説明

ガスハイドレート生成用反応水の製造装置

【課題】 ガスハイドレート(GH)の生成のために原料ガスと反応させる水を効率よく冷却するため、伝熱効率が高く、大型化することのないガスハイドレート生成用反応水の製造装置を提供する。
【解決手段】 冷却すべき水が充填されている冷却塔10の上部の供給ノズル15から、密度が水よりも大きく、水に溶解しない冷熱源を供給する。冷熱源は水中を沈降しながら直接接触することにより水を冷却し、冷却塔10の下部から排出させて熱交換器13を通して冷却した後、再度冷却塔10内に供給する。冷却された水は次工程のGH生成器1へ供給される。氷点下でも流動性を損なわない冷熱源を使用することにより、冷媒を氷点下で水中に供給でき、温度差を大きくできて熱交換効率を大きくできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、海底下等に存在している天然ガスハイドレートを輸送や貯蔵等に適した状態に生成するガスハイドレート生成プラントでガスハイドレートの生成に利用する反応水の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シベリアやカナダ、アラスカ等の凍土地帯や大陸周辺部における水深500m以下の海底下には、主成分がメタンである天然ガスハイドレート(NGH)が存在している。このNGHは、メタン等のガス分子と水分子とから構成される低温高圧下で安定した水状固体物質あるいは包接水和物であり、二酸化炭素や大気汚染物質の排出量が少ないクリーンエネルギとして着目されている。
【0003】
天然ガスは液化された後、貯蔵されてエネルギとして利用されているが、その製造や貯蔵は−162℃の極低温において行われている。これに対してNGHは、−20℃で分解せずに安定した性質を示し、固体として扱うことができる等の利点を備えている。このような性質から、世界中に存在している採算面等の理由から未開発の中小ガス田におけるガス資源を有効に利用することができる手段として、あるいは大ガス田からの近距離、小口輸送の場合等に天然ガスをハイドレート化して輸送、貯蔵し、さらに再ガス化して利用する天然ガスハイドレート方式(NGH方式)が期待されている。
【0004】
NGH方式では、中小ガス田等のNGH出荷基地において、輸送や貯蔵に適したNGHを生成し、輸送船や車両等によって所望のNGH受入基地まで輸送され、NGH受入基地では輸送されたNGHを貯蔵し、必要に応じてNGHガス化装置によってエネルギ源として利用することになる。図3は、前記NGH出荷基地に利用されるガスハイドレートの生成プラントの構成の一例を説明する概略のブロック図である。採掘された原料ガスGは高圧反応容器である生成器1において冷却された反応水Wと十分に混合されてハイドレート化され、低濃度のガスハイドレート(GH)スラリーが生成される。生成されたGHスラリーは供給ポンプ2によって脱水器3に供給され、脱水されて高濃度のGHスラリーが生成される。このとき、脱水器3へは該脱水器3の最下部に供給される。供給されたGHスラリーは脱水器3を上昇する際に、脱水器3の途中に設けた水切り部(微細孔やスリット等によりハイドレート粒子と水を分離する部分)で脱水されて、脱水器3の上端部から取り出される。取り出されたGHは、パウダー状となったGHパウダーとして取り出される。このGHパウダーがペレット成形器4に供給されて造粒され、輸送や貯蔵等にとって適宜な大きさのGHペレットが形成される。次いで、常圧下においても分解しない温度まで冷却器5により冷却された後、脱圧装置6に供給される。すなわち、前記生成器1から冷却器5に至るまでは、GHの生成条件である常温高圧下において処理がなされ、冷却器5と脱圧装置6とにより、常圧下でも分解しない温度に処理される。その後、形成されたGHペレットは貯蔵槽に給送されて貯蔵される。
【0005】
また、例えば、特許文献1には、恒温水槽を用いる浸漬方式よりも熱効率が良く、かつ、ハイドレートスラリーを冷却する外部循環式のような大型の熱交換器を必要としないコンパクトなガスハイドレート製造装置が開示されている。このガスハイドレート製造装置は、たて型のガスハイドレート生成塔の下部より原料ガスGを供給し、ガスハイドレート生成塔の側面に設けた冷却水吹込みノズルから反応水Wを吹き込む構造とされたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−248449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記原料ガスGを反応させる反応水WはGHの生成熱を除去するものでもあり、熱交換器により冷熱源との間で熱交換されて製造される。このとき、従来では、この熱交換器にシェル・アンド・チューブ式等の間接式熱交換器が利用されている。
