説明

ガスタービンエンジンの停止制御方法

【課題】従来のガスタービンエンジンの停止制御方法では、外気温度が高くなると、冷却が不充分となり、停止後の筐体内の温度が上昇して電子制御手段の電子部品が許容温度以上の熱に晒される恐れがあった。
【解決手段】電子制御手段2とともに筐体3に収容した再生式のガスタービンエンジン1において、燃料ポンプの停止後、冷却ファン8の回転駆動を継続すると共に、筐体3内の温度を測定し、測定温度が所定値を超えている場合に、スタータモータ4で圧縮機インペラ10を回転駆動して圧縮空気をエンジン内部に流通させ、その後、スタータモータ4及び冷却ファン8の回転駆動を停止する停止制御方法とすることで、外気温度が高い場合でも短時間で充分な冷却を実現して、停止後の筐体3内の温度上昇を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生式のガスタービンエンジンの停止制御方法に関し、とくに、エンジン制御用の電子制御手段とともに筐体に収容した構成とすることで、運搬を容易にして多目的に使用可能としたガスタービンエンジンの停止制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
再生式のガスタービンエンジンとしては、導入した外気を圧縮機インペラで圧縮して燃焼器に供給するのと同時に、燃焼器で燃料と空気を混合燃焼させ、その燃焼ガスによって圧縮機インペラと同軸のタービンロータを回転駆動し、このとき、燃焼器に供給する圧縮空気とタービンロータを経た燃焼ガスを熱交換器に通して熱交換するようにしたものが周知である(非特許文献1)。
【0003】
また、図4は、従来のガスタービンエンジンの停止制御シーケンスを説明するタイミングチャートである。すなわち、ガスタービンエンジンは、運転停止信号が入力されると、燃料ポンプが停止(OFF)し、これによりエンジン回転数が低下してゼロに至る。このとき、ガスタービンエンジンでは、燃料ポンプの停止後も冷却ファンの回転駆動を継続して外気を導入し、これによりエンジン表面を冷却しており、所定時間(例えば数分)が経過したところで冷却ファンを停止(OFF)するように制御していた。
【非特許文献1】『機械工学便覧 新版』日本機械学会、昭和62年4月15日、B7−147〜B7−148
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年では、ガスタービンエンジンをエンジン制御用の電子制御手段とともに筐体に収容することでコンパクト化し、運搬等を容易にして多目的に使用可能としたものが開発されている。
【0005】
しかしながら、上記のようなガスタービンエンジンにあっては、その運転を完全に停止しても、依然として熱交換器等が高熱であり、停止から約1時間ほど経過したところで、エンジンのヒートソークバックにより筐体内の温度がピークとなることから、従来の停止制御方法を適用することが困難であった。
【0006】
つまり、従来のガスタービンエンジンの停止制御方法では、停止時に冷却ファンを所定時間だけ回転駆動するのみであることから、例えば外気温度(吸気温度)が高く、これにより運転温度が高くなると、エンジンの冷却が不充分となり、停止後の筐体内の温度が上昇して、電子制御手段の電子部品が許容温度以上の熱に晒され、作動不良が生じる恐れがあった。
【0007】
本発明は、上記従来の状況に鑑みて成されたものであって、電子制御手段とともに筐体に収容したガスタービンエンジンにおいて、同エンジンを停止するに際し、外気温度が高い場合でも短時間で充分な冷却を実現して、停止後の筐体内の温度上昇を抑制することができるガスタービンエンジンの停止制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のガスタービンエンジンの停止制御方法は、エンジン制御用の電子制御手段とともに筐体に収容された再生式のガスタービンエンジンにおいて、同ガスタービンエンジンを停止するに際し、燃料ポンプの停止後、筐体内のエンジン外側に外気を導入する冷却ファンの回転駆動を継続すると共に、筐体内の温度を測定し、測定温度が所定値を超えている場合に、スタータモータにより圧縮機インペラを回転駆動して圧縮空気をエンジン内部に流通させ、その後、スタータモータ及び冷却ファンの回転駆動を停止することを特徴としている。
