説明

ガスセンサ素子の製造方法

【課題】極めて簡単な方法によって、センサ特性の向上と、多孔質保護層の強度の確保とを両立させることができるガスセンサ素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】ガスセンサ素子の製造方法にいては、セラミックス塗布工程として、ガスセンサ素子のガス検知先端部に、セラミックス粒子を水に含有させてなるセラミックススラリーを塗布し、第1乾燥工程として、セラミックススラリーを乾燥させてセラミックス層を形成する。次いで、バインダ含浸工程として、セラミックス層に、バインダを水に含有させてなるバインダスラリーを含浸させ、第2乾燥工程として、バインダスラリーを乾燥させて、バインダが含まれるセラミックス層を形成する。その後、熱処理工程として、セラミックス層を熱処理して多孔質保護層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素イオン導電性を有する固体電解質体の両表面に設けた一対の電極に接触する気体同士の間における酸素濃度の差に応じて生じる電流等を検出するためのガスセンサ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、大気等の基準ガスと排ガス等の被測定ガスとの酸素濃度の差より、エンジンの空燃比等を検出するガスセンサ素子においては、被測定ガスを導入する拡散抵抗層の表面を多孔質保護層によって覆うことにより、加熱されたガスセンサ素子が被水によって割れないようにしている。
例えば、特許文献1のガスセンサ素子及びその製造方法においては、多孔質保護層を形成するために、セラミックス粒子を水又は有機溶媒等に含有させてなるセラミックス材料をガスセンサ素子に対して施す材料施工工程と、ガスセンサ素子に施したセラミックス材料を乾燥させる乾燥工程とを繰り返し行うことが開示されている。また、材料施工工程においては、セラミックス材料を貯留する容器内にガスセンサ素子を浸漬させている。こうして、亀裂等がほとんどない多孔質保護層を形成し、ガスセンサ素子を被水による亀裂、割れ等から保護している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−80110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ガスセンサ素子をセラミックス材料に浸漬させる際には、セラミックス材料(スラリー)に含まれるバインダ(結合材)が、拡散抵抗層を構成する多数の気孔へ入り込んでしまうことがわかった。この場合、拡散抵抗層における多数の気孔がバインダによって目詰まりを起こし、ガス検知応答性等のセンサ特性を低下させてしまうことになる。一方、センサ特性の低下を抑制するために、セラミックス材料中のバインダの量を単純に減少させると、形成した多孔質保護層の強度が低下してしまう。
なお、センサ特性の低下を抑制するために、拡散抵抗層をアルミナペーストで被覆してから、ガスセンサ素子をセラミックス材料中に浸漬させる方法も知られている。しかし、この場合には、アルミナペーストの塗布及び熱処理を行う工程が増加してしまう。
【0005】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、極めて簡単な方法によって、ガス検知応答性等のセンサ特性の向上と、多孔質保護層の強度の確保とを両立させることができるガスセンサ素子の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、酸素イオン導電性を有する固体電解質体の両表面に一対の電極を設けてなるセンサ基板と、該センサ基板の一方側の表面に積層され、電気絶縁性を有するセラミックス体に通電により発熱するヒータを設けてなるヒータ基板と、上記センサ基板の他方側の表面に積層され、上記一対の電極のうちの一方に接触させる被測定ガスを透過させる多孔質体からなる拡散抵抗層とを備えるガスセンサ素子の製造方法において、
上記ガスセンサ素子のガス検知先端部に、セラミックス粒子を水又は有機溶媒に含有させてなるセラミックススラリーを塗布するセラミックス塗布工程と、