【0008】
GHの生成熱は氷の潜熱よりも大きいため、熱交換器において効率よく、しかも大量の冷却された反応水を製造する必要がある。前記間接式熱交換器では冷熱源と水とが管壁等の壁体を介して伝熱による熱交換が行われるが、熱交換の能力を向上させるためには、伝熱面積を大きくすることが要求される。例えばシェル・アンド・チューブ式の構造は、密閉された容器(シェル)内を複数本の水管(チューブ)を配設させ、容器内に冷熱源を循環供給させ、水管内を冷却対象となる水を流通させるようにしたものであり、水管の管壁を介して熱交換が行われる。この構造で伝熱面積を大きくするには、水管の本数を増加させることとなり、熱交換器を大型化してしまう。
【0009】
また、熱交換器の大型化を抑制するためには、冷熱源との温度差を大きくすることが望ましい。しかし、氷点下の冷熱源を用いる場合には氷が生成されることになり、熱交換の効率を低下させると共に、水管内で凍結が生じて閉塞させてしまうおそれがある。
【0010】
そこで、この発明は、設備を大型化することを抑止し、熱交換効率を高くすることができるガスハイドレート生成用反応水の製造装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するための技術的手段として、この発明に係るガスハイドレート生成用反応水の製造装置は、原料ガスと反応させてガスハイドレートを生成するための反応水を、冷熱源と水とを熱交換して製造するガスハイドレート生成用反応水の製造装置において、前記水を充填する縦型の冷却塔を配設し、前記冷却塔内に、水に溶解しない冷熱源を供給する冷熱源供給ノズルを配設し、前記冷熱源と水との密度差を、これら冷熱源と水とが前記冷却塔内で分離することができる大きさとし、充填された水中に前記冷熱源を供給して水を冷却させて反応水を製造し、冷熱源と分離している反応水を採取するようにしたことを特徴としている。
【0012】
前記水中に前記冷熱源が供給されると、水に冷熱源が直接に接触してこれらの間で熱交換が果たされて水が冷却される。冷却された水は前記冷却塔内で冷熱源と分離された状態にあるから、この冷却された水を反応水として冷却塔から排出させることができる。
【0013】
また、請求項2の発明に係るガスハイドレート生成用反応水の製造装置は、前記冷熱源に水よりも密度が大きいものを用い、前記冷却塔の下部を中央部よりも拡径させて、前記冷熱源を滞留させる下部液溜部を設けて、冷熱源を該下部液溜部から回収し、水が冷却されて製造された反応水を、冷却塔の上部から採取し、冷却塔の上部に前記冷熱源供給ノズルを配したことを特徴としている。
【0014】
冷却塔の上部に供給された冷熱源は、水の密度との差から沈降することになり、沈降しながら水との間で熱交換されて、水を冷却して反応水を製造する。冷熱源は前記下部液溜部に滞留して回収され、冷却された後に冷却塔に供給されるように循環する。反応水は冷却塔の上部から採取されて、次工程であるGHの生成器に供給される。
【0015】
また、請求項3の発明に係るガスハイドレート生成用反応水の製造装置は、前記冷熱源に水よりも密度が小さいものを用い、前記冷却塔の上部を中央部よりも拡径させて、前記冷熱源を滞留させる上部液溜部を設けて、冷熱源を該上部液溜部から回収し、冷却されて製造された反応水を、冷却塔の下部から採取し、冷却塔の下部に前記冷熱源供給ノズルを配したことを特徴としている。
【0016】
冷却塔の下部に供給された冷媒は、水との密度差から浮上することになり、浮上しながら水との間で熱交換されて、水を冷却して反応水を製造する。冷熱源は前記上部液溜部に滞留して回収され、冷却された後に冷却塔に供給されるように循環される。反応水は冷却塔の下部から採取されて、次工程であるガスハイドレートの生成器に供給される。
【発明の効果】
【0017】
