説明

ガスバリアフィルムの製造方法及びガスバリアフィルム

【課題】高いガスバリア性を実現すると同時に従来並の柔軟性をも確保できるガスバリアフィルムを製造するための製造方法、及び該製造方法により得られるガスバリアフィルムを提供する。
【解決手段】基材となるプラスチックフィルムの表面に、平滑層を積層する平滑層積層工程と、前記平滑層積層工程を終えた平滑層のさらに表面にガスバリア性を備えた第1無機層を積層する第1無機層積層工程と、前記第1無機層積層工程を終えた第1無機層のさらに表面に層間密着力向上のための中間層を積層する中間層積層工程と、前記中間層積層工程を終えた中間層のさらに表面にガスバリア層を備えた第2無機層を積層する第2無機層積層工程と、を備えてなるガスバリアフィルムの製造方法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスバリアフィルムを製造するための製造方法に関するものであり、より具体的には高度なガスバリア性を確保しつつ同時に柔軟性をも備えたガスバリアフィルムを製造することを可能とする方法及び該方法により得られるガスバリアフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より種々の画像表示装置や電子ディスプレイ素子用基板、あるいは太陽電池用基板などには、ガスや水蒸気などを透過させない性質(以下「ガスバリア性」とも言う。)が重要であるとされており、そのためにガラス板を用いることが広く行われていた。
【0003】
確かにガラス板を基板に用いると種々のガスや水蒸気はガラス板を透過しないので、ガラス板の内部に位置するものは外部からの種々のガスや水蒸気等から守られることになる。しかしその一方、ガラス板は容易に破損する、重量が増してしまう、等の取扱上の問題が指摘されてきた。
【0004】
そこで、割れやすく比較的重いガラス板に対し、屈曲性もあり割れにくくしかも軽量である基板として透明プラスチックフィルムが注目されるようになった。
【0005】
しかしプラスチックフィルムはガスや水蒸気を透過してしまうため、上述したようなガスバリア性を備えておらず、故にプラスチックフィルムを何ら加工せずそのままの状態でかかる部材に用いることはできなかった。
【0006】
そこでプラスチックフィルムに何らかの加工や処理を施すことによってガスバリア性を付与したプラスチックフィルム(以下「ガスバリアフィルム」とも言う。)とすることが種々検討開発されてきた。開発初期には金属をプラスチックフィルムの表面に積層することに関する開発がなされてきたが、やがてガスバリア性と同時に透明性をも得ることも重要なテーマとなり、さらにまたガスバリア性を向上させることに対する要望も高まる中で主にプラスチックフィルムの表面に珪素、アルミニウム、インジウム、マグネシウム、等の酸化物や窒化物、酸窒化物、フッ化物などを原材料とする薄膜層を積層することで透明性を確保しつつより高いガスバリア性を得ようとするようになり、そのための研究がさらに種々進められてきた。
【0007】
このような物質群を単純に透明プラスチックフィルムの表面に積層するには、主に物理的気相成長法(以下「PVD法」とも言う。)、化学的気相成長法(以下「CVD法」とも言う。)、塗布法(以下「ゾル−ゲル法」とも言う。)の何れかの手法によることが一般的である。そしてこれらの手法の中でも、特にCVD法を用いることがガスバリアフィルムを製造するのに最適であると言える。これは、PVD法による場合、積層する際の確実性が充分ではなく、また高真空条件が必要であり、さらには積層物にクラックが発生しやすい、即ちクラックからガスバリア性が損なわれてしまう、という問題が生じやすく、またゾル−ゲル法であると、溶媒に原料を溶解させて得られた塗液をプラスチックフィルム上に塗布し、しかる後に乾燥させる、という工程よりなるため、特に乾燥時に微細な気泡が発生することにより必要充分なガスバリア性を確保することが大変困難だからである。
【0008】
このように理論的にはガスバリアフィルムを製造するのにCVD法が、中でもプラズマ化学的気相成長法(プラズマCVD法)と呼ばれる手法を用いることが好適であると言える。これはガスバリアフィルムの基材となるプラスチックフィルムが高熱処理に対し脆弱であるところ、プラズマCVD法において基材に対し加えられる高温とはプラスチックフィルムであっても耐えられる程度の温度だからであり、故にプラスチックフィルム表面に何らかの物質を積層する場合、プラズマCVD法が好ましいと言えるのである。
