度が望ましい)で一定時間保持することにより、アルカリ金属ガスが拡散される。
【0044】
図8は、アルカリ金属ガスが拡散されたガスセルアレイ10を示す模式図である。図8は、図4と同様の断面を示している。図8において、白丸はアルカリ金属ガスの原子を模式的に示している。拡散工程において、アルカリ金属ガスは、ダミーセル130から、貫通孔111、貫通孔121、貫通孔141、および貫通孔151を介して、ガスセル110、ガスセル120、ガスセル140、およびガスセル150に拡散される。拡散工程の時間を十分にとれば、すべてのガスセルに対してほぼ均一にアルカリ金属ガスが拡散する。
【0045】
以上、まとめると、ガスセルアレイ10の製造工程は、板材の面にコーティング層を形成するコーティング工程(ステップS100)と、コーティング層が形成された板材を複数に切断する切断工程(ステップS110)と、コーティング層が形成された複数の板材を、コーティング層が形成された面で囲まれたセルを形成するように組み立てる組立工程(ステップS120)と、形成されたセル内にアルカリ金属ガスを充填する充填工程とを有する。板材は、第1面と、第1面の裏に第2面を有する。コーティング工程において、板材の第1面および第2面にコーティング層が形成される。組立工程において、第1面を含む複数の面で囲まれた第1セル(ガスセル110)および第2面を含む複数の面で囲まれた第2セル(ガスセル120)を含む複数のセルが形成される。ガスセルアレイ10は、内部にアルカリ金属固体が置かれた第3セル(ダミーセル130)を有する。第1セルおよび第2セルと第3セルとの間の板材には貫通孔が設けられている。充填工程は、アンプル破壊工程(ステップS150)と、気化工程(ステップS160)と、拡散工程(ステップS170)とを含む。アルカリ金属固体は、アンプルに封入された状態で第3セル内に置かれる。破壊工程は、拡散工程の前にアンプルを破壊する工程である。気化工程は、第3セル内のアルカリ金属固体を気化してアルカリ金属ガスを発生させる工程である。拡散工程は、発生したアルカリ金属ガスを貫通孔を介して第3セルから第1セルおよび第2セルに拡散させる工程である。
【0046】
また、ガスセルアレイ10は、閉空間を形成する外壁と、閉空間を複数のセルに仕切る内壁と、内壁に形成され、隣接するセルのうち少なくとも1つのセル同士を結ぶ貫通孔と、セル内に封入されたアルカリ金属ガスとを有する。なお、ここでいう「セル」は完全な閉空間ではなく、貫通孔により他のセルと結ばれた空間であってもよい。
【0047】
図9は、比較例の構成を示す図である。図9は、組み立て工程の後でコーティング工程を行った例を示している。この場合、セルのコーナー部分または面と面との境界部分など、特定の場所にコーティング層が厚く形成されてしまうことがある。このように、コーティング層の厚さが不均一であると、ガスセル内部で運動しているアルカリ金属原子が壁面に衝突した際、衝突後の原子の動きが部分的に他と変わってしまうことがある。これは、測定誤差を生じる原因となる場合がある。
【0048】
これに対し本実施形態によれば、組立工程の前にコーティング層が形成されるので、組立工程の後にコーティング層が形成される場合と比較するとより均一なコーティング層が形成される。すなわち、本実施形態によれば、組立工程の後にコーティング層が形成される場合と比較すると、ガスセル間の特性の均一性が向上する(バラツキが抑制される)。
【0049】
3.他の実施形態
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。以下、変形例をいくつか説明する。以下の変形例のうち2つ以上のものが組み合わせて用いられてもよい。
【0050】
3−1.変形例1
