説明

ガスセンサ素子及びガスセンサ

【課題】ガスセンサ素子の被水によるクラックを抑制すると共に、センサ出力の低下を抑制したガスセンサ素子を提供する。
【解決手段】検出素子部300及びヒータ部200を積層してなる積層体であって、拡散抵抗部115を介して測定対象ガスを外部から導入する測定室107cを備える積層体と、積層体の先端側を被覆してなる多孔質保護層20と、を備えるガスセンサ素子100において、多孔質保護層は、拡散抵抗部の外側に配置される内側多孔質層21と、内側多孔質層よりも外側に形成される外側多孔質層23と、を備え、内側多孔質層の気孔率は外側多孔質層及び拡散抵抗部の気孔率より高く、拡散抵抗部及び内側多孔質層の断面の複数の100μm×100μmの領域a〜a、b〜bを見たときに、拡散抵抗部で最も大きい気孔径をCDIFとしたとき、内側多孔質層における複数の領域のそれぞれには、CDIFよりも大きい気孔径が存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば燃焼器や内燃機関等の燃焼ガスや排気ガス中に含まれる特定ガスのガス濃度を検出するのに好適に用いられるガスセンサ素子及びガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関の排気ガス中の特定成分(酸素等)の濃度を検出するためのガスセンサが用いられている。このガスセンサは自身の内部にガスセンサ素子を有し、ガスセンサ素子は、固体電解質体と該固体電解質体に配置された一対の電極とからなるセルを少なくとも1つ設けた検出素子部、及び絶縁セラミック体に通電により発熱するヒータを設けてなるヒータ部を積層してなる積層体を有している。ここで、ガスセンサ素子は排気ガス中に含まれるシリコンやリンなどの被毒物質に晒されたり、排気ガス中の水滴が付着することがあるため、ガスセンサ素子の外表面には、被毒物質を捕捉したり、水滴がガスセンサ素子に直接接触しないよう多孔質保護層が被覆されている。つまり、上記の積層体のうち測定対象ガス(排気ガス)に晒される先端部の全周を、多孔質保護層にて被覆している。
又、この多孔質保護層を2層とし、下層の気孔率を上層の気孔率よりも大きくすることで、気孔によって粗面化された下層上にアンカー効果で上層を密着させる技術が開発されている(特許文献1、2参照)。
なお、上記した積層体の内部には、上記一対の電極のうち一方の電極が臨む測定室が形成されており、測定対象ガスは外部から測定室に導入される。又、測定室と外部との間には拡散抵抗部が介在し、測定室に導入される測定対象ガスの拡散速度を調整している。従って、下層は拡散抵抗部に直接接することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−322632号公報(請求項15)
【特許文献2】特開2007−206082号公報(請求項15)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、多孔質保護層を2層とし、下層の気孔率を上層の気孔率よりも大きくすると、下層に含まれる空隙(空間)の合計体積が大きくなって断熱性が付与されるため、上層側が被水して冷却されても内側のガスセンサ素子が急冷され難くなり、ヒータ部によって検出素子部を加熱した状態でもガスセンサ素子が被水によって損傷するのを効果的に抑制できるという効果がある。
ところで、多孔質保護層を通過するガスの拡散速度は、多孔質保護層の気孔率だけでなく、気孔径によっても影響を受ける。例えば、図9(a)に示すように、気孔径dが大きいと、複数のガス分子Gasが気孔内に入り込んで互いに衝突しながら拡散するため(分子拡散)、拡散抵抗が小さくなって、拡散速度が後述する細孔拡散に比べて大きくなる。一方、図9(b)に示すように、気孔径dが小さくなると、複数のガス分子Gasが同時に気孔内に入り込めず、単独のガス分子Gasが気孔壁に衝突しながら拡散するため(細孔拡散)、拡散抵抗が高くなって拡散速度が分子拡散に比べて小さくなる。
従って、図10に示すように、例えば、拡散抵抗部215に隣接する下層221を、気孔径dの多数の細孔から構成し、上層223を気孔径dの少数の大気孔から構成した場合、下層221の気孔率は上層223の気孔率より高くなるものの、下層221でのガス拡散速度が大幅に低下する。
【0005】
さらに、図11に示すように、外部からガスセンサ素子1000へのガスの侵入経路(ガスの通過面積)は拡散抵抗部215に近付くほど狭くなる(少なくなる)。例えば、図11の場合、拡散抵抗部215表面でのガスの通過面積215sが最も小さく、下層221表面でのガスの通過面積221sが次に小さく、上層223表面でのガスの通過面積223sが最も大きい。
このため、拡散抵抗部215に隣接する下層221のガス拡散速度が低下すると、測定室へガスが拡散(導入)され難くなってセンサ出力が低下する。
そこで、本発明は、ガスセンサ素子の被水によるクラックを抑制すると共に、センサ出力の低下を抑制したガスセンサ素子及びガスセンサの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明のガスセンサ素子は、固体電解質体と該固体電解質体に配置された一対の電極とを有するセルを少なくとも1つ設けた検出素子部、及び、絶縁セラミック体に通電により発熱するヒータを設けてなるヒータ部を積層してなる積層体であって、前記積層体の先端側内部に形成され、拡散抵抗部を介して測定対象ガスを外部から導入し、前記一対の電極のうち一方の電極が臨む測定室を備える積層体と、前記積層体のうち先端側部位の全周を被覆してなる多孔質保護層と、を備えるガスセンサ素子において、前記多孔質保護層は、前記拡散抵抗部の外側に配置され、少なくとも該拡散抵抗部を覆う内側多孔質層と、前記内側多孔質層よりも外側に形成され、前記積層体のうち先端側部位の全周を被覆する外側多孔質層と、を備え、前記内側多孔質層の気孔率は前記外側多孔質層の気孔率より高く、前記内側多孔質層の気孔率は前記拡散抵抗部の気孔率より高く、前記拡散抵抗部及び前記内側多孔質層のそれぞれの断面の走査電子顕微鏡像における複数の100μm×100μmの領域を見たときに、前記拡散抵抗部で最も大きい気孔径をCDIFとしたとき、前記内側多孔質層における複数の前記領域のそれぞれには、前記CDIFよりも大きい気孔径が存在する。
【0007】
このように、内側多孔質層の気孔率を外側多孔質層の気孔率より高くすることで、拡散抵抗部に隣接し、外部からのガスの侵入経路(ガスの通過面積)が最も狭い内側多孔質層のガス拡散速度を大きくし易くなる。
また、外側多孔質層の気孔率を内側多孔質層の気孔率に対して小さくすることで、被毒物質や水滴は気孔率を小さくした外側多孔質層で効果的に捕捉されるので、積層体まで到達し難い。その上、内側多孔質層の気孔率を外側多孔質層の気孔率よりも大きくすることで、内側多孔質層に含まれる空隙(空間)の合計体積が大きくなって断熱性が付与されるため、外側多孔質層側が被水して冷却されても内側の積層体が急冷され難くなり、ヒータ部によって検出素子部を加熱した状態でもガスセンサ素子が被水によって損傷するのを効果的に抑制できるという効果がある。
