説明

ガスタービンの動翼冷却構造

【課題】フロントシールへ流入する二次空気の周方向速度をエネルギロスなしに増速することができ、これにより、エネルギロスを大幅に低減することができるガスタービンの動翼冷却構造を提供する。
【解決手段】二次空気6を旋回流7に変換してフロントシール側に噴射するプレスワールダクト12と、プレスワールダクト12とフロントシール3との間に静止して位置し、旋回流7の旋回半径を減少させてフロントシール側に噴射する加速ダクト14とを備え、角運動量保存の法則によって、旋回半径を減少させた分に相当して旋回流7の周方向速度をエネルギロスなしに増速する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギロスを低減するガスタービンの動翼冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、従来のガスタービンの動翼冷却構造を示す模式図である。この図において、回転系は動翼1、ディスク2及びフロントシール3からなり、静止系は、静翼4及びプレスワールダクト5からなる。
プレスワールダクト(Pre−swirl duct)は、高圧の圧縮機(図示せず)から供給される二次空気6を旋回させてフロントシール3に供給するダクトである。
【0003】
高温の燃焼ガスに曝される動翼1を冷却するために、二次空気6を高圧の圧縮機最終段から導き、静止系のプレスワールダクト5と回転系のフロントシール3を介してディスク前側に二次空気6を供給するようになっている。
【0004】
図2は、静止系のプレスワールダクト5と回転系のフロントシール3の位置関係を示す図である。この図は、図1のA−A線における矢視図に相当する。
図2において、フロントシール3において二次空気6を取り込む貫通穴3aの形状は、圧力損失を少なくするために通常円形穴3aが採用される。また、エンジン定格点で二次空気6と貫通穴3aの相対角度がゼロ、すなわち周方向速度が同一になるように、プレスワールダクト5の噴射穴5aから二次空気6を流出させることが理想的である。
【0005】
この目的を達成するために、従来から種々のプレスワールダクトが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,822,244号公報、「TOBI」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図3、図4は、従来のプレスワールダクト5の具体例であり、図3はガイド翼構造、図4は斜め穴構造を示している。
図3のガイド翼構造の場合、二次空気6の流れ角を与える構造は板金のガイド翼5bであり、製造上加工できるガイド翼5bの最小の高さh、幅bが制限される。
また、図4の斜め穴構造の場合、二次空気6の流れ角を与える構造は機械加工による斜め穴5cによって形成され、製造上加工できる斜め穴5cの最小の穴径dが制限される。
従って、従来のプレスワールダクト5では、流れ角を与える設定角度と断面積に制約があり、流出速度に制約があった。
【0008】
すなわち、プレスワールダクト5による二次空気6の周方向流出速度は、流出角度および流出速度によって決まるが、実際の設計では製造上の制約から、二次空気6の周方向流出速度をフロントシール3の貫通穴3aの周方向速度まで、増加させることは不可能であり、速度差が必ず生じてしまう。その結果、運動エネルギの差によってフロントシール3を介して回転系がする仕事が増え、タービン効率が低下する問題点があった。
【0009】
図5は、上記速度差によるエネルギロスの説明図である。この図において、(A)はプレスワールダクト5とフロントシール3の間の二次空気の流れの位置関係、(B)は速度関係を示している。
この図において、Vx0はプレスワールダクト入口速度、Va1はプレスワールダクトの出口絶対速度、Vx1はプレスワールダクトの出口軸方向速度、Vt1はプレスワールダクトの出口周方向速度、Vt2はフロントシールの周方向速度、mは二次空気の質量流量である。
【0010】
プレスワールダクト5から流出した二次空気6がフロントシール3へ流入する際、周方向運動エネルギの差によってロスが生じる。
すなわち、プレスワールダクト出口での周方向運動エネルギEとフロントシール穴位置での周方向運動エネルギEは、式(1)(2)で表される。
【0011】
=1/2・m・Vt1・・・(1)
=1/2・m・Vt2・・・(2)
【0012】
上述したように、従来のプレスワールダクトでは、速度差が必ず生じ、Vt1<Vt2・・・(3)のため、エネルギロスΔE=E−E・・・(4)が必ず発生する。
言い換えれば、周方向速度が遅い二次空気6が、周方向速度が速いフロントシール3へ流入するためには、フロントシール3と同じ速度まで加速する必要があり、この差に相当する運動エネルギ分だけ、回転系が余分な仕事をしなければならならず、エネルギロスが発生する。
【0013】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、フロントシールへ流入する二次空気の周方向速度をエネルギロスなしに増速することができ、これにより、エネルギロスを大幅に低減することができるガスタービンの動翼冷却構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、二次空気を圧縮機から導き、回転系のフロントシールを介してディスク前側に二次空気を供給するガスタービンの動翼冷却構造であって、
二次空気を旋回流に変換してフロントシール側に噴射するプレスワールダクトと、
該プレスワールダクトとフロントシールとの間に静止して位置し、前記旋回流の旋回半径を減少させてフロントシール側に噴射する加速ダクトと、を備えることを特徴とするガスタービンの動翼冷却構造が提供される。
【0015】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記加速ダクトは、流入口から流出口まで流路面積がほぼ一定の流路を有する。
【0016】
また、前記加速ダクトの流入口及び流出口は、ガスタービンの回転軸に対して平行に位置する、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
