説明

ガスデポジション装置及びガスデポジション方法

【課題】ガス供給量が低減されたガスデポジション装置を提供すること
【解決手段】
上記課題を解決するための、本発明の一形態に係るガスデポジション装置1は、搬送管4に嵌合する位置と嵌合しない位置のいずれかをとる可動部材15を有するガス規制機構と、微粒子流fの流路上の位置とそれ以外の位置をとる吸引口18を有する吸引機構7とを具備する。
成膜停止時において、可動部材15が搬送管4と嵌合することで、搬送管4の第1の開口4cに流入するガスの流量が規制される。同時に吸引口18が上記規制されたガス流量を微粒子流fの経路上において吸引する。成膜時に搬送管4を流通して微粒子を搬送するガス流量の一部を、成膜停止時において微粒子の排出に流用することにより必要なガス供給量が低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスデポジション装置及びガスデポジション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
成膜方法の一つにガスデポジション法(GD法)がある。GD法は、金属等の成膜材料を加熱して蒸発させると同時にガスを供給し、ガス中で冷却され形成された成膜材料の微粒子をガスの流動により搬送し、成膜対象物に衝突させ堆積させる成膜方法である。GD法に用いられる成膜装置は一般に、成膜材料、加熱手段及びガス供給手段を収容する微粒子生成室(以下、生成室)と、成膜対象物を収容する成膜室を有し、生成室と成膜室は微粒子搬送管(以下、搬送管)により接続されている。
【0003】
当該成膜装置において、例えば、成膜室を減圧すると同時に生成室にガスを供給する等により生成室を成膜室に対して高圧とすることによって、供給されたガスは生成室から成膜室に向かって搬送管を通過して流動し、微粒子を搬送する。成膜室内の搬送管口に十分に開口径の小さいノズルを設けることにより、ガスは高速(例えば亜音速)で噴出し、ガスに搬送されている微粒子も高速で成膜対象物(あるいは既成の膜)に衝突する。微粒子が有する運動エネルギーは熱エネルギーに変換され、微粒子は瞬間的及び局所的に加熱されて溶解し、堆積される。
【0004】
成膜対象物をノズルに対して移動させることによって、成膜対象物に成膜材料からなる薄膜状構造、あるいは3次元構造等を形成することが可能である。ここで、例えば、島状のパターンを形成する場合、あるいは成膜対象物を交換する場合等には、成膜を一時的に停止する必要がある。この成膜の停止時(成膜停止時)において、成膜材料の加熱を停止し、即ち微粒子の形成を停止する場合、再び昇温するまでに時間を要する。また、搬送管をバルブ等により遮断する場合、微粒子が停滞して凝集することにより、ノズルを閉塞させ、あるいは以降の成膜の際に凝集体のまま混入して膜質や密着力を低下させる。また、生成室の圧力が変動することによって微粒子の形成条件が変化し、微粒子の粒径が不均一となること等により膜質が低下するおそれもある。このように、GD法において微粒子の供給を停止させる態様は検討を要する。
【0005】
例えば、特許文献1には、搬送管口(微粒子流入口)を移動させることが可能に構成されたガスデポジション装置が開示されている。当該ガスデポジション装置は、形成される超微粒子の流れが細く収束することを利用し、堆積時(成膜時)には搬送管口を超微粒子の経路中に、堆積停止時(成膜停止時)には搬送管口を超微粒の経路外に移動させる。これにより、成膜時には搬送管に超微粒子が流入して成膜され、成膜停止時には搬送管に超微粒子が流入せず成膜が停止される。成膜停止時においても生成される超微粒子は、搬送管に同心的に配置された吸込管により吸引され、超微粒子生成室内に滞留することなく除去されるとされている。堆積時と堆積停止時では、搬送管及び吸込管に流入するガスの流量は変化せず、超微粒子生成室の圧力は変動しないとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−295525号公報(段落[0014]、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のガスデポジション装置では、必要となるガス供給量が多いという問題があった。
【0008】
即ち、当該ガスデポジション装置では、堆積停止時においても搬送管を介して堆積時と同流量のガスが排出される。また、堆積停止時において蒸発源で生成された微粒子を吸引管によって生成室外へ排出する必要がある。したがって、堆積停止時においても生成室と成膜室との間の差圧を維持するためには、これら搬送管及び吸込管を介して排出されるガス量を生成室へ常に供給しなければならない。実際、堆積停止時において微粒子を確実に排出するためには、吸引管で吸引するガス流量は、搬送管に流入するガス流量の数倍のガス量が必要であった。このため、ノズルの開口径が大きい場合、搬送管へ流入するガス流量が増大すると共に、吸込管に流入するガス流量もそれに伴って増大することになる。
【0009】
以上のことから、当該ガスデポジション装置では、特にノズルの開口径が大きい場合、堆積停止時において多量のガス供給量が必要となるため、成膜に必要な供給ガスのトータル量は著しく増加することになる。
【0010】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、ガス供給量が低減されたガスデポジション装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るガスデポジション装置は、微粒子生成室と、成膜室と、ガス導入系と、搬送管と、ガス規制機構と、吸引機構とを具備する。
上記微粒子生成室は、成膜材料を蒸発させる蒸発源を含む。
上記成膜室は、成膜対象物を収容し真空排気可能である。
上記ガス導入系は、上記微粒子生成室にガスを導入する。