又、内側多孔質層の気孔率を拡散抵抗部の気孔率より高くすることで、内側多孔質層から拡散抵抗部へ向かって外部からガスが流入し易くなる。
さらに、多孔質保護層のガス拡散抵抗は気孔率だけでなく、気孔径によって大きく影響を受けるが、内側多孔質層における複数の領域のそれぞれに拡散抵抗部の最も大きい気孔径CDIFよりも大きい気孔径が存在することで、内側多孔質層に大径の気孔(細孔拡散よりも速い分子拡散をもたらす気孔)が確実に存在することとなり、内側多孔質層のガス拡散抵抗が確実に小さくなり、測定室へガスが拡散(導入)され易くなってセンサ出力の低下を抑制することができる。なお、「内側多孔質層における複数の領域のそれぞれに拡散抵抗部の最も大きい気孔径CDIFよりも大きい気孔径が存在する」とは、内側多孔質層のどの領域においても、気孔径CDIFよりも大きい気孔径が少なくとも1個(より好ましくは複数個)必ず存在することを指す。
【0008】
ここで、内側多孔質層は、拡散抵抗部の外側に配置し、少なくとも該拡散抵抗部を覆っていればよく、拡散抵抗部付近の一部に設けられていても良いし、積層体の先端部の全周に被覆していても良い。また、本発明では、多孔質保護層を形成する内側多孔質層は、拡散抵抗部の外側に配置する層である。なお、内側多孔質層と拡散抵抗部との間には隙間が設けられていても良いが、より好ましくは隣接する層(つまり、積層体の表面上に直接設けられる層)であることが好ましい。一方、外側多孔質層は内側多孔質層上に設けられる層であればよく、多孔質保護層としては内側多孔質層と外側多孔質層の2層で形成される形態のほか、3層以上で形成されていても良い。
【0009】
さらに、外側多孔質層の断面の走査電子顕微鏡像における複数の100μm×100μmの領域のそれぞれには、拡散抵抗部の最も大きい気孔径CDIFよりも大きい気孔径が存在しないことが、被毒物質や水滴を外側多孔質層で効果的に捕捉されるので好ましい。なお、外側多孔質層の拡散抵抗は比較的高くても、拡散抵抗部から外側に離れるにつれて侵入経路が増えるため、ガスを通過させることができる。他方、外側多孔質層においてガスを十分に通過させるために、外側多孔質層の複数の領域の一部、もしくはそれぞれに拡散抵抗部の最も大きい気孔径CDIFよりも大きい気孔径が1個、または複数個存在してもよい。
【0010】
前記内側多孔質層は、前記積層体の前記先端部の全周を被覆してもよい。
このガスセンサ素子によれば、内側多孔質層の気孔率を外側多孔質層の気孔率より高くしているので、内側多孔質層を積層体の先端部の全周に被覆することで、積層体側の内側多孔質層の空隙の合計体積がより大きくなって断熱性がより高まり、外側多孔質層側が被水して冷却されてもガスセンサ素子が急冷され難くなる。よって、ヒータ部によって検出素子部を加熱した状態でもガスセンサ素子が被水によって損傷するのをより効果的に抑制できるという効果がある。
【0011】
前記ガスセンサ素子は第1測定室の内部と外部に位置すると共に、第1固体電解質層上に設けられた一対の第1電極を有し、前記第1測定室に導入される被測定ガス中の酸素の汲み出し又は汲み入れを行う第1ポンプセルと、前記第1測定室に連通するNOx測定室の内部と外部に位置すると共に、第2固体電解質層上に設けられた一対の第2電極を有し、前記第1測定室から前記NOx測定室に流入され、酸素濃度が調整されたガス中のNOx濃度に応じた第2ポンピング電流が前記一対の第2電極間に流れる第2ポンプセルとを備えたNOxセンサ素子であり、前記セルが前記第1ポンポンプセルであり、前記測定室が前記第1測定室であってもよい。
NOxセンサは、酸素濃度を検出するガスセンサに比べてセンサ出力値が小さいため、測定室へガスが拡散(導入)され難くなってセンサ出力が低下する場合の影響が、ガスセンサに比べて大きい。そこで、本発明のように、内側多孔質層及び外側多孔質層を、拡散抵抗部を有するNOxセンサ素子の積層体の表面上に設けることで、本発明がより有効となる。
【0012】
本発明のガスセンサは、被測定ガス中の特定ガス成分の濃度を検出するセンサ素子と、該センサ素子を保持するハウジングとを備えるガスセンサにおいて、前記センサ素子は、前記ガスセンサ素子を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、ガスセンサ素子の被水によるクラックを抑制すると共に、センサ出力の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るガスセンサ(酸素センサ)の長手方向に沿う断面図である。
【図2】検出素子及びヒータの模式分解斜視図である。
【図3】図1の検出素子の先端側の部分拡大断面図である。
【図4】ガスセンサ素子の軸線方向に直交する模式断面図である。
【図5】拡散抵抗部及び内側多孔質層の断面の走査電子顕微鏡像における複数の100μm×100μmの領域を示す模式図である。
【図6】第1の実施形態におけるガスセンサ素子の変形例を示し、長手方向に沿う断面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係るガスセンサ(NOxセンサ)におけるガスセンサ素子の長手方向に沿う断面図である。
【図8】実施例1,2、及び比較例1のセンサ出力の変化率を示す図である。
【図9】多孔質保護層の気孔径とガスの拡散の状態を模式的に示す図である。
【図10】拡散抵抗部に隣接する下層を多数の細孔から構成し、上層を少数の大気孔から構成した例を模式的に示す図である。
【図11】外部からガスセンサ素子へのガスの侵入経路(ガスの通過面積)を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の第1の実施形態に係るガスセンサ(酸素センサ)1の長手方向(軸線L方向)に沿う断面図、図2は検出素子部300及びヒータ部200の模式分解斜視図、図3は検出素子部300の軸線L方向に直交する断面図である。
【0016】
図1に示すように、ガスセンサ1は、検出素子部300及び検出素子部300に積層されるヒータ部200から構成されるガスセンサ素子100、ガスセンサ素子100等を内部に保持する主体金具(特許請求の範囲の「ハウジング」に相当)30、主体金具30の先端部に装着されるプロテクタ24等を有している。ガスセンサ素子100は軸線L方向に延びるように配置されている。
【0017】
ヒータ部200は、図2に示すように、アルミナを主体とする第1基体101及び第2基体103と、第1基体101と第2基体103とに挟まれ、白金を主体とする発熱体102を有している。発熱体102は、先端側に位置する発熱部102aと、発熱部102aから第1基体101の長手方向に沿って延びる一対のヒータリード部102bとを有している。そして、ヒータリード部102bの端末は、第1基体101に設けられるヒータ側スルーホール101aに形成された導体を介してヒータ側パッド120と電気的に接続している。第1基体101及び第2基体102を積層したものが絶縁セラミック体にあたる。