図10は、変形例1に係るガスセルアレイ15の外観図である。ガスセルアレイの形状は、実施形態で説明したものに限定されない。ガスセルアレイ15は、ダミーセル130に代わりダミーセル160を有している。ダミーセル160は、ガスセル群との位置関係が、ガスセルアレイ10のダミーセル130とは異なっている。なお、ダミーセルとは、磁場の測定に寄与しないセルであって、アンプルを収納するためのセルをいう。ガスセルアレイ10は、ガスセル110(第1セルの一例)、ガスセル120(第2セルの一例)、ガスセル140(第4セルの一例)、ガスセル150(第5セルの一例)、およびダミーセル130(第3セルの一例)を有している。ガスセル110、ガスセル120、ガスセル140、およびガスセル150を含むセル群は、xy平面上に2次元配置(マトリクス状に配置)される。このセル群に対して、ダミーセル130は、セル群と同じxy平面上に位置する。これに対して、ガスセルアレイ15において、ダミーセル160(第3セルの別の例)は、セル群の上(z軸正方向、すなわち、セル群が属する平面に垂直な方向)に積まれている。ガスセルアレイ15によれば、ガスセルアレイ10と比較して、xy平面上のサイズを小さくすることができる。また、xy平面に平行な成分を有する光を入射させた場合、ダミーセルを通過させないぶん、光のxy平面に平行な成分の減衰量が、ガスセルアレイ10と比較して少なくなる。
【0051】
図11は、ガスセルアレイ15のXI−XI断面図である。この例で、ガスセル110およびガスセル120は、ダミーセル160と接続された貫通孔112および貫通孔122を有する。この断面図には示されていないが、ガスセル140およびガスセル150も、ダミーセル160と接続された貫通孔を有する。
【0052】
3−2.変形例2
図12は、変形例2に係る貫通孔の配置を示す模式図である。図12は、図4と同様の断面を示している。実施形態では、2行2列に配置されたガスセルをガスセルアレイ10が有する例を説明したが、ガスセルの数はこれに限定されない。図12は、3行3列に配置されたガスセルを有するガスセルアレイを示している。ガスセルアレイ10のように、ガスセル群と同じ面においてガスセル群の周辺にダミーセルを配置する構成において、ガスセルの数が3行3列以上になると、ダミーセルと隣接しないガスセルが存在する。図12の例では、3行3列のガスセルのうち中央のガスセルは、ダミーセルと隣接しない。この場合、中央のガスセルは、隣接する別のガスセルと結ぶ貫通孔を有している。拡散工程においては、この貫通孔および隣接する別のガスセルを介してアルカリ金属ガスが拡散する。
【0053】
3−3.変形例3
図13は、変形例3に係る貫通孔の配置を示す模式図である。図13は、3行3列のガスセルを有するガスセルアレイにおいて、変形例1と同様に、ダミーセルがz方向に積層された例を示している。図13は、図10と同様の断面を示している。この例では、3行3列のガスセルのうち中央のガスセル以外のガスセルは、ダミーセルと隣接しない。この場合、中央のガスセル以外のガスセルは、中央のガスセルと結ぶ貫通孔を有している。拡散工程においては、この貫通孔および中央のガスセルを介してアルカリ金属ガスが拡散する。
【0054】
3−4.変形例4
アンプル破壊工程の具体的内容は、実施形態で説明したものに限定されない。アンプル200は、熱膨張係数が異なる2つの材料が張り合わされた部分を有してもよい。この場合、アンプル破壊工程においては、レーザー光照射に代わり、アンプル200(が収納されたガスセルアレイ全体)が加熱される。加熱の際は、熱膨張係数の違いによりアンプル200が破壊する程度の熱が加えられる。
【0055】
3−5.変形例5
ガスセルアレイの製造方法は、図5で例示したものに限定されない。図5に示した工程に別の工程が加えられてもよい。または、工程の順番が入れ替えられてもよいし、工程のうち一部が省略されてもよい。例えば、コーティング工程と切断工程の順番が入れ替えられてもよい。この場合、板材はまず切断され、切断後に、コーティング層が形成される。別の例で、コーティング層の形成後に、その一部を剥離する工程が導入されてもよい。この場合、板材のうち、他の板材との接合部分のコーティング層が剥離される。または、板材のうち外部に露出している面のコーティング層が剥離されてもよい。
【0056】
別の例で、封止工程は、真空下で行われてもよい。この場合、ガスセルは内部に不活性ガスを有さず、アルカリ金属ガスだけを有する。
【0057】
3−6.変形例6
ダミーセルの形状は実施形態で説明したものに限定されない。ダミーセルは、アンプルの破片を保持するための凹部を有してもよい。凹部は、磁場の測定への影響を最小化するため、例えばコーナー部分に設けられる。凹部は、組立前に板材に形成されていてもよいし、穴の開いた板材に凹部となる部分を接合することにより形成されてもよい。また、移動(持ち運び)の際にアンプルの破片が動かないように、粘着性の物質が凹部に溜められていてもよい。
