説明

ガスタービンシステム

【課題】圧縮機の入口で多量の液滴を噴霧するガスタービンでは、ガスタービンの停止時に液滴をパージする運転が、ガスタービンの信頼性の観点から重要となってくる。これに鑑み、圧縮機内部のドレインの残留を抑制し、ガスタービンの信頼性を確保することを目的とする。
【解決手段】空気を圧縮する圧縮機1と、圧縮機1で圧縮された高圧空気と燃料とを混合燃焼させて燃焼ガスを生成する燃焼器2と、燃焼器2で生成された燃焼ガスで回転されるタービン3とを備え、圧縮機1に液体を供給する手段である噴霧ノズル32を備えたガスタービンであり、圧縮機1が、液滴残存検知手段であるドレインタンクに設置されたドレイン量計測器42aを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸気噴霧を有するガスタービン及びその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
夏期等におけるガスタービンの運転では、大気温度が高い場合に吸気密度が低下することでガスタービンの出力が低下する。この出力低下に対して、例えば、特許文献1の特開平9−236024号公報に記載されたガスタービン圧縮機では、圧縮機の吸込み空気に水等の液滴を噴霧させることで吸気密度を上昇させ、吸気冷却の効果によりガスタービン出力を向上させる方法がある。さらに、その液滴の噴霧量を増加させて液滴を圧縮機内部へ導入させた場合には、中間冷却の効果により圧縮動力を低減してガスタービンの効率を向上できる。このような圧縮機の内部へ液滴を導入するようなガスタービンの運転では、ガスタービン停止時に圧縮機内部の液滴をすべて除去しておくことがガスタービンの信頼性を確保するためには必要となる。しかし、圧縮機の吸込み空気に液滴を噴霧するガスタービンの停止時において、液滴を除去するパージ運転については記載されていない。
【0003】
また、ガスタービン圧縮機の翼洗浄では、例えば、特許文献2に圧縮機翼の洗浄後のパージ運転で、圧縮機の出口のドレインから洗浄水中の洗剤または汚染物質の量を計測して翼洗浄の完了を検知する方法が記載されている。中間冷却効果を目的として、圧縮機の内部まで液滴を導入するガスタービンでは、圧縮機の上流段で液滴を蒸発させた方が圧縮動力を低減できる。また、圧縮機出口まで液滴を存在させると、燃焼器へ供給される空気やタービン翼冷却空気にも液滴が混入するため熱応力が大きくなる可能性があり、ガスタービンの信頼性を低下させる。従って、圧縮機の出口では液滴を完全に蒸発させる必要があるため、圧縮機の出口では液滴を検知する必要はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−236024号公報
【特許文献2】特開2009−115079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
吸気ダクト内に噴霧ノズルを配置して圧縮機の吸込み空気に多量の液滴を噴霧する場合、吸気ダクト内では吸気空気が飽和になるまで噴霧した液滴の一部が気化し、その蒸発潜熱により圧縮機に入る気体の温度が外気温度より低下する。そして、気化しきれなかった液滴を含んだ気体は圧縮機内部に搬送され、圧縮機内部で圧縮されながら気化する。この圧縮機内部での液滴の気化は、圧縮特性が等温圧縮に近づくために圧縮動力が低減される。
【0006】
ここで、圧縮機内部へ液滴を供給するガスタービンにおいて、ガスタービンの停止時に液滴が圧縮機内部に残留していることによる課題について述べる。
【0007】
ガスタービン運転時に、圧縮機内部へ導入された液滴のうち、気流に乗った微細な液滴は圧縮機の動翼間および静翼間を通過しながら蒸発していく。しかし、液滴径が大きく気流に乗れない液滴は、動静翼や側壁内面に衝突する。また、動翼に衝突した液滴は、動翼が回転する遠心力により外周側へ吹き飛ばされてケーシング内壁で液膜となる。このような状態で、ガスタービンを停止した場合、重力により液膜はケーシングの下側へ蓄積する。また、圧縮機は入口からテーパー形状となっているので、圧縮機入口側に位置するプレナムに液滴が蓄積していく可能性が高い。
【0008】