【0018】
検出素子部300は、酸素濃度検出セル130と酸素ポンプセル140とを備える。酸素濃度検出セル130は、第1固体電解質体105と、その第1固体電解質105の両面に形成された第1電極104及び第2電極106とから形成されている。第1電極104は、第1電極部104aと、第1電極部104aから第1固体電解質体105の長手方向に沿って延びる第1リード部104bとから形成されている。第2電極106は、第2電極部106aと、第2電極部106aから第1固体電解質体105の長手方向に沿って延びる第2リード部106bとから形成されている。
なお、酸素濃度検出セル130と酸素ポンプセル140とが、それぞれ特許請求の範囲の「セル」に相当する。又、第2電極106及び後述する第3電極108が、それぞれ特許請求の範囲の「一方の電極」に相当する。
【0019】
そして、第1リード部104bの端末は、第1固体電解質体105に設けられる第1スルーホール105a、後述する絶縁層107に設けられる第2スルーホール107a、第2固体電解質体109に設けられる第4スルーホール109a及び保護層111に設けられる第6スルーホール111aのそれぞれに形成される導体を介して検出素子側パッド121と電気的に接続する。一方、第2リード部106bの端末は、後述する絶縁層107に設けられる第3スルーホール107b、第2固体電解質体109に設けられる第5スルーホール109b及び保護層111に設けられる第7スルーホール111bのそれぞれに形成される導体を介して検出素子側パッド121と電気的に接続する。
【0020】
一方、酸素ポンプセル140は、第2固体電解質体109と、その第2固体電解質体109の両面に形成された第3電極108、第4電極110とから形成されている。第3電極108は、第3電極部108aと、この第3電極部108aから第2固体電解質体109の長手方向に沿って延びる第3リード部108bとから形成されている。第4電極110は、第4電極部110aと、この第4電極部110aから第2固体電解質体109の長手方向に沿って延びる第4リード部110bとから形成されている。
【0021】
そして、第3リード部108bの端末は、第2固体電解質体109に設けられる第5スルーホール109b及び保護層111に設けられる第7スルーホール111bのそれぞれに形成される導体を介して検出素子側パッド121と電気的に接続する。一方、第4リード部110bの端末は、後述する保護層111に設けられる第8スルーホール111cに形成される導体を介して検出素子側パッド121と電気的に接続する。なお、第2リード部106bと第3リード部108bは同電位となっている。
【0022】
これら第1固体電解質体105、第2固体電解質体109は、ジルコニア(ZrO)に安定化剤としてイットリア(Y)又はカルシア(CaO)を添加してなる部分安定化ジルコニア焼結体から構成されている。
【0023】
発熱体102、第1電極104、第2電極106、第3電極108、第4電極110、ヒータ側パッド120及び検出素子側パッド121は、白金族元素で形成することができる。これらを形成する好適な白金族元素としては、Pt、Rh、Pd等を挙げることができ、これらはその一種を単独で使用することもできるし、又二種以上を併用することもできる。
【0024】
もっとも、発熱体102、第1電極104、第2電極106、第3電極108、第4電極110、ヒータ側パッド120及び検出素子側パッド121は、耐熱性及び耐酸化性を考慮するとPtを主体にして形成することがより一層好ましい。さらに、発熱体102、第1電極104、第2電極106、第3電極108、第4電極110、ヒータ側パッド120及び検出素子側パッド121は、主体となる白金族元素の他にセラミック成分を含有することが好ましい。このセラミック成分は、固着という観点から、積層される側の主体となる材料(例えば、第1固体電解質体105、第2固体電解質体109の主体となる成分)と同様の成分であることが好ましい。
【0025】
そして、上記酸素ポンプセル140と酸素濃度検出セル130との間に、絶縁層107が形成されている。絶縁層107は、絶縁部114と拡散抵抗部115とからなる。この絶縁層107の絶縁部114には、第2電極部106a及び第3電極部108aに対応する位置に中空の測定室107cが形成されている。この測定室107cは、絶縁層107の幅方向で外部と連通しており、該連通部分には、外部と測定室107cとの間のガス拡散を所定の律速条件下で実現する拡散抵抗部115が配置されている。
【0026】
絶縁部114は、絶縁性を有するセラミック焼結体であれば特に限定されなく、例えば、アルミナやムライト等の酸化物系セラミックを挙げることができる。
【0027】
拡散抵抗部115は、アルミナからなる多孔質体である。この拡散抵抗部115によって検出ガスが測定室107cへ流入する際の律速が行われる。
【0028】
また、第2固体電解質体109の表面には、第4電極110を挟み込むようにして、保護層111が形成されている。この保護層111は、第4電極部110aを挟み込むようにして、第4電極部110aを被毒から防御するための多孔質の電極保護部113aと、第4リード部110bを挟み込むようにして、第2固体電解質体109を保護するための補強部112とからなる。なお、本実施の形態のガスセンサ素子100は、酸素濃度検出セル130の電極間に生じる電圧(起電力)が所定の値(例えば、450mV)となるように、酸素ポンプセル140の電極間に流れる電流の方向及び大きさが調整され、酸素ポンプセル140に流れる電流に応じた被測定ガス中の酸素濃度をリニアに検出する酸素センサ素子に相当する。
【0029】
図1に戻り、主体金具30は、SUS430製のものであり、ガスセンサを排気管に取り付けるための雄ねじ部31と、取り付け時に取り付け工具をあてがう六角部32とを有している。また、主体金具30には、径方向内側に向かって突出する金具側段部33が設けられており、この金具側段部33はガスセンサ素子100を保持するための金属ホルダ34を支持している。そしてこの金属ホルダ34の内側にはセラミックホルダ35、滑石36が先端側から順に配置されている。この滑石36は金属ホルダ34内に配置される第1滑石37と金属ホルダ34の後端に渡って配置される第2滑石38とからなる。金属ホルダ34内で第1滑石37が圧縮充填されることによって、ガスセンサ素子100は金属ホルダ34に対して固定される。また、主体金具30内で第2滑石38が圧縮充填されることによって、ガスセンサ素子100の外面と主体金具30の内面との間のシール性が確保される。そして第2滑石38の後端側には、アルミナ製のスリーブ39が配置されている。このスリーブ39は多段の円筒状に形成されており、軸線に沿うように軸孔39aが設けられ、内部にガスセンサ素子100を挿通している。そして、主体金具30の後端側の加締め部30aが内側に折り曲げられており、ステンレス製のリング部材40を介してスリーブ39が主体金具30の先端側に押圧されている。