上記ガス検知先端部に塗布した上記セラミックススラリーを乾燥させてセラミックス層を形成する第1乾燥工程と、
上記セラミックス層に、バインダを水又は有機溶媒に含有させてなるバインダスラリーを含浸させるバインダ含浸工程と、
上記セラミックス層に含浸させた上記バインダスラリーを乾燥させて、バインダが含まれるセラミックス層を形成する第2乾燥工程と、
上記バインダが含まれるセラミックス層を熱処理して多孔質保護層を形成する熱処理工程とを含むことを特徴とするガスセンサ素子の製造方法にある(請求項1)。
【発明の効果】
【0007】
本発明のガスセンサ素子の製造方法においては、セラミックス塗布工程として、ガスセンサ素子のガス検知先端部に、セラミックス粒子を水又は有機溶媒に含有させてなるセラミックススラリーを塗布する。このとき、セラミックススラリーには、バインダが含有されていないことにより、バインダによってガスセンサ素子の拡散抵抗層における多数の気孔に目詰まりが生じることを防止することができる。そして、第1乾燥工程として、ガスセンサ素子のガス検知先端部に塗布したセラミックススラリーを乾燥させてセラミックス層を形成する。
【0008】
次いで、バインダ含浸工程として、セラミックス層に、バインダを水又は有機溶媒に含有させてなるバインダスラリーを含浸させる。このとき、バインダスラリーにおけるバインダがセラミックス層に浸透する。バインダは、セラミックス層を経由してしか拡散抵抗層へ浸透することができず、このバインダが拡散抵抗層における多数の気孔に入り込み難くすることができる。これにより、固体電解質体における電極に導かれる被測定ガスが拡散抵抗層を通過し難くなることを防止することができ、ガス検知応答性等のセンサ特性の向上を図ることができる。
【0009】
そして、第2乾燥工程として、セラミックス層に含浸させたバインダスラリーを乾燥させて、バインダが含まれるセラミックス層を形成する。こうして、バインダを、セラミックス層に対して後から存在させることができる。
その後、熱処理工程として、バインダが含まれるセラミックス層を熱処理して多孔質保護層を形成したときには、多孔質保護層の全体においてバインダとセラミックス粒子とを結合させることができる。これにより、多孔質保護層の強度を確保することができる。
また、本発明においては、セラミックススラリー中のバインダをなくすといった極めて簡単な方法を採用している。
【0010】
それ故、本発明のガスセンサ素子の製造方法によれば、極めて簡単な方法によって、ガス検知応答性等のセンサ特性の向上と、多孔質保護層の強度の確保とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例にかかる、ガスセンサを示す説明図。
【図2】実施例にかかる、ガスセンサ素子の横断面を示す説明図。
【図3】実施例にかかる、ガスセンサ素子のヒータ基板を示す説明図。
【図4】実施例にかかる、多孔質保護層を形成する順序を示すフローチャート。
【図5】実施例にかかる、ガスセンサ素子のガス検知先端部にセラミックス層を形成した状態を模式的に示す説明図。
【図6】実施例にかかる、セラミックス層にバインダを含浸させた状態を模式的に示す説明図。
【図7】実施例にかかる、セラミックス層を熱処理して多孔質保護層を形成した状態を模式的に示す説明図。
【図8】確認試験1にかかる、発明品及び比較品のガスセンサ素子について、測定した特性変化率を示すグラフ。
【図9】確認試験2にかかる、発明品及び比較品のガスセンサ素子の多孔質保護層について、測定した強度を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上述した本発明のガスセンサ素子の製造方法における好ましい実施の形態につき説明する。
本発明において、上記バインダ含浸工程において用いるバインダスラリーには、セラミックス粒子が含まれていてもよい。
【0013】
また、上記セラミックススラリーは、バインダを含有しない一方、上記セラミックス粒子を上記ガスセンサ素子の上記ガス検知先端部に保持させることができると共に上記熱処理を行ったときに揮発させることができる仮止め材を含有していることが好ましい(請求項2)。