上記搬送管は、上記微粒子生成室に臨み上記蒸発源の鉛直上方に位置する第1の開口を有する第1の端部と、上記成膜室に臨む第2の開口を有する第2の端部とを有する。
上記ガス規制機構は、上記第1の端部に嵌合することで上記第1の開口に流入するガスの流路を制限する第1の位置と上記第1の端部に嵌合しない第2の位置とのいずれかをとる可動部材と、上記可動部材を上記第1の位置と上記第2の位置の間で移動させる駆動源とを有する。
上記吸引機構は、上記可動部材が上記第1の位置にある場合に上記蒸発源と上記第1の開口との間にある第3の位置に位置し、上記可動部材が上記第2の位置にある場合に上記第3の位置と異なる第4の位置に位置する吸引口を有し、上記吸引口が上記第3の位置にある場合に上記ガスを吸引し、上記吸引口が上記第4の位置にある場合に上記ガスの吸引を停止する。
【0012】
本発明の一形態に係るガスデポジション方法は、微粒子生成室にガスを導入して成膜室と上記微粒子生成室の間に差圧を形成することを含む。
上記成膜材料の微粒子は、上記微粒子生成室内に配置された蒸発源によって成膜材料を蒸発させて生成される。
上記微粒子は、搬送管の上記微粒子生成室に臨む第1の開口から上記搬送管の上記成膜室に臨む第2の開口にガスを流通させることで、上記成膜室内に設置された成膜対象物に
堆積される。
堆積は、可動部材を上記搬送管に嵌合させて上記第1の開口に流入する上記ガスの流路を制限し、上記蒸発源から上記第1の開口へ向かう上記ガスを吸引機構によって吸引することで停止される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係るガスデポジション装置の概略構成を示す図である。
【図2】当該ガスデポジション装置のガス規制機構及び吸引機構の詳細について説明する図である。
【図3】当該ガスデポジション装置の可動部材と搬送管の嵌合について説明する図である。
【図4】当該ガスデポジション装置を用いる成膜の様子を示す図である。
【図5】当該ガスデポジション装置の微粒子生成室のガスフローを説明する図である。
【図6】当該ガスデポジション装置の微粒子生成室のガスフローを説明する図である。
【図7】比較例に係るガスデポジション装置の微粒子生成室のガスフローを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係るガスデポジション装置は、微粒子生成室と、成膜室と、ガス導入系と、搬送管と、ガス規制機構と、吸引機構とを具備する。
上記微粒子生成室は、成膜材料を蒸発させる蒸発源を含む。
上記成膜室は、成膜対象物を収容し真空排気可能である。
上記ガス導入系は、上記微粒子生成室にガスを導入する。
上記搬送管は、上記微粒子生成室に臨み上記蒸発源の鉛直上方に位置する第1の開口を有する第1の端部と、上記成膜室に臨む第2の開口を有する第2の端部とを有する。
上記ガス規制機構は、上記第1の端部に嵌合することで上記第1の開口に流入するガスの流路を制限する第1の位置と上記第1の端部に嵌合しない第2の位置とのいずれかをとる可動部材と、上記可動部材を上記第1の位置と上記第2の位置の間で移動させる駆動源とを有する。
上記吸引機構は、上記可動部材が上記第1の位置にある場合に上記蒸発源と上記第1の開口との間にある第3の位置に位置し、上記可動部材が上記第2の位置にある場合に上記第3の位置と異なる第4の位置に位置する吸引口を有し、上記吸引口が上記第3の位置にある場合に上記ガスを吸引し、上記吸引口が上記第4の位置にある場合に上記ガスの吸引を停止する。
【0015】
上記ガスデポジション装置においては、ガス規制機構の可動部材が第2の位置にあり、吸引機構の吸引口が第4の位置にある場合に成膜材料の微粒子が堆積(成膜時)され、可動部材が第1の位置にあり、吸引口が第3の位置にある場合に微粒子の堆積が停止(成膜停止時)される。
【0016】
成膜停止時において、ガス導入系により微粒子生成室内に導入されるガスは、微粒子生成室と成膜室の圧力差により第1の開口に流入しようとするが、ガス規制機構によりその流入を規制され、成膜時に比べ搬送管を通過するガス流量は減少する。一方、吸引機構は、蒸発源で生成された微粒子を排出する。このとき、吸引機構は、上記第3の位置に位置しているため、生成された微粒子を効率よく排出することができる。したがって、吸引機構で排出するガス量は、少なくとも、生成室に供給されたガス量と、上記ガス規制機構によって流量が減少されたガス量との差に相当する量であればよい。
以上のように、上記ガスデポジション装置によれば、成膜停止時においても成膜時と同等のガス供給量で、生成室と成膜室との間の所定の圧力差を維持できるとともに、生成室内における微粒子の滞留を防止することが可能となる。
【0017】
上記搬送管は、上記第1の端部が水平方向に延びてもよく、上記可動部材は、上記第1の位置から上記第2の位置へ、及び上記第2の位置から上記第1の位置へ水平方向に移動してもよい。
【0018】
この構成によれば、ガス規制機構の可動部材に付着する微粒子を低減することが可能となる。微粒子流は熱対流により蒸発源から鉛直上方に流れる。一方、可動部材が第2の位置から第1の位置に移動する際、移動過程では微粒子流の一部が吸引機構に吸引され、一部は搬送管の第1の開口に流入する。可動部材の移動方向を水平、即ち微粒子流の流れる方向に対して垂直とすれば、可動部材が移動中に微粒子流と接触する面積を最小限とすることが可能である。
【0019】
上記吸引口は、上記可動部材に固定されていてもよい。
【0020】
この構成によれば、吸引機構の吸引口をガス規制機構の駆動源によって、可動部材と一体的に移動させることが可能となる。上述のように、可動部材が搬送管に接近し、第1の開口へのガスの流入が規制されると同時に吸引口によりガス及び微粒子が吸引される。即ち、可動部材の第1の位置と吸引口の第3の位置、可動部材の第2の位置と吸引口の第4の位置は対応している。このため、吸引口を可動部材に固定することにより、別途吸引口を移動させるための機構を要しない。