【0030】
また、主体金具30の先端側外周には、主体金具30の先端から突出するガスセンサ素子100の先端部を覆うと共に、複数のガス取り入れ孔24aを有する金属製のプロテクタ24が溶接によって取り付けられている。このプロテクタ24は、二重構造をなしており、外側には一様な外径を有する有底円筒状の外側プロテクタ41、内側には後端部42aの外径が先端部42bの外径よりも大きく形成された有底円筒状の内側プロテクタ42が配置されている。
【0031】
一方、主体金具30の後端側には、SUS430製の外筒25の先端側が挿入されている。この外筒25は先端側の拡径した先端部25aを主体金具30にレーザ溶接等により固定している。外筒25の後端側内部には、セパレータ50が配置され、セパレータ50と外筒25の隙間に保持部材51が介在している。この保持部材51は、後述するセパレータ50の突出部50aに係合し、外筒25を加締めることにより外筒25とセパレータ50とにより固定されている。
【0032】
また、セパレータ50には、検出素子部300やヒータ部200用のリード線11〜15を挿入するための通孔50bが先端側から後端側にかけて貫設されている(なお、リード線14、15については図示せず)。通孔50b内には、リード線11〜15と、検出素子部300の検出素子側パッド121及びヒータ部200のヒータ側パッド120とを接続する接続端子16が収容されている。各リード線11〜15は、外部において、図示しないコネクタに接続されるようになっている。このコネクタを介してECU等の外部機器と各リード線11〜15とは電気信号の入出力が行われることになる。また、各リード線11〜15は詳細に図示しないが、導線を樹脂からなる絶縁皮膜にて披覆した構造を有している。
【0033】
さらに、セパレータ50の後端側には、外筒25の後端側の開口部25bを閉塞するための略円柱状のゴムキャップ52が配置されている。このゴムキャップ52は、外筒25の後端内に装着された状態で、外筒25の外周を径方向内側に向かって加締めることにより、外筒25に固着されている。ゴムキャップ52にも、リード線11〜15をそれぞれ挿入するための通孔52aが先端側から後端側にかけて貫設されている。
【0034】
次に、本発明の特徴部分である多孔質保護層20(内側多孔質層21及び外側多孔質層23)について説明する。
図3は、図1のガスセンサ素子100の先端側の部分拡大断面図であり、検出素子部300とヒータ部200との積層体の表面直上に内側多孔質層21が設けられ、内側多孔質層21の外表面を覆って外側多孔質層23が形成されている。すなわち、多孔質保護層20は、ガスセンサ素子100の先端側部位の全周を覆って設けられている。
なお、「ガスセンサ素子100の先端側部位」とは、図3や後述する図7に示すように、軸線L方向において、ガスセンサ素子100の最先端から、少なくとも測定室107c(後述する図7のNOxセンサ素子のように測定室107C2に連通する第2測定室160が存在する場合には、第2測定室をも含む)の後端までをいう。
【0035】
又、多孔質保護層20は、ガスセンサ素子100の先端面を含み、軸線L方向に沿って後端側に延びるように形成され、かつガスセンサ素子100(積層体)の表裏面及び両側面の4面を完全に囲んで形成されている(図4参照)。
【0036】
図4は、内側多孔質層21及び外側多孔質層23を含むガスセンサ素子100の軸線L方向に直交する模式断面図である。
内側多孔質層21は、拡散抵抗部115の外側に隣接している。又、内側多孔質層21の気孔率は外側多孔質層23の気孔率より高く、内側多孔質層21の気孔率は拡散抵抗部115の気孔率より高くなっている。なお、拡散抵抗部115、内側多孔質層21及び外側多孔質層23に形成される気孔は、ガス透過が可能なように三次元網目構造をなしている。
一般に、多孔質層の気孔率が高くなる程、多孔質層の気孔が増えてガス拡散抵抗が低くなる傾向にある。このため、内側多孔質層21の気孔率を外側多孔質層23の気孔率より高くすることで、拡散抵抗部115に隣接し、外部からのガスの侵入経路(ガスの通過面積)が最も狭い内側多孔質層21のガス拡散速度を大きくし易くなる。さらに、このように、外側多孔質層23の気孔率を内側多孔質層21の気孔率に対して小さくすることで、被毒物質や水滴は気孔率を小さくした外側多孔質層23で効果的に捕捉されるので、検出素子部300まで到達し難い。その上、内側多孔質層21の気孔率を外側多孔質層23の気孔率よりも大きくすることで、内側多孔質層21に含まれる空隙(空間)の合計体積が大きくなって断熱性が付与されるため、外側多孔質層23側が被水して冷却されても内側の検出素子部300が急冷され難くなり、ヒータ部200によって検出素子部300を加熱した状態でもガスセンサ素子100が被水によって損傷するのを効果的に抑制できるという効果がある。
又、内側多孔質層21の気孔率を拡散抵抗部115の気孔率より高くすることで、内側多孔質層21から拡散抵抗部115へ向かって外部からガスが流入し易くなる。
【0037】
但し、既に図10で述べたように、多孔質層のガス拡散抵抗は気孔率だけでなく、気孔径によって大きく影響を受ける。そこで、図5に示すように、本発明においては、拡散抵抗部115及び内側多孔質層21のそれぞれの断面の走査電子顕微鏡像における複数の100μm×100μmの領域を見たときに、拡散抵抗部115における複数の領域b〜bの中で最も大きい気孔径をCDIFとしたとき、内側多孔質層21における複数の領域a〜aのそれぞれには、CDIFよりも大きい気孔径(図5におけるCIN)が存在する。
例えば、図5の例では、領域b〜bのうち、領域bに含まれる気孔の中から選ばれる最大気孔径(CDIF)は、それぞれ領域b、bに含まれる気孔の中から選ばれる最大気孔径より大きいので、これをCDIFとする。これに対し、領域a〜aのそれぞれに、拡散抵抗部115の最大気孔径CDIFよりも大きな気孔径CINが存在するかどうかを判定する。なお、図5は、図3における紙面上下方向に垂直な断面(すなわち、積層方向に垂直な断面)を指す。この断面において、拡散抵抗部115及び内側多孔質層21の走査電子顕微鏡像における複数の100μm×100μmの領域を見ている。但し、この断面において、100μm×100μmの領域が得られない場合には、100μm×100μmの領域が得られるその他の方向の断面において確認することも可能である。
【0038】
そして、内側多孔質層21における複数の領域a〜aのそれぞれに拡散抵抗部115の最大気孔径CDIFよりも大きい気孔径CINが存在することで、内側多孔質層21に大径の気孔(図10(a)のように、細孔拡散よりも速い分子拡散をもたらす気孔)が確実に存在することとなり、内側多孔質層21のガス拡散抵抗が確実に小さくなり、測定室107cへガスが拡散(導入)され易くなってセンサ出力の低下を抑制することができる。