【0009】
そしてこのプラズマCVD法であって、収率を向上させ、また製膜速度もそれなりに向上させた手法を提供する発明として、例えば特許文献1にて開示されている。
【0010】
【特許文献1】特開2005−200710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この特許文献1にて開示された発明は、要すればプラズマの放電の仕方を工夫することにより迅速にかつ効率よく蒸着させるための方法であり、かかる手法によれば収率よく迅速にガスバリアフィルムを得ることができる、とされている。
【0012】
しかしこれだけでは収率よく、かつ迅速にガスバリアフィルムを得られたとして、そもそもの課題である高度なガスバリア性を確保しつつフィルムとしての柔軟性も維持しているガスバリアフィルムを得る、という要望には充分こたえたものとすることはできない。
【0013】
即ち、この特許文献1に記載された発明は従来品と同等の特性を有したガスバリアフィルムを効率よく製造するものであって、昨今要求の高まってきている、従来品の特性に比してガスバリア性を向上させると同時に従来通りの柔軟性も確保する、という市場の要望にこたえるに至るものではなかった。
【0014】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来のガスバリアフィルムにおいて見られる、ガスバリア性は高いが柔軟性が低い、又は柔軟性は充分あるがガスバリア性を高められない、といった特性に比べ、高いガスバリア性を実現すると同時に従来並の柔軟性をも確保できるガスバリアフィルムを製造するための製造方法、及び該製造方法により得られるガスバリアフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以上の課題を解決するために、本願発明の請求項1にかかる製造方法は、基材となるプラスチックフィルムの表面に、平滑層を積層する平滑層積層工程と、前記平滑層積層工程を終えた平滑層のさらに表面にガスバリア性を備えた第1無機層を積層する第1無機層積層工程と、前記第1無機層積層工程を終えた第1無機層のさらに表面に層間密着力向上のための中間層を積層する中間層積層工程と、前記中間層積層工程を終えた中間層のさらに表面にガスバリア層を備えた第2無機層を積層する第2無機層積層工程と、を備えてなるガスバリアフィルムの製造方法であって、前記平滑層がアミノ樹脂、又はアルコキシシランの加水分解物、の何れか若しくは双方によりなるものであり、前記第1無機層を構成する無機材料が酸化珪素であり、かつこれにアルミニウム又はチタンの何れか若しくは双方をドーピングしてなるものであり、前記中間層が、珪素と酸素と炭素とからなる物質又はシランカップリング剤からなるものであり、前記第2無機層が、少なくともニオブ、インジウム、亜鉛の何れか若しくは複数の酸化物を含んでなるものであり、かつこれにチタン、アルミニウム、スズ、又はゲルマニウムの何れか若しくは複数をドーピングしてなるものであること、を特徴とする。
【0016】
本願発明の請求項2にかかる製造方法は、請求項1に記載のガスバリアフィルムの製造方法であって、前記第1無機層においてドーピングされるアルミニウム又はチタンの何れかの前記第1無機層における重量濃度、若しくは双方総計の前記第1無機層における重量濃度、が0.2%以上40%以下であり、かつ前記第1無機層の厚みが20nm以上100nm以下であること、を特徴とする。
【0017】
本願発明の請求項3にかかる製造方法は、請求項1又は請求項2の何れか1項に記載のガスバリアフィルムの製造方法であって、前記第2無機層においてドーピングされるチタン、アルミニウム、スズ、又はゲルマニウムの何れかの前記第2無機層における重量濃度、若しくは複数総計の前記第2無機層における重量濃度、が0.2%以上40%以下であり、かつ前記第2無機層の厚みが20nm以上400nm以下であること、を特徴とする。
【0018】