【0021】
上記第2の端部は、スリット型ノズルであってもよい。
【0022】
この構成によれば、ガス供給量を低減しつつ、大面積への堆積が可能となる。一般に、スリット型ノズルでは、大きな成膜面積を得ることが可能であるが、微粒子の速度を維持するために必要なガス流量は増加する。本構成では上述のように、成膜停止時にノズルを通過するガス量、即ち搬送管を流通するガス流量を低減することが可能であるため、ガス供給量を低減することが可能である。
【0023】
上記ガスデポジション装置は、上記第1の開口の鉛直上方に設けられ、上記吸引口が上記第3の位置にある場合に上記吸引機構が吸引する上記ガスの流量より小さい流量の上記ガスを常時吸引する補助吸引機構をさらに具備してもよい。
【0024】
この構成によれば、微粒子生成室内を浮遊する微粒子を除去することが可能となる。生成した微粒子の一部が、微粒子流から逸脱し、あるいは吸引口に吸引されないことにより搬送管の第1の開口及び吸引口のいずれにも吸引されず、微粒子生成室内を浮遊する場合がある。浮遊する微粒子は互いに凝集し、この凝集した微粒子が第1の開口に流入すると、ノズルが閉塞し、あるいは膜中に混入して膜品質を低下させるおそれがある。本構成ではこのような浮遊する微粒子を補助吸引機構によりガスと共に吸引することで除去することが可能となる。なお、補助吸引機構は、微粒子流そのものを吸引する必要がないため、その吸引量は搬送管に流入するガス流量に比べ十分小さく、ガス供給量に占める割合は少ない。
【0025】
本発明の一実施形態に係るガスデポジション方法は、微粒子生成室にガスを導入して成膜室と上記微粒子生成室の間に差圧を形成することを含む。
上記成膜材料の微粒子は、上記微粒子生成室内に配置された蒸発源によって成膜材料を蒸発させて生成される。
上記微粒子は、搬送管の上記微粒子生成室に臨む第1の開口から上記搬送管の上記成膜室に臨む第2の開口にガスを流通させることで、上記成膜室内に設置された成膜対象物に
堆積される。
堆積は、可動部材を上記搬送管に嵌合させて上記第1の開口に流入する上記ガスの流路を制限し、上記蒸発源から上記第1の開口へ向かう上記ガスを吸引機構によって吸引することで停止される。
【0026】
上記堆積を停止させる工程では、上記第1の開口への流入を制限された上記ガスと同流量の上記ガスを上記吸引機構によって吸引してもよい。
【0027】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るガスデポジション装置1の概略構成を示す図である。
同図に示すように、ガスデポジション装置1は、微粒子生成室2と、成膜室3と、搬送管4と、ガス導入系5と、ガス規制機構6と、吸引機構7とを具備する。微粒子生成室2と成膜室3とは搬送管4によって連結されている。微粒子生成室2にはガス規制機構6と吸引機構7が取り付けられている。
【0028】
ガスデポジション装置1は、また、微粒子生成室に取り付けられた補助吸引機構8と、微粒子生成室2及び成膜室3に接続された真空排気系9と、微粒子生成室2に収容された蒸発源10と、成膜室3に収容された成膜対象物sを有する。また、図1には成膜材料の微粒子の流れである微粒子流fを示す。
【0029】
微粒子生成室2は、室内と外部を遮断し、室内を気密に維持する。微粒子生成室2は蒸発源10を収容し、真空排気系9、ガス導入系5と接続されている。また、微粒子生成室2にはガス規制機構6、吸引機構7、補助吸引機構8が取り付けられている。
【0030】
成膜室3は、室内と外部を遮断し、室内を気密に維持する。成膜室3は成膜対象物sを収容し、真空排気系9と接続されている。
【0031】
搬送管4は、微粒子生成室2と成膜室3を連結する。搬送管4は、微粒子生成室2内の部分である第1の端部4aと成膜室3内の部分である第2の端部4bを有する。また第1の端部4aは搬送管4の微粒子生成室2側の開口である第1の開口4cを有し、第2の端部4bは搬送管4の成膜室側の開口である第2の開口4dを有する。第1の端部4aは後述する可動部材15と嵌合することが可能に形成され、水平方向に伸びるように形成される。第1の端部4aの形状はこれに限られず、可動部材15の移動方向に対して伸びるように形成されればよい。第2の端部4bは成膜対象物sと対向するノズルであり、例えばスリット型ノズルとされる。第1の開口4cは蒸発源10の鉛直上方に位置し、鉛直下方に傾斜するように形成される。これは、可動部材15と嵌合する際にコンダクタンスが急激に変化しないように形成されるものであり、この形状に限られない。第2の開口4d(ノズル開口)は例えばスリット幅0.3mm、スリット長さ30mmのスリット型の開口を有する。また、搬送管4は、搬送管4への微粒子の付着を低減するためのヒーター等の加熱手段を備えていてもよい。
【0032】
ガス導入系5は、微粒子生成室2にガスを導入する。ガス導入系5は、ガス源11と、配管12と、バルブ13と、ガス導入孔14を有する。微粒子生成室2の室内にガス導入孔14が配置され、ガス導入孔14とガス源11は配管12によって接続される。配管12上にはバルブ13が設けられる。ガス源11は例えばガスボンベである。ガス導入孔14は蒸発源10によって蒸発した成膜材料の微粒子流を阻害しないように、例えば蒸発源10の周囲を取り囲むように配置される。
【0033】
なお、ガス導入系5から導入されるガスには、典型的には、例えばAr、He、N等の不活性ガスが用いられる。また、上記ガスに酸素などの反応性ガスを用いることにより、微粒子の酸化物膜などを形成することができる。
【0034】