なお、内側多孔質層21のすべての気孔が拡散抵抗部115の気孔より大径であるとはいえず、例えば内側多孔質層21の図5に示すように、CDIFより小さい気孔径が存在していても良い。但し、図10で述べたように、大径の気孔(分子拡散をもたらす気孔)が上述の領域a〜aに確実に存在すれば、その部分が分子拡散をもたらす経路となってガス拡散抵抗が小さくなる。
【0039】
また、図5に示すように、外側多孔質層23の断面の走査電子顕微鏡像における複数の100μm×100μmの領域c〜cの一部には、拡散抵抗部115の最も大きい気孔径CDIFよりも大きい気孔径COUTが1個、または複数個存在している。これにより、外側多孔質層23においてガスを十分に通過させることができる。但し、外側多孔質層23の複数の100μm×100μmの領域c〜cにの一部は、拡散抵抗部115の最も大きい気孔径CDIFよりも大きい気孔径COUTが存在しないことが、被毒物質や水滴を外側多孔質層で効果的に捕捉されるので好ましい。例えば、図5の例では、領域cには気孔径COUTが1個存在し、領域cには気孔径COUTが2個存在するが、領域cには気孔径COUTが存在しない。なお、外側多孔質層23の拡散抵抗は比較的高くても、拡散抵抗部115から外側に離れるにつれて侵入経路が増えるため、ガスを通過させることができる。
【0040】
内側多孔質層21は、例えばアルミナ、スピネル、ジルコニア、ムライト、ジルコン及びコージェライトの群から選ばれる1種以上のセラミック粒子を焼成等により結合して形成することができる。これらの粒子を含むスラリーを焼結することで皮膜の骨格中に気孔を形成することができるが、上記粒子を含むスラリーに焼失性の造孔材を添加したものを焼結すると、造孔材が焼失した部分が気孔となるので、以下に述べるように内側多孔質層21を高い気孔率にすることができ、好ましい。造孔材としては、例えばカーボン、樹脂製ビーズ、有機又は無機バインダの粒子を用いることができる。
又、後述する画像解析で求めた内側多孔質層21の気孔率を50〜75%とすると、上記した効果が得られ易いので好ましい。内側多孔質層21の気孔率が50%未満であると、内側多孔質層21のガス拡散抵抗が高くなる傾向にあり、75%を超える皮膜を製造することが難しくなることがある。
又、内側多孔質層21の厚みは、20〜800μmとすると好ましい。
【0041】
外側多孔質層23は、例えばアルミナ、スピネル、ジルコニア、ムライト、ジルコン及びコージェライトの群から選ばれる1種以上のセラミック粒子を焼成等により結合して形成することができる。これらの粒子を含むスラリーを焼結することで、セラミック粒子間の隙間や、スラリー中の有機又は無機バインダが焼失する際に、皮膜の骨格中に気孔が形成される。
又、後述する画像解析で求めた外側多孔質層23の気孔率を30〜50%とすると、被毒物質や水滴のバリア性を確保しつつガス透過性を低下させないので好ましい。外側多孔質層23の気孔率が30%未満であると被毒物質によって目詰まりし易く、50%を超えると水が外側多孔質層23内部に浸入して耐被水性が低下することがある。
又、外側多孔質層23の厚みは、100〜800μmとすると好ましい。
【0042】
拡散抵抗部115も、例えばアルミナ、ジルコニア、の群から選ばれる1種以上のセラミック粒子を焼成等により結合して形成することができる。これらの粒子を含むスラリーを焼結することで、セラミック粒子間の隙間や、スラリー中の有機又は無機バインダが焼失する際に、皮膜の骨格中に気孔が形成される。なお、拡散抵抗部115は、公知の製造方法のように、ガスセンサ素子100(検出素子部200)の焼成前に、各層と同時に積層し、一体で焼成することで形成される。
又、画像解析で求めた拡散抵抗部115の気孔率を40〜55%とすると、ガス透過性を低下せず、センサ出力が小さくならないので好ましい。拡散抵抗部115の気孔率が40%未満であるとガス透過性が低下してセンサ出力が小さくなり、55%を超えるとガス拡散を律速しにくくなり、限界電流が生じにくくなることがある。
又、拡散抵抗部115の厚みは、10〜50μmとすると好ましい。
【0043】
拡散抵抗部115、内側多孔質層21及び外側多孔質層23の気孔率は、次のようにして決定される。
まず、断面写真(SEM像)に基づき、拡散抵抗部115、内側多孔質層21及び外側多孔質層23のそれぞれ複数位置にて、2値化を市販の画像解析ソフトを用いて行い、断面写真の黒色部の割合を求めてゆく。断面写真の黒色部は気孔に対応し、白色部は皮膜の骨格に対応するので、黒色部が多いほど気孔率が大きいことを示す。
そして、それぞれ拡散抵抗部115、内側多孔質層21及び外側多孔質層23の上記複数位置で画像解析を行って得た気孔率を平均化し、それぞれの層の気孔率を求めた。
【0044】
又、上記した最大気孔径CDIF及び気孔径CIN、COUTの測定方法は、断面写真(SEM像)における100μm×100μmの領域を複数取得し、2値化を市販の画像解析ソフトを用いて行い、領域の黒色部の径を求めてゆく。黒色部の径とは、黒色部を円近似してその径を算出する。
【0045】
又、第1の実施形態においては、内側多孔質層21及び外側多孔質層23の両方が積層体の先端部の全周を被覆している。内側多孔質層21の気孔率を外側多孔質層23の気孔率より高くしているため、内側多孔質層21を検出素子部300とヒータ部200との積層体の先端部の全周に被覆することで、積層体側の内側多孔質層21の空隙の合計体積がより大きくなって断熱性がより高まり、外側多孔質層23側が被水して冷却されてもガスセンサ素子100が急冷され難くなる。よって、ヒータ部200によって検出素子部300を加熱した状態でもガスセンサ素子100が被水によって損傷するのをより効果的に抑制できるという効果がある。
【0046】
なお、内側多孔質層21と外側多孔質層23との間に別の多孔質層を設けてもよく、外側多孔質層23より外側に別の多孔質層を設けてもよい。
【0047】
内側多孔質層21及び外側多孔質層23の製造方法としては、内側多孔質層21及び外側多孔質層23となるスラリーを順にディップ法等で塗布して焼結してもよい。この場合、内側多孔質層21となるスラリーを塗布して焼結後に、外側多孔質層23となるスラリーを塗布して焼結してもよい。又、それぞれ内側多孔質層21及び外側多孔質層23となるスラリーを順に塗布して一度に焼結してもよい。
又、溶射法や印刷法、スプレー法によって内側多孔質層21及び外側多孔質層23を製造してもよい。さらには、内側多孔質層21と外側多孔質層23とを、ディップ法、溶射法、印刷法やスプレー法のうち別々の方法にて形成しても良い。
【0048】
図6は、第1の実施形態におけるガスセンサ素子100の変形例を示す。なお、図6のガスセンサ素子100Bにおいて、検出素子及びヒータは第1の実施形態と同一(図2の酸素センサ素子)であるので、説明を省略する。