【0058】
3−7.変形例7
ガスセルの形状は実施形態で説明したものに限定されない。実施形態では、ガスセルの形状が立方体である例を説明したが、ガスセルの形状は、立方体以外の多面体、または、円柱等、一部に曲面を有するものであってもよい。例えば、ガスセルは、アルカリ金属原子が凝固する温度以下に温度が低下したときにアルカリ金属固体を溜めるためのリザーバー(金属溜まり)を有していてもよい。なお、アルカリ金属は、少なくとも測定時にガス化していればよく、常にガス状態である必要はない。
【0059】
3−8.変形例8
図14は、変形例8に係るガスセルアレイの製造工程を示すフローチャートである。この例で、ガスセルの内壁はコーティング層を有していない。したがって、図14のフローは、図5のフローからコーティング工程を省略したものになっている。この場合でも、1つずつ閉じたセル(他のセルと連結されてないセル)にアルカリ金属固体を収納する例と比較して、セル内のアルカリ金属ガスの濃度をより均一にすることができる。すなわち、複数のガスセルの特性の均一性をより向上させることができる。また、ガスセルアレイは、2枚の平板(上面と下面)で複数の隔壁を挟んだ構造を有している。2枚の平板を用いることで、個別の板材を用いてアレイ状ではない単体のガスセルを製造するよりも、形状の均一性を向上させることができる。
【0060】
3−9.変形例9
図15は、変形例9に係るガスセルアレイの製造工程を示すフローチャートである。この例で、ガスセルアレイは、ダミーセルを有さない。ガスセルアレイの一部は、ガラス管を通じてリザーバーに接続される。リザーバーには、アルカリ金属化合物の固体が入れられる。ステップS210(気化工程)において、リザーバーは加熱される。リザーバーの加熱によってアルカリ金属化合物が分解され、アルカリ金属ガスが発生する。ステップS220(拡散工程)において、アルカリ金属ガスは、ガラス管を介してガスセルに拡散する。ガスセルに達したアルカリ金属ガスは、貫通孔を介して各セルに拡散する。十分な時間が経過した後、ガラス管を加熱して切断し、ガスセルを封止する。この場合でも、1つずつ閉じたセル(他のセルと連結されてないセル)にアルカリ金属ガスを封入する例と比較して、セル内のアルカリ金属ガスの濃度をより均一にすることができる。すなわち、複数のガスセルの特性の均一性をより向上させることができる。また、ガスセルアレイは、2枚の平板(上面と下面)で複数の隔壁を挟んだ構造を有している。2枚の平板を用いることで、個別の板材を用いてアレイ状ではない単体のガスセルを製造するよりも、形状の均一性を向上させることができる。なお、図15のフローにおいて、コーティング工程が省略されてもよい。また、このガスセルアレイは、ダミーセルを有していてもよい。
【0061】
さらに別の例で、本の製造方法は、ガスセルアレイではなく単体のガスセルの製造に用いられてもよい。この場合、ダミーセルは形成されず、ガスセル内にアルカリ金属固体が直接(アンプルを用いずに)収納されてもよい。
【0062】
3−10.変形例10
図16は、変形例10に係るガスセルの製造方法を示すフローチャートである。ステップS300(接合工程)において、パッケージとリッドが接合される。パッケージおよびリッドは、ホウケイ酸ガラスや石英ガラスなど、アルカリ金属に耐性を有する材料で形成される。
【0063】
図17は、パッケージの断面図である。図17は、xy平面における断面を示している。パッケージ50は、主室51と、狭窄孔52と、アンプル収容室53とを有する。主室51は、ガスが充填される空間である。アンプル収容室53は、アンプル200を収容する空間である。狭窄孔52は、主室51とアンプル収容室53とを接続する(連通させる)穴である。実施形態で説明したコーティング層は、スピン偏極状態の緩和を抑制する効果があるが、狭窄孔52の径が大きくなると、コーティング層による非緩和の効果が損なわれる。逆に、狭窄孔52の径が小さくなると後述するコーティング剤の流入に時間がかかる。したがって、狭窄孔52の径は、両者のバランスを考慮して設計される。すなわち、このセルは、内部に閉空間を形成する壁面を有する。なお、ここではアンプル中のアルカリ金属固体は図示を省略している。