ガス規制機構6は、成膜時において搬送管4の第1の開口4cへのガスの流入を規制せず、成膜停止時において第1の開口4cへのガスの流入を規制する。ガス規制機構6は、可動部材15と、シャフト16と、駆動源17を有する。可動部材15は微粒子生成室2の室内に、駆動源17は微粒子生成室2の室外に配置され、微粒子生成室2の壁面を貫通するシャフト16によって連結されている。駆動源17によってシャフト16が駆動され、可動部材15が移動可能に構成されている。可動部材15は、可動部材15への微粒子の付着を低減するためのヒーター等の加熱手段を備えていてもよい。ガス規制機構6の詳細については後述する。
【0035】
吸引機構7は、成膜時においては作動せず、成膜停止時においてガス及び微粒子を吸引する。吸引機構7は、吸引口18と、配管19と、バルブ20と、フィルター21と、流量調節バルブ22と、排気ポンプ23とを有する。吸引口18は、配管19によって排気ポンプ23に接続されている。配管19上にバルブ20、フィルター21、流量調節バルブ22が設けられている。吸引機構7の詳細については後述する。
【0036】
補助吸引機構8は、微粒子生成室2内に浮遊する微粒子を吸引する。補助吸引機構8は、吸引口35と、配管24と、バルブ25と、フィルター26と、流量調節バルブ27と、排気ポンプ28とを有する。吸引口35は微粒子生成室2内に配置され、配管24によって排気ポンプ28に接続されている。配管24上にバルブ25、フィルター26及び流量調節バルブ27が設けられている。後述するが、補助吸引機構8は微粒子生成室2内を浮遊する微粒子を吸引するためのものである。微粒子が浮遊しない場合、あるいは微粒子の浮遊が問題とならない場合は必ずしも設けなくてもよい。
【0037】
真空排気系9は、微粒子生成室2及び成膜室3を真空排気する。真空排気系9は真空ポンプ32と、配管29と、バルブ30と、バルブ31とを有する。微粒子生成室2及び成膜室3は配管29によって真空ポンプ32と接続され、配管29上の、微粒子生成室2と真空ポンプ32との間にバルブ30が、成膜室3と真空ポンプ32との間にバルブ31が設けられている。
【0038】
蒸発源10は、成膜材料mを蒸発させる。蒸発源10は例えば抵抗加熱、高周波誘導加熱あるいはレーザー加熱等の原理により成膜材料mを加熱し蒸発させることが可能に構成されている。蒸発源10は位置調節機構33によって微粒子生成室2内に、搬送管4の第1の開口4cと対向する位置に支持されている。位置調節機構33は、蒸発源10を支持し、蒸発源10の位置を調節することが可能に構成されている。成膜材料mは例えばLi、Au、Ag、Cu、Sn、In、Ni、Fe、Co、Fe−Ni、Fe−Co、Au−Sn等の金属および合金からなる。
【0039】
成膜室3には成膜対象物sが配置されている。成膜対象物sは図示しない支持機構によって第2の開口4d(ノズル開口)に対して移動可能に支持される。成膜対象物sは例えばロール状基材、平板基材等である。
【0040】
ガス規制機構6と吸引機構7の詳細について説明する。
図2はガス規制機構6及び吸引機構7の詳細について説明する図である。図2(A)は可動部材15が第2の位置、吸引口18が第4の位置にある場合、図2(B)は可動部材15が第1の位置、吸引口18が第3の位置にある場合を示す。なお、図2では搬送管4は図示しない。
【0041】
ガス規制機構6について第2の位置は、可動部材15が搬送管4と嵌合しない位置であり、第1の位置は可動部材15が搬送管4と嵌合する位置である。また、吸引口18について第4の位置は、蒸発源10と第1の開口4cの間の位置であり、第3の位置は蒸発源10と第1の開口4cの間の位置である。
【0042】
図2に示すように、ガス規制機構6の可動部材15は微粒子生成室2の壁面を貫通するシャフト16によって支持されている。シャフト16は可撓性を有するベローズジョイント36によって気密に被覆されている。可動部材15は連結されたシャフト16が図示しない駆動源17によって直線運動することによって第2の位置から第1の位置へ、及び第1の位置から第2の位置へ移動する。可動部材15の移動方向は、後述する、鉛直上方に流れる微粒子流に対して垂直な方向、即ち水平方向とすることができる。駆動源17によって可動部材15が移動する速度は調節することが可能とされている。なお、ガス規制機構6は上述のような構成に限られず、可動部材15が第1の位置から第2の位置へ移動することが可能な構成であればよい。
【0043】
また、同図に示すように、吸引機構7の吸引口18はガス規制機構6の可動部材15に支持され、ガス規制機構6の移動に伴って第4の位置から第3の位置へ、及び第3の位置から第4の位置へ移動するように構成される。吸引口18は配管19に接続され、配管19の一部は吸引口18の移動に対応するためのフレキシブル配管19’とされている。吸引口18は微粒子を吸引することが可能な面積を確保するために例えば図示するような開口形状が円形のカサ状とすることができる。なお、吸引機構7は上述のような構成に限られず、可動部材15の移動に伴って移動可能な構成であればよい。例えば吸引口18が可動部材15に支持される構成に限られず、吸引口18を移動させる駆動源が独立に設けられてもよい。
【0044】
可動部材15と搬送管4の嵌合について説明する。
図3は可動部材15と搬送管4の嵌合について説明する図である。図3(A)は可動部材15が第2の位置、吸引口18が第4の位置にある場合、図3(B)は可動部材15が第1の位置、吸引口18が第3の位置にある場合を示す。なお、図3では微粒子流及び吸引機構7は図示しない。
【0045】
同図に示すように、可動部材15は第2の位置において搬送管4の第1の端部4aと離間し、第1の位置において第1の端部4aと嵌合することが可能に形成される。可動部材15が搬送管4に嵌合された際、可動部材15と搬送管4の間には所定の間隙が形成される。この間隙は、第1の開口4c付近に付着した微粒子が外挿の際に剥ぎ取られ、搬送管4内に進入することを防止するために十分な大きさにされる。搬送管4は断面が一様な管とされ、可動部材15は搬送管4の外径より大きい内径の開口を有する筒状の部材とされることができる。可動部材15が第1の位置にある場合において、搬送管4の第1の開口4cから一定の長さ(例えば搬送管4の内径の3倍程度)の部分である第1の端部が可動部材15と嵌合する。搬送管4は少なくとも第1の端部4aが可動部材15の移動方向に沿うように配置される。