この場合には、バインダの代わりに仮止め材を用いて、乾燥後のセラミックス層において、セラミックス粒子をガスセンサ素子のガス検知先端部に保持(仮止め)させておくことができる。また、仮止め材は、セラミックス層にもバインダが含有された後である熱処理工程において揮発させることができ、ガス検知応答性等のセンサ特性に悪影響を及ぼすことを防止することができる。
仮止め材としては、有機ポリマーを用いることができる。この場合には、乾燥後のセラミックス層にセラミックス粒子を保持させることができると共に熱処理を行ったときに容易に揮発させることができる。
【0014】
また、上記セラミックス塗布工程及び上記第1乾燥工程を繰り返し行った後、上記バインダ含浸工程、上記第2乾燥工程及び上記熱処理工程を行うことが好ましい(請求項3)。
この場合には、セラミックス塗布工程において施工するセラミックススラリーの1回の施工膜厚(乾燥前の膜厚)を薄くすることができ、第1乾燥工程を行う際に、ガスセンサ素子の表面におけるセラミックス層に亀裂等が生じ難くすることができる。
【0015】
また、上記セラミックススラリー及び上記バインダスラリーにおける上記セラミックス粒子は、酸化アルミニウム(Al23)であり、上記バインダスラリーにおける上記バインダは、焼成して酸化アルミニウムに変化するアルミニウム化合物であることが好ましい(請求項4)。
この場合には、熱処理工程を行う際に、バインダとしてのアルミニウム化合物を焼成して酸化アルミニウムに変化させることができ、いずれも酸化アルミニウムであるセラミックス粒子とバインダとを強固に結合して、多孔質保護層を形成することができる。
また、焼成して酸化アルミニウムに変化するアルミニウム化合物は、例えば、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、アルミニウムのオキシ酸化物(AlO(OH))、酸化アルミニウムの水和物等とすることができ、これらの1種又は2種以上から構成することができる。
【実施例】
【0016】
以下に、本発明のガスセンサ素子の製造方法にかかる実施例につき、図面を参照して説明する。
本例のガスセンサ素子2は、図1、図2に示すごとく、酸素イオン導電性を有する固体電解質体31の両表面に一対の電極32A、32Bを設けてなるセンサ基板3と、センサ基板3の一方側の表面に積層され、電気絶縁性を有するセラミックス体41に通電により発熱するヒータ42を設けてなるヒータ基板4と、センサ基板3の他方側の表面に積層され、一対の電極32A、32Bのうちの一方に接触させる被測定ガスを透過させる多孔質体からなる拡散抵抗層33とを備えている。
【0017】
そして、次の各工程を行って、拡散抵抗層33を含めたガスセンサ素子2のガス検知先端部21に多孔質保護層5を形成する。
まず、セラミックス塗布工程として、図5に示すごとく、ガスセンサ素子2のガス検知先端部21に、セラミックス粒子511及び有機ポリマー52を水に含有させてなるセラミックススラリーを塗布する。次いで、第1乾燥工程として、ガス検知先端部21に塗布したセラミックススラリーを乾燥させてセラミックス層51を形成する。次いで、バインダ含浸工程として、図6に示すごとく、セラミックス層51に、バインダ53を水に含有させてなるバインダスラリーを含浸させる。次いで、第2乾燥工程として、セラミックス層51に含浸させたバインダスラリーを乾燥させて、バインダ53が含まれるセラミックス層51を形成する。その後、熱処理工程として、図7に示すごとく、バインダ53が含まれるセラミックス層51を熱処理(焼成)して多孔質保護層5を形成する。
【0018】
まず、ガスセンサ素子2につき、図1〜図7を参照して説明する。
図2に示すごとく、本例のガスセンサ素子2は、車載用の限界電流式のガスセンサ素子2であり、被測定ガスとしての排ガス中の酸素濃度を測定するものである。また、本例のガスセンサ素子2は、固体電解質体31の両表面に設けた一対の電極32A、32B間に、限界電流特性(酸素濃度差と電流とがリニヤな関係を示す特性)を生じる電圧を印加し、一方の電極である被測定ガス側電極32Aに接触する被測定ガスと、他方の電極である基準ガス側電極32Bに接触する基準ガス(大気等)との酸素濃度の差に応じて、一対の電極32A、32B間に生じる電流を検出して、エンジンにおける空燃比を求めることができるものである。
