説明

ガスセンサ

【課題】薄膜ヒータのオンオフに伴いベースに働く熱応力を、緩和する。
【解決手段】半導体基板のキャビティ8に、中心に孔11を備えかつ薄膜ヒータを有する絶縁膜7を配置する。孔11から見た絶縁膜7の一端とその反対側の端部との間に、孔11の周囲を取り巻きかつ折り返すように薄膜ヒータが配置され、薄膜ヒータの各部は互いに直列に接続されている。孔の一方で他方に比べて薄膜ヒータの配線12が1本少なく、孔の一方に薄膜ヒータと同材質でかつヒータ電流が流れないダミーの配線16,17が1本設けられている。
【効果】薄膜ヒータのオンオフに伴う熱応力を緩和できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はガスセンサに関し、特に半導体基板の空洞上の薄膜を用いたガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
発明者らは、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)型の接触燃焼式ガスセンサにおいて、絶縁膜と薄膜ヒータとから成り酸化触媒を支持するベースに孔を設けると、ガス感度が向上することを見出した(特願2010-17184)。なおベースは絶縁膜と薄膜ヒータとから成り、ベースを酸化触媒、補償用のセラミック、金属酸化物半導体等で被覆したものが感ガス体である。ここで、孔の周囲を取り巻くように薄膜ヒータを配線すると、配線を孔の両側に並列に2本に分けない場合、孔の片方で配線の本数が奇数本となり、他方で偶数本となり、配線数が孔の両側で不揃いになることが分かった。ベースは絶縁体と金属の薄膜ヒータとから成り、絶縁体の酸化タンタル、シリカ等と、ヒータのPt等では熱膨張率が相違する。この種のガスセンサは、消費電力を小さくするため、間欠的に動作温度に加熱し、他は室温に放置するのが原則である。ガスセンサを温度変化させると、孔の両側でベースの熱膨張率が異なるため、大きな熱応力が生じ、ベースにクラックが生じる、ベースと半導体基板とを接続する脚が折れる、などの可能性がある。
【0003】
関連する先行技術を示す。特許文献1:JP3724443Bは、MEMS型のガスセンサでのダイアフラムに、電極リードとヒータリードとの他に、ダミーの電極リードとヒータリードとを設け、電極リードとダミーの電極リードを対称に、ヒータリードとダミーのヒータリードを対称に配置することを開示している。特許文献2:JP2010-25734Aは、ベースと半導体基板とを接続する4本の脚の2本に本来のリードを、他の2本にダミーのリードを配置することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】JP3724443B
【特許文献2】JP2010-25734A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の課題は、薄膜ヒータのオンオフに伴いベースに働く熱応力を、緩和することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、半導体基板のキャビティに薄膜ヒータを有する絶縁膜を配置したガスセンサにおいて、
前記絶縁膜は平面視での中心に孔を備え、
前記孔から見た絶縁膜の一端とその反対側の端部との間に、孔の周囲を取り巻きかつ折り返すように薄膜ヒータが配置され、薄膜ヒータの各部は互いに直列に接続され、さらに孔の一方で他方に比べて薄膜ヒータの配線が1本少なく、
前記孔の一方に、前記薄膜ヒータと同材質でかつヒータ電流が流れないダミーの配線が少なくとも1本設けられていることを特徴とする。
【0007】
この発明では孔の両側で薄膜ヒータの本数が等しいので、ベースの熱膨張率は孔の両側で均等となる。従ってベースに働く熱応力は孔の両側で均等で、ベースのクラックあるいは脚の破損等の原因となることはない。
【0008】