【0046】
以上のように可動部材15と搬送管4が構成されることにより、搬送管4に進入するガスは、第2の位置においては第1の開口4cから、第1の位置のおいては第1の開口4cより開口面積の小さい第1の開口4c’から流入する。このため、可動部材15が第1の位置にある場合に比べ第2の位置にある場合は流路が制限され、搬送管4に流入するガスのコンダクタンスは小さくなる。即ち、第1の位置においては第2の位置に比べ、第1の開口4cに流入するガスは規制される。
【0047】
なお、可動部材15と搬送管4は上述したような構成に限られず、第1の位置において第1の開口4cより流入するガスが規制される構成であればよい。可動部材15が搬送管4に外挿される構成を示したが、可動部材15が搬送管4に内挿される構成であってもよい。この場合、可動部材15は搬送管4の内径より小さい外形を有する棒状の部材とすることができる。
【0048】
また、可動部材15の搬送管4側の端15aと吸引口18の搬送管4側の端18aは水平位置が一致しているほうがよい。上述のように可動部材15が搬送管4に嵌合し搬送管4に流入するガスが規制されるとともに吸引口18からガスが吸引され、微粒子生成室2の圧力が一定に維持される。端15aが端18aより搬送管4に接近している場合、搬送管4へのガスの流入が規制される一方、微粒子流fは吸引口18により吸引されないため、可動部材15に微粒子が付着するおそれがある。また端18aが端15aより搬送管に接近している場合、端18aが微粒子流fに侵入する一方、吸引口18からの吸引は依然されない(微粒子生成室2の圧力を維持するため)ため、微粒子流fが吸引口18により阻害され飛散するおそれがある。
【0049】
以上のように構成されたガスデポジション装置1を用いるガスデポジション方法ついて説明する。
【0050】
成膜の準備として以下の操作を行う。この時点でガス規制機構6の可動部材15は第2の位置にあり、吸引機構7の吸引口18は第4の位置にあるとする。なお、ここでは補助吸引機構8による吸引がなされない場合について説明し、補助吸引機構8の動作については後述する。
【0051】
蒸発源10に成膜材料mを配置し、成膜室3内の支持機構に成膜対象物sを配置する。
真空排気系9により微粒子生成室2及び成膜室3内の気体を排気する。真空ポンプ32を運転し、バルブ30及びバルブ31を開放する。微粒子生成室2が十分に排気された時点でバルブ30を閉止し、微粒子生成室2の排気を停止する。なお、バルブ31は閉止せず、成膜室3は継続して排気する。
【0052】
ガス導入系5から微粒子生成室2内にガスを導入する。
バルブ13を開放し、ガス源11からガスを流通させる。微粒子生成室2にガスが導入される一方、成膜室3は継続して排気されているため、微粒子生成室2と成膜室3には圧力差が生じる。所定の圧力差(例えば1気圧)になるようにガス供給量を調節する。この圧力差により、導入されたガスは搬送管4の第1の開口4cへ流入し、第2の開口4dから流出する。
【0053】
次に、ガス規制機構6の可動部材15を第2の位置から第1の位置に移動させ、吸引機構7の吸引口18を第4の位置から第3の位置に移動させ、吸引機構7によりガスを吸引させる。
排気ポンプ23を動作させ、バルブ20を開放する。駆動源17により、可動部材15及び吸引口18を移動させる。可動部材15が第1の位置に移動すると、可動部材15と搬送管4が嵌合して第1の開口4c’が形成され、搬送管4に流入するガスのコンダクタンスが低下し、即ち流入するガス流量が低下するため、その減少分に相当する量を吸引機構7により吸引口18から吸引する。
【0054】
次に、蒸発源10により成膜材料mを蒸発させる。蒸発した成膜材料mの気体は冷却され微粒子が生成される。微粒子は熱対流及びガス導入孔14から導入されるガス流によって収束し、蒸発源10から鉛直上方に流れる微粒子流fが形成される。ここで、微粒子流fは蒸発源10の鉛直上方に移動している吸引口18によりガスと共に吸引される。蒸発源10による成膜材料mの蒸発が開始された直後は、微粒子流fに含まれる微粒子の量が少ない、あるいは安定しないため、形成される微粒子の量が所定の量になるまで吸引口18による吸引が維持される。なお、吸引口18に吸引された微粒子はフィルター21により捕集される。
【0055】
以上のように微粒子生成室2と成膜室3が所定の圧力差に維持され、所定の微粒子量を含む微粒子流fが形成されている状態で成膜が開始される。成膜時では微粒子流fが搬送管4の第1の開口4cに流入して第2の開口4dから噴射されて成膜対象物sに堆積され、成膜停止時では微粒子流fが第1の開口4cに流入しない。例えば成膜対象物s上に島状のパターンを形成する場合、あるいは成膜対象物sを交換する場合等には成膜時と成膜停止時が切り替えられる。本実施形態に係るガスデポジション装置1では、第2の端部4bがスリット型ノズルとされているため、成膜対象物sを一方向に移動させることにより、大面積に成膜することが可能である。なお、準備段階において、噴出する微粒子の量を測定し、位置調節機構33により蒸発源10の位置を第1の開口4cの鉛直下方に位置するように調整してもよい。
【0056】
図4は成膜の様子を示す図である。図4(A)は成膜時、図4(C)は成膜停止時を示し、図4(B)は成膜時と成膜停止時の間の遷移時を示す。
図5は、微粒子生成室2のガスフローを説明する図である。図5(A)は成膜時、図5(B)は成膜停止時を示す。
【0057】