ガスタービンの吸気ダクトで液滴を噴霧した場合、液滴の粒子径が大きく気流に乗れない液滴は、吸気ダクト壁へ衝突して液膜となり圧縮機入口側のプレナムに液滴が蓄積する。このように、圧縮機の吸気に液滴を噴霧するガスタービンでは液滴を完全にパージしないでガスタービンを停止すると、圧縮機の入口側で液滴が蓄積されている。この液滴が蓄積した状態からガスタービンを起動した場合、蓄積した液滴から二次液滴として粒子径が大きい液滴が圧縮機の内部へ飛翔するため、初段動翼への衝突によりエロージョンを加速する可能性がある。
【0009】
また、ガスタービン起動時には旋回失速といわれる流れの非定常現象を回避するために、軸流圧縮機の上流段には可変静翼が設置される。それぞれの可変静翼はケーシングに取り付けられており、液滴を噴霧する圧縮機では、可変静翼の取り付け部とケーシングとの取り合い面に液滴が混入する可能性がある。ガスタービン停止後に、ケーシングと可変静翼の取り付け部に液滴が存在すると、可変静翼の稼動部では錆などの腐食する可能性がある。この腐食は、可変性翼の角度に影響を及ぼすため、ガスタービンの信頼性を低下させる。さらに入口案内翼の角度偏差はガスタービンの吸込み流量に大きく影響するため、ガスタービンの出力への影響が懸念される。
【0010】
さらに、夜間にガスタービンを停止するような運用において、圧縮機入口側のプレナム内に液滴が蓄積した状態でガスタービンを停止し、夜間の間に外気温度が低下して蓄積している液滴の一部が凝固しアイシングが発生する可能性もある。このアイシングが発生した状態でガスタービンを起動した場合、その氷塊の一部が圧縮機内部へ飛翔することで、圧縮機翼列と衝突して翼列を損傷する可能性がある。
【0011】
以上のように、圧縮機の入口で多量の液滴を噴霧するガスタービンでは、ガスタービンの停止時に液滴をパージする運転が、ガスタービンの信頼性の観点から重要となってくる。
【0012】
本発明の目的は、圧縮機内部のドレインの残留を抑制し、ガスタービンの信頼性を確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、空気を圧縮する圧縮機と、前記圧縮機で圧縮された高圧空気と燃料とを混合燃焼させて燃焼ガスを生成する燃焼器と、前記燃焼器で生成された燃焼ガスで回転されるタービンとを備え、前記圧縮機に液体を供給する手段を備えたガスタービンにおいて、前記圧縮機が、液滴残存検知手段を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、圧縮機内部のドレインの残留を抑制し、ガスタービンの信頼性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態の一つであるガスタービンシステム構成図。
【図2】本発明の実施形態の軸流圧縮機の子午面断面図。
【図3】図2の軸流圧縮機の子午面断面図におけるA−A断面図。
【図4】本発明の実施形態の一つであるガスタービンシステム構成図。
【図5】本発明の実施形態の一つであるガスタービンシステム構成図。
【図6】本発明の実施形態の一つであるガスタービンシステム構成図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に吸気噴霧のガスタービンシステムの全体構成図の概略を示す。以下、図1を用いて吸気噴霧のガスタービンシステムの構成例について説明する。
【0017】
ガスタービンシステムは、空気を圧縮して高圧空気を生成する圧縮機1と、圧縮空気と燃料を混合して燃焼させる燃焼器2と、高温の燃焼ガスにより回転駆動するタービン3から構成される。圧縮機とタービンは回転軸を介して発電機4と接続されている。
【0018】
次に、作動流体の流れについて説明する。作動流体である空気11は圧縮機1へ流入し、圧縮機で圧縮されながら高圧空気12として燃焼器2に流入する。燃焼器2で高圧空気12と燃料13が混合燃焼され、高温燃焼ガス14が生成される。燃焼ガスはタービン3を回転させた後、排気ガス15として系外部へ放出される。発電機4は、圧縮機とタービンとを連通する回転軸5を通じて伝えられたタービンの回転動力により駆動される。
【0019】
ガスタービンシステムにおいて一般的に用いられる体積流量一定の定回転数の圧縮機では、夏場など吸気温度が高くなった場合、空気密度が小さくなり吸入空気の質量流量が低減するため、これに合せて燃焼器での燃料流量も低減せざるを得ない。つまり、圧縮機の吸気温度が高くなるほどガスタービンの出力は低下する問題がある。
【0020】