この発明に係るガスハイドレート生成用反応水の製造装置によれば、冷熱源と水とを直接に接触させてその間の熱交換を行わせるため、冷熱源と水との液滴界面が伝熱面積となり、単位容積あたりの伝熱面積を大きくでき、その結果、熱交換器を大型化させることなく、設備のコンパクト化を図れる。
【0018】
また、氷点下でも流動性を失わない冷熱源を選定することで、該冷熱源を氷点下で水中に供給できるので温度差を大きくでき、熱交換の効率を向上させることができる。
【0019】
しかも、間接式熱交換器のように、氷が閉塞するような水管がないため、水を凍らせた状態としても構わず、反応水に蓄熱させる冷熱量を大きくでき、GH生成時の反応熱を効率よく除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明に係るガスハイドレート生成用反応水の製造装置の第1の実施形態を示す概略図である。
【図2】この発明に係るガスハイドレート生成用反応水の製造装置の第2の実施形態を示す概略図である。
【図3】天然GHの出荷基地に利用される、従来のGHの生成プラントの構成の一例を説明する概略のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図示した好ましい実施の形態に基づいて、この発明に係るガスハイドレート生成用反応水の製造装置を具体的に説明する。
【0022】
図1には、この発明の第1の実施形態に係る製造装置である冷却塔10を示してある。この冷却塔10は、密度が水よりも大きい冷熱源を使用して、水を冷却する構造を備えたものである。この冷却塔10は縦型の円筒形の圧力容器により構成されており、下部には中央部よりも拡径した下部液溜部11が形成されている。この下部液溜部11の底面には回収ポンプ12の吸込口側に接続させた吸込管12aが接続させてある。この回収ポンプの12aの吐出口側には熱交換器13の入力側に接続した吐出管12bが接続させてある。熱交換器13の出力側には供給管15aが接続されており、この供給管15aの先端部が冷却塔10の上部に挿入されており、この先端部に冷熱源供給ノズルとしての供給ノズル15が取り付けられている。このため、冷却塔10の下部の前記下部液溜部11から回収ポンプ12によって吸い込まれた冷熱源は、前記熱交換器13で熱交換された後に再び冷却塔10に返戻される循環系が形成されている。
【0023】
前記冷却塔10の中央部には水供給管17が設けられており、冷却塔10の天井面には排水管18が設けられている。排水管18の途中には給水ポンプ1aが配されており、この給水ポンプ1aによって、前述したGHの生成器1に水(反応水)が供給される。一方、前記水供給管17には循環ポンプ1bが配されており、生成器1においてGHの生成に供されない未反応の水が生成器1からこの循環ポンプ1bにより冷却塔10に返戻される。
【0024】
以上により構成された冷却塔10の作用を、以下に説明する。
【0025】
水が充填された状態で、冷却塔10の上部の供給ノズル15から冷熱源を供給すると、水との密度の差から冷熱源は冷却塔10内を沈降することになり、沈降しながら水との間で熱交換が行われて水が冷却されて、反応水が製造される。沈降した冷熱源は冷却塔10の下部の下部液溜部11に滞留し、前記回収ポンプ12により吐出管12bから供給管15aを通って前記供給ノズル15から再び冷却塔10内に供給されることになる。この循環経路の途中で、冷熱源が熱交換器13を通過することにより冷却され、再び冷却された冷媒が冷却塔10に再度供給されることになる。
【0026】
水が冷却されて製造された反応水は、冷熱源よりも密度が小さいため冷却塔10内で冷媒の上側に層を形成するから、冷却塔10の上部の前記排水管18から排出されて、次工程であるGHの生成器1に供給される。生成器1では原料ガスが反応水と反応してGHが生成され、その際に発生する生成熱が除去される。また、未反応の水は前記循環ポンプ1bによって前記水供給管17から冷却塔10に返戻されることになる。
【0027】
図2には第2の実施形態に係るガスハイドレート生成用反応水の製造装置であって、水よりも小さい密度の冷熱源を使用する場合に適した冷却塔20を示している。この冷却塔20は、縦型の円筒形の圧力容器により構成されており、上部には中央部よりも拡径した上部液溜部21が形成されている。この上部液溜部21の天井部は回収ポンプ22の吸込口側に連通させてあり、この回収ポンプ22の吐出口側は、熱交換器23の入力側に連通させてあり、該熱交換器23の出力側は冷却塔20内の下部に配設された供給ノズル25に連通させてある。すなわち、水に浮遊する冷媒は冷却塔20の上部から回収ポンプ22によって回収され、熱交換器23を通過して冷却された後、再び前記供給ノズル15から冷却塔20に返戻される循環系が形成されている。
