説明

ガスタービンの多段式の軸流圧縮機に水を噴射する方法

【課題】ガスタービンの多段の軸流圧縮機に水を噴射する方法を改良して、公知の方法の欠点を解消し、枠条件が変化しても効果的な出力上昇と同時に機械への僅かな作用を特徴とするものを提供する。
【解決手段】軸流圧縮機10に沿った複数の位置で水を噴射し、個々の噴射位置において噴射される水質量流量を、ガスタービンの周囲条件および運転パラメータに応じて、軸流圧縮機10の個々の段において均一な負荷が生じるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部に記載の、ガスタービンの多段式の軸流圧縮機に水を噴射する方法に関する。さらに本発明は、この方法を実施する噴射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンの入口への水の噴射は、出力上昇以外に作用効率を改善するためにも用いられる。出力増加は、圧縮作業の減少だけでなく質量流量の増加によりもたらされる。
【0003】
圧縮機への水の噴射は、一般的に2つの物理学的効果を有している。
【0004】
1.入口冷却
空気流を飽和させる、圧縮機の最初の翼列の上流側における入口の水の蒸発により、蒸発潜熱に基づいて圧縮機入口温度が低下する。
【0005】
2.湿式圧縮
圧縮機における水の蒸発に起因して、湿式圧縮(wet compression)と呼ばれる(たとえば国際公開第03/048545号パンフレット参照)現象が生じる。生じる2相流の圧縮に、気化のために気相から液相への熱伝達が含まれる。熱伝達は、断熱プロセスとして見なされない。さらに滴蒸発から生じる蒸気は、圧縮機通路における質量流量に対する影響と気相の組成の変化に基づく比熱Cpの上昇とを有している。
【0006】
実際に既に、所定の場合には蒸発冷却または噴霧を用いた入口冷却により、別の場合には湿式圧縮を介してたとえば「高噴霧(High Fogging)」の際の入口空気流の過飽和により、または、あまり多くはないが、圧縮機の段間の水噴射(interstage water injection)により、出力上昇を達成するための多くの試みが成された。
【0007】
「高噴霧システム」は、1%の水質量流量で7%〜8%の出力上昇を得ることができ、それも比較的低い設備コストで得ることができる。しかしその使用に伴う多くの制限および欠点がある。
【0008】
1.環境条件に基づく運転の制限
・凍結に基づく低い周囲温度での運転制限。可変入口案内翼(VIGV)の下流側の流れの加速およびこれに伴う温度低下により、10℃を下回る周囲温度で運転が制限されている。
・空気入口冷却は、これに伴う温度分布における障害に関して、比較的乾燥した周囲条件(相対湿度<60%)にとって必然的である。
【0009】
2.浸食
入口側の翼列は、生じる液滴に基づいて浸食される。浸食は、翼の機械保全に対する影響を有していて、圧縮機の故障リスクを高め、ならびに超音速域で作動する前方翼列の前縁幾何学形状の障害に基づいて、運転範囲に対する影響を有している。たとえば一般的でない材料を用いたレーザ被覆のような対策は、費用が嵩む。
【0010】
3.サージング限界マージンの減少
圧縮機を通る経路上の体積流量の変化に基づいて、個々の段は、設計された範囲の外側で作動する。入口段では、大きくなっていく流れにより、子午面(メリディアン面)速度が上昇し、そうして速度三角形が変化するので、衝突も変向も低減される。入口翼における変向(Devaiation in the flow over a compressor profile)を減少する追加的な効果は、翼の湿った表面に基づく滑り係数の増加である。他方では、蒸発に起因する質量流量の増加の結果として圧縮機プレナムにおける圧力が相応に上昇し、これに伴って子午面速度が低下し、衝突および変向の増加が生じるので、後方段において体積流量の低下が生じる。圧縮機段におけるこのような不整合により、損失が増え、作用効率に関する空力学的な欠点が生じる。全体として、結果的に、前方段から後方段へ圧縮機負荷が移動する。後方段に移動した負荷、および圧縮機が上昇した作業特性曲線に沿って作動するという事実により、とりわけ比較的小さな空力速度で、鉛直のサージング制限マージンが減少する。しかし、幾つかの不安定なネットワークの低周波運転に関して、所定の最小のサージング制御マージンを維持する必要がある。したがって高噴霧(High Fogging)機械にとって、圧縮機の後方段において比較的大きな強度(high solidity in compressor blading)を設定する必要があり、これは装置に掛かるコストを高め、作用効率において不都合となり、または、不足周波数保護構想に狭い範囲の制限を設定する必要があり、これによりシステムの有用性が低下する。
【0011】