【0064】
図18は、パッケージおよびリッドの断面図である。図18は、xz平面における断面を示している(図17は、図18のXVII−XVII断面を示している)。リッド60は、パッケージ50の主室51、狭窄孔52、およびアンプル収容室53を封止する蓋である。アンプル収容室53は、アンプル200を収容できる程度の大きさおよび形状を有していればよい。この例では、アンプル収容室53は、断面がV字形状(くさび形)を有している。パッケージ50とリッド60とは、低融点ガラスを用いた接合、または、光学接着により接合される。パッケージ50とリッド60との接合は、真空ポンプ等を用いて系全体を真空(減圧雰囲気)にした状態で行われる。
【0065】
再び図16を参照する。ステップS310(コーティング工程)において、コーティングが行われる。すなわち、主室51の内壁にコーティング層が形成される。コーティング層は、パラフィンなどの炭化水素またはOTS(オクタデシルトリクロロシラン)などの有機ケイ素化合物により形成される。これらのコーティング材は、液体または気体の状態で、図示しない流路を介して主室51に流し込まれる。流路は、製造装置の構成などに応じて複数設けられてもよい。
【0066】
ステップS320(アンプル破壊工程)において、アンプル200が破壊される。アンプル200の破壊は、真空環境下で行われる。アンプルの破壊は、例えば、レーザー光を用いて行われる。この場合、レーザー光は、リッド越しに、アンプル200に焦点を結ばせるように照射される。アンプル200において、レーザー光が照射された位置には孔が開く。レーザー光の吸収率を向上させるため、アンプル200に、光吸収材の膜が形成されてもよい。別の例で、超短パルスレーザー(1ナノ秒以下のパルス幅を有する光を照射するレーザー、例えばピコ秒レーザーまたはフェムト秒レーザー等)が用いられてもよい。なお、アンプル200は、アルカリ金属に加え、アルカリ金属の原子の移動速度を抑制するためのバッファーガス(例えば希ガス)を内包していてもよい。
【0067】
図19は、アンプル200が破壊された後の状態を例示する図である。レーザー光の照射により、アンプル200には貫通孔201が開けられている。アンプル200がバッファーガスを内包している場合、バッファーガスは貫通孔201を介してアンプル200の外部に拡散する。
【0068】
再び図16を参照する。ステップS330(拡散工程)において、アルカリ金属が拡散される。セルがある温度(室温より高い温度が望ましい)で一定時間保持されることにより、アルカリ金属ガスが拡散される。
【0069】
ステップS340(気密封止工程)において、セルは気密封止される。気密封止は、真空環境下で行われる。気密封止は、コーティング材の流路の封止をいう。気密封止は、半田や低融点ガラス等の封止材を用いて行われる。あるいは、セル(パッケージ50およびリッド60)を構成するガラス自体を溶融して気密封止が行われてもよい。封止材の加熱またはセルの加熱には、レーザーが用いられてもよい。
【0070】
ステップS350(飽和工程)において、飽和状態になるまで、コーティング層にアルカリ金属ガスを吸収させる。セル内のアルカリ金属原子の数が減少すると(すなわちセル内のアルカリ金属原子密度が低下すると)、測定結果に影響を与える場合があるためである。このとき、セルを加熱してもよい。例えば、セルを85℃に加熱した状態で10時間保管する。
【0071】
例えば非特許文献1の技術においては、作業者が熟練したガラス細工の技術を有することを必要とし、工業的な安定製造に適さないという問題があった。しかし、変形例10の製造方法によれば、作業者の技能によらず、安定的にガスセルを製造することができる。さらに、非特許文献1の技術においては、アルカリ金属をセルに導入するための配管をセルに接合する必要があり、配管の大きさとの兼ね合いで、小型のセルの製造が難しい場合があったが、変形例10の製造方法によれば、小型のセルも製造することができる。
【0072】
3−11.変形例11