この問題に対し、圧縮機に水などの液体を供給して吸気冷却効果によりガスタービン出力を向上させる方法がある。具体的には圧縮機の吸気に水の液滴を噴霧する。吸気冷却の方法は、吸気ダクトにメディア式の吸気冷却器を設置し、吸込み空気が吸気冷却器を通過することで吸気温度を低下させる方法がある。一方、図1に示すように吸気ダクト31内に液滴噴霧ノズル32を配置して、吸気中に微細液滴を噴霧して気流中で蒸発させることで、液滴の蒸発潜熱により吸気温度を低下させる方法もある。このような液滴を噴霧する方法の場合、液滴量を増加させると吸気ダクト内で液滴が蒸発する吸気冷却効果に加えて、圧縮機内部にも液滴が供給され、圧縮機内部で気化させることで中間冷却効果が得られる。この効果により、ガスタービンの出力向上と圧縮動力低減によるガスタービンの高効率化に寄与できる。
【0021】
次に、液滴の噴霧の始動と停止のタイミングについて説明する。液滴の噴霧はガスタービンを起動して定格負荷に到達したときに噴霧を開始する。軸流圧縮機の内部まで液滴が導入している場合、液滴の気化による温度低下で圧縮機の上流側では翼列負荷が低減し、その反対に下流側で翼列負荷が増加する。一般的なガスタービンの部分負荷運転では、圧縮機の下流側の翼列負荷が上流側に比べて大きいので、部分負荷時に液滴を噴霧すると下流側の翼列負荷を更に増加させるため、翼列の信頼性を低下させる懸念がある。従って、液滴の噴霧は、ガスタービンが定格負荷に到達した安定運転時に開始される。同様に、液滴の噴霧の停止のタイミングは、ガスタービンが定格負荷運転で、ガスタービンの停止操作前に噴霧を停止する。
【0022】
液滴の噴霧の停止直後に、ガスタービンを停止した場合、圧縮機の吸気ダクト内や圧縮機の上流側に蒸発しきれなかった液滴が残留している可能性がある。また、圧縮機内部を流れる作動流体は多量の湿分を含んでいるため、ガスタービン停止時に圧縮機内部の空気温度が急激に低下して液滴が凝縮し、凝縮した液滴がケーシング内壁に付着することが考えられる。このように液滴が圧縮機内部に残存することによって生じる課題について説明する。
【0023】
ガスタービン運転時に、圧縮機内部へ導入された液滴のうち、気流に乗った微細な液滴は圧縮機の動翼間および静翼間を通過しながら蒸発していく。しかし、液滴径が大きく気流に乗れない液滴は、動静翼や側壁内面に衝突する。また、動翼に衝突した液滴は、動翼が回転する遠心力により外周側へ吹き飛ばされてケーシング内壁で液膜となる。このような状態で、ガスタービンを停止した場合、液膜はドレインとなって重力によりケーシングの下側へ蓄積する。この蓄積した液滴が残留した状態で、ガスタービンを起動した場合、高速回転する圧縮機動翼と液滴の接触により動翼回転方向に対する抵抗が増加し、出力低下を引き起こす。残留する液滴が多量の場合には、圧縮機動翼に不連続な衝撃が加えられるため、圧縮機動翼を損傷する危険性もある。
【0024】
また、圧縮機は入口からテーパー形状となっているので、圧縮機内部に残留した液滴は、圧縮機入口側に位置する吸気プレナム33に流れて蓄積する可能性もある。さらに、ガスタービンの吸気ダクト31で液滴を噴霧した場合、液滴の粒子径が大きく気流に乗れない液滴は、吸気ダクト壁へ衝突して液膜となり圧縮機入口側のプレナムに液滴が蓄積する。このように、圧縮機の吸気に液滴を噴霧するガスタービンでは液滴を完全にパージしないでガスタービンを停止すると、圧縮機の入口側で液滴が蓄積される。この液滴が蓄積した状態からガスタービンを起動した場合、二次液滴である粒子径が大きい液滴が圧縮機の内部へ飛翔するため、初段動翼に衝突することでエロージョンを加速する可能性がある。
【0025】
また、ガスタービン起動時には旋回失速といわれる流れの非定常現象を回避するために、軸流圧縮機の上流段には可変静翼が設置される。それぞれの可変静翼はケーシングに取り付けられており、液滴を噴霧する圧縮機では、可変静翼の取り付け部とケーシングとの取り合い面に液滴が混入する可能性がある。ガスタービン停止後に、ケーシングと可変静翼の取り付け部に液滴が存在すると、可変静翼の稼動部では錆などの腐食が発生する懸念がある。この腐食は、可変静翼の角度に影響を及ぼすため、ガスタービンの信頼性を低下させる以外に、ガスタービンの出力に影響を及ぼす可能性がある。
【0026】