4.圧縮機の中央部分における冷気供給の減少。圧力および温度は、圧縮機を通る経路上で、湿式圧縮(wet compression)のプロセスにより影響を受ける。前方段にはあまり負荷が掛けられていないので、抽気室において、乾式運転よりも低い圧力が得られる。抽気室における温度も、蒸発熱の気相供給に基づいて、液相よりも低い。したがって二次空気システムの不変の幾何学形状では、タービン構成部材の耐用期間に影響を及ぼすタービン要素に比較的小さな冷気質量流量が生じる。その際、緩和は、二次空気システムの可変の幾何学形状により行うことができるが、システムのコストが増加し、システムがさらに複雑になる。または、噴射される水の量が、出力上昇の減少の結果として、制限される。
【0012】
欧州特許出願公開第1903188号明細書において、ガスタービンの出力を上昇させる装置および方法が公知であり、そこでは、洗浄ユニットが設けられており、洗浄ユニットは、ガスタービンに水を噴射して、圧縮機の翼から付着物を除去する。さらに圧縮されるべき空気流に水を噴射して、質量流量を増加させ、タービンの出力を増加させることができる。
【0013】
圧縮機の様々な位置に水を噴射することができる洗浄兼冷却装置の組み合わせが、米国特許第6398518号明細書においても公知である。
【0014】
米国特許第6634165号明細書において、ガスタービンの吸気サイクルにおいて水の噴射を制御し、特定の枠条件を維持することが公知である。
【0015】
個々の圧縮機段における負荷の変化は、前掲の背景技術では言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際公開第03/048545号パンフレット
【特許文献2】欧州特許出願公開第1903188号明細書
【特許文献3】米国特許第6398518号明細書
【特許文献4】米国特許第6634165号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の課題は、多段の軸流圧縮機に水を噴射する方法ならびに相応の噴射システムを改良して、公知の方法の欠点を解消し、枠条件が変化しても効果的な出力上昇と同時に機械への僅かな作用を特徴とするものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この課題は、請求項1および請求項9の特徴部に記載の構成を有する方法ならびに噴射システムにより解決される。
【発明の効果】
【0019】
本発明による、ガスタービンの多段の軸流圧縮機に水を噴射する方法は、軸流圧縮機に沿った複数の位置で水を噴射し、個々の噴射位置において噴射される水質量流量を、ガスタービンの周囲条件および運転パラメータに応じて、軸流圧縮機の個々の段において均一な負荷が生じるように制御することを特徴とする。
【0020】
本発明による方法の1態様によれば、主に軸流圧縮機の段間で水を噴射する。
【0021】
別の1態様によれば、軸流圧縮機は、入口に、可変のまたは開口可変の入口案内翼の列を備え、該可変の入口案内翼の列の上流側でも水を噴射する。
【0022】
別の1態様によれば、ポンプを用いて水を噴射位置に送り、噴射される水質量流量を制御するためにポンプを制御する。
【0023】
別の1態様によれば、個々の噴射位置への水の分配を、対応する供給路に設けられた制御弁により制御する。
【0024】
別の1態様によれば、噴射される水質量流量を制御するために、液滴蒸発モデルを用いた子午面中心線流れの分析を用いる。
【0025】
特に、分析に際して、翼列ごとの蒸発効果を算出し、温度低下および蒸気成分の増加の湿式圧縮効果も考慮する。
【0026】
さらに、追加的に翼浸食のモデルを用いて浸食率を予想する。
【0027】
本発明による方法を実施する、本発明による、ガスタービンの多段式の軸流圧縮機用の噴射システムは、軸流圧縮機の内側で軸方向に相前後して配置された複数の噴射装置を備え、該噴射装置は、軸流圧縮機のガス通路に水を噴射し、噴射制御装置を備え、該噴射制御装置は、個々の噴射装置への水質量流量を制御することを特徴とする。
【0028】
本発明による噴射システムの1態様によれば、ガスタービン用のガスタービン制御装置が設けられており、噴射制御装置は、ガスタービン制御装置と相互に接続されている。
【0029】
別の態様によれば、噴射装置に個々の供給路を介して水が供給されており、個々の供給路にはそれぞれ通流量を制御するための制御弁が配置されており、該制御弁は、噴射制御装置に接続されている。
【0030】
本発明による噴射システムの別の1態様によれば、ポンプにより噴射装置に水が送られており、該ポンプは、噴射制御装置に接続されている。
【0031】