また、本例のガスセンサ素子2のセンサ基板3は、固体電解質体31の両表面に設けた一対の電極32A、32Bによって、被測定ガス中の酸素濃度を調整するポンピングセルの機能と、被測定ガス中の酸素濃度を測定するセンシングセルの機能とを併有させた1セル構造を有している。
【0019】
被測定ガス側電極32Aを設けた固体電解質体31の表面には、被測定ガスを拡散してその流れを律速させるための拡散抵抗層33が積層してある。また、拡散抵抗層33の表面には、被測定ガスを透過しない遮蔽層34が積層してある。拡散抵抗層33、遮蔽層34は、酸化アルミニウム(アルミナ)より形成されている。また、一対の電極32A、32Bは、白金等より形成することができる。
【0020】
図2に示すごとく、基準ガス側電極32Bを設けた固体電解質体31の表面には、ヒータ基板4が積層してある。ヒータ基板4は、基準ガス側電極32Bの周囲に基準ガス室45を形成するための一方のセラミックス体41Aと、他方のセラミックス体41Bとの間に、白金等をいずれかのセラミックス体41にパターン印刷してなるヒータ42を挟み込んで形成されている。
また、ガスセンサ素子2において固体電解質体31に一対の電極32A、32Bを互いに対向して設けた部分は、ガスセンサ素子2の先端側部分201における加熱領域R1を構成している。
【0021】
図3に示すごとく、ヒータ基板4における一対のセラミックス体41A、B同士の間においては、ヒータ42を蛇行させて形成した発熱部401と、蛇行するヒータ42の両端から引き出したリード部402とが形成されている。発熱部401は、ガスセンサ素子2の長手方向Lに蛇行して形成することができる。また、発熱部401は、図示は省略するが、ガスセンサ素子2の横方向W(長手方向Lに直交する方向)に蛇行して形成することもできる。
また、ガスセンサ素子2においては、ヒータ基板4における発熱部401とセンサ基板3とが対向する加熱領域R1と、ヒータ基板4におけるリード部402とセンサ基板3とが対向する通電領域R2とが形成されている。
ガスセンサ素子2のガス検知先端部21は、加熱領域R1として形成されている。
【0022】
図1に示すごとく、ガスセンサ素子2は、ハウジング11に固定し、その加熱領域R1を素子カバー12によって覆って、ガスセンサ1として使用される。ハウジング11は、ガスセンサ素子2の後端側部分202を内側に挿通して保持するよう構成されている。素子カバー12は、ハウジング11に固定されており、ガスセンサ素子2の先端側部分201におけるガス検知先端部21を覆うよう構成されている。
【0023】
ガスセンサ素子2の後端側部分202は、電気絶縁性を有する碍子部14を介して金属製のハウジング11に固定されており、ガスセンサ素子2の先端側部分201は、ハウジング11のガス検知先端部21に固定した素子カバー12によって覆われている。素子カバー12は、ガスセンサ素子2のガス検知先端部21を覆うインナーカバー12Aと、インナーカバー12Aを覆うアウターカバー12Bとによって構成されている。
ガスセンサ素子2の後端側部分202には、一対の電極32A、32Bをガスセンサ1の外部と電気接続するための導通金具15及びリード線16が接続されている。
【0024】
図2に示すごとく、本例のガスセンサ素子2は、その横断面において、四角形状の4つの角部に切欠面(C面)36を形成した形状を有している。センサ基板3の一方側の表面の両側部に形成した切欠面36は、遮蔽層34と拡散抵抗層33とに連続して形成してある。そして、ガスセンサ素子21は、切欠面36を形成した拡散抵抗層33の表面から、被測定ガス側電極32Aへ被測定ガスを導入するよう構成してある。
本例の多孔質保護層5は、図2に示すごとく、積層方向Dに短径部を配置した断面略楕円形状に形成されている。多孔質保護層5は、セラミックス粒子511としての多数の酸化アルミニウム粒子によって多数の気孔を形成してなる。
【0025】
次に、本例のガスセンサ素子2の製造方法につき詳説する。