図4(A)に示す成膜時について説明する。
駆動源17により、可動部材15を第1の位置から第2の位置へ、吸引口18を第3の位置から第4の位置へ移動させ、吸引機構7による吸引口18からの吸引を停止する。蒸発源10から鉛直上方に流れる微粒子流fはガスと共に第1の開口4cに流入し第2の開口4dから噴出する。吸引口18は蒸発源10の鉛直上方にない第4の位置に存在しているため、微粒子流fは妨げられることなく第1の開口4cに流入することが可能である。
【0058】
図5(A)に示すように、成膜時(deposition on)においては、微粒子生成室2のガスフローは、ガス導入系5から導入されるガス流量(ガス供給量)がX(L/min)、搬送管4に流入するガス流量がX(L/min)となり、微粒子生成室2と成膜室3は所定の圧力差となる。成膜時に必要なガス供給量は、搬送管4に粒子を搬送するために必要なガス流量と同量であり、成膜停止時に粒子を排出するために必要なガス流量に相当するガス流量は含まれていない。即ち、ガス供給量は必要最低限とすることが可能である。
【0059】
例えば、第2の端部4bを内径1mmの丸型ノズルとし、Heガスを用いる場合、ガス供給量(X)を10L/minとすることにより、搬送管4に流入するガス流量(X)は10L/min、圧力差1気圧となる。また、第2の端部4bを流路のスリット幅0.3mm、スリット長さ30mmのスリット型ノズルとし、Nガスを用いる場合、ガス供給量(X)を120L/minとすることにより、搬送管4に流入するガス流量(X)は120L/min、圧力差1気圧となる。
【0060】
図4(C)に示す成膜停止時について説明する。
駆動源17により、可動部材15を第2の位置から第1の位置へ、吸引口18を第4の位置から第3の位置に移動させ、吸引機構7によりガス及び微粒子を吸引する。可動部材15が搬送管4の第1の端部4aに嵌合しているため、第1の開口4cよりも面積の小さい第1の開口4c’が形成され、搬送管4に流入するガスの流量は減少する。一方で、この減少分に相当する流量を吸引口18により吸引することで、微粒子生成室2の圧力を成膜時と同圧に維持することが可能である。吸引機構7による吸引量は流量調節バルブ22により調整することができ、例えば図示しない圧力センサにより微粒子生成室2の圧力を監視し、フィードバックすることにより実現される。また、吸引口18は蒸発源10の鉛直上方、即ち微粒子流fの経路上である第3の位置に存在し、微粒子流fを吸引するため、微粒子流fに含まれる微粒子のほぼ全てを吸引することが可能である。
【0061】
図5(B)に示すように、成膜停止時(deposition off)においては、微粒子生成室2のガスフローは、ガス導入系5から導入されるガス流量(ガス供給量)がX(L/min)、搬送管4に流入するガス流量がY(L/min)である場合に吸引口18に吸引されるガス流量をX−Y(L/min)とする。これにより、微粒子生成室2と成膜室3の圧力差を成膜時における圧力差のまま維持することが可能である。成膜停止時に必要なガス供給量は、微粒子を除去するために必要なガス流量と、搬送管4内の微粒子の滞留を防ぐために搬送管4内必要なガス流量との和と同量である。搬送管4へのガスの流入はガス規制機構6によって規制されているため、搬送管4内を流通するガス流量は成膜時よりも低減されており、搬送管4を流通して排出される過剰なガス流量を抑制することが可能である。
【0062】
例えば、第2の端部4bが内径1mmの丸型ノズルであり、Heガスを用いる場合であって、ガス供給量(X)が10L/min、搬送管4に流入するガス流量(Y)が5L/minである場合に、吸引口18に吸引されるガス流量を5L/min(X−Y)とすることによって、微粒子生成室2と成膜室3の圧力差を1気圧のまま維持することが可能である。また、第2の端部4bが流路のスリット幅0.3mm、スリット長さ30mmのスリット型ノズルであり、Nガスを用いる場合であって、ガス供給量(X)が120L/min、搬送管4に流入するガス流量(Y)が40L/minである場合に、吸引口18に吸引されるガス流量を80L/min(X−Y)とすることによって、圧力差を1気圧のまま維持することが可能である。換言すれば、圧力差を1気圧のまま維持しながら、ガス供給量を成膜時と同量とすることが可能である。
【0063】
図4(B)に示す遷移時について説明する。
上述した成膜時と成膜停止時を切り替える際、駆動源17により可動部材15を第1の位置と第2の位置の間で、また、吸引口18を第3の位置と第4の位置の間で移動させ、吸引機構7による吸引量を調節する。可動部材15が第1の位置と第2の位置との間で移動する過程では、搬送管4に流入するガスのコンダクタンスは成膜時より小さく、成膜停止時より大きくなるため、搬送管4に流入するガスの流量も成膜時より小さく、成膜停止時より大きくなる。このため、吸引口18から吸引されるガス流量を、搬送管4に流入するガス流量と吸引口18に流入するガス流量の和が一定となるように連続的に調節することにより、遷移時においても微粒子生成室の圧力を一定とすることが可能である。また、遷移時間が十分短く、微粒子生成室2の容積が十分大きい場合、微粒子生成室2内のガス量の若干の変動は吸収されるため、吸引口18の吸引量を連続的に調節ことは要しない。また、遷移時においては、吸引口18は微粒子流fに部分的に進入する位置をとる。上述のように可動部材15の端15aと吸引口18の端18aの水平位置は一致しているため、微粒子流fは一部が吸引口18に吸引され、他の一部が吸引口18に吸引されず鉛直上方に流れる。ここで、搬送管4の第1の開口4cは鉛直下方に傾斜するように形成されているため、可動部材15と搬送管4の嵌合が開始されても、微粒子流fが第1の開口4cに流入する隙間が確保され、微粒子流の他の一部を第1の開口4cに流入させることが可能となる。
【0064】