さらに、夜間にガスタービンを停止するような運用において、圧縮機入口側のプレナム内に液滴が蓄積した状態でガスタービンを停止すると、夜間の間に外気温度が低下して蓄積しているドレインの一部が凝固しアイシング(氷結)が発生する可能性もある。このアイシングが発生した状態でガスタービンを起動した場合、その氷塊の一部が圧縮機内部へ飛翔することで、圧縮機翼列と衝突して翼列を損傷する可能性が高くなる。
【0027】
このような課題を回避するためには、ガスタービン停止時に吸気ダクトおよび圧縮機内部の液滴をパージする運転が必要となる。一般的に、ガスタービンのパージ運転は、ガスタービン起動時の低回転数領域で実施され、停止時(運転停止前、停止後を含む)には行われない。この種のパージ運転は、燃焼器内に残存する燃料(LNGガスなど)をタービン下流側へ流して系外部へ排気させる目的として、数分間だけ実施される。このパージ運転はある一定時間だけ実施され、作動流体の状態量などを計測してパージ完了を検出するものではない。
【0028】
一方、後述する本発明の実施例であるパージ運転は、ガスタービン停止の直前に実施され、吸気ダクトおよび圧縮機内部に残留する液滴を検知することで、パージ運転を完了するものである。
【0029】
次に、図1を用いて、吸気ダクトおよび圧縮機内部に残留する液滴の検出方法について説明する。
【0030】
圧縮機の入口側に設けられた吸気プレナム33から配管41を介して第1のドレインタンク42が設置される。第1のドレインタンク42には、ドレイン量を計測する計測手段であるドレイン量計測器42aが設けられている。このドレイン量計測器42aが液滴残存検知手段として働く。すなわち、ドレイン量の変化が止まれば、圧縮機内にはドレイン(液滴)が残存しないことが検知されたといえる。吸気プレナムとドレインタンク42間には、ガスタービン運転中に吸気プレナムとドレインタンク内の圧力差による逆流を抑制する目的で、Uシール41が設けられている。圧縮機1の吸気部に残留した液滴はドレイン配管を介してドレインタンクへ排出される。吸気プレナムで発生するドレイン量がなくなった時点でパージが完了する。
【0031】
また、圧縮機の上流段側のケーシングに設けられる抽気配管43の一部にドレイン検出用の第2のドレインタンク44が設置される。第2のドレインタンク44にはドレイン量計測器が設けられている(図示省略)。圧縮機の上流段から抽気される空気は、ガスタービン運転中の軸受のシール空気として用いられている。その圧力は、ガスタービン運転中は大気圧力以上を確保できるため、抽気配管とドレインタンク間には吸気プレナムにおけるドレイン排出方法で示したようなUシールを設置する必要はない。ドレインタンク44に設けられたドレイン量計測器により、抽気段におけるドレイン量を計測して圧縮機内部に残留する液滴量を検知できるため、信頼性の高いパージ運転が可能となる。さらに、圧縮機の上流段の動静翼の段落間には、圧縮機内部の雰囲気温度を計測できる温度計測機構45を配置している。この温度測定手段は、圧縮機ケーシングの内面で、ある軸方向位置における周方向最下部に設けられており、重力で下部にたまった液滴の存在を有効に検知できる。
【0032】
温度計測は、吸気噴霧を停止してからの温度偏差を計測して、その偏差がある制限値以下になることを確認してからガスタービンの停止操作を開始する。また、温度は圧縮機のある同一軸方向位置で周方向に複数点を計測して、周方向の偏差を評価することも可能である。環状ケーシング内部に液滴が残留している場合、ケーシングの上下部では温度偏差が大きくなると考えられる。このような圧縮機動静翼の段落間での温度計測は、圧縮機の上流に位置する可変静翼機構を有するスペースにおいても、軸方向および周方向位置で計測が可能であるため、圧縮機内部に残留するドレインのパージを検知することができ、可変静翼機構の健全性を確保できる。
【0033】
圧縮機の吸気に液滴を噴霧するガスタービンのパージ運転では、以上のようなドレイン計測や圧縮機内部の雰囲気温度を計測することで、圧縮機内部の液滴の残留を検知できるため、圧縮機動翼と残留する液滴との干渉を抑制でき、動翼が損傷する危険性を低減できる。また、大気温度が低減することによる残留液滴の凝固を抑制できるため、アイシングによる圧縮機動翼の損傷する危険性を低減でき、信頼性を向上することができる。さらに、圧縮機の可変静翼機構に液滴が残存することによる駆動部品の腐食を抑制できるため、ガスタービン運転制御や長期信頼性を確保できる。
【0034】