ガスセンサ素子100Bにおいては、内側多孔質層21Bが積層体の先端部の全周を被覆せず、拡散抵抗部115の周囲のみを覆っている。一方、外側多孔質層23は積層体の先端部の全周を被覆している。図6の例においても、内側多孔質層21Bの気孔率は外側多孔質層23Bの気孔率より高く、内側多孔質層21Bの気孔率は拡散抵抗部115の気孔率より高く、かつ内側多孔質層21Bにおける複数の領域のそれぞれには、拡散抵抗部115の最大気孔径CDIFよりも大きい気孔径CINが存在する。このため、第1の実施形態と同様、内側多孔質層21Bに大径の気孔(図10(a)の分子拡散をもたらす気孔)が確実に存在することとなり、内側多孔質層21Bのガス拡散抵抗が確実に大きくなり、測定室107cへガスが拡散(導入)され易くなってセンサ出力の低下を抑制することができる。
【0049】
次に、図7を参照し、本発明の第2の実施形態に係るガスセンサ(NOxセンサ)について説明する。但し、第2の実施形態に係るガスセンサは、ガスセンサ素子100C、内側多孔質層21C、及び外側多孔質層23Cの構成が異なること以外は第1の実施形態に係るガスセンサと同様であるので、ガスセンサ素子100Cを保持する主体金具等の説明及び図示を省略する。
NOxセンサは、酸素センサに比べてセンサ出力値が小さいため、測定室へガスが拡散(導入)され難くなってセンサ出力が低下する場合の影響が、酸素センサに比べて大きい。そこで、第2実施形態のように、内側多孔質層21C、外側多孔質層23CをNOxセンサ素子の積層体の表面上に設けることで本発明がより有効となる。
【0050】
ガスセンサ素子(NOxセンサ素子)100Cは細長で長尺な板状をなし、3層の板状の固体電解質体109C,105C,151を、これらの間にアルミナ等からなる絶縁体180,185をそれぞれ挟んで層状に形成した構造を有し、これらの積層構造が検出素子部300Cを構成する。また、固体電解質体151側の外層(図1における固体電解質体105Cと反対側)には、アルミナを主体とするシート状の絶縁層103C,101Cを積層し、その間にPtを主体とするヒータパターン102Cを埋設したヒータ部200Cが設けられている。
固体電解質体109C,105C,151は、固体電解質であるジルコニアからなり、酸素イオン伝導性を有する。
【0051】
検出素子部300Cは、以下の第1ポンプセル(Ip1セル)140C、酸素濃度検出セル(Vsセル)130C、第2ポンプセル(Ip2セル)150を備える。このうち、第1ポンプセル140C、酸素濃度検出セル130Cがそれぞれ特許請求の範囲の「セル」に相当する。
第1ポンプセル140Cは、第2固体電解質体109Cとその両面に形成された第3電極108Cと第4電極110Cから形成されている。また、第4電極110Cの表面上にはセラミックスからなる多孔質性の保護層114が設けられており、第4電極110Cが排気ガスに含まれる被毒性ガス(還元雰囲気)に晒されることにより電極が劣化しないように保護している。
第1ポンプセル140Cは、第2固体電解質体109Cを介して、後述する第1測定室107c2と外部との間で、酸素の汲み出しおよび汲み入れ(いわゆる酸素ポンピング)を行う点で、酸素ポンプセル140と同様な機能を有する。
【0052】
酸素濃度検出セル130Cは、第1固体電解質体105Cとその両面に形成された第1電極104Cと第2電極106Cから形成されている。酸素濃度検出セル130Cは、固体電解質体105Cにより隔てられた第1測定室107c2と後述する基準酸素室170との間の酸素分圧差に応じて起電力を発生することができる。
【0053】
また、固体電解質体109Cと固体電解質体105Cとの間には小空間としての中空の第1測定室107c2が形成されており、第2電極106C及び第3電極108Cが第1測定室107c2内に配置されている。この第1測定室107c2は、測定対象ガスが外部からガスセンサ素子100C内に最初に導入される小空間であり、特許請求の範囲の「測定室」に相当する。
第1測定室107c2のガスセンサ素子100Cにおける先端側には、第1測定室107c2と外部との間に介在し、第1測定室107c2内への測定対象ガスの拡散を調整する多孔質性の第1拡散抵抗部115Cが設けられている。第1拡散抵抗部115Cが特許請求の範囲の「拡散抵抗部」に相当する。
【0054】
さらに、第1測定室107c2のガスセンサ素子100Cにおける後端側にも、後述する第2測定室160につながる開口部181と第1測定室107c2との仕切りとして、ガスの拡散を調整する第2拡散抵抗部117が設けられている。なお、第2測定室160は、測定対象ガスが外部から直接導入されないので、特許請求の範囲の「測定室」に相当しない。又、第2拡散抵抗部117は、第1測定室107c2と外部との間に介在しないので、特許請求の範囲の「拡散抵抗部」に相当しない。
一方、第2電極106C及び第3電極108Cが、それぞれ特許請求の範囲の「一方の電極」に相当する。
【0055】
さらに、ガスセンサ素子100Cは、第3固体電解質体151、第5電極152、第6電極153から形成される第2ポンプセル150を備えている。ここで、第3固体電解質体151は、絶縁体185を挟んで固体電解質体105Cと対向するように配置されている。又、第5電極152が形成された位置には絶縁体185が配置されておらず、独立した空間としての基準酸素室170が形成されている。この基準酸素室170内には、酸素濃度検出セル130Cの第1電極104Cも配置されている。尚、基準酸素室170内には、セラミック製の多孔質体が充填されている。また、第6電極153が形成された位置にも絶縁体185が配置されておらず、基準酸素室170との間に絶縁体185を隔て、独立した小空間としての中空の第2測定室160が形成されている。そして、この第2測定室160に連通するように、固体電解質体105Cおよび絶縁体180のそれぞれに開口部125,141が設けられており、前述したように、第1測定室107c2と開口部181とが、これらの間に第2拡散抵抗部117を挟んで接続されている。
第2ポンプセル150は、絶縁体185により隔てられた基準酸素室170と第2測定室160との間で酸素の汲み出しを行うことができる。
なお、第2酸素ポンプセル150の第5電極152、第6電極153は第1測定室107c2に臨まないので、特許請求の範囲の「セル」に相当しない。
【0056】
又、検出素子部300Cとヒータ部200Cとの積層体の表面直上に内側多孔質層21Cが設けられ、内側多孔質層21Cの外表面を覆って外側多孔質層23Cが形成されている。すなわち、多孔質保護層20(内側多孔質層21C及び外側多孔質層23C)は、ガスセンサ素子100Cの先端側の全周を覆って設けられている。
なお、NOxセンサ素子であるガスセンサ素子100Cの場合、第1測定室107c2の後端側に他の測定室(第2測定室160)が連通しているため、多孔質保護層20は、第2測定室160の後端より後端側まで延びている。