ガスセンサは、SnO等の金属酸化物半導体を、厚膜あるいは薄膜として備えた、金属酸化物半導体ガスセンサでも良い。しかし好ましくは、接触燃焼式ガスセンサ、即ち、絶縁膜が可燃性ガスの酸化触媒で被覆され、薄膜ヒータの抵抗値の変化から可燃性ガスを検出するセンサとする。接触燃焼式ガスセンサでベースに孔を開けると、酸化触媒への雰囲気の供給量が増し、ガス感度が増加するので、ベースに孔を設けることに特に意義がある。

【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例のガスセンサでのヒータ配線を示す要部平面図
【図2】図1のII-II方向断面図
【図3】変形例のガスセンサでのヒータ配線を示す要部平面図
【図4】第2の実施例でのヒータ配線を示す要部平面図
【図5】図4の実施例を変形したヒータ配線を示す要部平面図
【図6】金属酸化物半導体を用いた実施例の要部断面図
【図7】図6のガスセンサでの電極パターンを示す要部平面図
【図8】変形例での電極パターンを示す要部平面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0011】
図1〜図8に、実施例の接触燃焼式ガスセンサ2とその変形とを示す。4は半導体基板で、例えばシリコンあるいはGaAsなどから成り、5はベースで、絶縁膜6とヒータ配線12とから成る薄膜ヒータとで構成されている。またベース5の中心部に孔11が設けられ、ベース5は、基板4に設けたキャビティ8上に配置され、例えば4本の脚9,9,10,10で支持されている。さらにベース5の絶縁膜6と同じ絶縁膜7が、基板4上に設けられている。
【0012】
絶縁膜6,7は例えば酸化タンタルから成り、シリカ、窒化珪素などでもよく、ベース5側から基板4にキャビティ8を設ける代わりに、基板4の裏面から孔を設けて、ベース5をダイヤフラム状にしてもよい。その場合、脚9,10は設けない。またヒータ配線12は、例えば膜厚200nm程度のPtから成り、膜厚及び組成は任意である。
【0013】
14,14はパッドで、ヒータ配線12の両端に接続され、ヒータ配線12は孔11から見て左側と下側とで各2本で、右側と上側とで各3本である。これは孔11を取り巻くようにヒータ配線12を設けると、配線の本数が孔11の一方で奇数本、他方で偶数本となるためである。そこでヒータ配線12の本数が少ない側にダミーパターン16,17を設け、ダミーパターン16Pは孔11の左側での配線の本数を3本にし、ダミーパターン16r,17は孔11の下側での配線の本数を3本にする。このため折り返し18,18を除き、孔11の四方いずれの側でも配線の本数は3本となる。なおダミーパターン16,17の膜厚、線幅、組成などは例えばヒータ配線12と同一とし、例えば同じマスクを用いて同時に成膜する。またダミーパターン16,17は電流が流れない配線で、図1の破線で示すダミーパターン16d,17dを追加し、ヒータ配線12に接続しても良い。
【0014】
ここではヒータ配線12の本数が孔11の一方で3本、他方で2本であったが、3本と4本、4本と5本、あるいは5本と6本、などのように配線することもできる。いずれの場合も、孔11の周囲をヒータ配線12が取り巻き、かつヒータ配線12の各部が直列に接続されるようにすると、一方の本数が他方の本数よりも1本少なくなる。これを補うようにダミーパターン16,17を設ける。またダミーパターン16,17はヒータ電流が流れないが、ヒータ配線12と絶縁する必要もない。例えばダミーパターン16,17の一端をヒータ配線12に接続してもよい。
【0015】
図2に、ガスセンサ2の断面構造を示し、ヒータ配線12とダミーパターン16,17は保護膜19で覆われ、保護膜19の材質は例えば酸化タンタルあるいはシリカなどである。そしてベース5を覆うように、メタン酸化触媒などの酸化触媒の厚膜で被覆する。実施例では接触燃焼式ガスセンサの検知片の部分を示すが、補償片も同様であり、補償片は別の半導体基板に設けても、あるいは同じ半導体基板4上に設けてもよい。補償片に対しても同様にダミーパターン16,17を設け、酸化触媒20に代えて、触媒活性の低い材質で被覆する以外は全く同じである。
【0016】