別の1態様によれば、軸流圧縮機は、入口に、可変のまたは可変開口の入口案内翼の列を備えており、噴射装置の1つは、該入口案内翼の列の上流側に配置されている。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の1態様による制御可能な多段式の水噴射装置を備えた軸流圧縮機の原理図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の対象は、ガスタービンの出力を上昇させるために圧縮機の複数の段間でガスタービンの軸流圧縮機に水を噴射する方法およびシステムである。その際、圧縮機の内側における負荷の分布は、様々な噴射位置で噴射される水の質量流量が調整されることにより、制御される。
【0034】
制御システムは、周囲条件および機械の運転パラメータ、たとえば調節可能な入口案内翼の姿勢、入口温度、空冷システムの供給条件、プレナムの圧力および温度に応じて、圧縮機通路における様々な噴射位置への水の供給を開始し、停止し、調整しかつ制限する。
【0035】
制御システムは、液滴蒸発モデルを用いた子午面の中心線流れの分析(meanline meridional flow analysis)を含んでいる。蒸発効果は、翼列ごとに算出される。密度を修正して、子午面速度および速度三角形を調整するために、温度低下および蒸気成分の増加の湿式圧縮効果も一緒に考慮される。
【0036】
このようにして圧縮機負荷の移動およびサージング制御マージンの減少に関係する多くの空力学的な圧縮機パラメータ(コッホ係数(Koch factor)、拡散係数、負荷率、流量係数等)を算出して、追跡することができる。追加的に、翼浸食のモデルが含まれており、このモデルは、浸食率を予測するための、経験により確認されたアルゴリズムを有している。
【0037】
圧縮機通路に沿って噴射される相対的な水量の調整により、様々な翼列における浸食率を均一に配分することができ、これにより入口翼に対する攻撃的な作用が大幅に減少する。滴の作用時間は、後方段に対する入口の軸方向の距離と共に大幅に減少し、これは水質量流量の調整時に考慮される。
【0038】
図1は、本発明の1態様における制御可能な多段式の水噴射装置を備えた軸流圧縮機の原理図である。軸流圧縮機10は、図示していないガスタービンの一部であり、軸線12を中心に回動するロータ11を備えており、ロータ11に、動翼15の列が取り付けられており、動翼15は、軸方向に相前後して配置されていて、軸流圧縮機10のガス通路14に突入している。ガス通路14において、動翼列は、案内翼16の列と交互に設けられており、案内翼16は、ロータ11を同心的に包囲するハウジング13の内壁に配置されている。圧縮されるべき空気は、図1では右側の入口で吸い込まれ、矢印方向にガス通路14を通って流れる。ガス通路14の入口に、可変(変位可能)入口案内翼17が配置されており、可変入口案内翼17は、軸流圧縮機10を通る体積流量を制御する。
【0039】
軸流圧縮機10の内側の複数の位置(図示の形態では4箇所)に、(段間もしくは入口に)噴射装置18a〜18dが配置されており、噴射装置18a〜18dは、ガス通路14を通流する空気流に対して斜めに、微細に配分された円錐状の滴として水を噴射する。噴射装置18a〜18dには、それぞれ供給路19a〜19d(供給路19a〜19dには制御弁20a〜20dが配置されている)を介して水が供給される。供給路23を介して案内される水は、並列に作動する2つのポンプ22a,22bにより、加圧され、逆止弁21を介して供給路19a〜19dに分配される。逆止弁21の下流側に排出路24が設けられている。
【0040】
両方のポンプ22a,22bの運転ならびに個々の制御弁20a〜20dの位置は、(破線で示す制御ラインを介して)噴射制御装置25により制御され、噴射制御装置25自体は、実際のガスタービン制御装置26と相互に接続されている。
【0041】
図示の制御システムにより、軸流圧縮機10のガス通路14に沿った様々な噴射位置(18a〜18d)において噴射される水質量流量の調整が実現される。そこには、噴射装置18dによる変位可能な入口案内翼17の上流側の噴射が含まれる。このようにして軸流圧縮機に沿った蒸発率が制御可能であり、以下の利点が得られる:
・急激な上昇に対する圧縮機負荷の適切な制御。
・システムは、後方段を強化する必要なく、既存の機械に後装着可能である。
・低いネットワーク周波数での機械運転の保護が改善される。
・冷気供給部における圧力および温度の変化の影響を弱めるための、圧縮機負荷の適切な制御。
・ガス通路に沿った制御された水質量流量により、翼に沿った浸食率分配の最適化が得られる。
・「高噴霧」に対して出力上昇の有用性が高められる。
・凍結または入口温度障害に起因する「高噴霧」の運転制限は、変位可能な入口案内翼列の上流側における噴射が低い周囲温度または高い湿度の場合に遮断され、水質量流量が別の噴射位置で調整されることにより、回避される。
【符号の説明】
【0042】