又、多孔質保護層20は、ガスセンサ素子100C(積層体)の表裏面及び両側面の4面を完全に囲んで形成されているのは第1の実施形態と同様である。
【0057】
第2の実施形態においても、内側多孔質層21Cの気孔率は外側多孔質層23Cの気孔率より高く、内側多孔質層21Cの気孔率は拡散抵抗部115Cの気孔率より高く、かつ内側多孔質層21Cにおける複数の領域のそれぞれに拡散抵抗部115Cの最大気孔径CDIFよりも大きい気孔径CINが存在する。このため、第1の実施形態と同様、内側多孔質層21Cに大径の気孔(図10(a)の分子拡散をもたらす気孔)が確実に存在することとなり、内側多孔質層21Cのガス拡散抵抗が確実に大きくなり、第1測定室107c2へガスが拡散(導入)され易くなってセンサ出力の低下を抑制することができる。
さらに、ガスセンサ素子100Cの場合、内側多孔質層21C及び外側多孔質層23Cが積層体の先端部の全周を被覆しているため、内側多孔質層21Cの気孔率を外側多孔質層23Cの気孔率よりも高くしているため、ガスセンサ素子100Cの断熱性が高くなり、外側多孔質層23C側が被水して冷却されてもガスセンサ素子100Cが急冷され難くなる。よって、ヒータ部200Cによって検出素子部300Cを加熱した状態でもガスセンサ素子100Cが被水によって損傷するのをより効果的に抑制できるという効果がある。
【0058】
次に、NOxセンサ素子100CによるNOx濃度の検出動作を簡単に説明する。まず、電極104C、106C間の電位差が425mV付近で一定となるように、第1ポンプセル140Cにて第1測定室107c2と外部との間で酸素の汲み出し又は汲み入れを行う。
このように、第1測定室107c2において酸素濃度が調整された排気ガスは、第2拡散抵抗部117を介し、第2測定室160内に導入される。第2測定室160内で第6電極153と接触した排気ガス中のNOxは、第6電極153を触媒としてNとOに分解(還元)される。そして分解された酸素は、第6電極153から電子を受け取り、酸素イオンとなって第3固体電解質体151内を流れ、第5電極152に移動する。このとき、第1測定室107c2で汲み残された残留酸素も同様に、Ip2セル150によって基準酸素室170内に移動する。このため、Ip2セル150を流れる電流は、NOx由来の電流および残留酸素由来の電流となる。
ここで、第1測定室107c2で汲み残された残留酸素の濃度は上記のように所定値に調整されているため、その残留酸素由来の電流は略一定とみなすことができ、NOx由来の電流の変動に対し影響は小さく、Ip2セル150を流れる電流はNOx濃度に比例することとなる。
【0059】
本発明は上記実施形態に限定されず、固体電解質体と一対の電極とを有する検出素子部及びヒータ部を有するあらゆるガスセンサ(ガスセンサ素子)に適用可能であり、本実施の形態の酸素センサ(酸素センサ素子)やNOxセンサ(NOxセンサ素子)に適用することができるが、これらの用途に限られず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。例えば、HC濃度を検出するHCセンサ(HCセンサ素子)等に本発明を適用してもよい。
【実施例】
【0060】
実施例1のガスセンサ素子について説明する。
図7に示す板状のガスセンサ素子(NOxセンサ素子)100Cの先端側の表面(表裏面及び両側面)に、内側多孔質層21Cとなる下記のスラリーAを適当な粘度になるように調整し、ディップ(浸漬)法で200μmの厚みになるよう塗布した。その後、スラリーA中の余分な有機溶剤を揮発させるため、200℃に設定した乾燥機で数時間乾燥し、大気中、1100℃で3時間の条件で内側多孔質層21Cを焼成した。
スラリーA:アルミナ粉末40vol%(平均粒径0.1μm)、カーボン粉末(平均粒径20.0μm)60vol%、アルミナゾル(外配合)10wt%を秤量し、さらに有機溶剤を添加して攪拌して調製した。なお、平均粒径は、レーザ回折散乱法により求めた。
【0061】
次に、内側多孔質層21Cの表面に、外側多孔質層23Cとなる下記のスラリーBを適当な粘度になるように調整し、ディップ(浸漬)法で150μm以上の各種厚み(図9参照)になるよう塗布した。その後、スラリーB中の余分な有機溶剤を揮発させるため、200℃に設定した乾燥機で数時間乾燥し、大気中、1100℃で3時間の条件で外側多孔質層23Cを焼成した。
スラリーB:アルミナ粉末20vol%(平均粒径0.1μm)、スピネル粉末(平均粒径40.0μm)80vol%、アルミナゾル(外配合)10wt%を秤量し、さらに有機溶剤を添加して攪拌して調製した。
【0062】
なお、拡散抵抗部115Cは、アルミナ粉末100質量%及び可塑剤を湿式混合により分散したスラリーを用意した。可塑剤はブチラール樹脂及びDBPからなる。このスラリーを用い、公知の製造方法と同様に、ガスセンサ素子100Cの焼成前に、各層と同時に積層し、一体で焼成することで形成した。
【0063】
得られた拡散抵抗部115C、内側多孔質層21C及び外側多孔質層23Cを含むガスセンサ素子100Cを積層方向に直交する向きに切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影し、断面写真を得た。
得られた断面写真に基づき、拡散抵抗部115C、内側多孔質層21C及び外側多孔質層23Cの画像解析を行い、断面写真に占める黒色部の割合を求めた。個々の画像解析は100×100μmの領域を4箇所とって行い、気孔率は4個の領域の気孔率を平均した値を採用した。また、内側多孔質層21Cにおける複数の領域のそれぞれに拡散抵抗部115Cの最大気孔径CDIFよりも大きい気孔径CINが存在するかどうか確認した。なお、拡散抵抗部115Cの最大気孔径CDIFの求め方は、上述した通り、4個の領域に含まれる気孔の中から選ばれる最大気孔径である。
このようにして、拡散抵抗部115C、内側多孔質層21C及び外側多孔質層23Cの気孔率(平均気孔率)、及び気孔径CINの存在を決定した。
【0064】
なお、内側多孔質層21C及び外側多孔質層23Cを積層体の先端部全周に形成したものを実施例1とし、内側多孔質層21Cを拡散抵抗部115Cの周囲のみに形成したもの(図6に相当)を実施例2とした。
又、比較例1として、図7に示す板状のガスセンサ素子(NOxセンサ素子)100Cの先端側の表面(表裏面及び両側面)に、スラリーBのみを用いて1層の多孔質保護層を焼成したこと以外は、上記実施例1と同様にしてNOxセンサ素子を製造した。
そして、実施例2、比較例1においても、実施例1と同様に、得られたガスセンサ素子100Cを積層方向に直交する向きに切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影し、拡散抵抗部115C、内側多孔質層21C及び外側多孔質層23Cの気孔率(平均気孔率)(比較例2の場合は、多孔質保護層の気孔率)、及び気孔径CINの存在を決定した。
【0065】