次に、残留する液滴のパージ運転の方法について説明する。ガスタービンのパージ運転中は、ある一定回転数で運転する必要がある。ガスタービンの部分回転数では、圧縮機翼およびタービン翼の共振、軸振動と共振して回転部品の破損を招く可能性があるため、定格回転数での運転が安全で好ましい。また、高回転数であるほど吸込み流量が増加でき、残留する液滴をパージする時間を短くできるので、定格回転数で運転することが有効である。ガスタービンの負荷は、定格負荷で燃焼温度が最高になり、圧縮機での圧力比も高くできるので、圧縮機の上流側に蓄積したドレインのパージに対しては、定格負荷でパージ運転した方が、部分負荷に比べてパージ時間が短くできる。一方、定格負荷でパージすると膨大な燃料を消費するため経済性がデメリットとなる。100%回転数、無負荷状態でパージ運転したとき、圧縮機の吐出温度は200℃以上を確保できるので、圧縮機で残留する液滴は圧縮機内部で完全に蒸発して燃焼器へ供給されることはないので、十分にパージ運転が可能である。
【0035】
図2の圧縮機の子午面断面の概略図を用いて、詳細なドレイン計測方法について説明する。軸流圧縮機1は、複数の動翼51が取り付けられた回転するロータ52と、複数の静翼列53を取り付けたケーシング54から構成され、ロータ52とケーシング54により環状流路が形成されている。動翼51と静翼列53は軸方向に交互に配列しており、1つの動翼列と静翼列とで段が構成される。初段動翼列の上流側には、吸込み流量を制御してガスタービン負荷を調整できる入口案内翼(IGV)55が設けられる。また、前段側静翼列にはガスタービン起動時の旋回失速を抑制するために可変静翼機構56を備えている。図2では可変機構を備えた静翼列は初段静翼列だけとしたが、可変静翼列が複数段備えている場合もある。
【0036】
吸気ダクト(図示しない)から流入した空気11は、圧縮機の上流側に位置する吸気プレナム33で90度転向され圧縮機内部へ供給される。水などの液滴は、吸気ダクト内部に配設された噴霧ノズル32から噴射され、微細な液滴は気流中で蒸発し、その蒸発潜熱により圧縮機へ流入する気体の温度の低下と同時に吸気の密度を上昇させる。気流と伴に搬送される微細な液滴のうち吸気プレナムまで飽和まで気化しきれなかった液滴は、液滴のまま圧縮機内部へ流入する。圧縮機の内部で液滴は動翼列間、静翼列間を通過しながら蒸発し、圧縮途中の作動流体の温度を低下させる。この中間冷却効果によって圧縮特性が等温圧縮に近づくため、圧縮機の動力は低減される。圧縮機へ導入された液滴は、圧縮機吐出までに完全に蒸発する。
【0037】
次に、吸気噴霧によるドレイン発生要因について説明する。吸気ダクト内で吸込み流量比で約1%以上の液滴を噴霧する場合、ダクト内に噴霧ノズルを約100〜200本配置する必要がある。そのため、ノズル間隔が密集する可能性があり、液滴を噴射した直後に液滴同士が衝突して粒径が大きくなり気流に乗れずにドレインになる可能性がある。また、噴霧ノズルがダクトの壁面近傍に配置されると、噴射した直後に壁面に衝突して液膜になり、ドレインとして残留する。さらに、吸気プレナムから圧縮機内部には流れが90度転向されるため、粒子径の比較的大きな気流に乗れない液滴は壁面に衝突し液膜となる可能性が高まる。圧縮機の内部においても入口案内翼55や高速回転している初段動翼51に液滴が衝突して翼面で液膜となる。動翼に衝突した液滴は遠心力により環状ケーシング54の内壁にドレインとして蓄積される。また、噴射を停止したときに噴霧ノズル32から液ダレにより粒径の大きい液滴が発生する。
【0038】
このように、吸気での液滴の噴霧量が増加すると吸気ダクトや圧縮機内部でのドレイン量が増大し、ガスタービン停止後には、ドレインは重力により吸気プレナム底面および環状ケーシングの下側へ蓄積していく。また、圧縮機の環状ケーシングの内壁はテーパー形状であり、ケーシング内壁に蓄積したドレインは、吸気プレナム側へ搬送される可能性がある。吸気噴霧量が吸込み流量比に対して2%以上になると、噴霧した量の約20〜30%程度が吸気ダクト内でのドレインとして排出される可能性がある。
【0039】
発生したドレインを検知する具体的な方法について説明する。吸気プレナム33内に蓄積したドレインを排出するために、吸気プレナムの底面61からドレイン系統を構成する配管41を介してドレインタンク42を設置する。パージ運転中は吸気プレナム内部の圧力は負圧になる可能性があり、ドレインタンクとの内圧差によるドレインの逆流を抑制するために、配管にはUシール41aが設けられる。