本例のガスセンサ素子2の製造方法のセラミックス塗布工程において用いるセラミックススラリーは、バインダ(結合材)53を含有していない。セラミックススラリーは、バインダ53を含有する代わりに、仮止め材としての有機ポリマー52を含有している。有機ポリマー52の含有により、乾燥後のセラミックス層51において、セラミックス粒子511をガスセンサ素子2のガス検知先端部21に保持(仮止め)させておくことができる。また、有機ポリマー52は、セラミックス層51にもバインダ53が含有された後である熱処理工程において揮発させることができ、ガス検知応答性等のセンサ特性に悪影響を及ぼすことを防止することができる。
【0026】
また、セラミックススラリー及びバインダスラリーにおけるセラミックス粒子511は、酸化アルミニウム(Al23)であり、バインダスラリーにおけるバインダ53は、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)である。そして、熱処理工程を行う際には、水酸化アルミニウムを焼成させて酸化アルミニウムに変化させることができ、いずれも酸化アルミニウムであるセラミックス粒子511とバインダ53とを強固に結合して、多孔質保護層5を形成することができる。
なお、バインダ53は、水酸化アルミニウムとする以外にも、焼成したときに酸化アルミニウムに変化するアルミニウム化合物から構成することができ、例えば、アルミニウムのオキシ酸化物(AlO(OH))、酸化アルミニウムの水和物等とすることができる。
【0027】
また、本例の製造方法においては、セラミックス塗布工程及び第1乾燥工程を繰り返し行った後、バインダ含浸工程、第2乾燥工程及び熱処理工程を行う。これにより、セラミックス塗布工程において施工するセラミックススラリーの1回の施工膜厚(乾燥前の膜厚)を薄くすることができ、第1乾燥工程を行う際に、ガスセンサ素子2の表面におけるセラミックス層51に亀裂等が生じ難くすることができる。
【0028】
本例においては、セラミックス塗布工程と第1乾燥工程とを3回繰り返して行う。
まず、1回目のセラミックス塗布工程として、バインダ53を含有せず、小粒径(10μm以下の粒径)のセラミックス粒子(酸化アルミニウムの粒子)511と有機ポリマー52とを水に含有させてなるセラミックススラリー(バインダレス・セラミックススラリー)中に、ガスセンサ素子2のガス検知先端部21を約0.5〜2分間浸漬させる(図4のステップS1)。このとき、セラミックススラリーがガスセンサ素子2のガス検知先端部21に付着する。
次いで、図5に示すごとく、1回目の第1乾燥工程として、ガス検知先端部21をセラミックススラリー中から引き上げた後、150℃のバッチ炉内で約2〜3分間乾燥させ、セラミックス粒子511及び有機ポリマー52によるセラミックス層51を形成する(図4のS2)。
【0029】
次いで、2回目のセラミックス塗布工程として、バインダ53を含有せず、小粒径のセラミックス粒子511よりも大きい大粒径(50μm以下の粒径)のセラミックス粒子511と有機ポリマー52とを水に含有させてなるセラミックススラリー(バインダレス・セラミックススラリー)中に、ガスセンサ素子2のガス検知先端部21を約10〜15分間浸漬させる(図4のS3)。このとき、ガス検知先端部21のセラミックス層51の表面に、セラミックススラリーがさらに付着する。
次いで、2回目の第1乾燥工程として、ガス検知先端部21をセラミックススラリー中から引き上げた後、100℃の熱風によって約2〜3分間乾燥させ、セラミックス層51をより厚く形成する(図4のS4)。
【0030】
次いで、3回目のセラミックス塗布工程として、バインダ53を含有せず、大粒径(50μm以下の粒径)のセラミックス粒子511と有機ポリマー52とを水に含有させてなるセラミックススラリー(バインダレス・セラミックススラリー)中に、ガスセンサ素子2のガス検知先端部21を約0.5〜2分間浸漬させる(図4のS5)。このとき、ガス検知先端部21のセラミックス層51の表面に、セラミックススラリーがさらに付着する。
次いで、3回目の第1乾燥工程として、ガス検知先端部21をセラミックススラリー中から引き上げた後、100℃の熱風によって約2〜3分間乾燥させ、セラミックス層51をさらに厚く形成する(図4のS6)。