【0009】
さらに、本発明のガスタービンエンジンの停止制御方法は、より好ましい実施形態として、ガスタービンエンジンの吸気温度を測定することを特徴とし、さらに、電子制御手段の温度を測定することを特徴とし、さらに、筐体内の温度、吸気温度、及び電子制御手段の温度のうちの少なくとも1つの測定温度が所定値以下になったところで、あるいは所定時間が経過したところで、スタータモータ及び冷却ファンの回転駆動を停止することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明のガスタービンエンジンの停止制御方法は、冷却ファンの回転駆動を継続する一方で、筐体内の測定温度に応じてスタータモータで圧縮機インペラを回転駆動して、エンジン内部に外気を強制的に導入することにより、外気温度が高い場合でも短時間で充分な冷却を実現し得ると共に、停止後の筐体内の温度上昇を抑制することができ、これにより電子制御手段の電子部品が許容温度以上の熱に晒されるのを阻止することができ、電子制御手段が作動不良を起こすような事態を未然に防止する。このように、当該停止制御方法によれば、エンジンの基本構成を何ら変更せずに充分な冷却効果を得ることができる。
【0011】
また、本発明のガスタービンエンジンの停止制御方法は、停止後の筐体内の温度が過大になる要因である外気温度、すなわちガスタービンエンジンの吸気温度を測定して停止制御を行うことにより、外気温度が高い場合にはガスタービンエンジンを充分に冷却して、停止後の筐体内の温度上昇をより確実に抑制することができる。
【0012】
さらに、本発明のガスタービンエンジンの停止制御方法は、筐体内の熱からの保護対象となる電子制御手段の温度を測定して停止制御を行うことにより、ガスタービンエンジンを充分に冷却し得ると共に、電子制御手段の電子部品の許容温度に合わせて、停止後の筐体内の温度上昇を抑制することができる。
【0013】
さらに、本発明のガスタービンエンジンの停止制御方法は、測定温度が所定値以下すなわち充分な冷却が成されたところでスタータモータ及び冷却ファンの回転駆動を停止することにより、停止後における筐体内の温度上昇の抑制がより確実なものとなる。
【実施例】
【0014】
以下、図面に基いて、本発明のガスタービンエンジンの停止制御方法の一実施例を説明する。
【0015】
図1に概略を示す再生式(1軸再生式)のガスタービンエンジンEは、エンジン本体を覆う内側ケース1及びエンジン制御用の電子制御手段2とともに筐体3に収容してユニット化したものであって、コンパクトで運搬が容易であると共に、発電や各種機械の駆動源として多目的に使用することができる。
【0016】
このガスタービンエンジンEは、発電機兼用のスタータモータ4と、エンジンケース5を備えていると共に、エンジンケース5と内側ケース1との間に冷却風通路50を形成している。この内側ケース1は、筐体3内のエンジン外側すなわち冷却風通路50に外気を導入するための冷却ファン8を備えると共に、その外側に電子制御手段2が取り付けてある。なお、筐体3には、冷却ファン8に対応して、外気導入用の開口部(図示せず)が設けてある。
【0017】
また、ガスタービンエンジンEは、図2にエンジン本体の詳細を示すように、スタータモータ4のハウジング6とエンジンケース5との間に吸気経路7を形成している。スタータモータ4の出力軸9には、吸気経路7内に配置した圧縮機インペラ10と、後記する排気経路内に配置したタービンロータ11が同軸状に設けてあり、出力軸9、圧縮機インペラ10及びタービンロータ11が互いに一体で回転する。
【0018】
エンジンケース5には、点火プラグ又はグロープラグ12や燃料噴射弁13を備えた燃焼器14と、燃焼器14に連続する排気経路15と、排気経路15に連続する熱交換器16が収容してあり、これらと当該エンジンケース5との間に、吸気経路7の一部である吸気用空間17を形成していると共に、排気経路15内に先のタービンロータ11が配置してある。