以上のように、成膜時において供給されているガス流量を、成膜停止時にガス規制機構6によって搬送管4への流入を防止すると共に吸引機構7によって吸引する。これにより、搬送管4を通過して成膜室3へ排出されるガス流量を、搬送管4内の微粒子の滞留を防止するために必要な流量を残して低減することが可能である。また、搬送管4の流入を規制されたガス流量を微粒子生成室2からの微粒子の排出に用いることにより、ガス導入系5からのガス供給量の調節を要することなく微粒子生成室2内の圧力を維持し、微粒子生成室2内の微粒子の滞留を防止することが可能である。即ち、成膜時において微粒子の搬送に必要不可欠なガス流量は、成膜停止時において搬送管4内の微粒子の滞留防止と微粒子生成室2内からの微粒子の排出に用いられ、不要に排出されるガス供給量を削減することが可能である。
【0065】
以下、補助吸引機構8の動作について説明する。
図6は、微粒子生成室2のガスフローを説明する図である。図6(A)は成膜時、図6(B)は成膜停止時を示す。
【0066】
補助吸引機構8は、遷移時において、吸引機構7の吸引口18によって吸引されず、かつ第1の開口4cに流入しなかった微粒子の吸引を主な目的として設けられる。また、成膜時及び成膜停止時において微粒子流fから逸脱し、微粒子生成室2を浮遊する微粒子が生じる場合もあり、この浮遊する微粒子も補助吸引機構8によって除去される。
【0067】
補助吸引機構8は成膜中に連続して動作させてもよい。この場合、上述の成膜準備の段階で補助吸引機構8による吸引を開始することができる。本実施形態にかかるガスデポジション装置1では、成膜時には生成された微粒子流fはそのほぼ全量が搬送管4に流入し、成膜停止時には微粒子流fのそのほぼ全量が吸引機構7に吸引される。ガスデポジション装置1は成膜停止時に主として補助吸引機構8によって微粒子流fを吸引する構成とは異なり、補助吸引機構8の吸引量はガス供給量に比べて十分小さいものとすることが可能であり、例えばガス供給量の10%以下とすることが可能である。これにより、補助吸引機構8によって微粒子流fを吸引する構成に比べ、ガス供給量を低減することが可能である。
【0068】
上述の例において補助吸引機構8を動作させた場合、成膜時(deposition on)では図6(A)に示すように、ガス供給流量をX+α(L/min)、搬送管4に流入するガス流量をX(L/min)、補助吸引機構8による吸引量をα(L/min)とすることが可能である。また、成膜停止時(deposition off)では図6(B)に示すように、ガス供給流量をX+α(L/min)、搬送管4に流入するガス流量をY(L/min)、吸引口18に吸引されるガス流量をX+α−Y(L/min)、補助吸引機構8による吸引量をα(L/min)とすることができる。なお、補助吸引機構8は成膜中連続して動作させる場合に限られず、遷移時、あるいは遷移時後に短時間動作させてもよい。補助吸引機構8による吸引量αは例えば1L/minとすることが可能である。
【0069】
以上、本実施形態に係るガスデポジション装置1によるガスデポジション方法について説明した。ガス供給量が低減される理由について以下で説明する。
図7は比較例としてのガスデポジション装置の微粒子生成室のガスフローを説明する図である。図7(A)は成膜時、図7(B)は成膜停止時を示す。
【0070】
一般的なガスデポジション装置において、成膜停止時に搬送管からの微粒子の噴出を停止するためには、例えばバルブ等により搬送管を遮断することが考えられる。しかし、搬送管が遮断されることにより、搬送管を流れるガス流が停止し搬送管内に微粒子が付着、凝集するおそれがある。また、微粒子生成室へのガス供給を停止するとしても、微粒子生成室の圧力が変動し、微粒子生成条件が変化するため好ましくない。
【0071】
このため、成膜停止時においても搬送管内にガスを流通させることが考えられる。この場合、成膜停止時において搬送管への微粒子の流入を防止する必要があり、例えば生成される微粒子を別途吸引することが考えられる。しかしながら、この場合、成膜停止時において、搬送管に流入するガス流量に加え、微粒子の吸引に要するガス流量が必要となる。この微粒子の吸引に要するガス流量は、搬送管への微粒子の流入を阻止する必要があるため、搬送管へのガス流量の数倍のガス流量が必要である。一方、微粒子生成室の圧力を維持するためには、これらの和に相当するガス流量を供給する必要がある。このため、特にノズルの開口径が大きい場合、即ち搬送管を流通するガス流量が多い場合、成膜停止時において必要なガス供給量も増大する。
【0072】
例えば、図7に示す比較例では、図7(A)に示す成膜時(deposition on)においては、必要なガス供給量X(L/min)は搬送管に流入するガス流量X(L/min)と同量である。一方、図7(B)に示す成膜停止時(deposition off)においては、必要なガス供給量4X(L/min)は、搬送管に流入するガス流量X(L/min)と微粒子の除去に要するガス流量の3X(L/min)の和である。搬送管に流入するガス流量が多い場合、ガス供給量も多量に必要である。
【0073】
これに対し、本実施形態にかかるガスデポジション装置1によるガスデポジション方法では、成膜停止時において可動部材15により搬送管4へ流入するガス流量を成膜時に対して低減させる。また、同時に吸引口18により微粒子流fの経路上で、低減されたガス流量に相当するガス流量を吸引する。これにより、微粒子を滞留させることなく除去し、かつ、微粒子生成室2の圧力を維持することが可能である。即ち、成膜停止時において微粒子を排出するために必要なガス流量を、成膜時において搬送管4を流通させるのに必要となるガス流量の一部を流用することにより確保するため、微粒子を排出するためのガス流量を別途供給する必要はなく、ガス供給流量を低減することが可能である。
【0074】