本願発明の請求項4にかかるガスバリアフィルムは、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載のガスバリアフィルムの製造方法により得られてなること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本願発明にかかるガスバリアフィルムの製造方法であれば、基材フィルムの表面に薄膜を4層にわたり積層しており、特に2種類のガスバリア性を有する無機層を積層しているので高ガスバリア性を確保しやすく、また第1無機層を構成する無機材料にアルミニウム又はチタンの何れか若しくは双方をドーピングしているので経時劣化を抑えることができ、また同時に第2無機層を構成する無機材料にチタン、アルミニウム、スズ、又はゲルマニウムの何れか若しくは複数をドーピングしていることより、この層においても経時劣化を押えることができ、その結果全体としても従来のガスバリアフィルムに比して経時劣化を抑えることができるものとなせる。また2種類の異なるガスバリア性を備えた無機層の間においてそれぞれの無機層に対して接合性を有した中間層を設けているのでこれらの2種類の無機層の層間密着力も好適なものとできる。そして基材フィルムの直接表面において平滑層を積層していることより、平滑層による平滑さがその表面に積層される各層の表面をより平滑なものとするので、各層の密着性を向上させることができ、ひいては高ガスバリア性を実現しやすくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。尚、ここで示す実施の形態はあくまでも一例であって、必ずもこの実施の形態に限定されるものではない。
【0021】
(実施の形態1)
本願発明にかかるガスバリア性を有するフィルムであるガスバリアフィルムを製造するための製造方法(以下、単に「製造方法」とも言う。)につき、第1の実施の形態として説明する。
【0022】
まず本実施の形態にかかる製造方法全体は次の通りである。即ち、基材となるプラスチックフィルムの表面に平滑層を積層する平滑層積層工程と、平滑層積層工程を終えた平滑層のさらに表面にガスバリア性を備えた第1無機層を積層する第1無機層積層工程と、第1無機層積層工程を終えた第1無機層のさらに表面に層間密着力向上のための中間層を積層する中間層積層工程と、中間層積層工程を終えた中間層のさらに表面にガスバリア層を備えた第2無機層を積層する第2無機層積層工程と、を備えてなる製造方法である。
【0023】
以下順次説明していく。
まず本実施の形態にかかる製造方法において用いられる基材フィルムであるが、これは特段制限されるものではなく普通にガスバリアフィルムの基材として用いられるものであってよく、例えばポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムや、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリスチレン(PS)フィルム、ポリカーボネート(PC)フィルム、シクロオレフィンポリマー(COP)フィルム等が利用でき、本実施の形態ではPENフィルムを基材フィルムとして用いることとする。これはPENフィルムが寸法安定性及び耐熱性に優れているからであり、製造過程におけるガスバリア膜の欠陥発生が少ないからである。
【0024】
尚、これ以外にもPSフィルム、PCフィルム、COPフィルム等であれば、これらフィルムの有する熱可塑性から考えると、これらのフィルムは一見したところ本実施の形態により製造されるガスバリアフィルムに求められる高いガスバリア性の実現という目的に向いていないようにも捉えられるかもしれないが、本実施の形態にかかる製造方法においてこれらのフィルムを用いるならば好適なガスバリア性を有するフィルムを得ることも可能であることを付言しておく。
【0025】
尚、この基材として用いられるプラスチックフィルムの厚みは12μm以上200μm以下であることが好適であるが、加工中にしわが入りにくい等の利点を考えると100μm以上であればより好ましいと言える。尚、この厚みに関しても従来のガスバリアフィルム用基材として用いられる程度のものであってよい。
【0026】
本実施の形態にかかる製造方法では基材フィルムの表面に平滑層を積層する平滑層積層工程を実行するが、次にこの工程につき説明する。
【0027】
本実施の形態における平滑層積層工程では、平滑層として特にアミノ樹脂を用いることが最適であると言える。これは、かかる平滑層が前記基材フィルムと同様、この層自体に耐熱性と耐湿性とが備えられることが求められるからであり、そのためにアミノ樹脂を用いることが最適であると言えるのである。またアミノ樹脂に比すると平滑性や経時劣化の点で若干低いレベルになるかもしれないが、本実施の形態における高ガスバリア性を得られるものとして、アルコキシシランの加水分解物を用いることもやはり好適であると言えることを付言しておく。