上記本発明の構成によれば、プレスワールダクトと加速ダクトを備え、プレスワールダクトでフロントシール側に噴射した二次空気の旋回流を、加速ダクトにより旋回流の旋回半径を減少させてフロントシール側に噴射するので、「角運動量保存の法則」によって、旋回半径を減少させた分に相当して旋回流の周方向速度をエネルギロスなしに増速することができる。これによりプレスワールダクト出口とフロントシールの周方向速度差が小さくなり、エネルギロスを大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来のガスタービンの動翼冷却構造を示す模式図である。
【図2】静止系のプレスワールダクトと回転系のフロントシールの位置関係を示す図である。
【図3】ガイド翼構造の従来のプレスワールダクトの模式図である。
【図4】斜め穴構造の従来のプレスワールダクトの模式図である。
【図5】速度差によるエネルギロスの説明図である。
【図6】本発明によるガスタービンの動翼冷却構造を示す全体構成図である。
【図7】図6の動翼冷却構造の説明図である。
【図8】本発明によるプレスワールダクトと加速ダクトの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0020】
図6は、本発明によるガスタービンの動翼冷却構造を示す全体構成図である。
この図において、回転系は動翼1、ディスク2及びフロントシール3からなり、静止系は、静翼4、プレスワールダクト12及び加速ダクト14からなる。
本発明のガスタービンの動翼冷却構造は、二次空気6を高圧の圧縮機最終段(図示せず)から導き、回転系のフロントシール3を介してディスク前側に二次空気6を供給するようになっている。
【0021】
図6において、本発明のガスタービンの動翼冷却構造は、プレスワールダクト12と加速ダクト14を備える。
【0022】
プレスワールダクト12は、二次空気6を旋回流7に変換してフロントシール側に噴射する。プレスワールダクト12の構造は、上述したガイド翼構造又は斜め穴構造のいずれでもよく、その他の構造であってもよい。
【0023】
加速ダクト14は、プレスワールダクト12とフロントシール3との間に静止して位置し、プレスワールダクト12でフロントシール側に噴射した旋回流7の旋回半径を減少させてフロントシール側に噴射する。
【0024】
また、フロントシール3の貫通穴3aは、回転軸Z−Zからの半径方向位置が、加速ダクト14の流出口14bと同じに設定されている。
【0025】
図7は、図6の動翼冷却構造の説明図である。この図において、(A)は、図6のプレスワールダクト12と加速ダクト14の模式的拡大図、(B)は(A)における速度関係図である。
また図8は、本発明によるプレスワールダクト12と加速ダクト14の説明図であり、(A)は側面図、(B)はそのB−B矢視図、(C)は斜視図である。
【0026】
図7(A)において、Rは、加速ダクト14の流入口14aの回転軸Z−Zからの半径であり、Rは、加速ダクト14の流出口14bの回転軸Z−Zからの半径である。本発明では、R<Rである。
また、加速ダクト14は、不要な加減速が発生しないように、流入口14aから流出口14bまでの流路面積がほぼ一定の流路を有する。このとき、流路面積がほぼ一定になるように、流出口の流路高さが流入口の流路高さより大きいことが望ましい。なお加速ダクト内には抵抗になるような構造を設けない。
さらに、加速ダクト14の流入口14a及び流出口14bは、フロントシール3との距離を最短にするため、ガスタービンの回転軸Z−Zに対して平行に位置することが望ましい。
【0027】
図7(B)において、プレスワールダクト12で旋回流7に変換された二次空気6の速度成分は、上述した従来例と同じである。すなわち、この図において、プレスワールダクト入口速度Vx0、プレスワールダクトの出口絶対速度Va1、プレスワールダクトの出口軸方向速度Vx1、プレスワールダクトの出口周方向速度Vt1は、従来例と実質的に同一となる。
【0028】
本発明では、プレスワールダクト12とフロントシール3との間に静止して位置する加速ダクト14により、プレスワールダクト12でフロントシール側に噴射した旋回流7の旋回半径を減少させてフロントシール側に噴射する。
このプレスワールダクト12では、角運動量保存の法則(半径×速度=一定)によって、旋回半径を減少させた分に相当して旋回流7の周方向速度をエネルギロスなしに増速することができる。
【0029】
すなわち、プレスワールダクト12の出口側に半径が減少する加速ダクト14を設けることにより、角運動量保存の法則によって、半径を下げた分に相当して周方向速度が増加する(Vt1⇒Vt1’)。
ここでVt1’=Vt1+Vα・・・(5)のため、速度増加(Vα)の運動エネルギに相当するエネルギロス(1/2・m・Vα)が改善される。
従って、これによりプレスワールダクト出口とフロントシールの周方向速度差が小さくなり、エネルギロスを大幅に低減することができる。
【0030】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0031】
1 動翼、2 ディスク、3 フロントシール、
4 静翼、6 二次空気、7 旋回流、
12 プレスワールダクト、
14 加速ダクト、
14a 流入口、14b 流出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次空気を圧縮機から導き、回転系のフロントシールを介してディスク前側に二次空気を供給するガスタービンの動翼冷却構造であって、
二次空気を旋回流に変換してフロントシール側に噴射するプレスワールダクトと、
該プレスワールダクトとフロントシールとの間に静止して位置し、前記旋回流の旋回半径を減少させてフロントシール側に噴射する加速ダクトと、を備えることを特徴とするガスタービンの動翼冷却構造。
【請求項2】
前記加速ダクトの流入口及び流出口は、ガスタービンの回転軸に対して平行に位置する、ことを特徴とする請求項1に記載のガスタービンの動翼冷却構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−21542(P2011−21542A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167155(P2009−167155)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)