【0040】
さらに、圧縮機1は抽気系統を有している。具体的には圧縮機のケーシングに環状に抽気室57が備えられ、抽気室57の最下位置に設置される抽気配管43の一部にはドレインタンク44が設けられ、圧縮機の抽気室に蓄積したドレインを系外に排出できる。加えて、圧縮機上流側に位置する動静翼列間のケーシング内壁近傍で、作動流体の雰囲気温度を計測する温度計測機構45を備える。圧縮機上流側のケーシング外壁では周方向全領域に渡って可変静翼機構56が配置されているため、配管を用いて蓄積したドレインを系外に排出するスペースがない。そこで本実施形態のように、可変静翼のケーシング内壁近傍の温度計測することでドレインの有無を検知することができる。この温度計測位置は、環状ケーシングの内壁の最下点で計測し、静翼の下流側、動翼の上流側で計測することが望ましい。
【0041】
図3に、図2のA−A断面の圧縮機上流側から見た断面図を示す。同一の軸方向位置で周方向の最下点45以外に、複数の温度計測をすることで、周方向偏差を監視でき、高精度にドレインを検知することが可能となる。この温度計測は、ドレインタンクを用いた計測に比べて検知精度は低いが、可変静翼近傍のドレイン排出用の配管を設置できないような狭いスペースでも計測が可能であり、機器の簡素化もできるので低コスト化のメリットがある。
【0042】
図4を用いて、本発明の実施例である高湿分利用ガスタービンシステムのパージ運転方法について説明する。図4は、高湿分利用ガスタービンシステムの構成図であり、図1のガスタービンシステムと異なる点は、圧縮機の吐出空気に湿分を加える加湿装置71とガスタービンの排熱を回収する再生熱交換器72を配置したことである。
【0043】
高湿分利用ガスタービンは、圧縮機1、燃焼器2、タービン3、加湿装置71、再生熱交換器72から構成される。吸気噴霧ノズルは大気に水を噴霧し湿分空気を生成する。吸気噴霧により生成された湿分空気は圧縮機で圧縮されるとともに、圧縮機で生成した圧縮空気はガスパス出口に設けられた抽気孔で一度、全流量が抽気16される。圧縮機出口から抽気された高圧空気は、加湿装置で加湿される。加湿装置で加湿された湿分空気17はタービンからの排ガスで過熱する再生熱交換器に供給される。そして、再生熱交換器において、加湿装置から供給された湿分空気が過熱され、湿分空気18が生成され燃焼器2に供給される。燃焼器に供給された湿分空気は、燃焼器で燃料と混合燃焼する。そして、生成した燃焼ガス14はタービンに導入され、タービンを回転駆動させる。タービンから排出された排ガス15は、再生熱交換器で熱回収され、排ガスとして排出される。
【0044】
再生熱交換器において排気ガスの熱エネルギーを燃焼用空気に回収できるため、燃焼器での燃料流量が減少してガスタービンサイクルの効率が向上する。また、加湿装置で湿分が添加され作動流体が増加することによって、高湿分利用ガスタービンの出力が増加する。さらに、湿分添加により作動流体の温度が低下した効果と流量が増加した効果によって、再生熱交換器における熱回収量が増加し、高湿分利用ガスタービンの効率が向上する。
【0045】
高湿分利用ガスタービンシステムにおけるパージ運転について説明する。高湿分利用ガスタービンシステムの停止操作では、定格負荷運転からはじめに圧縮機への吸気噴霧を停止する。次に、加湿装置へ供給する給水を停止する。この加湿装置への給水を停止してからガスタービンの出力が安定するまで運転を保持する。この運転中は、圧縮機に対しては、残留する液滴のパージ運転に相当するため、図1の場合のように特別にパージ運転を設ける必要はない。本実施例では、この運転もパージ運転とみなすこととする。仮に、大気温度条件や多量のドレインが発生していて、加湿装置の給水を停止してからガスタービンの出力が安定するまでにドレインのパージが完了しない場合、そのままガスタービンを継続運転するか、前述したように無負荷状態でパージ運転することも可能である。パージ運転が完了した時点で、燃焼器へ供給される燃料弁を遮断してガスタービンの停止操作を行う。
【0046】