【0028】
平滑層を積層する手法については特段制限するものではないが、本実施の形態ではグラビアコーティング法やロールコーティング法等のいわゆるウェットコーティング法、又は気相化学堆積法を用いると好適に積層が可能となるが、本実施の形態ではグラビアコーティング法により積層することとする。
【0029】
このようにして平滑層を基材フィルムの表面に積層したら、次にその平滑層のさらに表面にガスバリア性を備えた第1無機層を積層する第1無機層積層工程を実行する。
【0030】
この第1無機層は水蒸気遮蔽性が高いものであり、かつ経時劣化が極力少ない、又は殆ど生じない層とすることが好適である。また透明であれば尚好適なものとできる。そのために基本的には酸化珪素を用いて積層すればよいが、単に酸化珪素だけであるならば遮蔽性は高いものの、経時劣化が著しいため、本実施の形態により得られるガスバリアフィルムには高ガスバリア性と同時に可撓性も好適であることが求められているからである。即ち、この第1無機層は本実施の形態により得られるガスバリアフィルムが高ガスバリア性を発揮するために重要なガスバリア性を備えた層であると言え、また他の積層物同様、この第1無機層にも可撓性が必要なのである。そして例えば時間が経過することによりガスバリア性と可撓性とが消失してしまう、といった経時劣化が生じることは実用面からも避けなければならず、そのためにもガスバリア性を左右する第1無機層の性能は時間経過に関係なく維持される必要があると言える。尚、本実施の形態において第1無機層の厚みが20nm以上100nm以下であることが好適である。また本実施の形態における第1無機層の積層方法は従来公知のスパッタリング法によるものであるものとするが、それ以外の手法であっても構わないことを断っておく。
【0031】
このように第1無機層に求められる性能を得るために、本実施の形態では第1無機層を構成する無機材料として特段に制限するものではないが、特に対水蒸気という観点から見て本実施の形態では珪素酸化物を用いることとするが、珪素酸化物だけであれば確かに水蒸気バリア性は好適であるものの経時劣化という観点からは充分であるとは言えない。そこで本実施の形態ではこれにアルミニウム又はチタンの何れか若しくは双方をドーピングしている。アルミニウムをドーピングすることで経時劣化を抑制することができ、またチタンをドーピングすることで遮蔽性に対して特に優れた効果を得られるからである。尚、第1無機層においてドーピングされるアルミニウム又はチタンの何れかの第1無機層における重量濃度、若しくは双方総計の第1無機層における重量濃度、は0.2%以上40%以下であることが好ましい。これは、アルミニウムやチタン等をドーピングすると、珪素酸化物による膜の緻密性、特に珪素(Si)の持つ緻密性とバリア性とが低下してしまうという作用が生じるために、40%以下とすることでドーパントの含有量をSiより少ないようにしその結果緻密性とバリア性との低下を防ぐことができるが、しかし少なすぎると珪素酸化物の応力が増大しかつ劣化しやすい膜となってしまうので0.2%以上含有させることが好適なのである。
【0032】
このように第1無機層はいわば珪素−金属複合体による層であると言えるが、このような複合体とすることが好適である主な理由は次の通りである。珪素酸化物は絶縁体であり、これをスパッタリングにより所望の箇所に蒸着しようとしてもスパッタリングの効率が極端に低くなる。そのため、酸化珪素をスパッタリングにより積層しようとしても、所望のレベルまでガスバリア性を高めた層を積層するために要する時間は長くなり、即ち成膜速度を高めることに対して限界が生じる。しかし珪素とアルミニウムやチタン等の金属との複合体酸化物を用いることにより、珪素に抵抗値の低い材料を混合することとなり、その結果所望のレベルまでガスバリア性を高めた層を積層するのにさほど時間を要する必要はなくなり、即ち成膜速度を高めることができるので、生産性という観点から好適なものとすることができる、という理由である。
【0033】
その他に、酸化珪素を積層してなるガスバリア層は確かに結果的に高度なガスバリア性を得ることが容易ではあるものの酸化珪素による層は大変圧縮応力が高くなってしまい、その結果容易にクラックが発生しやすくなり、ひいてはガスバリア性が低下してしまいやすい、という問題が生じるが、上述の通り珪素と金属との複合体の酸化物を用いることで圧縮応力をある程度低いものとすることができるようになり、即ちクラックの発生を回避できるようになり、それがガスバリア性を維持することとなる、という理由も考えられる。