【0031】
次いで、バインダ含浸工程として、バインダ(水酸化アルミニウム)53を水に含有させてなるバインダスラリー中に、セラミックス層51を形成したガス検知先端部21を約0.5〜2分間浸漬させる(図4のS7)。そして、セラミックス層51に、バインダ53を水に含有させてなるバインダスラリーを含浸させる。このとき、バインダスラリーにおけるバインダ53がセラミックス層51に浸透する。バインダ53の粒子径は、セラミックス粒子511の粒子径に比べて小さいことにより、バインダ53の粒子は、セラミックス粒子511間に入り込むことができる。また、バインダ53は、セラミックス層51を経由してしか拡散抵抗層33へ浸透することができず、このバインダ53が拡散抵抗層33における多数の気孔に入り込み難くすることができる。
【0032】
図2に示すごとく、多孔質保護層5を形成するためのセラミックス層51は、拡散抵抗層33の表面にも形成される。そして、拡散抵抗層33は、被測定ガスを通過させるための多数の気孔を形成して構成されている。そのため、セラミックス粒子511は、バインダ53よりも粒子径が大きいために拡散抵抗層33における多数の気孔へ入り込まないが、バインダ53は、拡散抵抗層33における気孔よりも小さいため、拡散抵抗層33へ入り込むことが可能になる。
そこで、本例においては、上記各セラミックス塗布工程を行うときには、セラミックススラリーには、バインダ53が含有されていないことにより、バインダ53がガスセンサ素子2の拡散抵抗層33における多数の気孔に目詰まりを起こすことを防止することができる。これにより、固体電解質体31の被測定ガス側電極32Aに導かれる被測定ガスが拡散抵抗層33を通過し難くなることを防止することができ、ガス検知応答性等のセンサ特性の向上を図ることができる。
【0033】
そして、図6に示すごとく、第2乾燥工程として、セラミックス層51に含浸させたバインダスラリーを乾燥させて、バインダ53が含まれるセラミックス層51を形成する(図4のS8)。こうして、バインダ53を、セラミックス層51に対して後から存在させることができる。
その後、図7に示すごとく、熱処理工程として、バインダ53が含まれるセラミックス層51を約900〜1000℃の環境下で熱処理(焼成)して多孔質保護層5を形成したときには、多孔質保護層5の全体においてバインダ53とセラミックス粒子511とを結合させることができる(図4のS9)。このとき、セラミックス層51に含まれる有機ポリマー(仮止め材)52が揮発し、また、バインダ53としての水酸化アルミニウムが化学反応して酸化アルミニウムに変化する。これにより、多孔質保護層5の強度を確保することができる。
【0034】
こうして、セラミックス粒子511としての酸化アルミニウム(アルミナ)の比較的粒子径の大きな粒子間に、これよりも小さな粒子径のバインダ53が介在し、バインダ53を介してセラミックス粒子511をガスセンサ素子2のガス検知先端部21に保持させることができる。
また、本例においては、セラミックススラリー中のバインダ53をなくすといった極めて簡単な方法を採用している。
【0035】
それ故、本例のガスセンサ素子2の製造方法によれば、極めて簡単な方法によって、ガス検知応答性等のセンサ特性の向上と、多孔質保護層5の強度の確保とを両立させることができる。
【0036】
(確認試験1)
本確認試験においては、上記セラミックス層51に対してバインダ53を後から含浸させて多孔質保護層5を形成した実施例1のガスセンサ素子2(発明品)と、バインダ53を含有するセラミックススラリーを用いて多孔質保護層5を形成した従来のガスセンサ素子(比較品)とについて、多孔質保護層5を形成する前のガスセンサ素子と、多孔質保護層5を形成した後のガスセンサ素子とのガス検知応答性の変化率(特性変化率)(%)を確認した。
その結果、図8に示すごとく、発明品(平均値で−3.8%)の方が比較品(平均値で−5.9%)に比べてガス検知応答性の変化率が小さかった。これにより、発明品は、多孔質保護層5を形成してガス検知先端部21を被水から保護することができるだけでなく、ガス検知応答性のセンサ特性にも優れることがわかった。なお、特性変化率の値の要求値は、暫定規格として−8%以下であることを設定している。