【0028】
また、冷却塔20の下端部には給水ポンプ26が連通させてあり、製造された反応水がこの給水ポンプ26によってGHの生成器1に供給される。また、GHの生成に未反応の水は循環ポンプ27によって冷却塔20の上部に返戻されるようにしてある。
【0029】
この図2に示す実施形態に係るガスハイドレート生成用反応水の製造装置では、前記供給ノズル25から供給された冷熱源は水中を浮上しながら水を冷却する。冷却塔20の上部まで浮上すると上部液溜部21に滞留し、前記回収ポンプ22により前記熱交換器23へ供給されて冷却される。冷却された冷熱源は、前記供給ノズル25から冷却塔20へ再度供給されて水の冷却に供される。
【0030】
冷却されて製造された反応水は前記冷却塔20の下端部から給水ポンプ26によって生成器1に供給される。生成器1では原料ガスと反応してガスハイドレートを生成すると共に、反応の際に発生する生成熱を除去する。未反応の水は前記循環ポンプ27によって冷却塔20に返戻されることとなる。
【0031】
前記冷熱源に、水に不溶解のものを使用することにより、冷熱源と水とを確実に分離できて、反応水のみを確実に取得することができ、GHの生成器1には反応水のみを供給することができる。また、冷熱源に氷点下でも流動性を喪失しない材料を選定することにより、水との温度差を大きくできるので、氷点下の冷熱源を供給することができ高効率で熱交換を行うことができるので好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
この発明に係るガスハイドレート生成用反応水の製造装置によれば、冷媒と水とを直接的に接触させることにより水の冷却を行うから、高い伝熱効率を確保でき、高質なガスハイドレートを生成することがき、ガスハイドレートのエネルギ効率の向上に寄与する。
【符号の説明】
【0033】
1 生成器
10 冷却塔
11 下部液溜部
12 回収ポンプ
13 熱交換器
15 供給ノズル(熱媒体供給ノズル)
20 冷却塔
21 上部液溜部
22 回収ポンプ
23 熱交換器
25 供給ノズル(熱媒体供給ノズル)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ガスと反応させてガスハイドレートを生成するための反応水を、冷熱源と水とを熱交換して製造するガスハイドレート生成用反応水の製造装置において、
前記水を充填する縦型の冷却塔を配設し、
前記冷却塔内に、水に溶解しない冷熱源を供給する冷熱源供給ノズルを配設し、
前記冷熱源と水との密度差を、これら冷熱源と水とが前記冷却塔内で分離することができる大きさとし、
充填された水中に前記冷熱源を供給して水を冷却させて反応水を製造し、冷熱源と分離している反応水を採取するようにしたことを特徴とするガスハイドレート生成用反応水の製造装置。
【請求項2】
前記冷熱源に水よりも密度が大きいものを用い、
前記冷却塔の下部を中央部よりも拡径させて、前記冷熱源を滞留させる下部液溜部を設けて、冷熱源を該下部液溜部から回収し、
水が冷却されて製造された反応水を、冷却塔の上部から採取し、
冷却塔の上部に前記冷熱源供給ノズルを配したことを特徴とする請求項1に記載のガスハイドレート生成用反応水の製造装置。
【請求項3】
前記冷熱源に水よりも密度が小さいものを用い、
前記冷却塔の上部を中央部よりも拡径させて、前記冷熱源を滞留させる上部液溜部を設けて、冷熱源を該上部液溜部から回収し、
冷却されて製造された反応水を、冷却塔の下部から採取し、
冷却塔の下部に前記冷熱源供給ノズルを配したことを特徴とする請求項1に記載のガスハイドレート生成用反応水の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−233022(P2012−233022A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100354(P2011−100354)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)