以上のようにして得られた多孔質保護層を含む実施例1、2、比較例1のガスセンサ素子を組み付けてガスセンサ(NOxセンサ)を製造し、センサ素子温度を700℃にした状態でセンサ出力を測定した。
なお、多孔質保護層を形成せずに拡散抵抗部115Cが直接外部に接するガスセンサ素子を別途作製してガスセンサに組み付け、同様にセンサ出力を測定し、ベースセンサ出力とした。そして、以下の式:
(センサ出力の変化率)={(各ガスセンサのセンサ出力)−(ベースセンサ出力)}/ベースセンサ出力)×100
によってセンサ出力の変化率を求めた。センサ出力の変化率が0に近いほど、拡散抵抗部115Cに接する内側多孔質層21Cのガス拡散抵抗が小さく、測定室107cへガスが拡散(導入)され易くなってセンサ出力の低下が抑制されたことを示す。
得られた結果を表1、図8に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1、図8から明らかなように、内側多孔質層21C及び外側多孔質層23Cを設け、内側多孔質層21Cの気孔率を外側多孔質層23Cの気孔率より高くし、内側多孔質層21Cの気孔率を拡散抵抗部115Cの気孔率より高くし、かつ内側多孔質層21Cにおける複数の領域のそれぞれに拡散抵抗部115Cの最大気孔径CDIFよりも大きい気孔径CINが存在する実施例1,2の場合、センサ出力の変化が−1.8%(平均)、−1.1%(平均)と小さくなった。
なお、実施例1にて、内側多孔質層21Cの厚みを20〜270μmまで変化させ、内側多孔質層21Cと外側多孔質層23Cの合計厚みを400μmとして同様にセンサ出力の変化を測定したところ、実施例1と同等であった。
【0068】
一方、多孔質保護層を1層とし、この層(内側多孔質層21Cに相当)における複数の領域の一部にしか拡散抵抗部115Cの最大気孔径CDIFよりも大きい気孔径CINが存在しない比較例1の場合、センサ出力の変化が−12.2%(平均)と大きくなった。
【0069】
次に、実施例1及び比較例2のガスセンサ素子を用い、被水試験を行った。
なお、比較例2としては、スラリーBにて形成した多孔質保護層で積層体の先端部全周を覆い、その上にスラリーAで多孔質保護層を形成したこと以外は、上記実施例1と同様にしてNOxセンサ素子を製造した。
まず、大気中、センサ素子温度800℃にて、多孔質保護層の上から拡散抵抗部115Cの位置にそれぞれ3μL、10μLの水滴を20回滴下した。滴下後、拡大鏡にて多孔質保護層の外観を観察し、多孔質保護層の外表面の損傷の有無を目視で判定した。更に、多孔質保護層を剥がし、レッドチェック(赤色の浸透液を表面に塗布する探傷法)によりガスセンサ素子のクラックの有無を目視で判定した。そして、この多孔質保護層の損傷の有無及びクラックの有無について、実施例1及び比較例2を10本づつ確認し、それぞれの本数を示した。
得られた結果を表2に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
表2から明らかなように内側多孔質層21Cを積層体の先端部全周に設け、その表面に外側多孔質層23Cを設けた実施例1の場合、被水試験を行っても多孔質保護層の損傷、及びガスセンサ素子100Cのクラックが見られず、耐被水性が優れていた。
一方、内側多孔質層の気孔率が外側多孔質層の気孔率より低い比較例2の場合、被水試験を行ったときに各多孔質保護層が損傷し、また、ガスセンサ素子のクラックも見られ、耐被水性が劣った。
【符号の説明】
【0072】
1 ガスセンサ
20 多孔質保護層
21、21B、21C 内側多孔質層
23、23B、23C 外側多孔質層
30 ハウジング
104、106、108、110、104C、106C、108C、110C
一対の電極
106、108、106C、108C 一方の電極
107c、107c2 測定室
105、105C、109、109C 固体電解質体
100、100B、100C ガスセンサ素子
115、115c 拡散抵抗部
200、200C ヒータ部
300、300C 検出素子部
L 軸線方向
〜a、b〜b 100μm×100μmの領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質体と該固体電解質体に配置された一対の電極とを有するセルを少なくとも1つ設けた検出素子部、及び、絶縁セラミック体に通電により発熱するヒータを設けてなるヒータ部を積層してなる積層体であって、
前記積層体の先端側内部に形成され、拡散抵抗部を介して測定対象ガスを外部から導入し、前記一対の電極のうち一方の電極が臨む測定室を備える積層体と、
前記積層体のうち先端側部位の全周を被覆してなる多孔質保護層と、を備えるガスセンサ素子において、
前記多孔質保護層は、前記拡散抵抗部の外側に配置され、少なくとも該拡散抵抗部を覆う内側多孔質層と、前記内側多孔質層よりも外側に形成され、前記積層体のうち先端側部位の全周を被覆する外側多孔質層と、を備え、
前記内側多孔質層の気孔率は前記外側多孔質層の気孔率より高く、
前記内側多孔質層の気孔率は前記拡散抵抗部の気孔率より高く、
前記拡散抵抗部及び前記内側多孔質層のそれぞれの断面の走査電子顕微鏡像における複数の100μm×100μmの領域を見たときに、前記拡散抵抗部で最も大きい気孔径をCDIFとしたとき、前記内側多孔質層における複数の前記領域のそれぞれには、前記CDIFよりも大きい気孔径が存在するガスセンサ素子。
【請求項2】
前記内側多孔質層は、前記積層体の前記先端部の全周を被覆する請求項1に記載のガスセンサ素子。
【請求項3】
前記ガスセンサ素子は、第1測定室の内部と外部に位置すると共に、第1固体電解質層上に設けられた一対の第1電極を有し、前記第1測定室に導入される被測定ガス中の酸素の汲み出し又は汲み入れを行う第1ポンプセルと、前記第1測定室に連通するNOx測定室の内部と外部に位置すると共に、第2固体電解質層上に設けられた一対の第2電極を有し、前記第1測定室から前記NOx測定室に流入され、酸素濃度が調整されたガス中のNOx濃度に応じた第2ポンピング電流が前記一対の第2電極間に流れる第2ポンプセルとを備えたNOxセンサ素子であり、
前記セルが前記第1ポンプセルであり、前記測定室が前記第1測定室である請求項1又は2に記載のガスセンサ素子。
【請求項4】
被測定ガス中の特定ガス成分の濃度を検出するセンサ素子と、該センサ素子を保持するハウジングとを備えるガスセンサにおいて、
前記センサ素子は、請求項1〜3のいずれかに記載のガスセンサ素子を用いることを特徴とするガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−96792(P2013−96792A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238736(P2011−238736)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)