例えば、図5に示したように、本実施形態に係るガスデポジション装置1では、成膜時(deposition on)においては、必要なガス供給量X(L/min)は搬送管4に流入するガス流量X(L/min)と同量である。また、成膜停止時(deposition off)においては、必要となるガス供給量は搬送管4に流入するガス流量Y(L/min)と微粒子の除去に要するガス流量の(X−Y)L/minの和であるX(L/min)であり、比較例の場合と比べて低減することが可能である。
【0075】
具体的には、上述のように、搬送管のノズルが内径1mmの丸型ノズルであり、圧力差1気圧において搬送管に流入するガス流量(X)は10L/minである。比較例の場合、成膜停止時に必要なガス供給量(4X)は40L/minであるのに対し、本実施形態の場合は10L/minであり、即ち、ガス供給量を30L/min低減することが可能である。また搬送管のノズルが流路のスリット幅0.3mm、スリット長さ30mmのスリット型ノズルであり、Nガス使用時に、圧力差1気圧において搬送管に流入するガス流量(X)は120L/minである。比較例の場合、成膜停止時に必要なガス供給量(4X)は480L/minであるのに対し、本実施形態の場合は120L/minであり、即ち、ガス供給量を360L/min低減することが可能である。このように、特にノズルの開口径が大きい場合、即ち搬送管を流通するガス流量が多い場合、必要なガス供給量を大幅に低減することが可能である。
【0076】
本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において変更され得る。
【0077】
上述の実施形態では、搬送管4の第1の開口4cは鉛直下方に向けて斜めになるように形成されているものとしたが、これに限られず、ガス規制機構6の可動部材15と嵌合することにより第1の開口4cに流入するガスのコンダクタンスを可変できる構成であればよい。例えば、第1の開口4は、第1の端部4aに搬送管4の長手方向に沿って形成されたスリット状とすることもできる。
【符号の説明】
【0078】
1 ガスデポジション装置
2 微粒子生成室
3 成膜室
4 搬送管
4a 第1の端部
4b 第2の端部
4c 第1の開口
4d 第2の開口
5 ガス導入系
6 ガス規制機構
7 吸引機構
8 補助吸引機構
10 蒸発源
15 可動部材
17 駆動源
18 吸引口
s 成膜対象物
f 微粒子流
m 成膜材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜材料を蒸発させる蒸発源を含む微粒子生成室と、
成膜対象物を収容する真空排気可能な成膜室と、
前記微粒子生成室にガスを導入するガス導入系と、
前記微粒子生成室に臨み前記蒸発源の鉛直上方に位置する第1の開口を有する第1の端部と、前記成膜室に臨む第2の開口を有する第2の端部とを有する搬送管と、
前記第1の端部に嵌合することで前記第1の開口に流入するガスの流路を制限する第1の位置と前記第1の端部に嵌合しない第2の位置とのいずれかをとる可動部材と、前記可動部材を前記第1の位置と前記第2の位置の間で移動させる駆動源とを有するガス規制機構と、
前記可動部材が前記第1の位置にある場合に前記蒸発源と前記第1の開口との間にある第3の位置に位置し、前記可動部材が前記第2の位置にある場合に前記第3の位置と異なる第4の位置に位置する吸引口を有し、前記吸引口が前記第3の位置にある場合に前記ガスを吸引し、前記吸引口が前記第4の位置にある場合に前記ガスの吸引を停止する吸引機構と
を具備するガスデポジション装置。
【請求項2】
請求項1に記載のガスデポジション装置であって、
前記搬送管は、前記第1の端部が水平方向に延び、
前記可動部材は、前記第1の位置から前記第2の位置へ、及び前記第2の位置から前記第1の位置へ水平方向に移動する
ガスデポジション装置。
【請求項3】
請求項2に記載のガスデポジション装置であって、
前記吸引口は前記可動部材に固定されている
ガスデポジション装置。
【請求項4】
請求項3に記載のガスデポジション装置であって、
前記第2の端部はスリット型ノズルである
ガスデポジション装置。
【請求項5】
請求項1に記載のガスデポジション装置であって、
前記第1の開口の鉛直上方に設けられ、前記吸引口が前記第3の位置にある場合に前記吸引機構が吸引する前記ガスの流量より小さい流量の前記ガスを常時吸引する補助吸引機構をさらに具備する
ガスデポジション装置。
【請求項6】
微粒子生成室にガスを導入して成膜室と前記微粒子生成室の間に差圧を形成し、
前記微粒子生成室内に配置された蒸発源によって成膜材料を蒸発させて前記成膜材料の微粒子を生成させ、
搬送管の前記微粒子生成室に臨む第1の開口から前記搬送管の前記成膜室に臨む第2の開口にガスを流通させることで、前記成膜室内に設置された成膜対象物に前記微粒子を堆積させ、
可動部材を前記搬送管に嵌合させて前記第1の開口に流入する前記ガスの流路を制限し、前記蒸発源から前記第1の開口へ向かう前記ガスを吸引機構によって吸引することで堆積を停止させる
ガスデポジション方法。
【請求項7】
請求項6に記載のガスデポジション方法であって、
前記堆積を停止させる工程では、前記第1の開口への流入を制限された前記ガスと同流量の前記ガスを前記吸引機構によって吸引する
ガスデポジション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−209394(P2010−209394A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55979(P2009−55979)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(504273254)有限会社 渕田ナノ技研 (9)
【Fターム(参考)】