図5を用いて、本発明の実施例である吸気プレナムに残留するドレインの排出方法について説明する。図5は、本発明の実施例であるガスタービンシステムの構成図であり、図1と異なる点は、吸気プレナム33から排出するドレインを溜めるドレインタンク42に真空ポンプ81を設けたことである。図1のようなUシールの場合、Uシールの高さ(ヘッド)を設けることでドレインが吸気プレナム内へ逆流することを抑制している。しかし、大気温度条件や吸気ダクト形状によりガスタービンの吸気プレナム内の状態量が変化する。また、各プラントにより吸気噴霧量も異なってくるので、発生するドレイン量も異なってくる。そのためUシール形状は各プラントによって個別に設計する必要があり、設計期間や製作期間を有する。一方、本発明のように真空ポンプを用いてドレインタンク内を負圧にしておくことで、吸気プレナムとドレインタンク内の圧力差を保つことが可能となり、残留するドレインの逆流を抑制することができる。これによりガスタービン運用の信頼性を確保できる。
【0047】
図6を用いて、本発明の実施例であるパージ運転について説明する。図6は、本発明の実施例であるガスタービンシステムの構成図であり、図1と異なる点は、圧縮機の高温、高圧の作動空気の一部を吸気ダクトもしくは吸気プレナムへ導入する抽気系統82を設けたことである。高温、高圧の作動空気の一部を吸気側へ供給することで圧縮機入口温度が上昇し、飽和水蒸気量が増加できる。そのため残留した液滴を効果的に蒸発させることも可能となり、パージ運転に有する時間も短縮することができる。
【0048】
最後に、図1を用いて本発明の実施例における制御系統について説明する。前述のように本実施例は、吸気ダクト及び圧縮機内部の液滴の残留を抑制するため、ガスタービンの停止時(停止直前)にパージ運転を行うものである。このパージ運転では、ガスタービンシステムの各所からの計測信号をもとに残留液滴を検知し、残留液滴がないと判断された際にパージ運転を停止する。本実施例では特に、液滴残存検知手段であるドレイン量計測器42aの計測結果をもとに、パージ運転を制御する制御器101を有している。
【0049】
図1の点線は制御信号を示しており、圧縮機の吸気プレナム33のドレイン量の信号91および圧縮機の抽気配管からのドレイン量の信号92、そして圧縮機の上流段に配設した圧縮機内部の温度計測からの信号93が制御器101に導入される。ドレイン量は例えば、ドレインタンク42に設けられたドレイン量計測器42aで計測される。
【0050】
本実施例では吸気プレナムのドレイン計測(信号91)は必須である。吸気プレナムのドレインは他箇所に比べて多量であり、残留した場合にガスタービンの信頼性へ与える影響が大きいためである。一方、抽気段におけるドレイン計測(信号92)は必ずしも必要とは限らない。パージ運転時において抽気段では、ほぼ液滴は蒸発しており、仮にドレインが残留してもケーシング内壁温度や配管の温度は100℃以上であり、ドレインが壁面に衝突した瞬時に蒸発すると考えられるためである。制御器101に導入された信号により残留液滴のパージが完了したと判断した時点で、ガスタービンは停止操作を開始し、ガスタービン燃焼器に接続された燃料系統のバルブ102へ出力信号94が発信され、燃焼器に供給される燃料を遮断することでガスタービンが停止する。
【0051】
本実施例では停止時にパージ運転をする例を紹介したが、本質的には圧縮機への液体供給が終わった後にパージ運転をすることで、圧縮機1や吸気ダクト31内の液体の残留を抑制できる。本実施例のガスタービンは、定格負荷運転中にまず圧縮機への液滴噴霧を停止してパージ運転を開始し、ドレイン量計測器によって、残存液滴がないと判断された時点でパージ運転が停止される。
【0052】
なお、本実施例のパージ運転の制御については、図1を用いて説明したが、図4から図6のガスタービンシステムにおいても同様な制御が可能である。また、吸気噴霧を用いたガスタービン用軸流圧縮機以外に、産業用の軸流圧縮機においても同様なシステムが適用可能である。
【0053】
以上説明した本発明の実施例であるガスタービンシステムは、空気を圧縮する圧縮機1と、圧縮機1で圧縮された高圧空気と燃料とを混合燃焼させて燃焼ガスを生成する燃焼器2と、燃焼器2で生成された燃焼ガスで回転されるタービン3とを備え、圧縮機1に液体を供給する手段である噴霧ノズル32を備えたガスタービンであり、圧縮機1が、液滴残存検知手段であるドレインタンク42に設置されたドレイン量計測器42aを備えている。そのため、ガスタービンの停止時にパージ運転を行う際、残留液滴がなくなったことを確認できるまでパージ運転を続けることができるため、圧縮機1内部のドレインの残留を抑制し、ガスタービンの信頼性を確保できる。また、パージ運転を必要以上に長く続けることを抑制でき、経済性の高い運転が可能となるというメリットも享受できる。