【0034】
何れにせよ、単純にガスバリア性の高性能化のみを希求するのであれば酸化珪素を用いることは好適であると言えるが、高度なガスバリア性とある程度の可撓性とを求める本実施の形態にあっては、酸化珪素を用いても構わないが、それよりも珪素と金属との複合体の酸化物を用いることが好適であることを本願発明者は見いだしたのである。
【0035】
以上、第1無機層積層工程が終了すると、次に第1無機層の表面に中間層を積層する中間層積層工程を行う。
【0036】
この中間層積層工程により積層される中間層は、第1無機層との接合性が高いことが求められ、また後述する第2無機層との「つなぎ」の役割をも果たす層である。そしてその作用を得るために、本実施の形態における中間層は、珪素、酸素、炭素からなる組成物を用いて形成されることが好適であり、例えばシランカップリング剤やオルガノシランを用いることが考えられ、またこのような物質を積層する中間層積層工程としては、基板となるプラスチックフィルム表面に対し、目的とする薄膜の成分を含む原料ガスを供給し、基板フィルム表面あるいは気相での化学反応により基板フィルム表面に積層する気層化学堆積違法や、加水分解法などである。
【0037】
この中間層積層工程が終了すると、最後に中間層の表面に第2無機層を積層する第2無機層積層工程を行う。
【0038】
本実施の形態における第2無機層は水蒸気などの外気ガスと反応することにより比較的経時劣化をしやすい材料であると好適である。即ち、外気ガスと第2無機層とが反応することにより、観点を変えれば外気ガスは第2無機層と反応してしまうことによって第2無機層からさらにその先へと浸透することがなくなるからである。そしてそのような効果を最大限に得るために、第2無機層は本実施の形態にかかる製造方法により得られるガスバリアフィルムを用いたアプリケーションにおいて最も内側に配置されていることが好ましいと言える。そのように配置することによって、先述の第1無機層を透過してしまった外気ガスが第2無機層に到達した時点でこれと反応し、第2無機層部分で浸透を止められるからである。
【0039】
外気ガスが例えば水蒸気であるものと想定するならば、第2無機層としては酸化ニオブ、酸化インジウム、酸化亜鉛等の何れか若しくは複数を主とする材料を用いることが好適である。これらの物質は水蒸気と反応しやすいからである。
【0040】
しかしこの第2無機層をいたずらに外気ガスと反応しやすく経時劣化が早すぎるものとしてしまうと、第2無機層が経時劣化することにより上述したような効果を発揮できなくなる時期が早まってしまい、結局は寿命の短いガスバリアフィルムしか得られなくなってしまう。またさらには外気ガスと反応し終わってしまった第2無機層から再び外気ガスが発生してこれが内部に浸透してしまうことが考えられる。
【0041】
そこで本実施の形態における製造方法では、第2無機層にチタン、アルミニウム、スズ、又はゲルマニウムの何れか若しくは複数をドーピングすることとしている。これは、これらをドーピングすることでニオブ、インジウム、亜鉛などの酸化物に対し遮蔽性を維持し、また経時劣化を出来るだけ遅らせるという改善効果を得られるからである。尚、第2無機層においてドーピングされるチタン、アルミニウム、スズ、又はゲルマニウムの何れかの第2無機層における重量濃度、若しくは選択された複数の総計の第2無機層における重量濃度、は0.2%以上40%以下であることが好ましい。この範囲に収めるならば、主剤のゲッタ効果を低下させず、かつクラックなどの欠損発生を未然に防ぐことができるのである。尚第2無機層の厚みは100nm以上400nm以下であることが好ましい。
【0042】
以上のようにして本実施の形態にかかるガスバリアフィルムの製造方法が実行される。
この製造方法により得られるガスバリアフィルムであれば、4層を組み合わせた積層体としているのでガスバリア性を高めやすくなる。また本字嫉視の形態では、そもそも耐湿性を有するアミノ樹脂を平滑層として設けたその表面に、さらにチタン又はアルミニウムを特定の範囲で含有すSiTiO又はSiAlOxを積層することによって、より高い水蒸気遮蔽性を実現しているのである。
【実施例】
【0043】