図20は、変形例11に係るガスセルアレイ70の断面図である。図20は、xz平面における断面を示している。変形例10では単一のセルが製造される例を説明したが、変形例10の方法で、複数のセルを有するセルアレイが形成されてもよい。ガスセルアレイ70は、パッケージ71と、リッド72とを有する。パッケージ71は、複数の主室711と、狭窄孔712と、アンプル収容室713とを有する。隣り合う2つの主室711は、狭窄孔712により接続されている。アンプル収容室713とその隣の主室711とは、狭窄孔712により接続されている。なお、図20では1つのアンプル収容室713のみが設けられる例を示したが、アンプル収容室713は複数設けられてもよい。パッケージおよびリッドの形状が異なる以外は、製造方法は変形例10と共通である。
【0073】
3−12.変形例12
図21は、変形例12に係るガスセルの断面図である。図21は、xy平面における断面を示している。変形例12のガスセルは、変形例10のガスセルと異なり、アンプル収納室を有していない。このガスセルは、主室51を有する。アンプル200は、主室51に収容されている。パッケージおよびリッドの形状が異なる以外は、製造方法は変形例10と共通である。
【0074】
3−13.変形例13
図22は、変形例13におけるガスセルの断面図である。このガスセルは、主室51、狭窄孔52、およびアンプル収容室53を有する。アンプル収容室53には、アンプル200およびアンプル250が収容されている。アンプル250は、コーティング材が封入されたアンプルである。この例では、コーティング工程において、アンプル250が破壊される。アンプル250の破壊は、アンプル200の場合と同様に行われる。これ以外の点は、変形例10と同様である。
【0075】
3−14.変形例14
アンプルの破壊はレーザー光の照射によるものに限定されない。力学的な衝撃や振動を与えることにより、アンプル200をアンプル収容室53の内壁に衝突させ、アンプルを破壊してもよい。別の例で、アンプル200に熱応力を発生させる熱を与え、この熱応力によりアンプル200を破壊してもよい。
【0076】
3−15.変形例15
図23は、変形例15に係るガスセルの断面図である。図23は、xz平面における断面を示している。このガスセルは、主室51およびアルカリ金属収容室54を有する。変形例15では、アンプル200は用いられない。アルカリ金属収容室54は、パッケージ50に設けられた空間(室)である。この空間は、ガスセルの製造時点においては閉じられている。アルカリ金属収容室54には、アルカリ金属固体が置かれている。
【0077】
図24は、変形例15に係るガスセルの製造方法を示すフローチャートである。ステップS300(接合工程)において、パッケージとリッドが接合される。ステップS310(コーティング工程)において、コーティングが行われる。ステップS420(収容室破壊工程)において、アルカリ金属収容室54、より具体的には、主室51とアルカリ金属収容室54との間の壁面が破壊される。アルカリ金属収容室54の破壊は、アンプル200の破壊と同様に、例えばレーザー光の照射により行われる。ステップS330(拡散工程)において、アルカリ金属が拡散される。ステップS340(気密封止工程)において、セルは気密封止される。ステップS350(飽和工程)において、飽和状態になるまで、コーティング層にアルカリ金属ガスを吸収させる。なお、この例で、パッケージにコーティング材を収容するためのコーティング材収容室を設けてもよい。この場合、コーティング工程において、コーティング材収容室が破壊される。
【0078】
3−16.変形例16
レーザー光の照射による貫通孔形成の代わりに、光照射により熱応力を発生させ、この熱応力でアンプル200を割断する工程が用いられてもよい。この方法によれば、光照射により貫通孔を形成する場合と比較して、脱ガス(工程中にガラス等から放出されるガス)が減少し、センサーの特性が向上する場合がある。この場合において、ナノ秒以下のパルス幅を有するレーザーが用いられてもよい。さらに、アンプル200の割断を容易にするため、アンプル200に応力集中部(例えば、傷)を形成してもよい。
【0079】
上述の実施形態および変形例において、ガスセルにアルカリ金属原子を導入する際に主としてガス(気体)状態で導入する例を説明した。しかし、ガスセルにアルカリ金属原子を導入するときの状態は、気体に限定されない。アルカリ金属原子は、固体、液体、または気体のうち、どの状態でガスセルに導入されてもよい。また、アンプルの変わりにカプセルが用いられてもよい。