【0019】
熱交換器16は、内部の図示を省略したが、排気経路15から外部に至る燃焼ガス流路と、当該熱交換器16の側部に設けた導入部18から燃焼器14への空気供給部19に至る空気流路とを備えており、燃料ガスと空気との間で熱交換を行う。
【0020】
また、ガスタービンエンジンEは、筐体3内の温度を測定する手段として、吸気温度を測定する第1温度センサ(図2に示す)21と、電子制御手段2の温度を測定する第2温度センサ(図1に示す)22を備えている。
【0021】
電子制御手段2は、エンジン始動、回転数調整、及びエンジン停止といったエンジン全般の制御を行うものであって、第1及び第2の温度センサ21,22からの測定信号を入力すると共に、スタータモータ4、冷却ファン8、及び図示しない燃料ポンプなどに指令信号を出力し、とくに、第1及び第2の温度センサ21,22からの測定信号に基いて停止制御を行う。
【0022】
なお、ガスタービンエンジンEは、上記構成のほか、発電機兼用のスタータモータ4に接続するバッテリーや、燃料タンク及び燃料ポンプを含む燃焼器14への燃料供給系などを備えている。また、スタータモータ4を発電機兼用とすることで、全体構造の簡略化及び小型化を実現している。
【0023】
上記構成を備えたガスタービンエンジンEは、スタータモータ4により圧縮機インペラ10及びタービンロータ11を回転駆動するのに続いて、燃料ポンプを駆動して燃料噴射弁13から燃焼器14に燃料を供給し、導入した外気を圧縮機インペラ10で圧縮して燃焼器14に供給するのと同時に、燃焼器14で燃料と空気を混合燃焼させて、その燃焼ガスでタービンロータ11を回転駆動する。その後、スタータモータ4は発電機として機能する。
【0024】
このとき、ガスタービンエンジンEは、冷却ファン8を駆動して内側ケース1内の冷却風通路50に外気を導入することでエンジン表面を冷却する。圧縮機インペラ10を経た圧縮空気を吸気用空間17に流通させて、同圧縮空気とタービンロータ11を経た燃焼ガスを熱交換器16に通して熱交換することにより、外部へ排出する燃焼ガスの温度を低下させると共に、燃焼器14へ供給する圧縮空気を加熱して、熱効率の良い運転を行うことができる。
【0025】
次に、上記ガスタービンエンジンEの停止制御方法について説明する。図3は、ガスタービンエンジンEの停止制御シーケンスを説明するタイミングチャートである。
【0026】
すなわち、ガスタービンエンジンEは、運転停止信号が入力されると、燃料ポンプが停止(OFF)し、これによりエンジン回転数が低下してゼロに至る。このとき、ガスタービンエンジンEは、燃料ポンプの停止後も冷却ファン8の回転駆動を継続し、これにより冷却風通路50に外気を導入してエンジン表面を冷却すると共に、筐体3内の温度を測定している。
【0027】
ここで、ガスタービンエンジンEでは、運転停止から約1時間ほど経過したところで、エンジンのヒートソークバックにより筐体3内の温度がピークとなり、外気温度が高ければ停止後の筐体3内の温度上昇も大きくなるので、従来の停止制御方法(図4参照)を適用すると、電子制御手段22の電子部品が許容温度以上の熱に晒される恐れがあった。
【0028】
そこで、当該停止制御方法では、筐体3内の温度、より具体的には第1及び第2の温度センサ21,22で外気温度(吸気温度)及び電子制御手段2の温度を測定し、測定温度が所定値を超えている場合には、スタータモータ4を回転駆動(ON)し、これにより圧縮機インペラ10を回転駆動してエンジン内部の吸気経路7及び吸気用空間17に外気を強制的に導入し、運転時に行っていた熱交換器16の冷却を引き続き行う。このとき、測定温度の所定値とは、停止後の筐体3内のピーク温度が電子制御手段2の電子部品の許容温度以上になり得る値である。
【0029】
つまり、測定温度が上記上限値を超えている場合には、圧縮機インペラ10を回転駆動して外気導入を行うことで、冷却ファン8のみを用いた従来の冷却に比べて、燃焼器14や熱交換器16等から成るエンジン本体を短時間で効率的に冷却することができ、とくに、熱源の大部分を占める熱交換器16をより効率的に冷却することができる。
【0030】