図3は変形例でのヒータ配線32とダミーパターン36とを示し、35は新たなベースである。ヒータ配線32は、孔11の左側と下側で3本で、右側と上側とで2本である。そこでベース35の右側と上側とに、例えばL字状のダミーパターン36を設け、孔11の四方いずれの側でも配線の本数を3本に揃える。他の点は図1,図2の実施例と同じである。
【0017】
図4,図5は円形のベース45,55を示し、特に指摘した点以外は、図1〜図3の実施例及び変形例と共通である。図4では、ヒータ配線42は孔41の左側で2本、右側で3本となるので、左側にダミーパターン46を1本設ける。図5では、ヒータ配線52は孔41の左側で3本、右側で2本となるので、右側にダミーパターン56を設ける。ここで配線の本数は、平行に配置された配線の数である。
【0018】
図1〜図5では、接触燃焼式ガスセンサの例を示したが、金属酸化物半導体ガスセンサでもよい。このような例を図6〜図8に示し、図6,図7の例では、保護膜19上に一対の電極60,62を設ける。そしてベース5の周囲を、SnOなどの金属酸化物半導体64で被覆する。必要であれば金属酸化物半導体64の周囲をさらにフィルタで被覆する。図では金属酸化物半導体64を厚膜として示すが、薄膜でも良い。図7に図6のセンサの平面配置を示し、一対の電極60,62は孔11の周囲に対称に配置できる。従ってダミーの電極は必要ではない。図8は円形のベースでの例を示し、電極70,72は孔41の周囲に対称に対置できる。従ってダミーの電極は必要ではない。図6〜図8の場合も、薄膜ヒータにダミーパターン16,17等を設ける。
【0019】
実施例では以下の効果が得られる。孔11,41の周囲四方に対し、ヒータ配線12とダミーパターン16,17とを合計で同じ本数ずつ配置できる。この結果、ガスセンサを間欠的に加熱した際に、孔11の四方で、ベース5,45,55の熱膨張率が均等になる。従ってベース5,45,55に働く熱応力あるいは熱衝撃を小さくし、ベースへのクラックの発生を防止でき、またベースの不均等な変形に伴う脚9,10の破損を防止できる。なおベース5での発熱の分布自体よりも、各種の材質が均等に配置され、熱膨張率の分布が均一に近いことが、熱応力の均一化に重要であると、経験的に推定できる。

【符号の説明】
【0020】
2 接触燃焼式ガスセンサ
4 半導体基板
5 ベース
6,7 絶縁膜
8 キャビティ
9,10 脚
11 孔
12 ヒータ配線
14 パッド
16,17 ダミーパターン
18 折り返し
19 保護膜
20 酸化触媒
22 貫通孔
32 ヒータ配線
35 ベース
36 ダミーパターン
41 孔
42,52 ヒータ配線
45,55 ベース
46,56 ダミーパターン
60,62 電極
64 金属酸化物半導体
70,72 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板のキャビティに薄膜ヒータを有する絶縁膜を配置したガスセンサにおいて、
前記絶縁膜は平面視での中心に孔を備え、
前記孔から見た絶縁膜の一端とその反対側の端部との間に、孔の周囲を取り巻きかつ折り返すように薄膜ヒータが配置され、薄膜ヒータの各部は互いに直列に接続され、さらに孔の一方で他方に比べて薄膜ヒータの配線が1本少なく、
前記孔の一方に、前記薄膜ヒータと同材質でかつヒータ電流が流れないダミーの配線が少なくとも1本設けられていることを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
前記絶縁膜が可燃性ガスの酸化触媒で被覆され、前記薄膜ヒータの抵抗値の変化から可燃性ガスを検出するセンサであることを特徴とする、請求項1のガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−98232(P2012−98232A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248140(P2010−248140)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000112439)フィガロ技研株式会社 (58)
【Fターム(参考)】