以下、本発明にかかるガスバリアフィルムにつき、さらに実施例により説明する。
全ての実施例及び比較例において用いた基材フィルムはPENフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製:製品名「Q65FA」:厚み125μm)とした。
【0044】
またそれぞれに得られたガスバリアフィルムを、直径10mmの鉄棒にかけて、これを10往復して屈曲試験を行い、屈曲試験前及び屈曲試験後のガスバリア性(水蒸気透過率)を、測定条件を湿度90%、温度40℃、としてJIS_Z0208の規定に準じて測定した。
【0045】
(実施例1)
平滑層としてアクリルメラミン樹脂をリバースコーターにより厚みが0.2μmとなるように積層した。その表面に第1無機層としてAlSiONをスパッタリング法により厚みが50nmとなるように積層した。さらにその表面に中間層としてγ―グリシドキシプロピルトリエトキシシランの加水分解物をリバースコーターにより厚みが100nmとなるように積層した。さらにその表面に第2無機層としてAlZnOをスパッタリング法により厚みが200nmとなるように積層した。
得られたガスバリアフィルムの水蒸気透過率は、屈曲試験前で0.01(g/m/day)以下であり測定限界以下に到達した。また屈曲試験後では0.01(g/m/day)であった。AlSiONのAl濃度は30wt%であった。
【0046】
(実施例2)
平滑層としてアクリルメラミン樹脂をリバースコーターにより厚みが0.2μmとなるように積層した。その表面に第1無機層としてAlSiONをスパッタリング法により厚みが50nmとなるように積層した。さらにその表面に中間層としてビニルトリエトキシシランの加水分解物をリバースコーターにより厚みが100nmとなるように積層した。さらにその表面に第2無機層としてSnInOをスパッタリング法により厚みが200nmとなるように積層した。
得られたガスバリアフィルムの水蒸気透過率は、屈曲試験前で0.01(g/m/day)以下であり測定限界以下に到達した。また屈曲試験後では0.02(g/m/day)であった。AlSnONのAl濃度は30wt%であった。
【0047】
(実施例3)
平滑層としてアクリルメラミン樹脂をリバースコーターにより厚みが0.2μmとなるように積層した。その表面に第1無機層としてSiTiOをスパッタリング法により厚みが50nmとなるように積層した。さらにその表面に中間層としてγ―グリシドキシプロピルトリエトキシシランの加水分解物をリバースコーターにより厚みが100nmとなるように積層した。さらにその表面に第2無機層としてGaZnOをスパッタリング法により厚みが200nmとなるように積層した。
得られたガスバリアフィルムの水蒸気透過率は、屈曲試験前で0.01(g/m/day)以下であり測定限界以下に到達した。また屈曲試験後では0.03(g/m/day)であった。SiTiOのTi濃度は32wt%であった。
【0048】
(実施例4)
平滑層としてアクリルメラミン樹脂をリバースコーターにより厚みが0.2μmとなるように積層した。その表面に第1無機層としてSiTiOをスパッタリング法により厚みが50nmとなるように積層した。さらにその表面に中間層としてビニルトリエトキシシランの加水分解物をリバースコーターにより厚みが100nmとなるように積層した。さらにその表面に第2無機層としてNbOをスパッタリング法により厚みが200nmとなるように積層した。
得られたガスバリアフィルムの水蒸気透過率は、屈曲試験前で0.01(g/m/day)以下であり測定限界以下に到達した。また屈曲試験後では0.01(g/m/day)であった。SiTiOのTi濃度は28wt%であった。
【0049】
(比較例1)
平滑層としてアクリルメラミン樹脂をリバースコーターにより厚みが0.2μmとなるように積層した。その表面に第1無機層としてSiOをスパッタリング法により厚みが50nmとなるように積層した。さらにその表面に中間層としてビニルトリエトキシシランの加水分解物をリバースコーターにより厚みが100nmとなるように積層した。さらにその表面に第2無機層としてAlZnOをスパッタリング法により厚みが0.2nmとなるように積層した。
得られたガスバリアフィルムの水蒸気透過率は、屈曲試験前で2.0(g/m/day)であった。また屈曲試験後では2.0(g/m/day)であった。
【0050】
(比較例2)