10 軸流圧縮機、 11 ロータ、 12 軸線、 13 ハウジング、 14 ガス通路、 15 動翼、 16 案内翼、 17 可変入口案内翼、 18a〜18d 噴射装置、 19a〜19d 供給路、 20a〜20d 制御弁、 21 逆止弁、 22a,22b ポンプ、 23 供給路、 24 排出路、 25 噴射制御装置、 26 ガスタービン制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタービンの多段の軸流圧縮機に水を噴射する方法において、
軸流圧縮機(10)に沿った複数の位置で水を噴射し、個々の噴射位置において噴射される水質量流量を、ガスタービンの周囲条件および運転パラメータに応じて、軸流圧縮機(10)の個々の段において均一な負荷が生じるように制御することを特徴とする、ガスタービンの多段の軸流圧縮機に水を噴射する方法。
【請求項2】
主に軸流圧縮機(10)の段間で水を噴射する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
軸流圧縮機(10)は、入口に、可変のまたは開口可変の入口案内翼(17)の列を備え、該可変の入口案内翼(17)の列の上流側でも水を噴射する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
ポンプ(22a,22b)を用いて水を噴射位置に送り、噴射される水質量流量を制御するためにポンプ(22a,22b)を制御する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
個々の噴射位置への水の分配を、対応する供給路(19a〜19d)に設けられた制御弁(20a〜20d)により制御する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
噴射される水質量流量を制御するために、液滴蒸発モデルを用いた子午面中心線流れの分析を用いる、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
分析に際して、翼列ごとの蒸発効果を算出し、温度低下および蒸気成分の増加の湿式圧縮効果も考慮する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
追加的に翼浸食のモデルを用いて浸食率を予想する、請求項6または7記載の方法。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項記載の方法を実施する、ガスタービンの多段式の軸流圧縮機(10)用の噴射システムにおいて、
軸流圧縮機(10)の内側で軸方向に相前後して配置された複数の噴射装置(18a〜18d)を備え、該噴射装置(18a〜18d)は、軸流圧縮機(10)のガス通路(14)に水を噴射し、
噴射制御装置(25)を備え、該噴射制御装置(25)は、個々の噴射装置(18a〜18d)への水質量流量を制御することを特徴とする、ガスタービンの多段式の軸流圧縮機(10)用の噴射システム。
【請求項10】
ガスタービン用のガスタービン制御装置(26)が設けられており、噴射制御装置(25)は、ガスタービン制御装置(26)と相互に接続されている、請求項9記載の噴射システム。
【請求項11】
噴射装置(18a〜18d)に個々の供給路(19a〜19d)を介して水が供給されており、個々の供給路(19a〜19d)にはそれぞれ通流量を制御するための制御弁(20a〜20d)が配置されており、該制御弁(20a〜20d)は、噴射制御装置(25)に接続されている、請求項9または10記載の噴射システム。
【請求項12】
ポンプ(22a,22b)により噴射装置(18a〜18d)に水が送られており、該ポンプ(22a,22b)は、噴射制御装置(25)に接続されている、請求項9から11までのいずれか1項記載の噴射システム。
【請求項13】
軸流圧縮機(10)は、入口に、可変のまたは開口可変の入口案内翼(17)の列を備えており、噴射装置(18a〜18d)の1つは、該入口案内翼(17)の列の上流側に配置されている、請求項9から11までのいずれか1項記載の噴射システム。

【図1】
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【公開番号】特開2013−24246(P2013−24246A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−159584(P2012−159584)
【出願日】平成24年7月18日(2012.7.18)
【出願人】(503416353)アルストム テクノロジー リミテッド (394)
【氏名又は名称原語表記】ALSTOM Technology Ltd
【住所又は居所原語表記】Brown Boveri Strasse 7, CH−5400 Baden, Switzerland