【符号の説明】
【0080】
10…ガスセルアレイ、11…板材、12…板材、15…ガスセルアレイ、20…ポンプ光照射ユニット、21…板材、22…板材、23…板材、24…板材、30…プローブ光照射ユニット、31…板材、32…板材、33…板材、34…板材、35…板材、40…検出ユニット、41…板材、42…板材、50…パッケージ、51…主室、52…狭窄孔、53…アンプル収容室、54…アルカリ金属収容室、60…リッド、70…ガスセルアレイ、71…パッケージ、72…リッド、110…ガスセル、111…貫通孔、112…貫通孔、120…ガスセル、121…貫通孔、122…貫通孔、130…ダミーセル、140…ガスセル、141…貫通孔、150…ガスセル、151…貫通孔、160…ダミーセル、200…アンプル、250…アンプル、300…アルカリ金属固体、711…主室、712…狭窄孔、713…アンプル収容室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板材の面にコーティング層を形成するコーティング工程と、
前記コーティング層が形成された複数の前記板材を、前記コーティング層が形成された面で囲まれたセルを形成するように組み立てる組立工程と、
前記形成されたセル内にアルカリ金属原子を充填する充填工程と
を有するガスセルの製造方法。
【請求項2】
前記板材は、第1面と、前記第1面の裏に第2面を有し、
前記コーティング工程において、前記板材の前記第1面および前記第2面に前記コーティング層が形成され、
前記組立工程において、前記第1面を含む複数の面で囲まれた第1セルおよび前記第2面を含む複数の面で囲まれた第2セルを含む複数の前記セルが形成される
ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記複数のセルは、内部にアルカリ金属固体が置かれた第3セルを有し、
前記第1セルおよび前記第2セルと前記第3セルとの間の前記板材には貫通孔が設けられており、
前記充填工程は、前記第3セル内の前記アルカリ金属固体を気化してアルカリ金属ガスを発生させる気化工程と、発生した前記アルカリ金属ガスを前記貫通孔を介して前記第3セルから前記第1セルおよび前記第2セルに拡散させる拡散工程とを含む
ことを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記複数のセルは、第4セルおよび第5セルを有し、
前記第1セル、前記第2セル、前記第4セル、および前記第5セルを含むセル群は、平面上に2次元配置され、
前記第3セルは、前記平面上に位置する
ことを特徴とする請求項2または3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記複数のセルは、第4セルおよび第5セルを有し、
前記第1セル、前記第2セル、前記第4セル、および前記第5セルを含むセル群は、平面上に2次元配置され、
前記第3セルは、前記セル群に対して前記平面に垂直な方向に積まれている
ことを特徴とする請求項2または3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記コーティング層が形成された前記板材を複数に切断する切断工程を有し、
前記組立工程において、前記切断工程により得られた複数の板材が組み立てられる
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
閉空間を形成する外壁と、
前記閉空間を複数のセルに仕切る内壁と、
前記内壁に形成され、隣接するセルのうち少なくとも1つのセル同士を結ぶ貫通孔と、
前記セル内に封入されたアルカリ金属原子と
を有するガスセル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−183290(P2012−183290A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195974(P2011−195974)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】