【符号の説明】
【0054】
1 圧縮機
2 燃焼器
3 タービン
4 発電機
5 回転軸
31 吸気ダクト
32 噴霧ノズル
33 吸気プレナム
41、43 配管
41a Uシール
42、44 ドレインタンク
42a ドレイン量計測器
45、46 温度計測機構
51 動翼
52 ロータ
53 静翼列
54 ケーシング
55 入口案内翼
56 可変静翼機構
57 抽気室
61 吸気プレナムの底面
71 加湿装置
72 再生熱交換器
81 真空ポンプ
82 抽気系統
91、92、93、94 信号
101 制御器
102 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気を圧縮する圧縮機と、前記圧縮機で圧縮された高圧空気と燃料とを混合燃焼させて燃焼ガスを生成する燃焼器と、前記燃焼器で生成された燃焼ガスで回転されるタービンとを備え、前記圧縮機に液体を供給する手段を備えたガスタービンにおいて、
前記圧縮機が、液滴残存検知手段を備えていることを特徴とすることを特徴とするガスタービン。
【請求項2】
請求項1のガスタービンにおいて、
前記圧縮機の入口側に設けられた吸気プレナムと、前記吸気プレナムの底面部からドレインを排出するドレイン系統とを備え、前記液滴残存検知手段が前記ドレイン系統のドレイン量を計測する計測手段であることを特徴とするガスタービン。
【請求項3】
請求項1または2のガスタービンにおいて、前記ドレイン系統がドレインタンクを有し、前記計測手段が前記ドレインタンクのドレイン量計測器であることを特徴とするガスタービン。
【請求項4】
請求項2または3のガスタービンにおいて、
前記ドレイン系統がUシールを有していることを特徴とするガスタービン。
【請求項5】
請求項3のガスタービンにおいて、
前記ドレインタンク内を負圧にする真空ポンプを有することを特徴とするガスタービン。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかのガスタービンにおいて、
前記圧縮機のケーシングの周方向最下部に温度測定手段を有することを特徴とするガスタービン。
【請求項7】
請求項6のガスタービンにおいて、
前記圧縮機の同一軸方向位置に複数の温度測定手段を有することを特徴とするガスタービン。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかのガスタービンにおいて、
前記圧縮機は抽気系統を有し、前記抽気系統にドレインタンクを備えていることを特徴とするガスタービン。
【請求項9】
請求項1〜8の何れかのガスタービンにおいて、
前記圧縮機に供給される液体が水であることを特徴とするガスタービン。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかのガスタービンにおいて、
前記液滴残存検知手段からの信号を受け、前記燃焼器に接続された燃料系統のバルブに信号を発信する制御器を有することを特徴とするガスタービン。
【請求項11】
空気を圧縮する圧縮機と、前記圧縮機で圧縮された高圧空気と燃料とを混合燃焼させて燃焼ガスを生成する燃焼器と、前記燃焼器で生成された燃焼ガスで回転されるタービンとを備え、前記圧縮機に液体を供給する手段を備えたガスタービンの運転方法において、
前記圧縮機が液滴残存検知手段を備えており、前記液滴残存検知手段での計測結果をもとにパージ運転を制御することを特徴とするガスタービンの運転方法。
【請求項12】
請求項11のガスタービンの運転方法において、
前記圧縮機への液体供給を停止してパージ運転を開始し、前記液滴残存検知手段での計測結果をもとにパージ運転を停止することを特徴とするガスタービンの運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−76345(P2013−76345A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215907(P2011−215907)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】