平滑層としてアクリルメラミン樹脂をリバースコーターにより厚みが0.2μmとなるように積層した。その表面に第1無機層としてAlSiONをスパッタリング法により厚みが50nmとなるように積層した。
得られたガスバリアフィルムの水蒸気透過率は、屈曲試験前で0.07(g/m/day)であった。また屈曲試験後では0.1(g/m/day)であった。
【0051】
(比較例3)
平滑層を積層せず、直接第1無機層としてSiTiOをスパッタリング法により厚みが50nmとなるように積層した。さらにその表面に中間層としてビニルトリエトキシシランの加水分解物をリバースコーターにより厚みが100nmとなるように積層した。さらにその表面に第2無機層としてAlZnOをスパッタリング法により厚みが200nmとなるように積層した。
得られたガスバリアフィルムの水蒸気透過率は、屈曲試験前で0.1(g/m/day)であった。また屈曲試験後では0.3(g/m/day)であった。
【0052】
以上、各実施例及び比較例を検討すると、本願発明に準じて積層された実施例1〜実施例4によって得られたガスバリアフィルムは、屈曲試験前後において高いガスバリア性を発揮していることがわかる。尚、ここでは経時劣化を調べることに代えて屈曲試験を行ったが、これは要するにガスバリアフィルムを強制的に撓ませることにより擬似的に経時劣化を調べようとしたものであることを付言しておく。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材となるプラスチックフィルムの表面に、平滑層を積層する平滑層積層工程と、
前記平滑層積層工程を終えた平滑層のさらに表面にガスバリア性を備えた第1無機層を積層する第1無機層積層工程と、
前記第1無機層積層工程を終えた第1無機層のさらに表面に層間密着力向上のための中間層を積層する中間層積層工程と、
前記中間層積層工程を終えた中間層のさらに表面にガスバリア層を備えた第2無機層を積層する第2無機層積層工程と、
を備えてなるガスバリアフィルムの製造方法であって、
前記平滑層がアミノ樹脂、又はアルコキシシランの加水分解物、の何れか若しくは双方によりなるものであり、
前記第1無機層を構成する無機材料が酸化珪素であり、かつこれにアルミニウム又はチタンの何れか若しくは双方をドーピングしてなるものであり、
前記中間層が、珪素と酸素と炭素とからなる物質又はシランカップリング剤からなるものであり、
前記第2無機層が、少なくともニオブ、インジウム、亜鉛の何れか若しくは複数の酸化物を含んでなるものであり、かつこれにチタン、アルミニウム、スズ、又はゲルマニウムの何れか若しくは複数をドーピングしてなるものであること、
を特徴とする、ガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のガスバリアフィルムの製造方法であって、
前記第1無機層においてドーピングされるアルミニウム又はチタンの何れかの前記第1無機層における重量濃度、若しくは双方総計の前記第1無機層における重量濃度、が0.2%以上40%以下であり、かつ前記第1無機層の厚みが20nm以上100nm以下であること、
を特徴とする、ガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2の何れか1項に記載のガスバリアフィルムの製造方法であって、
前記第2無機層においてドーピングされるチタン、アルミニウム、スズ、又はゲルマニウムの何れかの前記第2無機層における重量濃度、若しくは複数総計の前記第2無機層における重量濃度、が0.2%以上40%以下であり、かつ前記第2無機層の厚みが20nm以上400nm以下であること、
を特徴とする、ガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載のガスバリアフィルムの製造方法により得られてなること、
を特徴とする、ガスバリアフィルム。


【公開番号】特開2009−220343(P2009−220343A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65937(P2008−65937)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000235783)尾池工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】