その後、当該停止制御方法では、所定の時間が経過したところで、あるいは測定温度が所定値以下になったところで、スタータモータ4及び冷却ファン8の回転駆動を順次停止(OFF)する。これにより、停止後の筐体3内のピーク温度は、電子制御手段2の電子部品の許容温度未満に抑制される。
【0031】
このように、上記実施例で説明したガスタービンエンジンEの停止制御方法は、エンジンの基本構成を何ら変えることなく、外気温度が高い場合でも短時間で充分な冷却を実現し得ると共に、停止後の筐体3内の温度上昇を抑制することができ、これにより電子制御手段2の電子部品が許容温度以上の熱に晒されるのを阻止して、電子制御手段2が作動不良を起こすような事態を未然に防止することができる。
【0032】
また、上記の停止制御方法では、第1及び第2の温度センサ21,22により、停止後の筐体3内の温度が過大になる要因である吸気温度(外気温度)と、筐体3内の熱からの保護対象となる電子制御手段2の温度との両方を測定して停止制御を行うと共に、とくに測定温度が所定値以下すなわち充分な冷却が成されたところでスタータモータ4及び冷却ファン8の回転駆動を停止することにより、電子制御手段2の電子部品の許容温度に合わせて、停止後の筐体3内の温度上昇をより確実に抑制し得るものとなる。
【0033】
なお、本発明のガスタービンエンジンの停止制御方法は、詳細な構成が上記実施例のみに限定されるものではなく、例えば、吸気温度(外気温度)と電子制御手段2の温度のいずれか一方を測定するものとしたり、筐体3内のそれ以外の部位の温度を測定するものとしたりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の停止制御方法が適用可能なガスタービンエンジンを使用した発電機を概略的に示す断面図である。
【図2】図1に示すガスタービンエンジンのエンジン本体を説明する断面図である。
【図3】本発明の停止制御方法による停止制御シーケンスを説明するタイミングチャートである。
【図4】従来の停止制御シーケンスを説明するタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0035】
E ガスタービンエンジン
2 電子制御手段
3 筐体
4 スタータモータ
7 吸気経路
8 冷却ファン
10 圧縮機インペラ
11 タービンロータ
21 第1温度センサ
22 第2温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン制御用の電子制御手段とともに筐体に収容された再生式のガスタービンエンジンにおいて、同ガスタービンエンジンを停止するに際し、燃料ポンプの停止後、筐体内のエンジン外側に外気を導入する冷却ファンの回転駆動を継続すると共に、筐体内の温度を測定し、測定温度が所定値を超えている場合に、スタータモータにより圧縮機インペラを回転駆動して圧縮空気をエンジン内部に流通させ、その後、スタータモータ及び冷却ファンの回転駆動を停止することを特徴とするガスタービンエンジンの停止制御方法。
【請求項2】
ガスタービンエンジンの吸気温度を測定することを特徴とする請求項1に記載のガスタービンエンジンの停止制御方法。
【請求項3】
電子制御手段の温度を測定することを特徴とする請求項1又は2に記載のガスタービンエンジンの停止制御方法。
【請求項4】
測定温度が所定値以下になったところで、スタータモータ及び冷却ファンの回転駆動を停止することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスタービンエンジンの停止制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−262901(P2007−262901A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−85074(P2006−85074)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(500302552)株式会社アイ・エイチ・アイ・エアロスペース (298)
【Fターム(参考)】