【0037】
(確認試験2)
本確認試験においては、上記発明品と上記比較品とについて、形成した多孔質保護層5の強度を確認した。
この確認試験においては、形成した多孔質保護層5に引張り圧力を加えたとき、多孔質保護層5が破壊したときの圧力(MPa)を測定した。その結果、図9に示すごとく、発明品(平均値で0.48MPa)の方が比較品(平均値で0.37MPa)に比べて、強度が高かった。これにより、発明品は、多孔質保護層5の強度にも優れることがわかった。なお、この強度の値の要求値は、暫定規格として0.4MPa以上であることを設定している。
【0038】
以上の確認試験の結果より、発明品のガスセンサ素子2の製造方法によれば、センサ特性の向上と、多孔質保護層5の強度の確保とを両立できることがわかった。
【符号の説明】
【0039】
1 ガスセンサ
2 ガスセンサ素子
21 ガス検知先端部
3 センサ基板
31 固体電解質体
32A、B 電極
33 拡散抵抗層
4 ヒータ基板
41 セラミックス体
42 ヒータ
5 多孔質保護層
51 セラミックス層
511 セラミックス粒子
52 有機ポリマー
53 バインダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素イオン導電性を有する固体電解質体の両表面に一対の電極を設けてなるセンサ基板と、該センサ基板の一方側の表面に積層され、電気絶縁性を有するセラミックス体に通電により発熱するヒータを設けてなるヒータ基板と、上記センサ基板の他方側の表面に積層され、上記一対の電極のうちの一方に接触させる被測定ガスを透過させる多孔質体からなる拡散抵抗層とを備えるガスセンサ素子の製造方法において、
上記ガスセンサ素子のガス検知先端部に、セラミックス粒子を水又は有機溶媒に含有させてなるセラミックススラリーを塗布するセラミックス塗布工程と、
上記ガス検知先端部に塗布した上記セラミックススラリーを乾燥させてセラミックス層を形成する第1乾燥工程と、
上記セラミックス層に、バインダを水又は有機溶媒に含有させてなるバインダスラリーを含浸させるバインダ含浸工程と、
上記セラミックス層に含浸させた上記バインダスラリーを乾燥させて、バインダが含まれるセラミックス層を形成する第2乾燥工程と、
上記バインダが含まれるセラミックス層を熱処理して多孔質保護層を形成する熱処理工程とを含むことを特徴とするガスセンサ素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサ素子の製造方法において、上記セラミックススラリーは、バインダを含有しない一方、上記セラミックス粒子を上記ガスセンサ素子の上記ガス検知先端部に付着させることができると共に上記熱処理を行ったときに揮発させることができる仮止め材を含有していることを特徴とするガスセンサ素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のガスセンサ素子の製造方法において、上記セラミックス塗布工程及び上記第1乾燥工程を繰り返し行った後、上記バインダ含浸工程、上記第2乾燥工程及び上記熱処理工程を行うことを特徴とするガスセンサ素子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のガスセンサ素子の製造方法において、上記セラミックススラリーにおける上記セラミックス粒子は、酸化アルミニウムであり、
上記バインダスラリーにおける上記バインダは、焼成して酸化アルミニウムに変化するアルミニウム化合物であることを特徴とするガスセンサ素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−47511(P2012−47511A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188042(P2010−188042)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(511143564)メタローテクノロジーズジャパン株式会社 (2)